焼け野の雉子 夜の鶴

    作者:三ノ木咲紀

     満月が映し出す朽ち果てた社殿に、一人の女が現れた。
     二十代前半だろうか。若い女――雉子(きぎす)は、少なくとも現代の女性ではなかった。
     つぼ装束に袿をかづいた、武家や公家の女性の旅装束に身を包み、少し疲れた表情は、わずかな希望が浮かんでいた。
     長い杖と市女笠を手にした雉子は、柱だけになった鳥居をくぐると、急いで境内の片隅へと駆け寄った。
     つい最近掘り返された土は柔らかく、雉子の細い指でもたやすく掘り返せる。
     雉子は埋められたかんざしを手に取ると、そっと撫でた。
     淡く光を放つかんざしに、涙が落ちる。
     この社殿で起きた出来事のすべてを理解した雉子は、涙を流しながらつぶやいた。
    「早く、見つけてあげられなくて、ごめんなさい、真頼(ましら)。ごめんなさい、皆さん……」
     闇に堕ち、母を求めてさ迷った六六六人衆・マシラは、多くの犠牲のもとに封印された。
     封印が破られ、マシラを封じるために犠牲になった少女たちの怨念が祓われ浄化され、マシラ自身も二度、灼滅された。
     全ては雉子が、真頼の手を離してしまったことから起きた悲劇。どんな懺悔も生ぬるい。
     はらはらと涙を流す雉子の背後に、人影が降り立った。
    「大丈夫、私にはあなたが見えます。灼滅されて尚、残留思念が囚われているのですね」
     雉子は心底驚いたように振り返った。市女笠と杖を構えたが、微笑むコルネリウスの姿に肩を落とした。
    「……闇に堕ちた真頼を殺せるのは、あの子の母である私だけです。なのに私は、あの子を殺すことができなかった。その結果、多くの人が死に、多くの戌姫が苦しみ、あの子自身も不幸にしてしまいました」
     懺悔するような雉子に、コルネリウスは微笑んだ。
    「私は『慈愛のコルネリウス』。傷つき嘆く者を見捨てたりはしません」
     コルネリウスの言葉に、雉子は目を閉じた。
     真頼はもはや、この世界にいない。だが、生きている。雉子の知らない、どこか遠くにいるのだろう。
     ならば。真頼は諦めない。どんなに時間がかかっても、必ず蘇る。
     ならば。雉子にできることは、たった一つだけだった。
    「真頼はいつの日か目覚めて、私を求めて再び罪を犯すでしょう。そうなる前に、私はあの子に会います。何百年でも待って、謝って叱って抱きしめて……」
     雉子はかんざしを抱きしめると、聖母の笑みを浮かべた。
    「共に消えて、逝きましょうね」
    「……プレスター・ジョン、プレスター・ジョン、聞こえますか?  あなたに私の慈愛を分け与えましょう。眠りから目覚め、再び理想王として顕現なさい。その代わり、この哀れな母雉を、あなたの国に匿ってください」
     雉子の輪郭が、はっきりと浮かび上がる。
     座って目を閉じ瞑想する雉子を守るように、市女笠と杖とかんざしがふわりと浮かんだ。

    「マシラのおかんが、見つかったで」
     くるみは腕を組むと、難しそうにため息をついた。
     マシラって? と首を傾げる灼滅者に、くるみは頷いた。
    「マシラ、っちゅーのは『おかんに会いたい』いうだけで序列四四五番にまでなった六六六人衆や。封印されて力を失うてたんやけど、目覚めて二回灼滅されたんや。その会いたかった、ホンマのおかんがマシラのいた社殿を見つけ出して、コルネリウスに力を与えられたみたいなんやわ」
     普通は残留思念に力などない。だが高位のダークネスならば、力を与えることも可能だろう。
     現在、雉子は他人に害を与えることはない。雉子自身も、そう強くはない。
     真頼に会い、共に消えるという望みを叶えるため、邪魔する者は足止めして逃げる。
     放っておいても害はないが、コルネリウスが絡んでいる以上、このまま放置もできない。
    「慈愛のコルネリウスが雉子に力を与えとるところに乱入して、彼女の作戦を妨害したってや。まあ例によってコルネリウスとの交渉はできん。雉子はマシラの目覚めを待ち続けて、待ち続けるために逃げ隠れしまくる、都市伝説みたいなもんや。能力は、杖で攻撃して市女笠で守っとる間に本人は逃げる、いうスタイルやな。杖も市女笠もかんざしも、別々に攻撃してくるで注意したってな」
     杖はマテリアルロッドのような、市女笠はWOKシールドと同様のサイキックを、かんざしは契約の指輪のサイキックを使う。
     雉子は怪談蝋燭のようなサイキックを使い、雉子が生きている限り、これらを倒しても十分後には復活する。
     杖はクラッシャー、市女笠はディフェンダー、かんざしと雉子はメデック。
    「ほんま、慈愛のコルネリウスは何考えとるのか分からん。うちはただ、皆が元気で帰ってきてくれるんだけが願いや。あんじょうよろしゅうな」
     くるみはぺこりと頭を下げた。


    参加者
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)
    ハイナ・アルバストル(怯懦な蛮勇・d09743)
    ライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    双葉・幸喜(正義の相撲系魔法少女・d18781)
    高柳・一葉(ビビッドダーク・d20301)
    神桜木・理(空白に穿つ黒点・d25050)

    ■リプレイ

     満月が映し出す朽ちた神社の境内に、二人の女性が立っていた。
     何かを話しているが、鳥居の陰で見守る灼滅者達には聞こえない。だが、その内容を彼らは正確に把握していた。
     二十代の女性が、十代の少女に向かって懺悔するように俯く。その姿に、神桜木・理(空白に穿つ黒点・d25050)は痛ましそうに目を細めた。
    「……マシラの母、か。コルネリウスさえ絡んでなければ対立することも……。いや、考えても詮無いことか」
    「すべては母の愛ゆえではある、のでしょう。それでも、雉子をこのままには、しておけません」
     理の隣で、ライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171)は静かに頷く。
     手を離してしまった息子を求め、長い時間をさ迷った雉子。ようやく手にした手がかりをもとに、息子と再会する日を待ち続ける決意に、コルネリウスが力を貸した。
     複雑で同情的な空気の流れを、桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)の冷静な声が断ち切った。
    「母? 愛? 情と言う名の衝動に呑まれた、ただの亡者よ、アレは」
     気分悪そうに切り捨てた理彩は、ハンズフリーの照明を灯すと、瞑想を始めた雉子に向かって歩き出した。
     理彩に続いて、RB社製 小型LEDランタンのスイッチを入れた双葉・幸喜(正義の相撲系魔法少女・d18781)もまた歩き出す。
    「生前の事情がどうであれ、妄執に囚われるのは、正しいことではありません」
     理彩と幸喜の言葉に、灼滅者達は迷いを振りきる。それぞれの思いを胸に、照明を手に歩き出した。
     幸喜の声に気付いたのか、雉子に力を与えたコルネリウスは、灼滅者達の方へ顔を向けた。
    「コルネリウスさん。雉子さんをあの国にお送りして、マシラさんに会わせて差し上げるのですね。でも、どうして「力」まで……」
     アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)の声に、コルネリウスは答えない。
     立ち去ろうと向けた背中に、アリスはなおも声を届けた。
    「コルネリウスさんは、あの国での一件をご存知ですか……? スキュラさんやボスコウさん、ゲルマンさん達があの国の「外へ」と出ようとした一件です。もしコルネリウスさんがご存知ない事でしたなら……。どうか、お気を付け下さい」
     会釈して見送るアリスの声が、届いているのかいないのか。何も答えないまま消えたコルネリウスに続くように、雉子は立ち上がった。
     笠と杖が、ふわりと浮かぶ。警戒するそれらを制して、雉子は口を開いた。
    「あなた方は……。真頼を灼滅した方たちですね?」
     雉子の言葉に、高柳・一葉(ビビッドダーク・d20301)は切なそうに頷いた。
    「好きな人の元に送った心算だったけど、でも会えてなかったんだね」
     一葉の言葉に、雉子はかんざしを握り締めた。
    「……。消える訳には、いかないんです。約束、したんです。あの子と。『もう一度会いましょう』と。見逃しては、いただけませんか?」
     雉子の懇願に、アリスは静かに首を横に振った。
    「マシラさんに会い、なさろうとする事を邪魔するつもりはありません。けど、コルネリウスさんの与えた力は、削がさせて頂きます。……ごめんなさい」
     退く気配のない灼滅者達に、雉子は泣きそうな表情で一歩下がった。
    「私は、私は真頼に会わなければなりません」
    「後悔とか心残りとかって、本当はどうにもならないものなんじゃないかって思うんだ」
     一歩前に出ながら、居木・久良(ロケットハート・d18214)が雉子に語り掛けた。
     諭すような言葉に首を横に振り、雉子はなおも続けた。
    「過ちを、償いたいんです。ただそれだけなんです!」
    「子を想う母……か。健気だね。母を失った子たる僕からすると、恋しくすらある。だが哀れだよ。なにせ、マシラは君を……」
     ハイナ・アルバストル(怯懦な蛮勇・d09743)の言葉を遮るように、理彩はWOKシールドを振るった。
     雉子の陰で攻撃態勢に入っていた黒樫の杖の不意打ちが、WOKシールドによって防がれる。
     甲高い音が響く中、理彩は不快そうに雉子を睨んだ。
    「嗚呼、気分が悪いわ。斬っても甦って来るなんて。死んだら潔く消滅しなさいな」
     市女笠が、警戒するように雉子との間に割って入る。不意打ちを防がれた雉子は一歩下がると、周囲を注意深く見渡した。
    「……見逃していただけないのでしたら、力づくでも逃げさせていただきます!」
     雉子の声に応えるように、黒樫の杖が舞い上がった。


     理彩によって攻撃を防がれた黒樫の杖は、回転しながら放物線を描き、灼滅者達へと襲い掛かった。
     風を孕み、鋭い打撃が風となって、地面すれすれを薙いでいく。
     黒樫の杖の回転に、砂埃が舞い上がった。威力よりもむしろ視界を遮ることを目的とした攻撃が、灼滅者達の足元を払う。
     杖の攻撃を何とか避けた理は、砂埃が舞い上がった瞬間駆け出した雉子の姿に声を上げた。
    「雉子が森へ向かったぞ!」
    「行かせない!」
     理の声と同時に、一葉が動いた。
     逃げようとする雉子の周囲に、結界が展開する。驚いた雉子が怯んだ瞬間、結界子が雉子を縛ろうと襲い掛かった。
     結界が雉子を縛る寸前、市女笠が動いた。
     雉子に体当たりするように突き飛ばすと、結界の光が笠を縛りつけた。
     結界を何とか振りほどいた笠に、衝撃が走った。
     声掛けと同時に駆け出した理の鬼神変が、笠に叩き込まれる。笠の面を大きく歪ませた市女笠は、ゆらりと揺れながらもなお雉子の傍を離れない。
    「Zauber-Musik,Anfang!」
     ラインの声が響き、フラメンコギターが高らかに鳴り響いた。
     情熱的なフラメンコのメロディが、音の刃となって市女笠へと突き刺さる。
     無数の細かい傷が入った市女笠に追い打ちをかけるように、ラインはナノナノのシャルへと指示を出した。
    「Gehen Sie!」
     フラメンコのメロディに乗せて、歌うように出された指示に、シャルは手にした杖をくるりと振った。
    「ナノ!」
     ト音記号側の杖の隙間から、しゃぼん玉が生み出される。
     無数のしゃぼん玉は市女笠へと向かって突き進み、傷を広げて消えていく。
     ぼろぼろになった市女笠の面が、再び歪んだ。
    「市女笠――ディフェンダーは集中攻撃で落とすべきだからね」
     ハイナの腕が、巨大な鬼の姿に変わる。強烈な膂力から放たれた鬼神変が、市女笠を大きく歪ませる。
     衝撃に耐えかねたように大きな穴があいた市女笠は、砂のように崩れて消えていった。
    「相撲は神事。力士は神職。この世に残った妄執を祓い、いるべき場所にお送りしましょう!」
     転倒しながらもなお逃げようとする雉子に、幸喜のご当地ビームが突き刺さった。
     諸手突きから放たれたご当地ビームが、雉子の肩に突き刺さる。雉子は肩を押さえながら、幸喜を睨みつけた。
    「私がいるべき場所は、真頼の傍です! 邪魔を、しないでください!」
     怒りに囚われた雉子をなだめるように、かんざしが光を放った。
     落ち着かせるような、言って聞かせるような光に包まれた雉子は、我を取り戻したように冷静に戻る。
     雉子の意識を引きつけるように、電子音声が鳴り響いた。
    「雉子さん。あなたを、止めさせていただきます!」
     アリスの声と共に、スート・ザ・ロッドがハートの鍵の形へと姿を変える。
     赤色の標識のようになったスート・ザ・ロッドが、雉子を捉えようと風を切る。
     スート・ザ・ロッドに気付いた雉子は、急いで後ずさる。
     雉子に届かず空を切った攻撃を、雉子は一瞬だけ振り返る。
     森へ向かって走り出した雉子は、ふいに足を止めた。
     雉子の前に回り込んだ久良は、雉子を抱きしめるように、その場にとどめたのだ。
    「どいてください!」
    「どかない! 雉子さんを逃がすことで、被害が出るなら倒さなくちゃいけないんだ!」
     体を張り、全身で雉子を押しとどめる久良が、赤い炎に包まれた。
    「真頼を止めなければ、更に被害は出るのです! どうして分かってくださらないのですか!」
     炎に包まれ、熱の痛みに歯を食いしばる久良は、それでも雉子を離さない。
    「Schall! Bitte!」
    「ナノ!」
     ラインの呼びかけに、シャルは杖のヘ音記号側でハートを描いた。
     宙に描かれたハートが、久良の傷を癒し、体にまとわりついていた炎を消し止めた。
     苛立ったような雉子の背中に、漆黒の弾丸が突き刺さった。
     傷の痛みに、雉子は逃げる足を止める。
    「何であろうとそれが闇なら……意志も、想いも、願いも、祈りも、信念も、諸共に斬り捨てるのみ」
     冷静な理彩の声に、雉子は理彩を振り返った。


    「斬り捨て……られたら、どれだけいいでしょう」
     雉子はそっとかんざしを抱きしめた。
    「いちどで……。一度でいいから、会いたい。どこにいるんです、真頼」
     放心したようにつぶやく雉子に、アリスは一歩前に出た。
    「マシラさんは、此処には――この世界にはいらっしゃいません」
     アリスの言葉に、雉子はハッとしたように顔を上げた。
    「真頼の居場所をご存じなのですか!?」
    「マシラは、コルネリウスが絡む夢の国にいる。奴さえ絡まなければ良かったんだが……」
    「息子さんとの再会は、この世界ではない場所で、お願いします」
     悔しそうに頭を振る理の言葉を継いで、ラインがそっと目を伏せる。
    「どうやって行けばいいんですか? コルネリウスにもう一度会えばいいんですか?」
    「死になさいな。死ねば行けるわ」
     あっさりと言い放った理彩は、不快そうに眉をひそめた。
    「生死の理すら捻じ曲げる、それがダークネスの思い上がりと傲慢ということ?」
    「死ねば……。そう。そういうことだったのですね」
     雉子は顔を上げると、さっと片手を上げた。
     黒樫の杖が雉子の前に舞い戻り、灼滅者達に向けられる。戦う意思をあらわにした雉子は、きっぱりと宣言した。
    「私は、死にません。私は「真頼を待つ」と決めたのです!」
     大きく振りかぶった杖が、理彩に向けて振り下ろされる。
     雷を纏い、大きく振り下ろされる杖に向けて、一葉のライドキャリバー・キャリーカート君が突進した。
     横からの突進に、杖の軸が大きく逸らされる。苛立ったような杖はキャリーカート君を殴りつけ、地面へと叩き落とした。
     キャリーカート君は地面をバウンドしながらも、なんとか態勢を立て直して杖に向き合った。
     軸のぶれた黒樫の杖に、ハイナは腕を振り上げた。
     手の中に現れたのは、赤い杖だった。杖から滴り落ちる血が、まるで意思を持っているかのように一振りの槍となる。
    「この戦いは情けなのさ。憐憫ゆえに僕は君を殺すのだ」
     突き抜ける槍が、黒樫の杖に突き刺さる。
     大きく削がれ、ぼろぼろになりながらも、黒樫の杖はなお雉子を守るように立ちはだかる。
     その在りように、幸喜は拳を握り締めた。
    「その妄執を絶ち、あなたに救いを!」
     相撲の突っ張りに似た無数の拳が、黒樫の杖に突き刺さる。
     黒樫の杖を戦場の輪から押し出すように追い込んだ幸喜は、最後の拳を黒樫の杖に叩き込む。
     戦場という土俵の外へと押し出された黒樫の杖は、地面に落ちて砂となって消えた。
     一人残された雉子は、反射的に逃げようと後ずさる。
     その腕に、白い帯が巻き付いた。
     アリスが放った白の女王のケープが、雉子の動きを封じる。雉子は何とか逃れようともがくが、強い意志を持って放たれたケープは、雉子の逃走を許さなかった。
    「雉子さん。お母様として、マシラさんのお側に、行ってあげてください」
    「本当はどうすれば一番いいのか、分からないんだ。でも出来れば、マシラに会わせてあげたいって思うよ」
     想いを込めた無数の弾丸が、雉子に突き刺さる。雉子は何も言わず、ただ黙って454ウィスラーから放たれる弾丸を受けていた。
     膝をついた雉子の前に、理と一葉が立った。
    「マシラについては、多少知っている。……あちらで、会えるといいのだがな」
    「同じ存在として、夢の国で一緒になれるなら、倒してあげる」
     複雑な想いを抱いた理と一葉の攻撃が、雉子を切り裂く。
     神が薙ぎ、影を斬る。
     かづいた袿がはだけ、黒髪が露わになった雉子は、そのままうつ伏せに倒れた。


     雉子の足が、光の粒となる。
     崩れゆく体を押しとどめるように、雉子は最後の力で起き上った。
    「……これで、真頼のいる国へ行けるのですね」
    「でも! ……でも、それは何か違う気がするよ。だって、夢の国で延々さ迷うことになるんだよ。そうなる前に、マシラと会わせてあげたいのに……」
     一葉の訴えに、久良も頷いた。
    「雉子さん、もしあちらでマシラと会えたら、しっかりと抱きしめてあげてね」
    「コルネリウスの力が問題なければ、ここで想いを遂げさせてやっても良かったのだが……」
     どこか悔しそうな理に、雉子は首を横に振る。
     雉子は力を振り絞ると、一葉にかんざしを差し出した。
    「ありがとう、優しい人たち。でも、私は大丈夫。かの国に真頼がいると分かっているだけで、どれだけ心強いか」
     かんざしを受け取った一葉に微笑みかけ、雉子は灼滅者達を見渡した。
    「ありがとう、優しい人たち。あなた達のお蔭で、いつか必ず救われるでしょう。……私も、真頼も」
     雉子の体が、光の粒となり、天へと昇っていく。
     最後の一粒が昇り、満月へと溶けて消えていく。
     一葉の手に残されたかんざしが、月光を浴びて青白く輝く。
     かんざしを握り締めた一葉の弔いが、神社に静かに響いた。

     誰に顧みられることもない山奥に、朽ちた社殿があった。
     数々の想いを乗せた神社はただ、静かに眠りについていた。


    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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