宇治――平安時代に語られた色恋噺「源氏物語」その中の十帖の舞台となった、京都府下の都市。
茶の街とも知られる此処には、歴史を身近に感じさせる浪漫が眠る。
「今年も宇治へのお誘い、ど?」
中学生になり少し大人びた灯道・標(中学生エクスブレイン・dn0085)は、紫の花飾りを揺らし皆へ語りかける。
京都市より小規模ではあるが、ここ宇治にも様々な桜の名所がある。
「今年も塔の島でさ、川下りしたり抹茶スイーツ食べながら目線の位置で咲く桜を眺めに行こうよ」
ゆたりゆたり、船頭さんの漕ぐ舟でゆられながら川から眺める桜は手を伸ばしても届かぬ程、けれど遠目に眺めるというには近い。もどかしい距離、水音ちゃぷんと耳遊ばせて眺めるは一興。
「抹茶ソフトにワッフル、シフォンケーキに茶団子……どれも、これも、茶の味が濃くて……俺、楽しみにして、ました」
そう、甘味に舌鼓を打ちながら、愉楽を共有するのはまた格別。
去年を思い起こし機関・永久(リメンバランス・dn0072)は、面を稀く寿がせる。彼もまた高校生になり、学園での想い出を糧とし表情に彩がさすようになった。
だから皆も掛け替えのない『記憶』を得て欲しい、と、密やかに願う。
「昼間はそんな感じで。後は、さ……夜桜なんて、どーかなって」
「ああ、夜桜……」
標と永久は視線を交わし、ほぼ同時に眇めた。
「ゾッとする程、綺麗なんだよね」
昼間を彩る花達も、中央でぽつりとひとり両腕広げるように咲く巨大なしだれ桜も、夜闇を彷徨う燐光めいていて……魅入られる。
「そう、ですね。もしかしたら、普段気付かず仕舞っている言葉が、飛び出してしまう……かも、しれません」
それぐらい、恋物語繰り広げられた宇治の夜桜には魔が潜む、きっときっと。
澄んだ水辺、心弾む賑わい。
思索の迷路、内緒の駆け引き、自分すら知らなかった心底の景色。
――さぁ、あなたが好む桜はどおれ?
●遠目の薄紅
水面の映し身、櫂がかく度笑うよに、ゆらゆら。
さくらえと勇弥は花弁塗れの互いにくすり。
桜。
「人と縁を繋ぐ花」
儚いのに、強い。
「うん、世界を幸せに塗り替える力がある」
名。
勇弥からの呼び名もじり「桜に会う」
「桜の宴」
それで、さくらえ。
「良い名前、付けたんだな」
さくらと呼んだ時からどれ程経ったのだろう。
縁という宴。
「その宴の魔法の原点はやっぱりキミなんだなって」
「開花させたのは、常に歩き続けてきたお前の力さ」
照れて頬が桜色。
しばし水音に身を預け、ふたり。
「ありがとね、勇弥」
「どういたしまして――」
……サイ。
「灯道は桜をどう思う?」
茶団子を頬張る友人へセレスは問いかける。
「綺麗だね……まつわる曰わく話さえ」
七不思議使いが羨ましいと標。
「成程。この世界の物とは思えない、引き込まれそうだものな……」
祖父が愛した薄紅が着水する間際に掬いぽつり――咲き誇り樹彩る様が好きだ、と。
「オラおめぇらもとっとと乗れよ!」
一番乗りで中から手招く千代助は海賊船の船長っぽい。
ついーっと優雅に水征く舟、綾子はほっと胸撫で下ろす。
「船酔いなんてどっか行っちゃったわ」
それ程に見事な薄紅満開。
「ええ、水面に映る桜もあって、規模が大きく見えますね」
「こんなお花見、くせになる」
見事さに瞳眇めるエリカの脇で響く返事とふるふる震えるおみ足。
「……む、バランスをくずして、おちる、かも?」
「落ちるなよ?」
スヴェンニーナを気遣う伏し目の慶一は夢が叶ったと寿ぎ。
「老後の」
「埜渡先輩、老後って」
ゆっくり廻しの古びたフィルムの如く流れる桜を愛でていたルードヴィヒは瞠目。
「昔っから舟遊びはお貴族様の娯楽だしな……」
老成した趣味だわなぁとダグラスが手を打てば、確かにと納得。
「ぶっちょ、こんな風流知ってる大人とは思わんかった」
ありがとうは、
「飯! 俺のリクエストした肉はどれだ!」
膝叩き飯コールの部長こと千代助のワイルドさ(?)で断ち消える。皆が花に夢中の内に食べる作戦しばし成功。もぐもぐ。
「花見といえばやっぱりこれだろう」
慶一の開くお重に皆の瞳が煌めいた!
まずは勿論――ロンロン使用の塩握り。後は皆のリクエストに応えた好物一杯。
「相変わらずの見事な出来だな。流石おかん」
好物ばかりの敗北感の慶一の肩ぽふり、勝ち誇る所だろとダグラスはからあげに頬を膨らます。
「遠慮はしない」
食いっぱぐれるのは学習済みとルードヴィヒは甘い卵焼きに舌鼓。
「ガツガツ食べてばかりいないで、お茶も……喉つまっちゃうでしょ」
塩握りを一旦置いて綾子はちゃきちゃきお茶を配る。喧噪の中流れる花筏にふと頬緩めれば、食い気の千代助が目を花に目を奪われているではないか。
「ほら、エリカ、千代助がぼーっとしている、いまのうちに」
「ふふ、男性陣の迫力に負けてられませんものね」
スヴェンニーナにつつかれ女性陣も好物いっぱい。
「あ、おめぇら目ェはなした隙に飯食い過ぎだろ!」
花より団子、でもやっぱり花も。
舟から見る桜は全て魅せてくれるから、これまた格別なのです。
●歩くはやさで
「染井吉野も枝垂れ桜も日本らしくて良いよな♪」
舟過ぎる川縁を二人。
破顔のアスールに抹茶団子咥えた舜もつられ晴れやかに、口にはしないけど。
「……ここ付いてんぞ」
懸命に拭うアスールににんまり。
「何が付いて…………あ!」
餡なし茶団子で汚れるわけなし。
さわさわ。
舞う花弁摘み仕切り直し。
「舜の髪みたいな色の品種もあったよ」
「また俺の髪色に触れるか……」
疎み知った上で綺麗だから褒める。
「昔は白かったんだけどさ……」
業が増える度紅重ね、あたかも桜が死を餌に色増す如く。
「流石に騙されないからな!」
「まぁ嘘だけど!」
ただいま!
去年と同じ内緒の場所で花遊び。
ご機嫌庵胡の額の花弁1枚つまみテツくんへ。瞳と和奏は桜デコにふわり解け笑み。
カシャ!
薄紅見上げる永久を矢宵がキリトリ。
「髪型変えてますますイケメン」
「俺だけ……じゃなくて」
スマフォ翳し乙女と落ちた枝花でデコった相棒ズをカシャリ。
「桜の下で花の高校生」
でも、外せないのは抹茶スイーツ! と瞳はシェイクを天へ。ソフトお団子ワッフル……シェアして「おいしー!」大合唱。
和奏にもふられる庵胡は瞳のお団子ほしーとわふぅ。
「高校生もよろしくお願いします!」
「ええ。又、次の春にも……」
矢宵のお辞儀へ瞳と和奏の返事は三度のお花見約束。
……ちなみに永久、庵胡に菓子をあげていいかと悩み中。
「こーいうの、風光明媚って言うのかな」
陽の光煌めかせる水面と風に寄せた希、梛も散歩気分。
「今日はふわふわシフォンの気分、みたいな」
こーちの真顔に我に帰るぽっぽー。
「こーちは何にするの? 一口」
気を取り直し振り向けば団子。
「半分食ったら奢れよ?」
「半分なんて言わないよ。一口だけ!」
それが護られたかは神のみぞ知る。
夜天薫香の面々は既に一品確保済み。でもでも、優志の小銭入れゲットでもう一品!
「まずくはないですか?」
「問題ないない!」
遠慮の緋弥香にキリカあっけらかん。
「我が部長さんは、懐が広いな」
お礼はまたいつかと内心の桐人、緋弥香を促す。
「ぁ、キリカちゃん、緋弥香ちゃん……」
ましろの桜色の髪ゆらし甘味のお裾分け。
花より団子に呆れつつ花咲く笑顔に優志の心もほわりほわり。
十円玉を透かす真琴は耳で、悠然と歩く陵華は目で、向日葵が転びかけるのを確認
「ありがとー」
支えられほわんと笑う部長さん。
向日葵の荷物を少し持ち、陵華は団子をぱくり。真琴は花見舟を手を振った。
華やぎ桜の袂、甘さに幸せ舌鼓。
古都桜は相当照れ屋なのか携帯のピンぼけ画像に紫王はへの字口。更に手元の抹茶ソフトに落栗移せば……白玉、減ってる!?
「はて」
春は口中に残るソフトの味に舌鼓。とても、あやしい。しかし証拠が、ない。ならば紅葉。
「あっ、いいこと思いついちゃった!」
お皿にしたワッフルに、戦利品のソフトに桜餡にわらび餅乗せご満悦。交換用のマカロンもあるし、違う? では大穴和茶。
「茶団子も、わらび餅も美味しそう……」
ちいちゃな背で届かない、か。
「お勧めだよ……宇治に来たらこれ食べたかったんだ……」
ふふと笑い交換する? と差し出す百舌鳥は興味深げに瞳を眇める。
「あれ……? 桜の怪が現れたの……?」
「怪奇・減っていく白玉の話」
「京都には面白い話があるんだね」
くりと和茶の瞳が瞬けば、ああほらと春が水面を指さす。
「花筏っていうんだよね、風流風流」
るりるり悠然と川下る薄紅達。
「部長さんの白玉はきっと春の妖精の悪戯じゃないかしら」
抹茶スイーツタワーをつつきはぐはぐ、紅葉がにっこり。
「即席タワー、凄いね、撮させてー」
かしゃり☆
春の画面では黒蜜たっぷりタワー様が貫禄を醸し出します。
背後では和茶が「こうかーん♪」と、百舌鳥からわらび餅を一口。
「ああ、手がいっぱいになっちゃった……」
桜の怪も気になるけれど今はスイーツに幸せ一杯。
「……いいや、よそう。俺の思い過ごしだ」
交換に応じて結局白玉は口に入らず、まぁそれもまた良し……多分。
――集う場所の名見上げれば一面の薄紅雨。
毎年同じ時期に咲いて散るありふれた花。されど常に新鮮で特別な彩誘う…………常初花。
幸太郎の呟きに朱那は首傾げだが「トコハツハナ」の響き愛おしみ繰り返す。
「なんかね、古都の桜ってトクベツな気がするんだ」
そっちは手放し賛成。
「へへ、今年も来れて良かった」
才葉に頷きあう後輩達へ供助は「進級祝い」で奢ると太っ腹。ありがとうに混ざり、
「俺にも、森田先輩。同期だろ?」
「幸太郎は……うん、同期だしきっと大丈夫なはずだ。抹茶……?」
「あは、こーたろ先輩は確かに……」
珈琲好きのイメージ強いと、振り返り。
祭ではしゃぐ子めいた彼らへ「落とすなよー」と供助。
「そうだった! その前にシューナ、ひと口どうぞ!」
立ち止まる才葉のソフトちろり、お礼のお団子ぱくり。
「凄いお茶の香り!」
ぐーに握って堪能する朱那を見てると幸せ一杯。もらえて更に倍な才葉。
「瑠音っちも」
「じゃあシューナちゃん、シェイクどうぞ」
交換破顔の乙女達。
「抹茶って気軽に嗜むって感じがしないんだよな」
「ああ……お、抹茶濃いな、ワッフル」
桜と抹茶の香気を帯びる幸太郎と供助は妙に老成している。
ぱしゃり☆
鼻先の桜追いかける才葉皮切りに、朱那は先輩お二人さんへもハイチーズ。
「えへへ、皆と見る桜は、とびきり素敵で楽しいんだっ♪」
はにかみ瑠音ももちろん。
常初花。
それはみんなの笑顔、一葉にたんと綴込めて……。
●隠して晒して夜の紅
……此より先は夜と奇しの桜が言わせた戯事。
「標さん、見えるかしら?」
ダークネス達が仲睦まじく宴に興じる様を唇傾がせ語るアリス、標は肯定も否定も示さずただ灯を瞼に隠した。
蒼の王の詞――闇は生命を育んでいるか。明けぬ夜があっても……と、闇連れ誇らしげな花に指延ばす。
喪失は二度。
いや今回は全く違う。家に帰れば彼はいる、むしろ家族という至近距離。
それでも見慣れた姿がない教室は樹の心をざわつかせる。
はらはらと、現なんて変わるモノと桜は潔く散っていく。こんな風にいつか変化を愛し笑って話せるのだろうか……。
日常境界線を越えた此処なら素直になれる、それが兄を誘った理由。
薄紅夜桜、翻る薙乃の髪は艶やかで……。
「わたし、あの時の兄さんの歳を追い越したの」
冷や水浴びせられたよに蒼刃は息を呑む。
……わたしを優先しなくていい、その言葉が檻の様に間を遮る。守りたいはもはや我儘か。
「大切な誰かが出来たら、応援したいし……」
「そういう人は、まだいない」
自分は大切にしているありがとう、早口で逃れるように連ねた言葉、気取られないかと焦り……気付かれてしまえ、とも。
「来年もまた、一緒に」
肯定が欲しい、まだ兄として必要とされたい。
「そ、だね……」
安堵隠すように俯く薙乃。あともうちょっとだけ、大切な妹でいたい、だから。
「うわぁ、ラスク可愛い」
「ゆーちゃんのお茶ともよく合うの」
勇介から託された甘露纏いしラスクかじり。まずは勇介が七不思議使いになったと報告。
お芝居などで繋がり消えた彼らを語り継いでいきたい、と。
続けて陽桜。
遠い春の約束は奇しくもこの花の元、それをようやく届けられた。
すごいなと、できるよと、励まし合う二人の傍らには『希望』が見える。
「応援してますよ」
手探りで未来へ行く子らへ、絶望で一歩も動けなくなる日が来ても……。
「道は続いてる」
二人の手を取り想希は丁寧に指で包む。
「君たちの手を引いてくれる人達がきっといる」
俺もと示せば小さな友人達は眩しげに笑みをつくる。
「ひおには、応援してくれる人いっぱいいるから」
「俺も忘れない、諦めないって約束するよ」
想希の手につながったまま、勇介と陽桜も握手。今宵の桜はどこか優しげ。
ここでは、ひとり。それが、よい。
ぽつり外れの樹の下で流希はほのかな花香に身を浸す。
行き交う問い掛け、答えは同じ――指つなぎ熱にふれる理由を探す。
「僕らって、先輩後輩のままにしておいた方がいいのかなって」
その傷つかぬ距離を突きつけたのは郁。なのに心滲む自己を見つけ、唇噛んだ。
「椿森さん……」
零れ桜舞う風に消されぬようにはっきりと修太郎は声響かせる。
「もう一度、僕と恋人になりませんか」
阻む距離あろうが手繰り寄せる想いの強さ、それは時巡り再び咲く桜のようで。
「じゃあ」
ひとりぼっちの指も重ね彼を包む、もうはぐれてしまわぬように。
「もう一度、名前で呼んでください」
「……」
――郁さん。
何度見ても飽きない、璃依となら。
カケルのオカゲで大好きで特別な物になった。
……桜。
「俺のお陰?」
桜飾りしゃらり、殊勝に頷く。
「お祖父さんのお話」
亡くして心を封じてしまう程に大切な人と桜の話、沢山聞いた。だから璃依にとっても大切な人。
ああ。
嬉しいと、翔琉は揺れる髪飾り一撫で。
涼やかな音に合わせ落ちた花弁に縁感じて、彼は彼女の掌に置いた。
「カケルの大切な桜の思い出に、アタシも刻まれたい」
花弁に熱与え。
「もう刻まれてる、だから」
変わらず来年もこうして桜を見上げに来よう。
「くしゅっん」
愛らしいくしゃみ狭霧は雫へ上着をかけた。
手を繋いじゃう? そんな戯けには、十七夜さんが迷子で泣いてしまうからとやはり戯けが返る。
薄紅が刻一刻瞬間の絶景を描く天蓋の元、熱を感じあうのは格別。
「散る夜桜は、空が剥離した色彩を吐息で零しているみたい」
謎めく瑰麗な言葉、狭霧は囁く彼女を見る。
夜闇に桜が映えるように、彼女の白い髪も幻想的に浮かび咲く花のよう。
「センパーイ、桜が一杯付いてますよー?」
「そういう十七夜さんも花ざかりですよ」
花弁外しあい空に離す。話す時が掛け替えないとふたり、また笑み零れ。
源氏物語の舞台故、恋人が多かろうと青年達は苦笑する。浮いてしまうかな、いや暗いから大丈夫。
「俺さ……よっちゃんのこと、引っ張りまわしていたりしない?」
伺う硝子越しの奏哉の瞳に与四郎は「平気」とほわり破顔。年上なのにと俯く彼を覗き込む。
「実はそうちゃん先輩のこと、頼っちゃってるんだよ?」
頑張りすぎないで、もう充分にもらっているから。
「有難う」
優しさに救われる。
どちらともなく背中合わせ、互いのぬくもり背負い夜空を見上げる。
くるり、くるり。
周り踊る花弁の中願いは同じ――来年も、また。
――月の光が辛うじて闇へ堕ちるのを留める夜桜。
妖艶、と榛名。
幻想的、と凌。
散り急ぎ夜に溶ける桜、儚い色めき。
されど胸焦がす彼への想いは決して散らぬ溶けぬと、榛名は胸に指をあてる。
「ハルは、月に照らされた夜桜そっくりだな」
例えられ嬉しいと陽の瞳が細まる傍に咲き誇る桜簪を添えた。
「お前に、似合うと思って」
「ああ……」
ほわり。
花開く笑みに心奪われて凌は唇に熱を返す。
「貴方のお傍に。ずっと花として咲かせてくださいませ……」
囀る音色に「愛してる」
細い絹糸に指通し桜飾りゆらり。
「……先輩にはいつも貰ってばかりです」
されど笑う彼へ。
花弁つかめたら名を呼んで、その日から1年――同じ事を考えていたと破顔の錠、理利も頬緩め。
「大学進学おめでとうございます」
「さとも高校生だな、おめっと!」
将来を問われるも、闇混ぜた桜色の眼に惹かれ、恐れる、思考は収束する。
捕まれた腕に吃驚、しかし刹那。宥めるように理利は指を擦る。
「おれは……」
此処に居ます。
ああと錠から力が抜ける。
消えてしまいそうで怖かった。
だから、結ぼう。
「来年も花見をしよう」
おぼろげな未来、約束に。
●絶佳宵闇桜
花影の袂、想い出広げ言葉遊び。
紅に闇挿した夜桜色は妖しに陶然。
不安定な桜影色は脳裏に沈む残映見出す。
「一番好きなのは実家の桜」
白霞慕うよに咲くは十月誕生日、しだれも連れ帰り是非に是非に。
「こんな綺麗なの、狂わせるのは、かわいそーだよ」
降るようなしだれ桜は透明で薄めた血色か、さて本当に狂っているのは? 澪は原点たる自己映した翼猫浮かべる事で思考を切った。
「どうせなら雨も出して、思い出話をしたかったですね。
実家の中一際麗しの桜、その根元には……ねえ、其れは由緒正しい王道怪談。
……下衆でトチ狂いセンテンス、だから傍にいられるパラドックス。
「あと何回来られるかしら?」
歌菜の弱気は脆い足下を愁いて。
「灼滅者の生き様も、花に通じる所がある」
話調違えど謡も同じ事を、語る。
ただ。
灼滅者は咲き誇る。儚くとも異様な程鮮やかに
「花よりもしぶとく生きたいけれど、贅沢かしら?」
足下の奈落を消す様にかき消して、笑う。
「否」
不敵に口元歪め、
「花にも棘や毒がある。まして灼滅者には」
思い切り戦い掴もう――視線の先には灯の少女。
「情報という矛をいつもありがとう」
「これからも一緒に戦ってくれたら心強いわ」
光栄だね、と負けぬ程不敵な笑み。
はらりはらり、散る花桜。
「実に、実に、好きですよ」
「死体が埋まってる、なんて都市伝説も聞くけどさ」
綺麗と死の関連性を語る遥の思考をモノクル越しの一悟の瞳は捉えた……死は綺麗であってほしいそんな理想を。
「今の忘れて」
その答えは正解で、故に取り消す。されど二人の双眸は桜の根元へと吸い寄せられていて。
「君は埋まらないでよ」
赫い桜、見たくない。
「いいや」
確固たる拒絶。
「私は遥と生きていたい」
生きて、
「死よりも綺麗で焦がれるものをあげたいのだ」
「――」
ああ。
其れは誰が零した溜息か。
朝も昼も夜も、笑みも悲哀も隠し事も伝えたい言の葉も――全ては、儚くも凛々しくて艶やかで泡沫な、桜という人喰い花が見せた夢幻回廊。寄り道わざと迷うような誰かの人生の御伽噺。
作者:一縷野望 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年4月26日
難度:簡単
参加:61人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 6
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