シロといけない温泉

    作者:相原あきと

     そこは愛媛県は道後温泉……のとある露天風呂。
     人払いがされており、温泉には今誰もいない。
     ガララ。
     更衣室とつながる扉が空き、『いけないナース』が顔を真っ赤にした少年アンブレイカブルの手を引いて温泉に入ってくる。
    「あのあの、や、やっぱりシロは帰るッス!?」
    「あらぁ、さっきは強くなれるなら何でもするって言ってたじゃない?」
     大人なナースの色香に、顔を真っ赤にした少年アンブレイカブルのシロはあたふた。
    「あのあの、確かに言ったッスけど……そ、その、えっちなコトは……」
    「ほら、全部お姉さんに任せればいいから……はい、ばんざーい」
     薄汚れた空手着を脱がされ、アンブレイカブルの少年シロは…――。
     ――時間経過――。
     そして……。
    「う、うう……汚れてしまったッス……」
    「気持ちよかったでしょう?」
    「そ、それは……」
     温泉の縁で正座して泣く少年アンブレイカブルが思い出して真っ赤になる。
    「それにちょっと力を込めてごらんなさいな? 修行した後みたいに強くなってるわよ?」
     シロは言われるままに拳を握って力を込めると、今まで以上にオーラが集まり、力がみるみる湧いてくる。
    「あのあの、本当に力が湧いてくるッス!?」
    「これが大人の階段を登った効果よ?」
     素直に強くなった事に感心する少年アンブレイカブルを見つめつつ、いけないナースは「これでこの子とは友好関係が結べた」と心の中でほくそ笑むのだった。

    「みんな、軍艦島の戦いの後、HKT六六六がゴットセブンを地方に派遣して勢力を拡大しようとしているのは知っているわよね?」
     教室の集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     今回の依頼はその中の1人、ゴッドセブンのナンバー2、もっともいけないナースが愛媛県の道後温泉で起こす事件だ。
     もっともいけないナースは、配下のいけないナース達に命じて、周辺のダークネス達にサービスをしているらしく、サービスを受けたダークネスはパワーアップすると同時、もっともいけないナースと友好関係になってしまうという。
    「今回の依頼は、温泉にやってきてるアンブレイカブルともっともいけないナースの組織が友好関係を築かぬよう阻止することよ」
     珠希が道後温泉の地図の1点に丸をつける。
    「この温泉に行けば接触できるわ。タイミング的には皆が全員で露天風呂の垣根を越えて突入すると、ちょうどいけないナースがアンブレイカブルの手を引いて温泉に更衣室からやってくる所に鉢合わせできるわ」
     この時、温泉はいけないナースに貸し切られ、一般人は誰も来ないと言う。人払いをする必要は無いと珠希は言う。
    「戦闘になった時なんだけど、いけないナースは『お客様に安全にお帰り頂く事を最優先』するよう動くみたいなの」
     つまり、いけないナースは自分は灼滅者の足止めに徹して、温泉に来ているアンブレイカブルの逃走を優先させるらしい。
    「正直、いけないナースとアンブレイカブル、両方を相手に戦ったらまず勝てないから、今回はアンブレイカブルの方は逃走してもらう方が良いわ」
     もっとも、アンブレイカブルも別に灼滅者が来たからと言って逃走する理由は無い。
    「ただ、このアンブレイカブル、見た目通り子供っぽい性格みたいで、かなり素直な子らしいの。何かうまく口車に乗せれれば温泉からいなくなると思うわ。でも、アンブレイカブルは戦いが好きな性格だから、灼滅者とここで戦うと楽しそうだ、とか思われると嬉々として戦闘に参加してくると思うから、それだけは注意してね」
     戦闘では、いけないナースはサウンドソルジャーと殺人注射器に似たサイキックを使い、得意な能力値は神秘、戦いでは妨害優先の戦い方で1人ずつ灼滅者を倒してくると言う。
     ちなみにアンブレイカブルの方はストリートファイターとバトルオーラに似たサイキックを使い、防御優先の戦い方をするという。なにやら必殺技的な強力な技も使うらしいが、基本的に戦わない方が良いだろう。
    「もっともいけないナースといろんなダークネスが協力関係を結ぶのは阻止する必要があるわ。さっさと配下のいけないナースを灼滅して、友好が結ばれないよう、よろしくね!」


    参加者
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    村上・忍(龍眼の忍び・d01475)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    桜庭・翔琉(徒桜・d07758)
    多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)
    桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)
    御火徒・龍(憤怒の炎龍・d22653)
    ルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)

    ■リプレイ


    「こんな時間に人が少ないなんて穴場な温泉ですね~」
     垣根を飛び越え着地した灼滅者達の中、久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)が言う。
     と、それと同時にガララと更衣室に繋がる扉が開きいけないナースと顔を真っ赤にした少年アンブレイカブルが温泉へと入ってくる。
    「あのあの、や、やっぱり、シロは帰るッス!?」
    「さっきは強くなれるなら何でもするって……あらら? 貸し切りって言っておいたのに、何あなた達?」
     途中で灼滅者達に気づいたナースが見定めるような視線で聞いてくる。
    「此方は被害者の会と成っております」
    「はぁ?」
     撫子の答えにナースが眉間に皺を寄せる。
     状況がわからないシロはおろおろ。
     そんなアンブレイカブルに撫子が落ち着いた声音で。
    「大丈夫ですか? まだ其処のお姉さんに良からぬ事をされていませんね」
     思わず素直にコクリと頷くシロ。
     そのシロを庇うように前に出たナースが。
    「意味が解らないわ。ここは貸し切りよ、さっさと出て行ってくれないかしら?」
     胸を強調するよう腕を組んで言い放つ。
    「ようやく見つけましたよー……!」
     対してナースを指差しそう言うはルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)、足元の霊犬のモップはピクリと反応するも再びぐで~となる。
     まあ、気にせずルーナはナースへと抗議再開。
    「可憐なメイドの純情を弄びやがりましたねこんちくしょう! 強くなるどころかあの後から碌に力出なくなりましたよ!?」
    「ええ!?」
     聞いてたシロが驚き、ナースが睨んでくる。ルーナは足元のモップを抱えると。
    「そこの子もどうせ騙すつもりなんでしょう節操なしめ! もう許しません! 成敗してくれます、この……モップが!!」
     ドンッとコモンドール犬のモップを突き出す。
    「もふっとしてて可愛いわね……って、違うわ! なに訳の解らない事を言ってるの!」
    「とぼけんじゃねぇっ! みんなの純潔を返せって言ってんだ、オラァ!」
     ビシッと一・葉(デッドロック・d02409)が一喝して話を遮り。
    「おい少年、こいつの言う事聞いたら、あーんなことやこーんなことされてマジでトラウマになんぞ」
     葉の剣幕にびびるシロだが、それを察したナースがシロと視線を合わせるようしゃがみ「強くなりたいって言ってたわよね。私は嘘を言ってないわ。お姉さんを信じて」と籠絡させようとし――。
    「騙されんな! 俺達もそうやって騙されたんだ」
     葉の言葉にビクッとナースから離れるシロ。
    「ちょっと! いい加減にしなさいよ! 嘘を言ってこんな可愛い子を驚かせて何が楽しいの!」
     ナースが額をピクピクさせつつ立ち上がって灼滅者達に叫ぶ。
    「それはこっちの台詞だ……よ、よくもやってくれたもんだ。お前のせいで、俺は……」
     弱々しく反論するは桜庭・翔琉(徒桜・d07758)、ナースに向けて武器を構えるが力が入らないのかヘロヘロだ。
    「シロとか言ったな。口車に乗せられるな、こいつは上手いことを言ってお前を弱っちくさせようとしている」
     もちろんソレは演技だが、作戦の為には仕方がない。
     熱くなる皆を宥めるよう村上・忍(龍眼の忍び・d01475)が「皆様、お気持ちは分かりますが落ち着いて……また付け入られてしまいますよ」と、さりげなくナースを悪者にしつつ口をはさむが、その影に隠れて翔琉は自分に続くよう多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)にアイコンタクトを送る。
     コクリ、頷き千幻は忍を退けるように一歩前に出て。
    「見ろ、俺も元々はどこに出しても恥ずかしくねえ立派な筋肉に覆われた肉体だったんだ! それが……こいつに騙されたせいでこんな……ぼ、棒みてえな情けねえ身体になっちまった……!」
     正直言って情けなくなる、それにいけないナースには今まで散々手を焼かされて来たせいで演技でも負けた振りをするのは悔しくて堪らない。だが、それが演技を超えた部分でシロに伝わったのか、少年アンブレイカブルがぞわぞわと震えつつ「あのあの、いったい何をされたッスか?」と真剣に聞いてくる。
    「それは……あぁ……思い出すのもツラく酷いことを……」
     シロの問いに絶妙な間で答えるのは桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)。
    「そ、それはどんな――」
    「く、口では言えないあーんなことや、こーんなこと……どんなって言われても……く、口でいませんっ!」
     ぽっとなぜか赤くなりつつシロから顔をそむける萌愛。ツラれてシロも頭から湯気が出るくらい真っ赤な顔になる。
    「と、とにかく、あなたはここから早く立ち去るべきです」
    「え、えとえと、その、そ、そうッスね」
     右手と右足をギクシャクと同時に動かしつつ脱衣所の方へ回れ右するシロ。
    「ちょっと、ダークネスの私よりあんな奴らの事を信じるの!?」
     強引にシロを掴んで再び180度回転させるナース。シロはナースから顔をそらしているが目はグルグル。
    「少年、騙されるな! その淫魔はただエロい事をしたいだけだ!」
     あと少しだと御火徒・龍(憤怒の炎龍・d22653)が勢いよくナースを指差し。
    「そいつは男を騙してやるだけやって姿を消す。そんな奴に唆されて穢れたら、お前の修行が台無しになるぞ!」
     その言葉はシロにとってポイントが高かったのか、ぐるぐるしていた目がスッと焦点を結び、我に返ったように龍を見つめ。
    「修行……その通りッス! 努力に勝る近道は無いってライバルも言ってたのに、シロは……間違っていたッス」
     シロが正しいぞとばかりに頷いて見せる龍。
    「ちょっと!?」
     慌てるのはナースだ。だが、シロは首を横に振る。
    「私達は、これら力を奪われた仕返しに、そこのナースさんと戦うつもりです。あなたも一緒にお仕置きします?」
     萌愛が誘うがそれにもシロは首を横に振る。
    「ナースのお姉さんは淫魔だから、そ、その、エ、エッチな……事とかしたいのは……えと、つまり、騙されそうになったシロの心が修行不足だっただけッス」
     真顔で答えるシロにナースも言葉を挟まない。
    「でもでも、もし、弱ってるお兄さんたちがナースさんに勝ったら、今度はシロと戦ってほしいッス。炎とかもちゃんと回復するの覚えたし、必殺技も魅せたいッスから」
     シロの視線が忍に注がれ、前に戦った事のある忍が「やはり……」と呟き。
    「一つ、教えてくれる? あなたは確かご当地怪人にKOされた筈。一体どうして無事で……?」
    「いつの事を言ってるかわからないッス……シロ、強そうなダークネには戦いを挑むッスから……ごめんなさいッス」
     素直に謝るシロ。なんとも微妙だ。
     結局、灼滅者の何人かがいつか出会った時は戦おうと約束をしつつ、シロは灼滅者達とナースに手を振り、そして温泉から姿を消したのだった。


     灼滅者の中には戦闘序盤はシロとナースの2体を相手にする必要があると考えていた者も多かったが、結局シロは一切戦わずに去って行った。これは被害者の会という予想外に良いアイディアを思い付いたおかげだろう。
     完全にシロの気配が消えるのを待ち、撫子は着物の袖からカードを取り出し軽く口づけをする。
    「殺戮・兵装(ゲート・オープン)」
     自身の慎重よりも長い十文字鎌槍が出現し、ダイダロスベルトを仕込んだ羽衣がユラユラと揺れ始める。
    「あなた達の目的は何?」
     いけないナースが戦闘態勢に移りつつ聞いてくるも。
    「言う必要がありますか? 何にせよ、ナースさんには消えてもらいます」
     撫子が言うと共に槍で空を斬り、同時に現れた氷のつららがナースへ飛ぶ。
     バキャンッ!
     ナースが注射器を投射し氷を相殺、再び手に別の注射器を出現させ。
    「まぁいいわ。戦闘になるようならお客様には帰ってもらう予定だったし」
     さらりと言うが、その表情からは自分の思い通りにならなかった事への口惜しさが滲み出ていた。
    「お客様第一ねえ、プロ意識の高いこって」
     横からの声にナースが振り向くと、すぐ間近まで葉が迫っていた。咄嗟に注射器を逆手に構え、針部で葉の繰り出すクルセイドソードを受け止める。
    「何気に淫魔と殺り合うのはじめてか……なぁあんた、初めての相手には、いっぱいサービスしてくれよな?」
    「私の下僕になるのなら、後で幾らでもサービスしてあげるわ」
     ナースの注射器を掻い潜り、僅かに太ももとを切り裂くと、反撃が来る前に葉は大きく飛び退る。入れ違いにナースの前に飛び出すのはモップ。咥えた刀でナースに斬りかかる。
    「良い感じですよモップ」
     主人のルーナが後ろで仲間達にイエローサインで耐性を付与し。
    「しかし、さすがに大人の階段を登らせるにはイロイロとまずいでしょう、彼は……!」
    「あら? 自分が興味無いからって決めつけはいけないわね」
     ナースがモップを弾き飛ばしてルーナに言う。
    「いやー、まぁ、興味が全くないかと言われれ――もがっ」
     弾かれ跳んで来たモップが顔にあたって最後までセリフが言えないルーナ。まぁ、それで良かったとも思える台詞を言おうとしていたような気が……。
    「どちらにせよ、純粋な子に手を出そうとするなんて……見境なさ過ぎです!」
     ルーナと同じく前衛の仲間達を魔力の宿った霧で包みその攻撃力をアップさせつつ萌愛が言う。
    「見境なく殺す奴らに比べたらセーフでしょう?」
     いたずらっぽくナースが言うが、そこに影の触手が飛び込み両足首を縛り上げる。
    「いーや、アウトです。いくらダークネスでも子供に何をするんだか」
     言いつつナースを縛る影をキツくする龍。
    「ご想像の通りの事を、よ?……それにしても、足を縛っても意味は無いわ」
     そういうとナースは唄を歌いだす。
     だが、咄嗟に千幻が皆の前に出て歌の攻撃を1人で受け止める。
    「見た目はまあ、こんなんでも……俺は役に立つ壁だ」
     そして、耐えた千幻に即座に連携するように霊犬のさんぽが浄霊眼で傷を癒す。
     攻撃と同時、僅かに影が緩んだ隙にジャンプして飛び抜けるナースだが、着地地点を確認するとやけに石鹸やら桶やらが目立つ。それは風呂場という戦場で有利に戦おうと忍が動いた結果だった。そして、ちらりとそちらを気にしたナースを翔琉は見逃さない。
     翔琉の交通標識が赤色標識に変化、ナースが着地した瞬間には目の前へ。
     バンッと殴打されると共にナースの身体が痺れる。
    「く、この私に……」
     悔しそうなナース。対して翔琉はくるりと交通標識を回転させると、それをナースへ突きつけ言う。
    「さあ、バッドステータス合戦といこうか」


     戦いは灼滅者優勢で進んでいた。やはり戦闘前にシロを帰せた功績は大きい。
     イライラしたままナースが注射器を両手に構え踊るように前衛達へと無差別攻撃を行なうが、千幻とモップが撫子と萌愛の前に飛び出し2人を庇い、忍が冷静に敵の力任せな攻撃をその身で受け切る。
    「回復しておきましょう!」
     ルーナが言うと共にイエローサインでまとめて回復を行ない、さらにさんぽも浄霊眼で癒しを与える。
     突き崩せない灼滅者達の連携、ナースの心に恐怖が芽生え始める。もしかして自分は手を出すべきじゃない陰謀に加担してしまったのだろうか……?
    「神様の代わりに天罰! 覚悟してくださいね」
     冷たい声にヒッと振り向けば、背後に立つは萌愛。
     すぅッと息を一息吸い、僅かに身を沈めると同時にその両拳が輝き始め。
     咄嗟に回避しようとナースがするも、その傷ついた脚がもつれバランスを崩す。
     閃光、連打、全拳必中!
     萌愛の下段からの閃光百裂拳に身体が宙に浮くナース。視界は空、だがそこに人影。
     それはDMWセイバーを振り上げた龍だ。
     上空から振り下ろされ、さらに切り返し、切り返しと何度もナースを切り付ける。
     ドサッ。
     血だらけで石畳の床に落下するナース。
     だが「く……っ!」まだ息のあるナースが、低い姿勢のまま地を蹴る。
     向かう先は灼滅者――では無く、温泉を囲う垣根。
    「おっと、そうは問屋が卸さねぇ」
     立ち塞がるは逃走を警戒していた葉。
    「どきなさい!」
     ナースが走りつつ注射器を構え。
     ガギンッ!
     葉がHeads or tails?で注射器を受け止め、身体を張って逃走を阻止。
    「ダークネスつっても6歳~9歳くらいのガキを、ロケットに乗せて月まで飛ばす勢いで階段登らせようとはな、マジで淫魔はパネェわ」
     ギリギリと鍔迫り合いしつつ。
    「あら? 月まで昇らせて欲しいなら、相手してあげてもいいわよ?」
     冷や汗をかきつつナースが押し込み顔を近づけてくる。
    「気持ちよくなってパワーアップか、確かにこっちからお願いしたいくらい――」
     ガッと葉はナースを弾き飛ばし、同時に神霊剣で胴を横薙ぎにする。
    「――なんて、思ってねぇよ?」
    「こ、の……嘘つきどもが!?」
     ナースが渾身の力を注射器に注ぎ、即座に毒々しいオーラが立ち昇り始める。
     だが、スッと葉と体を入れ替え忍がナースの正面に立つ。
    「確かに、戦の手段とは言え嘘が卑劣な事なのは認めます」
     ナースの認識的にも、先ほどの男より目の前に割って入って来た女の方が防御に優れていると気づいていたので攻撃はしたくなかった……のだが、入ってきたタイミングが良く、もう注射器は止まらない。
     ビシッ!
     振り降ろした注射器……しかし、腕が、いや身体全体がマヒしたように途中で動かなくなる。
     トン――静かに背中に押し付けられるは赤い標識。
     翔琉だった。
    「バッドステータス合戦と、言っただろう」
    「っ!?」
     背後の翔琉をチラリと視線だけで振り返った瞬後、正面から轟と熱気が吹き付ける。
     正面、炎を纏ったダイダロスベルトの帯が上段に振り上げた手刀にならうよう掲げられ、ナースが再び正面を向くと同時に忍の手が打ち下ろされる。
     斬ッ!
     注射器を持つナースの手首が切り落とされ、炎がその腕を延焼させる。
    「せめてですが、己よりもお客を優先するその玄人意識は、心より敬意を表しますよ」
     膝を付くナースの耳元で密やかに言葉をかける忍。
     そして。
    「何か、最後に言い残す事はありますか?」
     槍の回転と共に火の粉を花弁の如く舞い散らせ撫子が問う。
    「昇天するのが、私になるとはね……」
     ぶっすりと、撫子の十文字鎌槍がナースを背中から串刺しにする。
    「では、さようなら」
     その呟きと共に、ナースは消滅していった。

     その後、ナースによって貸し切りにされていた温泉で、せっかくだからと温泉を堪能してから帰ろうという話になった灼滅者達は、霊犬含め一時の休息を得る事になる。
     DOG六六六の陰謀は続いている。
     だが、今回のこの事件は……灼滅者達の活躍によって無事解決されたのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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