沖縄県、国際通りの一角にあるカフェ。
混み合う店内でテーブルのひとつに席を取った彼の目の前には、もう何年も付き合ってきた少女がテーブルを挟んで腰かけていた。
恋人としてではない。はじめは仕事上の付き合い。今は多分、友人。親友だったら嬉しい。
けれどまだ、恋人じゃない。
目を伏せてかき氷をつつく少女は、いつもと違う雰囲気を既に感じ取っていたか、異邦人の相手をちらと見てまた目を伏せる。
周囲の空気は、ひとりと彼らを知る者はいないのに彼らを祝福する寸前だった。皆楽しげに笑って恋人の卵たちを見守り、「早く告白しろ」とハンドサインで訴える者までいる。
たった一言がすごく重い。ああ神様、僕にたった一度の勇気を。
彼女のほうも、その一言を待っていた。
海外の告白ってどんなのかしら。やっぱりキスとかするのかな。そう思いながら顔を――
ごとり。
「え?」
彼の青い目と目が合った。だが、まだ、彼女は顔を上げていない。
「……ねえ、あなた……」
頭と体が離れていますよ。
呆然と顔を上げ血飛沫を上げる首へ向けて言いかけたその瞳に、にたにたと笑う男が振り上げた刃と、その様子を眺める男の姿を映す。
「楽しそうだね。……みんな笑っていて、気持ち悪い」
その言葉を、彼女は聞けなかった。
「嬉しい時や楽しい時って、自然と笑顔が出るよな」
こんな感じに、と衛・日向(探究するエクスブレイン・dn0188)は幼さの残る少年らしい顔で笑って見せ、しかしふっと表情を消した。
「そんな笑顔を嫌うダークネス……スマイルイーターのことは知っているか? HKT六六六のゴッドセブン、ナンバー5だ。こいつは沖縄県の繁華街、国際通りで勢力拡大を狙っているんだけど、同時に一般人の虐殺も行おうとしている。だからみんなには、これを阻止してほしいんだ」
言いながら鞄からファイルを取り出し、敵に関する資料と国際通りの資料を抜き出して机に並べた。
戦場となるのはとあるカフェ。ふわふわのかき氷が有名な店で客の入りも多い。
賑やかで楽しげな空気の中、スマイルイーターは現地で従えたダークネスと共に店内にいる人間を虐殺しようと計っている。
「シンプルな状況だよ。それだけに殺しやすく、阻止しにくい」
まずは敵の注意をこちらに引きつけ、周囲に被害が出ないようにしなければならない。
簡単な見取り図を出して見せ、出入り口はこことここ、と示す。ドアからの出入り口と、テラス席からの出入り口。
「どちらからでも入れるようになっていて、敵はこのテラス席側から入ってくるんだ。でもすぐには動かない。お客さんでいっぱいの店内の賑わいが最高潮になった瞬間を狙って動くみたいだな」
ちょうど店内には告白しようとする男性と相手の女性がいて、その告白の瞬間を狙うようだ。確かに、これ以上になく盛り上がるシチュエーションである。
そこで灼滅者だと気付かれないように紛れ込み、被害を可能な限り抑えて敵を灼滅しなければならない。
「配下のダークネスは番外の六六六人衆。名前は必要? そう。長島鳴潮……ええと、ながしま、なるみね。殺人鬼の能力に加えて、日本刀と解体ナイフ、それにバトルオーラに似た能力を使うよ」
言って、別の資料を抜き出しぱたりとファイルを閉じる。もの言いたげな灼滅者たちの視線に気付き、こくりと首を傾げた。
「何か他に質問ある?」
「スマイルイーターについては?」
問われて、ああ、と溜息混じりに応える。
「スマイルイーターはさ……戦闘になったら配下に任せて逃げるんだ。追えばいいだろって? 俺もそう思う。でも、『沖縄の各地に爆弾を仕掛けていて自分が灼滅されたら大きな被害が出る』と脅してくるみたいなんだ」
仕掛けられた場所は分かんないから、まずは事件の阻止と配下の灼滅をお願いするよ、と苦いものを口にした顔で続けた。
資料を集めて揃えながら、エクスブレインは灼滅者たちを見回した。
「スマイルイーターの行動は許せないし野放しにすることはできないけど、まずは被害を増やさないこと……被害を防ぐことを優先してほしい。大丈夫、みんなのことは信じてる。でも、無理はしないでくれよな」
ひとりひとりの顔を見てから言い、いってらっしゃい、と送り出した。
参加者 | |
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加賀谷・色(苛烈色・d02643) |
霧凪・玖韻(刻異・d05318) |
華槻・灯倭(月夜見・d06983) |
時宮・霧栖(紅色の忘れ形見・d08756) |
ティルメア・エスパーダ(カラドリウスの雛・d16209) |
氷灯・咲姫(月下氷人・d25031) |
ファムネルエルシス・ゴドルテリアミリス(わんわんにゃぁにゃぁ・d31232) |
不動・ナナオ(ラストダンス・d33769) |
本州より一足早い初夏の陽射しが心地よく照らし、汗ばむ陽気に行きかう人々もどこか気もそぞろに見える。
涼を求めて店に立ち寄る人もおり、国際通り沿いにあるカフェもそんな店のひとつだった。
ここはかき氷で知られる店で、ドア付近に席を取った加賀谷・色(苛烈色・d02643)は初雪のようにふわふわのかき氷をつつきながらちらと視線を向けた。
賑わっているのはただ客が涼を求めているだけではない。傍目にも初々しいカップル未満の男女が、今にも告白するか否かという雰囲気を醸し出している。
異邦人と思しき男性は顔を真っ赤にしながら何か言いかけては本題に入れず、邦人と見える少女は所在なげにかき氷に視線を落とし、食べるでもなくつついていた。
それはとても幸せそうな、しかし何もしなければ残酷に壊されてしまう風景。
「(こういうのなけりゃ、このふわふわカキ氷ももっと美味く感じるんだろうなぁ……)」
……そのうちなーんにもないときに来よう。
周囲のそわそわした幸せな雰囲気に、彼もちょっとそわそわしてしまう。
ただ、ふたりにもっとも近い席で彼らを睨み……もとい、見守る不動・ナナオ(ラストダンス・d33769)の目つきに驚きそそくさと避ける人もいた。
だが、彼は甘いシロップに甘いトロピカルフルーツをがっつり盛ったかき氷を食べているだけで、その剣呑な目つき以外はいたって平凡な男子高校生である。
店内の様子を時宮・霧栖(紅色の忘れ形見・d08756)も時折見つつ、静かにコーヒーを飲みながら雑誌をめくる。
と。喧騒の中からドアの開く音を拾った。
氷灯・咲姫(月下氷人・d25031)がきょろきょろと店内を見回し適当な席を探す。少し遅れてふたり、タイミングと入口をずらして訪れた。
ドアから入店し店内を一瞥した華槻・灯倭(月夜見・d06983)に色が手を上げて招き、テラス側から来たティルメア・エスパーダ(カラドリウスの雛・d16209)は空席を探すようにうろうろしながらノートパソコンと向き合い何やら作業をしている風の霧凪・玖韻(刻異・d05318)を確かめる。
一瞬彼女に向けた視線を戻し、彼は紅茶のカップを取り上げ口をつけながらダークネスについて思案する。
「(また随分と変わった趣味だな。ダークネスはそんなのばかりだが)」
それはそれとして、告白直前の男女というのは見て分かる物なのか? そう思っていたのだが、これならば自らそうアピールしているようなものだ。
灼滅者たちは各々にさり気なさを装い互いの位置を確かめ、そして時折店内の様子を検めいざという時に備え待つ。
「(スマイルイーター……笑顔が嫌いなのは何故なんだろうね。自分が笑顔になれないからかな)」
席に着きメニューを眺めていた顔を上げ、ティルメアはカップルの卵たちを微笑ましく眺める。
ふと、色の表情がかすかに陰った。
仲間は信じてるけど、不安もある。ちゃんと守りたい。
「(もっと何か、打てる手もあったんじゃ、ねぇかなぁ……)」
とか、考えてる場合じゃなくて。いつでも動けるように集中、と気を取り直したその時、店内がざわめいた。
俯いた少女の前、青年が少し腰を浮かせて何か言おうとし、同時に来客を告げる音。
「…………」
真っ先に気付いたのはテラスに近い位置にいた玖韻だった。
歪な笑みを浮かべた男が店内へと足を踏み入れる。その後ろには、糸のように細い目をしたもうひとりの男。
同時にナナオも気付き、にたにたと笑う男の手が緩く構えられるよりも早く椅子を蹴って立ち上がる。
「菖蒲!」
得物の名を呼びながらスレイヤーカードを手の内に挟み、次の瞬間づらりと現れた漆黒の太刀を手に男の獲物との間に割っている。
距離は至近。目つきの悪い少年が突然刃物を抜いたことで店内は一瞬のうちに動揺が広がり、しかしあまりに唐突でその場にいるほとんどが次の行動へ移るための思考を止める。
その間にも男――長島・鳴潮はどこからか取り出した刀を音もなく抜き払い逡巡なく奔らせた。
滑らかで軽いスピードを生かした一閃に見え、ならばと愛刀を構えて防ごうとする。
しかし。
「……がっ!?」
だ、ぐづんっ!!
軽さからは想像もできないほど重い一撃が得物越しに彼の手に伝わり、辛うじて防いだが勢いまでは殺せず、そのままテーブルに叩きつけられ周囲の卓を巻き込む。
そしてようやく、時が動き出す。
甲高い悲鳴が誰ともなく上がり、狭くもないがさして広くもない店内にパニックが広がった。仲間たちが客を安全に逃がすよう誘導する中を、霧栖とファムネルエルシス・ゴドルテリアミリス(わんわんにゃぁにゃぁ・d31232)がダークネスへと攻撃を仕掛ける。
「人の恋路を邪魔するやつは……犬に喰われて灼滅(し)ぬといいわん」
影の刃を迸らせパペットを操り言う少女の攻撃は振るった一撃に弾かれ、間断なく放つ霧栖の急撃も難なく防がれる。
「はっ、その程度で奇襲したつもりか?」
防御の隙を突き蹴撃を仕掛けた灯倭を軽くいなして鳴潮は薄く笑った。
派手に吹っ飛び一瞬気を飛ばしたナナオの襟元にかき氷の冷たい感触が滑り込み、倒れている暇はないと急き立てる。
「不動さん!」
咲姫の治癒を受け、礼を言いながら立ち上がる。
「皆さん、お願いします!」
くらくらしながら周囲を確かめると、彼が守った青年は少女をしっかりと抱きしめ、店の隅で身を守っていた。
既に鳴潮は興味を失ったらしく標的から外れているがこのままでは戦闘に巻き込まれるだろう。
「こっちに逃げろ!」
人の流れを掻い潜り二人に近付いた色はその手を取って入口へと誘導する。しかし少女が躓き、腰が抜けたのかそのままへたり込んでしまう。
「ボサッと座ってんじゃねェ! 死にてぇのかテメエ!」
それを見て取ったナナオの叱責にいっそう身をこわばらせ、彼女を抱き上げた青年の背を色が押して急げと示す。
「悪ぃ、あとで仕切りなおしてな」
彼が掛けた言葉。守りたい一心でついドヤしてしまったが、逆に怖がらせてしまったと気付き、
「……あっすみま…………目、目つきの悪さが役立つこともあるんですね……」
害意はないのだ。ないのだが、……仕方ない。
少々落胆しつつ得物を構え直すナナオの背に声が向けられた。
「ありがとう!」
少し訛りのある短い言葉。応えるより先に風を切る白刃が灼滅者を襲い、間一髪で避けるが切っ先が頬をかすめ血がにじむ。
混乱の中、開いているのかも分からない目をさらに細め、背を向ける男がいた。
「逃げるのか?」
灼滅者の問いに、男――スマイルイーターは振り向き、視線すら読み取れない目で灼滅者たちを睨め回す。
「このままでは目的は果たせそうにないのでね」
あとは任せたとばかりに手を振り、それから薄く口元を歪めた。
「邪魔をすれば……分かっているだろう? 嘘かどうか確かめてみるかい?」
相手が既にその情報を知り、真偽の判断に迷っていると見て取っての言葉。灼滅者たちは、博打に乗ることを選ばなかった。
「脅しがハッタリか真実かは解らない、けど……」
悔しさを隠さない灯倭の言葉を受け、スマイルイーターは背を向ける。まるで聞く耳を持たないというように。
「スマイルイーター! 次はきっと……灼滅してみせる!」
「……次は絶対に逃がさないからね」
歯噛みする霧栖の前に、刀とナイフを手に男が立った。
「オレの相手はしてくれねェのかい?」
薄情な笑みと共に、白刃が風を斬り灼滅者へと急襲する。
ひと薙ぎに迸る斬撃を身を滑らせてかわし、灯倭は炎撃をダークネスへと放つ。薄情な笑みを浮かべ避ける隙を狙いティルメアが強く地を踏み渾身の蹴りを叩き込もうとし、
「浅い」
「!」
仕草だけでいなされ、簡素だがそれ以上の重みを含む言葉が向けられた。
「何を……」
「お前の心は、浅いんだなァ?」
ダークネスが嗤う。
「笑ってごらん? ん? そうすれば幸せだろう? 上辺だけはなァ?」
「っ……」
促す言葉に、常は穏やかな表情を浮かべている少年の顔が強張った。
「笑っていれば幸せだもんなァ。どんなに辛くても、痛くても、苦しくても、笑っていりゃあ何とかなるさ。てめェでてめェの心を傷付けて、抉って、その傷にぐりぐりと塩を擦り込んでいても、周りはみィんな幸せだよなァ?」
悪意だけしかない笑みがにたにたとティルメアを捕らえる。
後衛に位置する彼に凶刃は届かない。だが、その言葉は確実に届いていた。
その言葉を遮るように妖の槍を扱いて霧栖が旋撃を繰り出す。
「さぁ、絶望させてみなよ」
宿敵との戦闘を楽しみ笑みを浮かべる彼女の攻撃を鳴潮は受け流し、ナナオの刀閃が隙なく襲うも防がれる。刃を含んだ哄笑に少年の記憶がなおも抉られようとし、
「弱い犬ほど吠えると言うが」
淡とした一言と共に刀を振り上げ、玖韻は一息に振り下ろす。
苛立たしげに舌打ちし得物で打ち払うと構え直し、小柄な体躯を躍らせ槍を突き出す少女へと対峙する。
「斬る動作よりも、突きの動作の方が早いんですよ!」
蒼白入り混じる刃を持つ荊棘槍を手に一気呵成と飛び込んでくる咲姫の一撃を受け流すと、鳴潮はお返しとばかりに刀を振り抜いた。
真っ直ぐに奔る白刃を少女は受け止め、その隙を突いて両手のパペットを操りファムネルエルシスが影を疾らせる。
ぞぶりと波打ち襲い掛かる影を前にダークネスはふっと短く息を吐き、
「お人形さん遊びか……よッ!」
大きく振りかぶって影業を振り払った。
その一瞬。
「もらったっ!」
短い気合と共にその腕を獣と化し、色が地を蹴り距離を詰める。
灼滅者たちの攻撃を鬱陶しげに防ぎ受け流していた鳴潮はわずかな瞬間集中を欠き反応が遅れた。だが半瞬もあれば狙い定めるに充分。
鋭い爪撃がざんっ! と男を抉る。傷口から溢れる赤を一瞥しぎりと灼滅者を睨むダークネスに、咲姫は大見得を切った。
「人々の笑顔を守るのがヒーロー……いや、灼滅者としての務め! しかも微笑ましいカップルさんを狙うなど言語道断、許しませんよーっ!」
「幸せを壊すのが楽しいなんて……悪趣味だね。私達が相手になるよ。貴方になんて、絶対壊させないから」
灯倭にまっすぐに見据えられ、ダークネスはにたりと口元を歪めた。
その意味を読み取るよりも早く得物を振り抜く。轟とした勢いで襲い掛かる斬撃を灼滅者たちは防ぎきることができず、ばっと鮮血が散る。
灯倭の霊犬・一惺を伴い回復が飛ぶ中、鳴潮は灼滅者たちを嗤う。
その笑みを、パペットをぱたぱたと動かしてファムネルエルシスが跳ね除けた。猫のパペット・にゃぁさんを操り、ゆらと滾る闘気が迸る。
あどけない小柄な少女に笑みを一層深くして鳴潮は再び得物を構えた。
店内に一般人の姿はなく躊躇う必要はない。灼滅者、ダークネス共に出し惜しみせずに力をぶつけ合う。
だが、一対多の戦闘は鳴潮にとって不利にしか進まずじりじりと削られていく。
初めに激しい勢いで叩き付けられた凶刃は次第にその重さを失い、渾身の力を込めた閃撃をメイヘムが防ぎその隙を突いて玖韻が禍憑の名を冠する刀を奔らせる。
ざぅっ! 鋭くその身を抉られ顔を顰める。はあっと大きく息を吐き、闘気をまといその傷を癒すが十全とは言えない。
「北の大地の冷気、プレゼントしちゃいますよ!」
氷灯夜で知られる北海道芽室町の元ご当地怪人だった咲姫が荊棘槍を手に妖気を冷気と化して撃ち放つ。
初夏の沖縄でも北海道の寒さを失わない冷気の弾丸を避けきることができず、身体のあちこちに増える傷にぎりと歯を軋らせる男へ自身の魔力を練り上げファムネルエルシスが術を仕掛けた。
汗ばむ陽気をも奪い取る氷結死の術から逃れることはかなわず、獣じみた叫びを上げる。
「おっと、悪あがきはよくないぜ」
悪戯っぽく笑い色が間合いを詰め一撃を叩き込み、畳みかけるように灯倭の放った襲撃にぐらりと体を揺らし、ダークネスは灼滅者たちを睨む。
「クソがッ……!」
「アタシはまだまだ戦い足りないんだけど?」
もはや悪態以上の力を持たない言葉を吐く男に、にっと霧栖が笑う。
「殺られるついでに爆弾の場所とか教えてくれない?」
「誰が教えるかよ」
問いに言い返し得物を振るおうと構えた瞬間、魔力の弾丸がその胸を貫いた。
穏やかな笑みを浮かべて、ティルメアはダークネスから目を離さない。笑顔は上辺だけの幸せではない。笑顔でいれば相手もまた笑顔を向ける。彼の笑みで周りが幸せであれば、周りもまた彼を笑みで幸せにしてくれる。
そして笑顔を体を張って護ったナナオが漆黒の太刀を滑らせ駆けた。役に立たぬことなどないその太刀筋は、迷うことなくダークネスを一息に断ち斬る。
ど、っ。
男は血を吐き床に倒れ伏し、そして二度と嗤うことも、立ち上がることもなかった。
数瞬の間を置き、安堵の溜息が誰からともなくこぼれる。
「笑顔の力を見くびらないでよね。こんな程度で絶対に消させたりしないんだから……」
飄々とした表情を少し真剣に引き締め霧栖が呟く。それを聞きティルメアは少し寂しげに微笑み、
「そうですっ! 笑顔は大切ですよ!」
ぐっと拳を握りしめ、楽しそうに笑う咲姫。
そんな彼女に色も苦笑し、ふとナナオが視線を向けている先に気付く。
遠くではあったが、あのカップルの卵たちが見えた。背の高い青年が少し屈み、少女の頬にキスを落として。
「幸せそうじゃん?」
笑って言うと彼は頷いた。
「恋人は、殺しあう以外で死んではいけません」
その言葉に仲間たちの視線が集まる。
曰く、好きな子の目の前で赤の他人に殺されるなんて俺だったら死んでも根性で祟ります。一番大事な、一度きりしか無い「自分の死」は愛する人にこそ奪ってほしいのに。
「横取りはいけませんね」
至って真摯に言う彼に言葉もなく、一応と警察に通報していた灯倭が電話を切って仲間たちを見た。
「さ、行こうか」
ファムネルエルシスは頷き、玖韻が先に立ち灼滅者たちは店の外へと向かう。
スマイルイーターという懸念を残して。
作者:鈴木リョウジ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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