松山市? 砥部動物公園~シロクマさんと一緒~

    作者:白鳥美鳥

    ●伊予の国にブレイズゲート発生
     そこは愛媛県松山市、知る人ぞ知る狸の国である。松山市には狸の話がとても多い。
     そんな場所にエクスブレインの予知の行えないブレイズゲートが出現してまったのである。
     ブレイズゲートによって崩れる力のバランス。次々と現れる狸の都市伝説。
     松山市は狸の都市伝説に乗っ取られてしまった。溢れる狸達。このまま、乗っ取られても良いのか?!
     狸達との闘いが始まる。
     
    「ぽんぽこぽーん! おいら達は妖術の使い手だぽーん! 外見に騙されるなだぽーん!」
     
     とっても可愛い外見の狸達である。しかし、彼らは妖術使い。侮ってはいけない。
     ……多分。
        
    ●元、松山市にあった動物園こと、とべ動物園
    「え? とべ動物園って砥部市にあるんじゃないの?」
    「あのね、昔は松山市に動物園があったんだよ。そうねえ、何十年か前じゃない? そんなに大昔じゃないけどねー。結構知っている人多いんじゃない? でもね、あそこ、しろくまのピースで有名じゃない?」
    「うん、可愛いよね、ピース!」
    「ぬいぐるみとかも売ってるんだよー!」
    「え~、ほっしい~!」
     女の子達はしろくまの女の子、ピースの話題でいっぱいだ。

     「ぽんぽこぽーん! 動物園は渡しません! 動物たちは私たちのものです!」

     そこに飛び出たのは都市伝説、金平社狸。なんだかぽんぽこ言っている割には礼儀正しい。

    「あの動物園は松山市にあったのです。何だか規模を大きくするとかなんとかで引っ越しをしてしまって……。遠くなって子供たちが嘆いている……気がします」
     ……気がするだけらしい。

    「私は大宮神宮のビャクシンの樹に住む宮仕えの狸。伊予狸の中でも一番の頭の良さを誇る狸……だったはずなのですが、何だか召喚された際に頭をぶつけたようでして……妻もどこにいるのかはてさてさっぱりと……」
     かなり忘却の彼方らしい。

    「しかし、住処に辿りついてみると、なんと動物園が移動しているではありませんか。しかもうちの近所に」

    「そして夜な夜な聞こえるのです。自由になりたい、自由に遊びたい……そんな声が。私はその願いを叶えてあげたいのです。自由に羽ばたいてほしいのです。自由を愛するのが狸というもの。のんびり過ごすのが狸というものです。ここはひと肌脱がなくては」

    「……あと、念のためですが……いくら動物だからといって食べるとか毛皮を剥ぐとか、非人道的な事はしないで下さいね。蛇さんとかもいらっしゃいますので、そちらはお気をつけて」

     穏やかにほほ笑む金平社狸。
    「……そうですね、うちの社からでは遠いので……動物園でお会いしましょう」
     大変穏やかで礼儀正しい。品の良さまで垣間見える。……狸?
     動物園の危機を防ぐために、立ちあがるのだ!


    参加者
    リオン・ウォーカー(冬がくれた予感・d03541)
    三上・チモシー(津軽錦・d03809)
    月見里・无凱(泡沫華銀翼は深淵揺蕩う・d03837)
    フゲ・ジーニ(幸せ迷宮回廊・d04685)
    柏木・イオ(凌摩絳霄・d05422)
    システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)
    ホワイト・パール(瘴気纏い・d20509)
    田抜・紗織(田抜道場の剣術小町・d22918)

    ■リプレイ

    ●松山市? 砥部動物公園~シロクマさんと一緒~
    「ふむふむ。なかなか広い敷地ですね。……確かに、以前の動物園に比べ遥かに広くなっています」
     金平社狸がふむふむ言いながら動物園を見て回っている。……動物園を狸が回っているのも何だか滑稽な光景だが。しかし、宮仕えをしているだけあって、狸だがとても品格がある。
    「……それなりに自由にしているようですが……やはり窮屈に見えます」
     こくこくと頷いている。
    「……とはいえ、全部を放す……とはいきませんね。明らかに見た事のない方々がいらっしゃいます」
     金平社狸は昔の狸だ。外国の動物には疎い。という訳で、少し調べては来たのだが……。
    「シロクマさんの事ばかり詳しくなりました」
     金平社狸は買ったばかりのシロクマのぬいぐるみをなでなでしていた。
    「合言葉は、ぽんぽこ!」
     三上・チモシー(津軽錦・d03809)、月見里・无凱(泡沫華銀翼は深淵揺蕩う・d03837)、システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)が、声を揃えて金平社狸に挨拶する。
    「初めまして、金平社狸と申します。どうぞお見知りおきを」
     ぺこりとお辞儀をする金平社狸。田抜・紗織(田抜道場の剣術小町・d22918)も合わせてお辞儀する。
    「田抜一刀流、田抜紗織よ」
    「狸さんですか?」
    「……って、狸と違う! 違うったら違うのよ、このボケボケ狸!」
    「違うのですか? では見た目通り人間なのですか? とてもお美しい方ですね」
    「うっ」
     相手が例え狸が相手でも綺麗と褒められるのは女性としては悪い気はしない。
    「狸さん、きっと皆で見て回ったら、違った見方も出来て色々お互いの為になると思うんですよ! なので一緒に見て回りませんか?」
     リオン・ウォーカー(冬がくれた予感・d03541)の言葉に金平社狸はこくりと頷く。
    「そうですね。何だか日本の動物以外もいらっしゃるようで……」
     金平社狸は腕に抱き抱えているシロクマのぬいぐるみをきゅっと抱きしめた。
    「もふもふ狸がぬいぐるみをもふもふ……! だめだ、可愛い、もふもふ!」
     システィナが金平社狸を抱きしめて頬をすりすりする。
    「わーい、もふもふー!」
     チモシーも狸に抱きつく。
    「わ、私も!」
    「俺も、もふもふする!」
     リオンと柏木・イオ(凌摩絳霄・d05422)も一緒になってもふもふと撫でたり、抱きしめたり。
    「ど、どうされたのですか、皆さん。……まあ、禊もして参りましたので、触られても大丈夫だとは思いますが」
     流石、宮仕え狸。きちんとやる事はやっているようである。
    「もふもふ……でも、でも狸か! 素直に愛でるのは何か、こう……う、羨ましくなんか……私もちょっと……でも!」
     紗織が悶え葛藤しているようだ。それに、システィナが金平社狸をほいっと突き出す。
    「ほーら、紗織、可愛いよ」
    「撫でて頂くのは気持ちが良いです。お嬢さんも宜しければ……」
     金平社狸にも、にっこりと微笑む。沙織はうんうん唸っていた。
    「もういい~! 私もちょっとだけ……!」
     紗織に撫でて貰って嬉しそうな金平社狸。
    「じゃあ、一緒に回るのは決定だね!」
     フゲ・ジーニ(幸せ迷宮回廊・d04685)は金平社狸を抱えあげた。
    「うわあ、ふわふわ~」
     すりすりするフゲ。そこに无凱がびしっと金平社狸に指差す。彼は何故か最初から狸の『もふもふたぬきスーツ』……いわゆる狸の着ぐるみを着ていた。
    「おのれぇ~金平糖モドキな金平社狸め……! 僕のほうがもふもふだぞ?!」
    「金平糖……。懐かしい響きですね」
     特に金平糖モドキというのは気にしていないようである。むしろ、金平糖を懐かしんでいるようだ。
    「僕は常に金平糖を持ち歩いている!」
     无凱は金平社狸に見せつけるようにぱくぱく食べてみせる。
    「……金平糖……いえいえ雑念に囚われるのは」
     金平社狸は金平糖を見つめ、慌てて首を振った。
    「何? もふもふ対決? じゃあ、俺がもふってやるよ! まずは无凱……次はきんぺーしゃたぬき!」
    「僕も、僕も参戦!」
    「僕もー!」
     イオ、システィナ、フゲ参戦して一人と一匹をもふもふする。
    「こら、イオもふるな!」
    「もふもふもふもふ」
    「もふもふもふもふ!」
    「あー、やっぱり本物が気持ちいいな! 体温も感じられて。よって、きんぺーしゃたぬきの勝ち!」
     イオによってもふもふ対決の判定が下された。
    「やっぱり、もふもふは正義だよねー」
     チモシーはうんうんと頷く。
     金平社狸はそんな无凱をじっと見ている。
    「ああ、でも、貴方に一つお願いがあるのです」
    「なんだ? 金平糖はやらんぞ?」
    「いえ、金平糖ではなく……貴方の毛皮を触らせてくれませんか?」
     思いもよらぬ狸からの要求である。フゲは抱えていた金平社狸を无凱の傍に近づける。
    「よく分からないけど、狸さん、好きなだけもふもふして良いよ」
    「こら、僕の許可は……!」
    「おお、もふもふです……! ……仲間達や妻を思い出します」
     狸の着ぐるみを撫でながら、金平社狸は昔を懐かしんでいるようだった。金平社狸は色々な狸の伝承のある松山の狸。伝承が沢山ある位なのだから、当然狸だって一杯いるのだろう。
    「狸さん、じゃあ狸さんがいる所に行ってみる?」
     フゲが尋ねる。だが、金平社狸は首を振る。
    「いえ、私の仲間の所に行ってしまうと気持ちがはやり、ここの子達がどう暮らしているのか把握できません。まずは、ちゃんと現状を把握しておきたいのです。……もし宜しかったらシロクマ……名前からすると白い熊だと思うのですが、そこに連れて行っていただけますでしょうか?」
     リオンはホワイト・パール(瘴気纏い・d20509)に声をかける。
    「一緒に狸さんと見て回りましょう?」
     そう言ってからリオンはホワイトと手を繋ぐ。それにホワイトはこくりと頷くと少し照れた顔をした。

     シロクマのピースはとべ動物園の一番の人気者である。
    「あ、シロクマだ! 強そうだし、もふもふ!」
     イオが目をきらきらさせている。
    「ほう、こちらがシロクマさんですか。……実は、先日、この子は人間の手をなくしては生きられなかったとのお話を伺い、色々教えて頂きました」
     フゲの腕の中から乗り出して、金平社狸はシロクマのピースを見る。
    「自然界では、育児放棄や子育ての途中で子供を亡くす等はそう珍しい事ではありません。ただ、稀に他の動物が他の動物の子供を育てたりする事があるのです。……そうですね、私がいた時にも犬や猫等は人間と共にある事が多かったりしました。ただ、自分の命の危険のある子供を育てる……それは本当に希少な事でしょう」
    「……そうなんだ」
     はしゃいでいたイオの表情が一瞬曇った。金平社狸も残念そうである。それにイオはにこっと笑った。
    「まあ、元気だしなよっ、柏餅あげるからさ!」
    「……ありがとうございます」
     イオの差し出した柏餅を受け取ると、金平社狸は続きを話し始めた。
    「あの子は幸運でしょう。育て方が全く分からなかった中、育てられたそうです。元気に順調に育っていたそうですが……やはり前例が無かった為か、親からの独り立ちが早すぎて、てんかんの病を抱えてしまったそうです。それはとても気の毒ですが、失われかけた命が救われたというのはやはり素晴らしい事なのでしょう。恐らくそのはしりであろう動物の見世物等……私は『動物園』というものは、生き物を閉じ込めているようで賛成は出来ませんが……人間のそういう優しい所は好きです。子供達の笑顔も大好きです。私が勉学をする気持ちになったのも優しい方々を、子供達を見て来たからです。誰かの役に立つ為に、私は勉学をそう捉えているのです」
     優しく真摯に話す金平社狸。その志を思うだけで、感じるだけで……何だか勉強に身が入りそうだった。
     恐らくこの狸は人間自体を嫌ったり等していないのだろう。むしろ、身近な存在で……だからこそ、人間のする事が気になるのかもしれない。
    「……時に」
     突然、金平社狸の顔が青くなっている、というかフゲの腕の中で震えている。
    「……あの、もう一つ伺っているのですが……何だか猫の巨大化したような……ものが散歩をしているとか。……虎、では無かったようですが」
     金平社狸の居る時代にも虎自体は知られている。でも、この狸が言っているのは……。
    「ライオンの赤ちゃん?」
    「よ、よく分かりませんが、本能がそれは危険だと言っています……!」
     狸自体は雑食だが、肉類はネズミ等の小動物やカエル、魚といった具合だ。……むしろ、狩られる事が多い。毛皮だったり肉を食べられたり。おまけに今は住む所さえ迫害されている始末である。
    「……何故、人間はそんな恐ろしいものを傍に置くのでしょうか。……ううむ、自由になりたいという声を聞いても全部が全部自由にする訳にはいかないようですね」
     どうやら金平社狸は悩んでいるようだ。この狸の性格からして、パニックは避けたいらしい。
    「しかしなぁ金平社狸よ。確かに動物は自由で在りたいと思う。だが、その美しい姿や毛皮のせいで殺されてしまう事がある。その方が問題なのだよ」
    「私達は……恐らく野生の方が多いのではないかと思いますが、昔から毛皮の為やら何やらでかなりの数が殺されています。毛皮目当ては他の方々を含めてとても哀しい事でしょう。ですけれど、囲われて飼われるのが幸せかどうかは……」
     无凱は金平社狸の反撃に遭い、うっと詰まる。狸も毛皮目当てで狩られるし、そもそも毛皮目当てなのは人間の欲の方なのだ。
    「で、でもねっ! 飼われている動物を野生に戻すのって大変なんだよ? 狸さん達だって外来生物に絶滅させられちゃう事だってあるんだから!」
     フゲも抱いていた金平社狸を降ろすと、そう伝える。
    「では、日本に元からいる動物はどうでしょうか? 肉食系は厳しいかもしれませんが草食の動物でしたら生きていけるのでは? 私達も今は人間からご飯を頂いている方もいらっしゃるようですし」
     ただし、野生の狸は懐く事はほぼ無いが人間を怖がらないものは多くなっている。ニホンオオカミが絶滅してから日本の野生の動物生態系が人間の介入以外にも崩れているのも一因なのかもしれない。
    「でも、貴方は子供達の笑顔が大好きなのですよね? それを奪ってしまうのはどうでしょうか」
    「……」
     リオンの言葉に、ホワイトがこくりと頷く。
    「くっ、動物の自由と子供達の笑顔ですかっ!」
     金平社狸は苦悶に満ちているようである。
    「どちらもとる方法は無いものでしょうか?!」
    「……無理、かな」
     ホワイトは残念そうに言った。それにリオンも哀しそうな顔をしている。
    「……子供達の笑顔は他にも得られるものです。だから、私は貴方達と対決しなくてはなりません……! 申し訳ありません……!」
     金平社狸から光が放たれる。その光は神聖なものだが、確実に攻撃をしてくるものだ。
    「ごめん……!」
     イオは鋼の糸を繰り出すと金平社狸を縛り上げた。紗織はそこに音をかき鳴らして聴音を奪った。
    「みんな、頑張ってー!」
     チモシーは支援に回る。无凱は叩きつけた。
    「あたし、加減出来ないんだよね……」
     ホワイトは无凱に続いて金平社狸に混乱をもたらす。
    「ごめんね狸さん!」
     フゲは聖なる光で金平社狸を包み……。
    「……傷が……癒えています?」
    「はっ?! 僕は何を?!」
     そんなフゲを見てシスティナが笑いを堪える。笑いを堪えながらもシスティナの攻撃も甘いものだ。リオンは神の風を薙ぐ。
    「氷漬け! 見よ、まさに狸の氷像なんだぞ!」
     ……无凱は真剣なつもりのようだが、微妙におかしいのは気のせいだろうか。
    「……ゆっくり眠ってね?」
     イオは護符を金平社狸に貼り付ける。金平社狸から光が溢れた。
    「……皆さん、子供達を宜しくお願い致します……」
     そう言うと、金平社狸は消えていく……前に紗織にぽーんとシロクマのぬいぐるみを投げて寄こした。
    「狸さんは、同じ仲間ですし差し上げます……それではごきげんよう……」
     今度こそ、すぅっと金平社狸は消えていった。
    「だ、だれが狸かっ。……でも大事にしようかな」
     紗織は金平社狸から受け取ったシロクマ……ピースのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

     さて、動物園。みんなでぐるりと見て回る。金平社狸が恐れていたライオンの赤ちゃんの散歩を見たり、運よくペンギンのお散歩を見たり……色々な所を巡る。そこには楽しそうな子供達の笑顔があって……少なくともこの笑顔を守ってあげたいと改めて思う。
     少し一息つける場所を見つけた。
    「お昼御飯にしましょうか?」
     リオンがお弁当を広げる。サンドウィッチやおにぎり等、沢山あった。
    「私はおかず系を持って来たわよ」
     紗織はリオンのお弁当に添えるようにおかずを広げた。こちらも色々な種類がある。
    「僕は『システィナ風味は特製あんころ』を持って来たぞ。形は狸の形をイメージしてみた」
     无凱もお菓子を出す。人数分より少し多い。システィナの分だろうか。
    「水まんじゅうもあるよー」
     チモシーがそれも広げる。ご飯におかず、デザートのお菓子と満載だ。
    「うわあ、お菓子がいっぱい!」
     甘いもの大好きなシスティナはにこにこしている。
    「ホワイさんもいらっしゃい。一緒に食べましょう?」
    「……うん」
     離れていたホワイトをリオンが誘う。みんな揃ってお弁当を囲んだ。
    「いただきまーす!」
     色んな話を交えながら楽しくお弁当を味わう。みんなで食べる食事は格別だ。
    「ねえ、後でホンドタヌキさん、見ていかない?」
     フゲの言葉に、皆も頷く。金平社狸の仲間達を見ておきたかった。
    「あ、後、お土産屋さんにも行きたいな。動物のぬいぐるみが……もふもふ」
    「もふもふ……」
    「もふもふ!」
     もふもふ大好きなメンバーは紗織の提案に楽しそうに頷く。それにもふもふ温かった金平社狸の事も思い出として残せそうな気がした。ある意味、勉学のしっかりしたお守りかもしれない。
    「じゃあ、行こうかー!」
     フゲの言葉に、再びみんなで動物園を巡るのだった。

    作者:白鳥美鳥 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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