みなごろ

    作者:灰紫黄

     北海道は札幌、発寒南駅近く。
    「みなごろ」
     ぼそり、と無感情な声がスーパーに響いた。同時、胴と分かたれた首が床に落ちる。
    「「きゃああああああああ!!!」」
     誰のものかわからない悲鳴。六六六人衆、ミツギはそれに感情を動かすことなく逃げ惑う人々の首を切り落としていく。剣を持ち替える必要はない。ただのひと振りでみんな死んでしまう。どの剣でも一緒だ。
     斬新なゲームだなんだと聞いたが、楽しくもなんともない。やることはいつもと同じだ。
    「来るかな、灼滅者……」
     やがて、動くものはミツギだけになった。手慰みに首を並べながら、呟く。
    「みなごろ」

     千布里・采(夜藍空・d00110)によって、斬新コーポレーション社長、斬新京一郎の足取りが掴めた。札幌市内で彼の手引きと思われる事件が発生しつつある。
    「今回もそのひとつよ……六六六人衆が一般人を虐殺して、みなさんが現れるのを待ってるわ。目的は灼滅者の闇堕ちみたい」
     文字盤の上で硬貨を滑らせながら、遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)がそう言った。以前までの闇堕ちゲームとほぼ変わらないようにも思えるが、斬新京一郎の企みが裏にあるに違いない。
    「……言いにくいけど、みなさんが到着するころには生存者はいないわ」
    「まぁ、逆に言えば避難とかは考えなくていいってことだ」
     窓際の机に腰かけた猪狩・介(ミニファイター・dn0096)が言った。その表情は険しい。多くの犠牲が出ており、被害が放置すれば拡大するだろう。その前に六六六人衆を灼滅するしかない。
    「現れるのは、序列五五五番・ミツギ。以前も遭遇してる六六六人衆よ」
     ミツギは三本の剣による攻撃と、鞘による状態回復を使う。接近戦しかできないが、その技は鋭く重い。相手に合わせて剣を持ち替える強敵だ。
     灼滅者が到着した時点で、戦場となるスーパーに生存者はいない。一般人の避難などは考えなくてもよい。戦闘の支障となるものもないだろう。全力で戦えると、そう考えることもできなくはない。
    「カラクリは分からないけど、ミツギは弱体化しているみたいなの。灼滅の目はかなりあると思うわ」
    「やるだけやってみるさ」
     不気味だが、強力なダークネスを灼滅する機会だ。それを逃す手はない。


    参加者
    鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    白樺・純人(ダートバニッシャー・d23496)
    合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)

    ■リプレイ

    ●鏖殺
     自動ドアが動き、灼滅者達を出迎える。こんなときでも変わらず動くのは機械だからだろうが、無情にも感じられる。入店のチャイムを無視して、灼滅者は陣形を保ったままスーパーに突入する。
     必然、そこにいたのは三色の髪の少女。六六六人衆・ミツギだ。以前、彼女が現れたのもスーパーだった。前回は灼滅者の活躍で人的被害は出なかったが、今回は違う。生存者はいない。足元に並べられた首はすべて、灼滅者達に向いている。非現実な光景は、残酷を通り越してシュールでさえある。
    「みなごろ」
     当然、この場で最も早く動くのは実力で勝るミツギだ。たとえ弱体化していても、その優位に変わりはない。青いレイピアが無数に分身し、小太郎を狙う。
    「みえみえなんだよ」
     二夕月・海月(くらげ娘・d01805)の足が血塗れの床を蹴り、ミツギとの間に割り込んだ。それに伴ってふわりと影の黒い傘が揺れ、交差した両腕と重なって防御を固める。全身に衝撃が走るが、まだまだ倒れるほどではない。軽いダメージでもないのが悔しいところだが。
    「ちょっと待ってな」
     すかさず後衛から森田・供助(月桂杖・d03292)が匠帯を飛ばし、傷を癒やす。さらに支援に来てくれた灼滅者達も回復を行う。供助の脳裏には今回の事件に対する思考が飛び交っていた。今までと大差ない闇堕ちゲーム、消える死体、そして六六六人衆の弱体化。斬新京一郎が何か企んでいると考えるのは、むしろ当然といえた。
    「こんな胸糞悪いゲーム、早く終わらせましょう!」
     白い光剣が、次いで金のポニーテールが閃く。アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)は死体を踏まぬように駆け抜け、すれ違いざまに斬撃を見舞う。熱で傷跡は焼け焦げ、血は流れなかった。敵討ちなどとは考えない。それは傲慢だ。ただダークネスと灼滅者の闘争。それだけでしかない。
    「……? あれ?」
     傷跡を押え、無表情のまま首をかしげるミツギ。本来なら、かわせたはずの攻撃だったのだろう。弱体化には気付いていなかったらしい。
    「此処で終われ、三剣使い」
     霊犬のモラルを前衛に向け、合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)自身は後衛からミツギを狙う。ガラスの破片をつなぎ合わせたような鞭剣が光を乱反射させながら、少女の華奢な体を締め付けた。ミツギは今度もかわそうとしたが、叶わない。
    「……いや、みなごろ」
     何か考えるような表情をしたのも一瞬。すぐに剣を構え直し、灼滅者に迫った。黄色いフランベルジェが肌を食い破り、灼滅者の生き血を貪る。弱体化を気に留めた様子はない。以前と変わらぬポーカーフェイスで、機械的な動作で三剣を次々に繰り出す。余計な思考は存在しないのだろう。人の形をした、無慈悲な殺戮機械がそこにいた。

    ●合殺
     万全ではないとはいえ、相手は序列五五五番の六六六人衆。支援に来てくれた灼滅者を入れて、こちらの頭数は十人以上。それでも圧倒的優位とはいえない。気を緩めればすぐに戦況は傾くだろう。
    「掃除しなきゃ。綺麗にしなきゃ。……掃除掃除綺麗掃除殺す汚れ綺麗掃除」
     白樺・純人(ダートバニッシャー・d23496)は人造灼滅者だ。手足に絡まった寄生体が鋭い爪を形成し、異形の姿を取る。ミツギから漂う『業』の香が古い記憶を呼び覚まし、怒りとも憎しみとも分からない感情が心の中を支配する。ただ分かるのは目の前の『業』を掃除しなければならないということだけ。腕が変化した砲身から白い熱線を放つ。
     今度も命中。衝撃で吹き飛ばされたミツギに、さらに月姫・舞(炊事場の主・d20689)が迫る。
    「貴女は何故、このハンデ付き闇堕ちゲームに参加したのかしら? 自分の意思? それとも斬新に強要されたのかしら?」
     薄笑みを浮かべ、問う。手にした箱からにじみ出た影が足元のそれと混じり、無尽の刃と化す。上下から襲い掛かるそれを、ミツギは転がって回避する。それでも右の長いツインテールの先端がざっくりと切り取られた。
    「……ハンデ?」
     珍しく眉根を寄せ、理解できないという表情。斬新京一郎がどうやって六六六人衆達をこのゲームに参加させたのかは不明だが、弱体化については報せていないと考えるのが普通だろう。といっても、この弱体化現象が斬新京一郎によるものかはまだ確証は得られていないが。
    「……斬新だかなんだか知りませんけど。……アンタ、おイタし過ぎましたね」
     転がった首を一瞥し、黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)が呟いた。殺戮の現場を見ても以前より感情の起伏が小さくなった。慣れてしまった。そのことに驚く。こんなにも血の臭いがするのに、嫌悪もない。人間から遠くなった気がして、でも人間であろうとするからこそ戦う。殺すのは敵と、自らの内の衝動。赤い逆十字がパーカーを切り裂き、白い肌をあらわにする。
    「みなごろ」
     前回は『とりころ』だった。『とりあえず殺す』から『みな殺す』となったのは殺意が増しているのか、あるいは単に飽きただけか。赤い鉈剣がアリスめがけてギロチンのように振り下ろされる。光剣で弾こうとするが、狙ってそれができるはずもなく。代わりに小さな影が飛び込み、剣を受け止める。
    「っつ、やっぱ効くねぇ」
     刃は下手をすれば、骨まで達しているかもしれない。だが、猪狩・介(ミニファイター・dn0096)はにっと笑ってみせた。回復の支援があるから、大事には至らない。
    「みなごろ、させない」
     その頭上から、静かな声。けれどその裏には激しい感情がにじむ。炎にも吹雪にも似た怒りが鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795)の胸中に渦巻く。ここは故郷に近すぎる。見知った人間が、死体の山の中にいることさえ考えられる。早く確かめたい。だからこそ、早く片付けないと。加速する心を魔氷に変えて撃ち込めば、ミツギはそれを喰らって後ずさる。
    「…………」
     無言のまま、空中に浮かべた鞘と剣を重ねる。チン、と三重の金属音が氷と種々のの色吹きとばした。けれど、この技に傷を癒やす力はない。腹に開いた傷から流れ出る赤い血が、黄と青の面積を侵食していた。

    ●灼殺
     戦況は灼滅者に有利。手厚い回復の支援もあって、確実に六六六人衆を追い詰めていた。けれど、それでも容易く破れるミツギではない。黄色い剣が振り下ろされるたび、少なくない傷が癒される。
    「下っ端も辛いな。上からの命令に逆らえずに目くらましに使われるなんて」
     斬撃を放ちながら、小馬鹿にしたように言う海月。もともと感情の薄いミツギが挑発にのることはなかったが、その言わんとしていることは理解した。
    「なるほど。つまり、ボクはあのダサングラスにはめられたってことかい?」
     どこまでも無表情のまま、問うた。やはり確証はない。けれど、灼滅者達からはそうとしか考えられないのも事実だった。
    「そう。だから……ここで私に殺されなさい」
     微笑をたたえ、影とともに答える舞。けれど彼女に問答は意味はあるまい。殺し合いを愉しめれば、それでよいのだから。三日月のように口を開け、真っ黒い影が三色の少女を飲み込んだ。
    「綺麗綺麗、掃除しなきゃ……っ」
     寝言みたいに呟いて、純人は片腕を持ち上げた。寄生体から撃ち出された、白い強酸の液体がミツギの肌を焼く。綺麗にするには、跡形もなく掃除しなきゃ。寝言みたいにまた呟く。
    「みなごろ」
     何度目か分からない、青いレイピアの突き。モラルが身を挺して受け止め、その隙に鏡花が背後を取った。鏡のごとく磨かれた刀身に移るのは、自身の残影。死神の足音。
    「年貢の納め時だね」
     振るう刃は太ももを抉り、動きを奪う。それも一瞬。けれど、その一瞬は大きかった。
    「ここでゲームオーバーだ」
     六六六人衆のくだらないゲーム。奪われたものは還らないと知りつつも、次が起きないように終止符を打つ。それが灼滅者としての、そしてこの地で生まれた小太郎の使命だった。拳から伝う影がミツギの脳裏にトラウマを再生させる。
    「……ふふっ」
     淡く、無邪気に笑む少女。その眼はどこも見ていない。与えたトラウマを知る術はないから、何を見たのかは分からなかった。
    「悪夢を見たまま、眠りなさい」
     アリスの手の中に魔力の矢が生まれる。その色は凄絶な白。闇と真反対の、何色の穢れも許さぬ純粋な白だった。ひとたび放てば、雑色の死神を穿ち、内側から破壊する。
    「グッシャグシャにしてやんよ……ぶっころ」
     最初は軽い、幽霊みたいな踏み込み。けれど蓮司は次第に加速して、さらに拳も加速。幽鬼じみた光を帯びた連打が刻まれ、断末魔ごとミツギを叩き潰す。
    「……終わりだ」
     戦闘も後の一手のみ。癒し手としての役目をえ終えた供助は愛用の杖を握り、静かに構えを取った。そして杖は主の意に応え、いつも通りに秘められた魔術を放つ。
     ごぉ、と雷鳴。
     それが、六六六人衆・ミツギが最後に聞いた音になった。

    ●消殺
     力尽きたミツギの体は、床に落ちる前に霞のように消えた。瞬間、灼滅者達は周囲に視線を走らせる。同様の事件で、犠牲者の遺体が消失するという報告があったからだ。中でも供助は消えないように抱き寄せた。
    「……うそだろ」
     けれど、次の瞬間にはその遺体も消えていた。血の跡だけ残して、消えていた。無数に転がっていた首も、残ってはいない。
     血が付くのも構わず、小太郎はがくりと膝を落とした。
    「知ってる人は、いなかったけど……」
     気付いた限りでは、見知った顔はなかった。だが、それは幸いだったと思うところだろうか。だって、死んだ誰かも誰かの大切な人だったろうから。救えなくて、ごめんなさい。そんな言葉が出そうになった。倒れそうになる肩を、支援に駆け付けた希沙が支え、その手を握る。
    「何か気付いたかしら?」
     何かの痕跡……そんなものがあるかも分からないが……を探しながらアリスが問うた。
    「いや、おかしな『業』はいなかったよ」
     戦闘中もDSKノーズを使用していた純人だったが、異常な存在はなかったという。六六六人衆以外に誰もいなかったか、あるいはいたとしても業がなかったか。今はこれくらいしか分からない。
    「今日はこれでお開きね」
     一通り探してみたが、やはり手がかりらしいものは見つからなかった。舞は代わりに三色の破片をかばんに収めた。
    「あ、来てくれてありがとうね」
     介は支援に来てくれた磯良、人、御調に礼を言う。特に御調は前回、ミツギに闇堕ちに追い込まれていた。
    「ラグナロク計画ね。弱体化させてわざと灼滅させ、そのサイキックエナジーでも回収しているのかな? その回収した力で人工ラグナロクでも創るとか」
     と鏡花。斬新コーポレーションで発見した書類に書かれていた『ラグナロク計画』。何かしらの関連を疑うのも自然だろう。
    「まだ肯定も否定もできないな」
     首をひねれば、海月の短い髪も合わせて揺れる。瞳にはいずれ明らかにしてやるという強い意志の光があった。
    「さて、戻りましょーか。……たぶん、これで終わりじゃないっすから」
     蓮司の眠たげな眼からは、あまり感情は感じられない。言葉通りすぐ帰りたいようにも見えた。けれど、踵を返せば影を負った背中が、そうではないと語っていた。
     続いて、灼滅者達も現場を後にする。次の戦いに備え、新たな悲劇を止めるために。

    作者:灰紫黄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 17/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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