徘徊する宝の番人を倒せ

    作者:波多野志郎

     ――それはまさに『都市伝説』だった。
    「あれだっけ? 銀行強盗がお金を隠して、だっけか?」
    「そうだっけか? あー、まぁ、その森には宝が埋まってるって話だよ」
     放課後の通学路。のんべんだらりとジュースを傾けながらの馬鹿話――まさに青春の一ページである。
    「それで、その森に入ると宝を捜しに来たんじゃないかって包帯グルグル巻きの大男に襲われるんだっけ?」
    「その理由も焼身自殺に失敗したとか正体隠すためとかまちまちだけどなー」
     二人は笑い合う。都市伝説というのは大概荒唐無稽だ。細部が曖昧であれば想像の余地がある、だからこそその細部を空想するのが面白い。
     しかし、問題は別の部分にある。
    「……何でそんな森に行かないといけないんだよ」
    「仕方ないだろ、部活の行事なんだから」
     ようするに二人はさんざん部活の先輩達に脅された訳だ。その森には宝を守るために徘徊する大男がいる、だからはめを外して森の奥へと入るなよ、と。
    「いやいや、ないだろ? でかい鋏でぶった斬るとか非現実的だろ?」
    「ないわー、被害者燃やすとかないわー」
     二人は呆れ顔でそう言い合うと――申し合わせたように叫んだ。
    「何で殺害方法だけ妙に詳しいんだよ!?」
    「知るか!? マジで勘弁しろよ!」
     都市伝説とはそういうものだ――ただただ、二人は笑い話ですむ事を願った。

    「脅しとしては成功だろうが――脅しですまないから困りものだ」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は渋い表情でそう告げると灼滅者達へと向き直った。
    「今回、お前達に頼みたいのはある森に徘徊する宝の番人――平たく言うと都市伝説だ」
     曰く、その森の中には宝が埋まっている。
     その宝を守るために森に入り込む者達を殺して回る体中に包帯を巻いた大男が徘徊している、というものだ。
    「現在、この森にはこのミスター包帯グルグルが徘徊してる訳だ。お前達には一足先にこの森に行ってこいつを退治してもらいたい」
     この森は比較的広い――この中を徘徊すれば都市伝説と遭遇出来るだろう。
    「……あぁ、言い換えよう。襲撃される」
     ヤマトが言う通り、都市伝説は森の中で襲い掛かってくる。敵はこの都市伝説一体のみ――実力そのものはこちらの一人一人よりも高いから要注意だ。
    「ようするに森の中に入ったら、いつこの都市伝説が襲撃してくるか注意して進む必要がある訳だ。決してはぐれず、周囲を警戒を怠らないようにしてくれ」
     都市伝説の攻撃手段は二つ。巨大な鋏で近接の単体を切り裂き、懐から取り出す火炎瓶を遠距離の広範囲へと投げつけてくる。
    「特に鋏には精気を吸収する効果がある、攻撃と回復を兼ねたいやらしい攻撃だ。それを頭に入れて戦ってくれ」
     ヤマトはそこで一度言葉を切ると灼滅者達の顔を見回し、キメ顔で言った。
    「危険な任務だ。だが、この平和な日本でこんなリアルホラー映画は必要ない――無駄な血を流さないために、お前達の健闘を祈るぜ?」


    参加者
    茅森・妃菜(クラルスの星謠・d00087)
    桜埜・由衣(揺蕩う桜・d00094)
    蒔絵・智(黒葬舞華・d00227)
    アル・マリク(炎漠王・d02005)
    橘・美桜(凛と咲くもの・d02021)
    戌亥・一(戌亥神社の生き残り・d03107)
    水之尾・麻弥(悠久を唄う・d05337)
    斎藤・明日菜(歌う野良猫・d06279)

    ■リプレイ


    「…………」
     木々のざわめきに水之尾・麻弥(悠久を唄う・d05337)が耳を傾けながら息をひそめていた。
     木や草が揺れる様子の中から麻弥は妙な気配や視線、息遣いを読み取ろうと神経を研ぎ澄ますが、それはすぐには森の自然の息吹の濃さに掻き消されていく。
     麻弥は小さく肩をすくめると苦笑と共にこぼした。
    「こう森が深いと気配を読むのも大変だね、やっぱり」
    「全員で少しずつ探していきましょう」
     桜埜・由衣(揺蕩う桜・d00094)の言葉に橘・美桜(凛と咲くもの・d02021)も周囲に視線を巡らせ言った。
    「全方位に注意をしつつ、対応出来るように気を配りましょう。今のところ、それが最善だよ」
    「引き続き、警戒を続ける」
     コクン、と茅森・妃菜(クラルスの星謠・d00087)がうなずきを返す。八人の灼滅者の一団だ、全員が警戒に努めてば取りこぼしもほぼないだろう。
     だからこそ、一つ深呼吸して斎藤・明日菜(歌う野良猫・d06279)が笑みと共に告げた。
    「ちなみにお宝って本当にあるのかしら? 番人倒したらちょっと探してみたいわね。お小遣いも残り少ないし」
    「……確かに宝って、ちょっとワクワクするよね。都市伝説とはいえ……本当にあるのかな?」
     美桜もそう言うが、その表情には苦笑がある――文字通り相手は都市伝説なのだ、話半分で聞いておくべきなのだろう。
     だが、その話半分こそが人の空想を刺激するのも確かだ。
    「ふん、けしからん話だ。この世の宝は全て王たる余に捧げられるべき物なのだと言うのにな!」
     アル・マリク(炎漠王・d02005)が胸を張って言ってのけた。王である事を己に課すアルである、進んで戦闘を進んでいた。その背中はまさに配下を率いる王の中の王――その背中には共に歩む者を守ろうという気概に満ちている。
    「僕はまだ見ぬお宝よりも今晩のおかずですね……天様、これは食べられますか?」
     戌亥・一(戌亥神社の生き残り・d03107)の問い掛けに彼のサーヴァントである忍犬の通称天様がくんくんとその鼻を鳴らした。
     ――その時だ。
    「!? この音は!?」
     じゃきん……! という金属音を耳にして蒔絵・智(黒葬舞華・d00227)が身構えた。音は遠い――森の中を響き渡ったからか、正確な方向が掴めない。
    「アンタの全てを否定してやる……! リリース!」
     智がスレイヤーカードを解放して、まだ見ぬ都市伝説へと言い放つ。じゃきん……じゃきん……と確実に鋏の音は近付いてきている――アルは鋭い眼差しを周囲へと走らせた。
    (「じゃっきん音怖い、ホラー映画とかマジ勘弁しろ……!」)
     その表情の下では怯えているのだがそこは王、威厳を潰す訳にはいかないので恐怖を必死に押し殺した。
    「──来た」
    「――――!」
     妃菜のその小さな呟きと共に美桜が振り向き、天星弓の矢を射放った。その彗星の如き強烈な威力を秘めた矢が空中で弾かれ、軌跡を残し砕け散る!
    「来ました! 迎撃を!!」
    「戦闘態勢を整えて!」
     由衣の一声に、麻弥が後方へと跳ぶ。
     木陰に、『ソレ』はいた。全身を薄汚れた包帯で包んだ大男――都市伝説に語られる宝の番人だ。じゃきん! とその両手に構える巨大な鋏を鳴らしながら灼滅者達へと突進する!
    「負けるわけにはいかないんだから!」
     爛漫な笑顔を見せていた智の表情が冷徹なものへと変わる――ここに、都市伝説との戦いの幕が切って落とされた。


     都市伝説である宝の番人を発見するやいなや、灼滅者達は素早く陣形を整える。
     前衛のクラッシャーに由衣と智、ディフェンダーにアルと美桜、中衛のキャスターに妃菜と天様、ジャマーに一、後衛のメディックに麻弥とアルのサーヴァントであるナノナノのルゥルゥ、スナイパーに明日菜という陣形だ。
    『が、あああああああああああああああああああ!!』
     咆哮を上げ、宝の番人がその鋏を振るう。首を切り落とさんばかりのその一撃をアルはWOKシールドで叩きつけるように受け止めた。
    「大人しく宝を余に寄越すが良いぞ、宝の番人とやら。どうしても渡さんというならば……覚悟するが良い」
     ギイン! とシールドが火花を散らして鋏を弾き飛ばす。そこへアルはシールドを振りかぶった。
    「余に刃向った事を後悔させてやろう!」
     アルのシールドバッシュが宝の番人の鋏と激突し、再び火花を散らし蹴散らしあう。そこへぱたぱたと翼をはためかせたルゥルゥのたつまきが襲った。
    『……ッ!』
    「遠くからガンガン行くわよー! てーい!」
     そして、明日菜の神薙刃が宝の番人の肩を切り裂く。包帯を飛び散らせながらも体勢を立て直す宝の番人へと妃菜がその右手をかざし、由衣が音もなく真横へと回り込んだ。
    「処理を、開始する」
    「そこまでです!」
     妃菜のジャッジメントレイの裁きの光条が、由衣の黒死斬による足への斬撃に宝の番人の動きが止まる。
    「蝕む……その力ごと!」
    「打ち抜くよ!!」
     畳み掛けるように智の解体ナイフが振り下ろされ、麻弥が闘気を雷に変換して拳に宿しアッパーカットを繰り出す。宝の番人はそれ等を鋏を剣のように振るい叩き落そうと試みるが――わずかに、智と麻弥の方が速い。
    『が、あ――!!』
     宝の番人が怒りの声を上げる――その真正面へと間合いを詰め、美桜は巨大な異形の腕と化した拳を突き出した。鬼神変の拳と都市伝説の巨大な鋏が軋みを上げる!
    「――!」
     美桜が肩越しに視線を向ける――その視線を受けて、一がうなずいた。
    「高天原に神留坐す 神魯岐神魯美の詔以て――!」
     ザン! と一が放つ神薙刃の刃が宝の番人の脇腹を深く切り裂き、天様の斬魔刀が逆の脇腹を切り裂く――だが、宝の番人は倒れない。
    「んー、手応えはいい感じなのになー」
    「問題ない、タフなだけ」
     小首を傾げる明日菜に、妃菜がそう返す。妃菜は自身の懐に感じるくまの小瓶の感触に、その表情をより引き締めた。
    「だったら――押して押して押しまくるのみ!」
    「Go ahead!!」
     智の言葉に、美桜も短く言い放つ――自身へと挑みかかる灼滅者達に、宝の番人もまた襲い掛かった。


     ――森の奥で激しい戦闘音が響き渡る。
    『オオオオオオオオオオオオオオオ!!』
     宝の番人が投げつけた火炎瓶が前衛を飲み込んだ。それに明日菜と妃菜が素早く反応した。
    「みんなー、回復するから頑張ってねー!」
    「大丈夫、支える……気にせず戦えばいい」
     明日菜が浄化をもたらす優しき風を招き、妃菜が清らかな歌声で傷を癒す――そして、炎を振り払いながら由衣が鋭く踏み込んだ。
    「――ッ!!」
     踏み込みと同時に抜刀――居合い斬りだ。しかし、宝の番人はその斬撃を見切り鋏で受け止めた。
     だが、その受け止めた瞬間に智が真横に滑り込んでいる。
    「燃え盛れ、葬送の炎よ!」
     解体ナイフが業火に包まれる――智のレーヴァテインの一撃が、その脇腹に突き刺さり、宝の番人の巨体を炎で飲み込む!
    「頭が高いわ!!」
    「ここ!」
     跳躍したアルのシールドバッシュが頭を叩き、屈んだ所を麻弥の抗雷撃によるアッパーカットがその顎を打ちのめした。
    「shoot!」
     そして、美桜の彗星撃ちが深々とその胸へと突き刺さる!
    『おおおおおおおおおおおおおおおお!!』
    「ひと(一)ふた(二)み(三)よ(四)いつ(五)むよ(六)なな(七)や(八)ここの(九)たり(十)」
     なお怯まない宝の番人へ一は自分の周囲へと五芒星型に符を放ち、五星結界符を発動――その攻性防壁を叩き付けた。
     ――戦況は灼滅者達が有利に進めていた。
     しかし、宝の番人はその姿の通りまるで動く屍のように怯まず、攻撃を受けても立ち向かってくる。凄まじいまでの執念だ――だが、その執念に飲まれる者は一人としていなかった。
    (「倒す、それが灼滅者だから」)
     幼い妃菜は揺るがない。例え敵が何者であろうと、ここで退けば誰かの命が脅かされる――灼滅者ならば、それを許してはならないのだ。
    『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
     宝の番人がその鋏を振るうその矛先は妃菜だ――しかし、それを王は許さない!
    「させるか! 余は王として民を守らねばならん!」
     アルが吠え、体を割り込ませるとWOKシールドによって鋏を叩き落とした。そして、アルが居合い斬りを放つのと同時、それに一が素早く反応する!
    「高天原に神留坐す 神魯岐神魯美の詔以て――!」
     一の風の刃と天様の六文銭が宝の番人を打ち据える――それを見て、妃菜が言い捨てた。
    「仕留め損ねたら隙、生まれる……。行くなら、確実に」
     妃菜のジャッジメントレイを宝の番人が鋏を振り払い、地を蹴った。しかし、そこには既に回り込んだ智がいる。
    「この動き……見切れるか!」
     智のティアーズリッパーに包帯が舞う――そこへ、明日菜の神薙刃と由衣の黒死斬が続け様に叩き込まれた。
    「いっけ~!!」
     明日菜の声に押されるように、美桜のディーヴァズメロディが紡がれ麻弥がリングスラッシャーを射出する!
    『が、あ、あ……!!』
     じゃきん、と鋏がその手からこぼれ落ちる――その執念という糸が切れた操り人形のように、宝の番人という都市伝説が倒れ伏した……。


    「……緊張したぁ~! なんとかなったみたいでよかったよ。皆、お疲れ様!」
     朗らかな笑顔に戻りそう告げた智に、ようやく安堵の溜め息がちらほらとこぼれる。
    「大きなハサミでジャキーンって怖いよね。私、ホラーって苦手なんだよね~」
    「ふん、余などあの程度鼻で笑い飛ばしてくれるわ!」
    「ナノナノ」
     そう感想を言い合う麻弥とルゥルゥを頭の上に乗せたアルだが、互いのその表情は感想に反していた。それを見て由衣はただ優しく微笑みだけだ。
    「いやー、結構しんどかったわね。後はお宝探して帰りましょー!何か良いの見つかるといいなー」
     そうウキウキとした表情で明日菜が告げると、妃菜が小さく言った。
    「……お宝。これがあれば、充分」
    「なるほど、これは確かにお宝だね」
     妃菜の手にあるのは金平糖の入った小さなくまの小瓶だ。それを見て智も納得したように笑った。
    「さて、ここで問題」
    「ん?」
     不意に満面の笑顔で告げた美桜に、仲間達が怪訝な表情で問い返す。それに半泣きになって美桜が言った。
    「――今、私たちは何処に居るでしょう? ……私、ここからどうやって帰ったらいいかまったく分からないんだけど! Please take me to the exit!」
    「大丈夫ですよー、多分。ね? 天様」
     美桜に一は気楽に請け負い、天様へと笑いかける。天様もわん、と一鳴き応えた。
     ――青い空の下、森はどこまでも広がっている。灼滅者はその森の景色を楽しみながら伝説の地を後にした……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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