レイルウェイ・ダンジョン

    作者:邦見健吾

     深夜。終電の通過した線路は、始発の到来までしばしの休息を迎える。
     ……はずだった。
     地下トンネルや線路の輪郭がだんだんとぼやけていき、次第に違うものへと姿を変える。
    「ワン、ワンワンッ」
     そして現れたのは動物の死骸や人の白骨。腐った犬猫の死体や剣や鎧で武装した白骨が徘徊するそこは、まさしく死の迷宮。
    「大変なことになってるんだよ……」
     その様を目撃した錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)は、息を殺し、アンデッドたちに見つからないよう急ぎ地上へ出た。

    「学校がダンジョン化したから、地下鉄もダンジョンになるかもと思って調べたら、本当にしてたんだよ」
     教室に集まった灼滅者たちに、琴弓が自身の見た情報を説明する。徘徊するアンデッドや、ファンタジー世界のように変化した地下鉄。どう考えても放置できる事態ではないだろう。
    「錠之内さんからの情報を加味して予知してみたところ、どうやら札幌の地下鉄の線路が一時的にダンジョン化する現象が起きているようです」
     そこで冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)に引き継ぎ、説明が続く。
    「アンデッドを全て撃破すれば、ダンジョン化は終了します。ダンジョン化するのは終電が過ぎた後から始発が出るまでの数時間。その間にダンジョン内のアンデッドを殲滅してください」
     一時的なダンジョン化のため被害はまだ出ていないが、放っておけば今後どうなるか予想がつかない。早急に打てる手を打つべきだろう。
    「今回は地下鉄の新道東駅から地下に侵入してください。皆さんなら難しくないと思います」
     ダンジョンになっているのは、栄町駅までの線路内。ダンジョンにはアンデッドが徘徊しており、あまり強くはないものの数が多く、数十はいると予想される。また罠が仕掛けられている可能性もあり、突然の奇襲などには注意して慎重に探索してほしい。
    「敵は強力ではないといえ、数が多いので長期戦になると考えておいてください。多いのは動物のアンデッドですが、剣や槍、盾などの武器を持ったアンデッドもいるので気を付けてください」
     また、アンデッドはダンジョン外まで敵を追ってくることはない。危険と感じたら退くのも1つの選択肢だ。
    「この現象が自然現象なのか、ノーライフキングなど誰かの意図によるものかは判りません。ですが、まだ被害は出ていないものの大きな規模の事件です。ここで見過ごせばより恐ろしい事件に繋がるかもしれません。それでは、よろしくお願いします」
     そして蕗子は茶を一口飲み、灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)
    錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)
    夕凪・千歳(あの日の燠火・d02512)
    竹間・伽久夜(月満ちるを待つ・d20005)
    足利・命刻(ツギハギグラトニー・d24101)
    正陽・清和(小学生・d28201)

    ■リプレイ

    ●迷宮へ
     灼滅者たちは地下鉄の新道東駅から侵入し、地下へと降り立つ。猫に変身していた久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)は変身を解除し、夕凪・千歳(あの日の燠火・d02512)は蛇から人間の姿に戻る。
    「こんな時間に地下鉄におった事あらへんから、なんかワクワクするなー!」
     と高いテンションで言ったのは足利・命刻(ツギハギグラトニー・d24101)だ。
    「あ、流石にあかん? にゃはは」
     炎の翼を生やした獅子の姿をとり、笑う命刻。ダークネスの肉体を持つ人造灼滅者ならではだが、一度潜入に成功すれば形態は人間形態でもダークネス形態でも問題ないだろう。
    (「嫌な予感って当たるなぁ。北海道……斬新とか関係ないと良いんだけど。それにしても……」)
     予想を的中させダンジョン化を発見した錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)は、地下鉄内をキョロキョロと落ち着かなさそうに見回す。
    (「今回は虫、いないよね?」)
     以前学校が都市伝説によってダンジョン化した際は虫型のモンスターに酷い目に遭わされた。虫のアンデッドがいなさそうだが、本物の虫はいるかもしれない。
    (「地下鉄ですか……確かに大規模な事件ですね。今回の探索で製作者の何らかの意図が読み取れれば良いのですが……」)
     竹間・伽久夜(月満ちるを待つ・d20005)はヘッドライトを装着し、スイッチを触りながら機能を点検する。ただ敵を撃破するだけでなく、何か見つけたいところではあるが。
    「肝試しには少々時期が早いですが、やるからにはしっかりやりましょう」
     椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)はケミカルライトを肩に結び付け、明かりにを灯す。
    (「ダンジョン……。ゲームみたいで少しだけ、惹かれますけど……や、やっぱり怖い、です……」)
    「大丈夫だよ。僕が守るから」
    「あ、ありがとう、ございます……」
     不安げに俯く正陽・清和(小学生・d28201)に、千歳が穏やかな笑顔で話しかけた。すると清和は千歳の背中に隠れ、礼を返す。
    「最近不穏な動きが多い北海道、何に利用しされるか分からない現状、確実に迷宮を潰さないとだね!」
     そう言って、元気に手を振り上げる守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)。迷宮とアンデッドといえばノーライフキングが関わっていることは間違いないだろう。とはいえ、それ以外の何者かの存在も考えうる。
    「さて、長期戦ですから気長に行きましょう……殺戮・兵装」
     撫子はカードから殲術道具を解放し、羽衣のようにダイダロスベルトを身に纏う。それぞれ殲術道具を装着し、ダンジョンの探索が始まった。

    ●探索
    「ここがこうなって、と」
     千歳は通ってきた道を確認し、ペンで紙に地図を描く。灼滅者たちはアンデッドとの戦闘をこなしながら、迷宮内の地図を作製しながら進んでいた。地下鉄は洞窟と化しており、今はその影もない。
    「ワンワン、ワンッ!」
     角を曲がったところで、中型犬のアンデッドが一斉に吠え出した。数は1、2、3……全部で6体。犬は腐臭を漂わせながら、洞窟を駆け回って襲い掛かる。
    「足利流威療術、臨床開始!」
     しかし灼滅者たちは怯まない。人間形態に戻った命刻はアンデッドの群れの中に飛び込み、鋭い手刀の一突きでアンデッドを抉った。
    「いきなり普段の駅からここまでファンタジーになっちゃうなんて思いもしなかったよ。みんなで無事にクリアしたいね」
     千歳は霊縛手から祭壇を展開、結界を構築してアンデッドたちの動きを止める。撫子は身長より長い十字槍を構え、素早く踏み込んでアンデッドを貫いた。
    (「知ってる人多めでちょっと安心なんだよ」)
     クラスメイトやクラブなど今回は琴弓の知人が多く参加しており、暗いダンジョンの中では知った顔が見えるのは心強い。琴弓は鉤爪となった影を走らせ、アンデッドの足を絡め取った。
    「きゃ……!」
     清和が短く悲鳴を上げると、その視線の先から剣で武装した白骨死体のアンデッドが通路の脇から現れる。白骨はボロボロに錆びた剣を振りかぶると、清和に向けて投げ飛ばした。
    「あなたの相手は私です」
     しかしその剣はなつみが代わりに受け止めた。なつみは腕に刺さった剣を引き抜くと、流れる血を気に留めることなく青色の交通標識を振りかざし、運動ベクトルを支配する光線で敵軍を撃ち抜く。
    「迷宮調査にアンデッドは付き物だよね。犠牲になった人たちの為! わたし達が冥府への案内、承るよ!」
     結衣奈はダイダロスベルトを翼のように広げ、纏めて敵を縛り付ける。伽久夜の手に持つ蝋燭の火が青色に変わると、一つ目など小さな妖怪の幻影が群れをなしてアンデッドを襲う。次々と犬のアンデッドが倒れていく中、最後に清和が蝋燭から火の玉を放って白骨を攻撃し、白骨は炎に包まれて燃え尽きた。
     戦闘に勝利した灼滅者たちは一旦小休止をとる。
    (「こんなたくさんの敵……それもアンデッド……うぅ」)
     早く終わらせて帰りたいとこぼしつつ、肩を落とす清和。度重なる戦闘による疲弊は、体よりも精神的なものの方が大きいかもしれない。
    「ゾンビ退治は後が大変ですよね。早く済ませてお風呂に入りたい…」
     伽久夜は小さく溜め息をつき、肌に付着したアンデッドの冷たい体液をふき取る。死体から流れる体液は、生き物の血とは違う匂いがした。
    「こんな時にこそ、しっかり栄養補給しましょう」
     撫子と伽久夜が持参したおにぎりやクッキーなどを配り、灼滅者たちは一息つく。腹が満たされれば少しは気も落ち着くというものだ。
    (「地下道などに屍王関係が徘徊することは前にもあった気がしますね……」)
     撫子はまだ暗い迷宮の先を見つめ、過去の事件を振り返るのだった。

    ●屍の群れ
     一旦反対側に到達した灼滅者たちは中ほどまで引き返し、自分たちで作った地図を頼りにまだアンデッドの残っている領域を探す。
    「なんかお宝とか落ちてへんかなー」
     のん気な口調ながらも、命刻は罠を警戒して一歩先の地面を長い棒で叩いた。すると――。
     ガコン。
     何かの装置が作動する音がすると同時に天上に穴が開き、そこから槍を持った白骨のアンデッドが落ちてきた。
    「案の定やね」
     罠があるのは予想通り。命刻は炎を生み出して殺人注射器を火炎の槍に変え、白骨に叩きつける。千歳が流星のごとき飛び蹴りを見舞うと、ウイングキャットの棗は尻尾のリングを光らせて魔法を発動させてアンデッドの動きを奪った。
    「これで、終わり!」
     さらに結衣奈がロッドをかざして旋風を生み、灼滅者たちの一斉攻撃で白骨のアンデッドはあえなく倒れた。命刻が罠を見つけたおかげでアンデッドの奇襲を防げたようだ。
    「時間にも限りがありますので、先に進みましょう」
     余裕がないわけではないが、それでもタイムリミットはある。それぞれの負傷を見て休憩の必要がないことを確認し、なつみを先頭にしてさらに深部へと進んでいく。道中アンデッドとの戦闘を繰り返し、その都度連携して撃破するが、最初は犬や猫のゾンビばかりだったのが途中から武装した白骨死体も混じり、敵の質も数も上がってきている。
    「あれは扉……でしょうか?」
     曲がりくねった道を進み、やがて大きな扉のある部屋に出た。複数のアンデッドたちが扉を守るように灼滅者たちの前に立ちふさがる。撫子は火のように揺らめく舞いで跳びかかるアンデッドを躱し、ダイダロスベルトに火を灯して斬りつけた。
    「倒せば開きそうですね」
     伽久夜はマテリアルロッドを高く掲げ、渦巻く風を生み出してアンデッドを切り刻む。
    「大丈夫なんだよ?」
    「ありがとう」
     琴弓は天上の歌声を響かせ、仲間を庇って傷ついた千歳の傷を癒す。清和が解体ナイフを振るうと怨嗟が毒の風となって敵を呑み込み、なつみは龍砕斧を翼のように広げ、アニメの見よう見まねで高速移動とともに一気に薙ぎ払った。
     灼滅者たちの連続攻撃でアンデッドを一掃すると、岩の扉が音を立てて開いていく。
    「ワン、ワンワンッ!」
    「た、たくさんいる……」
     鳴き声を上げる無数の獣のアンデッドと、槍や盾、鎧で武装した白骨たちを目の当たりにして清和が思わず声を漏らした。おそらくここがダンジョンの最深部。最後の戦いが今始まる。

    ●迷宮消滅
    「負けません……!」
     攻撃を受け続けて傷ついたなつみだが、手刀に鮮血のごとき赤いオーラを宿し、槍で武装したアンデッド目掛けて振り下ろす。鋭い一閃が敵を切り裂き、その魔力を奪った。
    「ここが正念場だね」
     数で圧倒される灼滅者たちだったが、集中攻撃で確実に敵を撃破し、徐々に押し返していく。千歳は縛霊手に炎を纏わせると、牙を剥いて襲いかかる犬のアンデッドを迎撃する。炎が犬を包み込み、そのまま燃え上がって焼き尽くした。
    「回復は任せてなんだよっ」
     琴弓は断罪輪を握り、自身を中心に巨大な法陣を展開。法人から放たれた光が仲間を照らし、体力を回復させるとともに破魔の力を与える。
    「こんなんどーや?」
     命刻は手の中に激しく燃える炎を生み出し、敵群に向かって解き放つ。迸る炎は火の波となり、アンデッドたちを呑み込んだ。清和は恨みの物語を語り、白骨の死体に追撃をかける。
    「どんどん行くよ!」
     結衣奈は足元に杭を打ち込み、衝撃波を発生させてアンデッドの動きを奪う。その隙を突き、伽久夜は魔法で生み出した雷で正確に射抜いた。
    「さあ、土に還りなさい」
     撫子の槍に烈火が走る。火炎は赤々しく燃え盛り、火の粉は花弁のように散る。炎とは裏腹に優しい口調で告げ、その槍で最後のアンデッドを貫いた。

    「やっと、終わった……」
     全てのアンデッドを撃破したことで、ダンジョンと化した線路が元の姿を取り戻していく。コンクリートの壁と鋼鉄のレールをその目で確かめ、清和はほっと息をついた。
    「斬新社長らによる闇堕ちゲームにSKN六六六に今回の迷宮化。一体この地に何があるやら、だよね……」
     それらは繋がっていないはずはないと、結衣奈は考えている。だがそれを明らかにするには、さらなる探索と灼滅者たちの的確な推理が必要かもしれない。
    「お疲れ様でした」
     伽久夜は殲術道具をスレイヤーカードに収め、仲間たちに言葉をかける。怪我を負っている者はいるものの、休めばすぐに治るだろう。
     始発の発車時間が近い。灼滅者たちは簡単に付近を捜索すると、闇に紛れて地下線路を後にした。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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