Midnight Labyrinth

    作者:SYO


     深夜、最終電車が走り去り誰も居なくなった駅が蠢いた。
     次の駅へと続く道は変容し、その姿は古き迷宮へと移っていく。
     輪郭がぼやけ、まっすぐ広い線路の通る道は細く薄暗い道へ、コンクリートの内壁は石造りの内壁へと。
     変容せし迷宮に現れるのは生気の失った者達の気配。肉を腐らせ骨を剥き出しにしたアンデットに腐臭漂わせる獣。
     呻き声と金属音が不協和音の如く響き、現れた迷宮内を徘徊し続ける。


     「みんな、北海道の地下鉄がダンジョン化する事件が起きてるんだ」
     須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)が集まった灼滅者達に概要の説明を始める。
     錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)が発見したこの事件は、深夜2時を過ぎ、始発の電車が走る5時前までの間に発生する。
     地下鉄がダンジョン化すると、ファンタジー世界の迷宮のようなものへと姿を変えて中には多数のアンデットが出現するようだ。
    「今のところは被害も出ていないけれど、これだけの変化を放っておくと大変なことになるかもしれないよね。
     この現象は迷宮内のアンデットを全部倒せば解けるみたいだから、みんなには中に入って探索と殲滅をお願いしたいんだ」
     まりんは駅構内の見取り図を開き、チェックマークを付けながら灼滅者達にダンジョンの説明を始める。
    「今回ダンジョン化する駅は発寒南駅から琴似駅の間の区間だよ。ダンジョンにより近いのは発寒南側だから潜入はここからするのが良いかな」
     現れる敵はアンデット達、その数は合わせて45体ほど。鎧兜に剣と盾で武装した人型のものと、獰猛な牙で襲い来る動物型のもの。
     また最深部には他個体よりも強いアンデットが2体存在している。
    「それぞれの強さは大したことがないんだけれど、数が多いし迷宮内では不意打ちや動きを邪魔する罠とかがあるかもしれないから気を付けてね」
     なるべく慎重な探索が必要だろうとまりんは念を押す。もし危険に陥れば、アンデット達は外までは追ってこない為、退却も視野に入れるように説明し。
    「この事件がノーライフキングの実験なのか自然に起きた物なのかは分からないけれど、放っておくと何が起こるか分からないよね」
     みんな、気を付けて頑張ってね、とまりんは灼滅者達に告げながらパタンと資料を閉じるのであった。


    参加者
    梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)
    ティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718)
    御印・裏ツ花(望郷・d16914)
    リデル・アルムウェン(蒼翠の水晶・d25400)
    藤原・漣(とシエロ・d28511)
    柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)
    櫻井・聖(白狼の聖騎士・d33003)

    ■リプレイ


     カツンコツンと、足音が響く。地下鉄に降り立った灼滅者達が奥へと進む。少し進めば様相を変えて存在しないはずの迷宮が姿を現す。
    「今回も頑張れますように」
     迷宮の入口の前で首許へと手を動かしチョーカーを撫でる富士川・見桜(響き渡る声・d31550)。静かに気合を自身に入れて、一歩ずつ、迷宮へと歩みを進める。
    「つーか、これ時間までに全部倒せなかったらどうなるんすかね……」
     藤原・漣(とシエロ・d28511)が状況が悪くなった時のことを思いながら苦笑いを浮かべて。いざとなれば全てのアンデットを倒さずに退却しても構わないとエクスブレインから告げられていても、広い迷宮から退却するのも容易ではないから、と。
     もやもやとした感情、最悪の想定を振り払い、どこか繕ったような明るい声で仲間達へじゃあ、行くっすと告げて。それに柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)も応えるように迷宮へと。
    「さてさて、何が原因なのか、ちゃーんと探らないとね。気合入れて頑張っていこー!」
     玲奈の声が入口内に木霊し、そうして灼滅者達は迷宮の中へと入っていく。
    「やっぱり不気味な感じだね。子供の頃、地下鉄って外が見えないから、何か怖かった憶えがあるよ」
     ――暗く昏い迷宮に見桜の声が響く。
    「屍王お得意の迷宮ですわね。わたくしは初体験ですけれど、新しい発見でもあるのかしら」
     迷宮に入れば薄暗い雰囲気はより一層濃く溢れて。じめじめとした気配に。そんな迷宮の暗さと対極の少女。御印・裏ツ花(望郷・d16914)がカツカツと足元を鳴らしながら気品良く迷宮を見回して。
    「ううん、迷宮化現象。限定的なブレイズゲート、と似ているような」
     梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)が迷宮の様子を窺いながら、今起きている現象への推論を述べて。思考を巡らしながらも、久方ぶりの依頼から来る意気込みで注意深く先を見据え進む。
    「こんなところに迷宮がにじみ出てくるとか……北海道の地下に眠ってたノーライフキングがサイキックアブソーバーの劣化で目覚めた……とか、かな?」
     玲奈も自身の考えを言葉として浮かべる。もしノーライフキングの影響であれば、放っておくことはできないと。
    「完全に目覚める前に見つけて灼滅したいとこだね……ノラキンって本気で強いし」
     また、アリアドネの糸を広げて道標を残しながら歩むリデル・アルムウェン(蒼翠の水晶・d25400)は別の推論を浮かべて。
    「ラグナロク計画、斬新コーポレーション……。企みがあっての迷宮化というのならその一端でも掴めるといいのだけど」
     ノーライフキングでなくとも灼滅者の相対すべき相手は多い。根源が分からない以上は今回の調査で得た情報から、事件の黒幕をあぶり出す。そうでなくとも、迷宮化に関連した事件から繋がる新たな事件を推理、予測しなくてはならないと。
     考えを巡らせる灼滅者達。だが、思考の時間はいつまでも続く訳もなく。突如として響く呻き声、唸り声。


    「考えるのはそこまでだ。敵が来るぞ」
     ティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718)が盾を展開すると同時に、現れるのは10体近いアンデット。いち早く駆けたティートは迫る攻撃を盾で弾き、攻撃の威力を確認し嘲笑気味な声で。
    「数は多いが個体の強さは大したことないようだな。さっさと片付けるぞ」
     そしてティートは盾から目映い光を広げて。その光は自身の周囲の仲間達を包み込み、穢れを取り除く力を仲間へと付与して。続けて迫る攻撃をいとも容易く受け止めて。
     ティートが抑える間に裏ツ花の冷気がアンデット達を包み込む。氷結した身体を砕きながらも雄叫びをあげて迫るアンデット達。だが、ディフェンダーである櫻井・聖(白狼の聖騎士・d33003)が間に割り込んで。手にした剣でアンデットの振るう刃を受け止める。
    「狭くて人の多いところはどうも好きになれないね……うん。でも、皆に害をなす可能性があるなら早めに退治できるように頑張るよ……うん」
     聖は受け止めた剣を弾くとアンデットの側面に滑り込み、爪でアンデットを切り裂く。
     狭い空間での戦闘は位置取りが難しいが、灼滅者達は的確な位置取りで戦いを有利に進める。一体、また一体と倒してあっという間に残り5体。
    「この調子で倒すっすよー!」
     元は人であろうアンデットが崩れていく様に、漣はそっと視線を伏せて。どうしても気になってしまうからこそ、気にしないように気を張り明るく努めながら仲間へと声を掛けて回復する。
     回復を受けた風花が地を蹴って瞬時にアンデットの裏を取り、クルセイドソードを一振りして足元を斬る。動きの落ちたアンデットごとリデルの放った光十字が穿ち貫く。
     光十字の輝きが収まれば迷宮は元の静けさと暗さを取り戻して。灼滅者達は更に奥へと歩みを進める。
    「――リリィ、様子を見てきて。頼んだよ」
     身に付けた光源を揺らし、灼滅者達は奥へと進む。先頭を切るのはリデルのサーヴァント『リリィ』。曲がり角などの奇襲を受けやすい空間ではリリィが先行し、ある程度開けているが罠がありそうな通路では灼滅者達全員で注意深く迷宮を踏破していく。
    「奥の床の色が他と異なっています。皆さん注意して下さい」
     壁歩きを使用して高所から罠の有無を確認する風花の声に応じて、一つ目の広間を抜ける灼滅者達。今のところ大きな発見も無いが、特に被害も無く迷宮の探索は進んでいる。
    「構造は思ったよりシンプルな感じ、だね。罠も注意深く進めば当たる感じじゃないし……」
     マッピングを進める玲奈がそんな感想を漏らすと、一同も頷いて。敵の数や罠自体は多くとも、比較的構造自体はシンプルな様子を感じさせる迷宮。
     広間の先の曲がり角で、聖が小さく声を出す。仲間に手で合図を送り、手鏡に映したアンデット達の姿を見せると。
    「どうやら待ち伏せしてるみたいだね……うん。手鏡で一応確認して良かったよ、うん」
     手でサインを送り、アンデットの不意を突く形で裏ツ花の操る冷気が飛ぶ。直後に玲奈がエアシューズで駆け抜けて前衛のアンデットに接近すると、強烈な回し蹴りから暴風が吹き荒れて前に立つアンデット達が壁に叩きつけられていく。
     そこに風花が縛霊手を床に叩きつけ陣を展開。広がった陣は壁に叩きつけられたアンデットの動きを確実に麻痺させて鈍くする。続いてリデル、見桜が麻痺したアンデットを1体ずつ集中攻撃し着実に数を減らす。
     それでも落ちないアンデットには聖が剣を振るい、ティートは炎を盾に纏わせて叩きつける。漣も心の内で元の人へと謝りながら攻撃を相棒のシエロと共に回復の合間に行ってあっという間にアンデットの一群は壊滅した。


    「大分アンデットを倒したような気がするね。それにしても、深夜の地下鉄構内がダンジョンになる、か……。映画とかでありそうな感じだよね」
     見桜が玲奈の描いた地図を見て、今まで倒したアンデットの数を数える。エクスブレインの予測通りならば全部で45体のアンデット。その内、現在灼滅者が倒したアンデットは30体。最奥部に強力な個体が居ることを考えなければ残り3分の1と言った所である。
     ここまで進んで誰も大きなダメージを受けていないのは、事前の準備や作戦が効いているということであろう。それぞれが警戒し、補助しあうことで戦闘面でも探索面でも優位に進んでいた。
     ――そして。大きな扉が灼滅者達の視界に映る。扉の前には10体超のアンデットの姿。見た様子、強力な個体はその一群に存在していないが、それ以外の個体がここの扉の前に集結しているといった様子で。
    「この先が最深部か。しかし、扉の前の奴らを倒さなければ先には行けないようだな」
     静かに、敵を確認したティート。このまま前に進めば残りのアンデットを倒した直後に最深部のアンデットとの戦闘になるだろう――と、その前に少し引き返して回復を行うことを提案して。
    「そうだね。まだ時間は大分残ってるみたいだし……うん」
     時計はまだ4時を指していない頃。十分に時間はあると判断して、扉の前の小部屋で回復をするために戻る。
    「疲れを取るには甘いものが良いもんね」
     心霊手術を開始した仲間達を守るように扉の付近で待機している玲奈が、鞄より飲み物や飴を取り出して配って。どこか籠った空気感の迷宮では、その甘さも心地よく。10分と数分程の時間、時間の余裕を残した上で十全の回復を行って。
     途中、攻撃サイキックでは心霊手術が行えないといった問題もあったが、前衛の灼滅者達が持ってきた回復サイキックで代用することで問題なく回復を終えて。
     そして、心霊手術でダメージの多い前衛を回復した灼滅者達は再び最深部前の扉へと戻る。
     扉の前のアンデットとの戦闘もそれまでと同じく灼滅者達が圧倒する形で進む。数が多い間は列攻撃を体力の落ちた敵には即座に単体攻撃で攻め、漣とシエロが回復を厚く行うことで被害は軽微に壊滅させて。
     壊滅した直後、大きな音が響き扉が開く。待ち構えるは二体のアンデット。その強さはこれまで倒してきたアンデットと比べるまでもなく強いことが感じられる。
    「雪は、全てを覆い隠す」
     即座にスレイヤーカードを解放した風花が前衛アンデットの剣を受け止める。喰らったダメージは強烈だが、自身で回復を織り交ぜて凌ぐ。続けて、裏ツ花の振るった杖がアンデットの盾と拮抗する。
    「貴方達は誰に蘇らされ、哀れ、死に切れずにいるのです? 元凶を叩いてやりたいですけれど、貴方達も放っておくわけには参りませんの」
     杖から魔力が膨張し弾ける。そうして盾を押しのけた直後、ティートが盾を即座に叩きこみ注意を引く。後方からはリデルが強烈な光を放ちアンデットを飲み込んで。眩い光に照らされた瞬間、リデルは広間の様子を目に焼き付ける。何か特徴はないか、と。
     同時に後方に立つアンデットが矢を放つが、今度は聖がその矢を剣で受け止めて。衝撃を完全に殺しきれず、後方へと飛ぶがその反動を利用して爪で前に立つアンデットに近づいて切り裂けば、受けたバッドステータスが消えていく。
     直前に十数体のアンデットを倒した傷こそあれど、事前の準備をおこなった灼滅者達の体力はまだ余裕がある。少しずつ、少しずつ、前衛のアンデットの体力を削っていき――そして。
    「今度は安らかに眠ってね」
     見桜の持つ青い燐光が輝く両手剣が何度目かの傷をつけた時、崩れていく前衛のアンデット。残るは弓を持った後衛のアンデットのみ。
     残り一体となったアンデットの攻撃は漣の回復で凌ぎきる。回復が足りなければシエロも加勢し、先ほど以上の速さで後衛のアンデットを削り切り。
     裏ツ花が巨大化させた腕でアンデットを薙ぎ払えばアンデットの持つ弓が軋み。とどめはティートの炎が回復を行おうとしたアンデットをそれより早く燃え広がり完全に焼き尽くし、全てのアンデットの灼滅が完了したのであった。
     ――薄暗く、じめっとした空気が変わる。地下鉄はあるべき姿へと戻り始めて。完全に戻りきる前に、玲奈は周囲を見回して何か手掛かりを探すが確実に断定できるようなものは見つからず。戦闘中、より深く迷宮を観察していたリデルも同様の様子で。
    「学園に戻って報告しよう。情報を共有すれば見えるものがあるかもしれない」
     分かるのは今回の事件が何か大きな事件へと繋がる予兆のようなものかもしれないということと、今回の変異は解決したということ。ここから先は灼滅者達が学園へと戻ってから推理、推測をし新たな事件へと繋げる必要があるだろう。
    「そうですわね。それと、弔いは全てが終わってから、ですわ」
     裏ツ花の同意に続いて灼滅者達も同意して。始発電車が動き出す前に、地下鉄から抜けるべきであるのは間違いないだろうと。
     元に戻った地下鉄の線路を足早に駆け抜ければ、すぐさま見える地下鉄の出口。地上へ上がってみれば、まだ外は薄暗く、朝の気配はやや遠い。
    「北海道、初めてなんだよね。せっかくだし、雪を見たかったな」
     満天の星空を見上げて、見桜がそう言葉を溢す。今は一時の休息を、学園に戻って情報を共有し、関連する事件へと繋げていくためにも。

    作者:SYO 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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