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時刻は午前二時。札幌市のとある地下鉄の駅、『新さっぽろ駅』内での出来事である。
人気の全く無いホームには、ただ静寂だけが広がっていた。
しかし、ここで異変が起こる。
地下鉄のトンネルや線路の輪郭が徐々にぼやけ、不思議な様相を呈していく。
その異変が起こってから約一分が経った頃。
地下鉄の線路が、不可思議な西洋風なダンジョンへと変容していたのだ。
レンガで出来た壁がどこまでも続き、その奥底は見ることが出来ない。
壁の所々に松明が立てかけられているが、その灯りが届かぬ場所は、完全な暗闇と化している。
そして更に異常なのは、そのダンジョン内を徘徊する異形の者達だ。
「グルルルルル……」
身体の所々が腐り落ちた虎の様な生物が、多くこのダンジョンに放たれていた。
カタカタと骨を鳴らす西洋の鎧を身に纏った白骨の戦士達もまた、このダンジョンの至る所にいる。
更にこのダンジョンの各地には、侵入者の命を奪うような罠も数多く存在している。
何故この様なダンジョンが出来上がったのかは分からないが、早急に対処しなければならないだろう。
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「ふむ、ダンジョンですか。ゲームで出てくるぶんには何とも思いませんが、現実でこれは洒落になりませんね。そんな訳で、事件です」
神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開くと、事件の説明を始める。
「錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)さんが、深夜の札幌の地下鉄がダンジョン化している事を発見しました。ダンジョン化するのは終電が終わった後、始発が始まるまでの数時間なので被害はまだ出ていませんが、放置すると割とヤバイ事になるかもしれません」
なので今の内に対処するのがいいだろう。
「今回予知で出たのは『新さっぽろ駅』。深夜にここへ潜入し、ホームへ向かえば、ダンジョンに入れます。アンデッド達が多数ひしめき合っているので、ダンジョン内をくまなく探索し、これらを全て灼滅して下さい。50体くらいでしょうか。幸いにも敵はそれほど強くありません。個々の弱さは相当なものです」
ただし数だけは多いので、多少注意した方がいいだろうとウィラは説明した。
「更にこのダンジョンには多くの罠が仕掛けられています。まあベタに落とし穴とか、壁から槍飛び出してくるとか、なんか変な液体が降って来るとか。灼滅者の皆さんに対し有効な罠などはほとんど無いでしょうが……状況的に不利になる罠、なら存在しえるので、注意して探索した方が良いかもしれません」
ちなみに、とウィラは説明を続ける。
「出てくるアンデッドは、タイガーゾンビと、スケルトン戦士の二種類です。前者は噛みついたり爪で引き裂いたりする攻撃を。後者は剣、槍、盾、弓のいずれかを装備し、その武器を使用して攻撃してきます」
そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
「説明は以上です。この現象が自然に発生したものなのか、ノーライフキングの実験のようなものなのかはさっぱり分かりませんが、事件の規模の大きさから言っても、見過ごすことは出来ません。お気をつけて」
参加者 | |
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私市・奏(機械仕掛けの旋律・d00405) |
迅・正流(斬影騎士・d02428) |
英・蓮次(凡カラー・d06922) |
咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814) |
白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197) |
坂上・海飛(鉄砲玉・d20244) |
ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671) |
永星・にあ(紫氷・d24441) |
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「ここがダンジョンか……正直こっちの方があんまり怖くないかな。深夜の無人の駅の方がよっぽど不気味な気がする……」
「スケルトンやらタイガーアンデッドやらで大賑わいだからな。ちょっとした動物園みたいなもんだろ」
目の前に広がるガレキ造りのダンジョンを見渡しながら英・蓮次(凡カラー・d06922)が漏らした呟きに、咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814)が応えた。
地下のダンジョンい訪れた灼滅者達は、ダンジョンの入り口の前に広がる3つの分かれ道の前に佇んでいた。
「まあ狙いが何であれ、なかなか面白そうじゃないか。せっかくだから楽しく行こう」
「やはり迷宮探索は浪漫ですしね! 本来は前衛3、後衛3の6人編成が基本ですが……8人編成もまた良し!」
ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)と迅・正流(斬影騎士・d02428)は、純粋にこのダンジョン攻略を楽しむつもりでもいるようだった。
「全員光源は持ったな! まあ失くしても血ぃ燃やせばなんとかなるか! ハッハッハ!!」
坂上・海飛(鉄砲玉・d20244)はなんかよく分かんないけど、ずば抜けてテンションが高かった。
「それじゃあそろそろ行くっすかね。時間も無限じゃ無いっす。自分は敵を油断させるために一人で行くっすけど、皆も気をつけるっす!」
「ん、1人で行くの? 携帯番号交換してないけど……まあ、何とかなるかな?」
一足先に右の通路に進んだ白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)を、私市・奏(機械仕掛けの旋律・d00405)が僅かに不安げに見送った。
「それじゃあ、私たちも行きましょう」
永星・にあ(紫氷・d24441)がそう言って真ん中の通路に歩き出し、同じ班のメンバーもそれに続く。
札幌地下鉄ダンジョン探索が始まった。
●左通路探索班・海飛、ルフィア、奏
探索開始から2分。3人は罠を十分警戒しつつ、通路を突き進んでいた。
ルフィアはやたら長い棒で罠を探しつつ、コンビニで買ってきたクッキーをつまんでいた。
「やはり深夜だからな……夜食が美味しい時間だ。ダンジョン内での需要を考えれば、買ってきた菓子は定価より高く売れるのでは……?」
「……虎も骸骨もクッキーは食べないと思うよ」
「……ふ、冗談だよ」
「いや案外食べるかもしれねえぞ?」
そんな和やかな会話をしつつも警戒を緩めていなかった3人の耳に、何かの呻き声の様な物が微かに届いた。
「上か……?」
ルフィアは耳を澄ましながら棒で天井を軽く突くと、その奥が空洞になっている事に気づいた。
「よく見るとこの先数ブロックのレンガ、他の床より少し浮いているね」
その天井の真下の床の異変を発見した奏。
「あー、なるほどなー……よし、2人は下がっててくれ」
海飛は2人を下がらせると、両手に炎を纏わせ浮いているレンガの上に飛び乗った。
「ガァッ!!」
すると天井が開き、そこから現れた数体のタイガーゾンビが海飛に飛び掛かる。
「そんな事だろうと思ったぜ!!」
危険を予測していた海飛は真上に手を掲げ、そこから放たれた爆炎が虎達を纏めて包み込んだ。
「敵に攻撃の隙を与えず、一気に叩き潰すぞ」
ルフィアはウロボロスブレイドの刃を伸ばすと敵陣に突っ込み、超高速で刃を振るう。
放たれた斬撃は虎達を纏めてズタズタに斬り裂いていく。
続いて奏が、構えた指揮棒を振りかざし、まだ立っている一体の虎を指す。
「最後のトドメは、僕が貰おうか」
奏は左手の籠手に、スペードの形をした己の影を集め、虎の顔面に叩きつける。
壁に叩きつけられた虎は影に精神を蝕まれ、そのまま動かなくなった。
「ま、こんなもんだな。次行こうぜ次」
パンパンと海飛が手を払い、一同は先へ進む。
その先も飛び出す槍やら落ちてくるギロチンやらが一同を襲ったが、しっかりと警戒していた3人は軽々とそれらの罠を回避していく。
そして一同は通路の脇に、豪華な金色の扉があるのを発見する。
「入って下さいと言わんばかりの派手さだな、王様でも住んでるのか?」
「鍵穴から中の様子を見てみようか」
ルフィアがおにぎりを齧りながら呟き、奏が鍵穴を覗きこむ。
「…………中でスケルトン達が弓に矢をつがえて扉に向けているね。すごく原始的な罠だよ」
「オッケー。その罠、俺が真正面から受けきってやるぜ!!」
海飛は黄金の扉を蹴り飛ばすと、降りかかる矢をものともせず一気に部屋に突入し、部屋の中心の床に縛霊手を叩きつける。
そして放たれた霊力の網が、スケルトン達を纏めて縛り付けた。
「この状況なら、部屋に入る必要は無いかな」
奏がタクトでスケルトンを指すと、それに呼応するかのようにダイダロスベルトが射出され、スケルトン達を次々と砕いていく。
「全身の骨を消し炭にしてやろう」
ルフィアはふわりと跳び上がるとスケルトンに接近し、業火を纏わせた脚で蹴りつける。
打撃と共に放たれた業火が、ルフィアの言葉通りスケルトンの身体を一握りの灰に変えた。
「それじゃあ先に進もう……まだ先は長そうだよ」
奏がそう言い、一同は和やかな会話を交えつつ、更に奥へと進んでいくのだった。
●右通路探索・雅
右の通路に進んだ雅は、様々な罠を想定しつつ、十分な警戒と共に通路を突き進んでいた。
「よ……っと、灼滅者達に有効な罠があんまり無いっていうのは、本当だったみたいっすね」
落下してきた岩を拳で砕き、雅が呟く。
「出来れば誘き出す様な形がいいっすけど……ん?」
雅は通路脇の壁から何かの気配を感じ、咄嗟にその壁へ全力の蹴りを放つ。
その中には一体のスケルトンゾンビがいた様だが、雅の蹴りにあえなく砕け散っていた。
「このままじゃ埒が明かないっす……そろそろ全力で行くっす!」
雅は全身に光の粒子の様な眩いサンライトオーラを纏わせ、通路を突き進む。
「ガァッ!!」
派手に動いていた雅に気づいた多くのアンデッド達が、通路の奥からやって来る。
「随分多いっすね……でも、これを喰らうっすよ!」
雅は足元に集めた三日月状の光を蹴りと共に放ち、敵陣を切り裂く。
続けてスケルトンゾンビ掴み上げると、予め見つけていた落とし穴へ放り投げる。
敵の数は多かったものの、格下相手にキャスターで挑んだ雅は、敵の攻撃の多くを避けていく。
「これで……終わりっす!」
雅は最後に残った虎に神聖な眩い光条を撃ち放つと、虎はそのまま消滅していった。
「この勢いのまま行くっすよ!」
雅はすごい勢いで、通路を突き進んでいくのだった。
●中央通路探索班・正流、千尋、蓮次、にあ
中央探索班の探索は、よく分からない濁った液体を被った蓮次の叫びから始まった。
「ぎゃあああ何! これ何のどこの液!?」
「まああんまり気にするなよ。拭けば何とかなる」
慌てふためく蓮次に、千尋が眠気覚ましのガムを噛みながら適当に返す。
「まさかいきなりとは思いませんでしたね……まあ致命的な罠で無かったのは良かったですが」
ただ正直自分にかからなくて良かった、という気持ちを僅かに抱きながら、正流は通路を進む。
「ああ取れた、気持ちわりぃ……もう絶対引っかからないぞ……」
げっそりした顔で顔を拭いつつ、蓮次も警戒しつつ先へ進む。
「全く…………ん? ちょっと皆止まってくれ、何か聞こえる」
蓮次が呼びかけると一同は足を止め、耳を澄ませる。
カタカタカタカタと、乾いた音がこちらに近づくのが聞こえる。
「……後ろか。全くどこに隠れていたんだか」
千尋が振り向くと、そこには多数のスケルトンゾンビ達が、灼滅者達にゆっくりと近づいているのが見えた。
「危うく不意打ちを仕掛けられる所でしたね……」
そう呟いた正流は、全身からどす黒い殺気を放ち、スケルトン達を包み込む。
「斬影騎士・鎧鴉! ……見……斬!」
濃密な殺気の中で、正流がそう名乗りを上げ、スケルトン達は剣を構えて一斉に突撃する。
「纏めて蹴り飛ばす!」
同じく蓮次も突撃し、爆発的な暴風を纏わせた脚を振るってスケルトン達を纏めて薙ぎ払った。
蓮次に続いてにあが放った氷の魔術が、スケルトン達の身体を一斉に凍りつかせた。
「よし……んじゃあ最後はあたしがさっさと片付けるか」
千尋は巨大なガトリング内臓棺桶を取り出すとチェーンを肩にかけて抱え、銃口を向けてグリップを引く。
そして6つの銃口から放たれた無数の弾丸がスケルトン達の身体にぶち当たり、その全てを砕いた。
「こんなもんだな。次行こう」
「だね。他にも何かくるかもしれないから気をつけ……っうお! またかよ!!」
飛び出してきた槍が首元を掠り、蓮次の叫びが再びダンジョンに響いた。
やはりその道中にはろくでもない罠が多数仕掛けられてあったが、灼滅者達はしっかり警戒していたこともあり、難なくそれらを乗り越えていく。
そして4人は、通路の突き当りが見える位置まで辿り着いた。
「ああ……またいるな。これで何体目だ?」
突き当りにある巨大な白い扉と、その前に立ち塞がるタイガーゾンビ達を眺め、千尋がそう呟いた。
「まあ、先に進むなら倒すしかないね……行こう!」
蓮次は両足に炎を纏わせて駆け出す。
「ガァ!!」
「当たるか!!」
虎が振り下ろした爪を避け、蓮次はその腹に文字通り熱い蹴りを入れた。
「そろそろ大詰めか……いい加減眠くなってきたところだ」
千尋はガムを噛みながらサーベルに赤きオーラを纏わせると、空に逆十字のサインを描く。
そして放たれた逆十字は虎の眼に刻み込まれ、同時に精神にも大きな傷を刻まれた。
「立ち塞がるというなら、破断するのみ……喰らえ!!」
正流が放った熱き炎の奔流は虎たちを纏めて包み込み、その肉体を跡形もなく焼き尽くした。
「ようし、この通路の敵は全部倒したし……この扉を開けてみよう!」
虎が灼滅された事を確認した蓮次がそう呼びかけ、一同は白い巨大な扉の前に立つ。
そして扉に手をかけ、開け放つのだった。
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扉を開けると、そこには真っ白な巨大な空間が広がっていた。
そしてその空間の中心には、巨大なスケルトンゾンビと、その傍らに佇む巨大なタイガーゾンビがいた。
「……やたらとデカイな」
「確かにデカいね」
「その一言に尽きますね」
一同がそんな風に呟いた直後、この部屋の他の場所にもあった扉が開け放たれ、他の班のメンバー達が姿を現す。
「よう、お前ら元気だったか? ていうかデケエ!!」
「やはりダンジョンにボスはお約束だな」
「まあ見た目だけでそこまで強くはなさそうだね」
左側通路探索班のメンバーも、それなりにデカい敵の存在に驚いていた。
「全員揃ったんすから、一気に仕留めるっすよ!」
雅がそう促し、一同は目の前のデカいアンデッド達へ一斉に攻撃を仕掛けた。
「まずは自分から行くっすよ!!」
雅はサンライトオーラを集束させた拳を振るい、虎の顔面に鋭い打撃を浴びせる。
「前足の一本くらい、取っておこうか」
千尋が腰に掛けていたサーベルを抜いて一閃すると、虎の前足が一瞬にして斬り落とされた。
「行きます」
にあが炎を宿した蹴りを放つと巨大虎の身体が火を纏いながら壁に叩きつけられる。
「無双迅流絶技! 鎧鴉斬影剣!」
正流は巨大な漆黒の剣『破断の刃』を構えると、虎に接近する。
そして、まるでその場に2人の人間がいるかのような素早い動きで剣を二度振り下ろすと、虎の身体は十字に斬りつけられ、そのまま二度と動かなくなった。
「残るはこのスケルトンだけ。終わらせよう」
奏は指揮棒でスケルトンを指し示し、同時に放たれた無数のダイダロスベルトが脚を突き刺してその動きを僅かに鈍らせた。
「最初に被った訳分からない液体の恨み、ここで晴らす!!」
蓮次はバベルブレイカーのジェット噴射でスケルトンに急接近すると、炎を纏わせた杭でその頭蓋骨に大きな穴を空けた。
「いい炎だが、俺も負けねえぜ! 正直全く意味はねえが全身火達磨で攻撃してやるぜ!! 行くぞカルビ!!」
海飛は縛霊手に炎を纏わせ、ついでに僅かに負った手傷から生み出した巨大な炎を全身に纏わせ、霊犬のカルビが放った斬撃と同時にスケルトンの身体に縛霊手を叩きつけた。
「これで終わりだ……中々楽しかったぞ」
ルフィアは異形化させた腕をスケルトンの額に叩きつける。
するとスケルトンの全身にひびが入り、そのまま跡形もなく砕け散って行くのだった。
「クーリアー。ミッションコンプリート! あとはあのよく分からない液体とかに気をつけて帰るだけだね!」
蓮次は背を伸ばして仲間たちに呼びかけ、一同は揃って帰還する。
「北海道の地下鉄に突如出現したダンジョン、これは北海道大迷宮化計画の第一歩に過ぎないのだった……てな」
ルフィアが殲術道具をしまい、誰に言うでもなく呟く。
そんな計画が実際にあるかどうかはさておき、今札幌では、地下鉄ダンジョン化と地下鉄沿線で起きる闇堕ちゲームの2つの事件が起こっている。
今はまだ事件の全容は分からないが、学園に帰還し休息したら、これらの事件について考えを巡らるのもいいかもしれない。
何にしても、じきに始発の時間が来る。
灼滅者達は他にゾンビが残っていないか確認しつつ、ダンジョンを後にするのだった。
作者:のらむ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年4月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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