日が傾き始めた時刻。地下鉄から降りた帰宅中の人々が駅前の店に寄っていく。
「お前らどこの部活入るか決めた?」
「オレはバスケにしようかなー」
そんな中、ファストフードの店では腹を空かせた学生達が口元を汚しながら貪るようにバーガーを食べていた。
「俺はサッカー部に入るつもり。結構モテるらしいぜ」
「んー柔道かなー」
喋りながらも旺盛な食欲でバーガーをジュースで流し込み、あっという間にトレイの上を空にしてしまう。
「あ、本屋寄って帰りたいんだけど」
「あー新刊出てたかなー」
学生達は立ち上がり、ゴミの残ったトレイを放置して立ち去ろうとする。
「ちょっと貴方たち! どこにゴミはちゃんとゴミ箱に捨てなさい!」
そこへ箒と塵取りを持った年配のオバサンが怒鳴りつけた。
「はあ?」
「何だ、掃除のオバサンかよ、じゃあこれ捨てといてよ」
学生達は笑って手を振る。
「なんてマナーの悪い! いったいどんな躾を受けてきたのかしら!」
「うるせーんだよ! 向こう行けよ!」
ヒステリックに怒鳴りながら近づいてくるオバサンの体を少年が押し返す。
「どうやらキチンと体に教え込んであげないとダメみたいねっ! 社会のゴミは綺麗にしないといけないわ!」
オバサンは箒を振りかざし、少年の脳天に叩き下ろす。頭が拉げ、目や口から中身が飛び出る。
「え? おい! なんだよこれ!」
「やべぇよ、人殺しだ!」
「何が人殺しよ! 春になったら貴方達みたいな浮かれた常識の無い子たちがわんさかと現われるんだから! 掃除できない子は人じゃないわ! ゴミよゴミ!」
慌てて逃げようとする少年の背中に、オバサンは箒の一撃を叩き込み、呆然と立ち尽くす残った一人の顔目掛けて箒をフルスイングした。
「ぐぇ」
「さあ、綺麗にしないとね!」
3人の男子生徒を塵取りで掬い、3枚の大きなゴミ袋にそれぞれ詰めて纏める。学生達が残したゴミだけでなく、血の汚れまで一滴も残さずに掃除してしまう。
「ひ、人殺しだ!?」
その様子にようやく恐怖に凍り付いていた周囲の人々が動き出し、店内には誰も居なくなる。
「あら、急に空いたわね。これでゆっくりできるわ。それじゃあ灼滅者が現われるのを待ちましょう」
誰も居なくなったテーブル席に座り、オバサンは美味しそうにバーガーにかぶりついた。
「やあ、そろそろ新学年が始まるね」
教室には能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者達を待っていた。
「そんな忙しない時期だというのに、また新しい事件が起きるんだ」
千布里・采(夜藍空・d00110))が掴んだ情報で、斬新京一郎の足取りが分かったのだという。
「斬新京一郎本人が現われた訳じゃないけど、札幌市内でその手引きと思われる事件が起きているんだよ」
現われた六六六人衆は一般人を虐殺して灼滅者を誘き出し、闇堕ちさせる事を目的としているらしい。
「以前から行なわれている闇堕ちゲームを利用して、斬新京一郎が何かを企んでいるみたいだね。みんなにはそれを阻止してもらいたいんだ」
既に現場では一般人が殺されてしまっている。灼滅者が現われるまでその犠牲は増え続けるだろう。
「ここからはわたしが。今回の敵は以前撃退した六六六人衆、五七七番、御手洗・清香だ。前回の作戦では被害を出さずに終えられたが、今回は犠牲者が出てしまっている」
説明を代わった貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)が無念そうに表情を曇らせる。
「戦場となるのは札幌地下鉄新さっぽろ駅の近くにあるファストフードの店だ。敵は店を占拠して待ち構えている。我々はそこに踏み込む事になる」
到着時に店には一般人は居ない。同じ敵との2度目の戦闘だ。情報を活かせば優位に戦えるだろう。
「今回の戦いもわたしが同行させてもらう。殺された者の仇を討つ為にも、必ず灼滅しよう」
瞳に決意を宿すイルマが頭を下げる。
「六六六人衆は強敵だけど、どういう理由かは分からないけど今回の六六六人衆の力が弱まっているようでね。だから灼滅するチャンスでもあるんだ。これ以上被害を出したくないしね。よろしくお願いするよ」
誠一郎の言葉に力強く頷き、灼滅者達は事件の起きる北海道札幌へと向かった。
参加者 | |
---|---|
桃山・華織(白桃小町・d01137) |
神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676) |
海藤・俊輔(べひもす・d07111) |
アイナー・フライハイト(フェルシュング・d08384) |
霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884) |
天木・桜太郎(一朶の桜・d10960) |
碓氷・炯(白羽衣・d11168) |
村正・雨(ヨウキなハリネズミ・d23777) |
●札幌
地下鉄から出ると日が落ち始めていた、北海道は春と呼ぶにはまだまだ寒い程の風が吹いている。
そんな新さっぽろ駅から人々が出入りする中、灼滅者達は目的の場所へと足早に向かう。そこは幾つもの店舗の集まる建物。普通なら人が大勢居そうな場所。だが今その内の一つの店には人っ子一人近づきもしなかった。
「過去の報告書に目は通したが、随分気分の悪くなる敵のようじゃな」
桃山・華織(白桃小町・d01137)は嫌悪を露わにして、ファストフード店の中を見通そうと硝子越しに目を細めた。
「裏で何を企んでいるか知らないが……好き勝手にはさせない」
神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676)は表情を変えずに呟く。だがそれはどこか無理をしているような声音だった。
「弱体化した状態で闇堕ちゲーム、ネェ……。何か情報を掴めれば良いのデスが」
店の前に立った霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)が殺意を放ち、周囲の一般人を遠ざける。
「どんな企みがあるにせよ、過ごすわけにはいかないよねー。これ以上被害が出ないよーに、ここで潰すぜー」
元気に海藤・俊輔(べひもす・d07111)は歩いていたが、店に近づくと鼻をつく嫌な臭いに顔を歪めた。
「嫌な……臭いですね」
それは嗅ぎ慣れた臭い。碓氷・炯(白羽衣・d11168)の脳裏に鮮やかな紅が過ぎる。湧き起こる衝動を抑えるように右腕を強く掴んだ。
「これは血の臭いか……」
アイナー・フライハイト(フェルシュング・d08384)が犠牲者を思い、悔しそうに口を引き締めた。
「ならばせめて、ここで全てを終わらせよう」
決意を胸にアイナーは凛とした表情で自動ドアの前に立つ。
「ああ、これ以上の犠牲者は出させない!」
貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)も力強く頷き、灼滅者達は店内へと踏み込んだ。
「あら、ようやくお客さんが来たようだわ。待ちくたびれちゃったわよ全く。暇だったからすっかり磨き上げちゃったじゃないの」
そこに居たのは一人の年配の女。店内は汚れ一つないようにピカピカに磨き上げられていた。ぱんぱんに膨れた幾つものゴミ袋が隅に除けられている。だがそれでも消し切れない血の臭いが満ちていた。
敵を確認した炯はこれから始まる戦いの音が漏れぬよう結界を張り、ゴミ袋の前で合掌した天木・桜太郎(一朶の桜・d10960)がオバサンを睨みつける。
「見た目だけ良くしたって臭いがとれてねーじゃん。こちとら掃除始めたらとことんやる性質だぞ。覚悟しろよおばさん」
挑発するように言い放ち、桜太郎は剣を構えた。
「綺麗にしよう、オバサンを掃除して」
村正・雨(ヨウキなハリネズミ・d23777)も挑発の言葉を続けると、オバサンの目が吊り上がった。
「誰がオバサンよ! こんな肌の綺麗なピチピチのギャルを捕まえて!」
箒を振りかざし、オバサンが襲い掛かってきた。
●掃除開始
「清香お姉さんと呼びなさい!」
頭を叩き割ろうと振り下ろされる箒を、華織が帯を腕に纏わせて受け止める。すると清香は箒を回転させて掬い上げるように振るうが、それを霊犬の弁慶が咥えた刀で弾いた。
「我らの歓迎の為に相当な無体を働いてくれたそうじゃな」
燃える闘志に反応するように華織のあほ毛がぴーんと立つ。
「そなたのような醜悪な者は最も許し難し邪悪。必ずこの場にて終わらせるゆえ、覚悟せよ」
そして刀に炎を纏わせて抜き打つと、鋭く清香の胸元を斬り裂いた。薄っすらと走る傷口が炎で焼ける。
「あつっ! 火遊びは外でやりなさい! 最近の若い子は躾けってものがなってないわ!」
火が燃え移った前掛けを捨てて清香が怒鳴ると、箒を横薙ぎにして華織と弁慶を吹き飛ばす。
「確かに好ましくない輩は少なからずいるかも知れないが。お前も身勝手な正義を振り翳す口か……」
背後からエルザがローラーダッシュで近づくと、清香が反応して箒を振り抜く。
「その身勝手を捨て置く訳には行かない」
勢いのまま身を屈めて避けると、エルザは跳ね上がるように炎を纏った足で顔を蹴り上げた。
「げふっ」
「どんどん行くよー」
仰け反ったところへ、跳躍した俊輔が頭上から降り注ぐように蹴りを浴びせた。炎が清香に燃え移る。
「熱い! 何てことをするの!? 人に火を向けるなんて! 常識ってものが無いんじゃなのかしら!」
体を叩いて火を消しながら、何て怖ろしい事をする子供達だろうと清香は灼滅者達を見る。
「それとこれ学生さんの落し物ーっ」
そう言いながら俊輔がGPS付きの携帯投げ捨てる。
「こら! ゴミはちゃんとゴミ箱に入れなさい!」
するとキャッチした清香が手早く死体の入ったゴミ袋に入れてしまう。
「オバサンは自分の事を棚上げするモノだというけど、正しくだね」
呆れたように吐き捨て、アイナーが腕に装着した巨大な杭を高速回転させて撃ち込む。
「その身勝手さこそ、汚く、見苦しい」
清香は咄嗟に塵取りを盾にするが、アイナーは押し込んで吹き飛ばした。
「あーあー、綺麗にするっていうか散らかしてるじゃん……掃除始めたら逆に部屋が汚くなるタイプ?」
「あんた達が乱暴したからでしょ! このケダモノ! 私みたいなピチピチのお姉さんを集団で襲うなんて、いったい何をするつもりかしら!!」
挑発する桜太郎に向かって、跳ね起きた清香が箒を振り下ろす。待ち構えていた桜太郎は剣で受け止めた。だがその勢いは強く箒に押し込められていく。
「邪魔だよオバサン。そもそもピチピチとかギャルとか死語だろ」
そこへ飛び込んだ雨が蹴りを放って足を刈り転倒させた。
「そんなに古くないわよ! もう怒った! しっかり躾けて綺麗に綺麗にしてあげるわ!」
起き上がった清香が雨に向かって突っ込む。
「塵だとか掃除だとか、そういうのはもうどうでもいいのです。貴方は僕が殺します」
炯が咽るような血の臭いに包まれ狂気を瞳に宿らせる。
「大丈夫、綺麗に殺害してみせますから」
死角から鋭く踏み込むと、手袋をした右手で脇差を抜き放った。刃が閃き背中を斬りつけた。清香が痛みに意識を逸らした隙に、雨が飛び退く。
「サァ、これより奇術をお見せしまショウ」
恭しく頭を下げたラルフが手を差し出すと、何処からとも無く現われた細身の片手剣の切っ先が突き出される。その刃は手品のように防ごうとする塵取りを掻い潜って清香の脇腹を貫いた。
「もう! いい加減になさい!」
一喝した清香が箒を回転させながら飛び込んでくる。桜太郎が受け止めようとするが、弾き飛ばされて壁にぶつかる。更に続けて灼滅者達を薙ぎ倒していく。
「大丈夫か! 支援は任せろ!」
イルマが弓を構え、放たれた矢は桜太郎の傷口に当たると吸い込まれるように消え、傷口を塞いだ。
「いい加減にするのはそなたの方じゃ!」
一喝しながら華織が全力でぶつかるように突進し、振り回す箒を剣で押さえ込んだ。その隙に弁慶が刀で足を斬りつける。
「こんな大勢でか弱い女性を囲んで! あんた達は鬼かなにかなの!」
「その不快な口を閉じろ」
エルザの美しい歌声が清香の声を掻き消す。聞き惚れるような歌に思わず意識が逸れたところへ、横から俊輔が槍で腹部を貫いた。
「隙だらけだぜー」
捻り傷口を広げる。だが次の瞬間、俊輔の体が後方へと吹き飛ばされていた。
「いっっったいわね! 穴が開いたじゃないの! どうしてくれるの!? 慰謝料払ってもらいますからね!」
槍を引き抜き、清香が凄まじい形相で俊輔に向かって駆け出す。
「どんどん散らかってんだけど。掃除へったくそー!」
そこに割り込みながら桜太郎が気を引こうと悪態をつく。
「ならあんたも一緒にまとめて掃除してあげる!」
振り抜かれる箒を、桜太郎は腕に樹のようなものを纏わせ受け止める。だが強烈な一撃に腕の骨が折れた。
「想定内だ」
背後から聞こえる声、赤黒いオーラを纏った雨が桜太郎の背後に立っていた。支えるように触れた手からオーラが伝わり折れた骨を繋げる。腕の力が戻った桜太郎は踏み止まり箒を押し返した。
「掃除されるのはそっちの方だ」
背後からアイナーがガンナイフを振るい、刃で足を深く切り裂く。それでも清香は箒を支えにして飛び跳ねた。
「まるでサーカスですネ。デハ、こちらはパペットショウを披露しまショウ……」
いつの間にかラルフが部屋に鋼糸を張り巡らせていた。引っかかった清香の体が自由を失い落下してくる。
「蜘蛛の巣にかかった虫のようですね」
待ち構えた炯が脇差を突き刺す。背中に刃が食い込み骨に達する手応えが返る。
「誰が……ゴキブリですって!?」
鋼糸を引き裂いた清香が消毒用のスプレー缶を取り出し、炯に吹き付ける。
「駆除してあげるわ! このゴミ虫ども!」
そして塵取りを床に叩きつけて火花を起こすと、霧状のアルコールが燃え上がった。火炎放射のように炎が薙ぎ払われ、灼滅者達を焼いていく。
「炎か! すぐに鎮火する!」
イルマが青く輝く剣を抜き放つと、吹き抜ける涼やかな風が燃え広がる炎を消し去った。
「イルマさん、俺も手伝うよ!」
手伝いに控えていた殊亜も後方に現われ、炎の翼を生やして灼滅者達の傷を癒していく。
●大掃除
「まずは一人、片付けちゃいましょっ!」
炎に目が晦まされる間に、清香は華織の目前に迫っていた。
「くっ」
迎撃しようとするよりも速く、華織の体はゴミ袋に包み込まれた。
「掃除の基本は一つずつ確実にこなしていく事! 大事だから覚えてなさい!」
そして身動きと視界を封じられると、思い切り箒を叩きつけられた。
「さあ、ぐちゃぐちゃになっちゃいなさい! ゴミ袋の中だから汚れなくて安心よ! これも生活の知恵ね」
滅多打ちにするところへ弁慶が割り込んで箒を防ぐ。
「何よこの犬っころは、店内はペット厳禁でしょ!」
清香は代わりに弁慶を何度も動かなくなるまで叩きのめす。
「それ以上はさせん!」
エルザの脳裏に護りきれなかった仲間の事が浮かぶ。二度とそんな事はさせないと強い意思を乗せ、跳躍すると清香を蹴り飛ばす。
「ところでなんでこのエリアだったんー? 他にも掃除し甲斐のあるとこ沢山あるのにー」
俊輔が竜巻のように体を捻り断罪輪を振るう。斬撃が何度も清香を切り刻む。
「もしかして誰かの指定割振りー?」
「あんた達みたいな躾けのなってない子をしっかりとお掃除するって、斬新なゲームに誘われただけよ!」
清香が消毒液を吹きかけると、火花が引火して炎が巻き起こる。
「さっきの台詞をそのままお返しするよ、人に火を向けるなんてってね」
アイナーが炎を纏った蹴りで炎の渦を打ち消す。
「これは消毒よ! どうしようも無い汚れは燃やしちゃうしかないでしょ!」
「火吹きショウまで出来るとは、いっそ大道芸人になったらどうデスか?」
清香がアイナーに殴り掛かろうとすると、ラルフの足元から影が蝶の群れとなって清香に纏わりついて動きを阻害した。
「じゃあお前が燃えたほうがいいんじゃないか、オバサン」
雨がゴミ袋を引き裂くと、傷だらけの華織が現われる。雨は素早くオーラを分けて重い傷を軽減させて治療する。
「さっきはよくもやってくれたのう。年上ゆえ遠慮しておったが、そろそろ本気でそなたを『掃除』しようかの」
上段に構えた華織が踏み込み刀を振り下ろす。清香が箒で受け止めると、華織は片手を放して胸元に指を突きつけ、魔力の弾丸を撃ち込んだ。
「げほっ」
衝撃に呼吸が止まり咳き込んだところへ、桜太郎が剣を振り抜いた。半透明となった刃が魂を斬りつける。
「ぎゃっ」
「他の六六六人衆はもっと強かったのに、あんた随分弱っちいじゃん」
桜太郎は更に続けて剣を振るうと、よろけながらも清香が塵取りで防ぐ。
「このっどうしてこんなに体が重いのよ。おかしいわ、こんなゴミどもにいいようにやられるなんて!」
思い通りに体が動かないことに苛々した様子で清香は毒づき、塵取りを構えて傷を癒そうとする。
「貴方こそ我々にとって塵そのものですから。掃除しませんとね」
静かに背後に立った炯の影が鳥の群れのように羽ばたくと、囲むように襲い掛かり動きを邪魔する。
「ゴミは全員燃えちゃいなさいよ! 汚いものは全部消毒よ!」
清香が消毒液を撒いて火を点ける。巻き起こる炎が灼滅者達を包み込んだ。
「それは何度も見た、同じ攻撃が何度も通用するとは思わないことだ」
「多少の攻撃なら気にするな!」
準備していたイルマが剣を掲げ、吹き抜ける風が炎を打ち消すと、殊亜の放つ包み込むような炎が火傷の跡を消し去る。
「もうっこうなったら……」
手の内を読まれ攻撃が通じないとなった清香は視線を出入り口の方へと向け、身を翻した。
「逃すと思うたか」
出入り口を塞いだ華織が、魔法の弾丸を撃ち込んで動きを鈍らせる。
「逃げるんじゃないわよ! ちょっと掃除に足りない道具があるから準備をしに帰るだけ! だから邪魔するんじゃないよ!」
「逃がさないよー」
清香が箒を振り回して突破しようとすると、俊輔がローラーダッシュで一気に突っ込む。横薙ぎに迫る箒を獣爪のような形をしたオーラで勢いを弱め、その僅かな隙に接近すると足に炎を纏わせ、敵の腹部を蹴り上げた。
「がふぉ」
口から血を吐きながら清香の体が宙に浮く。
「もしかしなくても、あんた捨て駒にされたんじゃね?」
桜太郎が跳躍して炎を纏った蹴りで打ち落とす。
「そんな、わけ、ない!」
地面を転がった清香は赤く染まった唾を飛ばしながら起き上がる。だが銃声と共にガクンと崩れ膝をつく。
「足が動いてないよ。そろそろ老化かな、オバサン」
振り向けばアイナーが銃口を向けていた。
「そろそろ掃除も終わりにしよう」
そしてイルマの影が獣の形となって足に喰らいつく。
「こんなゴミどもに!」
続けて撃ち込まれる銃弾を清香は転がって避け、影を塵取りで潰し出口を目指す。だが出入り口には人影があった。それは手伝いに来ていた皆無だった。
「いつかはお世話になりましたね。申し訳ありませんが、そう簡単には逃がす訳にはいきませんよ」
以前の戦いを思い出し、今度は逃がさないと皆無が赤い標識を顔面に叩きつける。
「とうせんぼさせていただきましょう」
そして顔面を蹴り飛ばすと部屋の中央へと強制的に戻らせた。
「デハ、そろそろ終わりとしまショウ。これが奇術師奇譚でございマス」
待ち構えていたラルフが影を広げて視界を覆うと、清香の目の前に人影が現れる。箒で何度打たれようとも奇術師は哂いながら立ち上がり襲い掛かる。致命傷を与えても哂い声が絶えない。
「気持ち悪いのよ!」
箒で薙ぎながら出口まで後一歩というところ、そこで足が止まる。見れば右足が太股のところで切断されていた。
「貴方はここで死ぬんです」
炯の持つ刃が真っ赤に染まっていた。
「ひぃぃぃぃ!? あり、ありえないわあ!」
叫びながら老婆のように箒を杖代わりにして這いずる。
「綺麗にしないとな」
雨がサッカーボールを蹴るように顔を蹴り上げる。
「ぐえっ」
顔が上を向く、するとそこにはエルザが舞うように高く跳躍していた。
「滅び去れ。その罪ごと打ち砕く!」
仰け反った清香の頭部を、炎を纏った蹴りが直撃した。
「あ、まだ、掃除が終わって……ないの、よ」
「我が炎は正義の炎。穢れたその身も魂も焼き尽くされよ、成敗ッ!!」
よろめくところへ華織が刀を一閃させる。胴を両断され清香は倒れ伏した。
●後始末
「これで仕舞いじゃな。少々疲れたのう……」
戦闘が終わると華織は痛みを思い出し、崩れ落ちそうになったところをエルザに支えられる。
「大丈夫か?」
エルザは心配そうに店内の椅子に腰掛けさせた。
「応急手当をしておこう」
傍に寄ったイルマが出来るだけ痛みを和らげようと治療を始める。
「おばさんは自分が弱ってるのに気付いてなかったみたいだね」
思ったように戦えない事に苛々としていた様子を思い出し、桜太郎はこれらが斬新京一郎の企みなのだろうかと首を捻った。
「そうですね、そのお陰で倒すことができましたけど、何故そんな真似をしていたのか分かりませんね」
脇差の血を拭って納め、深呼吸して心を落ち着かせた炯は穏やかな表情に戻る。
「これだけ激しい戦闘をしたら、掃除もなにもないね」
アイナーが周囲の惨状を見渡す。入った時は磨き上げられていたのに、今は椅子は倒れテーブルは潰れと、店内は滅茶苦茶になっていた。
「さて、少し綺麗にしておこうかな」
雨が戦いの痕跡を消しておこうと簡単に片付けを始めると、その視界に写っていたダークネスの死体が消えて行く。
「被害者の死体も消えてしまったようデス」
ラルフが張り巡らせていた鋼糸を確認する。部屋に張り巡らせた時に、ゴミ袋にも巻きつけておいたのだ。
「んー袋が空いた様子はないね」
俊輔がゴミ袋が萎んでいるのを見下ろす。GPSを確認するがゴミ袋に入ったままだった。遺体だけが忽然と姿を消していた。
「転送されてるのかなー」
袋が閉じたままなのを確認して、俊輔はその可能性が一番高そうだと考えた。
「何を企んでいても、また潰せばいい」
「うむ、そうじゃの。こうして皆で力を合わせて戦えばよいのじゃ」
エルザに支えられて華織も立ち上がり、笑顔で頷く。
謎は残るが、一先ず倒す事が出来たと安堵し、灼滅者達は戦いの場を後にした。
作者:天木一 |
重傷:桃山・華織(白桃小町・d01137) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年4月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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