●札幌の夜、地下に惑う
北海道札幌市の地下に広がる地下鉄。
朝から夜まで、年に50万人以上もの人を運んでいる、大切な市民の脚。
しかし深夜、丑三つ時。
列車の運行も終わり、鉄路は静けさに包まれる空間となる訳で……。
『……ウ、ウゥ……』
……静けさに包まれた鉄路に響く、呻き声。
その呻き声が響いたかと思うと……鉄路を構成する線路、トンネルの輪郭がふわわわ……とぼやけ始める。
そして……一分ほどが経過すると、鉄路の光景がロールプレイングゲーム等で見るような、地下ダンジョンになる。
そしてその地下ダンジョンの中には、大量の犬、猫のゾンビ達と、骨に剣、盾などがついたスケルトンのゾンビ達が……。
『ウウウ……ウゥゥ……』
『ウニャァ……ニャァァ……』
『……ウ、ク……ゥゥ……』
と、様々な鳴声を上げて、変容したダンジョンに現れ、徘徊し続けるのであった。
「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、説明をはじめさせて頂きます」
五十嵐・姫子は、集まった灼滅者達を一度眺めてから、依頼の説明を始める。
「今回の依頼ですが……北海道は札幌市の地下に広がる、地下鉄に向かって頂きたいと思います」
「今回、錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)さんが、深夜の札幌市営地下鉄がダンジョン化している事を発見したのです。幸い、ダンジョン化しているのは、終電が終わった後の、始発が出るまでに数時間の間だけ……なので、今のところ被害は出ているという訳ではありません」
「しかしながら、このまま放置しておいては、いつ大事件が起こるとも限りません。この地下ダンジョンには、たくさんのゾンビ達が生息している様ですし……ね」
『たくさんのゾンビ達……って、どれくらい居るのかな?』
クリス・ケイフォードが訪ねると、姫子は少し顔を曇らせつつ。
「……軽く10体は超える数です。おそらく、50体ほどは居るかと思います」
『それはなかなか……多いものだね』
軽く額に冷や汗を浮かべるクリス……たとえ一匹一匹は弱い相手、ゾンビとは言えども……徒党を組めば強力な相手であるのは間違いない。
「幸いなのは、彼らは自分のテリトリーであるダンジョン外には出て行かないという事ですね。まずいと思ったら、ダンジョン外まで出れば彼らは追いかけてくる事はありませんから」
そこまで言うと、姫子は更に詳細な情報を伝えていく。
「今回皆さんに向かって頂くのは東西線の白石駅です。白石駅から新さっぽろ方面に行く鉄路に、このゾンビ達が現れたダンジョンがある様です」
「巣くっているゾンビは犬、猫の死んだ姿をした者達が合わせて30体ほど、更に骨だけとなったスケルトンタイプのが20体ほど……特にこのスケルトンタイプの者達は、剣、盾、兜、鎧などを装備している様です」
「また元々鉄路ではありましたが、彼らがダンジョン化した様で、ファンタジー世界によくあるダンジョンの形を取っています。扉の影から突然飛び出してきたり、背後から不意打ちを仕掛けてきたり……なかなか面倒な戦いになるかと思いますので、作戦を考えてみてください」
そして、最後に姫子は。
「今のところ被害は出てないと言えども、札幌の地下鉄の多数の場所で同時発生しているようで……事件の規模が大きいです。これをこのまま見過ごす事は出来ません」
「この現象が自然現象なのか、ノーライフキングの実験なのか……その理由はわかりませんが、放置しておく訳にも行きません。皆さんの力、お貸しください」
と、深く頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952) |
本田・優太朗(歩む者・d11395) |
東堂・八千華(チアフルバニー・d17397) |
狂舞・刑(暗き十二を背負うモノ・d18053) |
アルマ・モーリエ(結晶の銃士・d24024) |
吉国・高斗(小樽の怪傑赤マフラー・d28262) |
桜庭・翔(孤独性美学・d33400) |
セティエ・ミラルヴァ(ブローディア・d33668) |
●地下の主
姫子からの依頼を受け、はるばる北海道は札幌市までやってきた灼滅者達。
時計を見ると、もうすぐ深夜0時を回る頃……終電に間に合う様に、足早に階段を駆け下りていくサラリーマンの姿。
「……こんな所で、地下の……迷宮化かぁ……」
東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)が、何の変哲も無い地下鉄の入り口に向けて呟く。
……勿論、今は何の変哲も無い、札幌市営地下鉄の姿。
しかし……この地下鉄が終電後に姿を変えて、地下ダンジョン化し、そして、多くのゾンビ達が蔓延る世界になるというのが、姫子の話。
「しかし何で、この様な不自然な事が起きているのだろうな……これは、一種のブレイズゲートと考えるべきなんだろうか……改めてダークネスという存在が恐ろしく感じるな」
「うん、そうだね……ノーライフキングの仕業かもしれないとは聞いてるけど……それだけじゃないのかもしれないね」
流希の言葉に、クリス・ケイフォード(中学生エクソシスト・dn0013)も静かに頷く。
そして、アルマ・モーリエ(結晶の銃士・d24024)が。
「しかし地下鉄って、迷宮みたいな感じはしますよね。余り人が立ち入る場所ではありませんし、ダークネスも隠れるにはうってつけの場所なのでしょうか……」
と小首を傾げると、それにセティエ・ミラルヴァ(ブローディア・d33668)、狂舞・刑(暗き十二を背負うモノ・d18053)と、桜庭・翔(孤独性美学・d33400)が。
「そうね。唯でさえゾンビが50体近くも居るって……なんだか凄いわよね。まぁ、出来るだけの事はやりましょう」
「だな。この一軒に斬新が関わっている可能性があるしな……とりあえずはまあ、目の前の敵を殺るしかない。視界内に居ないヤツを殺せるさまな殺人鬼じゃあないからな、オレは」
「……まぁ、断末魔の瞳で何かわかるようなものなんでしょうかね? とは言えわからなかったらそれはそれでいい気もしますが。そこで普通に死んだ人にしろ、送り込まれたにしろ」
そして、本田・優太朗(歩む者・d11395)が。
「確かに、この事件の企みも調べなければいけませんが……なにより、元は生きていた人達です。こんな事を望んでゾンビになった訳ではないでしょうから……ここで、しっかりと倒しましょう。そして、絶対に情報を掴んでみせます……!」
ぐっと拳を握り締め、気合を入れると、白ジャージに赤マフラーという、目立ついでたちをした吉国・高斗(小樽の怪傑赤マフラー・d28262)も。
「そうだな! 漢としてダンジョンは燃えるシチュエーション! ゾンビがメインなら、残念ながら10ft棒の出番は無さそうだが……と、それはさておき、だ。どさんことして札幌の地下鉄ダンジョン化は見過ごせねぇ。ゾンビ共をきっちり灼滅して、元通りの地下鉄に戻してやるぜ!!」
と、気合を入れる。
そして、ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)が、もう一度腕時計で時刻を確認し。
「終電は0時23分……今、ちょうど0時だ。そろそろ、駅の中に入ろう……終電前に、姿を隠しておく必要がありそうだからな」
「ああ。と、クリス、一応これを渡しておく」
と厳冶がクリスに渡したのは携帯電話。
厳冶、流希の他、十四行、葉蘭、露香もいて。
「ま、バックアップは俺達も入ってやる……一回千円だが、今日はツケにしといてやるよ」
十四行の言葉に、くすりとクリスは。
「うん、解ったよ……ありがとう」
わずかに笑い、そして0時3分の列車のベルの音に気づき。
「……行くぞ」
ヴォルフにもう一度頷き、そして灼滅者達は駅へと侵入。
その時が来るまで、隠れ静かに息を潜めるのであった。
●次から次へ
そして終電も終わり、駅が閉鎖された深夜1時前。
息を潜めていた灼滅者達はそれぞれ隠れていたところから出てきて、白石駅のホームへと降りる。
当然灯りも落ちていて、その空間は真っ暗闇……更に両方にあいた線路に風が通り抜ける風切り音が、ある意味亡者の呻き声の様にも聞こえてくる。
「……」
そして、灼滅者たちが新さっぽろ駅の方向へ視線を向けると……そこに広がるダンジョン。
その意匠は、何処か古めかしいのだが……変に時代は感じさせない。
「まるで御伽噺にある洞窟を探検している様で、少し愉しいですね」
くすりと微笑むアルマだが、すぐに顔を引き締める……その一方翔は。
「うう……暗いなぁ……そうだ、暗いから何か明るい噺でもしようか!! いやあれは傑作でねー、それは雨降る夜の……」
「……そんな事言ってる暇は無い様だぞ」
翔の言葉を遮り、刑が耳をそばだてると。
『ウゥゥゥ……』
明らかに人の呻き声とわかるものが、その場へと響いてくる。
何よりも深く、何よりも陰湿なその呻き声。
しかし、それに驚いている暇は無い。
この地下ダンジョンの中には、50体近くもの、大量のゾンビ達が生息している。
つまり……一人、一匹でも多くのゾンビを、始発の出る5時間弱の間に倒さなければいけないのだ。
「本当……ある意味無茶苦茶な依頼よね」
「そうですね……でも、やるしかありませんしね」
八千華に優太朗が半ば苦笑しながら頷き、そして灼滅者達はダンジョンへ。
アルマ、高斗の持ち込んだ灯りを元にして、それぞれがダンジョン内を歩きはじめる。
……そして、数分後。
『ウウゥゥゥ……』
鎧と剣を着装したゾンビが3体、更に犬猫のゾンビが其々2体……灼滅者達の前に現われる。
「早速お出ましですか……それも、7体も」
「ああ……まぁ、50体も居るのだから、ハイペースに出会うのはむしろ好都合だ……行くぞ」
とヴァルトが宣告すると共に。
「ああ。これより……宴を開始する!」
「小樽の怪傑赤マフラーが相手だ! ここは俺に任せておけ!!」
「……いざ、推して参ります!」
刑、高斗、アルマがスレイヤーカードを掲げ、戦闘体制を取ると他の仲間達も同じく戦闘体制へシフト。
居並ぶ灼滅者達に対して、ゾンビ達は。
『ウゥ……』
『ウニャァァァ……』
と呻きながら、怯むこと無く接近……そして、噛みついたり、脚を捕まえたり、鳴声を上げて惑わしたりしてくる。
動きは遅いが、数で以て徒党を組んで仕掛けてくる彼ら……その攻撃は、ディフェンダーについた八千華のウィングキャット、イチジクやセティエの霊犬、アルマに高斗はウィングキャットのにゃんまふらが、代わる代わるに攻撃を受け止め、対処。
そして攻撃の波をかいくぐった後、いざ八千華、翔、優太朗が。
「ちょっとばかり罪悪感はあるけど……仕方ないかな」
「そうですね。時間を掛けない様、素早く、迅速に敵を倒していきましょう」
「ええ……あ、アレを忘れないように死亡いといけませんから……いきます」
そんな会話を交わし、DMWセイバー、ブラックフォーム、フリージングデス、と続々と攻撃をしていく。
その攻撃と共に、優太朗と翔は、断末魔の瞳を使用し……ゾンビ達がゾンビとして生まれた瞬間が見えないか試す。
……しかし、二人の瞳に見えたのは、真っ暗闇、何も見えない。
「……どうだ?」
とヴォルフが訪ねてると、首を振って答える優太朗。
「そうか……こいつらが外れなのか、それとも……何も見えない、だけなのかもしれんな」
「……そうかもしれないね……ノーライフキングの力が働いているからかもしれないけど、ね」
ヴォルフにクリスが呟く……そんな事を呟きつつも、ヴォルフ、刑を始め、スナイパーの二人もブラックウェイブの連続攻撃にて範囲攻撃で、全体にダメージを重ねていく。
勿論、厳冶、葉蘭、流希、十四行、露香らは仲間をサポートするように動き、更にメディックのセティエ、クリスはディフェンダーの受けたダメージを祭霊光とヒーリングライトで回復を施していく。
その後も、前衛陣はターゲットを集中して、確実に一匹ずつ倒す様に動く一方、後衛のヴォルフ、刑、セティエにクリスは、ディフェンダーの体力維持と、バッドステータスの継続付与を行う。
……最初の七体を倒すのに、十数分。
最後の猫ゾンビを倒し、ほっと一息を付いた、その時。
『う、ウウウ……』
またも、鳴声。
その鳴声のする先には、もうすでに次のゾンビの集団が居て。
「……休む暇も無いわね……仕方ないけど、続けていくわよ」
「ええ……そうですね」
八千華に優太朗が頷き……そして灼滅者達は、休む間もなく、次なるゾンビの集団との戦いへと突入していくのであった。
そしてその後も、数組のゾンビ集団との連戦を続けていった灼滅者達。
35体程を倒し、呻き声は聞こえ続けているものの……その姿は見えない。
「さて、と……そろそろ数も少なくなってきたし、二班に分かれて捜索を始めましょうか」
「そうだね。互いの連絡はハンドフォンですればいいかな?」
「ええ。セティエさんに刑さんにお願いしますね」
「解ったわ」
八千華と優太朗に、セティエが頷く。
そして……八千華の班に刑、翔、クリスに高斗。優太朗の班にヴォルフ、アルマ、セティエが入る。
そして十四行、流希はアルマの班へ、露香、厳冶、葉蘭はクリスの班に入り、そしてそれぞれ、ダンジョンの別の方向へと捜索の手を広げ始める。
鳴声を手がかりに、ダンジョンを息を潜めて歩き周り……そしてゾンビの影形を視認すれば、別班に連絡を取り、戦闘開始。
当然相対する灼滅者達の数が減るので、その分、戦闘は厳しくなるが。
「……まぁいい。どうせこの場にいなけりゃ殺せねぇんだ。だから、さっさと此処で始末してやるよ」
刑がそんな言葉を吐き捨てつつ、虚空ギロチンをぶっ放し、先陣の一撃を食らわせれば、高斗とにゃんまふは。
「よし、にゃんまふ、行くぞ!」
『にゃぁ!』
「いくぞ、赤マフラーキック!!」
高とのスターゲイザーに、にゃんまふの肉球パンチがぽかぽかっ、と殴りかかり、体力を削る。
無論、その間も翔は常にゾンビに断末魔の瞳を使用し、死んだ瞬間の情報を得ようとするのだが……なかなかうまく、情報を得ることは出来ない。
「……本当に、情報はなさそうだね」
翔に頷くクリス。
「……こればかりは仕方ない、か。そうとなれば……確実に一匹ずつ倒していくしかないね」
「うん……よ、よーっし、がんばって一匹ずつ仕留めていくよ!」
……ちょっと八千華から距離を取りつつ、翔はマジックミサイルやらフリージングデスで攻撃。
……なぜ翔が自分から離れるのか、ちょっと首をかしげつつ、八千華も閃光百裂拳、クルセイドスラッシュで一匹ずつ仕留めゆく。
50体居ると聞いているからこそ、後は2班で15体程……一匹ずつ確実に、二班で仕留めていく。
幸いゾンビの鳴声を手がかりにすれば、その姿が見つけられないという事も無く……ハンドフォンで互いに連絡を取り合う事で、忘れずに灼滅カウントも増やしていく。
そして……48体目を倒した連絡が刑から来た所で、残る二体は……セティエ達が対峙していた。
最後の二体、猫と犬のゾンビ達は、ウウゥゥゥ、と灼滅者達に警戒しながらの呻き声を上げていた。
「最後の二匹……ですね。これを倒せば、やっと50体ですか」
「ええ。でも……気を抜かずに行きましょう。これで最後、という保証もありませんしね」
「ああ……」
優太朗とアルマに、静かに頷くヴォルフ。
そして優太朗が先陣きってフォースブレイクの一撃を打ち込めば、アルマがオーラキャノン、ヴォルフは影喰らい。
かわいい愛玩動物のゾンビ達……甲高い鳴声で被害を訴えかける中、灼滅者達は決して手を抜くことも、油断する事も無く……二匹のゾンビを灼滅するのであった。
●声は消えてく
「……終わった様だな」
犬猫ゾンビを倒した後……ヴォルフが、目の前で消え行くダンジョンを眺めながら、ぽつり呟く。
そしてちょうどその時、セティエのハンドフォンに刑からの着信。
「そちらも……ダンジョンが消えましたか?」
「ああ……どうやら、全部倒しきった様だ。もしくは始発が近いのかもしれないがな」
「解りました……となると、一旦引き上げたほうがよさそうですね」
「ああ……また、駅の改札辺りで」
と電話を切り、二班で別れていた灼滅者たちは、まずは地下鉄駅へ。
そして……始発電車が滑り込むと同時に、改札の外で合流する。
……地下鉄駅は、また、いつもと変わらない日常を取り戻している。
「しかし……ダンジョンは幻の様に消えていきましたね……一体、何だったのでしょう……?」
とアルマが首をかしげると、刑は。
「……確かにそうだな。ダンジョンを構成する要素のゾンビが居なくなったら、ダンジョンも存在意義をなくして消える……とかかね?」
「そうだね。その考え方も、あながち間違っていないかもしれない……かな」
クリスもこくりと頷く……そして、刑は。
「何にせよ、これからも同じような事件は多発しそうか……こりゃ、気が抜けねえな」
「ああ……」
ヴォルフも頷く。そして駅の外に出ると共に。
「……さて、すまないが、俺は此処で失礼させて貰う……調べたい所があってな」
「ええ、わかりました。気をつけてくださいね」
ヴォルフに優太朗はそう言い、ヴォルフは離脱。
そして……高斗が。
「んじゃ、俺たちも帰ろうぜー。また近々に来るかもしれねーけどさ」
「そうですね……」
頻発している、札幌市営地下鉄ダンジョン化。
しかし断末魔の瞳に、光は見えず、その真相は闇の中……。
……すっきりとしない気持ちを抱えたまま、灼滅者達はその場を後にするのであった。
作者:幾夜緋琉 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年4月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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