地獄合宿~青函トンネル迷宮、地獄の猛進撃

    作者:陵かなめ

    ●作業坑の亡者達
    「……ォ、ォオォオォオ、……ァァアアアォオオ」
     薄暗い作業坑に複数の足音が聞こえる。
    「ォオオ、オォ、……ヴ、ァ……」
     地を這うような底冷えのするスケルトン達の呻き声が響く。
     ある者は弓を装備し、ある者は鎧を装備し、歩き回っているようだ。
    「アァァ、ァア、ァ、……」
     剣や槍を装備したゾンビ達の影も大量に見受けられる。
     更に奥はどうなっているのか分からない。けれども、聞こえてくる足音の数、呻き声の数から、亡者達が大量に活動している事は容易に推測できる。
     ここは本州と北海道を結ぶ鉄道トンネル――青函トンネルに併走する作業坑だ。
     札幌の地下鉄構内でのアンデッド事件に触発されたのか、北海道と青森をつなぐ青函トンネルがノーライフキングの迷宮と繋がってしまったと言うのだ。
     現在、アンデッドが大量に発生しているのはトンネル本坑に並走する作業坑だが、これを放置すれば遠からず本坑に溢れ出てきてしまうだろう。
     このままでは、北海道新幹線の開通も危ぶまれる。
     そして、折りしも、武蔵坂学園の地獄合宿の季節がやってきたというわけだ。

    ●青函トンネル迷宮合宿のお知らせ(地獄の合宿しおりより)
     今年も地獄合宿の季節がやってまいりました。
     ここでは、北海道合宿の説明をしてまいります。
     まずは、羽田空港から新千歳空港へ向かいます。その後南千歳駅から特急スーパー北斗で函館駅へ。青函トンネルに到着です。
     さて、ここからが合宿の本番になります。
     青函トンネルに併走している作業坑に、剣や弓、槍、鎧などで武装したスケルトン兵やゾンビ兵が大量に発生しております。
     とにかく大量です。残念ながらトンネルの奥がどうなっているのかは分かりませんが、かなりの数のアンデッド達がひしめき合っていると予想されるとの事です。
     そこで、皆さんにはノーライフキングの迷宮と繋がってしまった青函トンネルの作業坑へ侵入し、アンデッド達を片っ端から排除してもらいます。北海道から本州を目指し、作業坑を進んで行くのです。
     大量の敵には大量の灼滅者を。
     武蔵坂学園灼滅者の力を結集し、青函トンネルに蔓延ったアンデッド達を一掃しましょう。
     日の光の当たらぬ場所で、見渡す限りアンデッド。倒しても倒しても、次から次にと襲い来る敵達。精神的にもビジュアル的にも、若干厳しい行程かとは思いますが、皆さんならばきっとやり遂げてくれると期待しております。

    ●教室にて
     ある生徒が手を上げた。
    「この合宿、休憩や補給はどうなっているんですか?」
    「禁止はしませんから、各自で何とかしてください」
     さらりと答えが返ってきた。
    「合宿って事は、トンネル内部で泊まるんですか?」
     また誰かが質問する。
    「そこは独自の判断でお願いします。安全確認だけは怠らぬよう。アンデッドに囲まれての睡眠で、心が休まるのならば止めはしません。ただ、大量の敵を掃討するのに、そんな暇があるのかどうか……」
     何となく、やばい雰囲気が伝わってくる。
    「つまり、アンデッド達をぶっ飛ばせばいいんですかー?」
    「その通りです。数え切れないほどの敵に驚くかもしれませんが、皆さんならばこの合宿をやり遂げ、大きく成長してくれると願っていますよ」
     敵の数は相当のようだ。
     こうなれば覚悟を決めるしかない。
     ひたすら攻撃を繰り返すのか、それとも仲間を援護するか。一人突き進むもよし、仲間と倒敵数を競い合うもよし。補給は? 休息は? いや、それ以外にも出来る事はあるだろうか?
     生徒達は地獄のしおりを眺め、考え込んだ。
     さあ、武蔵坂学園地獄合宿の始まりである。


    ■リプレイ

    ●合宿幕開け
    「……今年ももうこの季節か」
     青函トンネルの作業坑に足を踏み入れた悠仁が辺りを見回す。
    「うんうん、今年も『トンネルからゾンビが湧き出てくる時期』がやってきたね!  いやー風流だねー……」
     しみじみと、深々見が頷いた。
    「……ォ、ォオォオォオ、……ァァアアアォオオ」
     弓や剣を装備した周辺のスケルトン達がじりじりと距離を詰めてくる。
    「……ふむ、毎年恒例の事なのか」
     それは鍛錬に役立ちそうだ。もっと早くに知るべきだったと言いながら、釼が武器を構える。
    「んなわけあるか『地獄合宿』のことに決まってんだろうが。こんな風流があってたまるか馬鹿」
    「……まぁ、軽口叩ける余裕があるならまだマシなんじゃない?」
     悠仁の言葉を聞いて七が溜息を漏らす。
    「ォオオ、オォ、……ヴ、ァ……」
     ゾンビ達が雄たけびを上げた。
    「……そろそろ行くわよ」
     七の言葉に、【地下研究所】の仲間達が地面を蹴った。
     武蔵坂学園、地獄合宿の幕開けである。
     同時に、続々と学園の仲間達がトンネル内部に駆け出した。最深部を目指す者、探索を目的とする者、とにかく敵を倒す者、支援や援護を目的とする者。目的や目標は様々だが、全員一丸となって目の前のトンネル迷宮のアンデッドを駆逐する。
    「……って、寒い! 北海道寒い!」
     弥勒が寒そうに身を震わせる。例年よりも温かいとはいえ、南国出身には堪えるらしい。
     目の前には、弓や剣で武装したアンデッド達。
    「なるほど、これが噂に聞く武蔵坂学園の地獄合宿か……」
     ロストがまっすぐ前を見据え武器を構える。
    「思ったより多いですね……」
     トンネル内部にひしめき合ったアンデッド達を見て榛名が深く溜息をついた。
    「一……十……百……うん、かなり居るな」
     宥氣もヘッドホンに意識を傾ける。
    「さて、私の獲物はどいつからだ? 二人とも気をつけろよ」
     二人から一歩下がり闇子が影を伸ばした。
     宥氣の炎が手前のスケルトンを焼き、榛名が弓を装備したゾンビを殴りつける。体力の減った敵は闇子が仕留め、三人は連携し確実に敵をつぶしていく。
    「つまり、片っ端から殴っていけばいいんだよね?」
     一気に敵との距離をつめ、夕月がゾンビを鎧ごと殴り壊した。
    「先は長いんだから、あんまり飛ばしすぎるなよ?」
     その後ろから大荷物を担いだアヅマが続く。
     携帯食料や飲料水など、必要なものを詰め込んできたのだ。後方から遠距離のサイキックを飛ばし、夕月をサポートする。
    「……あれコレ単なる荷物持ちじゃね?」
     目の前で大暴れする夕月を見ながら、アヅマはふっと、そんなことを思うのであった。
    「……あちらさん武器構えてやる気満々ですね」
     弓を構えたスケルトンに、剣を装備したゾンビ。見るからに穏便に済ませられそうにない。夏枝は小首をかしげ、周囲を一瞬で凍りつかせた。
     そちらがやる気なら、遠慮なく蹂躙させていただく、というわけ。
    「あたしも、いっくよー!」
     突入早々、激しい戦闘を繰り広げる仲間を見て、しのぶも勢いよくとび蹴りを繰り出した。
    「さぁ、始めましょう! 愉しい愉しい宴を!!」
     どこを見てもゾンビばかりと、うれしそうに眼鏡を放り投げた无凱が跳ぶ。
    「はぁあああああ!!」
     槍を横に振り回し、敵の体を抉った。
    「オラオラどけどけーっ!」
     同様に、誠も敵の真ん中に飛び込み、勢い良い回し蹴りで敵をまとめてなぎ払う。
    「ルビー、切り裂いて」
     有杜の影が鳥の形を取りスケルトンに襲い掛かった。
    「ひゃっはー! ゾンビは灼滅だー!」
     その近くでは利戈が次々にゾンビを殴り飛ばしている。
    「ほんと合宿は地獄だぜぇー、なのです。フーハハハァー!」
     それに並び、優奈も敵を撃ちまくった。
     地獄合宿だからね。これは仕方ない。うん。仕方ないね。
    「ここか、祭りの会場は」
     やがて久遠も加わり、この場はゾンビ撃破会場に早代わりする。
     ゾンビを砕く音、灼滅者の気合の入った掛け声、サイキックの起こす風や炎、すべてが入り混じり、まだまだ入り口付近だというのに、戦場のテンションはすでに上がりまくっている。
    「この戦場はまさに地獄だぜー! ひゃっはー!」
    「どんどんいくぜーっ!」
     利戈と誠の声が大きく聞こえた。
    「毎年思うんだが、何でこう、人の予想の斜め上をいこうと考えているんだろうな……」
     流希がおもむろに武器を構える。
    「ま、死なない程度に足掻いて頑張りましょうかね」
     と榮太郎。
     仲間の派手な攻撃に巻き込まれないよう立ち回りながら、周囲を見回す。
     隣では、霊犬のわんこすけに指示を出す鎗輔の姿もあった。
     グループで行動している者も、単騎で突入する者も、まだまだ元気に戦っている。
    「っと、トンネルやし中央に行ったらあかんよー」
     右九兵衛が仲間に声をかける。
    「やってみましょうかー」
     頷き、椎菜が魔法弾で敵を狙い撃つ。
    「数多い敵には囲まれないようにだけ気をつけないと」
     敵を蹴散らしながら影薙は言った。
     【夕鳥部】のメンバーもトンネル入り口の敵を次々に掃討して行く。
     どこの屍王の手の者かは知らない、けれど、
    「見つけた以上は灼滅していくっすよ」
     ギィが無敵斬艦刀を振り下ろし、近くの敵をまとめて沈めた。
    「さぁ、掃除の時間です」
     続けて紫桜里がウロボロスブレイドで敵軍を斬り刻む。
    「……ォ、オオオオオ」
     剣を持ったスケルトンが突進してきた。
    「っと、危ない」
     勇也が仲間を庇うように一歩前に出て攻撃を受ける。
    「そこから来たか」
     すぐに桔梗が鎌を振るい敵を斬り裂いた。
     まだ次に進む道が見えない。入り口付近では、先に進む道をふさいでしまうほどのアンデッド達が蠢いている。
     【天剣絶刀】の仲間達は、臆することなく続けざまにサイキックを繰り出していった。斬る、払う、そして燃やす。
    「ギィ殿をはじめ皆クラッシャーで無双するようであるな」
     そんな中、日和は仲間達を庇いながら戦いに参加していた。ディフェンダーが居た方が良かろうと言うことだけれども。
    「……ゾンビに噛まれるのも悪くない」
     その姿は、若干嬉しそうだった。
     仲間が大量の敵に向かっていく姿を見て、乃麻は深呼吸を繰り返した。
    「……大丈夫や、いける。わたしは、戦えるようになるんや!!」
     気合を込めて敵軍を睨み付ける。戦いなれている仲間の姿を励みに、敵の前へ踏み出した。片腕を半獣化させ、力いっぱい殴りつける。
     砕いた骨が地面に散らばり、消えていった。まずは一体、大きく前進する第一歩目だ。
     仲間はすでに多くのアンデッドを蹴散らしている。
     それでも、見える範囲にはまだまだ敵の姿があった。
    「はぅぅ……こ、怖いのは嫌いなんですぅ!!」
     こんなゾンビだらけの場所で変身して戦わなければならないこと、咲村・菫にとってはまさに地獄だった。
     涙目になりながら、戦う姿に変身する。個性豊かな戦闘スタイルで、攻撃を繰り出す。
    「私の戦う姿を見ないでくださいぃ!!」
     半ばパニックになりながら、菫は動くものを標的にがんばった。
     さて、そろそろ最前線では道が開けそうだ。
    「……やるからには、徹底的に、叩く」
     慧悟が強烈なサイキックを繰り出す。
    「百の鬼の長が相手となりましょう。斬り捨てられたいものから前へ出なさい!」
     同時に氷霧が一気に焼き払っていく。その口元には笑み。全身から楽しさが伝わってくる。
    「ほんにみんな楽しそうやねぇ」
     二人の進撃する様を伊織がにっこりと見つめ、笑顔で近くの敵を斬り捨てた。
    「先が見えましたよ!」
     目の前の敵を斬り伏せ、氷霧が叫ぶ。
     迷宮の入り口を塞いでいたアンデッド達を倒し、奥への道が開けた。
     まだ周辺には多くのアンデッドが構えているものの、迷宮へ進めそうだ。
     最深部を目指す者達が我先にと迷宮へ足を進める。
    「今年も死ぬほど撃ちますよお前らぁ!」
     由乃が先陣を切って迷宮に走りこんだ。嵐のように弾丸を敵陣に撃ち込み、迷宮入り口のスケルトンを蹂躙していく。
    「ユノちゃんが一番槍をお望みなのでガンガン前に行こう!」
     続いてエルメンガルトがブレイドサイクロンで敵を仕留める。
     二人に並ぶように葉が走ってきた。
    「今年も撃ち放題だぜヒャッハー」
     こんな面白い行事、風邪を引いたぐらいで休んでいられるわけが無い。
     近くの敵を巻き込むように武器を振るい、次々と沈めていく。
    「皆さんの傷は『雨上がりの言霊』で癒しますね」
     仲間の後方からは、めぐみが心温まる話を語り、傷を癒す。
    「誰かの食べこぼしなんかいらねぇてのが本音だろ」
    「ひとの本音を読まない!」
     葉の囁きに由乃がぴしゃりと答えた。
     連携して隙無く、【キルセ】の仲間達は進む。

     深層部を目指す者の去ったトンネル入り口では、戦闘が続いていた。
    「突破は許しません!」
     前線を抜けて後方へ迫ろうとした敵を、星がバスタービームで撃ち抜く。
    「ひたすら殲滅ですわ……!」
     剣を振り回し、狗姫がまた三体の敵を倒した。
    「人になりすまし、自らの領域で人を殺す猫の化生。その恐ろしさ、身に刻むといい」
     千都が語る猫の怪談が毒となり敵に染み込んで行く。
    「火葬してやろう。死体は動くべきではないだろうが」
     厳治も禁呪を爆発させた。
     【鳴梟荘】の仲間達は、『より多く、ぶちのめせ☆』をテーマにアンデッド達を蹴散らしていく。
    「久々の共闘で嬉しいよ」
    「最近依頼で一緒出来てないし、こんな時くらいな」
     黒斗と吉沢・昴が視線を合わせた。
     昴が殺気で敵を覆いつくし、怯んだ所を黒斗が斬り裂く。息をぴたりと合わせ、二人は次々に敵を仕留めていった。
     まだまだ入り口付近の敵は多い。
     学園の仲間が、所狭しと戦っている。
    「後ろは任せましたよ相棒!」
     正流の声に律希が頷きで答えた。背中を相棒に預け、破邪の白光を放つ斬撃でスケルトンの体を斬り裂く。
     暗所はあまり好きではないけれど、相棒が一緒だから平気だ。
    「さぁ、戦劇を始めようか!」
     律希は小光輪を分裂させ、守りを固める。
     周辺では、倒れたゾンビ達の腐肉が飛び散り、壊れたような音を立ててスケルトンが何体も崩れていく。
     頼もしい仲間たちと戦っている安心感はあるけれど、時間が経つにつれ、この場はビジュアル的に地獄と化していく。
    「……今回も、『地獄』の名は、伊達、じゃない、ですね……」
     魔導書を手に蒼がポツリとつぶやいた。
    「やれるだけのことはやるよ。一緒に頑張ろうね。蒼ちゃん」
     バスターライフルから魔法光線を発射し、咲桜が蒼を見る。
    「はい……、そこっ」
    「うんっ」
     声を掛け合いながら、協力して敵を叩く。
     見回すと、仲間達もまだまだ戦いを続けている。
     そんな中、明るい声が皆を励ました。
    「♪大丈夫 あなたは一人じゃない♪」
     仲間達を応援するひなこの歌声が響き渡る。
    「戦闘? そんな事よりボク達の歌を聴けー! デスヨ!!」
     オルトリンデの三味線とコーラスも続き、皆の傷を次々と癒していった。
     この地獄合宿に、空気を読まずゲリラライブ!
     癒し系ロックバンドってジャンル間違って無い?
     などなど、色々言いたいことはあるけれど、ベース担当の一誠はギターを鳴らす。
    「後ろは任せろ」
     と、言うわけで、演奏も援護も厚くがモットーの【マヨナカバンド】の演奏は続く。
    「そこ、危ない」
     前方に通が護符を飛ばした。
     入り口付近の敵の数は少しずつ減っている。だが、それゆえ突出してしまう仲間も出てくる。通はそんな仲間を助けるべく動いていた。
    「いっぱいいっぱい殺せますねえ……ふふ、ふふふふっ」
     セトスフィアが敵群の頭上から雨のような矢を降らせる。
    「アジェ、あんまり突っ込みすぎるなよ?」
     治癒の光をセトスフィアに向けながらクインはアルジェントを見た。仲間を庇いながら、フォローするのが役目だ。
     呼ばれたアルジェントは炎を纏った武器で敵を蹂躙していく。
    「獲物はボクが頂いちゃいますね」
     言いながら、ちらりとクインを見た。
     本当は、彼が盾役で気が気ではない。
     素直に言えないけれど、確実に敵の数を減らすことで、恋人の負担も減るはずだ。
    「ふふ、ふふふふっ。たのしくなってきましたねえ!」
     セトスフィアの楽しそうな声を聞く。
     【境界】の皆は、まだまだ元気だ。
    「現地泊まりこみでゾンビ相手に千本組み手とはね」
     煉が倒れ行くゾンビを見て腕を組んだ。
     ダイダロスベルトを伸ばした音鳴・昴が敵を貫く。
    「弱ってるやつからやるぞ」
    「そうだな。今目の前に迫るゾンビを蹴散らすとしよう」
     トンネル入り口のアンデッドは、残り数あとわずか。
     二人は顔を見合わせ攻撃を続けた。
    「そこっ、ラスト三体」
     純也が声を上げる。
     仲間たちと声を掛け合い、ついにアンデッドを追い詰める。
     最後の一匹を仲間が撃ち、トンネル入り口の敵を倒しきった。
     見渡す限り、腐肉と砕けた骨のかけらと、漂う嫌な空気ばかりだ。
    「噂には聞いていましたが、正しく地獄合宿ですね」
     クインの言葉に、同意する者は多かった。

    ●迷宮への道
     学園の生徒達が青函トンネル入り口からアンデッド達を排除し、迷宮の内部へと探索を進めている頃、シグマとクレイは斜坑や先進導坑を調査していた。
    「ここも、どこにも、入り口は見当たらないか」
     シグマがやや落胆したようにつぶやいた。
    「どうやら、この辺りにはまったく敵の気配がしないようだが」
     クレイも考え込む。
     時間をかけて探索したが、どうやっても斜坑や先進導坑からは迷宮に入ることができないのだ。
     それは本坑を通ってショートカットしようとしていた友衛や浅葱、クリミネルにとっても同じことだった。アンデッドの迷宮に入りたいのなら、作業坑の入り口から進むしかないということだろう。

    ●一時の休息
    「ここは、本当にノーライフキングさんの迷宮に繋がってしまってるんですね」
     迷宮に入り、敵を倒しながらアリス・クインハートが周囲を見回した。
    「既にゾンビ達の巣窟ですわね……何か手掛かり等あれば良いですけども」
     行動を共にするミルフィが頷く。
     迷宮は、石や土が重なった壁で作られており、もはや作業坑の元の姿は残っていない。
    「んー、札幌の地下迷宮とこの地下迷宮……関係はありそうに思うのですよね」
     遥香はきょろきょろと辺りを見回した。
     迷宮に入ってしまえば、札幌の地下迷宮とよく似た造りだということが分かる。それに、アンデッドが使っている剣や弓など、装備品も共通点があるように思った。
    「隠し通路などはないのでしょうか?」
     壁を調べていた菖蒲が首を傾げる。何か発見できればよかったのだが、今のところそれらしき物は見つからない。
    「……なんで、こんなにたくさん人が死んだんだ?」
     考えていたような者には遭えなかった。実は倒されていったアンデッドを見て眉をひそめた。
    「……ォ、オオオオ、ォ」
     進んだ先の通路に、再び武装したスケルトンの姿。
    「数がいりゃあいいってもんじゃないんですよ。行きますよ、リーア」
     穂都伽・菫がビハインドを呼ぶ。
     考察はいったん置いておいて、灼滅者達はそれぞれ武器を構えた。
    「ダンジョンの奥の方も気になるし、もう少し頑張りましょうか」
     あすかが複数の敵を巻き込むサイキックを放つ。
     他の仲間達も、畳み掛けるように攻撃を続けた。
     灼滅者達は、少しずつアンデッドを排除し迷宮を進んでいく。幸い、一度掃討した場所に、新たに敵が現れることは無かった。
     突入してからどれくらいの時間が経ったのだろう。時間を気にする者もあったけれど、たいていは、どれくらい戦い続けているのか、考えないようにしていた。
     周囲に敵の気配が無いことを確認し、明莉が地面に巣作りをする。
    「いやぁ、今年の合宿もシビアだなぁ」
     しみじみと言いながら、【糸括】のメンバーから珈琲を分けて貰う。
     杏子と輝乃は外で警戒に当たるようだ。
     仲間に珈琲やココアを振舞っていた輝乃が、二人にチョコを差し入れする。
    「見張り、頑張ってね」
    「チョコの甘さが身に染みます……ありがと」
     眉間を揉み解していた理利がチョコを受け取った。
    「何か、似合わないものが落ちてないかしら?」
     杏子が辺りを確認する。どうやら、この辺りには怪しいものは無いようだ。
    「どっか痛いところは無いか?」
     千尋が気遣うようにメンバーに声をかける。皆、首を横に振った。どうやら、致命的な傷を負っているものは見当たらない。
    「疲れた時には甘いものだよね。いっぱい持ってきたからたくさん食べてねっ」
     和奏は一口サイズの飴やチョコレートを皆に配る。
    「はいはい、元気出してーっ」
     みつまめみたいな味のするドリンクを配っているのはミカエラだ。
     それにしても、今まで倒したアンデッド――死体達はどこから来たのだろう? まるでファンタジーゲームに出てくるような装備だと思うけれど、和風だか、洋風だか、ミカエラには判断が付かなかった。
    「俺一人で大地の眠りったりしないよ?」
     とか言いながら司は土から出たり入ったり。
    「安心しろ、お前の分は俺が戴く。ゾンビは大人しく寝てろ」
     脇差がざばりと司に土を盛ったりするのだった。
     近くではベースキャンプの設営を行っている仲間の姿もある。
    「こちらで、飲み物や食事、準備しときますよ」
    「らっしゃいませ。ここでごきゅうけいできますよ!」
     緋頼と鈴乃が疲れた仲間を温かく迎え入れる。
     【七天】のメンバーは、ベースキャンプで焼肉をしているのだ。迷宮内に漂う香ばしい肉の焼ける匂い。滴る肉汁。牛豚鶏羊の代表的な部位から安い内臓類、野菜も完備しているらしいぞ。
     ふらふらと疲れた顔をしてキャンプに入ってきた仲間に、大胆なビキニの上に革ジャン、エプロンと言う姿の鞠音が肉を給仕する。
    「カルビ七人前、おまち、です」
     キャンプを守るため戦いをも辞さない【七天】のメンバーに守られ、仲間は安心して休息を取ることができた。
    「汚れたらウチにお任せなんよぉ」
     休憩場所となった空間で、丹がころころと転げまわっていた。
     どうやら、周辺の汚れをクリーニングで落としているらしい。
    「体と服くらいは清潔に保ちたいです」
     悠花も、ESPを使い自身の汚れを落としている。
    「美夜、ほら」
    「ええと、これは何?」
     優志が一口チョコを美夜に差し出した。
     チョコは分かるけれども、一応人前なのだと美夜は優志を見つめる。
     そして、結局チョコを強奪して自分の口に放り込んだ。
    「地獄合宿だろうがなんだろうが、潤いって生活に欠かせないもんだろ?」
     その姿を見て優志がくすくすと笑う。
     そろそろ皆疲れてきた頃合だ。
     必要なら仮眠も取ったほうがいいのだろうか? 樹が周囲を見回す。敵の姿は無いけれど、安全は確保されたのだろうか?
    「もし休むなら、交代で見張りをしようか?」
     そんな樹に、登が声をかけた。
    「見張りが必要なら、護衛はするっすよ」
     刑が気付き、見張り役を買って出る。
    「イカめしとか、アスパラベーコンもあるよ!」
    「仮設便所はここに」
    「タバスコたっぷりのサンドイッチもあるよ」
     佳凛や鋭二郎、雪火も、休憩している仲間たちに声をかけた。
     一人で参加した者も、互いに声を掛け合い助け合い、合宿を乗り越えようとしているのだ。
     さらに、玲のように拠点の守り役を買って出る者も居る。
    「まぁやれることをやっていこうかねェ」
     言いながら、十分に周辺を警戒する。
    「そろそろだな」
     レイフォードが立ち上がった。
     残っていたコーヒーを一気に流し込み眠気を飛ばす。
    「わたしも行こうかしら」
     露香もコーヒーを飲み干した。
     この休憩所を出れば、進む先にまたアンデッドの群れが居るだろう。
     レイフォードが真っ先に飛び出していく。
    「……ヴ、ァ、オオ……」
     地を這うような声を上げるゾンビ達に、レガリアスサイクロンをぶつけ薙ぎ払った。
     他の仲間達も、動き始める。
     最深部を目指す仲間はすでにかなり遠くまで進んでいるようだ。最後尾の彼らも、少しずつ進んでいく。
    「実際にゾンビ塗れとかもうやだお家に帰りたい」
     春陽がげんなりした表情でつぶやいた。
    「いや、怖いなら別に来なくてもよかったんだぞ……?」
     月人がそう言いながら、敵を蹴倒す。
     目の前には、弓や剣を装備した多数の敵の姿。
    「ほ、ほら、援護してあげるから頑張りなさいよっ!」
     春陽にぐいぐいと背中を押されながら、月人は更に攻撃を繰り出すのであった。
    「食い散らかした分、お前も地獄に付き合ってもらうぜ」
     ナノナノの白豚を前衛に据え、蒼騎は進む。
     用意した非常食は、全部食べられてしまったようだ。こうなれば、白豚で敵をおびき寄せ、後ろから援護だ。今日は白豚の特訓も兼ねているのだから。
    「ナノ……ナノ」
     臆病な白豚は、涙目で必死にゾンビと戦っている。
     頑張れ白豚。負けるな白豚。もう非常食は無いぞ。
    「絶対に、最後まで、……やりとげるんだ!」
     絶対にあきらめない。絶対にだ! 見桜は決意を胸にクルセイドソード『リトル・ブルー・スター』を握る。また敵の姿が見えた。臆さず踏み込んでいく。
    「とりあえず行けるとこまで奥へ進んで行くかな……」
     良顕が辺りを見る。多くの敵が見え、迷宮は更に億へと伸びているようだ。
    「さ、終わらせるまで、頑張りましょう」
     剣を高速で振り回し、依子が射程距離にある敵を切り刻んで行く。
    「しかしまァ頼もしいこと」
     並んで戦っていたつねが、攻撃範囲から漏れた敵を撃つ。
    「頼もしい背中の後ろ、出口まで、しっかり頑張ります」
     想々は、そんな二人の後ろから回復のサイキックを放った。
    「ありがとねっ」
    「想々ちゃんの回復も心強いわ」
     背後からの支援につねと依子が礼を言う。
     敵をなぎ倒しながら、合宿はまだまだ続く。

    ●特殊なアンデッド
     最前列から少し戻った場所。調査をしながら進む仲間たちの姿がある。すでに仲間が通り過ぎた道とはいえ、まだ多数のアンデッドの姿が見えていた。
    「武器、防具を装備しているのは意外ですね」
     矧が素直な感想を口にした。
     札幌の闇堕ちゲームの犠牲者と、何か関係があるのだろうか? それが気にかかる。
    「な、あ……」
     その時、先行していたフォルケの身体が悲鳴を上げた。
     一体どこから攻撃を受けたというのか、突然急所を絶たれ膝から崩れ落ちる。
    「ネーベル・コマンドより戦戦研各ユニットへ。突撃、我に続け!」
     逸早く異変に気付いた狭霧が、声を張り上げた。
    「何?!」
     周囲に居た仲間達も、すぐに調査を切り上げ周辺に気を配る。
    「いたっ!! そこよ!」
     写真を撮るとか、サインを送るとか、すでにそのような段階ではないことを悟り、七葉がリングスラッシャーを射出した。
    「クッククッ」
     七葉の攻撃を斬撃で相殺し、アンデッドが笑った。
    「普通のアンデッド、では無い?」
     その振る舞いに、宗嗣は違和感を覚える。
     それに、先ほどから繰り出される攻撃。あれは、まるで――。
    「気になるな。ただでさえ、アンデッドたちの出所が気になるのに」
     近くを調べていた知信が傍にやってきた。
    「あのアンデッドだけ、やっぱり特別に感じる」
     蓮花も頷いた。
     明らかに、他のアンデッドには無い力があふれているようだ。
    「……良く分かんないし、とりあえず、倒そう」
    「さあ、ショータイムね! 誰から永眠させて欲しいかしら?」
     サキと夢乃が地面を蹴り、敵との距離を一気に詰めた。とにかく、やられるよりも先にやる。サキはエアシューズに風を纏わせ回し蹴りし、夢乃は手にしたガンナイフで零距離格闘を繰り出す。
     紗矢や和守も畳み掛けるように攻撃を仕掛けた。
    「……ぁ、ハハ、く、くくく」
     今まで倒してきた相手とは明らかに違う。
     二撃三撃と攻撃を当てても、相手は倒れなかった。
    「おい、大丈夫か?!」
     近くに居た寂蓮が回復のサイキックで援護をかける。
    「はい、回復します」
     瑠璃も急いでフォルケを回復させた。幸い、と言っていいのだろうか。回復すればまだ戦える、戦闘不能には陥っていない。
    「あの敵は、一体」
     警戒していた強敵だろうか? 寂蓮の言葉を遮るように、アンデッドはどす黒い殺気を立ち上らせた。殺気は広がり、灼滅者達に覆いかぶさってくる。
     ゾンビやスケルトンを大量に倒していた灼滅者も、異常に気付いてそのアンデッドを見た。
     近くにいた娑婆蔵達【撫桐組】が駆けつける。
    「これは、六六六人衆のサイキックじゃ」
     裕介が言うと、ざわめきが広がった。
     目の前の敵は見るからにアンデッドだけれど、六六六人衆のサイキックを使った。間違いないと、確認しあう。
    「ダークネスの力を残したアンデッド? 普通じゃないよねぇ?」
     慎重に狙いを定め、情が皆を見た。
    「どうやら、普通のアンデッド事件とは違うみたいやね」
     千鳥が頷く。
    「シカシ、この合宿も随分ハードスケジュールデスヨネェ」
     ドロシーの言葉を聞いて、皆がもっともだと思う。
     それはともかく、と。
    「大将首頂きでござんす!」
     娑婆蔵が口元で笑った。
     ちょうど、ボス格の敵を探していたところだ。
    「くく、ククク」
     六六六人衆のサイキックを使うアンデッドが、また笑い声をもらした。
     ――来る。
     その場に居合わせた灼滅者達が、身構える。
    「とにかくぶち抜けばいいんだろう」
    「手伝うよ、気合い入れていこう」
    「これだけ仲間が居れば、大丈夫だぜ」
     透流、久良にキラトと【鞘心館】のメンバーも仲間に加わり、特殊なアンデッドとの戦いが始まった。
     アンデッドが走り出す。
     動きは素早く、フォルケの背後に回ろうとする。
    「何度もやられません!」
     フォルケが体を捻って避けた。
    「数で押し切れると見やした!」
     すぐに敵の懐に滑り込み、娑婆蔵が強烈なアッパーカットを繰り出した。続けて、仲間達も攻撃のサイキックを繰り出す。
    「……ゥ、……」
     六六六人衆のサイキックを使うとはいえ、これだけの灼滅者が揃っているのだ。一斉の攻撃に、敵が吹き飛ぶ。
    「一気に行くぜ!」
     追い討ちをかけるように、キラトが勢いの良い炎をぶつけた。
    「そうだね」
     久良が勢い良くロケットハンマーを振りかぶり、叩きつけるように重い一撃を放つ。
    「爆ぜるのじゃ」
     最後に裕介がマテリアルロッドで思い切り殴りつけると、特殊なアンデッドは内側から爆ぜて崩れ落ちた。
     まだ周囲にはゾンビやスケルトンがひしめき合っている。
     しかし、仲間たちは顔を見合わせ立ち止まった。
    「今の敵は?」
     狭霧が疑問を口にする。六六六人衆のサイキックを使うアンデッド? ダークネスの力を残したアンデッド?
    「まさか、札幌の地下鉄で闇堕ちゲームを行っていた六六六人衆……?」
     矧の言葉に、皆がはっと顔を上げた。
     まさか、そんなことが?
     だが、ここは札幌地下鉄迷宮に似た場所で、あのアンデッドは確かに六六六人衆のサイキックを使っていた。
    「……ゥ、ア、オオオオオ」
     ゾンビの咆哮が響く。
     確かなことはこれ以上分からない。
     だが、アンデッド達を駆逐するまで合宿は終わらない事だけは確かだ。
     灼滅者達は、再びゾンビやスケルトンに向かい走り出した。

    ●猛進撃
    「みんな遅れずに付いてきてる? 先は長いわよ!」
     周囲のスケルトンを氷付けにし、アリス・バークリーが仲間に声をかけた。
    「はい、それは大丈夫ですが」
     影を刃に変えながら真琴が頷く。
     迷宮は深く、トンネルの姿はどこにも無い。今自分達がどこに居るのかさえあやふやだ。この迷宮を抜けるには、やはりアンデッドを排除しつくすしかないのだろう。
    「ゾンビなんてみんなで氷漬けにしてしまうです!」
     めりるが声を張り上げた。
     同時に、周辺を凍らせる。
    「みんな、一人残らず浄化させましょう!」
     気合を込めて、結乃はジャッジメントレイを繰り出した。
     【魔法使いの隠れ家】のメンバーは、元気に前線で戦い続けている。
    「って! 今度は腹減りか!」
     ゾンビの群れから身動きの取れないで居た与四郎を助け出し、庚がびっくりした声を上げている。
    「腹、減ったら俺……動けないよ」
     与四郎は悲しげな表情で、お腹をなでた。最大の敵は、アンデッドではなく空腹の模様。
    「ほら……こう言う時にって、ソウルフード! 色々持ってきたんだろ?」
     そんな与四郎を庇いながら庚が声をかけた。
    「ああ。そっかソウルフード……!」
     与四郎の瞳に輝きが戻る。
     二人の戦いはまだまだ続くようだ。
    「空色さん、シールドリングです!」
     葉蘭が紺子の守りを固める。
    「ありがとう! って、そこっ」
     背後から、剣を持ったゾンビが襲ってきた。紺子が魔法の矢を飛ばす。
     だが、倒すまでには行かなかった。
    「助太刀するよ! 青函トンネルキーック!」
     そこに良太が飛び込んでくる。
     繰り出した必殺のキックで、ゾンビを蹴り倒す。
     ゾンビは倒れたが、次に鎧を装備したスケルトンが押し寄せてきた。
    「七不思議の怪談を話そうか」
     そこに、翔也が助け舟を出す。
     翔也の語った怪談が、スケルトンたちを一掃した。
    「助かりました」
    「ありがとう」
     葉蘭と紺子が二人にお礼を言う。
    「うん。俺は一人でも何とかなっているけど、まだまだ敵の数は多いかな」
     翔也はそう言って辺りを見渡した。
     周辺では、灼滅者とアンデッドの激しい戦いが繰り広げられている。
     中には、望やジュリアン達のように、寸劇を楽しんでいる者も居る。
     刹那のように、己の限界を試すために戦っている者も居れば、春虎のように戦いを避け迷宮の調査にいそしんでいる者も居る。
    「倒れた人は、わたしが後方の拠点に運ぶわ」
    「治癒もするよ~!」
     仲間を助けようと、智以子やゆずも走り回っていた。
    「回復しますね」
     皆の後ろに位置を取り、藍花は仲間を癒す。見落としがないか、気にしつつ、周囲の警戒もおこたらない。
     そんな中、【片隅のユカラ】のメンバーはチームを二つに分けて倒す敵の数を競っている。
    「アリス、寅綺、そっちは大丈夫ー?」
     周囲のスケルトンを薙ぎ払い、斬り崩し、ミケがチームの二人に声をかけた。
    「死体は寝てるもんだろ……動くなよ」
     素早く抜刀し、寅綺が敵を斬り捨てる。それから、まだ大丈夫だと、頷き返した。
    「……斬り裂く……アンデッドを……斬り裂く……」
     アリス・ドールも、次々に敵を倒していく。
     腐肉が飛び散り、砕けた骨が地面にばらばらと零れ落ちる。ここは決して素敵な場所ではないと思うけれど、みんなとの合宿はどこであれ楽しい。そう思う。
     ミケ、寅綺、アリスの三人が『雪栞チーム』だ。
    「あっ……倒した数、ちゃんと覚えてる……? ボク、自分の倒したのは、覚えてるけど……」
     回復のサイキックで傷を癒していた夜月がはっと顔を上げた。
     治癒を受けていた殺鬼丸がしっかりと頷く。
    「さて、どこまで行けるか……」
     二人は『紅栞チーム』に所属しているが、倒した敵の数においてはやや不利な状況か。
    「何かあったら言うんだよ、すぐ私が斬りに行ってあげるからね」
     実に楽しそうなミケの声が聞こえてきた。
     【寄り道散歩】のメンバーも、それは楽しげにゾンビを狩っている。
    「ハッハァー、オラオラよそ見してんじゃねェぞォ!」
     眼鏡をはずし、人がかなりのハイテンションになっている。
    「あはははは! アンデッドのトラウマってどんなものなのかしら!?」
     苦しみなさい。さあ、さあ、と。雪緒においては、普通にドSキャラが発動しちゃってる。
    「若者たちよ存分に暴れなさーい」
     太郎がはしゃぎながら仲間に回復のサイキックを飛ばした。足元には切り捨てられたゾンビの一部が転がっている。
     はしゃがなければ!!
     はしゃがなければ、メンタルが持たない……っ!!
    「まだまだ行けるぜ!」
     そう言いながら厚子も攻撃を繰り返している。
     だが、自分の周りのテンションに、やや、やや圧倒されるだけ。それだけなのだ。
    「おぅ危ねーから一緒に来な」
     惡人は一人で戦っている仲間に声をかけていた。安全に前進することが第一だ。
    「地下鉄事件は気になってたが、トンネルとはでけぇな」
     協力できるのならと、供助が呼びかけにこたえるように手を上げた。
     ずいぶん奥まで進んできた気もするが、まだ最深部までたどりついてはいないようだ。
    「おらおらー! 集まって来いよ、蹴散らしてやる!」
     イオもまた、ゾンビ狩りを楽しみつつ、足並みをそろえて前進していた。
     疲れたら交代し、見張りを立てる。
     惡人は少しずつ仲間を集めながら、交代までスケジューリングして進んでいく。
     雨や文具、歩実も、協力して合宿を乗り越えようとしていた。
    「守りはガザ美ちゃんに任せねぇ!」
    「大丈夫ばい!」
     弱った仲間を保護し、ガザ美と花が上手く庇う。
    「回復は任せてっ!」
     そして、ももが回復し、戦線を維持していた。
    「オレサマ オマエ マルカジリ」
     テツオは、作戦を惡人に委ね、ジャマーとして戦線に加わっている。
    「……囲まれると不利だから、遠くから敵を狙い撃つわ」
     清音も皆に協力していた。
     やはり、囲まれると不利になる。協力すれば、有利に敵を倒せると思うのだ。
    「ゾンビ共の肉の最後の一片までも駆逐してやるでござる!」
     栄養ドリンクを流し込み、絢花が前に出てきた。
     自分を回復しながら、次々に敵を切り刻んでいく。
     一体どれくらい戦っているのだろうか。この奥に何があるのだろうか。もはや、細かいことを考えている余裕はない。
     理央が鋼鉄拳で手前のスケルトンを砕いた。
     続けて龍一郎が畳み掛ける。
    「今回の合宿は最初からハードだな」
    「そうだな。まだまだ、敵の数は多い」
     隣に居た清香が頷いた。
     潰しても潰しても、見渡す限り迷宮にはアンデッドが蠢いている。
    「まだまだ、行くわよ!」
     エルファシアが螺穿槍で敵の身体を抉ると、耀も槍で敵を突き刺し撃破した。
     仲間達は次々にアンデッドを撃破していった。
     飛び散る敵の肉も、返り血を浴びて目をらんらんと光らせる仲間の姿も、いや、そもそも死体の大群も、それはもう正に文字通り地獄合宿だと月乃は思った。
     ここは援護に徹しようと思う。
    「か弱い乙女ですからね、仕方ないのですわ」
     とのこと。それならば仕方ない。
     遠距離のサイキックを飛ばし、仲間を援護する。
     菩提や佐祐理も仲間を助けながら動いていた。
     【メカぴ研】のメンバーも、猛進撃を続けている。
    「どんどん倒すよ」
     エリオが鬼神変でゾンビを殴り倒した。仇が絡んでいるかは分からないけど、小さなことからコツコツと。みんなと一緒ならば大丈夫だ。
    「死ね死ねミサイル~」
     後ろから、アンジェレネが魔法の弾丸でスケルトンを打ち砕く。
    「唸れ、ドラグブレイドっ!」
     沙雪がブレイドサイクロンを繰り出した。
    「ひゃっはぁー!」
     ほのかは気持ちのいい掛け声をあげながら敵を薙ぎ払っていく。
    「みんなの傷は、癒したるからな!」
     皆の様子を見極め、智恵理は後ろから皆を支えるように癒しのサイキックを使った。
    「ォ、オオオ、ァアアア」
    「……ォ、ォ、オオオオ……」
     大量のゾンビやスケルトンが消えていった。
     だが、まだ目の前には敵がいる。
    「いざ、ゾンビ退治でありますよ!」
     七輝の掛け声と共に、一斉に放たれたのはジャッジメントレイだ。
    「皆で一気にやっちゃいましょう!」
     光と玲奈がタイミングを合わせたのだ。
     悪しきものを滅ぼし善なるものを救う。鋭い裁きの光条が、アンデッド達を撃ち滅ぼす。
    「うーん。札幌で見た迷宮と、見た目はほとんど同じだなあ」
     ふと、玲奈が周辺に目をやった。
     規模はまったく違うが、造りや雰囲気が札幌のそれと酷似していると感じたのだ。
    「ゾンビ……なんで合宿に来てこんな奴等の相手をせねばならぬのじゃ」
     ぶつぶつと文句を言いながら戦っているのは姫華だ。
     クラスの仲間との参戦になる。
    「みなさんと、チーム、楽しい、です。気を付けて、いきましょう」
    「ふふふっ……こうした友人だけでの戦いというのも心が踊りますね」
     セレスティと祀が顔を見合わせた。
     一緒に戦っている紅輝は思う。なるべくなら、女子勢に被害が及ばないようにしたいと。……あれ?
    「……俺より強い女子の方が多い、か……?」
     紅輝が周辺を窺うようにつぶやいた。
     いや、それでも。自分にできることをやるだけだ。
    「ふむ、青函トンネルは一般の人達にとって重要な交通の要。其処にゾンビが現れては物騒極まりないからのお」
     カンナは傷を負った仲間に向けて癒しの矢を飛ばした。
    「まあ、クラスの皆で参加するんじゃし、どうにかなるじゃろ」
     信頼できる仲間と、戦うことは嬉しいと思う。
    「オレの背中は任せた……っ」
    「百舌鳥くんの背中は私が守りますっ」
     百舌鳥と楓夏は互いに背を守りながら戦っている。
    「誰より先にトンネル制覇しちゃいましょう! 私と美優ちゃんなら余裕です!!」
    「はい。頑張ります」
     雨月と美優も、二人で協力しながら前に進んでいた。
     地面を蹴った雨月は、敵の中心へ飛び込み、根こそぎ薙ぎ払う。
     叩き潰し、斬り、自由に暴れ蹂躙する。
    「日の当たらないトンネルで、最高じゃないですか」
     雨月のテンションがどんどん上がってきた。
    「これも学園行事ですし、サボっちゃだめですよね」
     美優は雨月をサポートしたり、時には攻撃したりと必死に立ち回る。
    「お召し物が汚れていますよ……。先は長いのです……歩を進めてまいりましょう」
     クリーニングを使用し、恣欠が瑞樹の服を綺麗にしてやった。
    「ふむ……数だけは多いようだな……私の力でどこまで出来るか……試させてもらおう」
     瑞樹の瞳は、次の獲物を捕らえている。
     周囲でも、皆一生懸命戦っているようだ。
     そういえば、敵の数が少しずつ減ってきたように感じる。
    「あ、止まったら私が斬るから休んじゃ駄目だからね?」
    「もう少しゆっくりでもいいと思うんですけどねー!」
     奥へ奥へ。
     立花と神音の二人も、互いの背を庇いながらどんどん進んでいく。
     見れば、アンデッドの数もずいぶん減ってきた。
     鍛えて鍛えて、鍛えぬく。
    「奥までいけばもう終わりですよね! 全部倒せばいいんでしょうもう!!」
     ついに立花が突撃の構えを見せる。
     神音が頷いた。
    「最奥、いくわよ?」
     果たして、最深部に何が待つのか。
     だがその前に、撃ち漏らしを無くさなければならない。
    「大掃除するならば、細かな所まで綺麗に……です、よ?」
     ユエファがまだ息のあるアンデッドに止めを刺していく。
    「倒した敵は、消えちまうのかよ」
     もし放置されるのなら、自分がどうにかしなければと思っていた雷歌は、少し拍子抜けだ。
     たとえば、トンネルの補強でも、とは思っていたけれど、ここまで来ると完全にノーライフキングの迷宮で、補強する箇所も無い。
    「ま、そういう奴が一人くらいいてもいいだろ」
     他にすることが無いか、雷歌は探しながら皆の後ろについていった。
     周りを見ると、すでにアンデッド達の姿はどこにも無い。仲間達の活躍で、迷宮内の敵が確実に減っているのだ。
     この先の奥に何が待っているのか。
     学泉の生徒達は、迷宮に配置されたアンデッドを倒しながら奥へ奥へと進んでいった。

    ●深層部、たどり着いた先
     何度かの休息を取り、交代で眠り、あるいはは不眠不休で戦い続け、ついに深層部にたどり着いた。
     今までの迷宮の造りとは一線を画す。
     模様の彫られた石が積み上げられ、その先には大きな空間があると思われた。
     最深部を目指していた仲間達が互いに顔を見合わせる。
    「もしかしたら主人がいるかもしれません。気を引き締めて」
     紅緋の言葉に、【sbd】のメンバーが表情を固くした。
    「さて、この先に元凶が居てくれれば手間が省けるのだがな」
     【古ノルド語研究会】のアルディマが言う。そうかもしれないし、そうではないかもしれない。だが、確実にこの先には何かがある。周囲の雰囲気からも、それは十分予感できた。
    「カカ、カカカ」
     石造りの柱の奥から、今までこの迷宮では聞いたことの無いような、大きな笑い声が聞こえてきた。
     日の光の届かぬ暗い場所で、積み上げた屍はアンデッド。
     すでにすべてが地獄のようなこの合宿。
     ここが行き着いた先だ。
    「カカカ、さあ、どうした灼滅者。怖気づいたと申すか!」
     灼滅者達をあざ笑う声が響く。
    「行こう。誰かがお呼びだ」
     【ASCALON】の黎嚇が皆を見た。
     互いに頷きあう。
     最深部を目指した学園の生徒達は、いっせいに柱の奥の空間へ走りこんだ。
    「カカカ。待ちくたびれたぞ、灼滅者」
     迷宮の最後の最後の空間に、その男は玉座にどしりと座っていた。
     黒光りする甲冑を身につけ、そろいの兜をかぶり、良く見ると二本の刀を手にしている。決して大きな体格ではないが、堂々とした姿勢に強さを感じる。
     そしてその姿は外骨格に覆われ、彼がノーライフキングであることを物語っていた。
     誰だ?
     見たことの無い相手だ。
     目配せで意思の疎通を図る。
     灼滅者達はノーライフキングを前に、慎重に歩みを進めた。
    「あなたがこの迷宮の主人というわけですか?」
     紅緋がノーライフキングに語りかける。
    「カカカ、カカ。あのお方の手を煩わせるまでも無いわ」
     つまり、目の前のノーライフキングには、主人がいると言うのか?
    「灼滅者ごとき、我らだけで充分よ」
     ノーライフキングがゆらりと立ち上がった。
     場の空気が変る。
     灼滅者達は武器を構え、相手との距離を測った。
    「斬新のような胡散臭い男と協定は結ぶべきでは無い。この迷宮で灼滅者を撃破する事こそ、その証明につながる。カカ、カカカ」
     大きく笑い、敵が刀を構える。
     この状態で、逃げることなど不可能。
     灼滅者は理解する。
     戦うしかないのだ。
    「カカカ、我の刀の錆となり、命を散らせ灼滅者ァ!!」
    「散れっ」
     蝶胡蘭の掛け声と、ノーライフキングが刀を振り下ろすのはほぼ同時だった。
    「ぐ……」
     前に居た蕪郎に、重い一撃が浴びせられる。
    「なんとキツイ一撃でございます。これは、新しい靴下を進呈せねばなりますまい」
     斬られる痛みと、強い力で殴られる一撃に、蕪郎の足元がふらつく。
    「距離を取るでござる!!」
     ハリーが間に入り込み、押し返すように攻撃を仕掛けた。
    「皆さん、地獄合宿を生き残ってみせましょう!」
     続けて綾もサイキックを放つ。
    「よし、僕も行くよ!」
     奥には何があるのかな。そう思ってたどり着いた最深部には、なんとノーライフキングが待ち受けちゃっていました。
     それでも、新も敵に向かっていく。
    「さて、どこまで闘れるか」
     力は温存してある。昌利も攻撃を畳み掛けた。
    「行こう、くろ丸」
     霊犬のくろ丸と共にイチも飛び込んでいく。二人、息のあった連携で大きくダメージを与える。
     だが。
     いくつも攻撃を重ねた灼滅者を見て、ノーライフキングは肩を揺らして笑った。
    「カカカ! カカ。かくも弱い者か。カカカ」
    「まだまだ!」
     透流とアルディマが跳び、攻撃を繰り出す。
    「……回復、するわ」
     その間に、シャルロッテと黎嚇が蕪郎に回復のサイキックを飛ばした。
    「紅緋、いっけー!」
     千尋がどす黒い殺気で敵を覆う。
    「ここは一気に押し切るところ。皆さん、支援よろしく」
     走りながらタイミングを合わせ、紅緋が巨大異形化した腕でノーライフキングを殴りつけた。
    「なぜ、迷宮をトンネルに接続したのです?」
    「カカカ、なぜ、我が答えると思ったか! 愚かな!」
     ノーライフキングはまた笑い、再び刀を振り上げる。
    「死ね! カカカ、死ね死ね!!」
     次に狙われたのは征だった。身構えるが、その間に国臣のライドキャリバーが滑り込んできた。
     攻撃を庇い、ライドキャリバーが力尽きる。
    「まだ行ける!」
     黎嚇が仲間を鼓舞した。
    「頑張りましょう!」
     桃も声をあげる。
     灼滅者達は、互いに顔を見合わせ攻撃を仕掛けた。
     相手は強いダークネスだが、こちらは人数で勝っている。ジェノバイドが相手を砕くような重い一撃を叩き込めば、ユージーンがそれに続く。悠は仲間を庇うように走り、国臣が狙い済ました一撃で援護射撃を行う。
    「回復は任せるのじゃ」
     緋女は皆の後方で仲間を支えていた。
    「このほとばしる鮮血こそ青春の象徴です。ふふふ」
     ケイは槍で敵の身体を抉り、ロベリアは援護に全力を尽くす。
    「紅葉も頑張ってお掃除するの。全然怖くないです!」
     集団についてきていた紅葉も、必死に攻撃を繰り返した。
    「そこ、いただきや!」
     七音がサイキックを叩き込むと、ノーライフキングの身体がよろめいた。
    「カ、カカ、負けられぬ……証明、せね、ば」
     三度刀を構え、ノーライフキングが迫ってくる。
    「行くぞクーガー! ジジとギエヌイ! そしてヴィネグレット!」
     その真正面で、参三がビシリと敵を指差した。
    「驟雨のごとく貫け、我が百億の星」
     ジオッセルが敵の頭上に矢の雨を降り注がせる。
    「それじゃ、派手に暴れるかね」
     クーガーは両の拳を打ちつけノーライフキングを見た。
     一気に距離をつめ、雷を纏わせた拳で殴り、そして蹴りつける。
    「ぐっ」
     勢いのある攻撃に、敵がひるんだ。
    「あっ、みんなが来ましたよ!」
     芽生が明るい声を上げた。
     ノーライフキングの間の入り口に、遅れていた仲間達が次々と姿を現した。
    「カ、カカ」
     敵が動く前に、次々と攻撃を撃ちこんで行く。
    「カ、ま、まさか……これほどの力とは」
     ノーライフキングがうめき声を上げる。
    「いや、バベルの鎖により、この迷宮に大人数の灼滅者が押し寄せるのはわかっていた……カカ、カ」
     もう一押し。
    「皆さん、もう一押しですよ!」
     紅緋が大きな声を上げ、敵を見据える。
     集まってきた灼滅者達が次々にサイキックをぶつける。
    「カ……あの男の、言葉を疑った……我が間違っていたら、し、い……カカ」
     敵の身体が崩れ始める。
    「カカ、く、悔しや……カ、灼滅者め……カ、カカ」
     このノーライフキングが、主と呼ぶものは誰なのか?
     あの男とは、まさか斬新……?
     疑問は残った。
     だが、ノーライフキングは崩れ消え去る。
     同時に迷宮も、元の青函トンネルに併走する作業坑に戻っていく。
    「終わった」
     皆が顔を見合わせ、ある者は安堵し、ある者は疲れからか座り込む。
     一体、最初にトンネルに入ってから何時間、いや何日が経ったのだろう?
     迷宮内でアンデッドを心行くまで蹴散らし、深層部でノーライフキングを仕留めた灼滅者達は、達成感に包まれていた。
     これで、北海道新幹線の開通はなるだろう。
     そして、青函トンネル迷宮を攻略し終えた灼滅者達は……、待ち受ける次の地獄合宿に向かうのであった。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月2日
    難度:簡単
    参加:240人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 38/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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