桜のお茶会

    作者:天木一

     教室の窓からの景色は灰色。空からは雨粒が降り注ぎ硝子を叩いていく。
    「もう桜も終わりか……」
     ぼんやりと貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)が外を眺めていると、そこへ能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)がやってきた。
    「何か見えるの?」
    「ん、ああ。もう桜が散ってしまったなと」
     イルマの視線の先には、もう殆ど花びらの残っていない桜の木が雨にうたれていた。散った桜の淡いピンク色だけが灰色の世界でも色付いている。
    「あー、今年は早かったねぇ。雨が続いたもんね。こればっかりは天気次第だからしょうがないよ」
     誠一郎はそう言いながら袋から取り出したサンドイッチを齧った。
    「うむ、ただ今年は花見に行けなかったのが残念だと思ってな」
    「去年はみんなで遊びにいったからねぇ。今年は雨が続いて行く機会が無かったし……」
     ふーむと、サンドイッチを咥えたまま誠一郎が腕を組み、何事かを考える。
    「それなら気分だけでも味わったらどうかな」
    「気分?」
     ひょいっと残ったサンドイッチを一口で食べてしまった誠一郎を、イルマは何の事かと首を傾げて見上げる。
    「本物の桜が見れないなら、それに代わるものを用意すればいいんだよ。桜を使ったお菓子を作ってみたら楽しそうじゃない?」
    「お菓子か……それは楽しいかもしれないな」
     桜の季節になれば和菓子から洋菓子まで、さまざまな淡いピンク色のお菓子が店頭に並ぶのをよく目にする。それを思い出してイルマは目を輝かせた。
    「だよね。他の人も誘って色々なお菓子を並べれば、きっと花見気分を味わえるよ」
    「うむ、いい考えだ。満開のお菓子達でお茶会としよう!」
     雨の憂鬱さなど吹き飛ばすように、イルマは元気に笑顔をみせた。


    ■リプレイ

    ●曇り空
     分厚い雲から雨がぱらつく中、休日だというのに調理実習室に大勢の人々が集まっていた。
    「今日はあいにくの天気だが、雨にも散らぬ満開の桜を作り、お花見といこう」
     テーブルの上には調理道具や材料が並び、イルマが開始を告げると賑やかに桜のお菓子作りが始まる。
    「僕達は桜餅だねぇ、ちゃんとレシピを調べてきたよ」
     レシピと見比べながら誠一郎が必要な材料を並べていく。
    「花見ができなかった分もたくさんの桜のお菓子を作ろう」
    「今年はあっという間に散っちゃったもんねぇ」
     イルマの言葉に千巻はうんうんと頷き、材料を準備する。
    「イルマさん、こんにちはー。今回もお誘いに乗ってきましたよ」
    「今日もよろしく頼む」
     紅緋とイルマがぺこりと挨拶し合う。
    「さて、今週(?)も始まりました『イルマ・ズ・キッチン』今回は桜を使ったお菓子に挑戦、果たしてどんな料理ができるのか?」
     ヴァイスはナレーター口調で作業を始めたイルマに悪戯っぽく笑いかけた。
    「美味しい和菓子にするつもりだ。完成を楽しみにしていてくれ」
     イルマはぐっと親指を立てて笑い返した。
    「和菓子は難しそうだし、桜の花びらかたどったクッキーにしてみようかな」
     それらを見ながら殊亜は桜型の型を探す。
    「甘くておいしいお菓子祭り、これは参加せななぁ」
     乃麻は瞳をキラキラさせて粽作りに取り掛かる。
    「桜色を使ったお菓子ですか……桜餅はありきたりですし……。ここは無難に桜色マカロンを作ってみましょうかねぇ……」
     何を作ろうかと周りを見ていた流希が白と桜色の2種類のマカロン作りを始める。
    「この二つがあれば、和菓子も洋菓子もどちらでも作れるはずだよ。作りたいものがあれば、手伝えるから言ってね」
     勇弥が用意しておいた桜の花弁のフリーズドライとシロップを置く。
    「さすがはとりさん、用意いいね」
     さくらえは並べられていく材料を見てワクワクしたように笑みを浮かべる。
    「ウチ和菓子も洋菓子も好きぃ~」
     清もこれから作るお菓子を想像して目をキラキラさせた。
    「そうだなぁ、塩漬けにした桜の花びらを中に入れたゼリーを作ってみようかなぁ」
    「私は桜餡を使ったお饅頭を作ろうと思います」
     材料から必要な物を手にした匡に続いて、昭乃も材料を選んでいく。
    「あんまり天気良くないみたいだけど、今日はヨロシクね?」
    「こちらこそ、よろしくね」
     システィナと光莉は挨拶を交わし窓から薄暗い空を見上げる。
    「雨の桜は、綺麗だけれど、悲しいわ。あの日も、雨が降っていて、桜が散っていったのよ」
     過去の記憶に顔を曇らせる光莉の頭をそっと撫でる。
    「そだ祈莉が食べれるかわかんないけど、祈莉の分も一緒に作って食べようか? 3人でお茶しよう?」
     システィナの優しい言葉に、光莉は微笑んで頷いた。
    「春色の、お菓子。……とっても、素敵な響き、ですね。……どんな、お菓子が、並ぶのか、楽しみ、です」
    「きっと可愛いお菓子が並ぶに違いないです……!」
     蒼と桜は色々なパステルカラーのお菓子を想像して楽しそうに顔を見合わせ、自分達もとケーキ作りを開始する。

    ●桜作り
    「小さいけど桜の木だよー!」
     アッシュが小型桜の木帽子を被せた霊犬のミックを連れてきた。それを見てそうだと思いついたるいも霊犬のテクテクに桜柄の帽子を被せる。
    「ちょっと女の子っぽいかな?」
     一歩離れて見下ろし首を傾げるが、テクテクが大喜びする様子にまぁいっかと笑みを浮かべた。
    「春か……うむ」
     朋はそんな霊犬達を見てしみじみと頷きながらも、手は休めずに米粉をこねる。
    「桜餡って、白餡に桜の花びらを入れればいいんだっけ?」
     尋ねて試行錯誤しながら登は餡団子の桜餡版を作ろうと、白餡と桜の花びらを混ぜていく。
    「わふぅっ」
     その横で犬の姿をした勇狗が完成はまだかと待ちきれないように尻尾を振った。
    「聖也くん、まずはこし餡を丸めましょう。みんなに食べてほしいので、50個ぐらいでしょうか……」
    「えっ、皆に食べてほしいにしても50個はちょっと多い気が……でも、やれるとこまでやってみるです!」
     大量に作ったこし餡を前にした飛鳥の言葉に、聖也は驚きながらも腕まくりして作業に取り掛かる。
    「ウチのケーキが上手くできたら、ちょっとずつ交換して食べない?」
    「それは素敵ですね、ぜひそうしましょう」
     シフォンケーキを作る清の言葉に、桜餡の饅頭を作っていた昭乃が嬉しそうに頷いた。
    「ワタシはあんまり器用じゃないから、みんなの出来上がり楽しみに見学で……」
    「さくら、サボるな、男子なら生地の撹拌手伝えっ」
     サボろうとしたさくらえに勇弥が泡だて器を押しつける。
    「ち、あわ良くば食べ専で行く計画だったのに」
    「あ、攪拌作業、俺も手伝うよー。他にも何か手伝えることあったら、遠慮なく言ってね」
     悪戯っぽい顔で笑いながらさくらえが手伝いを始めると、匡も隣にやってくる。
    「OchaKai」
     人がお茶会とは何たるかをお芝居のように語り出す。
    「おいしいお菓子はもちろんだけど、それだけじゃなんだか足りないよね? そう……お茶会のお茶会たるゆえん。お茶がね!!」
    「ふひぃーーー腕が疲れたー。ジンたんこれ混ぜるの手伝ってーっ!」
     ポーズを決める人に小麦粉を混ぜていたオリキアが呼びかけると、正気に戻ったように人ははーいと返事をして道具を受け取った。
    「クッキーは可愛く花びら状に。……なにかな、似合わないとか思ってる?」
     悠の作業に忍が見蕩れていると、悠が振り向いた。
    「そんな事はないですよ? 悠さんがとっても可愛いのは僕は良く知っているつもりです」
     忍は慌てて首をぷるぷると振って言い繕う。
    「ふふ、僕も乙女の端くれだって、忍くんは知ってるものね?」
     微笑む悠に忍は赤くなることで返答した。

    ●花咲く桜色
     それぞれのテーブルに桜色が鮮やかに色付き始める。
    「……後は、飾りつけ、ですね」
    「あ、わたしも飾りつけお手伝いするのです」
     蒼がスポンジの全体にクリームを綺麗に塗り終えると、それならわたしも出来ると桜が苺を手に取った。
    「イルマさんは桜餅を作られているのですか?」
    「うむ、桜餅がやはり基本かと思ったのだが、なかなか難しいな」
     絶奈の質問に、こし餡を作ろうと粒餡を濾しているイルマが汗を拭って答えた。
    「私は先日食べる機会があって気に入った桜ケーキに挑戦してみようと思っています」
    「桜のケーキは食べた事がないな」
    「でしたら後で交換しましょう」
     約束して2人は懸命に作業を続ける。
    「ここで持ち込みの桜ペースト! を混ぜて色を薄い桜色にしてっと」
     乃麻の作る粽がみるみるうちに色付いていく。
    「ちょっと焼きすぎたかなー……普段やらないと早々うまくできないね」
    「私はこれぐらいでも平気ー」
     殊亜の焼き上げたばかりの桜型クッキーを千巻はおいしいおいしいと味見する。
    「うん、僕も平気だよぉ」
     その横にはいつの間にか、匂いに釣られてやって来た誠一郎がクッキーを摘み食いしていた。
    「和菓子は意外と難しいものだな……」
     餡子が飛び出ている桜餅を前にイルマは汗を拭った。
    「こう、甘いものが多いと……。あ、そういえば、去年作った桜の塩漬けがありましたっけ……?」
     マカロンを完成させた流希は、飲み物も用意しようと準備を始めた。
    「生地をのばしてこし餡を包む……は、はみだした。桜の葉で隠せばわかりません! ここ、結構重要ですよ」
     葉で誤魔化した飛鳥がウインクすると、聖也はなるほどと真似して葉を巻きつける。
    「私もちょっとはみ出したりしたけど完成なのです! もうお腹もすいたし食べましょ!」
    「では早速試食しましょう!」
     聖也は飛鳥は一面に並んだ桜餅を手に取り、一緒に齧りついた。

    ●お茶会
    「さ、皆さん、お茶が入りましたよ。好きに持っていってください」
     紅緋が皆の分の桜ほうじ茶を用意した。ほのかな桜の香りが立ち昇り室内に漂う。
    「さぁお茶会やー! もう狼尻尾ぶんぶん振って我慢も限界やで」
     お茶を受け取った乃麻はテーブルに並ぶ桜色のお菓子に瞳を輝かせる。洋菓子から和菓子まで、様々な桜色のお菓子の花が咲き乱れていた。
    「ありがとう、よかったら桜餅を食べてくれ」
    「ええ、いただきます」
     お茶と交換にイルマは紅緋に桜餅を渡し、テーブル一杯の桜色を花に見立てたお茶会が始まった。
    「わぁい、完成しました……!」
     ケーキに最後の飾り付けをした桜が目を輝かせる。
    「……なんだか、食べるのが、少し、勿体ない、ですね」
     完成した桜色のショートケーキを蒼がじーっと眺める。
    「もったいないですが、食べないともっともったいないのです……!」
    「そう、ですね」
     2人は同時に小さな口を開けてケーキを頬張った。その顔がみるみるうちに花咲くような笑顔となる。
    「天気が悪くてお花見できないのは残念だけど、こうしてお茶会できゃきゃうふふするのもまたいいね」
     雨空を見ていた紅葉が振り向き、机に咲く桜色の菓子を見て微笑む。そして桜餡入りの薄いピンクのパウンドケーキを切り分けた。
    「これでいいのかしら、ちゃんと出来てる?」
     自信無さそうに影薙は杏仁豆腐を取り出すと、上手に固まっているのを見てほっと息を吐く。
    「あたしはフィナンシュ作ったのー♪ えっへん!」
    「わたしはクッキーを焼いたよ!」
     胸を張った向日葵が焼き菓子を、アリスが桜や兎に梅の花といったピンク色の可愛いクッキーを見せる。
    「うんうんっ、なんとなくそれらしく出来たね!」
    「じゃーん……2人で作った桜餅、です♪」
     シキナとたまきがおはぎ型の桜餅を見せびらかすように桜餅を置く。
    「桜餅はわしも大好きじゃ! はんごろしに粒餡の道明寺が良いのぉ」
     それを嬉しそうに見ながらセーシァが作った水羊羹を並べる。
    「よければこれを」
     虚が桜の葉と黒豆の寒天をそっと差し出し、美味しそうに食べる仲間の輪に加わる。
    「私は苺豆乳を作りました。お菓子と言うより飲み物ですねー」
     椎菜はピンクの液体が入ったグラスを人数分並べた。
    「しかし、見事に桜尽くしですね。何だか贅沢な気がします」
     桜のレアチーズケーキを置いた沙月が一面の桜色に目を奪われる。
     皆がいただきますと、桜のお菓子達に手をつける。見ても食べても楽しい、そんなお茶会が始まる。
    「たまきさんとシキナさんも、向日葵さんも立派なのを作ったのよー。わたしもいつか作れるかなー」
     もぐもぐと口一杯にしたアリスがどうすれば作れるのだろうかと探求の為に更に口に放り込む。
    「クレープの生地は次々作るさかい、遠慮のう巻いて食べてやー」
     右九兵衛が次々とピンク色のクレープを焼くと、漂う甘い香りに皆の目が輝く。
    「はいはーい!あたしバニラアイスといちごのっけて生クリームかけてチョコホイップしまーす♪」
    「くれーぷは餡子とばにらあいすで頂こうかの」
    「リンゴとバナナとチョコクリーム。定番よね」
     向日葵、セーシァ、影薙がそれぞれクレープに具を巻いて食べ始める。
    「うーん、生クリームと苺と……パイナップルにしましょう」
     沢山の具の前で悩んでいた椎菜も巻いて頬張る。
    「んー……アリスちゃんのクッキー、部長の生地で生クリームと巻くと、とっても美味しいよぅ……♪」
    「たまきちゃんの美味しそうだね」
     たまきが美味しそうに食べると隣のシキナも一口と味見をしてみる。
     一つ食べると次は他の人の巻いたのを食べようと交換が始まった。
    「皆さん飲み物は何がいいですか?」
     食べながら手を上げた皆に沙月が飲み物を注いでいく。
    「美味しい……」
     ぬいぐるみのテディさんを膝に乗せ、紅葉は菓子とお茶を堪能する。
    「こういった賑やかなのも悪くない……」
     舌鼓を打ち、虚は仲間を見て微笑んだ。
    「ちゃんと俺の食う分残しといてやー、いや、ホンマに」
     焼く度に片っ端から消費されていく右九兵衛の声は完全に無視されていた。
    「ちょっ、スルーかい!」
     果てない食欲を前に、汗を流しながら右九兵衛はクレープを焼き続けた。

    「どれも美味しそうだなぁ」
     並べられたお菓子を匡はどれから食べようかとワクワクした顔で見やる。
    「へぇ、なかなかお洒落だね。器もセットというのもいい感じだ」
    「ねぇ、そっちのゼリー取って」
     勇弥が見ているゼリーに興味を引かれたさくらえが手を伸ばす。
    「シフォンケーキ美味しいです!」
    「お饅頭も美味しいよぉ!」
     昭乃と清も互いのお菓子を食べて微笑み合った。
    「はい、忍くん……もといご主人様。あーん」
     悠の差し出す温かなクッキーを忍は口にする。
    「さくさくのクッキーに桜の薫るお茶、どちらも素晴らしいです♪」
     ニッコリと微笑む忍を見て悠も嬉しそうに微笑んだ。
    「ん、うまくいきましたね」
    「お裾分けに行きましょう」
     ゼロと麗夢は出来上がった桜色のクッキーとパフェをイルマに持っていく。
    「おお、どちもら可愛らしいな、ありがとう」
     嬉しそうに受け取ったイルマはクッキーを一つ口に放り込んだ。
    「出来た。皆の物食べてくれぬかの?」
     朋が三色団子を並べる。
    「うまーい! あ、桜あんぱん持ってきたのですっ、食べていいよー」
     アッシュは美味しそうに頬張りながらパンを差し出すと、ミックとテクテクが齧り付いた。
    「オレお菓子作りは自信ないんで、飲み物を作ったぜ!」
     そう言ってるいが苺ジュースを配っていく。
    「わふっ!」
     皿に注がれたジュースを勇狗が舐める。
    「うむ、動いた後の甘いものは格別の。どれも美味」
     桜餡団子を味見し朋は深々と頷く。
    「うん、みんな美味しいよ」
     ジュース片手に登は笑顔であれこれと食べていく。
    「ゼロ君、あ~ん♪」
    「あーん」
     麗夢の差し出したパフェのクリームを、ゼロは大きく口を開けて受け取る。
    「美味しいです。麗夢さん、あーん」
     お返しにとクッキーを向けると、麗夢も嬉しそうに口を開けた。
    「……八重桜のつもりだったけれど、薔薇にも見えるわね。桜と抹茶のモンブランよ」
    「凄い美味しそう! いただきます」
     光莉が並べたケーキをシスティナが早速口に運ぶ。
    「うん……予想通り凄い美味しい!」
    「では、わたしも、いただきます」
     満面の笑みを見て光莉も微笑み、自分もケーキを頬張った。
    「黒いお茶だな……」
     渋い声で見下ろす人の手元に出来上がったのはコーヒーだった。
    「ジンたん、はいあーん♪」
    「あーん」
     そんな人に向かってオリキアが桜型のクッキーを差し出すと、人が機嫌良く口を開けた。
    「おりたんもあーんするとよい!」
     お返しにと人がマドレーヌを手に取ると、オリキアも口元を綻ばせた。
     詩音とカティアは桜のショートケーキを美味しそうに頬張る。
    「私のものはどうでしょう。一口……うん、良い出来です。そうだ。はいカティアさん、あーん」
    「それじゃ私も寒天……え? あ、あーん? ……もぐもぐ」
     詩音の差し出した桜の花の入った寒天を前に、カティアは顔を赤くして口を開けた。
    「如何です?」
    「お、美味しいです」
     良く味も分からないまま頷くカティアの頬にはクリームがついていた。
    「あ、カティアさん。クリーム付いてます」
    「え、クリームついています?」
     動いちゃダメですと掴まえて頬を舐める。するとカティアは硬直して声にならない声を発した。

    「桜のモンブランか、可愛いな」
    「洋菓子も美味しいですね」
     イルマと紅緋は一口タルトをパクリと口にして頬を膨らます。
    「これお裾分け、桜餅ももらっていい?」
    「もちろん、少し形は悪いが……」
     イルマが差し出す皿から殊亜は道明寺桜餅を手に取る。
    「私も桜餅もらお、ふふ、おーいしいっ」
     横から手を伸ばした千巻も口にして笑顔をみせる。
    「これほんま美味しいなー」
     乃麻も粽と桜餅を交換して美味しそうに食べ、他の人とも交換してお喋りを楽しむ。
    「形はあれだけど、味は食べられるものになったねぇ」
    「うむ、餡子がどうしても上手く入りきらなかったな。だが、味はいい」
     誠一郎とイルマも桜餅作りの感想を言い合い、次の桜菓子に手を伸ばす。
    「それにしても、お菓子を作ってる時のイルマは一番楽しそうで充実しているように見えるな」
     ヴァイスは笑いながら、もぐもぐと桜スコーンを齧るイルマの口元についた食べかすを取ってやる。
    「ん、皆で作っていると、買って食べるよりも美味しく感じるんだ。だからかもしれないな」
     イルマは微笑み、はむっと美味しそうに食べた。
    「美味しいわね」
     燁子も一つずつ菓子を小皿にとって桜たちを堪能する。
    「大変でしたけど、喜んでもらえて良かったですね」
    「はい、桜餅も美味しくできましたし、皆さんのも美味しいですね」
     飛鳥と聖也は皆に桜餅を配り、代わりに貰った数々のお菓子を食べていた。
    「……ね、忍くん。誘ってくれて嬉しいよ? またこんな風に。遊びに来れたらいいね。」
    「僕も悠さんと一緒は嬉しいですから」
     返答とばかりに悠にクッキーを口に運び、顔を見つめて頷いた。
    「飲み物まで桜になるとは、いやはや、風流なものですねぇ……」
    「ほんとだねぇ……」
     流希と誠一郎はほっこりと桜茶をすすり、マカロンの甘味とお茶の塩気を味わう。
    「満開の桜菓子のお花見……。桜とは散るものですけれど、食べて散る桜というのも中々趣深いですね」
    「こういうのもきっと風流というのだろうな」
     雨音を聞きながら、絶奈とイルマは花を愛でるようにお菓子を眺める。手に取ったお菓子を口にすると、桜の味が口に広がった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月4日
    難度:簡単
    参加:43人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 6
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