悪徳金融会社『暁ローン』の誘拐事件

    作者:相原あきと

    「ん~! んん~っっ!?」
     その日、神戸にあるとある電気会社の社長は帰宅するなり何者かに襲われ連れ去られ、気が付いた時には猿ぐつわを噛まされ、両手両足は芋虫のようにキツくテープで縛られたまま床にコロがされていた。
     そこはどこかの明るいオフィスだった。見れば自分の他に自身の妻と2人の娘達も芋虫状態でコロがされており――。
    「タムラ電気の社長さんよね? この3人はご家族で間違い無い?」
     急に降ってきた若い女性の声に視線を巡らせると、黒を基調としたゴスロリファッションに身を包んだ金髪の少女がいた。その周りには黒服の男が5人。こいつらが自分と家族を誘拐した犯人だと察し、刺激してはならないとコクリとうなずく。
    「おっけー。それじゃあ何で誘拐されたか教えてあげるね?」
     金髪の少女はそう言うと携帯でどこかに電話をかける。
    「もしもし、アマネです。準備万端です。携帯をスピーカーにしますのでその場で話してくれますか?」
    『わかった。もしもーし? これはこれはタムラ社長、初めまして』
     電話の向こうのバカにしたような声に、すぐにピンとくる。
     同時、黒服の1人が猿ぐつわを外ししゃべれるようになり、金髪の少女が掲げる携帯に向かって思わず怒鳴ってしまう。
    「貴様、暁ローンの大河田! そうか、あの工場への融資話か! 融資を撤回しろと脅迫するつもりか!?」
    『大河田? 暁ローン? はて、何の事かわかりかねますが……そのなんと言いましたか……融資? その話を撤回すると?』
     電話向こうのとぼけた声、だが状況は最悪だ。襲われたのは自宅で、この部屋は良く見れば自社のオフィスだ。壁掛け時計の時刻は深夜2時、警備員もいるはずだが誰もやって来ないところを見ると……つまり、黒服達は裏家業の輩という事だろう。そしてそれらから導き出される答えは……以後、どこに居ても自身や家族の命は危ないという事。
    「……わかった。大河田社長の言うとおり、あの工場への融資は白紙にする。だから頼む、土下座でも何でもする、家族だけは……」
    『土下座? そんなものは情に訴えるだけのくだらないパフォーマンスだ。そんな物は求めちゃいない……ただ、私の提案を断ったツケは払ってもらう。アマネくん、そいつの家族を全員、窓から投げ捨てろ』
    「なっ!?」
    『あ~あぁ、私の言うことを素直に聞いていれば、殺されずにすんだのにねぇ?』
    「やめろ! やめてくれ!!」
     黒服達が気絶している妻と娘2人を担ぎ上げ、そして――。

    「みんな、軍艦島の戦いの後、HKT六六六がゴットセブンを地方に派遣して勢力を拡大しようとしているのは知っているわよね?」
     教室の集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     今回の依頼はその中の1人、ゴッドセブンのナンバー3、本織・識音(もとおり・しきね)が、兵庫県の芦屋で勢力拡大のために起こしている事件だ。本織識音は、古巣である朱雀門学園から女子高生のヴァンパイアを呼び寄せ、神戸の財界の人物の秘書的な立場で潜りこみ、その人物の欲求を果たすべく悪事を行っているという。本織識音の狙いは、一般人の悪事に手を貸し、HKT六六六の宍戸のような一般人を探すことだろう、と珠希は言う。
    「今回の依頼は、そのヴァンパイア秘書と配下達が、とあるオフィスビルの5階で誘拐してきた一般人達を殺そうとするわ。それを……阻止してほしいの」
     配下の強化一般人は5人、さらに秘書をしているヴァンパイアが1人。
     時刻は夜の2時、オフィスビルの警備員は気絶させられているので、5階の現場までは簡単に侵入できると言う。
    「誘拐された人が、秘書が持つ携帯に向かって融資がどうこうって話をしているタイミングで突入できるわ。戦闘になったら敵は一般人の命は気にしないで戦いだすから、一般人達を速やかに救助、せめて戦場となるオフィスの部屋の外には連れ出して欲しいの」
     敵は強化一般人が5人、その5人を相手するだけでけっこう大変だと言う。さらにヴァンパイアの強さは不明。
     強化一般人の黒服の男達は、2人がクルセイドソードを持ち、もう2人が日本刀を、最後の1人は魔導書を持っていると言う。使うサイキックはそれぞれが武器サイキックに似たものと、ダンピールのサイキックに似たものだ。
    「秘書のヴァンパイアは戦闘になったら配下の強化一般人に足止めさせて、自身は逃走を優先するみたい。もちろん、逃走経路を全部潰して逃がさないようにすれば諦めて戦闘に加わるみたいだけど……」
     正直、それと一般人の救助を両方こなすのは相当難しいだろう、と珠希は呟く。
    「とにかく、あとはみんなの判断に任せるわ。よろしくね!」


    参加者
    雨谷・渓(霄隠・d01117)
    旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)
    リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)
    阿剛・桜花(今年の春もブッ飛ばす系お嬢様・d07132)
    一・威司(鉛時雨・d08891)
    椋來々・らら(恋が盲目・d11316)
    ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)
    蓬莱・金糸雀(陽だまりマジカル・d17806)

    ■リプレイ


     とあるオフィスビルの廊下を7人の灼滅者が音を立てずに早足に駆ける。
    「(何としてでも助けなきゃだわ……卑劣な企みの為に一般人を利用するなんて許される事じゃないもの)」
     心の中でそう覚悟を決めつつ蓬莱・金糸雀(陽だまりマジカル・d17806)は足下を震えながら付いてくる霊犬のサニーを見つめる。金糸雀と目が合い何かを察したサニーが一度眼を閉じ、再び開けた時にはしっかりした足取りとなる。
     皆が覚悟を決めた頃、ギリギリのタイミングで遅れていたナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)が合流する。他の者が何をしていたと追求するも「ちょっとした悪戯さ」と受け流し、到着した部屋の扉を勢い良く蹴り破る。

    『その話を撤回……おい、アマネ君、今の音は何だね?』
     手に持つ携帯からの社長の声を無視し、黒いゴスロリ服に身を包んだ金髪のヴァンパイアは部屋へ侵入してきた者達を見回す。2つの扉両方から同時に若い学生達が武器を手に突入して来たのだ。即座にアマネを守るよう剣持つ黒服2人が動き、刀を持つ2人が侵入者を迎撃しようと――。
    「ちぇすとぉぉぉ!」
     赤い甲冑の少女がシールドを展開したまま突貫し、迎撃しようとした刀の黒服を足止めする。赤い甲冑少女――阿剛・桜花(今年の春もブッ飛ばす系お嬢様・d07132)が黒服を押し返しつつ。
    「そんなナマクラ刀じゃ、私にかすり傷すら作れませんわよ!」
     と啖呵をきり、しかし自身の感覚は背後で一般人の救出に動く金糸雀と椋來々・らら(恋が盲目・d11316)の気配を感知しつつ、心の中で2人に信頼の言葉をかける。
    『何があったと聞いているんだアマネ君!』
     携帯の向こうで叫ぶ社長。
     片方のドアは破壊され扉が斜めに。もう片方には突入してきた若者のうち2人が一般人を連れて逃げようとしていた。黒服がそれを追おうとするも、アマネはそれを手で制する。
     すでにリーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)を筆頭に、灼滅者達は陣形を整えつつあった。廊下を背にし救助役を追撃できないよう壁となる。突入前の聞き耳、敵の立ち位置の予測、全体に指示を出し易くかつ即座に部屋全体のチェックを行える突入順、まるで一人軍隊かのように的確に最短ルートを進み陣を整えた結果だった。
    「運び屋ららちゃんだよー。どっこいしょーっ。てきぱき運んじゃうからねっ」
     ららが2人の一般人をつかみ。
    「絶対、殺させない……」
     金糸雀も同じく2人を確保。
    「そっちはまかせるよ!」
     壊れていない方のドアに向かいつつららが言うと、霊犬のサニーとナノナノのキャロラインが2人を援護するよう敵からの視線を遮る。
    『アマネ君!?』
    「社長、どうやら先日の工場放火を邪魔した者達のようです。タミヤ社長を連れ去られました」
     怒鳴る社長に、やっとアマネが説明する。
    「お前たちが何をしようとしているか知らない。興味もない」
    『なん……だと――』
     アマネに向けた旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)の言葉に、電話向こうの社長が反応する。
    『そこにいるのが誰か知らないが……調子に乗らない方が良い。金、権力、暴力、すべてを持つ私に逆らうのは、バカのやることだよ?』
     だが、砂蔵は社長の言葉を拒絶するかのように。
    「理由になってない。言っておく。必ず、お前たちの背後には俺達がいる。後ろには気をつけることだな」
    『………………』
    「ですって、どうします社長?」
     アマネが面白そうに携帯向こうに聞くと『ハハハ』と向こうで笑い声が聞こえ。
    『やれるもんなら、やってみな』
     プープーと電話が切れるが、同時にアマネが携帯を背後の窓に投げつける。ガシャンと窓ガラスが割れ携帯も粉々になって落下していく。
    「ったく、人間のくせに偉そうでムカつくのよね」
     パンパンと手を払い窓へと向かうアマネ。
    「ゴスロリがローン会社の社長秘書とはずいぶんと不釣り合いなことだ。とても華のある仕事のようには思えんが……その仕事は楽しいか?」
     窓から去ろうとしているアマネに一・威司(鉛時雨・d08891)が問う。
    「別にぃ? 当たれば儲けって感じだしね」
     くるりと窓際で灼滅者達の方を向き直りアマネは笑う。そして、そのまま背後に倒れるように割れた窓からビルの外へと落下し、その姿を消した。
     瞬間、動こうとしたのはナハトムジークだ。だが、窓へ近寄ろうとした彼の目の前に、剣を持つ黒服が立ち塞がる。たぶんアマネを追おうとしたと思われたのだろう。
    「ハッ、主人を守るSP気取りか? 信用されてるから玉砕覚悟って感じかね?」
     憎まれ口を叩くジークに、黒服もフッと笑い「信用では無い」と。
    「そりゃそーだ。信用してたら共闘するよね」
     笑うジークに黒服は笑みを消し。
    「違うな。お前達ごとき、始末をつけられぬようなら必要無いということだ」
     立ち塞がった黒服以外も、誰もが武器を構え戦闘態勢へと移行する。ジークも仲間達の元へとバックステップ。
    「この土地で何を企んでいるのか、宍戸の様な人物を探しどうするのか、色々気になる所ですが……」
     皆の中から一歩前に出つつ雨谷・渓(霄隠・d01117)が言う。
    「今は未だ見えぬ全貌、故にその悪意、浅い内から断ち切っておきましょうか」
     渓の言葉と共に両者が床を蹴り、そして戦いが始まる。


     最初に部屋に展開されたのは威司の除霊結界だった。
     範囲攻撃だと見抜いた前衛の黒服達が一斉に散るが、灼滅者達の狙いは違う。結界に囲われたのは魔本持ちの黒服だ。予想外のことに驚く男だが更にそこに何かが飛び込んでくる。
    「ぐああぁっ」
     思わず手で払おうとするもそれは液体でまともに被ってしまう。それは狙い違わず放った砂蔵のDESアシッド。焼けるような痛みに顔を拭う本の男だが、嫌な予感に顔から手をどけ、そして目を見開く。
     紫とも取れる光を纏いし脚が迫っていた。
     ナハトムジークの脚が紅蓮の刃となって本男の土手っ腹に叩き込まれ、男は悶絶し悲鳴を飲み込む。初撃からの流れるような見事な連携だった。
     本を持つ男が立ち上がる。
     ギュルルルとバベルブレイカーの杭を高速で回転させ、男に向かって走るは渓。
     だが。
     ガキンッ!?
     渓の一撃は割って入ってきた剣を持つ黒服に防がれる。
     一瞬力が緩みそうになる渓だが、そのまま高速回転する杭を押し込み、剣を持つ男の腹にめり込ませる。
     ザッ、切り返しが来そうなタイミングで渓が黒服の押し返してくる力を利用し距離をとる。間一髪、先ほどまで渓がいた場所を日本刀が通り過ぎる。
     だが刀使いはもう1人いたはず……意識が探そうとした所で、視界がかげる。天井付近、上空から飛び込んでくるもう1人の刀使い。避けられない。
     ガギッ!
     横から盾が差し込まれ敵の刀が弾かれる。それは桜花だった。
     桜花はそのまま体当たりし刀使いを吹き飛ばす。
    「あなた達の相手は私ですわ!」
     仲間を守る役目、敵の攻撃を引きつける役目、責任は重く、しかし桜花はそれを感じさせないよう敵の前に仁王立つ。

     戦いは灼滅者優勢でスタートした。元々、前衛が範囲攻撃でやられることを防ぐ為、本を持つ男が怒りを付与して標的を散らす役目だったのだが、最初から自らが狙われては敵側の作戦は機能不全も良い所だ。だが灼滅者側も戦線に立つ人数が2人少なくダメージの蓄積は決して少なくないのが現状だった。
     しかし。
    「サニー、護っててくれて有難う」
    「こっちは終わったよ♪」
     金糸雀とららが合流する。
     サニーが金糸雀の足下へ駆け寄り、キャロラインが今まで以上にハートを飛ばす。
     金糸雀がぎゅっと拳を握り。
    「護るため……だもの。此処からが本番よ」
     斬魔刀をくわえたサニーと共に、縛霊手を振りかぶり金糸雀が本の黒服へ突っ込む。
     それをみすみす見逃す黒服達ではない、剣を持つ男達が動こうとし。
     ターンッ!
     剣持ち2人の鼻先を掠め、ホーミングする弾丸が本男までの道を作る。
     それはらら達が戻ってくるのを察し、即座に狙撃役へシフトしたリーリャの銃弾だった。
     見事金糸雀とサニーの一撃が命中し黒服がぐらつく。
    「椋來々さん」
     リーリャの声にららがビクリとなる。
     リーリャの見立てではあと1撃、タイミング的に来たばかりだが、ららにまかせるのが最も効率が良い。
     ららは今まで都市伝説などの人外ばかり相手にして来た。だが今回は違う。敵は強化一般人、元は人間だった者達だ。
     一瞬、攻撃サイキックを持って来なければ……などと思考がブレる。だが今ここでやれるのは……。
     ハネる心臓を飲み込み、拳をぐっと握り込むと周囲に浮かぶリングスラッシャーが七つに分離、意志を持つかのように本を持つ黒服へと殺到する。
     思うところはたくさんある……だけど――。
     ドサリ、本が床に落ち、持ち主の黒服が事切れ倒れた。


     戦いは続きすでに刀使いの黒服は1人を撃破していた。もう1人の刀使いが仇討ちだと苛烈に攻撃を仕掛けてくる。その斬撃を右のクルセイドセードで受け続けるは金糸雀。ガッと鍔迫り合いとなり、華奢な金糸雀が押されつつ――ダダダッ、六文銭が刀男の顔に命中、力が緩んだ隙に左の縛霊手で脇腹を突き上げるように殴りつける。
     ズザーと床を滑るも転ばずにバランスを取る刀使いだが、滑った先に気配を感じて振り向けば、そこにはバベルブレイカーを床に打ち込もうとする渓の姿。
     ドッ、ガガガガガガガッ!
     尖烈のドグマスパイク――転ばぬよう脚を踏ん張っていた刀使いは床を伝わってくる衝撃波を回避できず直撃。
     ――既に戻れぬ身なら……。
     渓は目の前の男に同情していた。
     戦闘を長引かせ苦しませるより、早く楽になれるよう全力で……。
     ガックリと両膝を付く刀使い。
     思わず視線を落とす渓。
     だが! クワッと刀使いの目が見開かれ次の瞬間凶刀が振りかぶられる!
     ドス。
     静かな音が刀使いの胸を貫く。
     SVDの銃剣による零距離格闘術。
     トドメを刺したリーリャは何も言わず防御役の黒服へと新たに標準を合わせる。
    「すまない」
     思わず渓が口にするも。
    「私は精神異常をきたした様な者を軽蔑する。貴様は……それで良い」

     攻撃手を失った黒服達は最後の抵抗を繰り返していた。人数はともかく外傷だけなら両者似たり寄ったりだ。特に怒り付与で攻撃先を自身に集めていた桜花の傷は深い。だが、それで止まる桜花ではない。
    「まだまだ……私を倒したいなら、倍の人数は寄越しなさい!」
     魂の力が肉体を凌駕し、桜花は拳に雷を纏いつつ黒服へと殴りかかる。
     そんな桜花を必死に支えているのはららだ。帯を飛ばし桜花の止血をし、傷を癒す。さらにナノナノのハートも重ねて二重に回復する。ここまで誰一人として倒れていないのはららのフォローあって故だろう。
    「せめて一人!」
     剣を構えて黒服が走り込んでくる、狙われたのは……威司。
     威司は仲間に視線で大丈夫だと送り、サッと半身となってナイフを構える。
     目の前まで接敵され大上段に振り上げられる剣。
     しかし威司は微動だにせずただ一言――。
    「もう、動けんよ」
     果たして威司の言葉通り、男が大上段の構えのままマヒし動きを止める。
     男はすでにマヒまみれだった。仲間と自身がつけたマヒを威司が最大限ジグザグで累積させていたからだ。
     ズザシュッ!
     何度目かのジグザグスラッシュで男を斬りつける威司。この黒服はもう殆ど活動できないだろう。しかし――。
     ドサッ。
    「すまない、トドメになってしまったようだな」
     威司の呟きを、事切れた男が聞く事はなかった。

    「なぜだ、なぜ俺たちの邪魔をする!」
     最後に残った黒服が叫ぶ。
     ザッとその前に立つは砂蔵。
    「なぜ……か。別にお前達の目論見も、お前達の上役の考えることも、どれもこれも大した『理由になっていない』」
    「なに……?」
     スッと人差し指と中指を揃えたまま宙に十字を切る。
    「俺にとってはどれもくだらん。ただお前たちがダークネスである事、それだけが俺の『理由』に……値する」
     言葉を言い終えると同時、黒服を赤き逆十字が切り裂く。
    「ぐ……はっ」
     致命傷をくらい血反吐を吐く黒服。
     そのまま膝を折って前のめりに倒れそうになる……所を、ガッと後ろ襟を捕まれる。
    「トドメは派手にいくぜ!」
     襟を掴んだナハトムジークが、黒服を割れた窓に向けて投げ捨て、同時に自身も床を蹴り窓から飛び出す。
     バッ!
     落下する黒服に、重力すら力に加えたジークの蹴りが叩き込まれ、さらに加速し大地に叩きつけられる黒服。
     自身はエアライドを使用しつつ、黒服が小さなクレーターを作り死亡したのをジークは確認したのだった。


    「全員無事救出できて、一件落着ですわね♪」
     殲術道具の銃を淡々とカードに戻していたリーリャの側に寄り桜花が嬉しそうに言う。
    「邪魔な存在は排除する……ただ、それだけ、です」
     リーリャの呟きに、横で聞いていた砂蔵もコクリと頷くも。
    「そうですわね! そして一般人も助け、私たちも全員無事! 最高ですわ!」
     リーリャの台詞を是と受け取ったのか、桜花が嬉しそうにはしゃぐ。
     一方、廊下にて縛られていた一般人を介抱するは威司達だ。
     相手が安心するよう立ち居振る舞いに心がけつつ、ESPクリーニングで衣服をきれいにしてくれた威司に、タミヤ社長達は驚きつつも感謝を告げる。
    「苦しい思いをさせてすみません、もう大丈夫ですよ」
     大人びた渓が落ち着いた声音で言うと。
     お互い抱き合い、家族達が生きている事を喜びあう。
     その後、威司や渓が暁ローンや大河田社長、融資先の工場について質問するが、ネット等で後で調べれば普通に見つけられそうな情報だった。
    「悪い人をそのままになんて絶対しておかないから、困ってる工場の人を見捨てないであげてね」
     と、ららが最後に言い、灼滅者達はビルを後にする。
    「5つの都市で暗躍するHKT……不明な事は多いですが、一般人の被害を阻止するべくやれる限りの事をするしかありませんね」
     ビルの玄関まで降りて来つつ渓が言う。
    「吸血鬼は後で必ず倒す……」
     金糸雀が呟き他の仲間達も無言で肯定する。
     と、戦闘後にビルから落ちて姿を眩ましていたナハトムジークが合流しニヤリと笑う。
    「まぁ、その為の情報収集は多少なりとも、ね」
     皆の視線がジークに集まる。
     それはアマネの能力についてだった、ジークはあの時アマネの得意不得意の能力をサイキックを放つふりをし探ったという。その結果、あの外見からは予想外に闘志や闘気が高く――つまり気魄特化型――だったと言うのだ。
    「ならば……次に見つけられれば」
    「ああ、次こそ殺れるかもな」
     砂蔵の言葉にジークが笑う。
     この世界はダークネスに支配されている。
     だが、灼滅者達も負けっぱなしというわけではない。
     悪徳金融会社『暁ローン』、その首元へ……灼滅者達の手は迫りつつあるのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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