Blood Parade Conversation

    作者:東城エリ

     月が綺麗な夜の下、ひとりの男がスマートフォンを耳にあて、話をしている。
    「ああ、繋がりました。初めまして、アツシさん。三日月連夜です」
     眼鏡の奥の紅い瞳が僅かに細められた。
     通話の相手は、どうやらゴッドセブンのナンバー1、六六六人衆のアツシらしい。
     声は三日月の声だけが聞こえてくる。
    「貴方の密室殺人鬼としての能力に興味を持ちました。そこでひとつ、私の為に密室を提供して頂きたいのですが」
     幾ばくの沈黙が流れた。
    「ありがとうございます。では、後ほど落ち合いましょう」
     三日月は通話を終えると、アツシの作る密室を受け取るために、目的地へと向かった。

     高い天井に赤い絨毯、壁には規則的に並ぶ座席。
     開けたフロアには人、人、人。
     耐えきれずに逃げだそうと、ひとりの男が人の間をかき分けて、出口の方へと向かいだした。
     同じように逃げだそうと同調する者がいないのは、冷たく整った容貌の男がいるからだ。
     案の定、逃げ出そうとする男を対処すべく、身軽な所作でたどりつくと躊躇無く刃を振りかぶる。
    「暴れるからですよ」
     そういって、スーツにトレンチコートを纏った黒髪の男は、手にした紅い刀身を持つ巨大な武器で切り捨てた。
     一階分ほどの窪み、オーケストラピットへと蹴り落とすと、仄暗い眼差しを向ける。
     扉に近い男性が力を入れて押すが、固められてしまったかのように動かない。
     刃についた血を振り払い、がたがたと扉を叩き、助けてくれと叫ぶ男へと歩み寄る。
    「学習をして下さい」
     助けを請う声は、無残に断ち切られた。
     扉に紅い血の花を残して。
     シューボックス型のホールで素晴らしい演奏を聴き、あとは帰途につくだけだったというのに、いま自分が置かれている状況は一体なんだというのだろう。
     ホールの出口を出たはずだ。
     なのに。
     眼前には、同じく自分と同じような状況に陥っている沢山の人々。
     先ほど鑑賞していたホールと同じ空間に自分は居る。
     だが、扉はぴったりと接着剤でくっつけられたようにびくともしない。
     逃げられない。
     閉じ込められた人々が心に恐怖を抱き、自分にこれから降りかかるであろう更なる災いに絶望する。
     舞台に上った男は、刀身を滑る紅い滴を払うと、言葉を紡ぐ。
    「簡単なゲームです」
     男の機嫌次第ということだ。
     希望など芽生えようがなかった。
    「まずは、最前列から順に、席を埋めていきましょうか」
     微笑を浮かべる男の言うとおりに、一般人が席を埋めていく。
     ホールの1階座席の8割が埋まり、立っている者が居なくなる。
    「F列目、G列目、床に落ちているナイフを拾い、起立」
     1列が35人で、合計70人が立った。
     列がFから始まるのは、AからEはオーケストラピットで座席部分が消えているからだ。
    「F列目、後ろを向きましょうか」
     F列と、G列が座席を挟んで向かい合うことになる。
     手には、持ち慣れぬナイフ。
    「次にする事は、わかりますね? そう、殺し合いです。勝敗が1分経ってもつかない場合は、両者成敗で私が殺します」
     教師が生徒に話すように、三日月は言葉を紡ぐ。
    「2列ずつ殺し合いをし、半分になったら、第2ラウンドです。最終的に残るのは、どんな人なんでしょうね?」
     小さな楽しみを待つ子どものように、問いかける。
    「それとも、貴方たちではなく、彼らが私の前に立つのでしょうかね……?」
     三日月がホール後方の扉を見やり、呟いた。
     
    「千葉県松戸市で、ゴッドセブンのナンバー1、六六六人衆のアツシが作り出した密室が発見されました」
     無造作に羽織ったジャケットの裾を揺らし、戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)が集まった仲間の前に立った。
     蔵乃祐は、松戸に赴いて見てきたことを簡潔に話し始める。
    「松戸市にとあるホールで演劇観覧を終えて帰ろうとした地域住民をアツシはそのまま、同じような空間を作り出し、繋げて閉じ込めたようです」
     そのホールの大きさは2000人弱を収容できるので、広さ的には問題無いはずです。
     座席が埋まっていた訳ではないようでしたから、1000人を越えるくらいの住民数だと思います。
     密室空間がホールと同じなら、舞台とオーケストラピット、観客座席があります。
     密室に繋がるものは、両開きの扉の合わせに紅い刃が突き立った扉です。
     この扉の位置は、ホールの最後方、左右に2つずつある両開きの扉の内、左側の方。
    「目印のように紅い刃を突き立てたのは、六六六人衆の三日月・連夜。アツシの作り出す密室に興味を抱いたのか、接触をはかり、密室を譲り受けたみたいですね」
     
     いま密室にいるのは、六六六人衆の序列四五三位、三日月・連夜。
     密室はアツシが用意したもので、中にいる一般人は約1000人。
     全て三日月の虐殺対象です。
     既に何人かは犠牲になっているかも知れません。
     漏れ聞こえたのは、何かゲームをしていると言うことです。
     ひとつ間違うと、死に繋がるような物騒なゲームを一般人にさせている……。
    「中に入れば、戦端が開きます。戦う術のない一般人は逃げ惑ったり、恐怖に怯え、身動き出来ないかもしれません」
     閉じ込められていた一般人の対応も考え無ければならない。
     蔵乃祐はひとつ息をつく。
    「優先順位を決め、取りかかりましょう」


    参加者
    巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)
    米田・空子(ご当地メイド・d02362)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)
    北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)
    イシュタリア・レイシェル(曼珠沙華・d20131)

    ■リプレイ

    ●開演
     密室へと繋がる扉には、紅い刀身を持つナイフが突き立てられ、誘うよう。
     中では血腥いゲームが繰り広げられているのだ。
     一・葉(デッドロック・d02409)は、突き立てられたナイフを引き抜く。
     扉を引き開けると、恐怖に支配され血に塗れた人々の姿が目に入った。
     ゲームはホールの半ばまで進んでいた。其処迄は一般人の数が半分になり、勝利した側もナイフを手放す事が出来ずに強く握り固まったまま。負けた者は、背もたれに反り返る様に死に顔を晒している。充満する血の匂いと紅の色彩。
    「なんて酷い…!」
     米田・空子(ご当地メイド・d02362)は憤りを胸に抱く。
    (「メイドの矜恃にかけて全力を尽くして戦いますっ」)
     入って来た扉へ葉はマテリアルロッドXIIIで殴りつけ、流し込んだ魔力でもって爆破した。
     爆破の音に気づいたのは、ゲームの順番を待っている一般人だった。爆風と同時に入り込んだ夜の冷たい風が、殺し合いの熱に浮かされた一般人を振り返らせる。
     密室が密室で無くなった瞬間だった。
    「もう、ころしあいなんてしなくていいんです。助けにきました、です」
     北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)は、相棒のナノナノであるクリスロッテの方へと視線を向け、ロッテちからをかしてね、と小さく呟いた。
     聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)は、まだ殺し合いをしているのを見、魂鎮めの風 を使った方が良いだろうかと躊躇っていると、三日月が動き出した。
     舞台上の三日月連夜が紅い瞳を細め、両手に獲物を具現化する。
    「ゲームは中断です。貴方たちにはもう興味はありません。新たなゲームの相手が来ましたからね。密室も役割を果たし終えました」
     殺し合い中だった者達が、熱に浮かされるように衝動のままナイフを真っ赤にし突き動かしていたのを制止され、衝動の行方をどうすればいいのか分からず顔を歪めた。
     後悔か、それとも殺意に目覚めた自分を恐れるのか、もう傷つけなくても良い安心感か、心情は様々だ。
     それらの感情の爆発を防ぐ様に戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)が、王者の風を使う。
     無気力な精神状態へと導くと、血腥いゲームを強いられていた一般人を見渡した。
    「つまんねぇ前座はここで終いだ。全員ナイフを捨てろ!」
     葉が割り込みヴォイスを使い、普段鍛えた肺活量で無気力になった一般人へと命を下す。
     ナイフを落とし、助け出してくれる者達へと縋るような眼差しを向けた。
     三日月が葉の姿を見やり、笑みを浮かべた。
    「久方ぶりですか、葉」
     葉は三日月に手を振って返す。
    「元気? 連夜は相変わらず無駄に凝った遊びしてんね」
    「退屈させるわけにはいかないでしょう」
     シチュエーションは拘りたいのだ。
    「拘り上等、連夜、お前を満足させてやるよ」
    「武蔵坂学園御一行、お相手いたしますの」
     イシュタリア・レイシェル(曼珠沙華・d20131)はフリルが多く、甘い色合いのアイドルが着る様な衣装を纏い、指を突きつける。
    「こいつはイシュちゃんたちが引きとめておくのです」
     小柄な身を躍らせ、向かって行く。
    「避難の方は任せた」
     巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)は、巨躯に見合わぬ俊敏さで座席の並ぶ通路を抜ける。
     戦闘が始まると同時に始まった自身を苛む痛み。それはいつも身近にあり自分を乗っ取ろうと虎視眈々と狙っているのだと存在を示す。
    (「難儀なもんだな」)
     女性ながらも全体的に色白な優男といった風の唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)の中で、柔らかな色を孕み乍ら強い力を秘めた青の瞳。
     着慣れた着物は様になって、共にあるビハインドのゐづみも赤い着物を纏い、一幅の絵のよう。戦場も舞台と同様、静動交えた神秘的な所作で舞うのだろう。
     相対する敵を前に思う。
     これ迄に戦った六六六人衆の事を。殺しは好みはしないが、心を躍らせ戦った。心が渇望するのだ。蓮爾が蒼と呼ぶ魂を蝕む寄生体がそうさせるのだと。
     ならば、心が望むままに全力をぶつけよう。
    「こんなすてきな所でいっぱんの人にころしあいをさせるだなんて、ゆるせませんです!」
     本来なら演劇や音楽が奏でられる場所。それを殺し合いで血に染めてしまうなんて、朋恵は許せなかった。
     音楽一家に育ち、音楽の楽しさを知る朋恵にとって、楽しい場所を穢されるような気持ち。楽しんで居た人達も楽しい気持ちだったはず。なのに殺し合いをさせられて、楽しい気持ちを掻き消されてしまった。
     攻撃に重点を置くのは冬崖。
     守り強さに寄せるのは空子と相棒ナノナノの白玉ちゃん、蔵乃祐、蓮爾と相方のビハインドのゐづみ。
     中衛にあり能力底上げをするのはヤマメのウィングキャット、ヒイラギ。
     狙い定めるのは朋恵とイシュタリア。
     回復力の増したヤマメと朋恵の相棒、ナノナノのクリスロッテ。
    「あっ、みかづき様が此方に…!」
     ヤマメが作戦がずれてしまうと、内心焦りを覚える。
     三日月は舞台の床を蹴り、奈落の様に落ち窪んだオーケストラピットを飛び越える。
     殺し合いの始まった列前の通路に降り立つと、向かってきた者達へ自身の身長に届きそうな幅広の紅刃を持つ武器を振り、斬り払った。
     狙われたのは、先陣を切ってくる最前衛。
    「血の紅、綺麗でしょう?」
     仄暗い眼差しを向けて来る三日月へ怒りの感情を向けた。
     避難誘導中は、舞台上に足止めするという目論みは崩れ、血が多く流れた前列付近の通路が戦場となる。
     近い。
     だが、三日月は一般人には興味を失っているようで、其方の方へと刃を向けることはない。

     蔵乃祐は落ち着いた声音を心がけ話しだす。
    「今、皆さんを助ける為に、仲間があの男を足止めしています」
     一般人達は、蔵乃祐の顔色を窺うようにして大人しく耳を傾ける。
    「僕も加勢しなければなりません。賢明且つ理性的な協力と助け合いをお願いします」
     殺し合いの順番がまわって来ていなかった一般人は血を流していない。動作に支障はない。彼らは後回しだ。先ずは負傷者が多い列、殺し合いをし終えた者達だった。
     死体を避けながら通路に出なければならず、時間がかかるだろう。素面なら混乱必至な事に比べればスムーズに運ぶはずだ。
    (「ヤツと戦いてぇのは山々だが、今回はこれで十分だわ」)
     久方ぶりの邂逅に内心呟く。
     葉はクルセイドソードに刻まれた祝福の言葉で風を作り出し、解き放つ。傷を癒された者は動作を阻害していた要因が無くなった事で、ぎこちなかった動きが滑らかになる。
    「動ける奴は、一緒に出口まで連れて行ってやれよ」
     種族特有の殺人衝動によって、大量殺戮を好む性質。灼滅者の力を試すような言動…。本能的というよりは理知的、狡猾な強敵だ。
     最後部で一般人を避難誘導する蔵乃祐は、ふと突入してから三日月が言った言葉を思い出す。
     密室も役割を果たし終えました。
     蔵乃祐は自分の直ぐ後ろにある閉ざされている筈の扉に掌に力を込める。
     一定の圧力を感じたが、本来の扉の役割に戻っているのだろう、すんなりと開いた。
    「一さん、密室では無くなった事で、扉は本来の役割に戻っている様です」
    「そうなると、全扉を開放するか? いや、それはナシだろ。俺の居る中央右、今開いた戒道の居る扉、俺達の入って来た扉の3つに集約した方がいいな」
    「そうですね。分散してしまうと、それこそ戦闘に巻き込まれますし、動きにくいでしょう」
    「よし、じゃ、そういうコトで」
     話が決まれば早い。
     3分割して、避難誘導を始めた。
     予想よりも早く、三日月との戦闘に加われそうだ。

    「貴方はゲエムを楽しまれた。僕とも賭けませう」
     蓮爾は出来るだけ一般人から離すように蒼から生成した強酸液体をばらまき乍ら、避難にホールの右側から後方を使用している手前、押し込んで行くのはホールの左側。
    「殺し合いならば、掛けは無用です。私はそれを至上としているのですから」
     六六六人衆らしい言葉。
    「ならば、何も言いますまい」
     言葉と当時に擡げるのは、闇に潜む者の音。
     ゐづみが静かな動作で霊撃を放つ。
    「こんな酷い事、絶対に許しませんからっ!」
     愛と正義のメイド中学生の空子は、怒りを抱く。
     メイド服のスカートを優雅に捌き、メイドらしさを失わずに戦う。
    (「三日月さんの思惑なんて関係ありません!」)
     亡くなってしまえば、愛を紡ぎ出すことも出来なくなる。なんて悲しいのだろう。
    「これが、わたくしのメイドビームですわ!」
     空子が紫色の柔らかな髪を揺らし、赤茶の瞳には力強さを宿し、メイドの力をビームとして放つ。
    「白玉ちゃん、冬崖さんを!」
     先ずは一番の攻撃力のある冬崖の傷を白玉ちゃんがふわふわハートで癒す。
     避難が終わるまでは1トップで攻撃を仕掛けて貰わないとならない。自分は後で良い。
    (「注意を自分達に向けるのは成功しているが、近いな」)
     戦場となっている場所と一般人の距離が。
     冬崖は眉間に皺を作り、愛用のロケットハンマーの柄を握り込む。
     そして深く息を吸い、普段はセーブしている筋肉のリミッターを取り払い、負荷が掛かるのも構わずに、ロケット噴射の加速と共に殴りつける。
    「これが俺の全力だ」
     ぶつかり合い、殺し合いを楽しんで居るのだろう、三日月は口角を持ち上げて、灼滅者達を相手するようになった。
     邂逅を果たすごとに強さを増していく相手は、なんて楽しいのだろう。
     そう言っているようだ。
    (「つよい人はすきだけれど、この人はちがうのです」)
     両サイドに結わえた漆黒の髪が朋恵の頬に優しく触れる。
     強い人は朋恵の周りに沢山いる。いつか、自分も強くなりたいと願っている。
     けど、
    「たたかうことができない人たちをくるしめたみかづきさんは、わるい人なのです」
     沢山の悲しみが生まれたから。
     朋恵は怪談蝋燭を掲げる。祈りの灯火のよう。
     赤い炎を灯した怪談蝋燭は、牡丹の花弁が炎を纏い、散らせる。
    「ロッテ」
     クリスロッテは、朋恵の意志を受けて、空子にふわふわハートで傷を癒す。
     黒肌に赤茶の瞳、縁取る髪は金。纏うのは着物で、ヤマメのエキゾチックな色彩は色気を感じさせる。
    (「みかづき様の事は報告書でしか知りませんが、殴りつけたい方なのは間違いないですわね」)
     ヤマメの性格はおしとやかというよりはおてんばな方だ。殴りに行くほうが性に合っているだろう。
    「気持ちはひとつですわ」
     殴りつけたい気持ちは、共に戦う仲間がしてくれる。
     自分で割り振った役割、それを粛々と実践するのみ。
     断罪輪を手に、法陣を展開する。広がった光のオーラは、前衛にいる皆へと降り注ぎ癒し手いく。
    「いつものコンボでお願いしますの」
     背中を預け合える相棒とも言うべき存在のヒイラギは、背中の天使翼をはためかせ、肉球パンチを繰り出した。
    「イシュちゃんの踊りをみやがれなのです」
     イシュタリアはアイドルの様に可愛らしさを感じさせる踊りを見せながら、攻撃を仕掛ける。綺麗な花には棘があるのだと知らしめるように。
    「かねがね噂は聞いてるのです。この辺でお付き合いは、終わりにしてもらいたいのです」
     殺し合いはイシュちゃん達が勝ちますから、と言外に含めて。
    「それは強さでもって私に知らしめてください」
     三日月は前衛よりも後衛の灼滅者を標的にし、紅い刃を持つナイフからこれまで殺めてきた者達の怨嗟を呼び起こし、解き放った。
     沸き立つ怨嗟も三日月には心地よい囁き声だ。
     毒を孕みながら、暴風の様に駆け抜ける。
    「そこから飛んで来たのは少し目障りでした」
     一撃を受けた方はたまらない。
     朋恵とクリスロッテ、イシュタリアとヤマメは一気に削り取られた。
     ややマシなのは朋恵とヤマメのようだ。

     戦域となっている場所近くの避難誘導は終えた。
     後は避難する一般人達は前を歩く者についていけば、外へと出られる筈だ。
     蔵乃祐と葉はアイコンタクトで頷き合い、戦闘に加わる。
     手には使い慣れた獲物。
     向かうと途中で仲間が攻撃を受けたのが見えた。
    「殺り合いたかったぜ」
     葉は言葉と共に、意志持つベルトから帯を射出し、貫く。
    「殺意を向けられるのは心地良いですね」
     三日月は眼鏡を外す。フレームを歪めたらしく、几帳面なのかスーツの胸ポケットにしまった。三日月の紅い眼差しは眼鏡でもって和らげていた印象を鋭く、不穏さを醸し出す。
    「…嫌になりますね」
     相手は未だ余裕があるようだ。
     蔵乃祐はWOKシールドを展開し、攻撃を受けた仲間へとシールドを広げた。
    「少しだけですが」
     無いよりは良い。
     だが、これはひとつの事を考え無ければならなかった。

    ●終演
     回復が追いつかなくなると後は削って削っていくだけ。単調な作業でもものともしないのが三日月という男だ。
     傷ついたぶんを癒すも全快になるにはほど遠い。
     次に狙われたら倒れる可能性が高かった。
     そのことを頭の隅に置き乍ら戦う。
     葉がマテリアルロッドで殴りつけ、蔵乃祐が足元の自身の影を伸ばし、絡め取ろうとする。
     蓮爾は自身の腕を軸にして、蒼を巨大な砲台へと変貌させる。そして、発射される蒼の色彩を持つ毒の光線。ゐづみは蓮爾に合わせて毒を伴う攻撃を仕掛ける。
     縛霊手を展開すると、空子は指先へと霊力を送り、溜まった所で撃ち出す。後衛にいるイシュタリアの傷を癒していく。
    「空子さん、ありがとうなのです」
     イシュタリアは空元気な笑みを浮かべた。
     白玉ちゃんが元気づけるように、ふわふわハートを飛ばして癒してくれる。
     冬崖は意志持つベルトから帯を射出し、貫く。頭の片隅でなる警鐘は、どちらの方なのか。そう考えながらも、冬崖の意志は既に決めて居るようだった。体育系らしく腹が決まればその時が来るのを待つだけだ。無ければ良いに限るが、そういうのは大抵やってこないものだ。
     朋恵は意志持つベルトを自身に巻き付け、クリスロッテは朋恵に寄り添うようにふわふわハートで傷を癒していく。
     ヤマメは断罪輪を展開し、自分と近くにいる仲間を、ヒイラギも尻尾のリングを光らせて傷を癒す。
     イシュタリアは、自身に活を入れて回復した。

     三日月は巨大な刀身を持つ刃を、後方へと向ける。自分が望む物を手に入れる為に。
     冬崖は一歩前に出る。自分の中で暴れて出せと喚いてるそれに明け渡し乍ら。
    「お前はこれなら満足するのだろう?」
     手に入れた強い力を再び抱いて、冬崖が三日月へと問う。
    「ええ」
     声色が心なしか高く聞こえる。
    「存分に振るってやる。此処は俺に任せろ」
     解き放ちたくて溜まらない衝動と、明け渡した自分が戦う姿を見られたくない気持ち。
    「巨勢さんに任せましょう」
     蔵乃祐が堅い声音で促す。帰って来るのは無言の頷き。

     一般人は既にホールに居ない。
     残るのは冬崖だったそれと三日月。

     喜々として刃を交えた冬崖だったものは、何処へと消えたのか。
     その行方を知る者はいない。

    作者:東城エリ 重傷:聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936) 北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917) イシュタリア・レイシェル(曼珠沙華・d20131) 
    死亡:なし
    闇堕ち:巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647) 
    種類:
    公開:2015年5月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ