お山の鬼大将

    作者:波多野志郎

     ――戦争だった。
     もちろん、一般的な戦争ではない。田舎の不良グループ同士の大規模な喧嘩を当の本人達が大袈裟にそう表現しているだけだ。
     問題は、この自称戦争が一方的な結果に終わった事だ。
    「テ、メ……く、そ……!!」
    「少しは思い知ったか? あ? この町ででかい面して荒らし回るんじゃねーぞ?」
     倒れた相手を見下ろし、その赤いバンダナをつけた長身の少年は言い捨てた。地面に転がっているのは十人を越える相手側のみ。立っているのは少年と少年の配下三人の不良だ。
     圧倒的だった。そこに転がっている鉄パイプもバットも、文字通り子供の玩具でしかなかった。
    「ば、けもの……が……」
    「化け物ね――ああ、そう呼びたきゃ呼べよ」
     少年はそう言うと頭に巻いていたバンダナを外す。その金髪に黒曜石の角を覗かせた少年は、血の匂いのする凄惨な笑みで言い捨てた。
    「こういう気分が味わえるなら、化け物も悪くねぇぜ?」

    「サイキックアブソーバーに導かれて!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)がそう言い放つとその傍らの椅子に腰掛けていた少女、隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)がパンと胸の前で手を合わせて笑みをこぼした。
    「あぁ、道に迷わなさそうでいいですね~、私、時々校舎も迷いますし」
    「いや、そういうものじゃないんだぜ? ――もとい、現在『一般人が闇落ちしてダークネスになる』事件が起きようとしている、お前達にはそれを防いで欲しい」
     ヤマトは方向修正して灼滅者達へと向き直る。
     通常ならば闇堕ちしたダークネスはすぐにダークネスとしての意識を持ち人間の意識は掻き消えてしまう――だが、問題の彼は人間としての意識を遺しており、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状況なのだ。
     彼の名前は彼の名前は佐々谷・重梧。高校一年生の長身の青年だ。染めた金髪に赤いバンダナがトレードマークの不良学生である。
    「その町では少しは知られた不良らしい。ただ、不当な暴力は振るわないし、進んで犯罪には手を染めない……どちらかというと周囲と合わなかった、そんな不良だ。彼に灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しい」
     そこでヤマトは一度言葉を切る。そして、真剣な表情で付け加えた。
    「……そして、完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅してくれ」
     重梧とその三人の仲間はその町を荒らすように暴れる隣町の不良グループと険悪な関係にあった。重梧達は隣町の不良グループの行いを見過ごせないし、相手は相手で不良の癖に綺麗事を言う彼等を気に食わない。結果、話は大きくなり戦争――ようするに、お互いのグループ同士の喧嘩で決着を着ける事となった。
    「結果は言うまでもないな、闇堕ちした彼とその彼に力を与えられ配下となった仲間に普通の人間が束になってかかっても勝てるはずもない」
     なので、重梧達が戦争のために待ち構える裏山の空き地に先に乗り込み、彼等を倒して欲しい――そういう話だ。
    「彼も三人の仲間も神薙使いのサイキックを使って来る。特に重梧は強い――気を引き締めて当たってくれ」
    「……闇堕ちは、よくないですよね~。私も皆さんに助けていただきましたから、見過ごせません」
     ヤマトの言葉に桃香がコクリとうなずく。その表情は柔らかな笑みのままだが、その瞳には既に強い意志が宿っている。
    「ああ、彼もまだ完全に堕ちてはいない。呼びかければその心に言葉は届くはずだぜ?」
     重梧は不良だが、曲がった事が許せない不良だ。それは自分の今の状況も同じ事だろう――説得の仕方次第では相手の戦闘能力を下げられるかもしれない、試す価値はあるだろう。
     もしも重梧に灼滅者としての素質があれば、戦闘で倒す事ができれば灼滅者として生き残るはずだ。
    「闇堕ちはお前達にとっても他人事じゃないだろう――俺に出来るのはここまでだ、残りはお前達の手にかかってる、頼むぜ? 灼滅者!」
    「皆さん、頑張りましょう~」
     ヤマトが締めくくり、桃香がグっと小さな両の拳でガッツポーズを作る。
     ヤマトの言う通り、誰に取っても他人事ではない――灼滅者達は戦場へと向かった……。


    参加者
    源野・晶子(うっかりライダー・d00352)
    長久手・蛇目(地平のギーク・d00465)
    黒洲・智慧(九十六種外道・d00816)
    水無月・戒(疾風怒濤のナンパヒーロー・d01041)
    四谷・夕闇(オカルト大好き少女・d02928)
    大久保・佳(鬼法楽・d04732)
    雨寺・水人(雨津風の使い手・d05295)
    神護・朝陽(パワー系神薙使い・d05560)

    ■リプレイ


     ――そこはのどかな自然が残る裏山だった。木々から見えるのは低い建物が建ち並ぶ昔ながらの住宅地であり、都会とは違う和やかな空気に満ちていた。
     だが、その空き地だけ明らかに空気が違った。四人の不良が殺気を振り撒きそこに立っていたが、遅れてやって来た一団に表情が変わる。
    「……何もんだ、テメェ等。ここは観光地じゃねぇよ、とっとと失せな?」
    「いや、ヤンキーの縄張り争いに来たわけじゃーないぜ」
     唐突に現れた一団に驚きを隠せない、そんな表情の不良の一人が凄んだ一言に神護・朝陽(パワー系神薙使い・d05560)は短く返した。
     大久保・佳(鬼法楽・d04732)もまた一つうなずき、言い放つ。
    「飛び入りで申し訳ないが、あなたのやり方が気に入らないのでひとこと言いに来たんだ」
    「何だと?」
     そう答え一歩前に出たのは赤いバンダナを巻いた長身の少年、佐々谷・重梧だ。その視線は鋭い――その視線を真正面から受け止め、隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)が小首を傾げた。
    「伝言を頼まれたんですけど~、いいですか~?」
    「あん?」
    「貴方は不良と呼ばれる人達の一人かもしれません。でも、『悪』ではない筈です。自分の信じる正義や、信念があるハズです! 何も考えず、力を振うのは…確かに心地よいのかもしれません。 しかし、一時の快楽に身を任せてしまえば貴方は必ず後悔します! 自分自身を、裏切った事に! ――との事です~」
     身振りを交え告げる桃香に、重梧は鼻で笑い飛ばした。
    「悪とか正義とか関係ねぇよ。気にいらねぇ奴がいる。目障りな悪党がいる、悪党の方がちょいと殴って気分がいい――そんだけだ」
    「 うーん……悪いことしない不良……不良?」
     源野・晶子(うっかりライダー・d00352)は不良の定義について考え、首を捻る。おそらくはこの重梧やそれに付き従う配下達も他人に積極的に迷惑をかけないし、迷惑をかける人間を毛嫌いするぐらいには性根はまともなのだろう。
     だが、彼等もまた不良だ。社会的に、道義的に、この法治国家では個人の暴力による解決を良しとしていないのだ。
    「結局、力に飲まれてるって事だね」
     四谷・夕闇(オカルト大好き少女・d02928)が静かに言い捨てる。その表情を一言で言い表すのならば、残念となるだろう。時刻は夕暮れ――実に彼女好みのシチュエーションなのだが演出に乏しい、と思うからだ。事前の準備が出来なかった事が実に悔やまれる。
     そんな仲間の内心までは気付かず、雨寺・水人(雨津風の使い手・d05295)は人懐っこい笑みと共に告げた。
    「その力は決していい事じゃない……それはわかってるよね? 理不尽な力で他人を傷つければ自分も傷付くんだよ?」
    「関係ねぇよ」
     水人の言葉を重梧は一言で切り捨てる――そして、血に餓えた獣のように笑った。
    「今はとにかく何かをぶん殴りたい気分なんだ――別にお前等だっていいんだぜ?」
    「――ただ、口で言うだけではこんなものでしょうぜ? 後は戦いながらって事で」
     小さく肩をすくめ長久手・蛇目(地平のギーク・d00465)が言い捨てる。黒洲・智慧(九十六種外道・d00816)も一つうなずくとその右手を下へとかざす。クルリ、とその指を動かすとまるで手品のように姿を現したスレイヤーカードを手に呟いた。
    「……さて行きますか。二閃抜刀・狂乱活陣」
     スレイヤーカードが解放され、智慧の手に刀が握られる。同じように仲間達も次々とカードを開放していく中、重梧とその配下達は計画するように身構えた。
     そして、そこにその名乗りが降り注ぐ!
    「俺は水無月戒! 通りすがりの正義のヒーロー!」
     ギュガ! と不良達と灼滅者達の間にライドキャリバーに乗った水無月・戒(疾風怒濤のナンパヒーロー・d01041)が着地、決めポーズと共に言い放った。
    「赤いバンダナ引き締め登場! いっちょ喧嘩しようぜ!」
    「おお~」
     派手な登場に思わず拍手する桃香に、戒も満足気に笑う。そして、もう一人笑う者がいた――他でもない、重梧だ。
    「喧嘩がしたいなら、そう言えばいい! 誰だろうと相手になってやらぁ!!」
    「こっからは言葉は不要だ。拳で語ったるわ」
     そっちの方がわかりやすい、と朝陽も握り拳を作り言い捨てる――ここに夕暮れの裏山を舞台に盛大な『戦争』が始まった。


     我先に、と殴りつけに来る不良達に対して灼滅者達は素早く陣形を整える。
     前衛のクラッシャーに戒と佳、朝陽、烈風弐号、佳のサーヴァントである霊犬、ディフェンダーに智慧と水人、中衛にジャマーの蛇目と夕闇、晶子のサーヴァントであるライドキャリバー、夕闇のサーヴァントであるビハインド の赤外套、後衛のスナイパーに晶子といった布陣だ。
    「――おおお!!」
     重梧が吠え、その身にまとう風を殴りつける動作に乗せて放つ――その神薙刃の鋭い一撃を受けて、智慧は踏み止まった。
    「綺麗事といわれようと確固たる信念のもとで動いてきた貴方にとって、その力は正当なんでしょうか?」
    「力に正しいも正しくないもあるか!? あるものを振るって何が悪い!?」
    「それが、あなたが悪党と呼んだ連中と何が違うのですか?」
     智慧が足元に一本の線を引く様に刀を構える――それこそが、智慧なりの想いを込めたジャスチャーだった。
    「貴方が化け物だから周囲と合わないのではないです」
     刀の切っ先が跳ね上がる。智慧のティアーズリッパーを重梧は拳で迎撃、火花を散らして叩き落とした。
     そこへ烈風弐号の機銃掃射と共に戒が龍砕斧を翼のように広げ、その龍翼飛翔の一撃を叩き込んだ。
    「よう! 化物は楽しいか?」
    「おう、悪くはねぇ」
     戒の言葉に重梧は吐き捨てる。その言葉に嘘はないだろう――強敵を相手に自分の力を思う存分振るえる、その事が楽しくて仕方ないとその表情が語っていた。
    「このまま道を踏み外して弱いものイジメするか? 安心しな!俺がそんな事はさせねえよ! だから思いっきり来いよ! 化物のお前は倒してやる! 俺は人間のお前とやりあいたいんだ! だから……喧嘩しようぜ!」
    「殴り合って分かり合おうってか?」
    「おうよ!」
     戒の言葉に、重梧の表情が僅かに動く。そして、畳み掛けるように影で作られた触手が重梧へと伸びる――蛇目だ。
    「重梧さん、俺達はあなた達を助けに来たんです」
     口調は軽い、しかしその蛇目の表情には真剣な色があった。
    「守りたいって『信念』があるんならそれを失っては駄目ですよ? その『信念』こそが本当の『力』ってやつじゃないですか」
     影の触手を振り払いながら重梧が表情を歪ませる。攻撃よりも言葉が痛い――そんな苦悶の表情だ。
     だが、重梧は動きを止めない――その言葉を振り切るように鬼神変の拳を振るった。
     ――その間にも他の灼滅者達と不良達の戦いは続いていた。
    「んっだらああ!!」
     配下の一人が影縛りを振り払い、朝陽へと鬼神変の巨大化した拳を振るった。腰の入ったいいパンチだ――しかし、朝陽はそれを縛霊手によって払い軌道を逸らすとお返しとばかり裏拳で縛霊撃を叩き込む!
    「今だ、やれ!」
    「ええ!」
     網状の霊力に縛られた不良へ朝陽の合図と共に佳が神薙刃を放ち、霊犬がその斬魔刀によって脇腹を切り裂いた。
     不良がくの字に体を曲げたそこへ赤外套が間合いを詰めると、目の前でその顔を晒した。そこに何を見たのか? 不良の顔が恐怖に引きつる――そこへ夕闇はどす黒い殺気を無尽蔵に放出する、鏖殺領域だ。
    「……次よ、 赤外套」
     倒れた不良を見下ろして呼びかける夕闇に、赤外套は大型のワイヤカッターをじゃきんと鳴らす事で答えた。
    「えーい!」
     晶子のバニシングフレアとライドキャリバーの機銃掃射が不良達を襲う。そして、水人もデスサイズの一撃を一人の不良へと振り下ろした。
    「回復は任せてくださいね~」
    「あ、ありがとうございます」
     おっとりと背後で桃香の防護符の回復を受けた晶子が礼を返すやり取りを聞きながら、水人は微笑と共に大鎌を担ぐように構え、前へと踏み出した。
     背後には頼りになる仲間がいる――だからこそ、振り返る事無く水人は眼前の敵へと挑んで行った。


     ――まさに大乱戦とも言うべき状態だった。
     数で勝る灼滅者達は強敵である重梧を戒と蛇目、智慧の三人で抑えきった。そして、多くの回復の支援を受けて配下の三人を倒し切る事に成功した。
     残るは重梧ただ一人――しかし、その重梧は決して油断出来る相手ではなかった。
    「本当は苦手なんだ、前に立つのは」
    「そうかい、だったらとっとと地面に転がしてやらぁ!!」
     にへら、と笑いながらも言い捨てる水人へと重梧はその拳を振るう。その拳は異形の巨大な一撃と化し、いなす事を信条としていた水人を真正面から殴りつけた。
    「でも……今は何より、君にその力で他人を傷つけさせたくない」
     踏み止まり水人が言い放つ。重梧はその笑みの向こうにある真剣な瞳を受け止め、舌打ちした。
    「テメェ等に、何がわかる!?」
    「きっとソレで傷つくのは……自分だ。その傷は、君を独りにする」
     水人は静かに言い捨て、大鎌を握る手に力を込めて言い捨てた。
    「ボクはもう、独りになりたくないし、誰かを独りにしたくないんだ!」
    「うるせぇ!!」
     その間に割り込むように夕闇が鋼糸を振るい、赤外套が大型のワイヤーカッターを振り回す。重梧はその連撃を地面を蹴って後方へ跳躍、紙一重でかわした。
     その重梧へ夕闇が言い捨てる。
    「今の貴方と、好き勝手に暴れて周囲に迷惑を掛けていた彼等……さて、その違いは幾ら程度のものでしょうかね?」
    「く……ッ、言いたい、放題……ッ!」
    「このままだったら、理由もなくひとを傷つける悪い人になっちゃいますよ!」
     晶子の言葉に重梧が唇を噛み、確かに言葉を飲む――それを見て、佳が静かに語った。
    「力で解決できることもある。でも感情だけで振るう力はただ破壊するだけで、なにも解決しない」
    「そ、んな、事……!」
    「仲間も守れず、闇雲に暴れるだけなんて悔しくない? 自分が腹を立てた奴と同じレベルに成り下がって本当に満足?」
     凛と言い放つ佳の言葉は否が応でも耳に届く。正直に言えば、佳にとっては田舎の不良のいざこざなど微笑ましい程度の感情しか湧かない。だからこそ――ここが手を差し伸べるべき場所なのだと佳は理解していた。
    「同じ力でも、使い方次第ではたくさんのモノが守れるってこと、見せてあげる」
     佳が振るう鬼神変の一撃が重梧の顔面を打ち抜く。しかし、重梧は踏み止まった――それこそ、彼に残された本当の意地なのだろう。
    「皆さん、終わらせてあげましょう」
     桃香の清めの風が傷付いた仲間達の傷を癒していく。おっとりとした笑顔だが、その瞳の中には強い決意があった。それに戒がうなずく――誰かの想いを受け取り、そして戦うのがヒーローだからだ。
    「とう!!」
     烈風弐号を駆り、戒は跳躍した。そして、ご当地の力を宿したジャンプキック――ご当地キックを重梧の胸へと叩き込んだ。
    「が、は……!?」
     重い蹴りに重梧の膝が揺れる。そこへ晶子がバスタービームをライドキャリバーが掃射を叩き込む――それに合わせて水人が自身の炎を込めた大鎌を振り抜いた。
    「ぐ、お、おおおおおおおおおおお!!」
     水人のレーヴァテインを受けながら重梧は鬼神変の拳を繰り出した。斜め上から振り下ろされたその巨大な拳を朝陽も鬼神変の拳で迎え撃った。
     ガギン! という金属のような激突音。朝陽は歯を剥いて楽しげに笑った。
     勝っても負けても引き分けでも笑って終わりたい。気に入らなければ何度でも殴り合い上等だ――どうせなら、嫌いじゃないんだよね、お前みたいなやつ、そうお互い想えたらサイコーだ。それが喧嘩だ――だからこそ、喧嘩は面白い!
    「だから、堕ちるんじゃねーよ!」
     返す拳で朝陽の鬼神変の拳が重梧を殴りつけた。ふらつく重梧へ真横に回り込んだ智慧が刀の鯉口を切った。
    「……じゃ、これで」
     智慧の居合い斬りが重梧を切り裂く。ぐらつくその膝を重梧が両腕で押さえ踏み止まったその瞬間、蛇目がその影を鋭い刃へと変え言い放った。
    「きちんと話を聞いてもらうために――今は全力でやらせてもらいますぜ?」
     蛇目の斬影刃が重梧を深々と胸元に突き刺さる――それが止めとなった、どこか呆れたように苦笑した重梧がゆっくりとその場に崩れ落ちた……。


     ――重梧が目を覚ますと、そこにあったのは赤外套の顔だった。
    「う、わああああああああああ!?」
    「あ、気がつきましたね~?」
     驚きの声を上げる重梧にのほほんと桃香が笑みをこぼした。その場にようやく上半身を起こした重梧が左右を怪訝な表情で見回す。
    「あれ……? 俺……?」
    「これ、パンフね。読んで」
    「ああ!?」
     夕闇に押し付けられたパンフレットを受け取り、重梧はわけもわからずそのパンフレットに視線を走らせた。意外に素直な男である。
    「……俺みたいな力を持った奴等が集まった学校がある……のか?」
    「えぇ、そうですよ。一緒に来て、この町だけじゃなくて、もっとたくさんの人を守ってみませんか?」
     ニコリと晶子が笑顔で告げると重梧は幾度か声を詰まらせ、疲れたように首を左右に振った。
    「いや、でもよ。あの連中が……」
    「あぁ、それなら話は色々とついたぜ? もう悪さはしないだろ」
     朝陽の言葉に灼滅者達は顔を見合わせ、笑みをこぼした。街の不良連中に対しては多くの者が手を貸してくれた――この小さな町もきっとこれで少しは落ち着くことだろう。
    「ま、後顧の憂いはないって事で。一緒に来ませんか? こっちの学園って結構面白いですぜ!」
     差し出された蛇目の手を見て、自分を覗き見る一人一人の顔を見回し――重梧は今度こそ諦めた笑みでうなずいた。
    「いいぜ、それも悪くねぇ」
     パシ! とその手を掴み、重梧は立ち上がる。その足がもつれて転びそうになるが、それを水人が支えた。
     その顔には嬉しそうな笑みがある。それは一人の人間を救え、新しい友を得る事が出来た喜びの笑みであった……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 23/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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