地下鉄迷宮すすきの

■リプレイ

●地下鉄すすきの
　本州に比べ、まだまだ寒さの残る北海道。それも深夜ともなれば尚更だ。体を突き刺すような寒さの中、灼滅者達は地下鉄の線路を歩く。
「ふぁ……ねむいー……」
　欠伸をした朝山・千巻（懺悔リコリス・d00396）は目を擦る。
「まーた不死王の迷宮作りかっ。本当に地下が好きねぇ、あの人たち……ま、何かあったら大変だし、今の内にぱっと片付けましょっ？」
　そして元気を出すようにうーんと伸びをして眠気を覚ます。
「都市の地下道・地下街は一見さんにはダンジョンに等しいとは聞きますが、本当にスケルトンがでてくるのですか」
　新堂・柚葉（深緑の魔法使い・d33727）は暗いトンネルの先、目の前に広がる空間の揺らぎに足を止めた。
「なんだか怪談話に出てきそうですね。力押しで灼滅だと怪談としては成立しませんが……」
　空間の歪みに一歩踏み込むと、突然景色が変わる。洞窟のような岩肌が並ぶ道となり、奥は果てしなく暗い。
「札幌で事件が続いていますけど……絶対に止めませんと！」
　握り拳を作った狩野・翡翠（翠の一撃・d03021）は気合十分とばかりに踏み込む。
「一応春、の筈なんだけどね……」
　防寒服を着込んだ村瀬・一樹（ユニオの花守・d04275）は、それでも寒そうに首元のマフラーを引っ張り上げる。
「なんでまた急に、ダンジョンが出てきたんだろうね。謎は残る所だけど、仕事は仕事、しっかり頑張ろうか」
　首を傾げながらも、一樹は仲間と顔を見合わせてダンジョンに足を踏み入れた。
「もしこのダンジョンがセイメイの仕業なら、ナミダ姫も関わっているのでしょうか。……あの人、いやダークネスですが、ほんっと何考えてるのか分からない」
　首を振った園城・瑞鳥（フレイムイーター・d11722）は、用意しておいたランプのスイッチを押す。薄っすらとした明かりが灯り、周囲の暗闇を照らす。見渡せば洞窟の中のような道が縦横に伸びているのが見えた。
「こういうダンジョン探検ははじめてなんだよ！　楽しみだよね！」
　楽しみだと元気いっぱいに犬祀・美紗緒（犬神祀る巫女・d18139）が笑うと、姉のように寄り添うビハインドのこまが足場の悪い道で転ばぬようにとそっと気を配る。
「ダンジョン探索……そう聞いてどこか自分の少年心のようなものがワクワクするのを感じる。どうしてだろうか」
　旅行鳩・砂蔵（桜・d01166）はまるで遠足を前にした子供のようだと、口元だけで笑う。
「次の一手が怖いし、指示したノーライフキングの情報も得られたら良いよねえ」
　七篠・零（旅人・d23315）は北海道出身の知り合いの為にも事件を解決しようと、周囲を警戒する。すると離れた場所からカツカツと硬質な音が響く。何かが歩いてくる音が聴こえた。

●迷宮
「今足音が聴こえたよ」
　零の言葉に柚葉がライトで音のする通路を照らす。そこに照らし出されたのは人型の白骨。手には剣と盾を持った骸骨の戦士達だった。
「敵です！　現われました！」
　柚葉が仲間に呼びかける。同時に侵入者を発見した骸骨も剣を振り上げ襲い掛かってくる。作戦通りに砂蔵がこれ以上敵が増えぬよう、周囲に音が漏れぬ結界を張り巡らした。
「まずは１体目！」
　真正面からの攻撃を千巻が剣で受け止めると、逆に押し切って一太刀浴びせる。骸骨は両断され動かなくなった。だがそこへ更に２体の骸骨がやってくる。
「貴方の魂に優しき眠りの旅を……」
　兎のように跳びながら翡翠はカードを解放すると、手にした巨大な剣を横薙ぎに振るう。暴力の塊となった刃は骸骨の両腕をまるで枯れ枝のようにもぎ取った。
「眷属と言えど油断や慢心する理由はない……」
　そこへ砂蔵がオーラの塊を胴体に撃ち込んで１体の体を砕く。
「仕留める！」
　リングコスチュームに変身した瑞鳥がステップで骸骨の側面に回り、頭部に槍を叩き込んで粉々に砕いた。
「まずは３体だね」
　零が倒した数を数取器を押してカウントする。
「よーし！　それじゃあ探検開始だよだよ！」
「おー！」
　美紗緒が元気良く掛け声を上げると、仲間達も釣られたように声を出してダンジョンの奥へと踏み込む。
「罠とかに手間取りたくはないからねぇ……」
　先頭を歩く一樹が10フィートの棒で周囲を探りながら東に進む。幾つか分かれ道はあるがどの道も網目のように繋がっているようだった。
「この先が広間のようですね」
　糸を垂らしながら歩く柚葉がライトで周囲を照らす。そこは今までの通路とは違い開けた空間になっていた。そしてガツッガツッと岩を砕く音が響いてくる。目を凝らせばダンジョンの拡張の為、土木作業をする骸骨達がまるでロボットのように働いていた。
「来た！」
　光源に気付いたのか、つるはしやシャベルを持った骸骨達が振り向き向かって来る。
「盾役は任せてっ！」
　迫る敵の前に立ち塞がる千巻が、迫るつるはしを剣で弾いて敵の動きを止める。
「ケンカは弱いけど頑張るよー。ちょっとは良い所見せたいしね？」
　零は光輪を分裂させて飛ばし千巻の周囲に漂わせる。すると横から攻撃しようとしていた骸骨のシャベルに当たり軌道を外させた。
「焼き払っていきましょうか！　大いなる魔力よ、今ここに集え！」
　柚葉が魔導書を開くと、集まった魔力が解放され骸骨達の中央で爆発が起きる。爆風に薙がれ骸骨達はバランスを崩して転倒した。
「行くよこま！」
　そこへ靴に付いた銀色の車輪でダッシュして飛び込むと、美紗緒は竜巻のように回し蹴りで次々と骸骨を蹴り飛ばす。それに続いてこまも斬り込み骸骨に止めを刺した。
「凍りつけ！」
　瑞鳥が槍を振るって氷柱を撃ち出すと、頭の上に乗ったウイングキャットのマシュマロさまが追撃に光を放って骸骨を撃ち抜いた。
「これでも急いでるからね、一気にやっつけるよ！」
　一樹がベルトを五線譜の如く展開して部屋の奥から駆けてくる骸骨達を絡め取り、足を止めさせた。
「この程度の数なら纏まってくれていた方がありがたい」
　砂蔵が一陣の風となって敵の中心に飛び込むとくるりと回転する。同時に骸骨達が一斉に倒れた。回転と共に放った鋭い蹴りが骨を砕いていた。
「骨ごと斬り砕きます！」
　跳躍した翡翠が落下の勢いを乗せて剣を振り下ろす。圧倒的暴力の前に、骸骨は受けようとした盾ごと砕け散った。

●罠
　東広間の敵を殲滅した灼滅者達は方向を変えて南へと向かっていた。
「これで15体。残りは35体だね」
　零がカウントしてまだ先は長いと肩を回す。
「待って！」
　棒で周囲を探っていた一樹が皆を止める。その視線の先には目の高さ程に小さな穴が開いている。慎重に棒で壁を突くと、ばらばらと簡単に壁が崩れ落ちて人が通れそうな大きな穴が開く。するとそこから骸骨の戦士達が現われた。中は空洞となっていて武装した骸骨達が潜んでいたのだ。それと同時に南の方からアラームが聴こえた。どうやら南の広間と連動した部屋のようだった。
「南側の広間から敵が向かってくるみたい！」
　仲間を守るように千巻が前に出ながら、南側から響く物音を聴き取り警告の言葉を背後の仲間に報せる。
「なら、来るまでに倒してしまえばいい」
　砂蔵がそう言い放ちながら腕を砲台に変え、先頭の骸骨の頭を光線で撃ち砕いた。
「それもそうですね！」
　続いて翡翠が鬼のように巨大化させた拳を、剣を振り上げる骸骨に叩き込んだ。仰け反ったまま骸骨は頭がもげて倒れる。
「なるほど！　それじゃあ急いで片付けよう！」
　美紗緒は頷き、こまが敵の剣を受け止めると、炎を纏った蹴りを放って骸骨の胴体を真っ二つにして吹き飛ばす。
「隠れて背後から奇襲しようって魂胆だったんだろうけど、残念だったね」
　骸骨が槍で襲ってくるのを一樹はベルトで受け流し、擦れ違い様に拳を叩き込んだ。
「援軍が到着する前に、一気に決める！」
　瑞鳥が槍を振り抜き、盾で防ごうとする骸骨の腕ごと吹き飛ばす。バランスを崩したところへ、千巻が剣を振り下ろした。両断され骸骨が倒れる。
「これで終わり！　次が来るよ！」
　近づく足音に振り向くと、千巻の視線の先には南の広間からやって来た骸骨の一団が見えていた。
「遅かったね、こちらの準備は出来てるよ」
　零が縛霊手を展開して結界を張る。動きを鈍らせながらも、骸骨達が弓を構えて矢を放ってきた。縛霊手で弾くが何本かすり抜けて体に刺さる。
「どんな怪我も私が治します！」
　柚葉が力強い言霊を放つと、言葉がそのまま実現したように零の受けた傷を浄化して塞いでしまう。だが敵は手を休めずに更に剣を、槍を振りかざして襲い来る。そこへ千巻が割り込み剣で防ぐ。だが全ては防ぎ切れずに体に傷が走る。
「どんな攻撃を受けたって、意地でも倒れないっ！」
　千巻は歯を食いしばって剣を振るい、一歩も引かない。そこへ好機とばかりに骸骨達は猛攻を加える。
「あーのーねぇー……いい加減、痛いんだけど！！」
　流石に我慢できずに千巻は怒気を含ませて剣を叩きつけて、間合いを開けた。
「俺もまだ元気だよ」
　そこに盾を構えた零が隣に並んで攻撃を凌ぐ。２人で死角をフォローしあって敵に隙を見せない。
「数が多いですが、がんばりましょう！」
　そんな２人を支えるように柚葉が応援して元気づける。その言葉は実際に傷を癒して２人に力を与えた。
「この数……ダンジョンの一番の難関はここだろう。蹴散らせば一気に攻略が進むな……！」
　砂蔵が鋭く蹴り込んで骸骨の群れに飛び込むと、零距離からオーラを撃ち込んで吹き飛ばす。動きを止めることなく敵の背後に抜けると、次の目標に砲台と化した腕を向けた。
「体を動かしたら少しは暖かいね」
　続いて敵の中に飛び込んだ一樹が、美しい青薔薇のレイピアを振るう。剣舞のように軽やかに舞い飛び、一振りごとに刃が骸骨の骨を切断していく。
「纏めて切り伏せます！」
　翡翠が踏み込むと、素早く一樹が屈む。横に振り抜かれた剣は骸骨を断ち切る。そこへ一樹は追撃にベルトを放った。
「動きを止める！」
　残った敵に向けて瑞鳥がハンマーを振り下ろす。迎撃しようと骸骨が矢を放つが、それはめんどくさそうにマシュマロさまが猫パンチで弾いた。ハンマーが地面を叩き、衝撃波に飲み込まれた骸骨達の動きが止まる。
「全員踏み潰すよ！」
　そこへ高く跳躍した美紗緒が頭上から骸骨の頭を踏み砕き、反動で移動しては隣の骸骨へと同じ要領で攻撃を加え、頭部の砕かれた骸骨達は崩れ落ちた。
「ええっと……39、40。だから後は10体だね」
　動かなくなった敵をカウントした零は後僅かだと仲間に告げる。
「南の広間の敵も倒したと思うけど、確認に行こうか」
　一樹が棒を手に慎重に進み、仲間達も警戒を怠らずに続く。

●終着
　灼滅者達は南の広間に敵が居ないのを確認すると、最後の広間である西に進路を取った。
「そろそろ広間だけど、これといって罠は無かったね」
　一樹が周囲を調べながら仲間を振り返る。
「まだ作りかけだからかもしれませんね」
　そう言いながらも翡翠が周囲を警戒して歩いていると、何事も無く西の広間へと到着した。
「ここで最後ですね」
　瑞鳥がランプで広間を照らす。すると灼滅者に気付いた骸骨達がつるはしを放り捨て、剣や槍を持って向かってくる。
「油断せずにいきましょう！」
　一番後衛から仲間達をフォローする柚葉が声をかけると、皆が頷いて一斉に武器を構えた。
「早く帰って寝たいんだから！　死んでまで働いてないで、墓に戻ってとっとと眠りなよ！」
　千巻は疲れを吹き飛ばすように気合を入れ、振り下ろされる剣を受け止めた。
「ダンジョン探索も少しでおわりだね！　最後までがんばるよ！」
　美紗緒が赤い標識を叩きつけて骸骨を砕く。横から美紗緒を狙う槍の一突きをこまが受け止めた。
「制限時間にはまだあるが、余裕があるに越した事はないからな。早々に片付けるか……」
　砂蔵が真紅のオーラを逆十字の形にして撃ち込むと、槍を持った骸骨が十字の形に分断される。
「残り８体、後もう少しだね」
　零がカウントしながら結界を張って敵の動きを封じる。そこへ一樹が駆け寄りレイピアで斬りつけていく。盾を持った骸骨がレイピアを受け止めると、刃がくるりと弧を描いて盾を持つ手を切り落とし、無防備となった首を刈った。
「一気に終わらせるつもりだったけど、防がれちゃったか」
　一樹は槍を振るう骸骨からバックステップで逃れて後ろに下がる。
「魔力よ、敵を燃やし尽くせ！」
　そこへ柚葉が爆発を起こす。爆風で吹き飛び炎に巻かれた骸骨達が起き上がり、焼け焦げた体で向かって来る。
「燃え尽きろ」
　続けて瑞鳥が炎の渦を巻き起こす。骸骨は重なる熱に耐え切れずにボロボロと崩れていく。
「一体も逃しません！　確実に仕留めます！」
　翡翠は鎖分銅のように鞭剣を振るって離れた骸骨を引き寄せると、引きずり倒して頭を踏み抜いた。
「全力でいくよ！」
　弓を引く敵を見つけ、元気良く美紗緒が駆けると矢が放たれる、それをこまが防ぎ、炎を纏った蹴りを叩き込んで骸骨の背骨をへし折った。
「夜明けも近い、死者の時間は終わりだ」
　腕を砲台に変えて狙いをつけた砂蔵が、光線を撃ち込んで頭を吹き飛ばす。
「こいつが最後の一体だよ」
　盾を構えた零が骸骨の剣を受け止め、そのまま蹴って突き飛ばした。
「これで終わりっ、おやすみなさい！」
　尻餅をついた骸骨の頭に、千巻が剣を振り下ろす。受け止めようと構えた剣ごと真っ二つになった骸骨が左右に倒れると、最後の骸骨も動かなくなった。
　零が手元に視線を移す。ボタンを押した数取器の数字が50となっていた。

●踏破
　歪みから灼滅者達がダンジョンを脱出する。するとぼんやりとダンジョンが消えて行く。
「安らかに眠ってくださいねー」
　零が略式ながら神道式の祈りをアンデッド達に捧げる。
「消えちゃうのはちょっとだけ残念ですね」
　翡翠は振り返ってダンジョンの入り口があった場所を見た。
「結局ダンジョンが出来た理由は分からなかったね」
　一樹は吹き抜ける冷気を感じて体を震わせ、寒そうに身を縮こまらせた。
「まだ情報が少ないですね」
　隣で瑞鳥が頷くと、頭に乗るマシュマロさまがずり落ちてぼてりと地面に転がった。
「迷宮を拡張し、つなげて……巨大化……梅田や新宿と同じようなものを創りだそうとしているのか……？」
　思考を巡らせる砂蔵は何者かの思惑を感じずにはいられなかった。
「探検楽しかったね！」
　清々しい笑顔で美紗緒が、まだまだ元気を余らせたように腕を振る。
「線路から出てくるのを見られたら、私達が怪談話にされそうですね」
　柚葉の言葉に仲間達がありえそうだと笑う。
「うーねむいー……帰って寝よ」
　欠伸を噛み殺した千巻は、目尻に涙を浮かべると、疲れ果てた仲間達にも欠伸が伝播する。
　帰って眠りたいと、灼滅者達は朝日を浴びて帰途に就いた。

作者：天木一	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2015年4月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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