●札幌市、南北線北18条駅
深夜、一時半。
駅構内はひと気もなく、非常灯のみが頼りの光景。
北18条駅から北24条駅の線路では異変が起こりつつあった。
緩やかに地下鉄のトンネルや線路がぼやけていく。
地下鉄の風景を闇へと溶かすが如く、路に沿ってぽつりぽつりと虚空に光が現れはじめた。その光を包みこむように天井から吊られる西洋風の外灯。
トンネルの壁は、粗い石造りのそれと岩肌と数十メートルごとに切り替わっている。
線路があったはずの地面も、今は石畳となっていた。
そこを犬が駆け抜けた――……犬、だろうか? 肉が削げ落ち、汚れた骨が見えている。
「ハッ、ハッ」
吐き出す息が、吸い込む空気が、削げ落ちた体を通過し呼吸という意味すらなくしている。
その時、乾いた骨の音が路に響き渡った。
人型のスケルトン同士がぶつかった音だった。だが互いに反応を示すこともなく、すれ違う二体。
スケルトン達は西洋風の武具を装備し、徘徊している。
深夜、地下に出現した迷宮は動物のアンデッド達、人型スケルトンのアンデッド達であふれ返っていた――。
●
「それじゃ、説明をはじめるわね」
水晶を手に、やや緊張した面持ちの遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)は教室に集まった灼滅者達に声をかけた。
「錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)さんの発見のおかげで、深夜の札幌の地下鉄がダンジョン化していることが分かったわ。
ダンジョン化しているのは、駅と駅の間の線路の一部だけで、駅や地上への被害はまだ出ていないわ。さらにダンジョンが出現している時間は、終電が終わった後、始発が出るまでの数時間ほどなの」
今のところ被害などは出ていない。
「ノーライフキングのダンジョンの一部と地下鉄が繋がりかけている……という可能性があるわね」
水晶をかざし、鳴歌が言う。
「地下鉄全てがノーライフキングのダンジョンと融合してしまうかもしれない。そんな危険な状態を放置しておくわけにもいかないわよね。
だから、みなさんにダンジョン探索を行なって欲しいの」
全てのアンデッドを倒せば、始発が出る前――時間内でもダンジョンは消失するようだ。
繋がりは消え、元の地下鉄が戻ってくる。
「みなさんに向かってもらうのは、札幌市の南北線、北18条駅と北24条駅の間にある線路よ」
鳴歌が路線図を指差す。北18条駅寄りだ。駅からしばらく進めばダンジョン内へと入る。
「ダンジョンの中にいる敵は、動物や武具を装備したアンデッドばかりよ。あまり強くはないけれど、数が多いから注意してね」
このダンジョンは路ばかりなのだが、幅は様々で分岐点もある。粗い石造りの路と、岩肌があらわになった路があるようで規則性は無い。
外灯は蛍光灯のような明るさで、たまに、仄暗く赤いものが幾つかあるようだ。
「みなさん――灼滅者に有効な罠というのはあまり無いと思うの。でも突然アンデッドが襲いかかってくる仕掛けはあるかもしれない。
慎重に探索して欲しいの。
そして、路を覆うくらいに大きいのが一体、ダンジョン内のどこかにいるわ」
そのスケルトンは動きが鈍く体の向きを変えるだけで時間がかかる。一撃は重いが、命中率は低い。
あまり強くないアンデッドが四十九体、プラス一体でこの大きなスケルトンだと鳴歌が言う。
説明を終えたのか、彼女は水晶を机に置いて灼滅者達に向かい合った。
「この現象が自然現象なのか、ノーライフキングの実験のようなものなのかは判らないけれど、このままダンジョンと地下鉄の融合化を見過ごすわけにはいかないわ」
どうか、みなさん気をつけてください。
そう言って、鳴歌は灼滅者達を見送るのだった。
参加者 | |
---|---|
ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663) |
風間・薫(似て非なる愚沌・d01068) |
色射・緋頼(先を護るもの・d01617) |
銀・紫桜里(桜華剣征・d07253) |
ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478) |
三和・悠仁(夢縊り・d17133) |
桜井・オメガ(オメガ様・d28019) |
凍月・緋祢(コールドスカーレット・d28456) |
●
深夜。ダンジョンが現れる時間帯を待ち、地下鉄の線路に降り立った灼滅者たちは北18条駅から北24条駅へと向かって歩いていた。
「実は迷宮は初めてなんねん、どないなってんやろ」
風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)の言葉に、迷宮ですか、と応じたのは三和・悠仁(夢縊り・d17133)だ。
「迷いますね……行く度に、何度も何度も迷いましたね……」
悠仁の憂鬱そうな声。嫌なことでも思い出しているのだろうか。
「み、三和はん? 一体どこの迷宮で」
「梅田駅です」
かつて梅田の地下にも迷宮はあったようだがそれはそれ。普通に、駅もまた迷宮。
「それにしてもダンジョン化とは。裏はあるようですが、想像つかないのです」
ヘッドライトの調整をしながら言う色射・緋頼(先を護るもの・d01617)に、凍月・緋祢(コールドスカーレット・d28456)が頷く。
「今のところ被害は出ていないようですが……時間の問題でしょう」
一歩を踏み出したその瞬間、ハッと息を呑んだ。
約一分ほどをかけて徐々に様変わりしていく地下鉄内。
線路はなくなりあるのは坑道ともとれる路。外灯は心許ない明るさで、ディフェンダーの持つ明かりが一際目立つ。
「偶然か実験か……どちらにしろ、この状況をどうにかしませんと」
緋祢が周囲を見回し言った。
俺の上腕二頭筋に乗るジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)は後方、殿に。
「そうだな、先ずはアンデッドを片付けよう。このダンジョンと地下鉄の繋がりを解消せねば」
言うジャックもまた地下鉄ダンジョン化に作為を感じつつも、理由や原因までは思い当たらない。
先頭に立つのはチョークで最初の印をつけた薫と、マッピング用のメモを持った緋頼だ。
「それでは灼滅者の役目を果たすと致しましょう」
壁に書かれた番号をマッピング開始の部分に書きこみ、緋頼は言った。
「むーん……殺界形成の殺気は効果なさそうだなぁ」
曲がり角の向こうを覗くナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)と先頭二人。にょきにょきっと頭が出ている状態で、スケルトンはこちらを向くも視野が通らないのか気付かない様子。
先が気になった桜井・オメガ(オメガ様・d28019)も一番下の方で身を乗り出した。
「で、どうする? 試すなら今だぞ!」
「お、よろしいか?」
そう言ってナハトムジークが懐から取り出したのは、爆竹であった。ちらっと見えた懐、なんかいっぱいあった。
「うむ、よろしいのだぞ!」
オメガが元気に頷く。
果たして聴覚はどうなのか――パン! パパン! と軽く鋭く弾ける音が連続し――先にいたスケルトン四体が、灼滅者達へと方向転換した。
上手く使えば、良タイミングによる集敵が期待できそうである。
かつ、戦闘音で敵影の過剰な集合を避けるべく、連携で互いの行動を読む銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)がサウンドシャッターを展開させた。
ダンジョン内での戦いが本格的に始まる、この瞬間。
「……いきます」
自身を奮い立たせるように呟いた紫桜里の殺気が、迫る敵群へと放たれた。
●
首めがけて跳躍した犬型アンデッド二体が、ジャックの縛霊手に捌かれながらも喰らいつくその瞬間。
「……ギャン!」
内蔵した祭壇が展開され、構築した結界がアンデッドを襲う。悲鳴をあげ地に落ちた犬型アンデッドは飛び跳ねて後退した。
俺の上腕二頭筋が機銃掃射で二体を追撃する。
「敵が近くにいる十字路は厄介です――いかせません」
迎え撃った紫桜里の冷気のつららが突出してきた一体を穿ち、仕留めた。
後方に犬のアンデッド残り一体、前方にスケルトン三体。
スケルトン達は同時に毒風を放ち、自身が攻撃を受けると同時に庇いにも入った薫が毒の濃度に気付く。ジャマーだ。
小春が唸り、浄霊眼を発動させた。
「悪いけんど、うちに膝を折る暇なんてないんよ」
「私達が支えます、どうぞ、存分に力を振るわれて下さい」
素早く回復行動へ移った薫と緋祢の奏でる音が、前衛を浄化させていく。
ナハトムジークが蹴りが敵の首を捉え、そのまま三体とも薙ぎ払った。蹴りの勢いに生じた鋭い風が漂う毒を霧散する。
「それじゃ、お言葉に甘えてもう一撃!」
ナハトムジークの再行動に体勢を崩された一体を、緋頼の銀糸が囲うように螺旋を描いた。一気に糸を集束させてスケルトンを斬り裂けば、斬線通りにバラバラとなった骨が乾いた音を立てて落ちる。
その時、後方で炎が孤を描き、アンデッドが壁に叩きつけられた。
「犬のアンデッドはぜんぶ倒したぞ!」
炎の残滓を纏うオメガが前方に向かって声をあげ、場に残る敵はスケルトン二体。
悠仁から呪詛を纏う蒼怨が四方八方へと放出され、二体を捕縛する。
「……砕けろ」
覆うように締め上げれば限界を迎えていた敵の骨はあっけなく砕け、頭蓋骨が転がり落ちたのち消滅した。
十数体倒せば、大体敵の強さが把握することができる。
厄介なのはスケルトンの塵も積もればな毒攻撃だろうか。減衰は多いほど良い。
「次からは、私も前に出ます」
こちらの攻撃が当たり易ければ、とクラッシャーになることも視野に入れていた悠仁が言った。
探索が続く。
「小春、気配を感じたら吼えろ」
警戒する薫が小春に言う。
赤い灯りのある路は確実に罠があることが分かった。
それは大ネズミのアンデッドが待ち構える落とし穴だったり、隠し通路からいきなり出てくるスケルトンだったり、岩肌の隙間からいきなり出てくるカラスのアンデッドだったり。
そんななか――三十三体の敵を倒したあと――行き止まりに魔法陣っぽいラクガキと落ちているノートとペンを見つけた灼滅者達。
「セーブ・ポ……さすがにこれは、罠のような気がしますが」
「休憩所かな!」
あからさまな光景に怪しむ悠仁と、ぱあっと明るい声のオメガ。ぺらぺらとノートを捲ってみる。
「何も書いてないぞ!」
「念のため警戒しつつ、休憩しましょう」
歩いてきた路の先を見ながら紫桜里が言う。
集敵効果もあり時間に余裕はあるが、やがて体力も時間も惜しくなるかもしれない。敵が寄ってくる様子もない行き止まりの路で休息、そして緋祢とオメガが薫とジャックに心霊手術を行なうこととなった。
俺の上腕二頭筋、大ネズミアンデッドにかじられた小春も傷を癒すため主の傍で休む。
その間、地図チェックをしていた緋頼。ふと、あることに気付いた。
「ナハトムジークさん」
「へいへい何かな、あ、ちくわが欲しい?」
「いえ、そうではなくて、赤い灯りのある路に爆竹を投げた時、潜む敵は勿論彷徨っている敵もあの路からは出現していない気がするのですが」
マッピングを見ながら記憶を辿る二人。
「確かに。あのテの路を通ってきた敵はいなかったぁ」
ナハトムジークが頷いて言った。赤い灯り付近まで進むと潜む敵が出てきた、そんな記憶ばかりだ。
「敵が通らない、罠のある路ですか。灯りに反応しているのでしょうか」
緋頼が呟く。
「誘き出しのきかない敵ならば、敢えて罠に向かっていくしかないな」
ジャックはそう言った。潜んだ敵が出てこないのならば引きずり出すしかない。
そんなことを話していると十分は瞬く間に過ぎてしまった。
「未だ大きいスケルトンと遭遇はしていませんし、気をつけて参りましょう」
心霊手術を終え、静かに立ち上がる緋祢の言葉に頷く灼滅者達なのであった。
●
ヂュ、ヂュ……。
濁ったようなネズミの声が聞こえてくる。
はっ、と先頭の薫と緋頼が立ち止まった。
広い幅の路が続く、その先は曲がり角でどことなく大振りな乾いた音も聞こえてくる。
「皆はん、来るで!」
薫の言葉と同時、壁と床に手をついて前屈みに進む大きなスケルトンが現れた。今まで会ったスケルトンとは違って武装はしていないものの、その骨格にはアンデッドの大ネズミが三体乗っていた。
ナハトムジークが爆竹を投げて、大ネズミの気をひく。
三体が向かってくることを確認したのち灼滅者達は後退した。
「貴方様の相手は……また後程、です」
緋祢が告げる――大きなスケルトンの動きは遅く、彼我の距離が容易く生まれた。
「紫桜里嬢!」
「はい!」
戻る路をやや先行していたナハトムジーク、そして紫桜里がウロボロスブレイドを振るい、天井の赤い灯りを壊す。赤い灯りがなければ敵が通りはじめることは実験済みだった。
灼滅者達を追い、路に入ってきた大ネズミ達は落とし穴に飛び込んだ。
「かかったぞ!」
オメガと緋頼のフリージングデスが大ネズミ達を襲う。
「ヂュ!?」
急激に熱量を奪われ、穴の底で慌てるようなアンデッド達。逃げ場がない。
「飛んで火にいるなんとやら……って感じだな」
言葉通り、蒼い炎を纏う帯を射出する悠仁。
敵に反撃の隙を与えずに一気に叩く。
残った一体が脱出しようと跳躍した瞬間、畏れを纏ったジャックが脳天を狙い叩き落とした。
緋頼の白縫銀手から放たれた霊力が糸のように大きなスケルトンの首から腕を縛り上げた。霊糸を引けば骨と骨が擦れ、ギシリと軋んだ音をたてる。
スケルトンは、炎を纏った蹴りを放って即座に離脱するナハトムジークに反応し向きを変えようとするも、緋頼とそして緋祢の編んだ霊力に邪魔をされていた。
「つーか、でかすぎだよな……」
丸い影を伴い、大きさ故に敵の多すぎる死角へと移動し続ける悠仁。厭世禍暗月空亡を放ち喰わせるも敵の反応はない。攻撃の手応えはあれど、それを見せない鈍いスケルトンに舌打つ。
左に右にと動き回る灼滅者達を一々追おうとする敵は、愚鈍だ。多すぎる隙を上手く突く灼滅者達。
「……っ、緋頼様!」
スケルトンの腕の動きに、緋祢が声をあげた。
「ここまでですね」
呟いた緋頼、そして緋祢が霊力を解き飛び退いた。大きく空振る腕骨から逃れる二人。
先の軌道にいるのはジャックだ。撃ち放たれた攻撃を受け止めるもしがみついた身体は勢いある大きな拳に場からおしだされる。
「ジャックはん!」
回復手に移っていた薫が引き離されるジャックへと霊力を撃ち、癒した。
「ありがたい」
ジャックは縛霊手で力任せに叩き返し軌道を逸らす。反撃とばかりに半獣化したもう片腕で敵を切り裂けば、鋭い銀爪の痕が骨に刻まれた。
「大きな分、耐久力もあるようだ」
ジャックが言う。一手一手と敵の体力を削ぎ落としていくしかない。
「犬のアンデッドが一体、向かってくるぞ!」
警戒含め分岐点まで後退したオメガが仲間に伝える。反応できたのは近くにいた紫桜里だ。
「私も行きます――お任せください」
乱入される前に倒せそうだと判断した。
俺の上腕二頭筋が機銃掃射で二体を相手に戦場を駆ける。
「いくぞ!」
飛掛かり襲ってくるアンデッドを、オメガは非物質化した剣で薙ぎ払った。敵の霊的防護が打ち砕かれ、そこに紫桜里が鋭く槍での一閃。緋色のオーラが軌跡を作り散っていく。
ぼたりと肉片が落とし、アンデッドは朽ちていった。
●
動物型アンデッドの乱入が二回続くも、警戒している灼滅者達は即座に気付いて対応できていた。
「ウ、……ウゥ……」
その時、初めて大きなスケルトンが唸り声をあげはじめた。次の瞬間、耳をつんざくような咆哮――衝撃波に前衛が薙がれるも半数は回避する。
「皆様、もう一息です!」
緋祢が音を奏でた。立ち上がる力をもたらす響きが、場に浸透していく。小春も一緒に浄霊眼で灼滅者を癒した。
「さっさと倒れろ」
下段から斬り上げるように、悠仁が瞬刃閃舞を振るえばその遠心に従い宙で円が描かれる。
ひゅ、と純銀の輝きが大きな螺旋を作り、斬り裂く刃とは対角から緋頼の銀糸が敵を縛り上げていった。
畏れを纏うジャックの攻撃、オメガの破邪の聖剣が一閃する。
槍を振るった紫桜里が妖気を冷気のつららへと変換させ、次々と撃ちだした。
骨は穿たれ、削がれていく。腕一本、支えを失ったスケルトンはぐらつき、倒れかけたところを薫の蹴りが延焼を促す。
「もうお眠り」
敵の真下に入った薫、そしてナハトムジークの炎を纏った蹴りが間接を叩き折る。
「気をつけてください。今にも骨が……」
紫桜里の言葉が終わらないうちにスケルトンの身体にはヒビが入り、砕け落ちていった。
「そんな気がしていたよ!」
転がるように離脱するナハトムジークと飛び退く薫。
ガラガラと大きな音をたてて骨が崩れ、山を作っていった。
●
「えーっと、あと何体……三体か?」
「三体や」
ナハトムジークの言葉に頷く薫。
思うのですが、と地図を見ていた緋頼が呟くように言った。
「分岐点の確認していない路は、どれも赤い灯りのある路です。つまり」
「それが三つなら、三体は確実に回収できるということだな」
後を引き継いで言ったジャックに頷く緋頼。
十数分後。
三体ともそれぞれ罠のある路に潜んでいたため、簡単に見つけることができた。
最後の一体を倒した時、ダンジョン内の空気が変化し始める。
重々しく安堵の息を吐く悠仁。天井の西洋風の外灯が溶けるように消え、無機質などこか懐かしささえ感じてしまう地下鉄の光景が目の前にぼんやりとあらわれた。
やはり紫桜里も安堵の息を吐いた。
「これにてお終い。一安心、ですね」
緋祢の声とともに白くなった息が舞う。空気の冷たさが灼滅者達の身を包み、外にいるのだと知らせてくれた。
「ノーライフキングの企みはまだ終わらんやろうけど、これで少しは」
一角として阻害することはできただろう。
先の暗闇へと続く線路を眺めて薫が言った。
「寒いな! いまは何時だろうか?」
ぶるっと身を震わせたオメガがスキップするみたいに足を動かして、暖をとろうとする。
時計をみれば、始発までまだ時間があるようだ。
集敵ときちんとしたマッピング、そして場を観察するように気を使った探索。敵数と広さを考えればかなり早く終わった方だろう。
体感として十時間くらいダンジョン内にいた、そんな錯覚さえ起きてはいるが。
出来上がった地図をどこか感慨深げに眺める灼滅者達。
オメガがぴょんぴょんと跳びはね始めた。
「……帰りましょうか」
確かに寒い。悠仁が呟く。夜も遅いし……いやもはやこれは徹夜だ。
緋祢が微笑み、言った。
「家に帰るまでが探険です。気を抜きすぎずに帰ることに致しましょう」
ここから家まで……。距離または寒くて気が遠くなるのか、眠さで気が遠くなるのか判別つかず、である。
こうして、灼滅者達は札幌市の地下鉄をあとにし、学園への帰路に着くのだった。
作者:ねこあじ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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