マナー厳守! 栃木いちご怪人の憤慨

    作者:湊ゆうき

     太陽の光がさんさんと新緑を照らしている。今日は絶好の春の行楽日和である。
     ここ、栃木県にある観光農園も、いちご狩りを楽しむ人々で賑わっていた。
    「わ、あまーい!」
    「すっごくおいしいね」
     家族連れが、採れたてのいちごを口にしては幸せそうに口元を緩めている。
     人々が思い思いにいちごを楽しんでいるところ、一組のカップルが同じビニールハウスにやってきた。
    「すごーい、いちごいっぱいじゃない」
     きつい香水の匂いを振りまきながら、女はずかずかと歩いていくが、その足元はハイヒール。およそいちご狩りには似つかわしくない。
    「お、うまいじゃん」
     男の方はいちごを無造作に摘み上げ、食べたいちごのへたを地面にぽいと捨てた。
    「ねえねえ、あっちのいちごは違う種類なんじゃない?」
     女が男に話しかけるが、そこは摘み取り禁止のゾーン。ここから先はご遠慮くださいと書いてあるのに、カップルはずかずかと入ってはいちごを摘み取っていく。
    「ちょっと、あなたたち!」
     それを見かねた少女が二人の行いを咎める。
    「は?」
    「いちご狩りに来たのなら、きちんとマナーは守らないといけないでしょ! そんな危ない履き物で来ない。へたは渡したビニール袋に入れる。採ってはいけない場所から採らない! 受付でちゃんと聞いたでしょ?」
     年の頃は高校生ぐらいだが、年上の相手にも怯まず堂々としている。よほど、マナー違反が許せないのだろう。
    「こっちは金払ってんだよ、細かいこと言うんじゃねーよ。うるせーな」
    「何なの、あの子? ……や、何? 蜂? こっちこないで!」
     たまたま女の近くにミツバチが飛んできたものだから、女は必死になって振り払おうとするが、高いヒールのせいでバランスを崩して転倒する。いちごは無残にもその下敷きとなった。
    「大切に育てたいちごが……許せない……!」
     その瞬間、少女の姿に異変が生じる。
     少女の頭がいちごへと変わり……彼女は栃木いちご怪人になっていたのだった。
     
    「栃木に、いちごのご当地怪人が現れたよ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は集まった灼滅者達に向かって説明を始めた。
    「冬はみかんなら、春はいちごってことなのかな? 季節ごとに怪人の活動も活発化するんだね」 
     自身の推測が的中した柏葉・宗佑(灰葬・d08995)は、もうすっかり春だもんねと呟いた。
    「うん、宗佑さんは情報ありがとう! 実は今回は、一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件なんだ。普通なら闇堕ちしたダークネスは、すぐにダークネスとしての意識を持って人間の意識は消えちゃうんだけど、彼女は……あ、早乙女・千夏(さおとめ・ちなつ)さんっていうんだけどね、元の人間としての意識を遺してて、ダークネスになりきっていない状況みたいなんだ」
     千夏は、いちご狩りのできる観光農園を経営している家の子供で、高校一年生だという。週末は家の手伝いをしていたそうで、そこでマナーの悪いカップルへの怒りが爆発して闇堕ちしてしまうのだという。
    「もし千夏さんが灼滅者の素質を持っているようなら、闇堕ちから救ってあげて欲しいの。でももし彼女が完全なダークネスになってしまうようなら……その前に灼滅をお願いするね」
     まりんの説明によると、介入できるのは、千夏が闇堕ちした直後。栃木いちご怪人となった千夏は、カップルを攻撃しようとするので、マナーの悪いカップルといえど、救出する必要がある。
    「ビニールハウスの中は足場も悪いし、戦いにくいから外に出る方がいいと思うよ。千夏さんもいちごが被害を受けるのは嫌だろうから、上手く伝えれば移動してくれると思うよ」
     ビニールハウスの外は広い場所もたくさんある。他のビニールハウスにもいちご狩りのお客さんがいるので、その辺りの対策も考えておいた方がいいとまりんは付け足した。
    「千夏さんを闇堕ちから救うには、戦ってKOする必要があるよ。もし灼滅者としての素質があれば、灼滅者として生き残るからね。それから、千夏さんの心に呼びかけることで、戦闘力を下げることもできるから、しっかり言葉もかけてあげてね」
     いちごを大切に思う千夏の心を汲んであげてほしいとまりんは言った。
     栃木いちご怪人となった千夏は、ご当地ヒーローのサイキックと、交通標識に似たサイキックを使うのだと言う。
    「ん? まめ、やる気だな……ひょっとしていちご食べ放題を楽しみにしてるのか?」
     宗佑が、傍らの霊犬・豆助に声をかけると、食いしん坊の豆助は嬉しそうにしっぽを振っていた。
    「また丸くなるぞ……」
    「楽しいいちご狩りにはマナーは必須だよね。なんとか千夏さんを救ってあげて欲しいから……千夏さんを学園に迎えられるように、全員で協力して、必ず無事に帰ってきてね」
     まりんは最後にそう言って、皆を送り出した。


    参加者
    佐藤・志織(大学生魔法使い・d03621)
    ゼアラム・ヴィレンツィーナ(埼玉漢のヒーロー・d06559)
    新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)
    皐月森・笙音(山神と相和する演者・d07266)
    柏葉・宗佑(灰葬・d08995)
    津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)
    楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)

    ■リプレイ

    ●春の行楽シーズン
     春、それは行楽の季節。晴天の下、今日も栃木県にあるとある観光農園のいちご狩りは大賑わいだった。
    「摘みたてをそのまま食べる苺狩りは、観光スポットとしてもよくあるよね。いくら美味しいからって取りすぎたら駄目だし荒らしても駄目だから、お客さんのマナーとモラルは重要だけど」
     人数分の受付を済ませ、新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)は賑わうビニールハウスを見て呟く。
    「マナーが悪いのに怒るのは解りますが、危害を加えるのはいけません! とめないと!」
     一般人が闇堕ちする事件とあって、自身も学園の灼滅者たちに闇堕ちから救われた過去を持つ津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)は、他人事とは思えず、熱く燃えていた。
    「千夏だって、今のやり方がマズいのは解ってると思うんだよね。だから全部ショーにしちゃって、ついでにマナー向上もアピール出来たら、一番丸く収まるんじゃないかな」
     千夏の気持ちを尊重し、出来る限り人が傷つかないようにするには、それが一番なのではと皐月森・笙音(山神と相和する演者・d07266)は考えていた。
    「笙音くんと一緒に仕事するのははじめてだっけ? がんばろうね」
     同じアパートに住む先輩である柏葉・宗佑(灰葬・d08995)は軽く拳を突き合わせ笑う。
    「そういえば、宗佑先輩と依頼で一緒するのは初めてですね。豆助もよろしくなー」
     宗佑の霊犬・豆助をわしゃわしゃなでる笙音。
    「阿吽くん、まめがあらぶったら面倒見てあげてね」
    「ええと先輩、たぶん……豆助があらぶったら阿吽もつられます。見て下さいよ、この! 期待に満ちた目!」
     霊犬たちがいちごの甘い匂いにつられ、つぶらな瞳をきらきらさせていた。
    「さすがにビニールハウスに連れて入れないからね。俺たちがマナー違反で早乙女さんに怒られたら本末転倒……あとで、あとでな」
     すでにあらぶりそうな霊犬たちをおいて、作戦通りビニールハウスに向かうことになっている。
    「きれいでおいしそうないちごばかりですね。千夏さんの愛情が詰まってるからかな? ささっと解決して早く戻ってもらいましょう」
     佐藤・志織(大学生魔法使い・d03621)もそう言って頷く。志織は、ビニールハウスに入らず、ヒーローショーにふさわしい、空いた場所を見繕って準備を進める。
    「 ヒーローは皆を笑顔にしてこそ。俺達も楽しんでいきましょう!」
     宗佑の言葉に、皆が大きく頷いた。

    ●マナーありきのいちご狩り
     ビニールハウスの中は、いちご狩りを楽しむ人々でいっぱいだった。カップルと千夏が現れるまで、怪しまれない程度にいちご狩りを楽しむ灼滅者たち。
    「甘い苺を育てるのって大変なんだよね……苗を植えて花が咲いたら受粉して……美味しい実になるように余分な花芽を摘んだり……」
     丁寧にいちごを摘んでは、楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)はひとつひとつを大切に味わう。
    「作った人の努力を思えば、マナーを守るのは必然さねー」
     ゼアラム・ヴィレンツィーナ(埼玉漢のヒーロー・d06559)も、大切に育てられて甘くなったいちごを口にし、頷く。
    「それにしても、麦はよく食べるさねー」
     その隣で、高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)が、全力でいちご狩りをエンジョイしながら、もりもり食べていた。
    「いやほらガイアチャージしないと!」
     地元栃木のヒーローであることと、その胸にあふれるいちご愛で、もうすでに充分な気もするが、きっとこのあと、ここで蓄えたパワーが発揮されるのだろう。多分。
     そうこうしているうちに、マナーの悪いカップルが同じビニールハウスに入って来た。夏希はそれを見て、ビニールハウスの外の仲間と会場をセッティングするため外に出る。その他のメンバーは、すぐに駆けつけられる距離を保ちながら、そのときを待つ。
     カップルのマナーの悪さを咎める千夏。女が転び、いちごが踏みつぶされ――。
    「大切に育てたいちごが……許せない……!」
     千夏の頭がいちごに異形化したところで、辰人がカップルと千夏の間に割って入り、栃木いちご怪人となった千夏の攻撃を受け止める。
    「マナーを違反した人を殺したら栃木いちごの名折れになります、そうでしょう!?」
     陽太がそう声をかけると、ビニールハウスの中が騒然とした。
    「千夏ちゃんの愛も……そして怒りもすごく良く分かる! 分かるけどちょっと落ち着こうっ。足元のいちご達のコトまだちゃんと見えてるよねっ?」
    「マナー違反は忌むべき行為。然れども暴力を以て罰する等笑止! ……苺が潰れちゃうので、とりあえず外に出ましょう」
     一般人が怪人に近づかないように気を配りながら、麦と宗佑が外に出るように千夏に促す。
     少し考えたようだったが、千夏は確かに頷いた。
    「さあ、今からいちご狩りマナー向上ヒーローショーが始まるさよー。見たい人は外の特設ステージ前に集合さね!」
     ゼアラムの言葉に、客達の緊張は少しほぐれ、子供連れを中心に移動が開始される。
    「マナー違反は怪人に襲われるよ」
     千夏の異形化を目の当たりにしたカップルは、声も出せずにその場に固まっていた。辰人はそう告げ、警告すると仲間と共にビニールハウスを出た。

    ●ヒーローショーがはじまるよ!
     外では、ESPプラチナチケットを使い、腕章をつけた志織が駐車場の空きスペースに設えた舞台のそばへと、人々を誘導していた。笙音と夏希も三角コーンやロープを使い、客席と舞台を区切り、観客が入り込まないようにする。笙音はアイテムポケットで持ち運んだ発煙筒や地面設置型の花火をフィナーレに向けスタンバイ。
    「今からショーが始まります。はーい、ロープの内側には入らないでね」
     子供がロープにしがみついているのをやんわり注意しながら、志織が人々を誘導する。
    「うわあ大変だ、ここん家の千夏ちゃんが、マナーの悪い客に耐えかねて暗黒面に堕ちてしまったー!」
     現れた仲間達と千夏の姿を認めると、笙音は一際大きな声でそう叫ぶ。
    「大地が呼ぶ草木が呼ぶ苺が呼ぶ! ごきげんよう、とちのきヒーローズです!」
     スレイヤーカードの封印を解放し、いちごモチーフのベルトのヒーロースーツでそろえた四人のヒーローがびしっとポーズを決める。
    「イエロー参上! いちごへの愛とマナーを超宣伝しにきたんだぜ!」
     ムードメーカーのイエロー担当の麦が、憧れのゼアラムの隣でポーズを決めて元気よく観客に語りかける。さらにゴージャスモードによって一般人は深い感銘を受ける。
    「いちご怪人……否、早乙女さん。苺にも人にも愛を持って接する事こそ真の苺を愛する者の務め! そっち側に行っちゃいけない。きみこそが、ほんとうのヒーローなのだから!」
    「そうだ! おねえちゃん、負けちゃだめだ!」
     宗佑の言葉に、早速舞台にのめり込んだ子供の一人が声を上げる。もはや誰もがヒーローショーを疑わなかった。
     千夏はこの状況に戸惑っているようであったが、灼滅者達が自分の邪魔をしていると認識すると、容赦なく攻撃をしかける。
    「マナー違反の人間を裁く、それの何がいけないの!?」
     手にした「いちご狩り」と書かれた幟を「マナー違反厳禁!」と書かれた赤色標識にスタイルチェンジし、殴りかかる。
    「マナーの悪さに憤慨する正義の気持ちがあるならば! 闇に飲まれない強い心もある筈さね! 負けるなさよ! 千夏!」
     インテリ枠・ブルー担当のゼアラムが、そう声をかけながら、向かってきた千夏を地獄投げで投げ飛ばす。
    「皆に美味しいって笑顔になって貰う為に手をかけて育てた苺……それがマナーの悪い一部の人のせいで嫌な思いになるの嫌だよね。だけど、人を傷つけたらマナーの悪い人と同じ!」
     夏希は舞台外から千夏に聞こえるよう声をかけながら、輝ける十字架を降臨させる。光線を放つ十字架はまるで天罰を体現しているかのようで、観客からどよめきが起こる。
    「ホワイト&わたあめ参ります!」
     スタイリッシュモードを使用した宗佑と豆助がそう名乗りを上げ、シールドバッシュで正義の鉄拳を下す。わたあめこと豆助も宗佑と息を合わせて斬魔刀で攻撃する。
    「ホワイトのおにいちゃんかっこいいけど……ちょっとたよりない?」
     長身と痩躯から、いちごというよりもやしではと自覚していた宗佑だったが、子供は正直なあまり、時に残酷である。
    「千夏、ここで堪えて戻ってきてください! 僕はそれを待ち望んでます!」
     年少枠・グリーンの陽太が背中から炎の翼を顕現させ、不死鳥の癒しと破魔の力を与えながら、千夏に呼びかける。
    「うう、どうしたらいいの? わからない!」
     千夏の中にある人間の心に、皆からの呼びかけが届いたのか、千夏は頭を激しく振りながら手当たり次第にビームを放つ。
    「いちごってすっごくおいしいですよね! でも、ひとつ作るのに凄く手間がかかって……お姫様みたいに大事に大事に育てたものを粗雑に扱われては哀しくなりますよね。みんなもわかるよね? いちご狩りのいちごは、ひとつひとつ大切に美味しく食べてね!」
     千夏に呼びかけながら、真剣にショーを見ている子供達に、志織は語りかける。
    「そう! いちごは手をかけただけ甘く大きく育つ……だから大切に育ててますっ! そこで! 皆にはいちごに優しい行動の“ご協力”をお願いしたいんだ!」
     マナー向上のため、麦も子供達に向かって語りかける。
    「目の前のその一粒には、農家さんの良いものを届けようっていう魂とプライドと努力が詰まってる! 一粒ずつゆっくり味わってくれたら嬉しい!」
     子供達は素直に「うん!」と頷いたり、はーいと手を挙げたりしている。
    「あれ? でも、ヒーローモノって5人が基本だよね? ひとり足りなくない?」
     一人の少年がそう呟いたとき、千夏が「へたのぽい捨て禁止!」と書かれた青色標識にスタイルチェンジさせると、ヒーローたちを攻撃する。そこへ、夏希のビハインドのノワールがディフェンダーとして仲間を庇いに入る。
    「あー! 5人目のブラックがいたよ!」
    「でもブラックだけ雰囲気違うね」
    「ブラックは、悪の組織から呪いを受けて顔をさらせないんだよ」
     普段から漫画を読みまくっている志織にとっては、この程度の設定はいくらでも口を突いて出る。
    「ヒーローがんばれー!」
     子供達の応援に熱がこもる。
    「さあ、そろそろ千夏をKOして助けてあげないとね」
     辰人が頃合いを見計らい、愛用の解体ナイフを構える。
    「……お前を切り裂いてやる」
     いつものように呟いただけだったのだが、子供は耳ざとい。
    「ここに悪者いる! きりさくとか言ってる!」
    「ラスボス? 黒幕? ブラックに呪いをかけた人?」
     話がややこしい感じにこんがらがってきた。
    「この際、攻撃するついでに悪役路線で行っちゃったらどうですか?」
     笙音が舞台脇から辰人にアドバイス。
    「ええい、こうなったら……ばれてしまってはしょうがない! そこの怪人が役に立たないから始末しに来たのだ!」
     普段は柔らかな表情の辰人だが、出来るだけ悪そうな顔をして解体ナイフを手に千夏を攻撃する。
    「わー! どうなっちゃうの!?」
    「彼女を元に戻せるのはヒーローだけ! みんなでヒーローを応援してね」
    「みんな、千夏ちゃんの心はまだ生きている! 皆で呼びかけて彼女を助けるんだ!」
     志織と笙音がそう子供に呼びかけると、阿吽もわん! と一声吠えて加勢する。
    「がんばれ、とちのきヒーローズ! がんばれ、千夏ちゃん!」
     繰り返される言葉はやがて子供達全員の声と重なる。
    「よし、今さね!」
    「合体技いきますよ!」
     ゼアラムが千夏を持ち上げ、地面に叩きつけ、ご当地パワーを大爆発させると、宗佑は舞台を走り抜け、摩擦で生じた炎を纏った蹴りを放つ。陽太は利き腕を巨大な刀に変えて斬り裂き、麦が最後にいちごパワーたっぷりのご当地キックをお見舞いする。
    「糖度と酸味のバランスキーーーック!!」
     千夏が倒れるのを見計らい、笙音がリモコン操作で舞台脇にセットしておいた花火と発煙筒に点火する。
     派手な音と煙、飛び散る火花に驚く観衆達。大人が、本格的だな、と呟く内に……栃木いちご怪人から早乙女千夏へと戻った少女が、舞台中央に横たわっていた。
    「マナーを守ってイチゴ狩りを楽しみたいもんさね! みんなよろしくさよー!」
     宗佑をはじめとして、舞台上にいた灼滅者達はぺこりとお辞儀をする。
    「さ、千夏。仲間と一緒に帰りましょうよ!」
     陽太がそう声をかけたとき、千夏はようやく意識を取り戻したのだった。

    ●とちのきヒーローズよ、永遠に
    「助けていただいて、ありがとうございます!」
     事の顛末を聞いて、千夏は深々と頭を下げる。 
     その後、お礼にとビニールハウスを貸し切りにして、いちご狩りをさせてくれたのだ。これには豆助と阿吽が大興奮。ある程度満足するまで、いちごを摘んでくれと主人をせかして大変だった。
    「学園には、きみの事を理解してくれる仲間も、同志もたくさん居る。それになにより……レッド枠、空いてますよ!」
    「僕も闇堕ちしかけていたところ、武蔵坂学園の生徒達に助けてもらったんです。学園に来たら、こうやって同じ境遇の人を今度は助けてあげられるんです」
     宗佑と陽太の説明に、千夏もうんうんと何度も頷いていた。
    「いちごって分類上は野菜なんですよね~。なのに何故こんなに美味しいのでしょう? 千夏さんの愛情が詰まってるからかな」
    「ありがとう。美味しく食べてもらえるなら、今日はいくらでも食べていいから」
     志織の言葉に千夏もはにかんで答える。
    「どの品種が人気なんですかね。あ、宗佑先輩、とちおとめホワイト、動画撮っておきましたからね」
     笙音がカメラを片手ににこやかに微笑んでいた。
    「ここの苺、すっごく美味しかった♪ 千夏さんも育てるお手伝いしたんだよね。私にも教えてくれるかな?」
     夏希がそう話しかけると、千夏も嬉しそうに頷く。年も近く、名前も似ているので、なんだかお互い親近感がわいていた。
    「ノワールの知らないことを知って、ギャフンと言わせたいの」
     離れたところでいちごを見ているノワールに聞こえないように、そう悪戯っぽく囁く夏希。
    「ふふっ、夏希ちゃんはノワールさんが好きなんだね」
    「どうしてそうなるの!?」
     子供っぽい純粋な対抗心をいつもノワール相手に燃やしている夏希だった。
    「夏秋品種もできたから一年中食べれるよ! やったね!」
     春だけじゃないよ、と先ほど食べたはずなのに、やはりもりもりと食べている麦だった。
    「はっはっは、これで一件落着さね!」
     灼滅者達は充分にいちご狩りを楽しんだあと、お土産もたくさんもらって帰途についたのだった。

    作者:湊ゆうき 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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