幼稚園児のスマイルイーター

    作者:三ノ木咲紀

    「ぬはははは! この幼稚園バスは、マイクロバス怪人・ジャック様が乗っ取った!」
     びしっとポーズを決めて、虚空に向けて指を突きつけたジャックは、腰に手を当てて大きく高笑った。
    「はーっはっはっはっは! これぞ世界征服の第一歩! 幼稚園児ども! 恐怖におびえ、なきさけぶふっ!」
    「笑うなよ、気持ち悪い」
     ガードレールに腰かけたスマイルイーターは、予行演習と称して高笑いするジャックの脇腹に手刀を叩き込んだ。
    「サ、サーセンアニキ」
     その場に伏せてぴくぴくと痙攣するジャックを見下したスマイルイーターは、少し離れた場所で駐車中のバスを睨んだ。
     派手なペイントをされたバスの中からは、子供たちの楽しげな笑い声が漏れている。
     まるでひどいノイズを聞かされているかのように眉をひそめたスマイルイーターは、何とか立ち上がったジャックを振り返った。
    「で? お前が闇堕ちしてもやりたかったのが、幼稚園バスジャックなわけだ?」
    「そ、そうっすアニキ! 俺は昔、特撮で見た幼稚園バスジャックに憧れてたっす! アニキみたいな強いダークネスに後ろ盾になってもらえて、心置きなく幼稚園バスジャックできるってもんっす!」
     びしっと敬礼するジャックに、スマイルイーターは肩をすくめた。
    「最初聞いた時は馬鹿かと思ったけど……。悪くない考えだね。人間の笑顔って気持ち悪いにも程があるけど、その中でもガキどもって最上級に気持ち悪い。それに……」
     運転手が来るのを待って大騒ぎする幼稚園児達に、スマイルイーターは口の端を歪めた。
    「何せガキときたら、一匹殺せば周りの大人も笑わなくなる。効率がいいよね」
     スマイルイーターはガードレールから立ち上がると、幼稚園バスに向かって歩き出した。


    「HKT六六六に、動きがあったみたいや」
     教室に集まった灼滅者達に、くるみは真剣な表情で訴えた。
    「軍艦島の戦いの後、ミスター宍戸はゴッドセブンいう有力なダークネスを地方に派遣しとったんやけど。このゴッドセブンのナンバー五のスマイルイーターが、沖縄の国際通り近くにある幼稚園に姿を現したんや」
     スマイルイーターは、沖縄の現地ダークネスを支配下に置いて、沖縄支配を狙っているらしい。
     これと同時に、配下にしたダークネスを使って、楽しそうな笑顔の一般人を虐殺しようとしているのだ。
    「今回狙われたんは、幼稚園児が乗った幼稚園バスや。これから帰るところでな、運転手を待っとるところをバスジャックされんねん。このままやったら、幼稚園バスは市内をグルグル暴走した挙句、他の幼稚園に突っ込んで爆発炎上。その間バスの中がどうなっとるか……想像したないわぁ」
     嫌そうに眉をひそめたくるみは、気を取り直したように顔を上げた。
    「ほんま、スマイルイーターは即灼滅したりたいけど……。そうもいかんのや」
     まず、スマイルイーターは戦闘になったら、部下のジャックに戦わせようとする。
     灼滅者達が自分を攻撃してきたら、「沖縄の各地に爆弾を仕掛けた。自分が灼滅されたら、大きな被害が出る」などと言って脅して逃走しようとする。
    「現時点やと、沖縄のどこに爆弾が仕掛けられとるのか分からへん。そやさかいスマイルイーターの灼滅は諦めて、ジャックの灼滅とバスジャックの阻止を優先させたってや」
     スマイルイーターとジャックは、園庭を横切って幼稚園バスに近づく。
     園庭の端には遊具があり、園舎は二階建て。駐車場は園庭の脇にある。
     接触できるのは、スマイルイーターがバスに乗り込もうと手すりに手を伸ばした瞬間。
     スマイルイーターかジャックがバスに乗り込んでしまうと、事件を阻止できない。
     何とか引き離す必要がある。
     幼稚園バスの中には、好奇心旺盛な子供たち三十人と世話好きな幼稚園教諭が一人乗っている。
     周囲は住宅街で、平日の午後だが時折人通りもある。
     戦場は幼稚園の園庭。足場も広さも申し分ない。午後のため、灯りも不要。
     ジャックのポジションはクラッシャー。ご当地ヒーローに似たサイキックを使う。
    「スマイルイーターもいてこましたいけど、今はとにかく子供たちの安全が第一や。あんじょうよろしゅう、頼むでみんな!」
     くるみはにかっと笑うと、親指をビシッと立てた。


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    九条・風(廃音ブルース・d00691)
    外法院・ウツロギ(百機夜行・d01207)
    花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)
    エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)
    綾辻・刻音(ビートリッパー・d22478)
    左藤・大郎(撫子咲き誇る豊穣の地・d25302)
    物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)

    ■リプレイ

     スマイルイーターが幼稚園バスの手すりに手をかけようとした瞬間、三条の閃光が園舎より奔った。
     不意打ちを狙い、静かに狙いを定めていた九条・風(廃音ブルース・d00691)の闇が、スマイルイーターに迫る。
     迫り来る猛毒の弾丸に気付いたスマイルイーターが、体を深く沈ませる。
     頭上をかすめて着地した猛毒に、敵の存在に気付いたスマイルイーターは、急いで手すりに手を伸ばした。
     スマイルイーターが手すりを掴む寸前、手すりが歪んだ。
     手すりの影が鋭い刃のように伸び、スマイルイーターを切り裂こうと襲い掛かる。
     石弓・矧(狂刃・d00299)の刃から逃れるように、スマイルイーターは一歩後退する。
     そこへ、弾丸が奔った。
     第三波を警戒したスマイルイーターが、弾丸を回避するために大きく動く。
     だが、その動きを読んでいたかのように、弾丸の軌跡が曲がった。
     外法院・ウツロギ(百機夜行・d01207)が放ったホーミングバレットが、スマイルイーターを追尾するように大きくうねる。
     スナイパーの命中精度とスマイルイーターの回避。勝ったのはスナイパーだった。
     深々と突き刺さった弾丸に、スマイルイーターは大きく態勢を崩す。
     その隙を逃す灼滅者達ではなかった。
    「行くよ!」
     繋ぎっぱなしの携帯電話に一声かけたエルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)は、園舎から一気に間合いを詰めながらサウンドシャッターを放った。
     音の流れが変わり、音が周囲に漏れなくなる。
     スマイルイーターの虚を突いて飛び出した綾辻・刻音(ビートリッパー・d22478)が、バスの陰から踊り出る。
    「貴方の音、ちょっと耳障り、かな」
     突然目の前に現れた刻音に、スマイルイーターは対応が一瞬遅れた。その隙に放たれたティアーズリッパーが、スマイルイーターを袈裟懸けに切り裂く。
     そのままバスとスマイルイーターの間に割り込んだ刻音に、スマイルイーターは口の端をゆがませた。
    「ふうん。邪魔するんだ。気に入らないね!」
    「笑顔が気に入らない? バスジャックがしたい? そんなくだらない理由で、子供達を傷つけようとするなんて、絶対に許せない。許さない!」
     怒りと共にスマイルイーターを睨みつけながら、左藤・大郎(撫子咲き誇る豊穣の地・d25302)は夜霧を解き放った。
     霧が沸き起こり、大郎達の姿を隠す。
     大郎の宣言に、スマイルイーターは肩をすくめた。
    「最悪、ガキどもが笑わなきゃ、生かしておいてもいいんだけどね。気持ち悪い笑いは、殺して止めなきゃ」
    「まあ気持ち悪いなら、しょうがないよね。オレもダークネスが、そーやって好き勝手殺すのが気持ち悪いから、こーしてるんだもんなー」
     肩をすくめるスマイルイーターを馬鹿にするように、エルメンガルトも肩をすくめた。
     一触即発の空気の中、ジャックはそろそろとバスの方へと移動した。
     抜き足、差し足とバスへ向かうジャックに、斬撃が走った。
    「残念ですが、ここから先へは通せませんね」
     花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)の黒紅から放たれた黒死斬が、ジャックを切り裂く。
     体を低くして放たれた斬撃が、ジャックの脛を狙う。
     突然断たれた足に驚いたように、バスへ向かう足を止めた。
    「ぬおぅわ! だが! 諦める俺ではなーい!」
     斬撃を受けながらもバスに向けて駆け出すジャックが、ふいに転倒した。
     姿勢を低くバスの陰から飛び出した焔物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)は、地面を滑るようにエアシューズを起動させると、ジャックに足払いをかけた。
     地面を這いつくばるジャックの姿に、スマイルイーターは舌打ちした。
    「お前は、ろくにバスジャックもできないのか?」
    「さ、サーセンアニキ!」
    「ま、三下怪人だからしょうがない」
     エアシューズで放物線を描いて立ち上がった暦生は、注意深くジャックとバスの間に割って立った。


     睨み合う灼滅者達とスマイルイーターの間に漂う緊迫した空気を、若い女性の声が切り裂いた。
    「ち、ちょっとあなた達! 園庭は関係者以外……」
    「邪魔だよ、ババア!」
     バスから降りてスマイルイーターへ駆け寄る女性に、スマイルイーターが手を振り上げる。
     その腕に、白い帯が巻き付いた。
     暦生のコートの袖がほどけ、スマイルイーターの動きを封じる。行動を阻害されたスマイルイーターは、暦生を振り返った。
    「女性にババアは、駄目だろう?」
    「女の笑いは、甲高くて気持ち悪いんだ」
     吐き捨てたスマイルイーターから守るように、矧は腰を抜かした教諭に駆け寄ると、急いでバスの中へ入るよう促した。
     一緒にバスに乗り込んだ矧は、不審者の登場にざわつく車内に王者の風を放った。
    「お静かに」
     矧の声に、バスの車内が静まり返る。
     不安そうな幼稚園教諭に、矧は諭すように言い聞かせた。
    「子供達がバスの外に出ないように、お願いしますね」
    「わ、分かりました」
     頷いた教諭に頷き返した矧は、バスの外へと出ていった。
     矧がバスに乗り込み、車内が落ち着いたのを確認した風は、殺界形成を放った。
     通りすがりの一般人が、慌てて引き返す。人の気配が遠ざかるのを確認した風は、動きを止められたスマイルイーターを見た。
     迷いなく教諭を攻撃したスマイルイーターに、風はむしろ感心したように言った。
    「さっすが外道、人の嫌がることを進んでやるタイプだなァ」
    「その通りっす! アニキは強くておっかなくて、最高のダークネスっす!」
     まるで自分のことのように胸を張るジャックを、風は鼻で笑った。
    「まァ素直にさせてやるほど、甘いのが揃ってる訳じゃないんだがな、俺等は」
    「むきー! お前にバスジャックの何たるかを教えてやるっす!」
     地団駄を踏んだジャックは、風に向けて思い切り変なポーズを取った。
    「食らえ! バスジャックビーーーーーーム!」
     近距離から放たれたジャックのビームが、風に突き刺さる。
     咄嗟に庇った腕に焼け付くような痛みが走る。風は楽しそうにジャックを睨んだ。
    「面白そうなことしてんじゃねェか。良いねェ反吐が出る、気持ちよくぶっ殺せそうだ!」
    「お、俺を攻撃したら、アニキが黙っていないからな!」
     虎の威を借るジャックをよそに、大郎は風に駆け寄った。
    「大丈夫ですか?」
     腕をだらりと垂らして痛みをこらえる風に、大郎はダイダロスベルトを解放した。
     包帯のように伸びたラビリンスアーマーが、風の腕に巻き付く。
     ゆっくりと癒される痛みに、風は眉間の皺をほどいた。
     動きを止めたスマイルイーターに、炎が迫った。
     二階から飛び降りて炎を放ったウツロギは、怪談蝋燭を解き放つ。
     舐めるように伸びた赤い炎が、スマイルイーターを包み込む。
    「子供を狙うとは器が小さい。小者感が半端ないね。そんなに笑わせたくないのなら、スベリ芸でも披露しておきなよスマイルイーターくん」
     スマイルイーターは、楽しそうに嘲笑うウツロギを炎越しに睨んだ。
    「それで挑発したつもり? ……沖縄各地に仕掛けた爆弾、爆発させてもいいのかな?」
     腹立たしげに炎を払ったスマイルイーターに、ウツロギは肩を竦めた。
    「さっさと、どこかに行っちゃってよね」
    「逃してあげますから、逃げたらどうですか?」
     ニッコリと微笑んだ大郎を、スマイルイーターは不愉快そうに睨みつけた。
     振り上げた手を振り下ろし、ダイダロスベルトを断ち切る。
    「じゃあね」
    「お、俺も行くっすアニキ!」
     撤退するスマイルイーターについていこうとするジャックに、ダイダロスベルトが迫った。
     鞭のようにしなる攻撃に、ジャックは弾き飛ばされた。
    「お、俺を攻撃すると、アニキが爆弾を爆発させるぞー!」
    「オキナワが爆発したって、ムサシザカのオレには関係なくない? 何でそんなのでオレが諦めるって思うの?」
     エルメンガルトの言葉に、ジャックは言葉を詰まらせる。
     ジャックを一瞥したスマイルイーターは、そのまま背中を向ける。
    「あ、アニキ待って! バスジャックを手伝ってくれるって約束したじゃないっすか!」
    「バスジャックくらい、一人でしたらどう?」
    「そ、そんなぁ!」
     情けない声を上げるジャックには目もくれず、スマイルイーターは立ち去った。
     スマイルイーターの背中を見送った刻音は、残念そうにつぶやいた。
    「ん、あれはここで討っちゃダメなんだね。面倒だけど、そういうお仕事なら仕方ない、ね」
     気持ちを切り替えるようにジャックに向かい合った刻音は、一気に間合いを詰めるとジャックに斬りかかった。
    「それじゃ、刻んであげるね」
     死角から放たれる攻撃に、ジャックの頭が引き裂かれる。
     刻音と同時に駆け出した焔は、イクス・アーヴェントを振りかぶった。
    「斬り潰します!」
     大きく振りかぶった無敵斬艦刀が、一気に振り下ろされる。
    「のぅわ!」
     食らえば一刀両断されかねない攻撃をギリギリで避けたジャックは、園庭にできたクレーターに冷や汗をかいた。


     一人取り残されたジャックは、幼稚園バスをチラリと見た。
     バスの中にいる幼稚園児や教諭は、不安そうにこちらを見ている。
     降りてくれば人質にできるだろうが、「子供たちがバスから降りないように」の言葉に従って誰も降りてこない。
     周囲の住人も園舎に残った職員も、出てくる気配はない。
     ジャックは灼滅者達をチラリと見た。
     バスとジャックの間に立つ灼滅者達を乗り越えて、バスジャックを成功させるのは夢のまた夢に思えてならない。
     ならば。
     ジャックは大きくジャンプすると、大郎に向けて蹴りを解き放った。
    「食らえ! バスジャックキーーーーーーック!」
     暴走するバスのような、猛烈な勢いの飛び蹴りが、前衛に出ていた大郎に迫る。
     ご当地パワーを帯びた蹴りに、風が横切った。
     大郎のライドキャリバー・キャリバーさんが、風との間に割って入る。
    「キャリバーさん!」
     そのまま地面に縫い付けられるように叩き付けられたキャリバーさんに触れた大郎は、契約の指輪に念を込めた。
     癒しの光が指輪から溢れ、キャリバーさんを癒す。キャリバーさんはエンジンを軽く吹かすと、よろりと起き上った。
    「ぬはははは! この幼稚園バスは、マイクロバス怪人・ジャック様が乗っ取った!」
     びしっとポーズを決めて、虚空に向けて指を突きつけたジャックは、腰に手を当てて大きく高笑った。
    「はーっはっはっはっは! これぞ世界征服の第一歩! 幼稚園児ども! 恐怖におびえ、なきさけぶふっ!」
    「貴方の音、ちょっと不愉快」
     ジャックの高笑いに、刻音の容赦ない手刀が叩き込まれた。
     脇腹を押さえたジャックは、その場で伏せてぴくぴくと痙攣した。
    「な、なんてデジャブ……」
    「お前が怪人ってことは俺らはヒーローか? じゃ、怪人はやられるまでが仕事だ。……頑張れよ、ジャック」
     よろよろと立ち上がったジャックに、暦生が手にした交通標識が、赤く変わる。
    「バス通行止め」と書かれた標識が、ジャックに叩き込まれた。
     標識に従うように、ジャックは動きを止める。そこへ、ウツロギがにやりと笑って静かに語った。
    「マイクロバスカッコワルイ」
     耳元で囁く全否定に、ジャックは弾かれたように耳を塞いだ。
    「バッ! バスは! マイクロバスは世界一かっこいい! かっこいいんだぁ!」
    「その感覚、分かりませんね」
     言いながら放った矧のWOKシールドが、ジャックの鼻面を直撃した。
     バスの出っ張ったところを押さえながら後退するジャックに、矧はふと首を傾げた。
    「ところで沖縄のご当地怪人なのに、何故マイクロバスなんですか? もっとメジャーなものがあるでしょうに」
    「バスジャックへの愛も! ご当地への愛も! 根っこは同じ、偏った愛! 沖縄のあれこれよりも、バスジャックへの愛が勝った。ただそれだけのことよ!」
    「この考えなし!」
     無駄に高笑うジャックに、エルメンガルトの蹂躙のバベルインパクトが高速のツッコミを入れた。
     吹き飛ばされるジャックに、エルメンガルトはびしっと指を突きつけた。
    「自分で努力せずにツヨイダークネスに頼ってるおに、バスジャックする資格などない! 特撮怪人に憧れてノープランで堕ちたんだろ、この考えなし!」
    「そっ……そんな、ことない! バスジャックは俺の夢だったんだ! 夢を叶えて、何が悪い!」
    「バスジャックが夢とか、色々拗らせてんなァ……」
     ぼろぼろになりながらも、なお虚勢を張るジャックに風はグラインドファイアを放った。
     大きな軌跡を描きながら叩き込まれた蹴りに、バスの車体が大きく歪む。
     炎に包まれたジャックに、愛車のサラマンダーが突撃を仕掛けた。
     歪んだ車体が大きくひしゃげ、もはや息も絶え絶えなジャックが二つに切り裂かれた。
    「あなたに、好き勝手させるわけにはいきません!」
     鞘に納めた黒紅から放たれた居合切りに、ジャックは最初気付かなかった。
     二つに裂かれた体を認識すると、ジャックは最後の力で両手を上に上げた。
    「バスジャーーーーーーック!」
     往年の特撮悪役の最期のように、派手な爆発が巻き起こる。
     もうもうと立ち込める土煙が収まった時、ジャックの姿はどこにもなかった。


     ジャックに止めを刺した焔は、黒紅を鞘に納めながら、スマイルイーターが立ち去った方角を睨んだ。
    「早く、スマイルイーターの仕掛けた爆弾に関する情報が欲しいですね……」
     後手に回る歯がゆさに握り締めた手に、ちいさな手が重ねられた。
     いつのまにか幼稚園バスから降りた子供が、焔の手を包み込む。
    「おねえちゃん、かっこいい!」
     最初に降りた子供を皮切りに、車内の子供たちが一斉に灼滅者達に駆け寄った。
     灼滅者達の戦いをバスの中から見守っていた子供たちは、興奮した様子で灼滅者達にじゃれついた。
    「おてて、やわらかいね。でもずばって! ずばって!」
    「ねえねえ、このあかいの、なんて書いてあるの?」
    「このおふく、おそでが、ばーってなるんだ!」
    「くつが火でぼーっていうの、もう一回やってよ!」
    「おにいちゃん、やまだせんせいをたすけてくれて、ありがとう!」
    「おにいちゃんがえい! ってやったら、おなかいたいの治るかなぁ?」
    「あのびゅーん! っていうの、どうやってやるの?」
    「おにいちゃん、どうしてお面してるの? とってとって!」
     純真な目でじゃれつく子供たちを無下にもできず。灼滅者達は戸惑いながらも、子供たちを相手にしていた。
     そんな中、一人の子供が山田先生の腕を引っ張った。
    「わたし、大きくなったら、おにいちゃんやおねえちゃんみたいになる!」
     一際大きく響いた声に、他の子供たちも一斉に賛同する。
    「子供ってのは甲高い声はうるせぇけど、まぁ元気でいいんじゃね? 泣き叫ばれるよりは、笑ってる方がいいさ。平和でな」
     暦生の声を包み込むように、園庭に子供たちの笑い声が響き渡った。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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