地の底に奴らは現われる

    作者:波多野志郎

     札幌市営地下鉄東西線バスセンター前駅――0時17分に双方の終電が終わり、しばらく立ってからソレは現われる。線路の輪郭がぼやけていき、段々とそこに石造りの壁や天井、床へと変わっていった。
    『――――』
     ガシャン、と西洋風の鎧を身にまとったスケルトンや、犬や猫、狐と言ったアンデッドが徘徊する石造りの迷宮。知識のある者ならこう呼んだだろう――ダンジョン、と。
     危険なアンデッドが多く徘徊する地下迷宮は、日常のすぐ傍で人知れず今夜も開くのであった……。


    「錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)さんが、深夜の札幌の地下鉄がダンジョン化している事を発見したんすけどね?」
     語りだした湾野・翠織(中学生エクスブレイン・dn0039)は、そう真剣な表情で続けた。
    「ダンジョン化するのは終電が終わった後で、始発が出るまでの数時間程度なので今のところ被害は出てないんすけどね?」
     とはいえ、放置すればどうなるかわからない――問題が出る前に、対処する必要があるだろう。
    「今回は、見つかったものの一つを、みんなに攻略して欲しいんすよ」 
     今回攻略してもらうのは、東西線バスセンター前駅から新さっぽろ駅へと向かう線路に発生する地下迷宮だ。
    「まぁ、ダンジョンそのものは複雑な構造ではないっす。灼滅者に有効な罠も、そうはないと思うっすけど、色々と厄介なのはあまり強くはないっすけど、スケルトンや動物のアンデッドが多く徘徊している事っす」
     スケルトンと動物のアンデッドは合わせれば四十体にも及ぶ。簡単な仕掛けであっても、アンデッド達と組み合わせると危険な罠になる事もある。十分な注意を払って、攻略して欲しい。
    「光源は必須っすね。ダンジョン内のアンデッドを全部倒せば、ダンジョンも消えるっす」
     一度に全部のアンデッドとぶつかる訳ではない。だからこそ、しっかりと戦術さえ組めば攻略可能だろう。ペース配分や、いかにダンジョンを警戒して進むか? そういう工夫がより攻略の助けとなるはずだ。
    「この現象が自然現象なの、ノーライフキングの実験のようなものなのかはまではわからないっすけど、放置しておくわけにはいかないっす」
     被害こそまだ出ていないものの、原因がわからない限りこの事件がどう危険な事態を引き起こすかも不明だ。今後、この事件がどう転がっていくにせよ、判明した分は食い止めるのが吉だ――翠織は、そう真剣な表情で締めくくった。


    参加者
    伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)
    桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)
    布都・迦月(幽界の調律師・d07478)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)
    荒覇・竜鬼(鏖龍・d29121)
    静守・マロン(我シズナ様の従者也・d31456)

    ■リプレイ


    「札幌で何か不穏な動きがあるようであるが、その解決に少しでも力を尽くせれば幸いである! ……ところで、だんじょんって何である?」
     札幌市営地下鉄東西線バスセンター前駅――終電間際の駅の片隅で身を隠していた静守・マロン(我シズナ様の従者也・d31456)が小首を傾げた。それに応えたのは、荒覇・竜鬼(鏖龍・d29121)だ。言葉ではなく、指で指し示す――百聞は一見にしかず、という事だろう。
     0時17分に双方の終電が終わり、しばらく立ってから線路の輪郭がぼやけていく。灼滅者達の目の前で、段々とそこに石造りの壁や天井、床へと変わっていった。
     まさにダンジョン――地下迷宮が、そこに姿を現わす。その出現に、桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)は小さく口笛を吹いた。
    「深夜の駅が秘密のダンジョンに、か。不謹慎かもだけど、ちょっとわくわくしちまうな」
    「ダンジョンアタックか。腕が鳴るな」
     布都・迦月(幽界の調律師・d07478)の口元に、笑みが浮かぶ。南守と迦月の感想に、ラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728)も目の前に広がった光景に心躍らせていた。
    「ええ、不謹慎ですが、ダンジョンと聞くと少しだけ心躍るような気もしますね」
    「原因不明のダンジョン、ねぇ」
     気だるげに言ったのは、牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)だ。ダンジョンと一言で言っても、それぞれ反応が違うものだ。
    「昼間に繋がってしまうと大変な事になってしまいますわ。早目に予兆は潰さないといけませんわね……」
    「ああ、理由が分からないままでは気味が悪いが、放っておく訳にもいかん」
     スッと瞳を閉じて戦闘モードに移行した天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)の言葉に、伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)が言い捨てた瞬間だ。
    『…………』
     ガシャン、と鎧姿の人影――スケルトンが二体、その姿を現わした。門番がごとく立ち塞がった二体へ、ラピスティリアが呟く。
    「このスケルトン、鎧は西洋風に見えますが……アンデッドなら元の人物の遺体が使われている筈ですし、鎧は誰かが用意でもしたのでしょうか?」
     ――その答えは、今はわからない。ただ、こちらへと歩み寄るスケルトンが解き放たれれば一般人に太刀打ちできる相手ではない、それがわかるだけだ。だからこそ今は、戦う以外の選択肢は存在しない。
    「Twins flower of azure in full glory at night.」
     ラピスティリアが白いヘッドフォン装着しながらスレイヤーカードを開放し、竜鬼が背負っていた怨鬼を右腰へ差し直した。戦闘準備を整えた灼滅者達は、ダンジョンを攻略すべく踏み出した。


    『――――ッ!!』
     犬のアンデッドが、声にならない咆哮を上げた。それは毒の旋風を巻き起こして――ビハインドのシズナは、それを偽翼によって生み出した衝撃波で相殺、間合いを詰めた。
    「お供するのである、シズナ様!」
     マロンの声に、シズナはレイピアの刺突を繰り出し犬のアンデッドを貫く。そこへマロンは駆け込み、半獣化させた銀爪で切り裂いた。
    『――ッ』
     犬のアンデッドが、後退しようとする。それを竜鬼が追う。ガン! と石板の足場を強く蹴り一気に間合いを詰め、大太刀「怨鬼」を一瞬にして居合いの要領で引き抜いた。大太刀だ、腰に差していてはただ抜くだけでも一苦労だ、それを竜鬼は踏み込みから始まった力の流れに合わせ、腰の捻りと左手の振りの動きを絶妙に連動させ、一息で引き抜き――犬のアンデッドを両断した。
     その手応えに、竜鬼が笑みをこぼす。そこへ、二体のアンデッドが迫ろうとした。
     しかし、そこへ緋弥香が立ち塞がり麻耶が死角へと回り込む。
    「失礼! これでも手加減したのですが……」
     ザン! と緋色のオーラをまとった薙刀、紫蘭月姫【緋】を緋弥香が薙ぎ払った。胴を切り裂かれたスケルトンが、一歩後ろへと下がる。
    「本当、うざいっスね」
     もう一体のアンデッドを麻耶は手の中で回転させた断罪輪で、装甲ごと足を切り裂いた。
     二体のアンデッドが、体勢を立て直そうとする。
    「布都さん、右の奴は任せてくれ!」
    「あぁ、任せた」
     ガシャン、とボルトアクションで装弾、南守は右側のスケルトンにバスタービームを撃ち込み、吹き飛ばした。それと同時、左側のアンデッドへと迦月は異形の怪腕へと変化させた右腕でラリアット気味に薙ぎ払う!
    『……ッ!』
     同時に、スケルトンが左右に吹き飛ばされた。そこにそれぞれ待ち構えていたのは、黎嚇とラピスティリアだ。
    「この竜殺しの伐龍院がダンジョンごと葬り去ってくれる」
     ASCALON-White Pride-に破邪の白光を宿して黎嚇が切り伏せ、ラピスティリアは肩口から紫水晶化した様な巨腕へと変貌させた拳で、文字通りスケルトンを粉砕した。
    「……これで、一段落ですね」
     拳に残った手応えに、淡いアルカイックスマイルでラピスティリアが言い捨てる。その言葉に竜鬼はうなずきだけを返して、マッピング用のメモ帳に鉛筆を走らせた。
    「この壁は、問題なさそうだな」
     カンカン、と石壁を叩いて調べた迦月に、竜鬼はその壁にチョークで印をつける。叩くと心地いい音がする鉄パイプに、迦月は言った。
    「木の棒にしておけば良かったかな」
     ブン! と快音をさせて振り回した迦月に、南守も歯を見せて笑う。
    「いや、こうやって罠を調べながら進むのはダンジョンの醍醐味だな」
    「……しかし、まるでブレイズゲートでも探索しているような気分になるな。石橋を叩いて進む、というのを実際にする事になるとは」
     黎嚇が眼鏡を押し上げながら呟くと、麻耶もため息をこぼして言い捨てた。
    「……あの岩が転がってるトラップは、義務なんスかね?」
    「あ」
     カチ、という手応えに、迦月が声を上げた瞬間だ。ズン! と天井の石版が落下してくるのを、麻耶がESP怪力無双で間一髪受け止める!
    「何を狙ってるんスかね? これ」
    「嫌がらせとしては、有効ですわ」
     緋弥香の言う通り、侵入者を苛立たせる――あるいは、警戒心を煽って足止めするという意味では、有効なトラップではあった。
    「さっきので十四体目。ペースを上げる必要があるのである」
    「時間制限があるからな。トラップを考えた奴も、性格の悪さが伺えるな」
     マロンの意見に、ハンチング帽の鍔を触りながら南守も言い捨てる。これは攻略者と、いるとしたらダンジョンの設計者との知恵比べのようなものだ。設計者は、挑む攻略者が何を目的にするのか? その上で、何を嫌っているか? それを前提にダンジョンを組んでいるのだとすれば――。
    「――――」
     竜鬼は、無言で自分が記したマップに丸を描いていく。それは、アンデッド達が配置されていた場所だ。
    「最初の入り口に二体、この行き止まりに二体、岩のトラップに紛れて四体――」
     その意図に気付いて、首に下げたペンライトの明かりで覗き込んだラピスティリアは読み上げていく。それに、緋弥香も呟いた。
    「最初の入り口以外は、随分と隠れてますわね」
    「それである!」
     マロンの上げた声に、黎嚇が代弁するように告げる。
    「アンデッドは、隠してある――そういう事か」


    「布都さん、行くよ」
    「ああ、せーの――!」
     迦月と南守が、力を合わせて石壁の継ぎ目を引き剥がした。そこにぽっかりと空いた穴――空洞があり、そこには隠し部屋があった。
     と、途端、ゴロンゴロン! と丸い岩が隠し部屋から転がり出てくる。それを受け止めたのは、麻耶だ。そのまま、慣れた動きで横へと転がした。
    「三度もやれば、慣れるっスよ」
     そこへ飛び出してくる狐のアンデッド――しかし、それをシズナが庇い火花を散らしながら甲冑で耐える。バラバラ、と後からやって来た五体のスケルトンに、跳躍したマロンは暴風をまとって降り立った。
    「鉄道は電車の通る所である! 死者は大人しく眠るのである!」
     ゴォ! とマロンのレガリアスサイクロンの暴風がスケルトン達を飲み込んでいく。そこへ、竜鬼が滑り込み、一体のスケルトンの足を怨鬼の一閃で切り裂いた。
    「お返しっスよ」
     縛霊手をかざした麻耶の除霊結界が、スケルトン達を圧し潰すように展開される。バキバキバキ! と一体のスケルトンが崩れ落ちる中、南守と迦月が同時に動いた。
    「骨と言えば、やっぱ弱点はそこだろ」
     南守の放った影がスカルトンの腰骨を粉砕する――両断されて崩れ落ちたその上半身を、迦月は響霊杖【火燕】を跳ね上げた。
    「鉄パイプよりかは痛いと思うぞ?」
     ガゴン! と打ち上げられたスケルトンの上半身が、文字通り魔力の衝撃に粉砕された。スケルトンの一体が剣で斬りかかろうとしたのを、ラピスティリアは夜空の色に星の煌めきを宿す薄布を射出、切断する。
    「次、来ます」
     耳から飛び込んでくるようなアップテンポの音楽の中、ラピスティリアは呟いた。二体のスケルトンの斬撃、それを緋弥香は舞うようなステップで掻い潜っていった。
    「えっ、今のが攻撃でしたの?」
     緋弥香の指先が空中で逆十字を描いた瞬間、ザザン! とギルティクロスがスケルトンを切り刻む。残った一体のスケルトンへ、黎嚇は右手をのばしその兜を掴んだ。
    「砕け散れ、それが裁きだ」
     ドォ! と零距離のジャッジメントレイが黎嚇の宣言通りにスケルトンを粉砕する。残った狐のアンデッドへと、灼滅者達はすかさず向き合った。体勢は決している――狐のアンデッドも、抵抗する暇もなく倒される事となった。
    (「もしや屍王め、人間の作った地下施設をそのまま自身の城にしようというのか。どのような闇がここに居座るつもりなのか、見てみたいものだな」)
     黎嚇は、ASCALON-White Pride-を振るい、油断なく周囲に視線を走らせる。注意を払いながらも、足は止めない――灼滅者達は、突き進んで行った。
     ――結果として、ダンジョンを総当りするという作戦となった。四十体、その数のアンデッドを倒さなくてはいけないのだ、時間制限がある事を考えれば、多少の無茶も目を瞑った。
    (「斬新さんは、無関係なのかしら?」)
     その痕跡がないか、つぶさに観察していた緋弥香は思う。性格は悪そうなダンジョンだが、斬新さがあるとは思えない――痕跡は見つからず、緋弥香は先を急いだ。
    「三十四体……後、六体であるな」
    「うーん、おかしな場所はなかったっスよ」
     マロンの言葉に、麻耶もため息をこぼす。マップはかなり埋まっている、見落としがあるのか? そう思って見直していた、その時だ。体をほぐそうとジャージ姿で屈伸していた南守がふと、気付いた。
    「あれ? あの行き止まりの壁、おかしくないか?」
     竜鬼は素早くマップを確認、ひとつうなずいた。行き止まりの先、マップには『空白』がある。それは反対側にも行き止まりがあり、縮尺が正しければ、そこには部屋一つ分の空きがあってもおかしくないのだ。
    「なら、行くっスよ」
     グイ、と麻耶が行き止まりの壁を押す。すると、グルン! と壁が横回転する――まさに、そこに最後のアンデッド達が控えていた。
    「これが最後である!」
    「そうっスね」
     ヴヴン! とマロンと麻耶が同時に除霊結界を発動させる! ミシミシミシ! と結界に囚われたアンデッド達、その猫のアンデッドをシズナはレイピアの一閃で刺し貫いた。
    「遅いですわ、寝ぼけてらして?」
     そして、駆けた緋弥香が逆手に構えた殺人注射器を犬のアンデッドへと突き立て倒した。残った四体のスケルトンへ、迦月は鈍い銀に輝く細身の鎖――神縛のグレイプニルを翼のように展開し、ジャラララララララララン! と絡とって行った。
    「やれ!」
     迦月の声に、竜鬼が断罪輪を手に跳躍。断罪転輪斬の豪快な回転からの一撃で、スケルトンを粉砕した。
    『――!!』
     スケルトンの一体が、剣を頭上に掲げて振り下ろす。それをラピスティリアは紫水晶の煌めきが混ざる瑠璃色の魔力を宿したEx Machina Amethyst.によって受け止め――。
    「往生際が、悪いですよ?」
     淡いアルカイックスマイルと共に振り抜いた一撃で、スカルトンが吹き飛ばした。そこへ、黎嚇はASCALON-White Pride-とASKALON-Black Transience-を手に駆ける。
    「アンデッドには過ぎた技だが、屠竜之技を見せてやろう」
     スケルトンが反応して剣を構えた――が、遅い。振り払った両手の刃は、縦と横に既に放たれスカルトンを十字に切り刻んでいた。
    「これで、終わりだ」
     ガシャン、と三七式歩兵銃『桜火』に銃弾を装填、南守の放った一撃が宣言通りスケルトンを撃ち抜く!
     その一撃が、ダンジョンに終焉を刻む銃撃となった……。


    「さらばダンジョン、現実にただいま、だな」
     ダンジョンが消え去り、線路の上に立って南守は呟いた。緋弥香も改めて周囲を見回して、ため息と共にこぼす。
    「これで大丈夫でしょうか……」
    「疲れたのである~……皆でおいしいもの食べに行きたいである~」
     シズナに抱き着いて甘えるマロンに、仲間達は笑みを漏らした。麻耶は、気だるげにぼやく。
    「発生原因やアンデッドの出所の手がかりまでは、見つからなかったっスね」
    「それは、今後の課題だろうね」
     黎嚇は、そう答えて歩き出した。始発まで、まだ時間がある。自分達が平穏を取り戻した線路を歩いて、灼滅者達は帰路へとついた……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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