カマイタチだらけの温泉紀行

    作者:御剣鋼

    ●とある山奥の秘湯にて
     東北地方にある、とある山奥……。
     獣道をかき分けた先の岩場には、イオウの匂いがほんのりとただよい、温泉が湧き出る音が、コボコボと洩れていて。
     少し熱めの湯に浸しながら遠くを眺めると、遅咲きの山桜が山間を淡い雪のように点々と染めている、幻想的な光景が目に入ってくるだろう。
     まだ寒さが残る初春の風が吹けば、温かい湯煙が風に乗って舞い上がり、ちらちらと山桜の花びらが降り注ぐ。
     ――まさに絶景!
     ――まさに秘湯ッ!!
     だが、そんな穴場に惹かれたのか否か、自然豊かな温泉に、カマイタチが10体現れた!
     
    ●カマイタチだらけの温泉紀行
    「というわけで、さくっとカマイタチを倒して温泉を楽しんで来てね!」
    「おう、油断大敵で行ってくるぜ!」
     爽やかに言い切った須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)に、ワタル・ブレイド(中学生魔法使い・dn0008)もキラキラと瞳を輝かせながら返事を返す。
     よくよくみると、ワタルが羽織っているマントの内側には、温泉セット一式らしきものが、見え隠れしていた。
    「まあ、いちおー依頼だしな、幾つか確認しておくか」
     ワタルはマントの中に一式を押し込むと、軽く咳払いして、まりんの方に向き直る。
    「カマイタチは10体と聞いたが、強さはどのくらいだ?」
    「みんななら余裕だよ! 転校してきたばかりの人でも、1対1で相手できるくらいかな」
     初心者や久しぶりに戦う灼滅者なら、慣らし運転には程良い相手になるだろう。
     温泉近辺をうっすらと覆う湯煙と、濡れた足場が気になるかもしれないけど、戦いには支障にならない程度で、むしろ雰囲気であーる。
     反対に、熟練者にはこの依頼は物足りないかもしれない。けれど、日頃の鍛錬の復習をしたり、初心者に手ほどきをするには、良い機会になるだろう。
    「10体ともポジションはクラッシャーで、使うサイキックは日本刀に似ているよ」
    「敵は術式寄りか……防具は耐性を考えて持っていった方が、イイかもな」
     まりんの話にワタルはしっかり頷きつつ、マントから見え隠れしていた、スクール水着を入れた袋を、そっと隠す。
     ちなみに温泉は100パーセント純自然! 混浴になるので、水着の準備も忘れずにー♪
    「獣道の先の山奥っていうくらいだし、一般人は来ないよな……?」
    「うん、人造灼滅者のみんなも、サーヴァントも心ゆくまで温まって来てね!」
     但し、学生であることは忘れちゃあいけないっ!!
     わざと自然を壊したり、周囲に迷惑を掛ける行動や言動、公序良欲に反する行為はダメだよと、まりんが付け加える。
     ワタルも「気を付けるぜ」と短く返事を返すと、灼滅者達に嬉々と視線を向けた。
    「さあ、さくっとカマイタチを倒して、まったり秘湯を楽しもうぜー」


    参加者
    佐藤・司(大学生ファイアブラッド・d00597)
    守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)
    音鳴・昴(ダウンビート・d03592)
    西明・叡(石蕗之媛・d08775)
    天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)
    亜寒・まりも(メリメロソレイユ・d16853)
    十・七(コールドハート・d22973)
    グラジュ・メユパール(暗闇照らす花・d23798)

    ■リプレイ

    ●大自然の温泉郷へ
    (「普段であれば、スレイヤーカード一枚あれば十分なのだがな……」)
     戦いに向かう準備より、温泉関連の荷物を多く抱えた一行に、天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)は思わず苦笑する。
     そういう自分も水着にバスタオル、ビハインドの響華の荷物も抱えていたけれど、妙に重い気がするのは、何故だろう?
     ――と、その時だった。
     黙々と組み立て式の簡易テントを運んでいた十・七(コールドハート・d22973)が足を止めると、獣道の先を指差した。
    「めんどくさそうだな……」
     音鳴・昴(ダウンビート・d03592)は唯でさえ目付きの悪い双眸を、鋭く細める。
     視線の先には10体程のカマイタチ達。まるで縄張りだと言わんばかりに、温泉の回りを徘徊しているようだった。
    「自然豊かだもんね、しょうがないよね」
    「さくっとカマイタチ退治を終わらせて、お風呂満喫しようね!!」
     秘境とはいえ、万が一を考えると、しっかり倒して置く必要があるのは間違いない。
     タオルが入ったバッグを傍らに置いたグラジュ・メユパール(暗闇照らす花・d23798)は、既に迎撃態勢を整えていて。
     カマイタチ達に視線を留めたまま、守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)も持っていた荷物を、温泉から少し外れた茂みに置いた。
    「さ、菊、行っちゃって」
     灼滅者達の気配に気付いたのだろう、カマイタチも一斉に殺意を剥けてくる。
     西明・叡(石蕗之媛・d08775)が冷静に霊犬の菊に声を掛けると、直ぐにその意を察した菊は、素早くメディックのポジションに着いた。
    「ワタルのおにーちゃん、スナイパーお願いーっ!」
    「おう、背中は任せてくれ」
     遊ぶように大胆不敵に飛び出した亜寒・まりも(メリメロソレイユ・d16853)の声に、ワタル・ブレイド(中学生魔法使い・dn0008)は少し後方に下がると、グラジュに迫るカマイタチへ銃口を突きつける。
    「おーワタルもスナイパーか。一緒にレッツ狙撃だな」
     過酷な日常と行事を控えてゆっくりしたいのは、佐藤・司(大学生ファイアブラッド・d00597)も同じ。
     質素だが良く手入れの行き届いた縛霊手を軽く振うと、足元から鋭利な影を伸ばした。

    ●カマイタチだらけの温泉郷
    「わ、みんな、足元に気をつけてね」
     濡れた地表は戦いの妨げになるものではなかったけれど、注意に越したことはない。
     確実に1体づつ仕留めようと、グラジュは七に迫る敵に距離を詰め、魔力を叩き込む。
    「いくよーっ!」
     ライドキャリバーのヘペレに騎乗したまりもも、豪快に木々の間を疾走していて。
     足止めと支援中心で動き回らんと、霊的因子を停止させる結界で敵を翻弄していた。
    「キャスターとか最近してなかったから、少し新鮮だね……」
     ポニーテールを靡かせながら、結衣奈も意志を持つ帯を操り、次々敵を貫いていく。
    「味方の火力は十分あるようだな」
     妖精を冠したエアシューズを蹴って駆け出した玲仁も、響華のトラウマに苦しんでいたカマイタチ目掛けて、炎を纏った激しい蹴りを見舞う。
     弱った個体から狙って数を減らすことを優先していた七も、魔槍に螺旋の如き捻りを加え、着実に敵を討ち取っていく。
    「体力半減してる奴はいなさそうだな。つか、皆強すぎ」
    「回復は十分でしょう。上手く鯖と人が割けたと思うわ」
    「温泉楽しめない奴でても困るし、余裕持って飛ばしとくか」
    「そうねー異論ないわ」
     昴が眠りに誘う神秘的な歌声を戦場に響かせると、前線の支援を任された霊犬のましろもキリリと表情を引き締める。
     敵の数を素早く減らさんと、叡も白金に煌めく細身の光輪を七つに分裂させ、後方に迫る敵を薙ぎ払った。
    「俺の炎は江戸っ子のお風呂より熱いぞっと」
     戦闘前はマイペースだった司も、今は嬉々と炎の奔流を繰り出していて。
     皆が皆揃って弱った個体を優先して狙う中、まりもが豪快にヘペレから飛び降りた。
    「ヘペレ、ゴーっ!」
     そのままヘペレが最前線に体当たりを仕掛けた刹那、まりもの強烈な回し蹴りが前線の敵を一気に薙ぎ払う。
     残るカマイタチは4体。戦況は灼滅者優勢と言うより、もはや無双であーる。
    「もう少し、だね」
    「この秘湯を護る為に、貴方たちを狩らせて貰うよ!!」
     グラジュの額には赤い二つの角が生え、目も普段よりも赤く赤く、炎のよう。
     狙い定めるようにグラジュはカマイタチを見据え、結衣奈も中衛の位置から瞬時に間合いを狭めると、魔力の奔流を勢い良く叩き付けた。
    「この調子だと直ぐに片が付きそうだな」
     矢の雨を降り注がせんと、昴も和弓の弦を引き絞るけれど、味方の火力は実に強力で。
     むしろ、さっさと倒して温泉に入りたいというのが、皆本音のような……?
    「さくさくっと終わらせましょ」
     叡が白蛇清姫を一振りすると白金の光輪が分裂し、結衣奈の傷を癒して守りを固める。
     後方で奔走する菊も、壁主体で動いていたましろも、十分な治癒を行き届かせていた。
    「さっさとお帰りいただくか」
     ――何よりも、仲間に無駄な怪我を負わせたくない。
     気遣うような司の視線に、ふとワタルが悪戯めいた笑みを返した。
    「競泳水着で戦う大学生もいるしな、オレも気合い入れていくぜ」
    「ああ、俺だけだよ!」
     ワタルの言葉に司は肩を落としつつ、玲仁の攻撃を受けた敵に強烈な炎を見舞う。
    「あと1体……」
     最後の1体も息告ぐ間もない猛攻を受け、疲労困憊でふらついていて。
     七が撃ち出した魔法の矢を辛うじて持ち堪えてみせたけれど、幸運もここまでだった。
    「これでお終い、だね」
     一気に距離を狭めていたグラジュが自らを手裏剣に見立てるように、体を捻る。
     決死の回転体当たりを受けたカマイタチは塵と化し、辺りには温泉が沸き出す心地よい音が戻ったのだった。

    ●大自然の湯けむりに包まれて
    「よっし下に水着着てきたし装備も水着だし……替えのパンツも持ってきたさ!」
     小学生っぽいプール用バッグとゴム入りタオルを掲げた司(大学2年生)の水着は、ハーフパンツ丈のファンシーな動物キャラクターのお尻柄。
     誰よりも早く着替えた司は温泉周りの小石を拾うと、ワタルと共に荷物を運んでいく。
    「コレもテントに入れ――」
    「はーい、通行止めだよっ、お風呂の安全のためにご協力お願いしますっ」
     2人の足を止めたのは、去年の水着コンテストの水着に着替え済みの、まりもとヘペレ。
     七と結衣奈が持って来た簡易テントは、女性陣の着替え用となっているようで……。
    「覗いたら、間違ってフォースブレイクとかしちゃうかもよ?」
     テントから出て来た結衣奈の水着は、赤に白のラインが入った、ビキニタイプ。
     長い黒髪は何時ものポニーテールではなく、温泉に浸からないように一纏めにしていたのが印象的だった、けれど……。
     まりもと入れ代わるようにテントの前に立った結衣奈は笑みを浮かべながらも、目は全く笑ってなかった。
    「念の為にいろいろと持ってきたのだ。二人分だからかさば……」
    「ニャー」
     紺と白のハイビスカス柄の水着に着替え終えた玲仁が鞄を開けると、中には猫。
     良くぞ見破ったと言う感じのドヤ顔で鞄から飛び出し、ゴロゴロと喉を鳴らす猫もとい七緒に、玲仁も苦笑を洩らしてしまう。
    「普通についてくればいいのに……全く」
     まあいい、皆で楽しむとしよう。
     置いて行くなと足元に纏わりつく七緒を大事に抱き抱え、玲仁達も温泉に向かった。

    「よし、入っていいぞ」
     温泉に毛が浮かないよう、昴は入念にましろをブラッシング。
     戦闘では真剣だったましろは打って代わって、はしゃぐように温泉に飛び込んでいく。
     一足先に湯に浸かっていた【吉祥寺キャンパス3-2】の陽丞も、嬉しそうに瞳を瞬いた。
    「これぞ至福の一時だな……乾かした後のもっふもふも楽しみだ……」 
     ハイパーアクティブと化して構ってモード全開のましろに、煉の頬も緩んでしまう。
     けれどそれも一瞬、はっと我に返った煉は、ざぶんと肩まで湯に浸からせた。
    「顔、赤くねー?」
    「……と、蕩けてなんかいないぞ?」
     ニマニマと茶化す昴に、煉は湯で火照っただけだと、口元まで沈んでいく。
     陽丞も久しぶりにクラスメイトと出掛けるのは嬉しくて、何よりもましろが大好きで!
     深い所を泳いでみせるましろに、陽丞はにこにこ笑顔で声を掛けた。
    「ましろさん、久し振りだね。今日もたくさん頑張ったのかな?」
     その手は優しく撫でたつもりであったけど、何と言いますかもうホールド状態!
     思いっきりましろと戯れる陽丞に煉も「オレも!」と湯を掻き分け、ましろに触れる。
    「元気だなお前ら……」
     互いに仲がいいのだろう、3人の関係はましろの触れ合いにも現れていて。
     構って貰ってご機嫌なましろを横目に、昴は1人ウトウトと船を漕いでいく――。
    「癒されるね、煉くん」
    「こんな良い所に誘ってくれた昴には感謝しな……昴ー!?」
     そのまま湯の中にズブズブ沈んでいた昴を、陽丞と煉が引っ張り上げたのでした。
    「姉さま、温泉、温泉だよ!」
     一足先に湯に浸かっていたグラジュは姉のペペタンを見つけると、大きく手を振る。
     温泉ではしゃぐ弟を見守っていたペペタンも眼鏡を外すと、爪先を湯に沈ませた。
    「それにしてもいい所ね、景色も素敵」
     湯が熱くないか訪ねると、グラジュは肩までのぼさぼさ髪に露を付けたまま、大丈夫だよと微笑んで。
     同じ温泉はないもの。
     今、この時と幸せを噛み締めるように、ペペタンはゆっくり肩まで湯に浸かっていく。
     ナノナノのミートもとっても気持ち良さそうに、湯面に顔を出していた。
    「……たまには、こういうのもいいわよね」
     賑わいから外れた温泉の傍らで、七は1人羽織っていたパーカーを静かに脱ぐ。
     黒のホルターネックタイプのビキニ姿の背中を隠すように、先ずは体に湯を掛けて。
     そして、足元からゆっくり湯に浸かっていくのだった。

    ●花と湯けむりと
    「運動後にさっぱり汗を流せるなんて、景色も言う事なしで本当に最高だよ……」
     道後温泉での旅館の湯も良かったけど、大自然100パーセントの温泉も極楽至福♪
     少し熱めの湯に体を浸した結衣奈も、手足をうーんと伸ばして、くつろいでいて。
     念には念をいれて周囲を見回してみると破廉恥な行為を行う者はなく、ゆっくり温泉を楽しめそうだった、が……。
    「こらこら七緒、飛び込んでは……七緒ー!?」
     猫のままと言うのも愛らしいけれど、溺れてしまわないだろうか。
     その予感は的中。鳴き声をあげて手足をバタバタさせた七緒を見るや否や、玲仁は直ぐに温泉に入って抱き抱える。
     抱えられて安心したのだろう、泳げず溺れかけた七緒は至って上機嫌♪
     荷物に混ざっていたアヒルの人形を湯に浮かべると、嬉しそうにじゃれ始めた。
    「あっぶねぇ、誰だよ石けん持ってきたの!」
     自然界にオチはない、はず!
     そう願っていた司の右足が、うっかり鎮座していた石けんで滑って、阿鼻叫喚ッ!
     危うく股割直前で踏み止まって冷汗を浮かべた司の声に、昴が寝そうに手を振った。
    「その辺に放置してそのまま忘れてたわ、帰る時にはしっかり回収して帰る」
    「それ、誰かが踏むフラグだよな」
    「仮に誰か踏みつけても、一応仮にもバベルの鎖がある灼滅者なら怪我はしねーだろ……」
    「俺踏んだ! 股割ける寸前だった! 精神的な意味で即死だわ!!」
    「あっ、でも佐藤おにーちゃん、石けんで突撃は危ないよっ」
     温泉でも落ち着きなく、うろちょろしていたまりもも、驚いたように瞳を瞬いていて。
    「灼滅者なら実ダメージは無いけどね。痛いのには変わりがないとは思うけど」
    「滑走して即死する気無いし、むしろノーサンキューな!」
     まりもだけでなく結衣奈にも生暖かい眼差しを向けられた司は、物理じゃないダメージをチクチク受けていたのは、言うまでもなく。
    「温泉卵、作ってみようかな」
     山々を点々と染める山桜を眺めつつ、芯まで温まれば気持ちも蕩けていく。
     お茶を飲んで水分補給していた七の灰色の瞳が、温泉の片隅に湧いた源泉に留まった。

    「はー……汗かいた後だからさっぱりするわね」
     叡の水着は青藍色の青海波模様入りの、トランクス。
     金の散る桜模様のアクセントが入った黒パーカーを脱ぐと、疲れを癒すように体を湯に浸していく。
    「狩野さんの気持ちも分かる気がするな」
     桜を眺めながら入る温泉は、この時期ならではの贅沢だ。
     暫く忙しくしていた春翔でも疲れが取れて、明日から頑張れる雰囲気が、此処にある。
    「……さあて、どうかしらねえ」
     敢えてとぼけた叡も、山々を粉雪のように染めていた山桜に、長く視線を留めていた。
    「桜も綺麗であったかくってホカホカして気持ちいいですよねー」
    「カマイタチも温泉に入りたかったのかしらね」
     大好きな温泉にリラックスしていた翡翠の隣では、律花も嬉しそうに湯に戯れていて。
    「山桜も咲いてていい感じだし……お酒は無理でもお茶くらいは、許されるわよね?」
     見事に咲いた山桜に瞳を細めた律花は、温泉近くに置いた水筒に手を伸ばす。
     桜フレーバーの冷たい緑茶をコップに注ぐと、叡に「お疲れ様」と差し出した。
    「確かに花見湯には丁度良いかもしれない……が、律花や狩野さんはアイス等の方が良かったのではないか?」
    「あっ、お風呂上がりにみんなでアイス食べませんか?」
    「アイスいいわね! 翡翠ちゃんと半分ことかも楽しそう」
     和気藹々と声が弾む中、ふと何か思いついた春翔が口を開く。
    「叡にも礼をさせて貰いたいので、各々何か考えておいてくれると助かる」
    「あら、春翔、良いの? じゃあお言葉に甘えて何か考えておくわ」
     直ぐに口を挟んだ叡に、春翔が「高価な物は無理だが」と続けることを忘れない。
     1つに絞れないと声を上げた律花にも翡翠が何時もの御礼に背中流しを提案していて。
     みるみるうちに頬を赤く染める律花を、和やかな笑みが包み込んでいく――。

    ●団子と温泉卵もあるよ!
    「ぷあー、でもジュースもうぬるいや……」
     温泉浪漫の1つ、それは湯に浮かばせた湯桶に徳利(とっくり)ジュース!
     お猪口で受けたジュースをぐいっと飲み干したまりもが、満足そうに息を吐いた。
    「ふー極楽極楽ーってな……俺、おじいちゃん臭い?」
     ミニタオルを頭に乗せた司も、スポーツドリンクを入れた徳利を湯桶に浮かべ、大自然の秘湯を満悦している様子。
    「ワタル、いいお湯だね!」
    「ごぞーろっぷに染み渡るぜー」
     感情は素直に顔に出すグラジュの笑みに、ワタルも年相応な笑みを返す。
     そんな2人のやりとりにペペタンは微笑み、ふとワタルに訪ねた。
    「ワタルさんは温泉好きなのかしら」
    「元々日本かぶれっていう奴だが、戦争の祝宴会でも温泉で祝うコトが多いし、武蔵坂に来てから更にハマった感じだな」
     海を越えて来たと言うワタル自身の名前も、和名に近い響きがあるような……。
     そんなワタル自身も日本かぶれを絵に描いたように、慣れた感じで湯に浸かっていて。
     満足そうに蕩けていくワタル、今度はまりもが不思議そうに口を開いた。
    「ごぞーろっぷって何? うさぎの種類みたいなやつ?」
    「ワタルもけっこう渋いっつかよく知ってんなー、俺、全部はどこだかわからんわ」
     司は相槌を打ちながらも、グラジュにジュースのお酌を勧めることを忘れない。
     ……と、その時だった。口数が少ない七がワタルに声を掛けたのは。
    「ワタル君も良ければ味見を」
    「こ、これはっ!!」
     七がワタルに差し出したのは、温泉の片隅で作ったという、本格的な温泉卵!
     モノは試しにと作ってみたら割と上手く出来たと、七が珍しく言葉を紡いだ。
    「温泉で作った温泉卵、食べたことないし」
     七が塩と麺つゆを湯桶に乗せると、粋な味わいにワタルも満足そうに舌鼓を打つ。
    「ワタルくん、お団子もどうぞ!」
    「おう、結衣奈も粋な気遣い、ありがとなー」
     肌が桜色に色づいてきた頃合いを見計らい、結衣奈も花見団子を皆に振舞っていて。
     美味しそうに団子を頬張るワタルに結衣奈も満面な笑みを返すと、周囲を見回した。
    「サーヴァント達と一緒の温泉も楽しいね~」
    「そうだな、賑やかで結構だ」
     穏やかに瞳を細めた結衣奈に、ワタルも頷き、更に体を湯に沈めていく。
    「あー俺、温泉の精霊になってずっと浸かってたいわー……」
     昴と叡の霊犬に羨望の眼差しを送っていた司に至っては、動く気が全くないレベル。
    「……来てよかった」
     花も綺麗で、両手に花どころの話ではなくて。
     ひらひらと湯に浮かぶ山桜の花びらに瞳を細めた玲仁に、抱き抱えられながらペシペシと花びらと戯れていた七緒も「ニャーン」とひと鳴き。
     ハイビスカス柄で玲仁の水着とお揃いの手ぬぐいをほっかむりにし、金魚のおもちゃを咥えてドヤ顔な七緒の頭を、玲仁は優しく撫でた。
    「ヘペレも後で洗ってあげるねー!」
     皆とお出かけして、一緒に入る温泉は格別で!
     楽しそうなまりもに、湯の外で待機していたヘペレも嬉しそうに体を揺らしていて。
     ――そして、数十分後♪
    「……大丈夫?」
     片付けまできっちり済ませた七の視線の先には、茹であがった少女と少年が……。
     芯の底から楽しんだまりもとワタルは、揃ってのぼせて大の字になっていたという。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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