ちょっとダンジョン深部まで

■リプレイ

●札幌アンデッド経由ダンジョン行地下鉄
　札幌の地下鉄。東豊線の豊平公園駅から入り、地下鉄のトンネルへ。終電も終わった深夜１時半、ダンジョン化の時刻が近づいている。
「じゃあ、居木さんは２年前まで札幌に住んでいたとですか？」
「住んでたといっても小６の時からで、結局１年も住んでなかったんだけどね」
　佐倉・結希（は斬艦刀を愛しています・d21733）に問われて、居木・久良（ロケットハート・d18214）は、笑顔で頷く。
「住んでた場所は南北線の南の方で……結構好きな街なんだよね、札幌」
　久良はふと左胸に触れる。
　――２年前の冬、家族をアンデットにされたのは札幌だった。
（「今回の相手はその時のノーライフキングと関係があるかはわからないけど、出来れば手がかりを手に入れておきたいな」）
　しばらく進むと、徐々に空気が変化し始める。
「……あ、景色が変わるね」
　雨咲・ひより（フラワーガール・d00252）が周囲を見回す。大切なロッドを握って、深呼吸一つ。――ダンジョン探索なんて、どきどきする。
　ほどなく、地下鉄路線は、岩肌むき出しのダンジョンへと変貌を遂げた。
「ダンジョンって、冒険ぽい感じがして何かわくわくするよね」
　赤星・緋色（朱に交わる赤・d05996）が楽しそうに言い、ひよりへと振り返る。
「ひよりさん、地図はどうかな？」
　ひよりは首を振る。縮尺の違う地図が複数枚。そのどれにもスーパーGPSのマーカーはない。
「『ここ』が『どこ』なのかを知っておきたかったんだけど。『ここ』の地図でないとだめみたい」
　ひよりは地図をしまい、かわりに方眼紙を取り出す。
　緋色は物珍しげに周囲を見回している。
「突然現れて消えるダンジョンって、気になるよね」
「迷宮ダンジョンねー。いかにもって感じの景色だね」
　神威・天狼（十六夜の道化師・d02510）はランプを掲げ、用心深く周囲へと視線を配る。
「何があるかわからないし、注意深く進んでいこうか」
　ちょっと気になることも多いし、と呟く天狼の瞳が、考え深げに細められる。
「そういえば北海道って、前にもゾンビが色々と動いてたわよね　それって関係ないのかしら？」
　時坂・綾子（黒百合の誓・d15852）が思い出したように口を開く。北海道での事件が多いことは、天宮・黒斗（黒の残滓・d10986）も気になっていた。
「……とにかく、一つずつ片付けないとか」
　ひとまず今はそう結論づけ、黒斗は腰に下げたカンテラの明るさを上げる。
「私は少し先を歩いく。何か起きたら声をかけてくれ」
　黒斗の目の前に広がるのは、どこまでも続く地下ダンジョン。警戒を怠る気はないが、少しだけ気分が浮き立っている。
「私はしんがりに入ります。奇襲がないか警戒するとですよ」
　呼応して、結希が最後尾に下がる。
　皆が隊列を調節する中、自分はこの辺かな、と栗元・良顕（浮かばない・d21094）は見当をつけて真ん中に入る。いつものように服を一杯着込んでいるけれど、まだ寒い気がする。
（「罠はかかりたくないし、気を付けて行こう……」）
　探索の手順や分担を確認する仲間達に何となく相槌を打ちながら、良顕も手荷物を確認する。明かりになるものを用意するつもりでいたが、どうやら持ってきそびれたらしい。
　でも、皆の明かりで十分に明るいし、このままでも問題ないだろう。
（「でも、夜なら、深夜テンションでなんでも楽しめる気がする……」）
　迷子は迷子であてのない感じが楽しそうだし、そう考えると罠も悪くないのかも……とぼんやり考えながら、良顕は皆の行くほうへとついていく。

●アンデッドのお出迎え
　行く先から、カタカタと何かが歩いてくる。本日何度目かのアンデッドとの遭遇。
「さて、一仕事しよう」
　黒斗は慎重に歩を進め、妖の槍を一閃する。死角からの刺突はやすやすと骨の胸部を砕き、動く死体を骸に返す。
「朝になってもダンジョンに帰り損ねるアンデッドが出ないように、ここで攻略しておかんとですね」
　スケルトン型のアンデッドの横をすり抜けるように、突進してくるオオカミ型のアンデッド。結希はその眼前をふさぐ。左足を噛みつかれながら、真正面からの戦艦斬り。結希は漆黒の大剣を軽々と振り回す。
　緋色の螺穿槍や久良のハンマーもアンデッドに命中し、ほどなく戦闘は終了。結希が音を遮断していることもあり、増援の気配はない。
　数度の遭遇を経て、倒したアンデッドは８匹。
　ひよりはマッピングのかたわら、チョークで壁に印をつける。メイン主洞が一本、交差する支洞が数本。
　はぐれた者がいないことを確認し、慎重に探索を再開する。
「このペースでいければいいんだがな……」
　先頭を進む黒斗は、ふと岩の地面へと注意を向ける。妖の槍で叩いていた床の手応えが、今、少し違っていたような……？
　その時、緋色が足を止めて振り返った。
「今、そこの支洞から足音が聞こえなかった？」
　棒の先に鏡を付け、支洞の奥を伺う緋色。ぼんやりとだが、動く影が複数、鏡に映る。
「これ以上事件が起こらないように、まずはしっかりとアンデット退治をしないとね！」
「気をつけろ。この辺りは床に何か仕掛けがありそうだ」
　黒斗に注意を促され、久良は頷く。怪しい床は踏まないようにして、この場所で待ち伏せを――。
　灼滅者の気配に気づいたのか、支洞から来るアンデッド達の歩みが早くなる。その中の一匹、スケルトン型アンデッドの足もとで、カチリとスイッチが入る音がした。
　ゴゴゴ、と何かが作動する音。
「わ……落とし穴……」
　落ちながら良顕が呟く。
　久良のいた床と、良顕と天狼が立っていた場所に、ぱっくりと穴が開く。
　久良はダブルジャンプで、天狼も素早く床に捕まり落下を回避。良顕は態勢を整えて穴の底に着地する。
「起動スイッチはスケルトン側ねー。引き上げるよ、良顕、つかまって」
「待って、天狼くん。こっちにもアンデッド……」
　落とし穴の底、良顕の目の前。オオカミ型のアンデッドがうなり声を上げて身構えている。
「この穴、横道につながってるんだね……」
　へえ、と感心したように良顕が呟く。ほどなく、支洞からのアンデッドも来る。こちらはスケルトン型が２体。
　期せずして混戦模様になる中、良顕は目の前のオオカミ型のアンデッドへと、刺したりできる専用のストローを突き刺す。生命エネルギーを吸い上げられ、アンデッドが身を震わせる。
「全く、ホラーアクションゲームじゃあるまいし。よくまあこんなに骨やら色々集めてきたものねぇ」
　黒髪をなびかせ、綾子はレガリアスサイクロンを放つ。幸い落とし穴といってもさほど深くなく、床上からの攻撃でも十分に届く。
　天狼の影がピエロの形をとり、オオカミ型のアンデッドを締め上げ、２つに引き裂く。天狼の口元に笑みが浮かぶ。
「種が分かれば怖くない。これでもう、同じ罠には引っかからないよ」
　スケルトン型のアンデッドへ、ひよりから光条を放たれる。まばゆい光に包まれガラガラと崩れたアンデッドは、名も知らぬ誰かの骨の山へと戻る。
（「本当はきちんと葬ってあげたいけど……」）
　気持ちを振り切るように、ひよりは皆に声をかける。
「もうちょっと進んだら、休憩でもしましょうか」
「賛成。わたし、チョコレート持ってきてるの。甘いもの食べると、元気が出るよ」
　綾子の提案に、ひよりが頷く。
　ダンジョンの探索は、もう少し続きそうだった。

●罠をかいくぐり、濃霧の先へ
　しばらく進むと、濃霧が押し寄せてきた。伸ばした手の先が見えない、濃密な霧。
　霧に隠れ、足下に渡されていた透明なワイヤーが、黒斗のカンテラの光を反射してキラリと光る。
「アラームトラップか」
　注意を促しながら先へ。
　霧の中から不意に現れるネズミ型のアンデッドを、久良はロケットハンマーでたたきつぶす。動力源の蒸気が霧と混じる。
「迷宮化した地下鉄の構内って言うのはロマンがあっていいなって思うけど、そんなこと言ってられないよね」
　動かなくなったアンデッドへと久良は目をこらすが、特に変わったところは見つからない。
「あそこ、何かいるような気がする……」
　良顕が天井を示す。濃い霧の中、岩が陰をつくるわかりにくい場所。緋色は音を頼りに近づく。耳をすますこと、数秒。
「……いた、そこだよ！」
　緋色の手元からダイダロスベルトが伸び、ビームのように天井へと飛ぶ。コウモリ型のアンデッドが貫かれ、ぼたりと落下した。
「いっぱいいるね。一般の人に被害が出る前にちゃんと止めないと」
　これで何体だっけ、という緋色の問いに、ひよりが22だね、と返す。
　やっと濃霧の区域から出た時には、結構な時間が経過していた。思った以上に神経も張り詰めていたようで、視界が開けたことに綾子はほっと息をつく。
「ここでしばらく休みましょう。治療が必要な人はいるかしら？」
　個体ごとの強さはさほどでもないが、数が多く、不意打ちを多用するため、損害は蓄積されていく。結希と黒斗は心霊手術で自身の傷を癒やす。
「これはダークネスの力か儀式の果かしら？　それともブレイズゲートに近いのかしらねぇ？」
　休憩がてら、ひよりの地図を確認しながら綾子が呟く。今のところ、魔法陣的な物や目ぼしい文字等はない。
「地形や罠に規則性はないか、後で改めて確認したほうがいいわね」
　綾子の黒衣からは、アリアドネの糸が伸びている。全員の目に見える状態にある赤い糸は、はぐれた時の保険でもある。
　ひよりはせっせと、作成した地図に補足説明を入れている。
「まだ行っていない通路もあるけど、せっかく霧を抜けたんだから、この先に何かあるといいな」
　スーパーGPSは手書きの地図上に、現在地をくっきりと示していた。
　天狼は、今ほど見つけたアラームトラップをじっと見下ろす。さて、このトラップは作動させるか否か。
「俺、アンデットってあんまりいい思い出がないんだよね。……いい思い出がある人なんていないだろうけど」
　久良の言葉を耳にして、緋色が振り返る。
「アンデッドが出るダンジョンをつくるなんて、どうしてこんなことをするんだろうね？」
　犠牲者を誘い込みたいってわけでもないみたいだし、と考えながら言葉を続ける緋色。
「深夜の地下鉄って、むしろ人を避けてる感じがするかな」
　心霊手術を終えた結希は、改めてダンジョン内を見回した。
「ダンジョンらしく宝箱とか、パワーアップのアイテムとか、置いてないかなー？」
　これがゲームのダンジョンなら、トラップや敵が多い分、宝箱や報酬があるものだ。
　はぐれない範囲でちょっと観察を……と歩き始めた結希の足がしばらく行って止まる。回れ右して、みんなのところに。
「ゴールが見えてきたみたいです」
　――結希が気づいたのは、それまでとは明らかに違う気配。
　曲がり角の先にいかにもな開口部があり、重そうな何かを引きずる金属音が響いていた。

●ラストバトル
　壁際に縁どりのついた開口部をくぐると、景色は一変する。
　部屋の隅まで明かりが届かない、天井が高く、広い空間。
　そこに、大剣を引きずりながら、ゆっくりと室内を巡る大柄なスケルトン型アンデッドがいた。傍らには、ネズミ型のアンデッドが３匹。
「あなたがこのダンジョンのボスですね！　レアアイテムのチャンス！」
　結希は一気に距離を縮め、身を屈めてからのアッパーカットを叩き込む。雷に変換された闘気がアンデッドの全身を帯電させる。
「こいつらもいるのか、ちょっと厄介だなー」
「でも、これを倒せば終わりなのかな？」
　天狼はネズミ型のアンデッドへと縛霊手を向ける。祭壇が展開され、ネズミ達の動きを阻害。すかさず緋色が妖の槍をネズミへと向ける。冷気のつららに貫かれるネズミ達。
　良顕の指先から、自転車用のチェーンが飛ぶ。錆びたチェーンは高速の動きでネズミ達を捉える。
（「やっぱ、帰ったらちゃんと寝よう……」）
　深夜テンションに任せてフラフラしていたら駄目かもしれん、と良顕がぼんやり考えているうちに、ネズミ達は次々と灼滅されていった。
　大柄なアンデッドは、力任せに大剣を振り下ろす。黒斗は攻撃に身をさらしつつ、機をうかがう。戦いのさなかにも作動する落とし穴は、観察と予測で回避。
　黒斗の手と一体化した『Black Widow Pulsar』が、アンデッドへと振り下ろされる。攻撃に特化した光の剣は兜と頭部を打ち砕く。
　しかし頭を失っても、アンデッドの動きはとまらない。
「祓い給へ、清め給へ、守り給へ、幸え給へ」
　綾子の唱える祝詞が低く響く。
　紅を引いたような艶やかな唇から紡ぎ出させる言葉は、腕に備えた祭壇から癒やしの光を呼び起こす。集まった光は黒斗へと撃ち出され、浄化し、傷を塞いでゆく。
　綾子の瞳が、半壊状態となった大型アンデッドを捉えた。左目の泣きぼくろが、綾子の妖艶な印象をさらに強めている。
「……かわいそうに、今度こそおやすみなさい。永遠に、ね？」
　弔いのように響く綾子の言葉と同時、久良のロケットハンマー『モーニング・グロウ』が蒸気を吹きながらアンデッドの上半身を粉砕した。
「今度は安らかに眠れるといいね」
　右半身と、腰から下のみになったアンデッドは、よろよろと武器を振り上げる。
「……ごめんね」
　ひよりは愛用のロッドをを両手でぎゅっと握る。……アンデッドはグロテスクで、本当のことをいえば、苦手。
（「でも。亡くなった後に、こんな形で利用されるのは可哀想だとも思う」）
　最期の力で近づいてくるアンデッドに、ロッドの杖先を向ける。『救彩・天照華姫』からほとばしる魔術の雷は、アンデッドを完全に撃ち据える。
　ダンジョンの闇の中に灯がきらめく。
　最後の一体の動きは止まり、ただの骨に戻っていった。

　全てのアンデッドがいなくなり、ダンジョンは音もなく消失する。岩肌むき出しの洞窟から、人工的な地下鉄の線路へ。
「調べる間もなかったね」
　特に余韻もなく、あっさりと戻ってしまったことに、苦笑気味に久良が言う。
「これで終わり、っと。……外は、そろそろ日が昇る頃か？」
　黒斗が腕時計を確認する。時刻を聞いた結希がため息をついた。
「もう朝になるやないですか……午前中、学校サボってもいいかなぁ……」
　ともあれ、深夜のダンジョン探索はこれで終わり。しばらく歩くと、先方に美園駅らしい光が見えた。
　朝陽の差す地上はもうすぐ。ひとまずは、ゆっくり体を休ませよう。

作者：海乃もずく	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2015年4月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 0
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