「戦神……武神……必勝祈願……八幡宮……八幡神……都内……ん~」
暮森・結人(未来と光を結ぶエクスブレイン・dn0226)は教室の片隅でスマートフォンの画面を眺め、何かを調べていた。情報サイトに表示された神社の名前の一覧を見つめながら、結人は考え事に耽っていた。
「武運の神様かぁ……」
「勝負ごとのお守りがあるって知ってる? 都内の神社で売ってるみたいなんよ」
勝負ごとを応援してくれるお守り、『必勝守り』というものがあると知り、結人は放課後に都内にある神社に参拝に行こうと声をかける。
「新学期、新学年になったことだし、改めて勝利をお願いしに行ってみない? 神頼みですべてがうまくいく訳じゃないけど、こういうのは決意表明だよ。こういう努力するから、願いが叶うように応援してくださいって神様に伝えるもんだと聞いた」
武神としても知られる八幡神をまつっている神社。ご利益のありそうな必勝守り以外にも、厄除け守りや縁結び、交通安全、学業成就、旅行安全のお守りも販売されている。
「愛犬や愛猫のためのお守りもあるね。ペットのお守りって意味合いが強いけど、サーヴァントのために買ってあげるのもいいかもしれんよ?」
2人の縁が末長く結ばれ続けるようにと願いを込めて、男女ペアの縁結びのお守りもある。ちりめんの布でできた紅白の桃の花に、お札のプレートがついたストラップになっている。
「正しいお参りの作法って何だっけ? 一拍手二礼?」
結人はいかにも適当なことを言う。
「いや、よく知らんけど、ネットで調べりゃわかるよね。神社の看板とかパンフレットにも説明あるみたいだし」
なぜ今お参りに行くのか尋ねると、
「君らにはダークネスに負けてもらっちゃ困るし、俺には予測の情報を伝えたりとか、こういうことしかできないから――」
結人は妙に照れ臭く感じ、口ごもりながらごまかす。
「とにかく! いつまた戦争が起きるかわからないし……お守り買うついでに祈っといてやるよ」
神社の正面にある大きな鳥居。その下にはまっすぐ本殿へと続く参道が通る。
神社での作法に乗っ取り、鳥居の前で一礼するディアス・シャドウキャット(影猫スキル・d01184)。初デートを兼ねて神社に訪れたギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)と赤松・美久(いまいち萌えない小悪魔・d34175)は、そのディアスの姿を見つけた。
「おや、ディアスさん、奇遇っすね」
ギィに声をかけられ、ディアスは振り返る。
「ギィ様、お2人でお参りですか? 縁結びのお守りを買いに?」
3人は鳥居をくぐり、連れ立って手水舎を目指す。その道中、ギィと美久の馴れ初めについての話題になる。
「転入したばかりでは慣れないことも多いですよね。彼女さんとしてギィ様に甘えた方がいいですよ」
「弱みにつけ込んだとも言いやすね。でも、自分の美久さんへの愛は本物っすよ」
ギィがおもむろに美久の手を繋ぐと、美久の顔は一気に赤くなる。ギィと恋人らしいことをしていることに、美久の緊張とときめきは複雑に混ざり合う。
(「異性とデートなんて……緊張で頭がフットーしそうだよお!」)
ギィの横顔を見つめながら、美久はディアスの言葉を思い返す。
(「ギィさんに甘えて……ギィさんの前では、嘘の自分を演じたりしなくていいんだよね」)
「美久さんの手はあったかいっすねえ」
「え……! そ、そうかなあ」
ギィの何気ない一言に、美久は内心取り乱す。
(「どうしよう……手汗まで伝わったりしてないよね?」)
美久は余計な心配を募らせながらギィたちと手水舎の前に差し掛かる。美久は手水舎に立ち寄ろうとするディアスを見て、
「あ、ここで手を洗うんですか?」
「はい、神様に敬意を払った方がご利益がありそうですからね」
「手水舎で清める前には一礼をするのですよ。左手、右手の順で清め、その後に口を清めるのです。といっても柄杓から水を含むのではなく、左手からですが。最後に一礼するのも忘れないよう」
柄杓を手に取って見つめていた結人に、守月・七都(高校生七不思議使い・d34094)は手水舎での身の清め方を教えていた。そこへ丁度ギィ、美久、ディアスの3人が訪れる。
ギィは七都と神社のお守りの情報を伝えた結人本人の姿を見つけ、半分からかうつもりで声をかける。
「おや、お2人もデートっすか?」
「いやいや……デートしてんのはそっちでしょ」
結人は涼しい表情で応じる。
(「私たちって、ちゃんと恋人同士に見えてるのかな……?」)
その結人の思考を美久はこっそり読み取る。
(「うわぁ……リア充爆発すればいいのに」)
という結人の思考を読み取り、美久は1人挙動不審がちになる。
(「わ、私とギィさんがリア充……でも爆発しろって――」)
結人と不意に視線が合った美久は思わず、
「あ、ありがとうございます、ごめんなさい!」
「ちょっと変わった子だけど、かわいい彼女さんだねぇ。七都さんは彼氏いるの?」
手水舎を後にして七都と並んで本殿を目指す結人は何気なく尋ねた。
「恋人以前に、私はもっと学園での交友関係を広げたいですね。まだ学園の灼滅者となってから日が浅いので」
「そっかー……この学園って、結構変わってる人多いよね――」
「先輩、遊ぼうぜ!?」
背後から結人に飛びつく誰かがいた。結人は腰の辺りに妙に柔らかい感触を覚えて振り返る。
「お参り行くの? なあなあ、普段エクスブレインて何してるのか教えてよ」
そう言って結人に無邪気に抱きつくイヴ・ハウディーン(闇夜の絶刀・d30488)は、結果的に小学生とは思えない豊満の度合いを超すほどのバストを結人に押し付けてくる。
「ありがとうございます八幡神さまああああ」という感じの心中であることは決して表に出さず、結人は尋ねる。
「えっと……イヴちゃんだったよね? 君って何年生なの?」
「ん? 俺は小学2年生だよ」
「小……学、生……」
「何をどうすればそんな成長を遂げるのでしょう」と七都も静かに衝撃を受けた。
「どうしたんだよ、2人とも。本殿に行くんだろ? あのでっかい狛犬のとこまで競争しようぜ!」
イヴは止める間もなく1人スタートを切る。
「確かに、おもしろおかしな方が多いかもしれませんね」
そうつぶやく七都は走り出すイヴをただ見送ってしまい、振り返ったイヴは不満そうに声を張り上げる。
「コラッ! なんで見てんだよ、ちゃんとやる気出せよ!」
結人はイヴのことを気にせず、話し続ける。
「あと、あれだ……どんなに美人でかわいい子でも、それが男だったりするんだよね。事実を知ったときのショックがやばいんだけど」
目の前にその『美人でかわいい』が男である子がいたことに、結人は気づいていなかった。
「今年こそカッコいい彼女をお願いします♪」
どう見ても女性にしか見えない格好をしたディアスは、型通りの作法に則って参拝を行い、柏手を打った手を合わせて祈願していた。
春の心地いい陽気の中、境内にある木々や花壇の植物を眺めながら、古室・智以子(中学生殺人鬼・d01029)は散歩気分でのんびりと本殿の周囲を見て回っていた。
「自然もあっていいところなの」
本殿から鈴を鳴らす音が響き渡り、智以子は視線を向ける。どんなお願いをしたのだろうかと想像しながら、智以子は花壇の花たちを眺める。
こういうところで、普通の人は将来の夢とかが叶うように祈るものなのかしら? 自分に将来なんてものがあるのかわからないけれど、もしそれが許されるのなら、花屋さんに憧れたりもするの。植物は好きなの。もちろん、そんなのはただの夢だけど。もしもあの時――
智以子は考えるのを止めて、お守りを買い求めに歩き出した。
すでにお参りを済ませた志水・小鳥(静炎紀行・d29532)と糸木乃・仙(蜃景・d22759)は、社務所へとやって来た。
「この時期だとゆっくりできて良いな、新年だと混雑してるからな」
「そうだね、普通の日が丁度良いよ」
陳列されているいくつもの種類のお守りを物色し、小鳥は目当ての1つの勾玉のお守りを見つける。霊犬の黒耀のためにと、小鳥は綺麗に磨かれた青色の勾玉のお守りを手に取る。
小鳥の選んだチャーム型のお守りを見た仙は、
「愛犬のお守りか。黒耀は和犬だから勾玉は似合うよね」
小鳥はしみじみと思いながら、
「こういう時に、学外でもサーヴァントを連れて歩けたらと思うんだが……帰ったら付けてあげよう」
お守りを眺める仙は、自分のお守りはどれにしようかと迷っていた。
「う~ん、いろんな効用があるけど……修学旅行もあるから旅行安全も気になるよね――」
仙は縁結びのお守りを手に取るが、
「……あ、ペアなんだ。えーと、うん、何でもペアにすれば良いって物でも――」
そこへ丁度ペアの縁結びのお守りを目当てにギィと美久がやって来た。
「お? これっすか? 縁結びのお守りは」
ギィは紅白の桃の花のペアのお守りを手に取る。ちりめんの布製の桃の花は愛らしいデザインで、2人は迷わずそのお守りを購入した。
「あと、これも――」
そう言ってギィは勾玉のお守りも一緒に購入し、ウイングキャットのハルにゃんのためにと美久にそのお守りを手渡す。
「帰ったら付けてあげてくださいな」
「あ、ありがとう……!」
ギィは美久の純粋な笑顔を愛おしく感じながら、
「俺も改めてお礼を言いやしょう、告白受けてくれてありがとうっす、美久さん。縁結びのお守りも買ったことだし……誓いの口づけ、いいっすか?」
「はい………………え!?」
「――ないんじゃないかなって……」
社務所前の一角でギィと美久がイチャつき始めるのを見て、仙はすぐ横の2人だけの世界の存在にいたたまれない気分になる。
「うーん、必勝も良い気がするし、なかなか迷う」
どのお守りにするか決め兼ねていた小鳥は、ふらふらとおみくじの前に足を運ぶ仙に気づく。
「あれ? ……お守りはいいのか?」
「おみくじの結果で買うお守りを決める事にするよ」
「へー、それもいいな。新年明けてからおみくじ引いてないし、今年一発目の運試しかな」
社務所へとやって来た智以子は必勝守りを買い求めた後、ふと縁結びのお守りに目が行く。智以子は落ち着きなく周囲をキョロキョロと見回すと、
「べ、べつに、意味はないの。ただのお守りなの」
「それ買うの?」
誰かの一言に智以子は心底驚いてうろたえ、危うくお守りを地面に落としそうになった。しかし、その一言は結人が七都に向けたものだった。
「ああ、無難に必勝守りかな」
七都は霊犬の不知火の分も合わせて購入した。
「あ、おみくじ……」
心なしかわくわくした表情でおみくじを引きに向かう結人を見て、七都は言った。
「おみくじ……占いが好きなのですか?」
「好きって言うか、いい結果が出るとわくわくするよね、こういうの――」
結人は社務所の巫女さんからみくじ棒の番号のおみくじを受け取り結果を確かめるが、その内容に顔色を変える。
「凶だった……」
「そんなに落ち込むことはありませんよ。悪ければ善処し、良ければ慢心せぬようにするだけのことですからねえ」
結人がそういう七都のおみくじの結果を覗き込むと、
「おお、大吉……!」
2人より前におみくじを引き、微妙な結果が出たと言わんばかりの表情をしていたディアスは、七都の結果を羨ましがる。
「いいですねー、大吉。私は小吉でした……」
そんなディアスの恋愛の運勢は、『すばらしい出会いの予感』と示されていた。
「せーので開こうか?」
小鳥は仙とおみくじを引き、結果の示されたおみくじを同時に開く。2人共『吉』という大きな字がおみくじに示されていた。
「あ、同じだ……」
同じ結果だとわかり、仙は小鳥と一緒に思わず微笑む。
仙は旅行の運勢を説明している欄に目を通す。『よい。ただし人選による』という一文の意味に仙は首をひねる。次に争い事の運勢を見ると、『退き際が肝心』とある。
「ん~……はっきりと悪いとは書かれてないけど、旅行安全のお守りにしようかな」
(「ギィさんの顔が目の前に……! 頭がフットーしそうだよおーーーー!」)
ギィが美久の顔に触れた途端、美久の顔はたちまち真っ赤に染まる。ギィの目をまともに見ることもできず、美久は恥ずかしさで縮こまる。
「あ……あ、あの……」
「美久さん……」
社務所の前にいることを忘れそうになり、美久は慌てた様子でギィの腕をつかみ、社務所の建物の陰になるような場所へと引っ張っていく。
「はい……どうぞ……!」
目をぎゅっと閉じてギィの前に立つ美久を「かわいい」と思いながら、ギィは優しく美久を引き寄せて唇を重ねた。
キスをされた直後の惚けた表情の美久を見つめて、ギィは微笑む。
「このご縁が末永く続きやすように」
作者:夏雨 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年5月4日
難度:簡単
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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