地下鉄迷宮二十五時

    作者:飛翔優

    ●美園駅は午前一時
     終電の時間も過ぎ、閑散とした雰囲気を漂わせていた札幌市営地下鉄。
     一時間ほど経った頃だろうか? 不意に、美園駅と豊平公園駅の結ぶ線路が、揺らいだ。
     誰も見守ることのない線路が、徐々に輪郭を変えていく。やがて、石壁に繁茂する苔がおぼろげな光を放ち道を照らしてくれている……線路など何処にもない、地下迷宮へと成り果てた。
     十字路T字路袋小路……行く手を妨げる様々な道の中を、歩くは体のどこかを腐らせている動物系のアンデッド。西洋風の剣や盾、兜や鎧で武装しているスケルトン。
     アンデッド達は徒党を組まず、迷宮内を無秩序に闊歩する。
     スケルトン達はチームを組んで、地下迷宮内を巡回する様に歩いている。
     あるいは、そう……迷いこんできた獲物を、即座に仕留める事ができるように……。

    ●夕暮れ時の教室にて
    「錠之内・琴弓さんが発見したできごとを元に、次のような光景が導き出されました」
     錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)が導き出したのは、深夜の札幌の地下鉄がダンジョン化している事と前置きし、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は説明を始めていく。
    「ダンジョン化するのは、終電が終わった後、始発がでるまでの数時間程度。ですので、今のところ被害は出ていません。しかし、放置すると大変な事になってしまうかもしれません」
     故に、解決する必要がある。そのためには、ダンジョン内に存在する全ての敵を撃破する必要があるのだ。
     葉月は地図を広げ、札幌市営地下鉄の美園駅を指し示した。
    「今回のダンジョンは、美園駅から豊平公園駅へ行く途中。変化している時間帯は午後一時以降。ですので、午後一時以降に美園駅側から侵入して下さい。そうすれば、入り口へとたどり着けるはずです」
     ダンジョン内は、西洋風の鎧甲冑や剣盾で武装したスケルトンが闊歩している。あまり強いわけではないが数が非常に多く、連戦ともなれば消耗は避けられないだろう。
    「また、曲がり角や隠し扉、落とし穴などといった構造を活かした奇襲や、装置を用いて壁を作り出すことによる分断なども仕掛けてくるかもしれません。いかにスケルトンたちがあまり強くないとはいえ、搦手を用いられればやはり徐々にきつくなっていくかと思われます」
     そしてその最奥。教室一つ分ほどの広間になっている場所には、ひときわ巨大で豪奢な鎧に身を包んでいるスケルトンが鎮座している。さながらボスといった心持ちだろう。
     ボススケルトンの力量は、さほど高いわけではなく消耗していない状況ならば楽勝。消耗している状態でも、よっぽどでなければ五分以上。ただし、戦闘へと突入後は迷宮内に残っているその他のスケルトンを呼び寄せると言った性質を持っている。合流まで最低でも四・五分はかかるだろうが、増えれば増えるほど戦いが辛くなることに違いはない。何らかの対処をしておく必要があるだろう。
     また、攻撃面に特化した性質を持っており、ズタズタラッシュ、クルセイドスラッシュ、月光衝に似た技を用いてくる。
    「以上で説明を終了します」
     地図などを手渡し、続けていく。
    「先に言いましたが、この件を解決する方法はダンジョン内に存在する全ての敵の殲滅。殲滅すれば、時間内でも線路は平常なものに戻ります。これを繰り返してけば……」
     おそらく完全に平常な状態に戻るだろうと告げ、締めくくりへと移行した。
    「ですので、これはそのための一歩。どうか油断せず、確実な行動をお願いします。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    橘・瞬兵(蒼月の祓魔師・d00616)
    幌月・藺生(葬去の白・d01473)
    相良・太一(再戦の誓い・d01936)
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    雀谷・京音(長夜月の夢見草・d02347)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    海弥・有愛(虚りゆく心・d28214)
    神宮寺・柚貴(黒影の調理師・d28225)

    ■リプレイ

    ●迷宮へ
     二十四時を過ぎた頃、美園駅から豊平公園駅へと向かう電車は尽きる。
     二十五時を過ぎた頃、美園駅から豊平公園駅へと向かう道は変貌する。
     おぼろげな光を放つ苔が繁茂する、石壁作りの迷宮に。動物たちのアンデッドが、人間型のスケルトンが闊歩するダンジョンに。
     仲間たちと共に突入した雀谷・京音(長夜月の夢見草・d02347)は、マッパーを担う片割れとして力を用い、鉛筆片手に方眼紙を広げていく。
     攻略を始めていく中、少しだけ体を震わせていく。
    「ダンジョンにゾンビ……うぅ、ホラーゲームみたいだよね」
     表立って語るわけではないが、ゾンビは苦手な京音。スケルトンはまだマシだが、動物たちのアンデッドは……。
    「っ、待って! ……何か聞こえなかった?」
     思考は半ばで打ち切り、背後で何か音がしたと仲間たちを呼び止める。
     耳を済ませたなら、汚らしい水音が聞こえてきた。
    「う……これって、あれだよね……」
     恐る恐る振り向けば、後で探査すると話していた曲がり角。
     曲がり角の影に、体を腐らせ目玉がとれかけている犬が……犬アンデッドが一匹。
    「……こんなの斬って刀腐らないかな……」
    「燃やしちまえば大丈夫! っと」
     即座に相良・太一(再戦の誓い・d01936)が踏み込んで、炎の拳で犬アンデッドを殴り飛ばした。
     勢いのまま攻撃を重ね、被害なく撃破することに成功する。
    「うっし、勝ち! ……で、宝箱は? ……でないの?」
     ダンジョンと名付けられているとはいえ、やはりゲームとは違う。宝箱が出現しようはずもない。
     そんな会話を交わした後、灼滅者たちは再び歩き出した。
     入り口への順路は確保しつつ、床を、天井を壁を注意する。曲がり角に遭遇したなら立ち止まり、その先を伺っていく。誰も居ないのなら進行し、敵がいるのなら打ち倒す!
     そうして三十分程歩いた頃だろうか?
    「ちょっと待って」
     橘・瞬兵(蒼月の祓魔師・d00616)が仲間を呼び止め、地面に敷き詰められている石の一つを指し示した。
    「なんだか少し様子が違う……調べてみようよ」
     示された石は、少しだけ色が違っていた。
     チョークでバツじるしをつけた後、周囲の調査を始めていく。
     少し先の地面に小さな亀裂が入っている……時間差の落とし穴なのだろうと結論づけられていく中、瞬兵は安堵の息をはきだした。
    「ほんと、何者がなんのためにこんな仕掛けを作ったかはわからないけど、しっかり攻略して、平和を取り戻さないとね……」
    「そうだね。故に、じっくりと歩みを進めていこう」
     頑張る、とぐっと拳を握りしめる瞬兵に頷き返し、紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)はウロボロスブレイドを杖代わりに地面の探索を再開する。
     それから五分ほど進んだ後、不意に幌月・藺生(葬去の白・d01473)が振り向いた。
    「そこっ!」
     視界にネズミアンデッドを収めると共に、氷の塊でスナイプショット。
     見事ネズミアンデッドにぶち当て、沈黙させることに成功した。
    「ふぅ、再び先制で倒すことができましたね」
     先制攻撃で倒していく限り、集中力と体力以外に消耗はない。いつまでも……とは無理だろうけど、できるかぎりやっておくに越したことはない。
     奥にはボスが潜んでいる。
     ボスは、消耗度合いによっては苦戦しかねない相手。
     探索及び進行しながらの雑魚刈りで、いたずらに消耗するわけにはイカないのだから……。
    「……それじゃ、注意しながら参りましょう!」
     初めての札幌地下鉄。
     電車に乗る代わりに足を運ぶこととなった、迷宮探索。
     RPG見たいと思うのは、彼女も同じ。灼滅者たちは程よい緊張を保ちながら、少しずつマップを埋めスケルトンたちを倒していく……。

    ●地下鉄ダンジョン攻略中
     それから一時間ほど探索した後、流石に集中力が切れてきたのか危うい場面が増えていた。
     だから、五分ほど前に見つけた袋小路に足を運び、一方向のみの警戒で済ませる事ができる状態で休憩を取る運びとなった。
    「皆疲れたよね? メンタル回復はサイキックよりこっちが効くよ!」
     京音がクッキーを取り出して、栄養補給を進めていく。
     他にも大福などを口にしながら、三十分程の休憩を摂った。
     十分に精神力を回復した上で、灼滅者たちは探索を再開。
     二十分ほど歩みを進めた後、太一が曲がり角の前で制止をかけた。
    「い、居たよ……ってか、じっと身をひそめる骸骨ってなんかシュールだな……」
     この場所は交代制なのか、剣片手にじっと立っているスケルトンが三体。
     灼滅者たちは頷き合い、奇襲をしかけんと曲がり角の向こう側へと飛び出して――。
    「っ!」
     ――不意に、軽い浮遊感を感じた。
     すかさず太一は落ちゆく床を、そして虚空を蹴り、スケルトンたちの元へと着地する。
    「ふっ、こんな罠で俺を嵌められると思うなよ!」
     言葉とともに、放つは雷を宿した拳。
     続くは落とし穴を回避した者たちの放つ力。
     それでなお……数が減った状態では、先制攻撃だけで倒すには至らない。
     微細な被害を出しながらスケルトンたちを倒した灼滅者たちは、スケルトンたちが罠を発動させた痕跡を発見した。
     罠に嵌められることもあるのだと、灼滅者たちはより一層の警戒を行いながら進軍を再開。
    「待ってくれ」
     曲がり角を三つほど超えた後、T字路を前に海弥・有愛(虚りゆく心・d28214)が呼び止めた。
    「あれは……怪しいな。撃ってみようか」
     天井に、不自然な出っ張りが一つ。
     念のため周囲を確認し何も装置らしきものがないことを確認した上で、銃でスナイプ。
     硬質な音が響いた後、T字路の右側で何かが開く音が。固い何かが落る音が聞こえてきた。
    「……気をつけて」
     警戒しながら歩いて行けば、右側には開いた状態の落とし穴。
     中には、落下してしまったらしい弓持ちスケルトンが三体。
    「やりましたね」
     藺生の笑顔に、灼滅者たちは頷き返す。
     即効で弓持ちスケルトンたちを撃破し、道の先が行き止まりであることを確認。
     左側の道へと移動した。
     それは、長い長い直線通路。
     ようやく曲がり角が見えてきた時、不意に、かちり……と音がなった。
    「っ!」
     上から壁が降りてくる様を前に、神宮寺・柚貴(黒影の調理師・d28225)は駆け出した。
     力を用いながら両腕を掲げ、壁をつかみとっていく。
    「俺が抑える! 今のうちに通ってや!」
     無論、と、頷き駆け抜けていく仲間たち。
     最後に気合を入れ、ぴくりとも動かさない柚貴。
     最後に有愛がくぐり抜けていく様を見守った後、仰け反るように自身も反対側へとくぐり抜けた。
     重々しい音を聞きながら、安堵の息を吐いて行く。
    「ふぅ……なんとか切り抜けられたな。この調子で、攻略していきましょ」
     頷き合い、さらなる進行を進めていく。

     上からくるものならば、間に挟まり持ち上げるように抑えれば良い。
     横からくるものならば、やはり間に挟まり押さえ込めば良い。
     しかし、下からせり上がってくるものはそうはいかない。危険が多いと、柚貴は抑えるのを諦め分断を甘受。
     仲間たちともに、合流を急ぐと結論づけた。
     侵攻側に位置する事となった謡は、前方から斧を持つスケルトンが三体やってくる様を眺めていく。
    「これはまた大勢で」
     侵攻側に位置するのは謡を含めて四名。いかにスケルトンが弱いとはいえ、奇襲できない状況では消耗は避けられない。
    「どうせ彼奴らが罠を作動させたのだと思うが、ま、関係はない。ボクも攻撃に回る、早々に打倒してしまおう」
     言葉と共に、虚空を切り裂く。
     風刃でスケルトンたちを揺さぶっていく。
     少々のダメージを負いながらも打ち倒し、治療を行いながら携帯端末を取り出した。
    「……圏外か。然らば……おーい、そっちは無事か?」
     無事、との言葉が帰ってきた。
    「ならば進んで合流をー……いや、ちと待て」
     言葉半ばにて、視線を側面に位置する壁へと向けた。
     色が変わっている石がひとつ。
     頷き合い押しこめば、せり上がっていた壁が元に戻っていく。
     合流を果たした後、瞬兵は安堵の息を吐き出した。
    「他のところも同じだといいんだけど……」
    「だな。解除できるのとできないのとではずいぶんと違う」
     紅羽・流希(挑戦者・d10975)が頷き返し、傷の治療を再開した。
     癒やしきれる分だけ癒やした後、警戒しながらの進軍を再開する。
     しばし歩いた後、右に曲がろうとしていた仲間を有愛が呼び止めた……。
    「待て、この辺りは多分……」
     京音が頷き、地図を示した。
     示された場所に描かれていたのは、四角形。
    「やはり、ここは回廊づくりになっているのか。ということは……左が正解だな」
     頷き合い、進んでいく。
     もう、ずいぶん長い時間を歩いてきた。
     スケルトンやアンデッドを倒した数も五十に届きそうな状態だ。
     故に、きっとゴールは近い。

    ●奥地に鎮座せしは
     合計すれば、三時間半ほどをダンジョン攻略に費やしていたのだろうか?
     いずれにせよ、終着点に到達したと流希は深い息を吐き出していく。
    「相当数倒した。後は、あんたで終わりだ」
     視線の先には、石造りの椅子に腰掛け豪奢な西洋甲冑をまとっている、背丈二メートルほどはありそうなスケルトン。
     スケルトンはひときわ拾いフロア内に侵入していく灼滅者たちを迎え討つかのように立ち上がり、剣と盾を引き抜いた。
     掲げるとともに甲高い音が響き渡る。
     戦いの始まりだと、流希はオーラの塊を撃ちだした。
    「幸い、消耗は最小限。落ち着いて戦えば、苦戦する事などない」
    「そうだね。もう、見回りも管理もおしまいだよ。成仏してね!」
     呼応し、京音が走りだす。
     初依頼は、札幌のゾンビに関する二年前の事件。その時解けなかった謎を、ずっと追っている。
     この戦いが解決の糸口になればと、紅蓮のオーラを纏いし刀を振るう。
     盾に受け止められるも滑らせ、柄で喉元を打ち据えた。
     されどスケルトンは揺らぐ事なく、二人を振り払う勢いで剣をふるう。
     三日月の如き斬撃が、前衛陣を切り裂いていく。
    「大丈夫、このくらいなら……!」
     すかさず瞬兵が風をまねき、刻まれし傷を治療した。
    「感謝する。さて……然らば夜毎の企み。文字通り、全てを塵に還すとしよう」
     謡はそれだけで十分と判断し、腕を肥大化させながら突貫。
     下からえぐり込むように拳を突き出し、盾を貫く衝撃でスケルトンを揺さぶった。
     攻撃は続いていく。
     最低限の治療を行いながら。
     長い時間、ダンジョンを攻略していた疲れを伺わせず。
    「俺が正面突っ込む、有愛ちゃん! 援護頼むッ!」
    「神宮寺殿! 援護する!」
     柚貴の呼びかけに呼応して、有愛が弾丸をぶっ放す。
     具足の隙間を撃ちぬかれバランスを崩したスケルトンの左腕を、柚貴の放つ黒槍による螺旋刺突が打ち砕いた!
     バランスを崩しながらも、スケルトンは柚貴に向かって剣を振り上げる。
     間に藺生が割り込み、杖を盾代わりにして受け止めた。
    「今です!」
    「おう!」
     素早く太一が背後に回り、炎を宿した拳を放つ。
     鎧を、胴体の骨を粉砕した!
     崩れゆくスケルトン。
     薄れゆく景色。
    「……で、やっぱ宝箱は無しか……だよな……」
     太一が残念そうに肩を落とす中、場所は地下鉄へと回帰して……。

    「有愛ちゃん!?」
     風景が地下鉄に戻るとともに、崩れ落ちた有愛。
     慌てた様子で柚貴が駆け寄れば、安らかな寝息が聞こえてくる。
    「……ね、眠っとるだけか……よかった……」
     胸を撫で下ろすと共に背負い、帰ろう……と仲間たちを促した。
     地上へ戻れば、うっすらと白み始めている空が見える。
    「いやはや、ジメジメした地下にいましたから、朝日が気持ち良いものですよ……。朝御飯を食べて帰りませんか……?」
     長い間ダンジョンを攻略していた披露がある。
     少しでいいから眠りたい者もいるだろう。
     否を唱える者はおらず、少し休んでいく運びとなった。
     歩く中、改めてと言った調子で流希は呟いた。
    「それにしても、この地下道に一体、何が起こっているのでしょうか……? 大きな出来事の前触れでなければ良いのですが……」
     今はまだ、何が起きているのかは解らない。
     ならば何が起きてもいいように準備を整えよう。
     そのためにも、今は休息を。体調を万全にすることもまた、大切な準備なのだから……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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