広げよ! 大風呂敷!

    作者:夕狩こあら

     夕暮れの埠頭に集まった暴走族に、一人の男が声を掛けた。
    「この界隈で一番強い奴は誰だ」
    「誰だテメェ――、ッブヘェ!」
     顎を突き出して威嚇してきたリーゼントを拳一発で地面に叩き伏せた男は、即答を差し出す者以外は全て蹂躙する勢いで質問を投げつけてくる。
    「一番強い奴は誰だ」
    「お、おぅ……そりゃ仁の兄貴に違いねぇ」
    「どんな奴だ」
     既に十数名を路地に沈ませた男に、不良達は口も軽い。
    「兄貴は強ェよ。間違いねぇ」
    「何せ単車と戦って勝ったって伝説もあるくらいだ」
    「……不十分だ」
     再び拳を突き出そうとした男に、背後から声が掛かる。
    「違うな。俺は戦車と戦って勝ったんだぜ」
     現れたのは、一同が口に揃えた仁という男。
    「タイマンだろ? かかって来いやァ!」
     喧嘩慣れした男は、道場破りの如く現れた男にも臆せず上着を脱ぐ。 
    「……その伝説、偽りないか確かめさせて貰う」
     両者が拳を突き合わせた数秒の後――仁は散った。
     
    「不良グループや暴走族らを片っ端から壊滅させているアンブレイカブルが居ます」
     集まった灼滅者達を見渡した五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は、間を置かず言葉を続けた。
    「彼は不良少年らに聞き込みを行い、強い者を探しては戦いを挑むという殺伐とした日々を送る中、今、この地図にある街に辿り着いたようです」
     地図にある赤い点は、不良グループの溜まり場。壊滅を示すバツ印が北上している事から、彼の足跡が紙上に浮き上がる。
    「より強い者と戦おうとする彼は、不良達が箔付けに用いる『伝説』をハッタリと一蹴せず、明らかに大風呂敷を広げたと思う武勇伝も、真実を見極めるべく挑むようですね」
     姫子の視線の意を汲んだ灼滅者が強く頷いた。
     要はハッタリを餌に、彼と戦って灼滅すれば良いのだ。
    「次の標的は、この埠頭に集まる暴走族です」
     不良集団に潜伏し、彼等に代わってアンブレイカブルと戦うのが今回の依頼となる。
    「彼はストリートファイターに似た拳技と、エアシューズに類する足技を駆使する武闘派で、戦闘時のポジションはディフェンダー。回復は行わないようです」
     ひたすらに強さを求め、武を極めようとするアンブレイカブル。彼との戦いは純粋な力と力のぶつかり合いになるだろう。互いが磨き上げた技がぶつかり合う、その激しさに血が流れる事は覚悟しておきたい。
     望むところ、と拳を力強く突き合わせる灼滅者に姫子は更に言を加えた。
    「攻撃は、やはり自らが強いと名乗った者に、より強力で執拗に仕掛けてくる事でしょう。ポジションによっては格下を装うのも策かもしれません」
     8人の連携によってようやく互角か、或いはそれ以上の相手だ。陣形を確認した上で、話術により攻撃対象を絞らせるのが良いだろう。
    「敵を唸らせるようなハッタリで、彼の興味を一般人から引き寄せて下さい。広げる大風呂敷は大きいほど効果がありますから」
     姫子の助言に頷いた灼滅者は、颯爽と席を立って現地に向かった。


    参加者
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    藤堂・焔弥(赤い狂星・d04979)
    織元・麗音(ブラッディローズ・d05636)
    アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)
    狩家・利戈(無領無民の王・d15666)
    豊穣・有紗(神凪・d19038)
    双見・リカ(高校生神薙使い・d21949)
    蔵守・華乃(レッドアイ・d22909)

    ■リプレイ


     空を茜色に染め上げた後は、濃灰の舗装路を闇に溶かし始める黄昏の埠頭。
     やや強く吹きつける潮風が、此処をアジトに群がる男達のリーゼントを押し撫でて流れる中、轟音を噴かす単車のエンジン音に紛れて1人の男が近付いてきた。
    「この界隈で一番強い奴は誰だ」
     既に何百と紡いだ科白を飽きもせず、大炎寺・煉は今宵も投げかける。
    「あぁ? ンだ手前――」
    「これでも時間は惜しい方だ。口に手間を掛けるな」
     そして毎度の事ながら、即答を差し出せぬ者は地に叩き込むだけの単純作業に取り掛かる訳だが、瞬く間もなく顔面を陥没させていた筈の拳は、男の鼻先に触れる寸前で或る掌に包まれた。
    「成程、真っ直ぐなヤツは拳も愚直だ」
    「貴様……」
     繰り出した拳の先に佇むは、藤堂・焔弥(赤い狂星・d04979)。彼は眼前に受け止めた衝撃を静かに下ろしながら、犀利な顔貌を暴いて視線鋭く煉を射る。
    「ザ・脳筋と言うか、典型的なアンブレイカブルと言うか、なんと言うか……」
     その瞬間を見届けて声を割り入らせた豊穣・有紗(神凪・d19038)も灼滅者の1人。彼女は焔弥の陰からひょっこりと顔を覗かせ、周囲の注目を一手に集めた。
    「オウ! 手前ェ等、何者だ!」
     見かけぬ連中に息巻いた暴走族の連中は、跨る単車のマフラーより気炎を吐いて威嚇するも、
    「警察が来た! 補導されるぞ!」
     パニックテレパスにて扇動を図った双見・リカ(高校生神薙使い・d21949)の声にまんまと動揺し、
    「なっ、に……!」
    「急いでここから離れて下さいまし!」
     続く蔵守・華乃(レッドアイ・d22909)が指を示せば、与えられた避難方向へと一斉にアクセルを回す。
    「ほれ、パトカーが来るぞー」
     更に狼狽える者には、アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)が尻を叩いて逃走を促すほどで、
    「散れ! 散れ!」
     埠頭を出た彼等は枝分かれに細路を潜り、エンジン音だけを残して走り去った。
    「あんまりスピード上げると、怖ーい白バイの方が来ますよー?」
     潮風に運ばれる排気音を耳に、散りゆく暴走族を背に見送った華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)は、閑寂を取り戻した夕闇に微笑し、
    「これから私達が死合いのお相手を務めさせて頂きます」
    「何、だと……」
    「短いお付き合いですが、どうぞ宜しく」
     サウンドシャッターを展開して一帯を軍場に整えた。
     煉にしてみれば、当初狙いをつけた不良集団とは別の獲物を相手取ることとなった訳だが、
    「貴様等は強いのか」
     初めて自らの拳を受け止められた事実に、興味の募らぬ筈がない。
     そして彼の望む答えは即座に返され、
    「俺はドラゴンをぶちのめしたことがある女、狩家・利戈だ! いざ尋常に、勝負!」
     狩家・利戈(無領無民の王・d15666)が好戦的な瞳に焔を宿して踏み出れば、
    「我が名は蔵守・華乃! 山をも砕く我が刃、恐れなくば、その目で、魂で、聢とお試しなさい!」
     華乃は愛用の無敵斬艦刀を視線の先に突き出す。
    「私は皆様ほど大した事をしてはございませんが」
     そうして布陣した両者の間より姿を現し、3者揃って一枚岩と成らしめたのは織元・麗音(ブラッディローズ・d05636)で、
    「人を。えぇ、人を殺めた事がございます」
    「……俺の同類か」
    「きっと、貴方と私なら、とてもとても楽しい時間を過ごせると思いますよ」
     煉の低音に返る微笑みが恍惚に似た戦慄を呼び起こした。沸々と湧き上がる暴力への飢えと渇き、死闘を求める激情が血となって全身を巡り始める――甘美な瞬間。
    「貴様等が広げた大風呂敷、事実に相違ないか……見極めよう」
     言うや否や、煉は戦車の如き鉄塊と化して敵陣に飛び込んだ。


     己が武をぶつけ合い、血で血を洗う熾烈な闘いに殺意の波動を覚醒させていく――只その1点に限って言えば、或いは両者は同じ穴の貉か。
    「おっしゃ! 久しぶりにアンブレイカブルが相手だ! 気持ちよく戦えそうだぜ!」
    「ふふふっ、胸焦がれる闘争、極限まで楽しみましょう!」
     大砲の如き勢いで迫る煉を口角を持ち上げて迎えるは利戈と華乃。
    「その雷、受けて断つ!」
     雷光宿す剛拳に稲光る聖拳を突き返した利戈に続き、半身を踏み出した瞬間に現れた敵懐に華乃が戦艦斬りを叩き込む。
    「真っ向勝負で参ります!」
    「嗚嗚お嗚ヲヲヲ、ッッッ!!」
     凄まじい衝撃に両の脚で地を踏み締めた煉は獣の如く咆吼し、拳を振り貫いて両者を陣風に巻き込み後退させた。
     2枚の壁を力ずくで押し退けた煉は、間髪入れず飛び駆る二の矢に防御の腕を差し出す。
    「小娘。貴様も伝説を持つ者か」
    「武勇伝ですか? そうですね。私が手刀を振るうと海が割れるんですよ」
     煉が掲げた腕と十字に交差したのは、紅緋が繰り出す異形の怪腕。藍紫色に落ち行く空に鮮血を吹き上げた彼女は、
    「ほう。虚勢ではないようだ」
     柔らかな頬に返り血を浴びながら、煉の科白を静かに受け取る。
    「貴様等はこれまでにない相手と見た。拳を交えるに相応しい」
     冷たい舗装路を血で温めた煉は然し腕をブラリと下げるどころか、力を溜めて更に血を噴き、敵陣に進んで豪腕を振るった。
    「ふふふ、貴方とは面白おかしく戦えそうで楽しみです」
     麗音はその突進を勢いが乗る前に間合いを詰めて受け止める。日本刀と西洋刀、自身の焔を宿した2振で巨躯を留めた彼女が、迫り出した鋭眼に妖しく囁けば、
    「血みどろのとてもとても愉しい時間を期待しています」
    「言ってくれる……!」
     瞳に宿る狂気の灼熱に是を忍ぶ皮肉が返り、男は漸く後退した。
     尚も腕に絡み付く猛炎を振り払う間もない。
    『起きろニオブ 狩りの時間だ』
     地を這うが如く身を低くして疾駆した颯が、一切の迷いなく敵の喉元に喰らい付いた。
    「ク、ッ……貴様」
    「俺には武勇も伝説も、あったところで糞の役にも立ちはしない」
     そんなものに用はない――物言わぬ烈火が呼吸を奪い、肺を苦しめた煉が焔弥を睨んだ瞬間、
    「いくよ。ボクは戦う」
     追撃に身を翻したリカがシールドバッシュを差し挟んだ。
     但し之は読まれたか、幾千の死闘を生き抜いた闇の本能が上回り、
    「女。体勢が崩れた瞬間を狙うは定石、俺が油断すると思ったか」
    「ク、ッ!」
     淡々たる低音はそのままに、ただ面差は鬼と化して彼女を盾ごと手折った。一片の花弁が地に墜下するより早く叩き伏せようと動いた脚は、然し之を阻んだアルカンシェルのスターゲイザーと交わり、大気を衝撃波と重力波で震わせる。
    「いやー、妾は他の者と違ってか弱い童女、遠巻きに囀るが関の山じゃ」
    「……とんだ謙遜だ」
     不敵な笑みが交わったのも一瞬。その間に膝折るリカは麗音の一声で愛機アリオンに守られ、有紗と霊犬・夜叉丸の手厚い癒しに包まれた。
    「ボクに武勇伝はないけれど、ボク達が居る限り仲間はそう簡単には倒させないよっ」
     天真爛漫な彼女の指先より紡がれる光は温かく心地良い。その的確な支援を夜叉丸も認めたか、魂を共有する相棒に注ぐ視線はまるで保護者のよう。
    「セコンド付きとは優秀……」
     再び立ち上がるリカ、そして凛然と対峙する灼滅者を見渡した煉は、咥内に溜った血を地に吐き捨て、
    「上々」
     初めて――嗤った。


     龍虎見合えば、互いの爪と牙で創痍は激しく、夥しい血が飛沫と上がる死闘は避けられない。そしてその死闘を、本能より深い魂の奥底から求めていた煉は、今、それが訪れた事に雀躍たる思いがした。
     夜の帳を下ろし始める暗いコンクリートに染みるは、まさに龍虎の血潮。
    「ええ、今回はあなたに敬意を表して、全て拳で戦わせて頂きます」
    「最高のもてなし、快く受け取ろう」
     その血溜りを蹴って幾度目かの拳撃を炸裂させた紅緋は、そのラッシュの向こうで狂乱に口端を歪める煉を見つめる。彼は拳打を重ねる毎に瞳を輝かせているようだが、それは写し鏡で、
    「わ、どうしましょう、殴り合いが楽しくなってきました」
     彼女もまた合わせる拳に血を走らせながら、その痛撃に酔い痴れていくようだった。
    「この感触だ……これこそ俺が求めていた闘争だ……!」
     顔面を朱に染めた煉は烈しい連打に身ごと踏み出て掌打を繰り出すも、少女に代わって眼前に現れたのは無機質な黒塊。
    「クッ……逃したか」
     ギャンッ、とエンジンを噴かしたアリオンが盾にと迫り出せば、その陰より鮮烈なる赤いドレスが翻る。
    「貴方には分かるでしょう? 自身の快楽の為だけに人を殺める愉しさが」
    「ぐウ、ッ!」
     長い桃色の髪を涼風に遊ばせるまま、その隙間より緋の瞳を煌かせた麗音が雲耀剣を閃かせ、煉の肩口を強かに貫いた。痛撃に歪む筈の顔は、然し闘志を害うことなく嗤っており、続いて躍り出た焔弥の攻撃を舌を舐めずり迎え撃つ。
    「一体でも多くのダークネスをコイツに喰らわせ、進化する……貴様はその為の『餌』だ。それだけの価値だ。だから……ここで死んでいけ」
    「ッッ……餌、か」
     魔剣『葬魔刀』を十字に構えた両腕で受け止めながら、焔弥を間合いに入れた煉は、彼を覆うデモノイド寄生体が『餌』を欲して蠢く様にクッと笑みを噛み締めた。それはまるで己を見る如く、
    「俺と貴様。何が違うのか分からんな」
     同感、という言葉は、拮抗を打ち破った神霊剣の前に掻き消え、両者は距離を隔てて着地する。水撥ねる音が僅かに靴を滑らせたのは、全て血だ。
    (「鉄の匂い……血の熱さ……全てが俺を昂ぶらせる」)
     暗い染みを落とす血溜りに影が差し、不意に顔を上げた煉は、天駆ける利戈が鋼鉄拳を振り下ろすに合わせて自らも地を蹴る。
    「潰し! 穿ち! ぶち壊す! 我が拳に砕けぬものなど何もない! ダイヤモンドさえ打ち砕くこの拳、くれてやるぜ!」
    「ぬうおををををを……っっっ!!」
     拳と拳を突き合わせ、強者を選ぶべく鎬を削る武と武。
     鬼神の如く眼を剥いた煉は更に闇に意識を沈めたか、利戈の体躯を宙に躍らせると、追撃に細身を差し入れた華乃を投げ飛ばして地に叩き付けた。
    「……あアッ!」
    「……ゥ……ッ!」
     声を絞る両者を更に猛牙が追う、その時。
    「天を割き地を割る我が拳と、いざ尋常に勝負じゃ!」
     小柄な身を敵懐に差し入れたアルカンシェルが、零距離格闘にて二人を守った。閃光を弾く刃撃が煉を退かせる間に有紗が清めの風を戦がせ、夜叉丸が浄霊眼を施すと同時、
    「援護は任せてね~」
    「ボクも、できることをするよ」
     同じ後衛からリカが巨杭を弾き、煉の立ち回りを牽制すべく楔を打つ。
    「グ、ッ……多人数を相手取る戦いは慣れていた筈だが……ッ」
     煉は灼滅者らが使う『連携』という戦術を知らない。
     彼は初めて知る力に押し留められ、その計り知れぬ強さに密かに舌打った。


     強者のみが淘汰を許される世界には鉄則がある。鋭牙を誇る猛獣とて、戦場に相対すれば最後に立つのは一方のみ。
    「俺には分かり易い答えが必要だ」
     然程賢くない煉の強さは、只それだけで測られている。
     そんな彼に明解な答えを差し出したのは、アルカンシェルのやや乱暴な脚蹴り。
    「強者を求めるその気性、嫌いではない。望み通りくれてやろう!」
     足癖の悪さが彼の蹴りの軌道を強引に割った。暴風を伴う回し蹴りを婚星の尾を引きながら手折った彼女は、その衝撃で彼の肺を押し潰し、血反吐を吐かせて分からせる。
    「グ……ッフウ、ッ!」
    「援護するよっ! さぁ、トドメを!」
     激痛に踏鞴を踏む煉を縛ったのは有紗。夜叉丸が斬魔刀を駆るに合わせて深遠の闇を滑らせた彼女は、そうして微動すら失った巨躯を焔弥に差し出した。
     次の瞬間――瞬く間もなく埠頭に火焔が逆巻く。
    「半端者のままでデモノイドロードを超越する存在になる……そんな伝説を作るのも悪くないかもな」
     科白を潮風に運ばれた彼の背後で、灼熱に呑まれた煉が四肢を伸ばして絶叫した。煉獄に投げ入れられるが如き身悶えの後、今際の咆哮を天に突き上げた黒き人型は、儚き塵灰と化し――闇に消えた。
     灼滅を見届けた一同の耳に、誰ともない安堵の吐息が届いたのは寸刻の後。
    「ふふ、楽しいひと時でしたね」
     柔肌に絡み付く血を手の甲で拭いながら、麗音が煉の遺した血溜りに微笑を注ぐ隣では、
    「深手は負いましたが……最後まで立ち続ける事が出来て良かったですわ」
    「インファイトでの攻防を制する! 最高だぜ」
     強敵との死闘を勝利に収めた華乃と利戈が満足気に顔を見合わせ、駆け寄ったリカと共に破顔を重ねた。
    「流石はアンブレイカブル。手強かったね」
     彼女の言う通り、特段弱点のない敵との戦闘はほぼ力勝負だった。彼等の連携が僅かに上回ったとはいえ、前衛を中心に一同は何処かしら名誉の傷を負い、その激しさを伝えている。
    「お疲れさま。ボクが治せば痕は残らないよ~」
     然し有紗が癒しを届ければ、それも制勝の記憶に刻まれるのみ。仲間の無事を確認し終えた一同は、次に血生臭い戦闘痕を消し、埠頭に平穏を取り戻した。
     閑寂とした夜が訪れ、黒い波を寄せる海に視線を投げるのは紅緋。
    「私、海育ちですから、潮の匂いには敏感なんです」
     春先のまだ冷たい風に乗る海の香りが彼女を誘ったか、季節外れの海を愉しむその瞳は穏やかだ。先程まで鼻腔を満たしていた血の匂いを消してくれるのも、潮の恵みといったところ。
    「……ん?」
    「あれは……警邏パトカーか」
     闇を切り裂く赤い警告灯の点滅に気付いたアルカンシェルが振り返り、之に焔弥の爪先が即座に動いた。
     元々は埠頭に屯する暴走族らのパトロールに来たのであろうが、彼等が居ない今、代わりに厄介になるのも面倒で、
    「撤収じゃ!」
     一同はその姿を闇に溶かし、戦場とした埠頭を静かに去った。
     帰路に着く灼滅者を見た者は誰一人として居なかったが、その力強い足取りが彼等の揺るぎなき勝利を示していたことは、彼等が届けた静謐のみが知っていたという。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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