金こそ正義

    作者:天木一

     高層ビルの一室で、大きな硝子窓から男が下界を見下ろしていた。
    「ふ~。なあじぶん、借りたもんは返す。あたりまえの事やと思わんか?」
     背は低めだが恰幅の良い男がタバコに火を点けて一服すると、隣に立つ年若い美人の秘書に話しかける。
    「はい、当たり前の事だと思います」
     秘書は表情を変えずに頷き返す。短めに切りそろえた髪に真紅の瞳。何の感情も見せぬ姿がまるで人形のようにも見えた。
    「そうや、あたりまえや。でもそれを守らん奴がぎょーさんおる。そんな奴から金を剥がすのは悪い事やない。正しいことや。そうやろ?」
    「そうかもしれませんね」
     秘書は変わらずに相槌を打つ。 
    「借りた金は返さなあかん。たとえ死んでまうことになったとしてもな。……だがそんな奴を守ろうとするアホな奴もおる」
     男が手元の資料に目を落とす。そこには若い警察官の顔写真とプロフィールが載っていた。
    「お上には鼻薬が効いとるが、たまーにはねっ返りがおるもんや。正義っちゅーもんを勘違いしとる。正しいか正しくないか、資本主義ではそれは銭が決めるんや。銭こそが正義っちゅーわけやな」
    「そうですか」
     手渡された資料を秘書は無表情のまま受け取る。
    「だからいつものな、よろしく頼むわ」
    「承知しました。すぐに部下を派遣します……それと社長、ここは禁煙ですよ」
     目を細め嫌悪の感情を込めて秘書が冷たい視線を送る。
    「か~っ、何処も彼処も禁煙禁煙! まったく住みづらい世の中やで!」
     文句を言いながらも、男は携帯灰皿にタバコを押し付けた。
     
    「やあ、軍艦島の戦いの後、HKT六六六に動きが活発になってるよね」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が集まった灼滅者に話を始める。
    「ゴッドセブンのナンバー3、本織・識音が、兵庫県の芦屋で勢力を拡大しようとしてるみたいでね」
     識音は古巣である朱雀門学園から女子高生のヴァンパイアを呼び、神戸の財界を支配下においているようだ。
    「財界の人物は一般人なんだけど、秘書になったヴァンパイアの力を借りて悪事を行なっているみたいなんだよ。みんなにはそれを阻止してもらいたいんだ」
     ダークネスの力で悪事を働かれれば、一般人にはどうする事も出来ない。
    「財界の人物の名は善財正一。金融業の社長をメインに手広い商売をしているみたいだね」
     本人は直接的な指示はせず、秘書のヴァンパイアが察して動くという形式をとっているようだ。
    「今回は自分を嗅ぎ回る警察官を始末しようとしているようだね。休日に家族サービスで食事に出かけたところを襲われるんだ。たちが悪い事に、警察官を狙ったものと思わせないよう、店に居る人々も巻き込まれて殺されてしまうんだよ」
     襲われる場所は夜のファミリーレストラン。警察官本人だけでなく、妻と子、そして周囲の人々も狙われる。
    「実働部隊はヴァンパイアの部下の強化一般人達だよ。彼等を迎え撃ち、できるだけ被害が出ないように倒して欲しい」
     強化一般人だけとはいえ、10名の敵が動員されている。気を配らなくては犠牲者が出る可能性が高いだろう。
    「私利私欲の為に行なうこんな非道を見過ごす事は出来ないからね。みんなの力で敵の思惑を潰して来て欲しい。お願いするね」
     誠一郎の言葉に頷き、灼滅者達は人々を守ってみせると現場へ向かった。


    参加者
    六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    織部・京(紡ぐ者・d02233)
    榊・拳虎(未完成の拳・d20228)
    糸木乃・仙(蜃景・d22759)
    水無瀬・涼太(狂奔・d31160)
    谷良・奈衣子(紅月花・d32086)
    御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)

    ■リプレイ

    ●家族
     休日のファミレスは大勢の客で賑わっていた。家族連れも多く皆が楽しそうに食事をしている。
    「私利私欲……つか金か。んなモンのために恨みもねェニンゲン皆殺したァ恐れ入る。どっちがダークネスなんだかわかりゃしねェな」
     呆れ果てたよう溜息を吐く水無瀬・涼太(狂奔・d31160)は、客として店に入り注文をした後、店内を見渡す。真面目そうな父親と優しそうな母親に囲まれ、小さな女の子が嬉しそうにハンバーグを口に運ぶ家族の姿を確認すると、携帯を取り出して仲間に連絡を入れる。
    「ヴァンプがまた面倒なことを始めたっすね。思い通りに行くと思ったら大間違いだって、分からせないといけないっすね」
     闇を纏い一般人の視界から外れたギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は、店頭で入る人の邪魔になるようにメニューサンプルを眺めながら敵を待つ。
    「もぉー今日は今入ってるお客さん以外ファミレス入れないんだってー」
     電話をする織部・京(紡ぐ者・d02233)は擦れ違う人の隣でそんな会話をし、嘘の情報で道行く人がファミレスへ向かうのを出来るだけ阻止しようとする。
     店内の涼太から連絡を受けた灼滅者達は、一般人を遠ざけようと清掃員の格好をしてファミレスへの道を塞ごうと行動を開始する。
    「すみません。現在清掃中で立ち入り禁止です」
     ファミレスへ向かって来る人に糸木乃・仙(蜃景・d22759)が丁寧に頭を下げ、他の場所へと誘導する。
    「本織識音とは絶対に相容れませんね。宿敵である吸血鬼だからだけではなく、お金の為なら殺しも容易に行える人に付くという精神性も」
     表情は穏やかながらも非道を行なう敵に対して胸に怒りを募らせ、これ以上店内の人数が増えぬよう、六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)が周囲を窺う。
    「この金貸し、名が体を表さないこと甚だしいっすね。むしろ下手なダークネスより余程闇堕ちしてるっすわ」
     担いだコーンを設置していく榊・拳虎(未完成の拳・d20228)は、性質の悪い人間の存在に向け毒を吐く。
    「ホントならこの金貸しを殴りたいトコっすが、まずは目の前の惨劇を食い止めてから、っすね」
     そう言って心を切り替え、目の前の作業に集中しだした。
    「犠牲者が出ないようがんばりましょう」
     壁に迂回ルートの地図を張った谷良・奈衣子(紅月花・d32086)が、気合十分とばかりに発する覇気が立ち入り禁止を無視しようとした周囲の人を威圧する。
    「この店だな、目標が入ったのは」
    「ああ、確認した。間違いない」
     暫くするとファミレスでは浮きそうなスーツ姿の男達の集団が邪魔なコーンを蹴飛ばして店の前に近づき、店の前に立って邪魔になっているギィに向かって話しかける。
    「おい、邪魔だ。そこをどけ」
    「申し訳ないっす。邪魔しちゃったみたいっすね」
     謝り道を譲りながらギィはカードを手にした。
    「殲具解放」
     そして手に現われた巨大な剣を振り抜く。先頭を歩いていた敵は不意打ちを食らって吹っ飛んだ。
    「な?!」
    「何だお前は!」
     男達は慌てて懐から武器を取り出して構える。
    「来たようだな。ならば我が力を見せよう」
     隠れていた御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)が姿を現し、禁帯出の白紙本を手にすると、男達に向けて力を発動する。
    「黄なる印よ、災厄を退けよ!」
     黄色の注意標識のマークが仲間に力を宿しその身の耐性を上げる。
    「戦いのは準備できました」
     静香が音を封じる結界を張り、灼滅者達は一斉に男達に向かっていく。

    ●暗殺部隊
    「お金が一番も一つの生き方でしょうが……。命を、それも無関係な人まで巻き込む奴らに遠慮はしない」
     京が敵を包み込むように殺気を放つ。どす黒い殺意に襲われて男達は怯んだ。
    「わたしは行くよ……けいちゃん」
     その言葉と共に京の表情が獲物を狙う者へと変わる。
    「くそっどっかの組織の回し者か? それとも以前殺った奴の関係者か? まあいい、邪魔をするなら殺るだけだ。皆殺しにするぞ!」
     反撃とばかりに男達が銃口を向け発砲してくる。
    「金返せと言って、代わりに命持って行くのは高利だろ。どうして自分の違法行為まで正当化できるんだろ」
     その思考回路が理解できないと首を傾げ、仙は盾を構えて銃弾を受け止める。そして反対に突っ込むと盾ごと敵に体当たりして吹っ飛ばした。
    「闇の力に溺れた小物のやりそうなことっすが……このやり口は真っ黒っすわ」
     青いボクサースタイルとなった拳虎が敵の行く手を塞ぐ。
    「悪いけど、手前ら相手に手加減する理由はないっすよ。おとなしく、ぶち抜かれとけっ!!」
     襲い来るナイフを紙一重で避けると、カウンターに放つストレートが顔面を捉えて意識を寸断させた。
    「おい! こいつら手強いぞ! 獲物だけでも先に片しとけ!」
    「おう!」
     男達が銃弾で援護する中、1人が店のドアを潜る。だがその瞬間男は顔面を殴られてよろけ、そこに店から飛び出してきたライドキャリバーに撥ね飛ばされて外へと転がる。
    「悪いが、店はもう満席だ。お帰りねがうぜ」
     続いて店から出てきたのは拳にオーラを纏わせた涼太だった。
    「有象無象が私達に敵うと思います?」
     奈衣子が見せつけるように鋭い左右のワンツーを繰り出す。
    「やれ! 誰であろうと邪魔する奴はぶっ殺せ!」
     男達がナイフを持って斬り掛かる。
    「それはこっちの台詞、全員ぶっころです!」
     間合いの外からオーラを纏った拳を打つ。すると拳に宿ったオーラの塊が撃ち出されて向かってきた敵の胸を直撃した。
    「闇に囚われし者は闇に囚われし者同士で戦っていればいい。力なき者へとその牙を向けるならば、このタタリガミの力にて妨害しよう」
     百々の持つ本の白紙のページが勝手に捲られ、文字が浮かび上がる。すると男達の周囲に結界が張り巡らされて動きを阻害した。
    「さあ、吸血鬼に膝を折った皆さん……黄昏の夢に裂かれてくださいな?」
     そこへ静香が赤い黄昏色のショールを翼のように広げる。包み込まれた敵は締め上げられて地面に転がった。
    「命は金で買える。その通りっす。金がなければ高度な医療を受けることもできなければ、身売りする羽目にもなる。そして自分の命は、お前らが束になっても贖えないんだよ、ヴァンプの狗ども。どうせなら本織でも連れてこいよ」
     侮蔑するように倒れた敵に冷たく見下ろしたギィが、炎を宿した大剣を逆手に持つ。
    「まあ今は、面見せた全員、刈り尽くす。覚悟を決めろ」
    「ぎゃぁあ!」
     剣を突き立てられた男は炎に巻かれて力尽きる。
    「それ以上やらせるな!」
    「援護しろ!」
     銃弾が飛び交い灼滅者達の足を止めたところで、縛られた仲間をナイフで解放して回る。
    「本当の標的はたった一家族なのに……十人もぞろぞろとご苦労な事だな!」
     その男の頭部を京が放ったオーラの塊が撃ち抜く。
    「寝てろ」
     ふらりとよろけた男に、涼太が雷を纏った拳で殴りつけた。顔を変形させながら男は地面に倒れる。
    「目的を忘れるな! そいつをぶっ殺して中に突っ込め!」
     男達が銃を乱射しながら突っ込んでくる。
    「強化一般人て軍艦島にも沢山居たね。強化されなくても人の命を奪う人間も多いけど」
     その前に割り込んだ仙が立ち塞がり、魔導書を開く。男達に原罪の紋章を刻み、その心を暴走させた。
    「てめぇ死ネ!」
    「殺せ殺セェエ!」
     暴走した男達が目標を変え、仙を狙って襲い掛かって来た。
    「自分で人生を捨てた人たちから、人生を頑張ってる人たちは守らなきゃ」
     盾を構えて受け止める、防ぎ切れなかったナイフで体を刺されながらも怯まずに男達の注意を引き付ける。
    「先に俺らを倒さないと、中の人には指一本触れられないっすよ!」
     敵の横に回った拳虎の拳がこめかみを打ち抜き、ふらついたところへ打ち下ろすような一撃を加えて昏倒させる。
    「隙だらけですよ!」
     続いて奈衣子が銃を撃つ敵に向け、魔力の光線を放ち腕を貫く。
    「このアマ!」
     体当たりするようにナイフを構えた男が突っ込んでくる。だがその前にマッチョな体をしたビハインドの谷良内夫がボディビルのポージングを決めて割り込み、体で攻撃を受け止めた。
    「心と愛を忘れた闇の化け物。そしてそのスレイヴ」
     その背後から静香の振るう刀が首を切り落とし、刃を真紅に染める。
    「斬闇崩闇――黄昏の願い、ここにありと」
     静香はそっと服の上からロザリオに触った。
    「本当に数だけの有象無象だな。そのような者につけられた傷ならばすぐに消える」
     百々の言霊が仲間の受けたダメージを無かったように消して癒していく。
    「1人ずつ確実に仕留めていくっすよ」
     踏み込んだギィが大剣を薙ぎ払い、巻き込まれた敵の胴体が半分ほど千切れてのたうつ。そこに止めの刃を振り下ろした。

    ●攻防
    「何だこれは、これほどやられるとは。このままだと任務を達成できん。おい! 何人犠牲になっても構わん! 何としても目標を殺せ! 失敗したら美春様に顔向けできんぞ!」
     半数に人数を減らした男達が殺気立ち、決死の覚悟で武器を構える。
    「あんたら、中のおまわりさんが目当てなんだろ? わたし達をさっさと倒したら後は簡単に殺せますよ?」
     京が挑発するように凶暴な笑みを浮かべる。
    「こいつ!」
    「相手にするな! 突っ込め!」
     一斉に男達がファミレスへ向かって突進を始める。
    「絶対にここは通しません! やらせはしない!」
     表情をころころ変える京が影の刃で先頭の男を貫く。
    「止まるな! 押し通れ!」
    「通すわけねェだろうが」
     前を塞ぐ涼太が結界を張り、キャリバーが機銃を撃ち込む。だが攻撃を受けながらも敵は足を止めずに突っ込んでくる。その内の1人が大きな窓ガラスを突き破ろうと地面を蹴ろうとした。
    「させると思います?」
     跳躍しようとした敵の足に奈衣子の影が巻きつき転ばせ、谷良内夫が窓を塞ぐようにポーズを決める。
    「小娘に使われた挙句、数でも劣る子供集団にさえ束で敵わないなんて笑っちゃうよね」
     仙が盾を構えて入り口を塞ぐ。撃ち込まれる銃弾を防ぎ、突き出されるナイフをオーラを纏った腕で払う。
    「ほら自分たち相手に実力見せてみなよ」
     余裕を見せるように仙は盾を振って敵の注意を引く。
    「動きを止めろ!」
     銃弾の雨が仙を襲う。その間に敵の1人が通り抜けようと駆け出す。だが横から現われた拳虎の体とぶつかって止まる。
    「邪魔するな!」
     男はナイフを振り下ろそうとするが、拳虎が肩から密着して腕を押し退けた。
    「同じ力を持っていても、こっちは人間にしがみついてるっすからね。徹底的に邪魔するっすよ」
     地面を踏みしめ、上半身を捻り掬い上げるような右ボディブローを叩き込む。くの字に男の体が浮き上がった。そこへ左のフックが顎を捉え男の意識を断つ。
    「くそっ怯むな!」
    「一気に行くぞ!」
     特攻するように男達はナイフを持って迫る。
    「どけどけぇ!」
     ナイフを振り回す腕がぼとりと地面に転がった。
    「なぁ?! 俺の腕……」
    「黄昏の剣光ある限り、決して貴方たちの凶手は届かないと知りなさい」
     舞うように刀を振るう静香は穏やかな微笑を見せる。だがその瞳には殺意の光が宿っていた。
    「ひっ」
    「逃がさないっすよ」
     腕を失い逃げようとする男の目の前にはギィが立ち塞がっていた。振り下ろす刃が男を両断する。
    「我が身に灯る魂よ、蒼き炎となって敵を凍てつかせよ!」
     敵の眼前に百々が冷たい炎を薙ぎ払うと、反射的に敵は回避行動を取ろうとして動きに迷いができる。そこへキャリバーが突っ込んで足を止めさせる。
    「店の前で暴れるんじゃねェ。迷惑だろうが!」
     涼太が縛霊手を展開して結界を張り、男達の動きを止めた。
    「蜂の巣です!」
     そこに奈衣子がガトリングガンの銃口を向ける。引き金を引き、無数の銃弾を敵に浴びせる。
    「突破だ! ここまで来て戻れはしない! 突破しろ!」
     敵は銃弾を浴びながらも先頭を走る男が盾となって走ってくる。
    「わたしの、あたしの影はお前らごときで消えやしない! 影ごと朽ち果てろ!」
     まるで二人の人間が喋っているように京は声を上げ、人型となった影が敵を迎え撃つ。
    「どけっ」
     男が振り下ろすナイフを影が受け止め、逆に押し返して切りつける。
    「うおお!」
     その背後から仲間を抜いて男が駆け抜けようとする。
    「行かせはしない」
     前を塞ぐように百々が張った結界に引っかかった敵の動きが止まる。
    「人である事を捨てた人たちじゃあ、所詮この程度だよね」
     その隙に仙は盾で敵の突進を阻み、体重を乗せてタックルするように敵を吹き飛ばした。
    「俺が防ぐ、行け!」
     残った男の内1人が銃を構えて壁となり、もう1人を進ませる。
    「それで俺を止めるつもりか?」
     銃弾をステップで避けながら踏み込んだ拳虎がパンチを放つ。拳は避けようとした男の顎を掠めた。
    「死ねぇ!」
     男は銃口を向けようとする。だが銃口が定まらない。掠めた拳が男の脳を揺らして平衡感覚を失わせていた。拳虎の左ジャブが顔面を打ち、続けての右ストレートが首をもぐような勢いで顔に突き刺さった。
    「ぶべっ」
     顔を凹ませて男は絶命した。
    「残りは1人っす。さあ、燃えて尽きろ」
     ギィが炎を纏った大剣を振り抜く。男が受け止めようと構えたナイフを断ち、肩から腕を斬り落とした。
    「ぐあああああ!」
     男が逃げようと振り向いた先には、刀を振り上げる静香の姿があった。
    「黄昏の闇に沈みなさい」
     振り下ろされる真紅の剣閃が命を絶ち切った。

    ●護ったもの
    「これで一先ずは事件解決です」
     奈衣子は手早く設置した道具を回収していく。
    「好き勝手に人の命を奪ってきたんだから、自分たちの命を奪われる覚悟もしておかないとね」
     後片付けを終えた仙は、路地裏で敵の亡骸を見下ろした。
    「末端を倒したが、根本的な対処には核を潰す必要があるか」
     事件の根本的な解決には時間が掛かりそうだと百々は呟いた。
    「下っ端を倒しただけじゃまた同じような事がありそうっすけど、何度だってこの拳で殴り倒してやるっすよ」
     敵をイメージした拳虎が鋭くストレートを放ち、その虚像を打ち砕く。
    「善財とかいうおっさん、分かってないっすね。正義は勝者が決めることっす。バベルの鎖が関わらない悪事を暴かれて、逮捕されればいいんすよ」
     ギィは今は手の届かない相手に向かって悪態を吐き捨てる。
    「いつかこの刃を届かせましょう」
     穏やかに、だが強い意思を込めて静香は刀に触れた。
    「ま、それでもあの笑顔を護れたんだ。今回はそれでいいさ」
     涼太の視線の先には両親を見上げ、口元を汚しながらも楽しそうに笑う子供の姿があった。
    「護れて良かった……」
     京もそんな幸せそうな家族を見てほっと息を吐くと、仲間達も頷き。優しい笑みを浮かべて現場を後にした。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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