学校帰りにファミレス行く会

    作者:日暮ひかり

    ●intermezzo
     ファミレス。それは、いつ誰でも気軽に立ちよれる憩いの場である。
     一人で飯を食うサラリーマンや、近所のママ友の集会、お爺ちゃんの誕生日祝いをしている家族など、ここでは日夜様々な人間模様を目にすることができる。
     学生たちにとっても、下校途中にぶらっと立ちよれる場所としておなじみだろう。
     友人と一緒にくれば、特に何かネタがあるわけでもないが、なぜか何時間も話しこんでしまう。
     一人で過ごすにも、この雑多な空気感が落ち着いていいと言う人が、案外多いものだ。

     ここに鷹神・豊(エクスブレイン・dn0052)と哀川・龍(降り龍・dn0196)という男子高校生がいる。
    「ファミレスの割引クーポン一年分、なあ……懸賞という趣味に関してはある程度理解しているつもりだ。しかし、当たりさえすれば本当に何でもいいのか?」
    「んー……うん、普通に使いきれないよな、お金ないし。平気平気、そのへんで会ったひとにテキトーに配ってきた。幸運のお裾分けだな」
    「まんまと販売戦略に乗せられている気がする」
    「そうかな。まあいいじゃん。豊さんドリンクバー頼んだ?」
    「水でいい」
    「うそ、頼みなよ。100円だよ。すごいよ、こうさ、コーラとオレンジジュース混ぜるだろ。で、飲むだろ。そんなにうまくないんだなーこれが」
    「……小学生かよ……」
     彼らも下校途中にファミレスに行く日が稀にあったり、概ねなかったりする。今日はたまたま行ってみたい日だったようだ。
     店内を見回せば、なるほど見慣れた武蔵坂の制服姿がいくつか見られた。それは年季の入ったものだったり、サイズの合わないぴかぴかの制服だったり、人それぞれの異なる趣がある。
     意外に短い学生生活。灼滅者だって、たまには普通に学校帰りにファミレス行きたい。
     そう思ったなら、今日はちょっぴり、あなたも寄り道していきませんか。


    ■リプレイ

     テーブル一杯の料理様に、両手を合わせいただきます。オムライスとドリアを互いの取り皿に盛りあい、噂の大食いコンビの晩ごはん祭開幕だ。
    「オレ側の主役は此方の海老フライ様。何か昔から憧れっぱなしでさ」
     まずは熱々海老フライを二人一緒にぱくり。カリカリ衣とソースが口の中で弾ける。
    「斉藤くんは一番手のハンバーグが本命かのう」
     忍び寄るフォークの気配を察した春は、先手を打ってポテトと一緒にプレゼント。よく気がつく春に小太郎も感激。
    「ソースにつけるとおいしいからこれもあげる。今日はわけっこだからね」
     だって別腹だもの。空き皿を敬礼で見送ったら、第二部デザート祭が待っている。

    「何か、学校帰りのファミレスってビバ高校生な感じだよね……憧れだったんだ」
     ハンバーグセットとカレードリア、小エビのサラダでお腹一杯。自由にお金を使えるのは高校生の特権、特注制服の完成も楽しみと六はご機嫌だ。
     会計中気になるのはやはりファミレス名物謎のガチャ。雑貨といい何故置いてあるのか総一郎は疑問に思う。
    「ファミレスにこんなの買うのいるかな?」
    「クーポンでまわせるっぽいよ? 折角だから回そう!」
    「……って、目の前に居たよ」
     だ、ださい!!!
     そう叫びつつ、出てきた謎キャラのピンバッチをつけ六はくるくる楽しそうに回る。無邪気なはしゃぎように総一郎は苦笑を返した。

     大学生になっても寄り道はやめられない。いや、むしろ回数が増えそうだ。クリーム白玉あんみつを傍らに、誠士郎は近況を語る。
    「警察系の学部がなかったので別視点で探偵学部に入った。しかし……なかなか濃い面子でな」
    「えっ平気? あそこ毎日死人出るんだろ」
     龍。それは誤解、だと思う。
     しゃくしゃくしゃく。
     創作野菜ジュースを食べながらサラダを飲む湊詩は通常運転だ。
    「僕も来年卒業だけど、何処に行こうかなんて、まだ考えてないや。何か作るのとかがいいのかなって、思うんだけどね」
    「おれも農学部とかちょっと気になるな。米作りたい」
     目標が見つけられるといいな。白玉を湊詩の口に入れ、誠士郎は二人の兄のように微笑む。
     農学部かー、と背後からも知った声。振り返れば允と成海が龍を拝んでいた。
    「あ、可愛い……可愛い? 後輩達に俺が奢るべきシーンか!?」
    「心優しいパイセンが奢ってくれるそうです」
    「おい!!」
    「うっそ、すごい。允さんは大学どう?」
     パイロット志望の允は諦め気味にアラビアータを弄びつつ、外国語を学んでいると話す。朝がゆっくりなら大学も良さそうだ。
    「ナルはもう学部考えたりしてんの?」
    「文系理系も未定な状態ですね。将来何やりたいとかないしなぁ……」
    「てっきり音楽系行くのかと思ってたが」
    「おれは海洋かと思った。夢あるっていいなー允さん」
     未来はまだ不鮮明。でも今日くらい、先の事を話して鬼に笑われてみようか。

     懇親会がてら集まった【教育学部1年】の面々。元からの顔見知りも多い中、知人の少ない嶺滋はまず皆の顔を覚える所から。
    「教師としては文系教師をやりたいわけなんだが……どうなんだろう。勉強の仕方も座学受けてれば良いのかな」
    「必要な知識は片っ端から吸収していきたいですよね」
    「あ、レージ君! それ、私にもちょっと頂戴っ☆」
     探り探り、話を切り出す嶺滋の手元へ突っこむピンク。和定食の唐揚げは智優利にぱくっと奪われた。それを見た治胡も、隅で黙々とパフェを食べる紫王に自分のハンバーグを一切れ取り分ける。
    「それウマそーだな、俺にもくれよ」
    「じゃあ合体させてハンバーグパフェに……ちょっとアレか」
    「フライドポテトは他の奴も摘まんでいいぞー」
     クリームパスタとマルゲリータピザを頼んだ信彦がポテトを中央に置く。一時はどうなる事かと思ったが、和やかな空気は教室と変わらず、嶺滋も一安心だ。
     声をかけてみて良かった。樹はチョコパフェを食べながら、皆を見渡して微笑む。
    「そういえばどうして教育学部にしたのかしら。わたしは教室でもちょっと話したけど、ちょっとつまずきやすい子の手助けができればって」
    「私は、まだ漠然とこの学園の先生になれれば良いなって考えているくらいなのですよね」
     ドリアを食べ終え、メニューのイチゴパフェと睨み合っていた彩歌が顔を上げる。
     学園での毎日は、こんな風にいつも楽しい。だから将来は、この『居心地のよさ』を後の世代にも伝えて行きたい――そう思ったのだ。店内を観察していた美咲は、待ってましたとばかりに話題に乗った。
    「私は厳しい先生になりたいですね。その厳しさが子どもたちを成長させると信じて、教え導きたいかなと思います!」
     美咲委員長の語る熱い教育論に、樹と彩歌も興味をもって頷く。
    「ふーん……私は面白そうだったから、かな?」
     皆に比べたら微妙な動機かも、と智優利はポテトをつまむ。すると治胡もぽつぽつと想いを語り始めた。
    「母方の実家が農家で、いずれはその手伝いするんだろーなと何となく思ってた。ココに来てから色々経験して、俺のやりたいコトを考えるようになって……チビ達の傍にいて守ってやれたら、って」
     言葉にすると恥ずかしい。視線を外すと、隣の紫王が目に入る。彼は仲間たちの熱いトークに相槌を打ちながら――大量のケーキを平らげていた。
    「聞いてる、ちゃんと聞いてるよ」
     いつの間に、と皆が笑う。新しい学部に馴染めるか柄にもなく不安だったが、やはり心配なさそうだ。コーラの入ったグラスを掲げ、信彦は乾杯を促した。
     未来の教師達へ、乾杯。
    「同じ学部っても、目指す所はそれぞれ違うかもしれねぇけどさ。こうやって話すんのもきっと楽しいだろうし、これから仲良く行こうぜ!」

    「わたし達も花のじょしこーせー! 放課後にファミレスでお茶……否、ケーキパーティを開催してこそ学校生活を満喫していると言えましょう!」
     【吉祥寺2-7】のじょしこーせー達の笑い声が、一際賑やかに響いている。少し緊張気味な初子の前に、かなめがずずいとメニューをさし出した。開けばたちまち黒い瞳が輝く。
    「わぁ……沢山、あります、です。しかも、どれも美味しそう、です! みぃー!」
     初子可愛い~と皆が和む。照れる初子と一緒に、ミカエラはメニューを覗く。
    「初子ー、あたい、これケーキセットにして頼むから、そっち一口ちょーだい♪ わわ、翠の見てるそれ、美味しそうー!?」
    「シェルはふんわりしっとりパンケーキ~」
     背中を押された翠は思い切って特大イチゴガレットを注文。シェレスティナもその隣を指差した。注文だけで盛り上がれるのがガールズトーク、皆で選べば楽しい。
    「最近、調子どお~? あたいは、花見行ったり、依頼行ったり、あちこち出掛けてるけどー」
     そんな中次々運ばれる料理。パスタ、ハンバーグ、ポテト、ピザ、パスタ、ハンバーグ、ステーキ、ピザ、パスタ……。
    「あれ? なんか被ってる? ま、いっか、どーせ足りないし。あ、店員さん、追加注文ねー。そうそう、でさー……あ、ちょっとバー行ってくるっ」
     菜摘の注文だった。大食い女子はまだまだ食べるようだが、対してカロリーが気になる一般女子。寄り道ファミレスの醍醐味、分けっこ作戦発動だ。
    「はい、あーん。……してくれないと食べさせてあげないですよー♪」
    「こうなったらみんなでちょっとずつ交換を……はっ!? チョコレートパフェはどうやって分けたら……」
     翠が初子にあーんしたガレットを、ミカエラは横取りしてにへへと笑う。続いてかなめのパフェを急襲すれば、シェレスティナや皆もそれに続く。小さなチョコアイスを皆で囲んでつつけば、心の距離もぐっと縮まるよう。
    「おんなのこって、あったかくて柔らかくて、安心するよね~♪」
    「イベントごともいいけれど、こういう何気ない日常もいいよねえ」

    「ジュース飲み放題。……えへへ♪ 鶏の唐揚げも頼んでいい?」
     沙雪が取ってきたドリンクを飲みながら、【メカぴ研】の四人は大盛りポテトを囲んでいた。レストランが久々のエリオは美味しそうにジュースを飲みきってお代わりへ。新感覚ドリンク作りに夢中のようだ。
    「なぁなぁ、今期のアニメって何が覇権になると思うー?」
     グリルチキンを食べながら智恵理が話を振ると、アニメ好きの沙雪が食いついた。
    「やっぱり今期のアニメはいわゆる続編が多いと思うんだ。その分はずれがない感じ?」
    「あー、確かに。なんや変則クールで続編多いなぁ」
    「あぁありゃクオリティ高ぇよな」
     だらりと姿勢を崩した惡人も、片手でナポリタンを食べつつ頷く。キャストやスタッフに興味がありそうな様子に、智恵理はそういえばと呟いた。
    「あの声優さんは一体何役やればええんや。と言うか一つの作品でやるキャラ数なん?」
    「でもあの声優、もういい歳だろ。頑張ってるよな」
     沙雪が前期のアニメの話を出すと、エリオがスマホの画像フォルダを開いた。改造プラモへのこだわりを語り出すともう止まらない。
    「自由度高いのも良いけど、ミキシングして統一感あるミリタリー色のあるやつとかいてもよくね?」
     なくなった大盛りポテトを追加注文して、白熱のアニメ談義は続行。これぞザ・学生生活だ。

    「イヴさん、高校進学、おめでとうございます! なんだか、どんどん大人っぽくなられていく気がします!」
     有難うございますとイヴは照れ笑いを浮かべる。ファミレス寄り道デビューの敬厳はあずき白玉抹茶アイスを注文。イヴも同じアイスを頼み、おごりますよと得意顏。もうイヴも高校生だから。
    『常識なんてブチ破レ。ケミカルドリンクドッキングのお時間デス。』
    「烏龍茶+オレンジジュースは流石にないな」
    『ソーダとコーラで最強の炭酸デキんじゃネーデス?』
     一方、リアル小学生バニラとガチで遊び始めた龍。全ての飲み物を混ぜれば最強飲料だ――(小学生の発想)!
     間。
    『……フッツーにまずいデスネ、リューサン。』
    「そうだな……」
     隣で死にかけている二人は負傷者に入るだろうか。シエナも最強の炭酸とやらを一口飲んで、あまりの刺激に置いた。
     不意に白衣の袖がもぞもぞ蠢く。駄目ですのヴィオロンテ、シエナはそう呟きポテトを袖にかきこんだ。
    「きっとばれないよね……?」
    「いやっほー龍! クリームソーダとアイスティーのミックスもなかなかにハードだったぜえ」
    「それは聞くからにやばいな……」
     この緩さ、まさに学生の心安らぐベストプレイス。依頼お疲れ会をと、乱入した煌希が上機嫌にホットケーキとフルーツ盛り合わせを頼む。
    「じゃあオニオンリング。煌希さんと水花も食べてな」
     さりげなく食器をまとめる水花の気配りに感謝だ。クーポン有難うございます、と水花も微笑む。偶には少し贅沢して外食を。
    「他に懸賞で何が当たった事はあるんですか?」
    「割とぼちぼち。お蔭で家汚いけどな」
    「そんなに好きなら、今度何か面白い懸賞を見つけたら教えますね」
    「おー、ぜひ」
     ドリンクをお供に流希はのんびり大学の課題を進めていく。図書館と違い周りが騒々しいが、何か飲みながらゆっくりできる。満足だ。
    「大学のレポートと言うものは……。答えがあってないようななんと言いましょうか……。うーむ、これでいいのでしょうかねぇ……?」

    「火炙、前の期末テストの時の約束覚えてるよな?  私、まだ奢ってもらってないなぁ……?」
     順位が上だった方に何か奢る……その約束だったはず。
     とてもいい笑顔、だがその笑顔が怖い。ヤバイ、今手持ち少ないんだけど。圧倒的敗北を喫したのは事実だが、火炙は抵抗を試みた。
     実季の笑顔が一層深くなる。約束を果たせ――無言の圧力を感じる。
     あ、これ無理だ。容赦のない姉が、ここぞとばかりに高級サーロインステーキを頼んだ。
    「……取り敢えず俺はドリンクバーだけ頼んでおくか」
     こうなるの知ってる、弟だから。悟ったような笑みを浮かべる弟を満足気に眺め、姉はにこにこステーキを食べ始めた。

    「高一最後のテストの物理/生物で1点を取ってしまいました……」
     神妙な顔の香乃果の口から出たのは衝撃的な告白だった。
     1点。
    「ヤマカンの調子が悪かったんだろ。俺も5点取った事はあるしな……」
    「俺なんか関島先輩に教わっても0点だ。問題な……あるか」
     峻と豊の励まし方も辛いものがある。
    「うう、走れないし泳げないし理数系苦手だし……」
    「俺だって飯食うの遅いし方向音痴だぞ。な?」
    「二人共弱点多いな……」
     苦手ぐらいあるさ人間だもの。真面目に向き合えば、いつか報われる。
     何故か人生論になったが、心が軽くなるのはお喋りの力。相談のお礼にと、香乃果はこっそり会計に向かおうとしたが――既に峻が払った後だった。

    「……実はこの間、裏の婆チャンに見合い勧められてな。 しかもバツイチ子持ちだと勘違いされた上で」
     千慶はドリンクを吹いた。切り損じたハンバーグを口に詰め、更にむせた。
     久々に会った十織の深刻すぎる近況。十織は真面目だが、笑うなという方が無理だ。
    「一体誰をお前の子と勘違いしたんだよその婆ちゃん。九紡か? ……そうね、とりあえず髭を剃ってみるのはアリだと思う」
     デザート頼んでいいすか、先・輩……その一言は地雷だったか。コレを飲んでからだ、と凄い色と臭いの飲料が登場した。
     だが誤算だった――千慶が半分も飲めないとは。哀愁の男二人、仲良く激マズドリンクを啜る午後である。

     上から順にボタン押すんだろ。さらりとそう言い、ドリンクを取りに行く司を葵は全力で制止した。この先輩、何をやらかすか分からない。
    「シェフ司さんのオススメメニューは如何でしょう?」
    「……何それ?!」
    「大丈夫! 美味しさの保証はベストエフォート型ダヨ!」
     和風おろしハンバーグにソースかけて美味いのか――恐る恐る食べた葵は案の定後悔した。不要なちょい足しにも程がある。
    「先輩は何食べるの? 僕がお礼に選んであげようか?」
     笑顔で指差したすき焼き定食は、後輩のせめてもの反撃。数分後、そこには熱々の椎茸、そして申し訳程度の詫び肉を全力で葵の皿に献上する司の姿があったという。

     日常も、非日常も、ずっと一緒に見てきたけれど、堕ちた瞬間彼女の隣にいれなかった。
     一緒に居たい時、由乃を見つけられない。
     それはエルメンガルトの想像よりずっと嫌な事だった。
    「だからこれからはずっと一緒に居たい。オレと付き合ってください」
     緑の瞳が真っ直ぐ由乃を見る。
    「……私もまあ、最後に何か伝える相手が貴方しか思い浮かばなかったと言いますか、その緩いツラが……真っ先に……何言わせようとしてんですかこの野郎!」
     いつだって素直でない心に秘めてきた答えは一つ。溶けたいちごパフェを一気にかき込み、言った。
    「いいですよ! いいからさっさと食べなさい馬鹿恥ずかしい馬鹿!」
     深淵で視たのは緑。春の、色。

    「初めて会ってからもう一年だね。あの時の帰り道、道ばたに白詰草が咲いてたの」
     今年はもっと沢山。探し出した四葉のクローバーを押し花の栞にして、幸せと、春を閉じ込めた。新しい制服が誇らしげな穂純も、もう中学生だ。
    「穂純ちゃんのプレゼント、何の懸賞が当たるより嬉しい。ありがと」
     苺のパフェは龍からの進学祝い。ささやかな、いつものお返しだ。

     王道ハンバーグ、でもアボカドチーズやグリルチキンも気になる。食欲真っ盛りな健をさくらえは楽しそうに眺める。奢るから好きなのどーぞ、と。
     これは成長するわけだ。時が経つのは早い。
    「さくらさん出逢った頃姉ちゃんにも見えたけど、今は兄ちゃんらしくなったよな?」
    「健ほどじゃないけど、ワタシもまぁ成長はしてるんだよ。こう、内面的な意味で? てか、健こそ内面的にはどーなのさ」
     好きな子できた、とか。からかう様な質問にも、日々愉しく美味いモン食えるのが何よりと健は屈託なく答える。
     まだまだ色気より食い気の後輩には、デザート追加かな。くつくつ笑い、さくらえはメニューを渡した。

    「月森ちゃんも頸旗ちゃんも好きなもん食べろよ! 俺の奢りって事でもねーけど!」
     貰ったクーポンを扇子の如く扱いながら、倫理は上機嫌に和風ハンバーグセットを注文する。浮世離れした一角は【百不思議七物語】だ。興味津々に『どりんくばぁ』へ向かう夜深を見送り、歌護女もゼリーを頼む。ミックスグリルセットを頼んだ暁也を見て、味の濃い物が苦手なのだと肩を竦めた。
    「倫理おにいちゃまと暁也おにいちゃまはわたくしの特製ぶれんどじゅーすを差し上げますね」
     夜深から飲み物を受け取り、二人は顔を見合わせる。
    「わいわいとファミレスもよいものでございます」
    「せっかくだし月森ちゃんと頸旗ちゃんの進学祝いって事にするか。カンパーイ!」
    「月森さんと頸旗さんの中学進学に乾杯」
     ポテトはテーブルの真ん中へ。嬉しいサプライズに後輩達も微笑んで――乾杯。
     が。
    「うぐっ」
     一見こぉら風のじゅーすは、意表を突く白葡萄の風味。むせてポテトをつまむ倫理と暁也を歌護女は不思議そうに眺めたが、夜深がくすくす笑っている。不思議と楽しくて、麦茶をこくり。
    「誘って下さってありがとうございます、やみちゃん」
    「ふふ、わたくし、こういうものに憧れていたのです」
     学校帰りに皆で屯って、他愛もない話をしながら過ごす幸せなひと時。今日、皆に等しく、素敵な『がくえんせいかつ』の春が訪れた。

    作者:日暮ひかり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月27日
    難度:簡単
    参加:49人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 13
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