美人秘書吸血鬼・イリア

    作者:のらむ


     神戸市内のオフィス街。その一角に、『中畑警備株式会社』という看板が掲げられたビルが建っていた。
     そしてそのビルの社長室の中に、1人の男と1人の女がいた。
    「ふむ……イリア君。君はここにきてしばらく経つが、確かに君は有能な秘書の様だ。聡明で博識、そしていざという時の機転にも優れている。君を雇い入れて、本当に正解だったと私は思っているよ」
     華美な装飾が施された椅子に腰かけながら、男はグラスに入った酒を飲み干す。
     灰色のスーツに、金ぴかの腕時計と派手な指輪を身につけたこの中年の男は、中畑警備株式会社の社長、中畑・栄一郎。
    「そうですか。お褒めに預かり光栄です、社長」
     全くの無表情のまま坦々と答えた黒スーツの女の名は、イリア。
     不自然な程白い肌に、長い銀髪。ギラギラと輝く赤い瞳。ヴァンパイアである。
    「……さて、君が信頼に値する者だと分かったところで、1つ頼まれて欲しい事がある」
    「なんでしょう」
    「君も知っているだろうが……ここ近年、我が社の業績はやや落ち込み気味だ。そしてこの状況を見た私の父……あの忌々しい糞会長様が、私を社長の座から引きずりおろし、再び社長の座につこうとしている」
    「引退したジジイは大人しく茶でも啜りながら引っ込んでろ、と言った所ですね」
    「まさにその通りだ…………さて、頼まれてくれるか?」
     栄一郎が投げかけると、イリアは黙って頷く。
    「殺してしまっても構わないですか?」
    「構わん。むしろその方が好都合だ。邪魔をするなら、弟だろうと母だろうと殺ってしまえ。邪魔する奴は皆殺しだ。分かったか」
    「了解しました。これから貴方のお父様の家で、残虐非道、無慈悲でサイコでちょっぴりポップな殺戮が行われる事になるでしょう。それでは、失礼します」
     イリアは恭しく一礼すると、社長室を後にする。
     そして携帯電話を取り出すと、どこかへと電話をかけた。
    「もしもしイリアです。仕事の時間ですよ。人を1人ないし複数殺すだけという単純な仕事です。あの男ももう少し楽しい事に私を使えばいいんですけどね」
     

    「さて皆さん、ゴッドセブンのナンバー3、本織・識音が、ASY六六六を立ち上げ活動を開始したことは、もう知っているでしょうか。識音は古巣である朱雀門から女子高生のヴァンパイアを呼び寄せ、神戸の財界を支配に置いているそうです」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、事件の説明を続ける。
    「今回私が予知したのは、イリアというヴァンパイアと、中畑栄一郎という、とある警備会社の社長の悪事です。栄一郎は自身の立場を危うくする、会長である自らの父を殺害するよう、イリアに要請します」
     イリアは栄一郎の要請を受け、配下の強化一般人6人を連れて会長の家へ向かい、そこで殺戮を繰り広げる。
    「イリア達は堂々と会長の邸宅の中に押し入り、会長を殺害。その後不審な物音に気付いて出てきた弟と母も殺害。計三人が殺されます」
     灼滅者たちはイリアが邸宅の正面玄関前に訪れた段階で、接触することが出来る。
    「しかしイリアは武蔵坂の灼滅者が現れた時点で、強化一般人達に後を任せて撤退します。もしイリアの灼滅を望むのならばそれなりの工夫が必要ですし、そもそもヴァンパイアはダークネスの中でも強大な力を持っている種族です。強化一般人を連れた彼女に、そう簡単に勝てはしないでしょう」
     そう前置きした上で、ウィラは敵の戦闘能力の説明を行う。
    「6名の強化一般人の構成は、ディフェンダーが2人。ジャマ―が3人。メディックが1人です。全員がチェーンソー剣のサイキックを使用し、それに加えてディフェンダーは縛霊手、ジャマ―は魔道書、メディックは交通標識のサイキックを使用します」
     資料をめくると、イリアの戦闘能力の説明も行う。
    「イリアがもし戦闘せざるを得ない状況になった場合は、スナイパーのポジションに入ります」
     イリアはダンピールのサイキックの中から2種と、シャウトを使用する。
     それに加えて、近くの敵に蹴りの連打を浴びせ、己の攻撃力を高めるサイキック。
     そして遠くに立つ複数の敵に、毒が塗られた投げナイフを投擲するサイキックを使用するらしい。
    「さて……説明は以上です。ASY六六六の狙いは、ミスター宍戸のような才能を持つ一般人を探し出すことらしいです。その一環として、一般人に手を貸すような事件を行っているようですね……という訳で、お気をつけて。皆さんが無事に、作戦を終えられることを祈っています」


    参加者
    日月・暦(イベントホライズン・d00399)
    成瀬・圭(エモーションマキシマイザ・d04536)
    辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)
    ムウ・ヴェステンボルク(闇夜の銀閃・d07627)
    渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)
    アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426)
    綾辻・刻音(ビートリッパー・d22478)
    灯灯姫・ひみか(星降りシャララ・d23765)

    ■リプレイ


    「さて皆さん、見えてきましたよ。あれが標的の爺が住んでるご立派な邸宅です」
     夜。月明かりにに照らされながら優雅に高級住宅街を練り歩く吸血鬼、イリア。そしてその配下の強化一般人の黒服達。
     彼女は中畑警備会社の社長の命令を受け、会長である社長の父親を殺害しにやってきていた。
     そしてその殺戮を止めるべく訪れた灼滅者達もまた、その邸宅へ訪れていた。
    「つまらない仕事ですね…………ん?」
     整えられた植え込みを抜け、カツカツと正面玄関に近づくイリア達の前に、突如として5つの人影が飛び出した。
    「あなた達は……」
     訝しげに眉をひそめるイリアの前に、辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)が進み出る。
    「吸血鬼イリア! お前の企みはわたしたちが必ず止める! ……着装!」
     飛鳥はスレイヤーカードを解放し、赤き強化装甲に身を包むと、現れたのが敵だと理解したイリアの配下の強化一般人達が一斉に武器を構える。
    「我が名に懸けて!」
     飛鳥に続いてアルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426)がスレイヤーカードを解放すると、その手には長剣が握られていた。
    「数人殺す事くらい簡単だろうと思っているんだろうが、そうは問屋が卸さないんだな、これが。邪魔させてもらうぞ」
     ムウ・ヴェステンボルク(闇夜の銀閃・d07627)もまた、正面玄関を塞ぐようにイリア達の前に立ち塞がる。
    「武蔵坂の灼滅者……最近噂のスゴイ奴らですね」
    「イリア様は随分と美しくない事を考えるのですね……絶対に悲劇は起こさせません」
     バサリとマントを翻し、灯灯姫・ひみか(星降りシャララ・d23765)はイリアの眼を見据えた。
    「まあいいでしょう……私は撤退します。あとは貴方たちでいい感じに頑張ってください。多分無理でしょうけど」
     イリアは黒服達に後を任せ撤退を図る。
     しかしその退路を塞ぐように、今度は3つの人影が植え込みの中から現れた。
    「まぁまぁ、そんな事言わずにゆっくりしてけよイリアちゃんよ。いつも退屈な仕事に華を。今日はちょっとばかし、刺激的に行こうや」
     成瀬・圭(エモーションマキシマイザ・d04536)は軽い口調でそう言いつつ、金釘が打たれた釘バットをイリアに向ける。
    「正直一般人にはそこまで興味ないけど……ダークネス殺すチャンスではしっかり殺さないとだよ、ね?」
     綾辻・刻音(ビートリッパー・d22478)もまた、静かな殺気を身に纏い得物を構える。
    「……本気でチャンスだと? 貴方たちを相手するのには私一人でも十分だというのに……随分と舐められたものですね」
     イリアは全く表情を変えず、淡々と呟いた。
    「上手くいくかドキドキですけど……皆で頑張れば、何とかなる筈です」
     渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)はそう言って、足元の影をぬいぐるみのクマの様な形へ変化させる。
    「あんたにとってはただの仕事ってだけの話だろうけど……その仕事ってモノが間違いだって事、分からせてやらないとね」
     日月・暦(イベントホライズン・d00399)が体内の魔力と闘気を放出し、イリアと対峙する。
    「そうですか……まあ、分かりました。私もさっさと撤退したいんで、本気で行きますよ。数を減らせばその包囲網も抜けられるでしょうしね」
     イリアはようやく戦闘の構えを取り、懐から数本の投げナイフを取り出した。
     その顔は、相変わらずの無表情だった。


    「さっさと終わらせましょう」
     イリアはトンと地を蹴ると、アルディマに蹴りを放とうと接近する。
    「そう簡単に通すか。舐めて貰っちゃ困るぞ」
     アルディマの前に立ち塞がったムウが蹴りを受け止め、ウロボロスブレイドの刃をメディックに放つ。
     放たれた刃は敵の全身に絡みつき、切り裂いた。
    「落とされるのは時間の問題……全員、一斉攻撃を」
     イリアの命令に従い、強化一般人達が一斉に武器を構える。
     結界、爆発、斬撃打撃が、ディフェンダーを中心とした前衛の灼滅者達に襲い掛かった。
    「早く敵の数を減らさねばな……」
     アルディマは呟きながら闘気の塊を放つと、敵メディックの顔面にぶち当てる。
    「そして……これで終わりだ」
     ムウは片手を掲げ、魔力を集束させていく。
     そこから放たれた逆十字が敵メディックの胸に刻み込まれると、糸が切れた様にバタリと倒れた。
    「まあ、武蔵坂相手ならこんな所でしょうね」
     イリアは坦々と戦況を見つつ、ナイフを前衛に向けて投擲し、それに続くように強化一般人達が一斉に前衛を対象としたサイキックを放った。
    「この人数相手にこの威力……流石吸血鬼だけあって、相当強いね」
     ナイフが急所に突き刺さり、飛鳥は苦しげに呻く。
    「中々……この攻撃を受け続けるのは厳しいですね……」
     侑緒は呟きつつ、ヴァンパイアの魔力が込められた霧で仲間の傷を癒す。 
     敵群の怒涛の攻撃に、前衛の灼滅者達の体力は削られていた。
    「でも、身勝手な理由で命を奪わせる訳にはいかない……こっちも攻めるよ!!」
     飛鳥は光刃発生装置を駆動させると、光り輝く一本の光刃を発生させた。
    「斬り伏せる!!」
     放たれた斬撃が黒服の胸を斬り裂き、飛鳥は更に光刃に業火を纏わせる。
    「これで終わり……この炎で、焼き尽くす!!」
     そして斬撃と共に放たれた業火が黒服の全身を燃やし尽くし、そのまま跡形もなく消滅した。
    「イカした装甲の見た目に違わず、中々の腕前。長くは持たないですね……全員己の身は気にせず、とにかく攻撃に専念して下さい」
    「了解しました、イリア様」
     イリアの命令と共に、黒服達は全力の攻撃を前衛に向けて放つ。
    「とにかくイリアの攻撃の威力が半端じゃないな……」
     早くも消耗が激しくなってきた前衛の体力を気にしつつ、暦は魔力で創り上げた矢を黒服に向けて放つ。
    「撤退するのを止めてまで、吸血鬼に喧嘩売ったことを後悔させてあげましょう」
     イリアは自己強化も加わった強烈な蹴りを、アルディマの全身に浴びせた。
    「グッ!! まだ倒れる訳にはいかない……」
     遠のく意識を手繰り寄せ、アルディマは気合で立ち続ける。
    「右舷、速やかにアルシャービン様の回復を!!」
     霊犬の右舷がアルディマの傷を癒し、ひみかもまた癒しの護符をアルディマに向けて放った。
    「もう私の強さは十分分かったでしょう。全員逃がせとは言いませんから、私だけでもさっさと撤退させませんか?」
    「チッ……確かにマジで強いなぁ、イリアちゃんよ……だけどオレ達もそう簡単に引き下がれねーんだよ!」
     圭は特攻服を翻し、釘バットを構えて敵陣に突撃する。
     同時に手首に巻いたサラシを放つと、黒服の足元に突き刺さり、動きが一瞬鈍った。
    「てめぇらも、偶には殺される側になってみやがれ!!」
     そのまま釘バットをフルスイングして顔面にぶち当てると、黒服の身体は壁に叩きつけられ、派手に爆発しながら散って行った。
    「てめえも直に逝かせてやるよ、あの世にな!」
     釘バットを振り上げ、圭はイリアに言い放った。
    「それはご免被……クッ」
     イリアが攻撃を放る直前、肩に魔力の弾丸が突き刺さった。
    「ん、貴方の声、ちょっと耳障りだね」
    「シンプルに失礼ですね、それは……前衛は、私の傷を癒して下さい」
     魔弾を放った刻音に、イリアが軽く目を向け、黒服達は即座にイリアが受けたバッドステータスを解除した。
    「こちらもそう長くは持たないな……」
     獣化させた爪で黒服の攻撃を弾き返し、ムウは冷静に戦況を見極める。
    「敵の数も減ってきた……そろそろ、私も刻んであげる、ね」
     イリアと敵中衛の妨害を徹底的に行ってきていた刻音が、無表情のまま敵に接近する。
     刻音は一瞬にして黒服の背後に回り込み、殺気を纏わせた脚で蹴り上げる。
     鋭い蹴りによって背を切り裂かれ。黒服は血溜まりに沈んだ。
    「ん……このままもう1人いける、かな」
     更に刻音はダイダロスベルトを展開させると、もう1人の黒服の全身をズタズタに切り刻んだ。
    「貴方達の音、聞こえなくなっちゃった、ね」
     その刻音の表情は無表情のままだったが、どこか活き活きしている様にみえた。


     敵の黒服はディフェンダーの2人となったが、灼滅者達が負った傷は深く、イリアは未だ対したダメージを負っていない。
    「最後までは持たないな……だが倒れるまでは、 攻撃に専念させてもらうぞ」
     アルディマは長剣を両手で構えると、刃に炎を纏わせ攻撃を仕掛ける。
    「……今日に限ってはダークネスよりも、肉親を殺すことに躊躇いもしない人間が許し難い。だが……」
     ただの一般人を殺すような、ダークネスの様な人間に成り下がる訳にもいかない。
     複雑な心境を抱えたまま振り下ろされた刃は、黒服の体を真っ直ぐと切り裂きながら燃やし尽くし、そのまま仕留めきった。
    「中々のお手前。ですが、これで終わりです」
     幾重にも自己強化を施したイリアが、ナイフを前衛に向けて投擲する。
    「クッ……」
     首元にナイフが突き刺さり、アルディマはそのまま気絶して地面に倒れ込んだ。
    「アルシャービン様……いえ、今は皆様の回復に専念せねば!」
     ひみかは回復が間に合わなかった事を悔やみつつも、未だ立っている仲間たちに回復を施した。
    「順調に力が高まっている……いい感じですね」
     イリアは力強く踏み出すと、暦に向けて鋭い蹴りを放つ。
    「グッ……後は任せたぞ……」
     暦を庇ったムウの鳩尾に凶悪な一撃が叩き込まれ、ムウはそのまま気絶して地面に倒れ込んだ。
    「すまない、助かったぜ……」
     暦は倒れたムウに礼を言い、闘気の塊を最後の黒服に撃ち放った。
    「強化一般人さん達は、何とか倒さないといけませんね……影業さん、出番です!」
     侑緒は可愛らしいクマの様な影を従え、黒服の元へ向かう。
    「くたばれ!!」
     黒服が振り下ろした拳をクマの影が受け止め、クマは黒服に掴みかかって全身を締め上げる。
    「今です、追撃を!」
    「おう任せとけ! やってやるぜ!」
     侑緒の呼びかけに答えた圭が、腹目がけて釘バットをフルスイングした。
     しかし、ギリギリの所で耐えた黒服。
    「でしたら……今度こそ終わりです。ヴェスさん、お願いします!」
     主の呼びかけに応え、ウイングキャットのヴェスが、黒い羽から空に向けて魔力を放つ。
     そして魔力によって形成された巨大な金色のクマが黒服の脳天に落下し、そのまま地面に埋まって息絶えた。
    「おっと、これで配下は全滅ですか……まあ、ここからが本番ですかね。私からすれば」
     イリアは呟き、残りの灼滅者達に目を向けるると。軽い動作で前衛にナイフを投擲する。
     その攻撃は正確に前衛のメンバーに突き刺さり、侑緒のウイングキャットが消滅した。
    「グッ……まだこっちは戦える……覚悟して、吸血鬼イリア!」 
     飛鳥は全身に刻まれた深い傷に耐えながら、飛鳥は赤い鋼鉄の拳をイリアに叩き込む。
     イリアの自己強化を僅かに解除しつつ、イリアの身体を壁に叩きつけた。
    「その気合は中々のものですが……そろそろ疲れたでしょう。お休みになってはいかがですか?」
     イリアは鋭い跳び蹴りを飛鳥の胸元に放つ。
    「グゥッ……まだまだ!!」
     その強烈な一撃に意識を奪われそうになるも、飛鳥の魂が、その肉体をギリギリの所で動かし続ける。
    「すぐに回復いたします! 右舷、合わせましょう!」
     再びひみかが右舷が、タイミングを合わせて護符と癒しの光を放つと、飛鳥の傷が徐々に癒えていった。
    「既に何人かの方々が倒れてしまいましたが……わたくしは最後まで回復に専念するのみです!」
     ひみかは更に標識を構え、黄色くスタイルチェンジさせると、放たれた癒しの力が前衛の灼滅者達を包み込んだ。
    「確かに、あなたは集団の優秀な生命線でもある様ですね……貴女がヴァンパイアなら、仲よくやれたでしょうに」
     イリアは再びナイフを投擲しようと手を伸ばすが、その手の甲に、暦が黒き魔力の矢を突き刺した。
    「させるか…………嫌いなんだよ。自分の不始末をつけられない大人も、不可逆の命って言うのを軽視するやつらも」
    「一応私は無慈悲でポップなダークネスですので。一般人の命如きに頓着するつもりはありませんね」
     そのイリアの言葉に暦は眉間の皺を深くし、イリアを睨み付けて全身の闘気を拳に集束させる。
    「せっかくだから教えてやる……てめぇの罪は、命の価値ってモノを知らねぇ事だ」
     暦が放った強烈な闘気の塊が、イリアの鳩尾に叩き込まれる。
    「グッ!! …………知ったこっちゃないですね」
    「まあ、分からないならそれでいいけどな……」
     暦は呆れきった表情で、静かに呟いた。
    「どうでもいいですが、いい加減そこを通してくれませんか? さっさと帰りたいんで」
     イリアが放った無数のナイフが飛鳥の心臓に突き刺さると、飛鳥は今度こそ気を失って地面に倒れた。
    「貴方の声が聞こえなくなるまで、刻み続ける、よ」
     刻音は殺気を纏わせた手刀を横に素早く振るうと、イリアの首筋が深く切り裂かれた。
    「クッ……強化一般人を連れた私にここまでやるとは、称賛せざるを得ませんね。彼女たちがいなければ、私は既に死んでいたかもしれません」
     イリアは首筋を抑えながら、暦に向けて蹴りを放つ。
    「……させないです!!」
     暦の前に割り込んだ侑緒がその攻撃を受け止めると、壁に叩きつけられ気絶した。
    「これ以上の被害を出させる訳にはいきません!!」
     ひみかが影の刃をイリアの足元に放ち、切り裂くと同時にイリアの自己強化を解除した。
    「だが、こっちの被害もかなりのもんだなおい……」 
     仲間の半分が倒れ、圭が撤退の選択を視野に入れ始める。
     撤退の認識については各自かなりバラバラだったが、戦況が不利だという事は共通して理解していた。
     しかし撤退を考えるよりも早く、イリアが動く。
    「失礼ですが、私はこれで失礼させていただきます」
     赤いオーラを纏わせたナイフで暦を切りながら、イリアは灼滅者達の間を抜ける。
     灼滅者の数が半数となった以上、イリアへの包囲を抜けられるのも仕方のない事だった。
    「追い詰めすぎたら闇堕ちされますしね。それでは、これで失礼します」
     イリアは恭しく一礼すると、その場から撤退した。
    「……次は、逃がさない」
    「ああ、絶対にだ」
     刻音と暦は、撤退するイリアの背にそう声をかけた。
     こうして、ヴァンパイア達と灼滅者達の戦いは終わった。


     そしてしばらく時間が経ち、気絶していた灼滅者達が意識を取り戻す。
    「……イリアは仕留めきれなかったか。だが、この家の住人は護りきれたようだな」
    「かなりの所まで追い詰めた様だな……悔しいが、いつか灼滅する機会があるだろう」
     アルディマとムウは灼滅者達が全員無事だった事に安堵していた。
     そして一同は学園に帰還する。
     悔しさもあっただろうが、灼滅者達は作戦の目的を達成することが出来た。
     灼滅者達は、無惨に奪われる筈だった命を救ったのだ。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ