桜カフェで休日を

    作者:飛角龍馬

     都内近郊に桜カフェと呼ばれる喫茶店がある。
     その名の由来となっているのは、店内の広い庭園に植えられた桜の木々。
     この季節になると、枝々に咲いた満開の花が、訪れる人々の目を楽しませてくれる。
     庭園には、点在する桜木に添うように傘付きの丸テーブルと椅子の屋外席がしつらえられていて、咲き誇る花々を身近に眺めながらお茶の時間を楽しむことができる。
     屋内席に目を移してみると、そこはアンティーク調の落ち着いた空間。
     屋内のどの席からも庭園の桜を望むことができ、穏やかな音楽をバックに、ゆったりとした時間を過ごせるのも見どころだ。 
     桜カフェの名の通り、桜のモンブランを始めとした各種ケーキや、桜の葉をブレンドした紅茶やスコーンなどが常時メニューに並んでいるのも、この店の特徴の一つ。 
     いま一年で最も華やかな時期を迎えている、知る人ぞ知る穴場カフェなのである。

    「喫茶店でお花見なんていうのも、素敵なお休みの過ごし方だと思うの」
     いつもより少し華やいだ声で、橘・レティシア(大学生サウンドソルジャー・dn0014)は教室の灼滅者達にそう語る。
     彼女は何やらプリントアウトしてきたらしいホームページの情報を見ながら、
    「今の時期だけは、食べ物や飲み物の持ち込みをしてもいいみたい」
     それは多くの人に庭園の桜を楽しんで欲しいという、店側の意向なのだという。
     もちろん、メニューの中から気に入ったものをオーダーしてもいい。
     桜の香りを味わえる紅茶やスコーン、モンブランが看板商品だが、通常の喫茶店にある品物は大抵取り揃えられているという。
     食事を楽しみながら屋内の席でのんびりと過ごしたり、庭園の屋外席でお茶菓子と共に桜を愛でるのもいいだろう。
    「暗くなったらライトアップされた夜桜も楽しめるそうよ」
     満開の桜は、時間帯によって様々な表情を見せてくれるに違いない。
     カフェでの一日に思いを馳せてか、レティシアは楽しそうに微笑んで、
    「ちょうどいい季節だし、よかったら行ってみない?」


    ■リプレイ

    ●桜カフェの昼
     快晴の穏やかなこの日。
     桜カフェの店内では、それぞれの席で、灼滅者達の物語が紡がれていた。

    「桜も綺麗だねぇ。天気も良いし」
     屋内の席で、夕月とアヅマはゆったりとした時間を過ごしていた。
    「最近は妙に慌しかったし、たまには息抜きしないとな」
     アヅマは先にコーヒーをオーダー、やがて夕月の桜の紅茶とモンブランも運ばれてくる。
    「……あ、美味しい。それも美味しい?」
     夕月が目を向けたのは、アヅマが頼んだ店長お勧め桜のシフォンケーキ。
     一口分けてもらうと、夕月は同じものを追加オーダー。
    「タルトとかも美味しそう」
    「てかまだ食うんか……いやいいけど」
     苦笑しつつ、こんな時間が案外幸福なのだと、アズマは思う。

    「……ぉ……おいしくないと……思うけど……」 
     桜のよく見える屋内の一席で、アリスが広げたのは、卵やハム&レタスを挟んだサンドイッチ。二人分の桜の紅茶とモンブランも共に並ぶ。
     御理はサンドイッチを味わって、
    「美味しいですよ。僕もアリスさんに教わって作ってみましょうか」
     感情を表に出さないアリスが、緊張と恐怖を抱えているのを御理は知っている。男性恐怖症を克服するため――アリスは、協力してくれる御理に感謝していた。
     御理は女性に間違われたり子供扱いされる身の上を語り、
    「……み、みこと……ぉ……男の子に……みられないの?」
    「だから、どんな形でも男扱いしてもらえるのは嬉しいです」
     窓越しに、桜がはらはらと零れる。
    「薄紅の雨も綺麗ですが、本物の雨の日にも遊びに来たいですね」
     少し緊張が解れたように、アリスが頷いた。

     千川キャンパス高校2年3組の4人は、大きめのテーブルを囲んでいた。
    「御剣くん、おねーさんがあーんしてあげよう」
     小唄が差し出したのは桜のモンブラン。
     からかわれつつも結局食べさせて貰う形になった菖蒲は、桜パフェとスプーンを手に、
    「皆も一口どうぞ、なんなら俺からもあーんしちゃうぜ!」
     全員で一口ずつ交換し合う流れになった。
    「……れん夏君には、特別に苺をあげようじゃないか」
     藍凛が苺のチョコパフェをスプーンですくって、
    「ありがと、あーん」
     れん夏が好意に甘えて、ぱくり。
    「あとはかつゆから貰えればコンプだー」
     ショートケーキを一口差し出しながら無言の交渉。
     小唄は無言で見つめ合ってからケーキをもらい、幸せそうに頬を緩めながら少し大きめの栗も取って、モンブランをれん夏の口へ。
    「ほーら、菖蒲?  アーンしてあげるから大人しく口あ・け・ろ☆」
     チョコパフェを差し出す藍凛。
    「ぐ、まって、藍凛、俺は普通に食べたい」
     と言いつつも断りきれない菖蒲。
     小唄はここぞと用意してきた百合の花とBGMを流し、れん夏がコスプレ用のヘッドドレスを取り出した。それも二人分。
    「いや、女装とかしないんだぜ!?」
    「……僕が女装させられるんなら、菖蒲も巻き込むよ?」
     このあと菖蒲と藍凛がどうなったか、それは彼等のみぞ知るところだ。

    「喫茶店からお花見とか素敵ですね」
     悠花に声をかけられ、屋内席で紅茶を手に景色を眺めていたレティシアが微笑んだ。
    「流れてくる音楽も心地いいし、こういうゆっくりした時間も大切ね」
    「レティシアさんがどうやって過ごすか……ほにょ!?」
     突如、見知らぬ少年に手を掴まれ、悠花が変な声を出す。
    「一緒にお茶しよ?」
    「えっあのっちょっとー!?」
     少年――サーシャは悠花を引っ張って行き、レティシアは目をぱちくりさせてそれを見送った。
    「僕のこと、覚えてないよね……僕はお姉ちゃんに助けられたんだよ」
     屋外席にて、サーシャは悠花にそう切り出し、悠花もふむふむと頷くものの、
    (「……うん、全然心当たりがない!」)
     知らないうちに拠り所にされているようで、
    「何飲みますか? ここはお姉さんがおごってあげましょー」
     話を聞くついでに言うと、サーシャは満面の笑みを見せるのだった。

    「綺麗だな、桜」
    「スゲェ、綺麗……」
     庭園に入った瞬間、重蔵と竜胆は同時に呟いていた。
    「ワンピース着てきてくれたんだな、ありがとう。かわいいぜ」
    「ぅ、うん。あんがと……」
     素直な褒め言葉を口にすると、竜胆の顔が桜より紅くなる。
     二人のテーブルには、桜の紅茶と、竜胆の作ってきたフロランタン。
    「ほら、製菓学科行ってるしな」
     重蔵は美しい光景と竜胆の優しさに浸りながら、
    「こんなにおいしいの用意してくれて、今日はありがとうな」
    「へへ、どう致しまして♪」
     竜胆も朗らかな微笑を返した。

    「わ、凄い、ふわふわ!」
     満開の桜の下、ましろが桜のシフォンケーキに感嘆の声を挙げた。
    「おねいちゃんのひとくちー」
    「はい、あーん♪」
     ましろが隣り合って座る羽衣の口にケーキを運び、羽衣が桜のプリンをお返しに。義妹二人のそんなやり取りを鏡は微笑ましく眺めながら、
    「ほら、こっちのも美味しいよ」
     桜のマカロンとスコーン、そしてモンブランを妹達と分け合う。
    「そう言えば、春になってみんな進級したんだよね」
    「鏡くんは大学お忙し?」
     学部を変えた兄を妹二人が気遣う。鏡は、少し大変かも知れないかな、と微笑して、
    「でも、ふたりのお誘いにはいつでも、のるよ。お勉強でもお出かけでも、ね」

     カフェに着いた春希を待っていたのは、嬉しいサプライズだった。
    「じゃ、いこうか」
     鴇永が恭しく手を取り屋外の席に誘う。共に歩きながらも、鴇永は春希の服を褒めることを忘れない。桜色のワンピースに白いうさぎパーカー、鞄は鴇永が贈ったものだ。
     席に着くと、既に鴇永の手回しで紅茶や洋菓子の準備が整っていて、
    「綺麗だね、桜」
     二人分のカップに、絶妙な蒸らし時間の紅茶が注がれる。
    「うん、桜きれいっ……トキ君もきれいっ……」
     二人の茶会が幕を開け、穏やかな時間が流れる。
    「……王子様、だいすきっ」
    「うん、ボクも大好きだよ。はい、あーん」
     桜モンブランをフォークに乗せて、悪戯っぽく言う鴇永。
     春希が頬を染めながら従った。

     結理と鈴の前に並ぶのは、桜の紅茶と、家庭科室で放課後合作した桜フィナンシェ。満開の桜と春らしい味覚に、結理はふと、
    「鈴さんの外国語学部は少し意外だったな」
     鈴はひとまず紅茶のカップを置いて、
    「実はこっそり第二の母国で音楽活動中でして。英語以外も覚えられたら楽しいかなってさ……動機不純かしら」
    「不純だなんてそんな……応援してる。ドイツ語なら手伝えるかも」
     医学の道を志す鈴の言葉に、鈴は得心しつつ、尊敬の念を口にして、
    「……ね、後で新作聞いてくれる? そんで久しぶりにセッションしよ!」
    「わ、新作?セッション!?喜んで!」
     止まらない時の流れの中でも、変わらないものはきっとある。
     
     風に揺れる桜の下、玲と和菜は向かい合って座っていた。
    (「学部別れたから、こんなふうに一緒にいられると……うれしい」)
     想いは口に上せず、和菜はケーキをスプーンですくう。ふと思いついて、
    「……あーんしてあげようか?」
    「あ、あーん……!? 待て、いきなりハードル高くね?」
     自分でケーキを食べ始める玲だが、緊張のせいか味がよく分からない。
    (「……っつーかアレか。これ恋人になってからの初デートってヤツか」)
    (「どうしよう。普通の恋人同士っぽくイチャイチャするのは…難しい…! でもそんなんじゃなくても、一緒にいたかったというか」)
     そんな胸の内は玲も和菜も秘めたまま、これからの話を。
     帰り道は二人、手を繋いで。
     
    「……なぁ一橋。教えてくれ。俺達は何でスイーツ食いに来てるんだ? しかも男二人で」
    「誘えなかったんだから仕方ねぇだろ。ほら、あーん」
     桜モンブランを食べさせようとする智巳に、和志はどよーんした目を向ける。
     智巳はスプーンを下げて、
    「ナンパでもするか?」
    「……うん、無理だわ。カップルばっかりだ」
     言いながら和志はチョコケーキを平らげて、
    「まぁ、俺も食堂店長だし、お前もパティシエ目指してるから」
    「敵情視察ってやつか」
     察して言った智巳の前で、更に苺ショートを完食する和志。
     どちらも思うことは同じだろう。
     ――今度は絶対女の子呼ぼう。

     時折、楽譜にふわりと舞い降りる桜の花弁を指で払いながら、迦月は譜面を追っていた。
     楽譜に目を落としたままコーヒーを口に含む。
     ふと視線に気付いて顔を上げると、
    「……ふふ、ホントご希望通りの素敵な場所で良かったですね、迦月さん?」
     両手で頬杖をつきながら、遥香が言った。
     その傍らには彼女がオーダーした桜紅茶がある。
    「こういう静かな場所でゆっくりしたかったからな」
     再びスコアに視線を落とす迦月を、遥香はじっと観察しつつ、
    (「なんていうか、こうやって見てても全然飽きませんね」)
     不意に、迦月が楽譜に舞ってきた花弁を遥香の頭に載せた。
    「ふぇっ!?」
     驚く遥香。
     迦月は澄ました顔で、桜の花の簪とか似合いそうだなー、と思ったりしている。
    (「……まぁこの花弁は持って帰りますけどね、記念にっ」)
     怒ったような素振りを見せつつも、遥香は花弁を大事そうに仕舞った。

    「先日の梅見も素敵でしたが、桜もまた愛らしくて好いものですね」
     桜紅茶とスコーンに、まるで卓上にも春が訪れたようだとシルキーは口元を綻ばせる。
    「梅も桜も、気付くと咲いとるから変な感じ」
     先程まで真剣にメニューに見入っていた想々も、オーダーした桜のモンブランと紅茶を前に、会話に花を咲かせていた。
    「想々さんは春のお花がよく似合うのね。春風に浚われそうで心配なほどに」
    「え……に、似合……ってうぇっ!? 浚われ!?」
     さらっと言ってのけるシルキーに、想々が思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
     微笑するシルキーのティーカップに、はらりと瑞々しい桜の花弁が舞い降りた。
    「……あ」
     風流と笑うシルキーに想々の口元が緩み、桜と甘いケーキの香りが漂う春の木漏れ日の下、二人の茶会は続く。

    「これが……桜、です? こんないっぱいの、はじめて」
     満開の桜に、瑠璃花は圧倒されたように見入っていた。
     テーブルを並べて集う香坂家の人々の声に振り返り、彼女もその輪の中に戻っていく。
    「はしゃぎ過ぎて食べ物を落とさないよう注意して下さい」
     織久が周りに言いながら、店頭で購入してきた紅茶をテーブルに置いた。
     彼が見守り、皆が気遣い、多めの人数でも周囲の迷惑にはなっていない。
    「なに人を荷物持ちにしてるんですか! ……まったく」
    「案外座れるもんだな」
     自分用のモンブランやスコーンを弟の瑛斗に持たせて、透が悠々と歩いて来る。
     迎えたのは、テーブルに重箱を広げていたベリザリオだ。
    「兄さんも給仕は任せて花見でもして下さい。たまには俺がやりましょう」
     織久が兄を気遣いつつ皿に料理を取り分ける。
     重箱の中身は和・洋・中のオードブル。
     來鯉の料理にもまた歓声が挙がった。ちりめんじゃこをご飯に混ぜ込んで握り広島菜漬で巻いたもの始めとした、広島の素材をふんだんに使ったおにぎりが三種類。デザートのもみじ饅頭もある。
    「ありがとう、愛莉」
     來鯉に愛莉と呼ばれたヴァーリも楽しげに、持ち込んだお茶やラムネなどを人数分に分けていく。
    「……お、コレ美味ェ。翔も食ってみろよオラオラ」
     ヘキサが勧めるオードブルやおにぎりに翔が手を出し、
    「あーっ、るりもそれ食べたいですー!」
     瑠璃花もそれに混ざって満足気。
    「ふふ、なんだか弟や妹が増えたみたいですわ」
     ベリザリオも皆の輪の中で笑っている。
    「うん、相変わらず美味いな」
     ヴァーリも來鯉の料理に舌鼓。
    「來鯉兄者の料理は一番私の舌にあってるよ、やっぱり」
     瑛斗は賑やかな同行者を尻目に頬杖をついて、
    (「できれば、僕のも姉さんに食べて貰いたかった……」)
     思ったが、楽しそうな透を見て、満更でもないかと口元に小さく笑みを湛えた。
    「兄ちゃん、桜綺麗だねー!」
    「店内なんだから、静かにね」
     颯は木に寄り掛かりながら、弟に素っ気なく返した。
     人が多いのも、桜も苦手。それは花見の前、大切な人を自らの炎で死なせた過去を思い起こすからという。
    「……姉さんも来れたなら、きっと喜んだかな?」
     置いてきたビハインドの綾を思い出しながら呟く。
     と、どこからかスコーンが飛んできて、咄嗟に颯はそれを掴んだ。
    「兄さんは暗く考えすぎなんだよ」
     投げたのは、そっと席を立った透だ。
    「写真撮影しようぜ」
     透の提案に、翔がカメラを持ってきたヘキサに撮影を頼んで、
    「これから楽しい思い出増やせば良いだろ?」
     大切な義妹の言葉を耳にしながら、颯が駆けてくる弟を迎えた。
     
    ●桜カフェの夜
    「おぉー、見事に咲いているな」
     闇に浮かび上がる夜桜を眺めながら、竜鬼は葉を取った桜餅をがぶりと。
    「散ったらより美しいのだろう。名残惜しくもあるがな……」
     気付いたら桜餅を平らげていた竜鬼は、茶を喫しながら、
    「春はいいものだ。桜はきれいだし、桜餅も美味いし……それにそれに……は、は、はっくしょん!!」
     豪快なくしゃみを一つ。花粉症もまた、春には付きものらしい。

    「昼間の桜も良いが、幽玄な夜桜も良いものじゃの」
     祇音は紅染と共に、桜の紅茶の香りを楽しみ、
    「おや、桜の花びらが紅茶に……花見酒ならぬ花見茶といったところか……善哉善哉」
    「あったかい、ね。……体も、だけど、なんだか、心も。好きな、人と、一緒、だから、かな?」
    「せ、拙者もあったかいのじゃ……」
     祇音はショートケーキを、紅染は桜のモンブランを――優しい甘さが桜の雰囲気に似ていると頬を綻ばせながら、春の味覚を互いに交換し合う。

     ライトアップされた夜桜を前に、屋外のテーブル席でポンパドールは目を輝かせた。保護者代わりとして来たことをハッと思い出すと、
    「ちゃんと保護者さんに見えてますよ、きっと」
     向かい合う席で、りねが微笑する。
     りねが店員にオーダーするのは、ホットミルクと桜のスコーン。スチームミルクとスコーンにはたっぷりの蜂蜜を。そのチョイスが余りに美味しそうで、
    「おれもおんなじのを」
    「お揃いめにゅーですね」
     風に揺れる満開の夜桜に、卓上にも春の色。
     最後は店員を呼んで記念撮影をしようということになり、ポンパドールはちょっと緊張しながら、りねはポーズを決めて――思い出を形にするシャッターの音が響いた。

    「この時間になると、まだちょっと肌寒いですね」
     温かい桜の紅茶とモンブランを味わいながら、彩歌がライトアップされた桜を見上げる。桜の佇まいに、新しい季節の始まりを感じつつ、
    「樹さん、新婚生活のほうはいかがです?」
    「新婚って言っても今までとほとんど同じよ」
     樹が紅茶のカップを手に応える。変わったのは指輪と、教室が違ったくらいのものだと。
     大切な人と学部が一緒な彩歌を羨ましいと言い、
    「彩歌ちゃんの方は最近どうなの?」
    「もうしばらくは自分にできることを少しずつ増やしていくことにしようかな、と」
     お互いのパートナーの話や将来のことなど、二人の話題は尽きない。

     連雀通りキャンパス高校3年6組のメンバーもテーブルを並べて夜桜を楽しんでいた。
    「やっぱり夜だよね。夜の黒に桜がすごいよく映える」
     鈴の言葉にクレンドが同意し、メニューを見ていた国臣も相槌を打った。
    「ユキ、よろこんでくれるかな?」
     ハルジオンは恋人へのお土産をスコーンに決めて、
    「実にいい! 実にいいよ! 綺麗な桜に一番合うもの……僕だね!」
     夜風に舞う花弁を浴びながら、現真が扇子を手に友のため舞を踊る。
    (「華麗に流麗に……今この場の主役は僕さ!」)
     最後にびしっとポーズを決めて見せるが、
    「素晴らしい味だね、なあ理堕くん? お、鈴くんのスコーンも美味しそう!」
    「交換する?」
    「花よりモンブランだよな、やっぱし」
    「……ずるい! 僕にも何か甘いものを!」
     時乃や鈴、理堕のやり取りに、慌てて席に戻る現真。
    「あと一年で俺らも大学生になるんだね、皆は将来なりたいものとかあるのか?」
     思い出したようにクレンドが言うと。
    「んー、ユキと一緒にいたいからシャクメツ者関係の仕事につきたいな」
     ハルジオンが応えて、
    「養ってくれる人でも探しに行くか。働きたくねーし。それか悪魔狩りしに、世界を回るかだな」
     と、理堕。
     ビッグな存在になりたい――時乃は思いつきで語って、
    「(本当は花嫁さんなんて小さな夢だけど、恥ずかしくて言えないや)」
     ――クレンドくんは? 時乃に問い返されたクレンドは、
    「最近情報誌作るのが楽しいからね。その道を目指してみるのもいいかもな」
     国臣はまだ学部も定まらないことを語り、皆の目標に耳を傾けていた。
     最後はハルジオンの用意したカメラで記念写真を。
    「よし、セット完了っと」
     タイマーをセットしてハルジオンが皆に駆け寄る。
     現真は髪をかきあげて。
     時乃は最高の笑顔でピース。
     理堕はモンブランを食べながら。
     皆がそれぞれにカメラの方を向いて――パシャリ。
     桜の夜の思い出が一枚の写真に収まった。

    作者:飛角龍馬 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月14日
    難度:簡単
    参加:52人
    結果:成功!
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