Carmine blast

    作者:那珂川未来

    ●Carmine ARMS
     札幌地下鉄東西線、大谷地とひばりが丘の沿線にて。
     平和通と名の付くこのあたりは、国道との交わりもあってか、人も車も多いところだ。
     それなのに、今はその名とはかけ離れる、惨劇となっていた。
     電柱や街灯は折れて曲がり、信号は火花を弾いていた。ビルやマンションには大きな穴があき、道路は抉られ、まるで戦車か何かの砲弾でも飛んできたかのような有様だ。
     瓦礫の下から伸びた手は、真っ赤に染まってピクリとも動かない。男なのか女なのか、形を判別するのが難しい遺体がいくつも、混沌と道路に放置されている、そんな場所で。
     カーマイン色のスリットドレスを靡かせ、危い路面を歩く美女がいた。シレイラ・マーベリックという六六六人衆である。一度武蔵坂学園と交えたこともある、異形化した左手と、銃器を操るダークネスだ。
    『……斬新と名乗っていたが』
     話を持ちかけられた新たな殺人ゲーム、というわりには以前と全く変わっていない内容。しかし、武蔵坂学園と事を構えることがあるかもしれないと依頼主の言、ただそれだけで今回請け負った。
     文句を言うのも「役目」が終わってからにしようと、シレイラは暴れる電線の火花を無表情に見つめたあと、その華奢な足を跳ねあげて、クラッシュした車の屋根を吹き飛ばし、けだるい動きで革張りのシートへと身を預けた。
    『武蔵坂学園……今度は私へどんな破壊兵器を差し向けてくるのだろうか』
     以前見えた彼等は、かなり綿密な戦法を組んできただけに。ゲームは見事に敗北したと言わざるえない。
     それ故に、ぼうっと星を見つめる目は、期待を持つ色をしていた。
     自身の性能をあげる為ならば、負荷をかけられるのも承知の上だ。他の六六六人衆が知っているかどうかは知らないが。
    『……兵器は作られた以上は使われる運命。使われてこそ意味があり、使われて果ててこそ意義を全うする。故に――』
     在る限り、平和など、此の世に存在せんよ。
     この通りの名に皮肉を込めるような有様にした張本人は、珍しく唇に笑みを浮かべた。
     
    ●新たなゲームの幕開け
     仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)はまず、六六六人衆の、新たなパターンの闇堕ちゲームが始まると告げて。
    「千布里・采(夜藍空・d00110)くんが、行方不明だった六六六人衆、斬新京一郎の足取りを掴んだみたいでね。斬新京一郎本人を確認したわけではないんだけど、札幌市内で、斬新京一郎の手引と思われる事件が発生し始めたんだ」
     惨いことに、六六六人衆は、付近の一般人を虐殺した上で、灼滅者が来るのを待って灼滅者と戦い、闇落ちさせる事を狙っているらしい。
     つまり、どんなに頑張っても、死人は避けられないということだ。
    「まだ詳しくはわからないんだけどね。闇堕ちゲームを、斬新京一郎が利用して何かを企んでいるのかもしれない」
     殺人現場で待ち受ける六六六人衆を灼滅し、どうか殺された人の仇を取って欲しいと沙汰は言って、
    「今回君達に灼滅をお願いしたいのは、シレイラ・マーベリックという六六六人衆だ」
     序列五〇八番。逃げ足も速い六六六人衆、この序列なら普段は奇襲や先手でも取らない限りは、灼滅は難しい相手だ。件の場所までの地図とバベルの鎖を回避する道筋を示しながら、奇襲などはできないが、シレイラのもとまでは安全に向かえると沙汰は言う。
     辺りにはもう人はいないので、特にESPや避難活動は必要ない。
    「シレイラは改造されたガトリングガンと、左手の異形化している鋭い爪を使って切裂いたり、それを変形させて矢を打ったりと、射撃技が得意。ポジションはスナイパー」
     相応の戦略が必要だろう。少なくても、相手が何者で、どんな能力を持っているか等が事前にわかっている状況は、武蔵坂の強みである。
     そして。
    「更にこっちに有利なんだけど……不可解というか。今回の事件では、なんらかの方法で、六六六人衆の力が弱められているんだよね……。それが誰の何のための策略かはわかんないんだけど……」
     戦闘中に、このことに関して深く気を取られる必要はないとは思うが。ただこの事件自体が何か策略があることには違いないのは薄明。
    「この機会に、シレイラを灼滅出来るならば、しておく方が絶対にいい」
     だから、力が弱まっているとはいえ、もともとが決して油断できない相手だ。強敵として掛かるべきである。隙を見せれば、こちらが闇堕ちさせられて、相手の思うつぼである。
    「危険で、心苦しい依頼になると思う。けど、犠牲者の為にも……」
     どうか頑張ってほしいと沙汰は言って、灼滅者達を見送った。


    参加者
    天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)
    凌神・明(英雄の理を奪う者・d00247)
    愛良・向日葵(元気200%・d01061)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    式守・太郎(ブラウニー・d04726)
    七峠・ホナミ(撥る少女・d12041)
    興守・理利(伽陀の残照・d23317)
    獅子鳳・天摩(謎のゴーグルさん・d25098)

    ■リプレイ


     膨れ上がる黒煙を突き抜けた向こうにあった、無残な光景。神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)は、思わず息を飲んだ。
    「なんなのよ、これ……」
     ここがつい先ほどまで札幌の一部として機能していたとは疑いたくなる程。
    (「――ああ、ひどい血の臭い」)
     瓦礫と同じように散乱している肉色。天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)は無意識に手で覆った。地面に黒々と広がる赤、そのものが、大気に濃厚に溶けているかのようだった。
     無駄だとわかっていても、愛良・向日葵(元気200%・d01061)が生存者の息遣いを見つけまいとしてしまうのは、メディックとして癒しに固執する彼女だからだろうか。
     犠牲が出た後に動く時はどうしたって悔しい。その思いを、現場に到達してから、さらに強く感じた七峠・ホナミ(撥る少女・d12041)の唇が、微かにかたどったのは、きっと謝罪の言葉。
     揺れる炎の向こうに居る女の顔が見えたなら、誰もが感じる憤りの矛先は、自然とそちらに集中する。
     獅子鳳・天摩(謎のゴーグルさん・d25098)は、ライドキャリバー・ミドガルドで現場に乗り付けた姿勢のまま、混沌とした世界を静かに眺めたあと。表情は変えずまっすぐ女を見た。
    「待たせたっすね、武蔵坂学園っす」
    『ああ、待った。武蔵坂学園の破壊兵器たち』
     音の隔壁が落ちてゆく中、シレイラは静かに言った。何十もの命が潰えていることへの揶揄か。それとも単純な時間経過を言っているのか、顔を見る限りではわからない。
    「何が兵器だ……」
     興守・理利(伽陀の残照・d23317)は、噛みしめる奥歯に血の味を感じた。
     自分達を呼び込むためだけに、ここまでする必要があったのか。死者を踏みにじりながらこちらへと歩む姿に、腸が煮え返る思いは、より強くなる。
    『兵器だろう? 私も。お前達も。何かを破壊するために存在している』
     目的がどうあれ、やることは何一つ変わらんよ、と。シレイラは鼻で笑う。
     彼女の言をまともに受け取るわけではないが、ウルスラは灼滅者であるが故の命題、自分で在る為、自分を保つ為に戦う……その意味を噛み砕く様に反芻して。
    「確かに、似たようなものなのかもしれんでゴザルな、お主と拙者達」
    『共に、人間から生み出された。当然だ』
     言って、シレイラは転がっている人の死体の一部を蹴り飛ばした。
    「まるで人間そのものが諸悪の根源だと言いたげな口ぶりだな」
     足元まで転がってきた誰かに哀悼を向けるのは、後でも遅くはない。今、凌神・明(英雄の理を奪う者・d00247)の視線は、シレイラのみを映している。
     兵器が手元になかろうと、灼滅者ではなかろうと、その手は何かを殺せるのだと、明は思っている。そこに必要なものは、強固な意思か、或は見えないものに対する弱さか。
    『違うか?』
    「さぁな? ただ、アンタが求める絶対性は、俺のとは噛み合ってねぇってのはわかる」
     その矜持をぶつけ合うのが今なんじゃねぇのかという明の見下ろすような視線。そしてこの暴虐の中でも冷静に自身を律しながら敵を見据えるホナミの、普段の柔らかな雰囲気は消え、覚悟に凛としている。
    「そろそろ始めましょ?」
     シレイラは微かに口角を緩め、左手の異様な金属の爪をボウガンのように変形させると、構えをとる。
     今まで大気に溶けるように静かに見守っていた式守・太郎(ブラウニー・d04726)より、並々ならぬ灼滅の意志が静かに波紋を広げてゆく。背にたなびく純白は、翼の様に決意を捉え。その手は破魔の薙刀を。
    「沢山の人の命を無慈悲に奪ったケジメは、着けさせて貰います」


     後衛に弾けた殺気の爆風。
     明は率先して爆風の源へと飛び込み、自らを障壁としながら。意識反らせようと、鋭く拳をふりあげる。
     拳が空を切る音。翻ったシレイラを逃がさぬように、身を切る衝撃にも怯まず飛び込む太郎。放つ螺旋の銀に絡むように、ウルスラのスカイハイ・フィンガーが翻る。
     矛先が鮮血を弾くものの、空色マフラーの先端は、すれすれで空を切る。次いで放った、明日等のバスタービームも同様だ。
     唯、術式の攻撃で被弾させる事が出来たのは、天摩の放ったスターゲイザーだけ。粉塵噴き上げるミドガルドと、鋭いフットワークで詰める天摩の連携によって、シレイラの細い足首から流れる血。
     理利が一息で踏み込んで放つ鬼拳の軌道を読んだシレイラから、鋭く鋼が飛んだ。
     鮮血が糸を引く。
    「腐っても六六六人衆ってことね」
     食い込むように刺さりこんだ鏃を払い捨てながら、明日等は呟く。弱体化によってか、決して当たらぬ可能性がないわけではないにしろ。術式サイキックは、スナイパーの精度を以てこれなのだから、ある程度流れを掴むまでは、出来る限り苦手属性を付かなければ厳しいと明日等はふんだ。
    「能力的にも、気魄属性が欠点だと思います。次点、神秘属性かと」
     攻撃手段や報告書から行った、太郎の属性予測は当たっていた。注意の言葉があれば、それだけペースを掴むのが早くなる。
     矢を打ち終えたばかりのシレイラの脇へと、太郎は隼のように切り込んで。下段から振り上げる輝く刀身が魔力的結界の一部を弾き飛ばす。
     同時、理利の気魄を体現したかのように、一陣の風が真っ直ぐと。
     切り裂く一撃に舞う赤を祓う様に、ホナミから、羽ばたく様に広がる白の軌道。向日葵はラビリンスアーマーを受け取りながら、自身にヒーリングライトの輝きを下ろし。
    「破壊兵器と称するなら、それに相応しい最後を与えてやるわよ!」
     明日等は、オーラをリンフォースの魔法とクロスさせる様に放つ。
    「こっちもどんどん当ててくのだー」
    「決して逃がさないわ」
     明日等へと、回復を兼ねての矢を番える向日葵。ホナミは広げた衣の矛先を、そのままシレイラへと振り下ろす。
     地へと刺さりこんでゆく攻撃を、滑る様にかわしていたが。ホナミの純白の隙間を縫う様に、ウルスラから空色が走った。
    「左がお留守なのデース!」
     風の様に赤を薙ぐ。
    『確実に行動の隙を狙ってくるか。嫌な記録を再生させる連携だな。あの時はディフェンダーの女、三人で行っていたが……』
     けれど太郎と理利を見つめる、シレイラの口調は微かに楽しげだった。
    「……何か狙いがあるんでしょうけど。私達にとって好機でもある。これ以上好き勝手させないわ」
     ホナミが凍気を凝縮させると、陣を描いたような結晶を打ちだして。
    『ああ、狙いなければこんなことはしないだろうよ。ただ少なくても今の私は、極限の中の戦闘を望み、自らの性能を向上させたい』
     銃口が唸りをあげた。庇い入るミドガルドの、艶やかなボディに亀裂が入るが、向日葵の手からは即座な癒しが。
    「みどがるどちゃん、元気にな~れ♪」
     走行に緩みなく。大地を噛み砕く竜の様に、砂塵巻き上げシレイラのまわりを周回しつつ隙を伺うミドガルド。共に迫るのは天摩だ。
     牽制しつつ滑り込んだかと思えば、その勢いのまま華麗に蹴り上げ、刹那の隙を突くトリニティダークカスタムの先端。流麗な零距離格闘。
    「お前が奪った命は戻ってこない!」
     その狙いの為に、瓦礫の下、いかほどの命が潰えたのかわからぬ程の惨状。
     思わず感情的に怒鳴ってしまう程、理利が抱くは空しさと悔しさは、その刃の荒々しい軌道にも見てとれて。
     かわされてしまう乱れた太刀筋。太郎がフォローする様に、光の刃を重ね、
    「明日を迎えられなかった人達の為にも、負けられません」
     ちょっと熱くなり過ぎな理利へ、勤めて冷静に振舞う自分を見せて、飲まれてはいけないと暗に訴える。
     理利は血の味をしっかりと噛みしめながら、一つ頷いた。それだけで、充分だった。
    「兵器が生きるかどうかは使い手次第っしょ。使い手の企業がポンコツで残念だったっすね!」
     そんなやり取りを感じたのだろうか、天摩が目配せ一つして動いた。唯の三連携可能な布陣で、再びシレイラの虚を狙ってゆく。
    (「さしずめトレーニングなのかしら。負荷をかけると効率が上がるっていうわよね」)
     まるで人間らしい解釈だと、ホナミは思う。
    「でも過ぎると身体が壊れてしまうものよ。それは兵器と称する貴女だって同じじゃないかしら?」
     ――どうせなら言ってやりたいじゃない、見極めを誤ったみたいね、って。
     ホナミの振るいあげた槍の先端から解き放たれた、氷の星。きらきらと零れる結晶は、まるで尾を引く流星の如く。
     そんな、宇宙(そら)を渡る様に軽やかに、空色マフラーがたなびいて。
    「アニメみたいな照準器なんて捨ててかかってコーイ! でゴザルよ!」
     ウルスラのガンナイフの先端が、ホナミが植え付けた氷の刃と共鳴する。
     凛と鈴のような音響いて。その能力の上昇全てをリセットさせた。


     また明日等へと、唸る様に迸った、炎の弾。
     ただ、後ろにいようが防御属性的に狙い易かったこと。もともと命中率が高い相手がスナイパーにいるということは、クリティカルを弾き出す可能性を秘めているという事。どの狙撃技も半減されないとなれば、しかも火力が高いとなれば、致命傷を連発されて、簡単に逆転されるかもしれない。
     危い隙を突かれているが、即座な能力ブレイクのおかげで今でも誰も倒れていない。
     もちろんそこに、ディフェンダー陣が支えている影響も外せない。純粋なまでに、責を担う明の肩が、強打に赤く弾ける。
    「あんたなんか絶対に灼滅してやるんだから!」
     相手の意図に気付いた明日等は奥歯噛みしめながら、リンフォースの放つ猫魔法の光に、妖冷弾を合わせ。
     集中攻撃を受ける可能性は、誰にでもあった。ディフェンダーを担う身体的痛みと同じくらい、狙われている人間にも精神的負担はあるだろう。
    「あたしが居る限りだれも闇堕ちなんてさせないんだよー! いたいのいたいのとんでけーなのだー!」
     仲間たちを鼓舞するように、向日葵が精一杯元気に声を張り上げる。
     放たれた癒しの矢の輝きを、明はその拳に渦巻く闘気に融合させて。
    「――受けてみろ」
     明日等の一撃を受けたばかりのシレイラへ。シールドバッシュの一撃に、砕けぬ者としての誇りを込めて。
     食い込む氷結の冷気に紛れて輝く洋紅色が、金の瞳とぶつかり合う。
    『お前、よくそこまで、潔く壁役に徹したものだな』
     怒りに意識引っ張られたのか、シレイラは弓に変形させていた左腕を、鋭い爪に戻して。
    『本来は、私と同じスタイルだろう? 全身全霊を掛けて壊すタイプだろうに』
     狙撃者が、初めて拳を使って殴り付けた。
     拳に生きる者への、敬意を払う様に。
    「だからどうしたよ」
     剛の一撃を柔の拳で緩和しつつ、血を流しながらも、ソーサルガーターで耐え忍ぶ明。シレイラは壊しがいのある重戦車でも見る様な目で。
    『好もしいよ。私には出来ぬ事だからな』
     迸る炎。咄嗟、リンフォースがぎゅっと前足を丸めながら受け止める。
     衝撃にくるりと空を転がったが、ぎりぎりで持ちこたえて。
    『何故私は、ラグナロクダークネスではなかったのだろうか。そうすれば、この世の全てを壊せたかもしれないのに』
     思う様に崩れぬ灼滅者に苛立ったように、幾分語気に怒りを含んでいるように、理利は感じられた。
    「……貴女も感情を持っているではないですか」
     唇噛みしめながら、理利は陽炎幽契刃の刀身を朱で濡らし。
    「性能を上げたいなど、兵器自身は考えないのでは?」
    『兵器であるからこそ、破壊という目的を叶えるために、日々精度の向上に努めているのだが?』
     大真面目に言うシレイラが、何処か滑稽で。
    (「――少し悲しい」)
     自問自答し、目的へ目指す姿勢はまさに人そのものでは、と。
     何故シレイラが自身を兵器と言いながら、兵器になり得るものを全て壊す衝動に駆られているのか、それはたぶん彼女にもわかっていないのかもしれない。
    「ある意味アンタは実に人間らしいよ。俺も理利の意見と同じだ。ただ順位を求める部分は、むしろ好感を持てる」
     明との価値観の近さの意味より、自分が人間らしいと言われたことにシレイラは虚をつかれた様な顔。
    「アンタが人間だった頃のキミに言うけど、キミが遭ったような理不尽を、絶望を、一つでも多く止めるから……」
     天摩には、何か感じたことがあったのだろうか。
    「助けてやれなくて悪かったっす。そしてアンタに。ここできっちり兵器として終わらせてやるっすよ」
     壊してあげるのが、最大の敬意と、弔い。
     もう黒煙を噴き上げてもおかしくないようなミドガルドと一緒に突進する。
     灼滅者たちも、満身創痍とも言える者が半数。一瞬の緩みが、互いの生死を分けるのだろう。
    『……壊れるのはお前たちだ』
     速さではシレイラが勝る。しかし、ポジションチェンジによる生存の綱を引き寄せる暇もなく、耐え抜かれ人質を取る様なマネもできずに終わった以上は、彼女が不利。
     弾丸の雨が後衛に降り注ぐ。当たれば確実に誰かが倒れると踏んでだ。
     太郎と向日葵を守ってリンフォースが消失し、明日等を庇った明が気合いだけで凌駕して。
    『まだ、立つのか?』
     ホナミとウルスラから放たれた色が朱を弾かせていても、際立つシレイラの目には、忌々しげな灯が光り。
     怒りに寄せられるように、その爪が明の体をとらえた。
     突き抜けた鮮血の飛沫、明が崩れる。
     洋紅色のその目がとどめを狙っているのは明らかで。
     咄嗟、彼へと手を伸ばし、後方へと投げたのは太郎。向日葵も庇い出る様に突出。守る様に果敢に攻撃を仕掛ける理利。
    「もう、貴女に命は奪わせない!」
     気魄と共に突き出す、陽炎幽契刃。刃は驚くほど、すっと胸に吸い込まれ、そして。
    「これで、仕舞でゴザルよ!」
     スカイハイ・フィンガーが、綻ぶように広がり、彼女を切裂く。
     両手失い天を仰ぎ呻いているシレイラへ、ホナミは告げる。
    「……見極めを誤ったみたいね」
    『……ああ、そうだな』
     火花散る中微笑んだそれは、爆発し、消し飛んだ。

     その終わりは、本物の兵器の様だった。硝煙の香り残る戦場で、天摩は目を閉じながら偲ぶように、
    「アンタは理不尽で強力で悲しい兵器だったっす。忘れないっすよ」
     けれどそんな空気も、ウルスラの声で一変する。
    「た、大変でゴザル! 遺体が見当たらないでゴザルよ!」
     言われて、皆がくるり辺りと見回せば。瓦礫や血痕残れど、一般人の死体が一つもない。
    「どういうことなんだ……?」
     理利たちは驚きを隠せない。確かに戦闘に集中していたこともある。けれどウルスラに至っては、伏兵の存在すら気にしていたというのに。
    「でもここまで完全に遺体を連れ去るなんて真似……」
     容易いことじゃないわとホナミが言葉に出さずとも、誰もが同じ考えだ。
     もしかしたら、この変わり映えないゲームに、とんでもない裏があるのでは?
     何とも言えない不安。
     ただ、混沌とした場所に、不気味な静けさが残った。

    作者:那珂川未来 重傷:凌神・明(魂魄狩・d00247) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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