常磐沿線、密室ありマス

    作者:一縷野望

    ●千葉県松戸市某所
     日が射さぬ暗い場所に蹲るのは中年から老年の男が多数。かなりの割合でぺらぺらの新聞紙を握りしめている。
     次に目につくのは彼らの妻らしき年取った女や老年の警備員。あとは、子連れの主婦と工場もしくは研究所勤務らしき労働者がちらりほらり。
     彼らの瞳は一様に落ちくぼみ絶望に充ち満ちている。
     ――しゃんっ。
     不意に左側から響く澄んだ鈴の音に彼らはひくりと声を呑み込んだ。
    『みなさん、おはようございます』
     かつり。
     壇上にあがる白髪の清楚な妙齢女性は、手にした神楽鈴のように澄んだソプラノヴォイスを響かせて、瑪瑙色の瞳を弓の形に変えた。
     笑み。
     されど根源の恐怖を喚起する、表情。
     それは弱者と強者の間、超えられぬラインが見せる、確固たる幻影。
    『さあ、みなさんがお好きなギャンブルをしましょう』
     女が示す先には、レース場のようなトラックが描かれている。それぞれのスタート地点には、1~8のゼッケン番号。
    『一番になる番号を予想して賭けていただく『単勝戦』です』
     以前、単勝なんて競輪ではないと抗議した男は、令嬢が鈴を一降りしたら首が飛び、死んだ。
     だから神楽鈴は禍々しい赤銀、特に隠し刃の持ち手の色は陰惨血色。
    『選手は……そうですねぇ』
     これは死の宣告に限りなく、近い。
     まずは賭け締めきり後一番不人気の人間はスタート前に殺される。
     そして、トップ以外も気紛れに殺される。例えば走り方がみっともないとかそんな理由で。
     レースは過酷。暗い室内でぐるぐるぐるぐるトラックを力尽きるまで走らされる。
     ――全てはこの『密室』を支配する『白妙の令嬢』の思うが儘に。
     
    ●白妙の令嬢の密室遊び
     松戸競輪場の地下にゴッドセブンナンバーワンのアツシがしつらえた密室がまたひとつ。
     MAD六六六が事件を起こすとしたら松戸だろう、そしてその事件はアツシの密室によって隠匿されるはず――。
     果たして、戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)の読みは当る。妙に人気が削れた松戸競輪場駐車場の片隅に観音開きの扉を発見したのだ。
    「密室なのに扉って間抜けですね」
     気怠げに髪をかき上げて蔵乃祐は、ぼそり低く零した。
     しかしながら密室の中では余りシャレにならない事態が起っている模様。
    「レース、とか、賭け、とか、不人気は殺す、とか……どうも、六六六人衆が好む無差別な大量殺人にまではいってないようですけど」
     
     とにかく早急に密室へ急行し、状況を打破する必要がある。
     まず、幸いにも千人近い数が蠢いているため、灼滅者達の侵入が直ちに気取られる事は、ない。
     侵入時は『レース』がはじまる前。
     どのようにして『白妙の令嬢』の傍に行くかはよく考えるべし。
     レース要員として名乗りあげればすぐに彼女の傍へ行けるが、灼滅者だと気取られすぐに戦闘になるだろう。
     この時に全員が行かなければ、名乗り挙げなかった者達はしばらく気取られずに動けるかもしれない。とはいえ、格上ダークネスに少人数で挑むのは無謀とも言える。
     逆に、レースがはじめさせれば彼女はそちらへ意識を向けるので、その隙に向かえる。戦闘を仕掛けるタイミングがこちらにあるのが大きい。
     しかし、囚われた人々の多数が状況を忘れてレースに夢中になる。レースを中断された時、憤りが弱者へ向くかもしれない。
     またいっそ、レースで出る犠牲は諦める。そして終了後の彼女の動きを予測し、適切な場所で戦闘を仕掛ける選択肢もありはする。

     ……もちろん、ここに挙げた方法以外に『もっと冴えたやり方』を思いついたのならば試す価値はある。
     悪しき密室を支配する暴君を排除できるのは灼滅者だけなのだから。知恵は幾ら絞っても損はないはずだ。


    参加者
    和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    結城・麻琴(陽鳥の娘・d13716)
    花衆・七音(デモンズソード・d23621)
    琶咲・輝乃(決意を勿忘草に表し過去想う者・d24803)
    高原・清音(中学生殺人鬼・d31351)
    三好・遥(トークライ・d31724)

    ■リプレイ


     しゃん!
     白上の指が天井に掲げた鈴を半円描き下ろせば、灼滅者4人を漆黒が蝕んだ。それはそれは純度の高い、毒――主の機嫌を物語るように。

    『名乗り出てくるとは愚かなこと、灼滅者は排除させて頂きます』
     ――レース要員の名乗りあげは灼滅者と気取られすぐ戦闘になる。
     先手を取り攻撃ではなく口を動かすべし、交渉のスタートはそうあるべき『だった』
     交渉に持ち込み被害を抑えたいのなら、賭けの人気最下位が殺される直前が唯一のタイミングだった。
    「妾に提案があるのじゃ」
     痛み隠し威風堂々、和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)は端的に切り出し軌道修正を試みる。
    「ボク達はここの人達を助けたい」
     立ち位置故に難を逃れた琶咲・輝乃(決意を勿忘草に表し過去想う者・d24803)が続いた。
    「そのためにあたしたちとゲームしない?」
     血を拭い、結城・麻琴(陽鳥の娘・d13716)は指で挟んだダイスを見せつけ闊達に誘った。
    『成程……私(わたくし)に所有物である『彼ら』を賭けてギャンブル勝負をしろ、そうおっしゃるのですね?』
     白妙の物言いに肝を冷やしたのは文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)だけではないはずだ。
     危なかった。
     もし灼滅者側が『一般人の命』をチップにしたら、即座に交渉は決裂。一般人の不信感も膨れあがり避難も大失敗しただろう。
    (「気にくわんなあ『密室』も『白妙の令嬢』も」)
     しかし現状彼らの命は白妙次第。所有物との表現は忌々しいが真実だと花衆・七音(デモンズソード・d23621)は認める。
    『回復は戦闘続行と見なします』
     戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)は抜け目のなさに嘆息零し、前衛四人を蜃気楼で包むのを諦めた。
    『それで、貴方達は何を賭けてくださるのですか?』
     楚々と首傾げ伺う所作、なんとか戦闘は回避出来たようだ。高原・清音(中学生殺人鬼・d31351)と三好・遥(トークライ・d31724)は胸撫で下ろし誘導へ取りかかる。
     改心の光も考えたが一度に1人対象な上に『悩める』善人を増やしどれ程の利があるのか? 
     故に遥は警備員らしき男の袖を引く、彼の良心を信じて。
    「令嬢が気を取られている間に、避難しよ」
     人差し指を立てて静かにと指示し「子供、怪我人から逃がしたい」と続けた。
    「……わたしだけじゃ皆を助けられないから……」
     お願いと、清音は指を組み大柄な男へ請う。ラブフェモンで好感を稼ぎ頼りにしていると訴えて。
    「「…………」」
     話しかけられた彼らはゴクリと喉を鳴らし壇上へ視線を向ける。


    「俺が負けたなら、メイン武器の日本刀を封印し使用しない」
     まず咲哉が十六夜を掲げ示したが、白妙の眉根が寄っただけだった。
    『刀を使わずとも出せる技はいくらでもあります。貴方が不利になる保証がありません』
     親友の形見でありそれを賭ける勝負師の誇りを語るも、終ぞその心を動かす事叶わなかった。
    「ならば妾達の命はどうじゃ?」
     風香が嘯いた『命』というキーワードは白妙の興味をそそったようだ。
    「闇堕ちゲームとしゃれ込もうぞ」
    「貴方の序列上げにもなるわ、どうかしら?」
    『貴方達の1人でも堕ちれば勝ちが危うくなりますし……』
     畳みかける麻琴を躱すように微笑む白妙の目は全く笑っていない、故に七音は続くのを止めた。
    『そもそも闇堕ちは魂の完成、命を賭けるのと等価ではありません』
     ぴしゃり。
     襖を閉めるように言い切られたのはダークネスの彼女にとっての常識。
    『まぁ序列があがるのは魅力ですし、受けて差し上げましょうか』
     しゃん……。
     気怠げに神楽鈴を掲げ眼下の注目を惹く。
    『貴方と左右5人を残し、他は下がり左右に分かれてください』
    「何をする気じゃ?」
    『闇堕ちが出たら即座に脱出できる場所に移動します』
     彼女より高位の六六六人衆とて闇堕ちゲームは撤退路を確保してから仕掛ける。そして彼女は戦場を自由に決められる――闇堕ちゲームの提示で『死』を意識させたのだ、愚かではない彼女が対策を取るのは当然だ。
    『彼らは撤退を阻まれた際使用する盾です』
    「彼らを助けたい、そう言ったはずだよ?」
     壇上を降りる細い肩をつかみ輝乃は鋭くにらみ据えた。
    『闇堕ちゲームが始まっている時点で賭けは私が勝っている、そういう条件のはずです。それとも闇堕ちゲーム自体が賭けなのですか? だとしても誰かが堕ちた時点でやはり私の勝ち――つまり』

     貴方達が勝利した時に得るプライズ『一般人の命』を、私が保証する義務は全くありませんよね?

     残念だが白妙の言い分は筋が通っている、それでも。
    「待って、それはのめないよっ」
     回り込んだ麻琴が両手を広げて立ち塞がった、そうせざるを得ないのだ。
     出口付近の蛍光マーカーを見られ目的を悟られたらアウト、そもそも白妙に撤退された時点で作戦は失敗だ。
    『お話になりませんね』
     心底呆れた溜息と共に傍らへ指を伸ばす。こいつらが守りたい奴の喉を潰し交渉決裂の返事としてくれよう!
    「待って下さい」
    『まだ何か?』
     振り返った彼女は膨れあがった殺意を一切抑えず声の主蔵乃祐へ叩きつけた。
    (「……これなら、安い」)
     臓物を灼く痛みに晒されてなお蔵乃祐は安堵している、誰も死ななかったコトに。


     方々から蹲り泣きや壊れた笑いが響きはじめている、もう限界なのだ。
    「彼らは絶対持ちこたえてくれるよ。だからそれを無駄にしたくない」
    「みんなで助け合って……逃げて欲しいの……」
     そんな中、真摯な眼差しで遥と清音は蛍光マーカーを示し説き伏せる、これに従い行けば難を逃れるのだ、と。
    「わかった」
     まんじりと恐怖に蝕まれるよりはと彼らは弱者の手を引き下がりはじめる。
    「……守るわ……みんな」
     随走する清音、別の誘導者を求め移動する遥。
     さぁ、あとどれぐらいの時間が使えるのか――。

    「僕が負けたら、勝負した数字の合計ターン貴女からの攻撃は絶対に避けず攻撃もしません」
    『5本勝負のインディアンポーカー、条件も中々です。貴方は破滅の引き金に指をかけている』
     頬に手を当てた白妙は陶然と手を当てた頬を緩める。
     ――なんのコトはない、彼女が望むのは『灼滅者の具体的にして圧倒的な不利な行動』『単純に命を危険に晒す』以上だ。
    「そういうんやったらうちもええか?」
     七音の条件は『BJ勝負で1勝毎に十分の一ずつ相手を殺す』と言うモノ。
    『成程。ねえお二方、もっと単純にしませんか?』

     ――貴方達は負ける度1分間、私にメッタ刺しにされる。

     3本勝てば勝利は灼滅者へ。しかし1本負ける毎に1分白妙の攻撃に晒される。
    『誰か1人でも私に3本勝てば、一般人に手を出さないとお約束します。ただし結果が出ても、ギャンブルは続けていただきます』
    「その後あんたは何を払うんや?」
    『私の命』
     にたり。
     耳まで裂けるような狂気の三日月、神楽鈴を頬に押し当てて蕩けるように瞳に影がさす。
    『一般人をお支払いしたら、以降は同じ条件を呑みましょう』
     5本勝負+最大3分の攻撃。上手くすれば白妙も刺せる――時間は、稼げる。
    「断る理由はないなぁ」
     七音もまた同じ狂気を湛えて不定形の如き唇をねとりと傾がせた。
    「貴女に美学へのこだわりがあるように、僕らにも譲れない矜持がある」
     静逸にして厳格な蔵乃祐の声には皆まで言うなと手を翳された。
    『競技者以外が手出ししないなら、彼らの命はギャンブル開始時から保証します』
    「……ボクものるよ。駒は多い方が良い」
     元より全てを白妙に託すつもりだった輝乃も前に出た。
     ――彼ら3人にプラスして自分も倒れたら……灼滅はほぼ無理だと麻琴は唇を噛み俯く。風香と咲哉も首を横に揺らした。
    『ふふ、闇堕ちさせないように上手くやらないと』
     トランプ2組の封を切り灼滅者側へと滑らせる。


     行き交う下馬評、せり上がる賭け。
     ……全ては死の恐怖から目を逸らさせるため咲哉が煽った結果である。
     ゲームとして演出した結果、輝乃が無残に血を散らせてもパニックは起らず熱狂が加速するのみ。
    『2本勝って粘りましたのに、残念でしたね』
    「……そうだね」
     口濡らす血を手の甲で拭い、輝乃は面で片方の瞳を覆いなおす。
     大丈夫、まだ戦える。
     時間も相応に稼げた……上出来、だ。

     一方、最後方では比較的理性的な者の手で誘導の形ができつつあった。
     避難役の遥と清音は気配を殺し壇上側へ。咲哉の煽りに乗らぬ理性的で落ち着いた者を説得し弱者を連れ下がるを繰り返す。

    『……ポーカーフェイスがお上手ですね』
     ぱらり。
     白の額から落としたカードは6、2回腱を切られ右手のみでカードを掲げた蔵乃祐のカードは……7。
     3回のパスを駆使しクセを読む。観客の反応も重要なデータだが途中から意味を失った。
    「ほれ、妾が守ってやると言うておるに、のびのび賭けた方が良かったじゃろう?」
    「そうそう、観客さん達は安心してゲームを楽しんでいいのよ」
     風香のカリスマと麻琴の明るさが、ここが人殺しなどから遠い――少なくとも自分たちは被害を被らない――賭場だと錯覚させたのだ。
    「約束は果たして頂こうか」
    『ええ、此より私は一般人を害しません』
     ――貴方達がここから生きて出られれば、ですが。
     全て殺せばまたここはまた私の箱庭に戻る――。
    「さぁ、こっからほんまモンの命の遣り取りやで?」
     椅子に腰掛けて七音は命を示すチップを弾いて子供のようにはしゃいだ。


     猫、否、それとは違うおぞましい獣――致命傷に近い疵を喰らう七音の笑みを例えるならこうだ。
    「5本目超えてもいこか?」
    『もうふらふらではなくて?』
     互いに2本刺しあった状態だが、ふと白妙の表情が曇る。眼下の一般人は既に半減、しかも女子供が異様に少ないと来た。
     ――気取られた!?
     察知した灼滅者達が襲いかかるのより僅かに白妙の殺意の方が早かった。
     しゃん!
     漆黒の中でアギトをあけるは血ノ宴。始まりと同じ音の鈴、ぶつけられたのも最初と同じ4人。
     水を打ったように静まる後、ピアノの上にデタラメに指を滑らしたような狂乱が場を包む。
     競技者3人は怒号に声を割り込ませ、蛍光塗料の退路通りに撤退せよと指示を飛ばする
    「……こっち、押さないで……」
    「落ち着いて、令嬢の狙いは壇上だよ」
     清音と遥は彼らを蛍光マーカーの道へ流し込むのを諦めない。この暴動の儘に放置したら人的損害が発生するのは火を見るより明らかだ。
    「支えてくれるかい」
     背水の陣と少女は大人びた声を響かせる。
    「ええ、負けたくないですから」
     頑固で不器用な自分が拾えたゲーム、それを確実な勝ちとするために。
     ――輝乃と蔵乃祐の蜃気楼が交差する。戦術ミスと賭けの疵を取り返すには届かないが……ここがスタート、どんなに不利でも揺るぎない現実。
    「この外道は必ずぶっ飛ばしたるで!」
     ニトロを噛みしめた刹那七音の姿は禍々しき魔へと融けた。
    「状況把握できてないなんて、ゲームマスターとしては二流ね」
     絶え間なく続くゲームと攻撃は疵を癒す暇も与えなかった。それでも麻琴は太陽のように強く笑む。
     ここからが、勝負!
     鳥が羽ばたくように白妙に飛びかかり組んだ拳を振り下ろす陽の娘、続く風香は狂乱を真っ二つにするように己より巨大な紫燐光を駆り白妙へ肉薄する。
    「ゲームオーバーじゃ」
     胸に一閃、咲かれたブラウスを見て白妙は舌打ちする。その華奢な肩から肩胛骨に十六夜の月がゆるり残酷に印をつけた。
    「さて、今度こそ命と命の賭け合いだ。お互い楽しもうじゃないか」
    『やっぱり刀なんていらない技……』
     刃引き怜悧に見下す咲哉の瞳に吐かれしは血と毒づいた。

     闇堕ち者の発生を警戒したか、令嬢が執拗に狙ったのは闇堕ちゲームを切り出した風香と麻琴。接触時のミスにより相当の疵が刻まれていた2人は殺意にまかれ倒れ伏す。
    『まだいたのですね……』
     遥と清音が戦場に合流したと同時に2人が力尽きた。戦場復帰は『危なくなったら』――具体的な指針に欠けたのが響いたか。
    「……2人もってかれたか」
     魔剣包む黒き澱みは凌駕し堪えたものの、悔しさ露わだ。
     蔵乃祐は護り手へと身を委ね、戦闘不能者を檀下へ落とす――回復に手を裂いていては、勝てない。
     遥が掲げる誘導灯はあたたか色、清音はすと伸ばした人差し指と中指で腎臓から太ももを裂く、回避を殺し確実に斃すのが狙いだ。
     咲哉の掲げた刃に絡みつくような影が不意に爆ぜ、舞台を奔る奔る。
    『ねえ』
     しゃん! しゃん! しゃん!
     まるで除霊するように、白妙は神楽鈴を天に飾り降る。招くは殺意、影を壊しその勢い借りて白妙は床を蹴った。
    「――くっ」
     咲哉の腹に刺さる刃はたんまりと血を含み、カギ型へ力強く躙り揺れた。
    『あなたは今まで一度も刀の技を使ってない、やはりリスクなんて全くなかったんですね。なにが勝負師ですか、笑わせないで』
     吐き捨てる瑪瑙が凜然と見送る3人目の戦闘不能者。
     競技者の3人は既に3ターン攻撃を受けたに等しい状態、いつまで戦っていられるのか……。 
     でも此処で諦めたら全てが無駄になる!
     明らかな不利を悟りなお灼滅者達は攻撃の手を緩めるコトはできなかった。
    「絶対好きなように、させない」
     刹那な快楽人ゴロシに遥は嫌悪を隠さない。操り糸でもたげた腕影が鷲づかむように両足を括り握った。
    「まだ、まだいける」
     勝負の見極めは病院時代に身につけた。七音は捻った螺旋の闇に渾身の力を乗せて躰ごと突き刺さる。
    『あなたの一撃は本当に痛い……賭けでもそうでした』
     ――でも貴方も相当失っているはずよ。
     しゃん!
     化け物めいて心は人のあなたへ、と……人そのものの外道は神楽舞うように鈴刃を裂けた口へねじ込んだ。
     堪えきれずびしゃりと音立て倒れた魔剣に、輝乃は耳の後ろをガリガリと掻きむしる。
    「斃さなきゃ、いけない」
     巨腕で空間を刮ぎ取るように輝乃は白妙を喰らうが如く打ち付けた。
     逃がした人達も、
     ここにいる仲間達も、
     ……白妙を斃さなくては、助けられない。
     ああ、耳の後ろが……疼く。
     ぱきり。
     乾いた音で弾け飛ぶ面、掲げられた星天蓋は標のように白妙の胸に突き刺さる。
    『――しまっ……』
     流し込まれる力は、ゲーム盤をデタラメにひっくり返すような膨大な、闇。
    「守る、よ」
    「わかりました」
     託すような声に一番に応えたのは蔵乃祐だ。壇上を降り、麻琴と風香を抱えて歩き出す。
     清音は切り結んだ唇の儘頷き人に戻った七音を抱き上げる。輝乃が堪えている内に、一般人を外へ逃がさなくては。
     遥は薄紅の糸を手元に寄せた。襟越しに動いた唇は了承かそれとも謝罪か。咲哉を背負い、最後に一度だけ振り返る。
     其処にあるのは壁を棺桶に二度と動かない白い玩具と、神秘的すらある竜の娘。
     そう。
     幼子は、守りたいと願った幼子は――其の魂を代償に確定的悲劇の檻をこじ開けたのだ。

    作者:一縷野望 重傷:和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975) 文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076) 結城・麻琴(陽鳥の娘・d13716) 
    死亡:なし
    闇堕ち:琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803) 
    種類:
    公開:2015年4月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 16/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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