桜の木を切るカッパと大きなノコギリ。

    ●噂
    「桜の木を切り倒しているカッパがいるって話、聞いたことあるか?」
    「ああ、小耳に挟んだ程度だけどな」
    「カッパか……1度くらい見てみたいもんだ」
    「そのカッパ、ノコギリ持ってんだろ? 襲われたらどうすんだ」
    「木を切る邪魔をしなけりゃ、危害は加えられないって聞いたけどな」

    「桜の木を切る河童なあ……」
     石山・くらら(神さまの言うとおり・d31274)は、金色のカッパと戦った灼滅者の1人である。
    「桜の木を切り倒されたら……」
     お花見ができなくなってしまう。この辺りでは、ようやく桜が見頃を迎えたのだが。
     くららは、学園に報告することにした。

    ●教室にて
    「みんな! 桜の木を切るカッパを倒してきて欲しいんだかっぱ!」
     奇妙な語尾で言ったのは、カッパ(緑色)の着ぐるみを着た少女──野々宮・迷宵(高校生エクスブレイン・dn0203)だ。着ぐるみの顔の部分はくり抜かれており、そこから迷宵の顔が出ている。
     今回の敵は、カーキ色のカッパ。大きなノコギリを持っており、桜の木を切り倒しているようだ。
    「くららちゃんのおかげで、桜の木を切るカッパの出現を察知できたんだかっぱ! 桜の木を切るカッパは、例の川……から遠く離れた、この場所に現れるんだかっぱ!」
     緑のカッパ……じゃなくて迷宵が、黒板に張られた地図を指差した。そこは、大きな桜の木がある大きな公園だ。
     保護のために周囲に柵が設けられているが、この大きな桜(公園のシンボル的存在)を見に来る花見客は多い。地元の名物なのだ。
    「桜の木を切るカッパは、大きな桜の木を切り倒すつもりだかっぱ!」
     桜を守れるのは、灼滅者たちだけだ。今回は、現場で敵の出現を待つことになる。敵が現れるのは早朝。さすがに、そんな時間帯に花見をする者はいないだろう。
    「邪魔をされなければ、人間に危害を加えるつもりはないみたいだかっぱ!」
     ただ突っ立っているだけでは、カッパは「こいつら、何をしているんだ?」と思いつつも木を切り始める。
     そのため、敵が姿を見せたら「この木は切らせないぞ!」とでも言えばいい。もしくは、武器を持っていれば「邪魔をするなら、お前たちから斬り殺してやろう」みたいな流れになるはず。
    「桜の木を切るカッパは、大きなノコギリで攻撃をするんだかっぱ!」
     ノコギリを剣のように使うのだ。戦闘中には、桜の木を切る余裕はないはず。
     なお、頭の皿は弱点というわけではない。
    「みんな! 桜の木を切るカッパを倒してきてくれだかっぱ! 現場に行くときには、サイキックの活性化や装備品の確認を忘れずに、だかっぱ!」


    参加者
    凌神・明(英雄の理を奪う者・d00247)
    石見・鈴莉(偽陽の炎・d18988)
    月代・蒼真(旅人・d22972)
    阿久津・悠里(キュマイラ・d26858)
    石山・くらら(神さまの言うとおり・d31274)
    舞坂・色葉(デッドマンウォーキング・d31920)
    一条・星(ミリオタ魔法使い・d33720)
     

    ■リプレイ

    ●桜
     サクラはバラ科の植物である。
     世の中には、桜の木を切るカッパ(都市伝説)がいるとか。
    「ま、またカッパかあ。金色に続いて、これで二度目やね」
     石山・くらら(神さまの言うとおり・d31274)が、大きな桜の木に視線を向ける。
    「桜のない花見なんて、しょうもないからなあ。是非とも、桜は死守しないとねえ」
    「私も、桜絶対死守の覚悟で臨みます」
     一条・星(ミリオタ魔法使い・d33720)が言った。くららが魔法関係の書物を読み漁っていたのに対し、星は魔法関係よりもミリタリー関係の本に触れてきた。
    「今日は晴れてますから、大丈夫です」
     星(天然気味かも)の頭上に広がるのは、晴れた空。
    「まーた、なんだって……『桜の木を切る』なんて噂話になったんだか……」
     石見・鈴莉(偽陽の炎・d18988)は、カッパの腕や三毛猫色のカッパ(キャットフードが好き)と戦ったことがある。
     三毛猫色のカッパとの戦闘時には猫を飼っていなかった鈴莉だが、今はウイングキャットのビャクダンがいる。
    「まーせっかくだし、ちょっと遅いお花見と洒落込もうかな」
     バッグの中の唐揚げ(お花見用に持ってきた)の匂いを感じ取ったのか、ビャクダンがくんくんしてる。
    「木を切る河童……ってなぁ……。河童の生息地は水の中だし、完全に趣味なのか……? 日当たりの問題……は違うよなぁ……。深いことを考えたところで、答えは出ないんだろうけど」
     考え事をする月代・蒼真(旅人・d22972)の横では、白い霊犬のトーラが眠そうな目をしている。
     と、その時──。
    「こんな朝っぱらから花見か? 夜桜ってのは聞いた事あるが、朝桜ってのもあんのかね」
     大きなノコギリを肩に担いだカッパが、姿を見せた。
    「悪いとも思わねーが、その桜、切らせてもらうぞ」
     しかし、カッパの前に灼滅者たちが立ちはだかる。
    「……おれの邪魔をするつもりか?」
     睨むカッパに対し、ライドキャリバーのイグゾーションに乗った阿久津・悠里(キュマイラ・d26858)が言う。
    「桜舞う春は、私の好きな風流のひとつ。守らせてもらうよ」
    「風流?(タイヤが1個のバイクとは、面白いもんに乗る)」
    「切るのは一瞬でも、育つのには何年もかかるからね」
     鈴莉が、周囲に一般人がいないのを確認。
     カッパは、空中浮遊している猫に気付いた。
    「ネコが飛んでる……!(人工的に造られたネコか? 周りの連中も、普通のニンゲンじゃねーのかもな。1人や2人じゃねーって事は、どっかの組織の連中なのか?)」
    「満開の桜で花見もいいが、葉桜も嫌いじゃないんだよな。っつー訳で、ま、花見前にお仕事といきますか」
     凌神・明(英雄の理を奪う者・d00247)が、スレイヤーカードの封印を解く。
     他の灼滅者たちも武器を召喚。星は、少し離れた場所でバスターライフルを構える。
    「……魔法か(流石に、武装した手品師ではないだろーしな)」
    「何故、桜を切り倒そうとするのですか?」
     舞坂・色葉(デッドマンウォーキング・d31920)が訊いた。
    「花見客がゴミを散らかす、の様な理由なんでしょうか……」
     色葉に続いて、蒼真とくららが言う。
    「別に、桜の木がお前に悪さするわけでもないだろ」
    「……桜の下に、何かあるとか?」
    「殺す前に答えてやるか。まず──」
     カッパが色葉を見る。
    「花見客のマナーが悪かろうが、おれには関係がない」
    「まあ、理由は何であれ、桜を切り倒される事は防ぎますが」
    「なら、防がれるのを防ぐまでだ」
     続けて、蒼真の問いに答える。
    「桜に恨みがあるわけじゃねーが、愛情もない」
    「木を切るのは趣味なのか?」
    「仕事さ」
     言って、指を差す代わりに、ノコギリを桜に向けた。
    「おれが桜を切るのは、桜の下じゃなくて、中に用があるからだ」
    「桜の……中?」
    「お目当ての物が入っているかは、切ってみねーと分からん。だから、切る。邪魔をするなら、お前達を先に斬ってやる」
     カッパが、ノコギリを剣のように構えた。
    「やらせやしないよ」
     鈴莉が殺界形成を発動する。
    「カッパにまた会えてうれしいけど……桜切り倒すんは、ちょっと見過ごせへんなあ?」
    「カッパに会うのは、初めてじゃねーようだな」
    「カッパがいた事にも驚きですが、ノコギリを扱う事にも驚きですね。面白い。どちらの扱いが上か、試してみましょう」
     チェーンソー剣を手に、色葉が言う。
    「早朝からご苦労な事ですが、遠慮なく邪魔させてもらいます」
    「この桜、切らせるものか!」
     悠里を乗せ、イグゾーションが突撃する──。

    ●ノコギリ
    「ぐっ……なんて一輪車だ……!」
    「次は私だ」
     毒づくカッパに、悠里が縛霊手を叩き込む。それと同時に、網状の霊力を放った。
    「ちっ!(意外と威力がある……!)」
     ノコギリを横に薙いで反撃。悠里は、その攻撃に耐えた。
    「頑丈だな……!(サイボーグか? それとも、強化改造されたニンゲンなのか?)」
     カッパが考えているものとは違うだろうが、人造灼滅者の色葉は強化改造を施された身である。
    「とりあえず、普通のニンゲンじゃねーのは確かか」
    「ビャクダン、猫魔法」
    「……」
     ビャクダンは、唐揚げが気になっているようだった。
    「ほらっ! 攻撃っ!」
     鈴莉がビャクダンの顔をつかみ、敵に顔を向けさせた。
     ビャクダンの額で宝石が光ったかと思うと、猫魔法が発動する。
    「魔法生物か……!」
    「一気に行くよ!」
     鈴莉は、敵の死角から斬りかかった。
    「おれの死角を突きやがった……だと……!?」
    「とりあえず、桜の木を切る考え方を改めない限り、やりあわないわけにはなあ」
     蒼真は、赤色標識で敵を打つ。
    「そんなに桜が好きか(こいつら、桜を守るための組織か?)」
    「トーラ、回復は任せる」
     眠たげな目のトーラが、浄霊眼で悠里を癒していく。
    「そのイヌも、武装しただけのイヌじゃなさそうだな」
    「河童だ。皿だ」
     明が、バベルブレイカーを敵へと向ける。
    「河童の皿だ」
    「……カッパのサラダ……?」
    「一回は割ってみたいよね!」
     相手の頭頂部に狙いを定めた明は、杭を打ち出す。気合いを込めた一撃は、強烈な攻撃となった。
    「くそっ! おれの皿を……!」
    「一回じゃ割れないか」
    「そんなに簡単に割れるかよ」
    「相当硬いようですが、私も割れる所は見てみたいです」
     色葉が敵に接近。瞬間的に敵の急所を見抜く。
    「遅いですね」
    「っ!」
     正確な斬撃が繰り出された。
    「……面倒な事をしてくれやがる……!」
    「基本、欲にまみれてるよな、アンタらって……」
     断罪輪を手にしたくららが、オーラの法陣を展開。
    「カッパとは、前にも会ったようだが」
    「金色のな」
    「は? 金色?」
    「三毛猫色のもいたしね」
    「……おいおい、何だそりゃ……」
    「金色の皿は超硬かったけど、アンタのはどうかな?」
    「頑丈に決まってんだろーが」
     そう言って、コンコンと皿を叩く。
     その皿に、星が視点を定めている。
    「大丈夫……こんないい天気だもの、きっと当たる」
     晴れていると縁起でもいいのか、あるいは天然なだけか。脳の演算能力を向上させ、次の攻撃に備える。
    「きっと当たる」
    「桜を守ってみたり、おれの皿を割りたがったり、忙しい連中だな」

    ●皿
    「1人ずつ片付けてやる!」
     悠里に向かって、ノコギリが振り下ろされる。
    「させないよっ!」
     そこに、鈴莉が飛び出した。
    「狙い通りとはいかなかったか……!」
    「FENIXeed──!」
     鈴莉が反撃する。FENIXeedは白い縛霊手だ。はめ込まれた蒼い水晶が輝いている。
     彼女が殴りかかると、放出された霊的エネルギーが網と化した。
    「最初に喰らったのと同じ技か……!」
     続けて、ビャクダンも敵を殴る。
    「……格闘戦にも対応可能かよ」
    「桜は守らないとな」
     蒼真が、指輪を敵に向けた。
    「今年だけじゃなく、来年も楽しみにしてる人がいるんだからさ」
     敵に対し、石化の呪いをかける。
    「……桜なんかを見て、何が楽しいんだか」
    「トーラ」
     トーラは、再び浄霊眼を発動。
    「その皿を割る」
     明がバベルブレイカーを構えると、くららが頷いた。
    「いやー、やっぱり皿は狙いたなるよねえ!」
    「おれの皿は、そんなに簡単に割れるようなもんじゃねーぞ」
    「なおのこと、割るしかない!」
    「やったれやったれー!」
     敵に向かって、明が飛び込む。
    「執念と情熱を込めて、思いっきり皿を叩き割ってやる!」
    「皿なんて小さな的に、何度も攻撃が当てられるかよ! 躱して……っ!?(体が……動かない……!)」
     打ち出された杭が、皿に命中する。
    「おかしな攻撃を受け過ぎたせいか……! だが──」
     皿は割れていない。
    「言ったはずだぜ。簡単には割れねーんだよ!」
    「やっぱり、硬いんかな」
     癒しの力に変換したオーラを、くららが仲間に向けて発射する。
    「残念ながら、今年の君の出番はお終いだ」
     イグゾーションが射撃し、敵に迫る。悠里は畏れを纏っていた。
    「また来年」
     悠里が斬りかかる。
    「……お前達みてーな敵とは、2度と会いたくないんだがな……」
    「後は、皿狙いの行方を見守るとしよう。皿が割れた河童は、どうなるんだったかな。『干上がると死ぬ』とは聞いたことがあるけれど」
    「おれの場合は、皿に水が入ってる必要はないけどな。皿が割れても、それだけで死にはしないぜ? 簡単に割れるような代物じゃねーけど」
    「ノコギリの扱いは、どちらが上でしょうか」
     色葉が持つチェーンソー剣が、大きなモーター音を響かせる。
    「チェーンソーに関しては、そっちが上だろうよ。おれは、アナログなカッパなんでな」
    「そうですか。──これで対処しましょう」
     爆音を上げるチェーンソー剣で攻撃する。
    「すごい音だな……!」
    「一条さん、どうぞ」
    「はい!」
     星が形成するのは、漆黒の弾丸。狙うのは、敵の頭部。
    「カッパさん、お皿がとても魅力的です。割っちゃいたくなるくらいに!」
     星のデッドブラスターが、頭の皿に直撃する。
    「がはっ!!!」
    「当たった!」
     痛烈な一撃だった。しかし、皿は割れていない。
    「……残念だったな……皿を割るには、手数が足りないぜ……。ちょっと攻撃されたくらいで、割れはしねーよ…………ざま―見やがれ…………」
     地面に倒れ込み、カッパは消滅した──。

    ●お花見
    「あぁ、おもしれーもん見れたわ。都市伝説とは言え、マジで河童が出るとはなぁ。……皿は頑丈だった」
     明が、地面にシートを敷く。
    「こんな時期に、お花見が出来るなんてね。適当に、唐揚げといなり寿司は作ってきたよ」
     鈴莉が、唐揚げといなり寿司をお披露目。
    「おお、手作り! 女子力高い! ありがたい!」
     くららが手を叩いた。
    「皆で、わいわいと楽しもうじゃないか(私も女子力上げよう)」
     クーラーボックスから飲み物を取り出しつつ、悠里が決意。
     唐揚げ(冷めても柔らかい&美味しい)は、ネットで作り方を調べて作ったものだ。卵で衣を作るのと、鶏肉を事前に酢に漬けておくのがポイントだとか。
     いなり寿司には、ガリと炒りゴマを混ぜてある。
     人間の食べ物に興味津々なビャクダンが、唐揚げに手を伸ばそうとした。
    「こら、やめなさい、ビャクダン。お前が食べるのは、こっちのカリカリだよ」
     ビャクダンが不満そうに鳴いている。
    「ちょっと奮発したんだから、これで勘弁してよ」
    「幕の内弁当を作って来ました」
     色葉は、人数分の弁当を用意していた。
    「おお、女子力高い!」
    「……(私も女子力上げよう)」
    「私はこれを」
     星が重箱を置いた。
    「「じょ、女子力……!」」
     星がフタを開ける。さぞかし、豪華な弁当なのだろう……と思いきや……中に入っていたのは、レトルトパウチと缶。何だか、野戦食(レーション)みたいだ。
    「「…………。これは?」」
    「こっちはレトルトのカレーで、缶詰はご飯です。缶きりも用意してますよ」
     しかし、カレーを温めるのに必要なものがない。鍋もなければ、当然ながら電子レンジもない。
    「カレー、温めますか? 私は、このままいってしまう派なんですが」
     どうやら、温めるためのものは用意していないようだ。
    「御相伴にあずからせて貰います。片付けは、人一倍がんばりますので……」
     蒼真は、お饅頭(探偵事務所の来客に出す用)とみかんゼリー(とっておき)を持ってきていた。みんなの前に出すような料理を用意できず、肩身が狭い思いをしている様子。
     トーラはおとなしくしているが、視線は食べ物に向いている。
    「花より団子言うても、やっぱ景観が良うないとねえ。……地面の下に何が埋まってるかは知らんけども」
     くららが桜に目を向けた。自分たちが守った桜に。
     花見を楽しむ仲間と桜とを見ながら、明が団子を口に運び、緑茶をすする。
    「敵は多いし、お先真っ暗前途多難。それでも、今だけは人らしく楽しまねぇとな」
     青い空の下で、桜が咲いている──。

    作者:Kirariha 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月29日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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