地獄合宿~消えた軍艦島! 限界に挑み、調査せよ

    作者:ねこあじ

    「地獄合宿説明会。九州会場へ、ようこそっ」
     灼滅者たちを迎えたのは遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)だった。机に占い道具はもちろんのこと、海図やら航空写真やらが散乱している。
    「例年通りなら、福岡で地獄合宿を……ってところだけれど、大変です。とても非常識な事態が発生しました!
     長崎の端島、通称、軍艦島のことは分かるかな?」
     もちろん。3月始めに行なわれた攻略戦を思い出す灼滅者たち。
     鳴歌は地図の軍艦島にペケ印をつけ、音鳴・昴(ダウンビート・d03592)の偵察で判明した情報を告げた。
    「あの軍艦島が、まるで本物の軍艦のように出港して行方不明になってしまったの!」
     軍艦島!
     長崎県から!
     出港!
    「……え、ちょ」
    「いや、待って、動くの!?」
    「何という浪漫」
    「一体ドコにいったんだ」
     ざわめく灼滅者たちから出た疑問の一つに鳴歌が答える。
    「どこに行ってしまったのかは分からないの。情報を集めるためにも、今回の地獄合宿、長崎県に向かってもらうことになったわ。
     みなさん、ダークネスの一大拠点である軍艦島の失踪について、調査をお願いします」
    「またあそこに向かうことになるとは」
     前回は船で行ったのだし今回も船で向かうのだろう。そんな会話が出た時、鳴歌があっと声をあげた。
    「そういえば今度は船が無いみたい」
    「!?」

    ●地獄合宿
     配られた合宿のしおりを恐る恐ると読み始める灼滅者たち。
    「え、遠泳……!」
    「結構、風が強かったよなぁ。あの辺り」
     灼滅者の体力増強も合宿の目的となる。軍艦島跡地まで遠泳し、軍艦島周辺海域の調査を行なうこと。なにか手がかりが得られるかもしれない。
     ルートはこうだ。
     長崎港の水辺の森公園から海に飛び込み、泳いで泳いで女神大橋の下を泳ぎ進み、伊王島大橋も通過する。
     高島、その先の中ノ島を目指して泳げば軍艦島跡地もすぐそこだ。
     ――集合場所は、軍艦島跡地です。そこから散開して周辺海域を調べていきましょう――そう書いてあったページを捲る。
     調査に使うものって何がいいかなー、と呑気に考えていた灼滅者たちをうちのめす単語が、そこにはあった。
    「って、おい……!」
    『調査方法は素潜りです』と、大きな文字で書かれていた。嫌でも目に入ってくる。
    「素潜りオンリーなの!?」
    「す、水深ってどれくらいなんだろう……」
     場所は広い。周辺海域と括られてはいるものの、海だもの。身ひとつで泳ぐのすら大変なのに、潜れと学園は言っている。
     一人で調査したり、仲間と手分けして調査したり、調査する人の手助けをしたり、といった行動になりそうだ。
     素潜りには使わないだろうが、浮き輪、ビート板などを使って泳いでいく分は構わない。
    「疲れた時はどうすればー……あ。各自の判断で。だって」
     休憩は、分かりやすいところで中ノ島、他は岩礁などが利用できるようだ。軍艦島から南西に三ツ瀬と呼ばれる岩礁もある。
     水分、栄養補給などの持ち込みは各自の判断で。その際も防水の袋に入れて背負ったりするのが勧められる。
     そして当然だがESPの使用は禁止だ。
    「水中呼吸とか使いたいのに……!」
     肺活量を鍛えるトレーニングだと思えば、きっと素潜りも楽しくなってくるはず!
     うう、とか、ああ……とか呻く灼滅者たちと一緒に合宿のしおりを読んでいた鳴歌は、どこか戸惑いつつしおりを閉じた。
    「がんばってね、みなさん」
     灼滅者って大変だ。

    「素潜り……息、続くかな」
     遠い目になった日向・草太(小学生神薙使い・dn0158)が呟く。とりあえず流されないように頑張ろう、と思った。
     黙々と合宿のしおりに目を通す者や、怖々とした様子で友人と喋る者など、様々な反応が見受けられる。
     消えてしまった軍艦島。
     どこか不穏な空気を孕みつつ、今年の地獄合宿が始まるのであった。


    ■リプレイ


    「さあ、海底調査だよ。そして、沈没船の宝を見つけた暁には、おいしいものをいっぱい食べるよ!」
    「お宝目指してがんばるもん♪」
     と、円陣組んで、拳を振りあげる【有閑】のタージ、くるみ、論人。
    「おったからー!」
     スワンの浮き輪に蝶ネクタイしたバレリーナの格好の論人はジャンプして海に飛び込んだ。浮かぶ姿はインパクト大である。
    「論人くん、すごいね……」
    「うん、似合ってると思う……よ?」
     褒めるタージ、ちょっと目が泳いでいた。
     改めて、僕たちも行こうか、と差し出された手をきゅっと握ったくるみは照れ笑い。
    「んー、美少女レスラーとして体力が試されるわけね。がんばる」
     海を見て、こくりと頷いた愛はうきうきと準備体操を始めた。一気に泳いでいくつもり。
     学園のプールでスパルタられた【伝奇録】怨は本番。浮き輪とビート板装備で泳ぐ。
    「頑張ってるんだけど、これ全然進んでないよね!」
     どうしよう端島、遠く思えてくる。
    「まずは力を抜いて、水に身体を任せてみよう。焦らずゆっくりと、このように!」
     ゆぅぅっくりと素敵なポーズをとる現真。多分お手本みせてる。
     怨の背後から近付く白霞はいきなり浮き輪を掴み、取り上げた。
    「現真さん、パスっ!」
    「!」
    「あははは、楽しんで何ていませんよ♪ 続けて続け、て」
    「……空木嬢、回収しようか」
     無事なのはビート板と掴む手、あとは徐々に沈んでいく。
    「ちぃちゃん、泳ぐのってそんなに得意じゃないのよねぇ。でも、折角だし、がんばろっか!」
     千巻の言葉に、彼女の泳ぎっぷりを知る漣香は驚いた。潜り? 察して。
    「まぁオレそこそこ潜れるし手伝って……って、えっ待って。ちろるさん浮いてるだけ?」
    「うんっ、漣香くんを応援する役をやるよっ!」
     ニコニコ笑顔で言われ、ぎこちなく頷く。
     【魔法使いの隠れ家】のめりるは元気に楽しく泳ぐ。
    「泳ぐのは結構得意なんです!」
    「こういう時こそ空飛ぶ箒の使いどころなのに。ともかく、軍艦島跡地へ向かいましょう」
    「って軍艦島を探すですか?」
     アリス・バークリーの言葉に、めりるはきょとんとした。
    「綺麗に切り裂かれているのか、ねじ切ったように引っこ抜かれてるのか、それを調べるのよ」
     アッシュと登【マーベラス】の二人は、本当にありそうなダークネスコワイ話をしていた。
    「さぁ、弱いダークネスはどんどんしまっちゃうからねぇ――って声が海底からきっと届くんだ」
    「軍艦島も使って無いからしまっちゃおう、てね」
     旅は道連れ。目指す所が同じなら、何となく一緒に泳いでいるような感覚になる。
    「そういえば、夜鷹嬢は遠泳の経験はおありで?」
     治胡にペットボトルを渡しつつ雀は話を続けた。
    「一人で泳いでいたなら挫折するでしょうが、共に進む相手が居るからこそ成し遂げられる技で御座います」
     どーも、とボトルを受け取った治胡は雀の快活な様子に違和感を持つ。
    「疲れてるなら無理せず休めばイイ。急ぐコトはないだろ」
     休息も大事だ。
     【陰影】の響が牽引するは非常食やペットボトルをのせた大きな浮き輪。何故か重くなっていく。
    「って、お前ら勝手に俺の荷物増やすな!」
     えー、と声があがる。翼だ。
    「減るよかマシだろー。荷物、任せたぜ!」
    「増える方が困るんだよ!」
     からっと笑って翼は海に潜っていった。道中も海の中の様子見つつ、魚も獲るつもり。
    「折角だから俺のも頼むー」
     ひょいっとのせて、蓮条・優希は泳ぎ始めた。速度は水泳選手顔負けのもので、颯爽と泳いでいく。荷物? 泳ぎにくいよね。
    「……俺の荷物もお願いします」
     そっと便乗した奏哉の荷物は海の幸に使う調味料――刺身醤油とかが入っている。大事。遠泳合宿の必須アイテム。
     沈むんじゃね? と奏一郎は思いつつも、それはそれ。どこまで積めるか挑戦してみるのも悪くない。
    「響くんはヤサシイナァ」
     イイ笑顔で更に荷を置き、すり抜けようとすれば、ガシッと肩を掴まれる。
    「奏一郎が引っ張ってくれてもイイノダヨ?」
     ミルフィは二人分の食料と荷物を背負い、アリス・クインハートは浮き輪を使って二人で泳いでいく。
    「素潜りで探すなんて、何だか軍艦島って、潜水艦みたいですね」
    「案外、本当に潜水艦か何かに改造されて、海に潜んでいるのかもしれませんわね」
     お嬢様の言葉に、ふわりと微笑みミルフィが言う。
    「何か海中にあんのかなー」
     遠泳しながら、わくわくとした気持ちでイオは想像を膨らませていく。
     天草財宝的なものとか? 竜宮城とか? あるいは軍艦島を呼び寄せる存在が?
    (「しかし島が動くなんて、お伽話でしか聞いたことなかったぜ。実はクラーケンだったりすんのか?」)
     士の突飛な考えは揺るぎない。想像力豊かだ。
     すいすいと波の動きも利用して泳いでいくのはセイナ。
    (「また、遠泳することになるとはね……」)
     訓練のおかげで苦手意識もなく、海に挑む。
    「よーし頑張るぞ!」
     持久力重視のおよぎで、しのぶが遠泳に挑む。
    (「同程度の遠泳を毎年行なってる小学校もあるしね」)
    (「これは、大変だな」)
     懸命に泳ぐ見桜。
    「……でも、私は灼滅者なんだからちょっとでも気持ちが強くなるように、必死で頑張らないとね」
     気持ち新たに決意する。
    「先生から、さらしは駄目て言われた」
     頬を膨らませて、呟くイヴはビキニの紐を引っ張る。
    「女の子だからちゃんとした水着にしなさいて……」
     近くを泳げば、自然とお喋りも発生する。
    「大変だね……」
     そっと星は目を逸らし自身の胸元に手をあてた。
     水の抵抗をもろに受けて大変そうだなぁ、と。
     この時だけは自身の小さな胸に感謝した。……した。


    「よし、俺様に続け!」
     【超常研】、部長の小泉・八雲が大きな石に引っぱられるようにどぼんと海にダイブした。
     きっと軍艦島は超古代テクノロジーを使った船だと、そんな船が入り込めそうな海溝を八雲は探す。
    「目指すは海底遺跡発見!」
     続けとばかりにダイブ。古代のロマンを探すのはサーニャ。魚たちが驚いたように泳ぎ去っていく。
     沈んでいく二人を不安そうに見る悠里。
    「ロシアでプールで泳いだことはあるけど、こういう自然の中はなぁ……」
     身一つは心もとないが、やがて覚悟を決めたのだろう。海にダイブした。 
     潜った美月はふと見上げてみた。光が踊り、魚の影がたまに横切っていく光景を水中カメラで撮り、痕跡をレンズ越しに見る。
    (「あとで合宿の記念撮影もしないとなの」)
     潜水艦のように海中を移動しているのなら、島の出す気泡、浮上した遺留物があるかもしれないと推測し、イリスは双眼鏡で海原を観察する。
    「あんなところに――」
     遠くの岩礁に釣り人らしき影が映る。
     望とエクル。共に行動し分担した動きをする。
    「もしも私達が撤退したあと、軍艦島と同化したなら……軍艦島跡の地表になにかしらの痕跡があるはずです……! えくるん、気を引きしめて探しましょう」
     望の声に、頷きエクルも気合いを入れる。
    (「古代都市があったりして」)
     海に震えつつも、どこかわくわくと照明で辺りを照らしていく。
     ボートを牽引し頑張っていた【千川3-7】の真火が呟く。
    「成程……ほんとに、地獄ですね……」
    「潜る前に休憩していく?」
     颯音の提案に頷こうとした真火――よりも早く反応したのは新だ。 
    「休憩? そんな甘ったれたことしてられるか!」
    「飲み物ありマスヨー。水分補給大事デス」
    「水分補給? 水なんて周りに文字通り溺れるほどあるよね??」
     ドロシーの言葉にも、即反応。
    「蒸留して飲み水にしてくれるなら飲んでやらなくもないでござる」
    「ブラック企業研修みたいな事を! 倒れるから!」
     思わずツッコミに入る木菟と颯音だったが、それと同時にマイペースにボート上から乗り出す識が颪山車と新を海に沈めていく。
    「シャッターチャンス! ばやっしーに見せなきゃ!」
     セトラスフィーノがそんなクラスメイトたちの写真を撮っていった。
    「さあ、行きましょうか」
     識もゆっくりと海に入った。サポートに徹するドロシーは笑顔で見送る。
    「飲み物とお菓子を用意しておきマスネ!」
     めいこは目印をとある岩につけ、【アルニカ】の休み場所とした。
    「迷子になったら、此処に戻ってこれるように頑張ってくださいねっ」
     と伝えながらも内心はどきどきだ。迷子にならないよう頑張る。
    「取れたてわかめにはもうならないのですわ!」
     髪を再びしっかりと結ぶ玲璃。これーりちゃんも濡れないよう気をつけているようだ。
    「軍艦島は元は炭鉱。下に掘り進めたということは、浮島ではありません」
     敬厳の言う通り炭鉱だ。手がかりは必ず海底に残っているはずだ。
    「皆、気をつけてね。こういう時は無理したら危ないよ。まずは合宿から生きて帰らないとね」
     千鶴の声にそれぞれが応じ、いざ潜水!
     つぐみはドキドキしながら潜っていく。
    (「軍艦島……ある戦艦に似ているからついた愛称よね。それと、昔はその戦艦は沈んでないなんて噂があったとかないとか。……まさか、ね?」)
     海底に泳ぎ着いた律は、まず岩の崩れ方を見て、島が動いた方向を予測しようとする。
     台のような岩に片手をつき、その反動で移動――違和感を覚え振り向いた。
    (「岩に、断面っすか……?」)
    「ましろ、海底を良く見て、海草なんかが不自然に生えていない場所を探そう。島が動いたんだ、その影響で割れて落ちた岩や動きによって抉られた場所があるはずだ」
     倭の言葉に、こくんと頷くましろ。ぐっと拳を握る。
    「何時も倭くんに頼ってばかりだから今日はわたしが、いっぱいがんばるよ。だから、疲れた時は休んでね?」
     交代でいこう。そう約束をする。
    「今回も頼りにしているわよ、謡」
     そう言う百花に、謡は頷く。攻略戦時の地底拠点はなく地図を見なければ当時の位置場所は分からないほどだ。
    「この辺はドルフィン桟橋のあった場所かな」
     それじゃ、また後で、と二人は手分けして探索する。
    (「海水にやられないよう、水分補給はしっかりとね」)
     魚探を手に、周波数を見る玉緒。
     主に探すのは何かの足跡、規則的な窪みだ。
     錘をつけたアンカーを落とし、ラススヴィは頷いて見せた。
     自身が浮力より重くなるよう、重りを腰回りに装備。
    (「最深部に行ければそれで満足だ」)
     ラススヴィはそう思う。
     彼の作ったロープの標を使わせてもらい、調べるシャルは浮上し、防水の手帳に調査した事を書いていく。
     先ず書いたのは、調べた地点。
    「そうだ、忘れるところでした」
     と、シャルは素潜り記録の秒数も書き込んだ。
    (「調査するって、素潜りとか苦手なんだウワァ!」)
     しかし羽和もまたチャレンジャー。頑張って潜ってみる。
     黙々と泳ぐアインハルト。見かけた人の調査の手伝いをし、再び黙々と泳ぐ。
     三ツ瀬まできた嶋・八雲は灯台を調べたり、岩の隙間を覗き込んだりと一つ一つ丁寧に。
    「島であろうと航海は灯台が頼りですからね」


     跡地から南、三ツ瀬を休憩地とし調査する明日等。
    「それじゃ、潜ってこようかしらね。リンフォース、お願いね」
     装備を見張ってもらい、いざ海へ。事前準備は万端だ。
     流されないようにと繋がる【フィラルジア】のロープ先に石がある。
    「……早鞍先輩、その石なんすか?」
    「ロープで繋がっとけば逸れる心配もー……って石!? そんなん付けたら沈むから、戻ってこれない勢いで沈むから!」
    「漬物石にできそうな大きさだよね! これを先頭に皆でロープ握れば自動的に沈むんじゃないかな!」
     訝しげに問う漣、止める笠井・匡に、清純はイイ笑顔で答えた。
    「いやいやいや、こんなもん使うと死ぬっすよ!? オレまだ水着の女の子ベストショット撮れてないっす」
    「僕もまだ撮ってないよ水着の幼じ」
     まだこの世に未練があるのだ。死ぬわけには以下略。
     シリアス顔になる清純。石を持つ。
    「あわよくばイケメンの一人や二人葬り去れる……素潜りがんばろう!」
     【沈黙】の面々は遠泳競争。円理は勢い良く泳いでいたのだが、疲れると迷うことなく十織に掴まり一休みした。
    「!?」
    「俺のことはマストに止まる鳥とでも思ってくれ」
    「そうか、鳥なら仕方な……思えるかよ! どんだけでかい鳥だよ!」
     この間、十織が牽引する浮き輪に掴まっていた晴汰は静かに手を離した。跡地までもうすぐ。温存していた体力をフル動員し一番のりを目指す。
    「立派に容赦のない子になって……」
    「頭脳プレイです……!」
     追いつこうとする二人を引き離し、ゴールを目指す。
    「何か、海底の痕跡を探したほうがいいのかな?」
     と考える由希奈の胸に、いきなり食い込む手! 背後にはりんご!
    「ひゃぁぁぁっ!?」
    「あまり難しい顔をしていないで、由希奈さんも一緒に♪」
     りんごはのしかかり、柔らかな肢体を海に沈めていく。
     二人をイイ笑顔で見送る杏子。
    「いってらっしゃーって、ひゃん!」
     の、太ももに纏わりつく何か! 下には縋る何かを求めた由希奈!
     ぶくぶくと沈んでいく杏子を、浮遊するしらたま・かーこが見送る。
    「にぃ~……」
     一方、香祭・悠花は小声でタシュラフェルを呼び、手招きした。
    「一緒に一美さんを堪能しません?」
     見れば、今浮上してきたらしい一美は無防備な様子。
    「……OK、じゃあ一美と遊びましょうか」
     タシュラフェルはこくりと頷いた。
    「あのうねうねとしたものは何だったのでしょう」
     海藻のなまめかしい動きに驚いて呟く彼女へと、静かに泳ぎ近寄る二人。
    「うふふ……覚悟しろー?」
    「はわわ~!?」
    「それーっ♪」
     抱きついて撫でたり擦ったりと。
     遠巻きに見ていたコセイは目撃した。彼女達もまた、りんごの手で海底へと沈められていく様を。
     【百不思議七物語】の三人は先に三ツ瀬までやってきた。
    「非常食と、スポドリと、サンドイッチもあるよ。火口缶もあるよ」
     お魚食べたいよね、とスプレー缶サイズのバーナーを手に、りち子が言う。色々持ってきた。
    「おお、二式さんありがとなー。魚はこの辺にいそうだけど、なんか変に影響されてそうで怖いな」
     と、倫理。素潜りの用意をしつつ海を覗き込んだ。
    「お魚、楽しみです」
     水泳初挑戦の歌護女。焼いた魚をそのまま齧る、そんな初挑戦も迎えるのはもうちょっと後。
     少し休憩をしたのち、足跡や、地形を確認しに行く。


    「まんま、ジュゴンだね」
     と、鎗輔は自身の姿を改めて言った。
    「わんこすけは留守番よろしく」
     荷物を霊犬に預け、中ノ島から離れる。
    【シス・テマ教団】のファルケは、ソナー代わりに反響させれば何らかの反応が、と、一味違った手を使う。
    「水中は遠くまで音が響くとあるし、どれくらい響くやら」
     と、水中拡声器を投下し、マイクを手に。
    「水中リサイタルとはファルケ殿も剛毅なものじゃ。一体いかなるびせぃ……」
     言いかけた姫月は止まった。
     近場の灼滅者たちが一気に浮上し呻いている。
     止められ、海に落とされるファルケ。
     歌が終わるのを待ったワルゼーの一声。
    「海でもファルケ殿の歌唱力は健在だな……! それではいざ参らん」
    「はい、それでは頑張りましょうか……学園の偉い人たちのためにも」
     そう言う明日香の声はどこか呆れたものだった。スパルタ教育ももはや古い。
    「ヴィネグレット、頼んだぞ!」
     参三は作成した浮島で、調査(ノンビリ仕様)するつもり。仲間を見送り、「シス・テマ教団簡易休憩所」の幟を見上げた。
     ビニールタンクに海水を入れて沈む亜綾。
    「では、いってきますぅ」
     声を掛けた先の烈光さん、泳ぐの頑張ったのでちょっと浮島で一休みだ。
    「マッサカ『軍艦島は旧日本軍の秘密兵器』的な都市伝説をタタリガミが吸収したシャレにならん展開はネーデショウガ」
     斬新な消失案を言うバニラ。
    「か、神隠しみたいですね」
     さくらは忽然と消える軍艦島を想像し、海の中で、寒さとは違うものを感じて震えた。
     【扇】の由布は大きな波を潜って回避する。軍艦島は日本側に炭鉱場があり、外海側の居住区はまともに波の影響を受けていたという。
    「やはり波が荒いですね」
     咳き込み、由布が言う。彼の背中を擦る碧。
    「いきなりだったわね、大丈夫? ……というか、神楽。何をしているのよ」
     碧に言われ、あたふたとする神楽。さっきの波に身を煽られ、泳ぎの得意な魅代に掴まっていた。
    「し、仕方ないやん。不可抗力やけんな。うん」
    「そうそう、大丈夫大丈夫。逆に変に意識した方が大変だって、ね」
     にっこりと魅代。
     四人が探すうちの一つ、人工物っぽい残留物――破棄されたものは沢山あった。
    「紅羽部長、すいません。雑事を全部していただいて」
     と、申し訳無さそうに【TG研】の良太が言った。
    「いえ、みなさんが安心して、調査できるようにするのも、大切ですからねぇ……」
     拠点を作ってきた流希が言う。彼は一体型の足ひれのような物を使い泳ぐ。
    「頑張って調査しますね」
     と、清美。彼女は水上に変な浮遊物がないかと探したり、良太は石蹴りをして海上の様子を見ていく。
     デモノイド化したら一気に沈むかな? ものは試しと雄一、足がつった。
     巨躯が海でばっしゃばっしゃしたあと、沈む。
    (「やばい、ちょい待って死なないかもだけど死にそう! 病院に入って良かった! よくないけど!」)
    「無事か!」
     デモノもとい雄一を颯爽と助けるは、夜々。
    「ここで会ったのも何かの縁! 共に逃げようではないか」
    「あ、ありが……え、逃げ……?」
     何をやらかしたのか。追われる身の夜々であった。
     体力を消耗していく矢先、看護のために拠点を作った千都のところに辿り着く。
     水着の上に白衣――しかし堂々としている。
    「足がつったのか、見せてみろ」
     彼女のところに行くと軽食を与えられマッサージをされ、至れり尽くせりなのだが、千都は容赦なく終わった者を海へと戻す。
     【サーカス小屋】は、きらきらと光るものを拾って拾って、人工物も怪しい残骸も拾い集めて。
    「これは……刀の破片に、こちらは護符の切れ端、でしょうか?」
     浮き輪に掴まり、改めてエリカが確認しているとこのはが浮上してくる。
     くわえてた魚を手に持つ。
    「これ今夜のおかず!」
     ドヤァな顔。
    「このはも捕まえてきたかにゃ。野生の血だから仕方ないにゃー」
     花恋もまた焼けば非常食になる魚を……魚と、回収した残骸やら。


    「見事にないッスね!」
     一切の小細工なし、己の肉体頼りに遠泳したアガサがぐるりと周囲を見回した。
     本来なら目の先に軍艦島があったはずなのだ。
     跡地そのものの地形はどうなっているのか。
     幾つかの記録用カメラを手に、霧亜が潜っていく。頭を動かし周囲を見回せばヘッドライトの明かりが照らし、岩を捉えた。
    「あまり無理はせんようにな。皆で協力して、出来る範囲でやると良いぞ」
     【琥珀館】の筏の番をする久遠は、調査が始まる前にそう言い添えた。
    「はい」
     こくりと凛音が頷く。
    「荷物は任せておくのじゃ! 確りと務めようぞ」
     宗策は見送り、ゴロゴロし始める。
     凛音は防水ケースに入れた地図とGPSの付スマートフォンを手に、探っていく。
     まずは位置確認。
    (「今回で結論が出ずとも、後日準備を整えて再調査となった時に使えれば!」)
     坑道入り口――竪抗のあった場所にかなめは向かって行った。
     元々あった地下炭鉱自体はそのままのようだ。
    (「ってことは、入り口は限られるはずなのよ」)
     潜っては浮上し、と調べていく知子はそんなことを思った。
     波の音が耳を打つ。
    「こに達七不思議使い、ここに捕まえられてたんだよね」
     清は広がる海を眺めた。
     見るのも束の間、清もまた【フィニクス】のフリーダイビング練習に混ざる。
    「軍艦島が動いた理由とかが解れば良いなぁ」
     樹神・匡が頑張ろうねとクラブの皆に言った。
     そして拠点設置班。
    「毎度の事ながら……生きてるのが不思議……」
     屍状態のさくらえ。トレーニング中は全力で休んだ。これからがんばる。
    「……がんばりましたよね」
     一緒に沈んでしまった真言は、少し休んだ後、よろよろと拠点作りを始めていたようだ。
    (「まさか、軍艦島が動くとは。誰も予想できなかったでしょうね」)
     と、思いながら、調査班のために温かい飲み物や料理を用意するのは昭乃だ。
     素潜りのコツはジャックナイフの姿勢――健は軽やかなダイブテクニックで潜水の見本を。
     コツを掴んだのち、それぞれが調査に乗り出す。
    「海の幸の獲物探しも兼ねて探索行くぞ!」
     銛代わりに槍を手に、健が元気に潜っていく。
     調査班の実は海の中にいることを喜んでいた。普段通りの無表情だが、ほんわかとした雰囲気。
    「去年の瀬戸内海も嬉しかった、泳ぐっていいよな……」
     去年、東西凡そ450km。今回凡そ20kmぷらすあるふぁ。
     海上待機の双調は場所の特定作業。入る報告の分析だ。
     水中撮影を積極的にしていく靱。画像がぶれないようにと注意している。左へ右へと動いていると障害物にぶつかりそう。
     そうやって撮っていくと瓦礫が集中している場所が幾つかあることに気付いた。
     主要坑道があった場所へと勇弥は泳ぎ進む。人工的な残骸はたくさんあり、一部施設が破壊され廃棄されたのだろうなということが分かる。
     まず主力抗だったとされる第二竪抗に、允は向かった。
    (「炭鉱入り口がねーかなー……っと」)
     地下坑道を塞ぐように、瓦礫が積まれている。
     友衛はじっくりと検分していく。
    (「この辺りの瓦礫は、どこの施設だったものだろうか」)
     周囲を見た感じ、無事に残された施設はないようだ。
    (「大きな組織は痕跡を完全に消すことは出来ない。ダークネスだって海に物を捨てるバカはいるはず!」)
     と、朝乃の考えの通り、廃棄された物が沢山。すべてが潰されゴミとなり海底に沈んでいる。
    「地中施設を丸ごと運搬は不可能なはず。封鎖が水没か、いずれにせよ残るものがあるはずだ!」
     そう言って潜ろうとする鐐の背中に、織姫が声掛ける。
    「鐐さん、無理しちゃダメだよ~無理して怪我したら大変だしね~」
     軍艦島への潜入、その後の鐐。【武蔵坂HC】仲間として、織姫は明るく言った。
     彼の位置と地図を照合するのは、夏奈だ。
    「大きな島がどっかいっちゃうなんてすごいよねぇ」
     夏奈のイルカの浮き輪からクーラーボックスがぷかぷかと浮いている。
     ユージーンは【千川3-2】クラスメイトと共に手分けして探索にのりだす。
    (「何か手がかりがあれば良いのだが」)
     と、カラクリ仕掛けの跡のような物を探す。棄てられた物は沢山あれど、一つ一つ根気よく探していく。
     ふと見上げれば、すうっと泳ぐ硝子の姿。
    (「えと……どういう理屈で動いてるのか、わからないけれど……」)
     岩を見ていく。
     英治は一度水中リサイタルの被害にあったものの、もう一度耳を澄ませる。
     と、硝子に手振りで呼ばれる。寄ってみれば硬い岩を示され、切られたような痕跡を見つけた。
    (「まさか使うことになるとは……!」)
     手頃な岩を使い、たまたま持ってきた大工用具で似たような痕を作るべく試行錯誤した。
     優歌が探すのは、太古のダークネスの存在を示す化石。
     普通の化石は、あるかもしれない。だがそれは、昔に水没したと思われる沈没船を見かけたのと同価値だ。
     だから竜種に結びつくような化石を優歌は探す。
     水深は北から南へと抜けるだけで大きく変化してくる。跡地以外は元々こうだったのだろう。
     中ノ島、三ツ瀬と北から南へ泳いできたシェリーと七狼。
    「もしかしたら海の底に軍艦島に指令を送る塔とか沈んでたりして」
    「成る程、改造する為の施設が海底に在ってもオカシク無いかな」
     シェリーの声を聞きながら、七狼は手を繋ぐ。離れないように、一緒に。
     舟においたカバンからしおり、母国産の炭酸天然水を出すシャルロッテ。
    「疲れたら、休みにきて……」
     更にバウムクーヘンを切り分け、訪れる灼滅者のために準備をする。


     闇堕ちしていたリアナは戻って早々、合宿最終日参加となってしまった。
    「相変わらず優しくない学園よね……」
     そうぼやく彼女のために、ばっちり色々用意してきた翡翠。
    「でも、一緒に海で泳げると思えば楽しい面もありますよ?」
     にっこり笑顔でリアナを励まし、二人で遠泳。
    「そういえばアメリカンコンドルさん、戦艦なくなったらしいですけど変わりの戦艦にしちゃったりとかないですよね……」
    「その形跡も調べて、後はー」
     定礎石でも沈んでいないかな? と、灼滅者達が海底に潜ってみると定礎があった。
     定礎文字の下には『軍艦島秘密基地』と彫り文字が。
    「……」
     探索中にそういうものを見て、目を眇めた雄哉。すかさず持っていた水中カメラで撮影した。
     基地完成を記念して定礎怪人とかが用意したものだろうか。他にも定礎石がないかと探す。
     ごぼっと思わず吹いたらしい葉月は、酸素が一気に無くなった。慌てて浮上する彼をフォローするように錠が同伴する。
     海上ではゴムボートと共に待機していた【武蔵坂軽音部】の美潮、そして朋恵が二人に問う。
    「なにか、ありましたですか?」
     だが葉月は新鮮な空気を取り込むことに必死で、美潮はウンと頷いた。多めに錠に重りをつけていく。
    「オイ……」
    「いざとなりゃ重り捨てればイイし、部長、いってら!」
     イイ笑顔で投下される部長を追うのは、まり花。
    「りんず、きついやもしれまへんが、おきばりやす」
    「気をつけてくださいです」
     朋恵の声を背に、まり花は潜っていく。
    「一緒に潜って、撮ってくる」
     イチとくろ丸も水中カメラを手に二人の後を追い、潜っていった。
     その写真を解析するのは、葉の待機している中ノ島にて。たまに釣り人を乗せた漁船が近寄ろうとするも、灼滅者の姿を見て帰っていくのが見える。
     先に帰ってきた千波耶と時生へ、葉は声をかけた。
    「なんか収穫あったか? イセエビとか伊勢えびとか伊勢海老とか」
     千波耶、釣竿を持つ。
    「調査しながらだとお魚寄ってこなかったから、今から気合で釣るわよ!」
     そう、気合いが大事。
     時生は七輪とバーベキューセットを用意し始める。
    「海底に定礎石があったわ。潜水班が色々撮ってきてくれるはず」
     そう、腹が減っては調査はできない。休憩大事。
    「さすがはダークネスさんたちが改造していた島……こんなことが起こったのに、非常識だとまるで思えない」
     【古ノルド語研究会】の透流は置かれた定礎石を見たのち、言った。
    「これで良いのか地獄合宿……まぁいいか」
     海でのんびりとしつつ、食べ物や飲み物を二人に差し入れていた歩実。
     だが、まだ遠泳は続く。念のために南方も調査するのだ。
    「さて、態々移動した以上、目的地が有る事は間違いないと思うが……」
     南へと泳ぎ向かうアルディマに、透流と歩実がついていく。
     海中から顔を出し、思いっきり吸う新しい酸素はとてもおいしく感じる。
    「せ、先生……」
    「はいはい、まだ動けるわね。動けなくなってからが大事だからねー」
     息も絶え絶えに神音が呼べば、一緒に潜っていたはずの立花は発声もしっかりとしている。
    「……頑張って、潜って、探索してきます」
     沙月が拾うはゴミ、もとい自然の物ではない落下物。沢山の遺留物、それらの一つに手を伸ばさずにはいられなかった。
    「お人形さん、ですね」
     潰れた古い人形に、かつての軍艦島を想う。

    「手がかり……軍艦として動いたんなら錨みたいなの残ってないかな?」
     緊急時なら巻き上げる時間も惜しかったはず、と嘉哉は島の事態を想定し探索していった。
    (「これまで動いてなかった、って事はどこかに楔というか錨というか海底から動かないようにする為の何かがあったかもなー」)
     それを念頭に周は調べていく。
     分かった事はいわゆる停泊状態ではなかったという事。
     同じく、錨が使われていた痕跡を探していた【神木霊碑】のせりあ。海底を這うように泳いでいた彼女は一旦海面を目指してあがっていく。
    「お疲れ様です」
     一足先に調査を切り上げ昼食の準備に入ろうとしていた結城、そして月子がゴムボートに置いていた竿を取ったところだった。
    「お腹が空いたら現地調達って訳でこれを用意してみたの」
     ぱすっと竿を手渡される結城とせりあ。
    「つ、釣り!? やったことありませんしそもそも釣れたらどうやって食べるんですか!?」
    「お味噌汁にでもしますかね」
     そう話していると足ヒレを使って智恵美が浮上してくる。ぷるぷるしていた。
    「大丈夫?」
     浮き輪でぷかぷか浮いて、ちょっと流されてしまった藤花・アリスを牽引しながら戻ってきた蓮華・優希が声を掛ける。
     頷く智恵美。
    「泳ぎはそんなに得意じゃないです」
     アリスの浮き輪に掴ませてもらうと、ほっとした。
     最後尾を泳いだり、「苦いチョコほど血液をさらりとしてくれるらしいね」と言ってチョコを分けたり、と皆の状態を優希はよく見ていた。
    「それにしても望遠鏡……ホント良く見えるわね~」
     ドゥフフと、キングが洋上から近場(というか女子陣胸元)へと望遠鏡を向ければ、銛の先がドアップで視界に入ってきた。
    「!」
     思わず背筋を正す。
    「銛、ですか……? ワイルド、です……!」
     銛を受け取るアリス。頑張ってご飯調達してみるつもり。
     【K.H.D】のみんなと調査する菜々乃は、浮き輪を使ってのんびりと海の中を覗き込んでみた。
     魚がスッと足元を泳ぎ去っていく。
    「元気そうです」
    「島が戻ってくることが、あるのかな?」
     沈みつつ知信は、何か港みたいな施設を探すことにした。いずれ、平和に穏かに元の位置へとおさまってほしい。
    「何か見つけるまで浮上禁止な」
     莉那が鬼教官みたいなことを言って、重りを海飛へと括りつけていく
    (「もし何も見つけられなかったら何されるかわかったもんじゃねえ……!」)
     震える海飛。莉那に抗議? できない。知信は既に沈んでいる。
    「……調査、頑張って」
     槍を重りがわりに潜るサキの応援。サキも、なんとか見様見真似で今日は頑張れそう。
     【souffle rouge】はゴムボートに荷物をのせ、辿り着く。
    「ユーヴェンスはあまり心配ないだろうが、赤音は大丈夫か?」
     桃香が声を掛ける。ボートに掴まって一時休憩な体の赤音はにこっと頷いた。
    「それじゃ、あたしはどこかに沈んでるかもしれない軍艦島を探してくる」
    「そうだな、ともかく、私は何か痕跡がないか深くまで少し潜ってみることにしようか」
     三人で頷く。
    「島全体を引きずった跡があるのか、突然消えたかのように抉られているのか……大きな手掛りになるはずだ」
     ユーヴェンスは、あまり無理はするなよと言い添えて潜っていく。
     潜水前に厳治は【dreiFedern】の面々へと言った。
    「軍艦島跡地付近の水深は比較的浅いと聞く」
     灼滅者の身体能力ならば海底は目視できるはずだ、と。
     探すのは、足跡。またはその他手がかり。
    「はい! 綱司さんと雨月さんが頑張れるように全力でサポートします!」
     綱を持ってにっこりと。応援する美優が言う。
     雨月は、あっさりと見送る。
    「私は活動するのは夜だけです。――だってほらRPGとかだってお宝があるトコは光ってたりするでしょう」
    (「体力の限界まで調査だな」)
     厳治は、そう決めた。


    「はぁ、それじゃまぁ、やりますか」
     溜息を零す御凛だが、万端の準備で挑む。
     不自然に海底を押し潰したもの――足跡がないかと探すのだ。
     雨もまた泳ぎ回り、確認していく。
     一人ずつ潜る【HEROES】、太一もまた何らかの足跡探索。最初は大きな窪みからだ。
    (「世界遺産登録勧告で盛り上がってんのに、取り戻さねーと!」)
     括りつけたロープを持つのは浮き輪に掴まり水上待機中の矜人とゼアラム。
     太一が上がってくると交代で矜人が潜ることとなった。
    「行ってくるぜ」
     島が動いて生じたであろう瓦礫がどこを向いて落ちているか、それを調べる。
    「何か手がかりがあればええんさけんど」
     と、ゼアラムは褌姿。ゆらゆらと浮き輪に掴まる。
    (「戦争で灼滅した甲型仁王の口の軽さに今更ながら感謝します」)
     攻略戦時を思い返しながら、不自然な窪みを理央も探す。
    「空を飛ぶ飛行軍艦になったり、足跡があったら定礎が持ち上げてとかあるかなー」
     浮上し、空を見上げるクロノ。西から東へとふく風。
    (「陸地は盛り上がった地殻がマントルに浮いてるようなものだから陸地を削ると元の高さに比例してまた盛り上がってくるとか聞いたことが有るな。根本から切り離して移動したとしても元あった痕跡までは無くならないだろう」)
     清香はそう推測する。
    「全く毎回生徒に無茶させる……」
     紅葉は呟くと縄を付け潜水し、周囲を見回した。
     軍艦島から少し離れた付近の海底地形に変化は無いようだが、何だか不自然な岩石が点々と。北だ。
     そして、サイキックエナジーを感じ取れた。
     濃度を調べる无凱が、泳ぐ。軍艦島跡地から離れるほど、それは薄まっていくようだった。時間と共に拡散されていくのだろう。
    「さて、流れに身を任せてみるか」
    (「行方不明といいつつ探索コースが決まってるとか……怪しいです」)
     色んな思いを抱きつつ、素潜りをする萌愛もまたエナジーを感じ取り、手を伸ばす。
     見ただけでは分からないので、泳ぎ回って確かめていく。
     クロエはライトを照らし、跡地地層を調べていた。
     周囲には沢山のサイキックエナジー。
    「何だか綺麗な切断面がありますよ」
     崩れてるところもあるけど、とクロエは一緒に休憩する【探偵学部1年】の皆に言った。
    「切断したのち、動かしたのか?」
     考える零冶。今調べている、動力源によるものだと分かる痕跡は不明。
     それでも切断面、崩れた岩の割合から方角は特定できそうだと零冶はメモをする。
    「こっちは、恐らく廃棄されたと思われるもんがあったな」
     と、源治。ダークネス達が捨てた物が海底にあった。
    「……軍艦島がその辺でざばざば泳いでたら笑うっきゃないかもしれないなあ」
     一樹が少し遠い目で呟いた。海岸沿いで目撃多発してそうだ。
    「もう少し範囲を広げてみるぜ。ごちそうさん、また後でな」
     携帯食の礼を言い、ライト片手に勢い良く源治は海に潜っていく。
     見送った誠士郎もまた立ち上がった。
    「では、俺はまずこの付近の岩礁を調べてみよう」
     あれだけ大きな軍艦島が綺麗に消えているのだ。岩礁に接触した可能性はある。
    「ぶつかった所を結んでいけば、軍艦島が進んだ方角も分かるかもしれないからな」
     誠士郎の言葉に、同じく島の痕跡を探す一樹が頷いた。
     軍艦島は切断されたような感じだ。
    「おいおい、本当にスパンと切られちまったのか」
     利戈がやや驚いて呟く。
    「ま、いいや落盤はあるだろうし、調べていこう」
     じっくりとそれを眺め動いた際の痕跡を見定める陵華は、写真を撮り、一旦浮上した。【びゃくりん】の拠点へと戻れば、同じく古海・真琴もやってきた。
    「切られてましたね」
    「方向の確認もしないとだな」
     包囲磁石を手に、陵華。
    「おっかえりー。焚き火してるからあったまってねー♪」
     今までに引き上げたものを調べていた向日葵が、振り向いて出迎える。
     跡地海底は断面となり、一体どの位置で切断されているかというのも調査対象に入ってきた。
     そして、移動手段。
    (「まさか足跡が残ってるとは思わないっすけど、島に脚が生えて歩いていったって言われても、もう驚かないっすからね」)
     と、ギィが目を眇めて周囲を眺める。
     海底が見える高さを保ち、周囲を見回しながら泳ぐ【文月探偵倶楽部】の毬衣。
    (「大きいものを引きずった跡とか、妙に平らになった地面とか、そういうの無いかなー」)
     移動の痕跡を調べる毬衣は跡地近くの海底から、徐々に範囲広げていった。
     老朽化した外壁が剥がれ落ちているかもと、巽・空。
    (「探偵倶楽部として、この謎は何としても解決しないとですね!」)
     辿ればおのずと方向も分かってくる。一つ一つ、視界におさめながら空は泳いでいった。
     ブイのところで、調査しているのはレミだ。事前に調べてきた潮の流れと、何かが引っ掛かりそうな岩礁を、地図にピックアップしてみる。
    「えーとあとは、風の向き、っと」
     頭を使い残留物の流れ着く先を予測してみる。
     海底に発光塗料で「済」と描いた缶バッジを置いたあと、浮上したミカエラは地図を埋めていく。
     その時、たまたま近くにいた桐香が浮上してきた。
    「あ、桐香ー。石炭あった?」
    「あるにはあるのですが、痕跡とは判断できない程度ですわね」
     何らかの力で無理矢理動かしたのなら、地下の炭鉱部分が露出しているはずだと考える桐香。
     一体どの地点で切断されていったのか。
     気になる所をカメラで撮っていく直哉。周辺地形にあまり変化はないように思えた。
     そんな彼の肩を誰かがトントンと叩く。
    「?」
     新だ。泳ぎ連れて行かれた場所は、島の外周ともいえる部分だ。
     新は地面を指差し、海底にはりつく。
     窪みがある。たくさんの窪み。それらをカメラで撮り、二人は浮上した。
    「な、何だこりゃ」
    「……僕にはゾウの足跡に見えるね」
     謎の足跡は粘土質のような海底部分、水流の緩やかな部分などで見つかっていく。
     彩花は柔らかな砂部分に突き刺さっていたアフリカの植物を持ち、ふるふるとその手を震えさせた。
    「これは食べかけですか。な、なんてお行儀の悪い……!」
    (「あ、あったー」)
     海中の岩の割れ目などを見る弥勒。水中カメラを構え、一旦構えを解き、また構える。
     レンズが悪いわけではなさそうだ。
     効率よく調査する【撫桐組】は、バオバブの実など食べた物としての残骸を見つけていく。
     撮影し、映像として記録する宗嗣。謎の足跡も記録した。足跡情報は灼滅者達に行き渡り、地図上に書き留められていく。
    「岩陰にバオバブの残骸がありやした」
     ロープを伝って浮上した娑婆蔵が、どこか遠い目で言った。何となく貝塚を思い出していた。
     ビート板をつぎはぎして作った待機場所、そこに広げた地図に書き込む鈴莉。多くはないが軍艦島跡地周辺に点々と。
    「大体、足跡の近くにあるね」
     鈴莉が地図を見て言う。
    「足跡……こういうものを予想してたわけじゃねぇんだけどな」
     要心が映像をじいっと見つめる。
    「アフリカンご当地怪人、か?」
    「何か作業していたのかな?」
     鈴莉の言葉に、宗嗣も頷いた。
    「出港準備だな」
    「こ、これ……アフリカンご当地怪人たちのランチとか……いやいやいや」
     呆れたような声の鈴音が続く。
     ともかく、軍艦島移動前に怪人たちが海底などで作業していたのは確かなようだ。
     アフリカ植物の残留、そしてアガルタの口があったと思われる部分を調べていく灼滅者たち。
     調査を重ねていくと見えてくるものがある。
    「アフリカンパンサーも一緒に行きやしたか」
     娑婆蔵が言った。
     軍艦島は、秘密基地部分で切断され、移動していった。
     切り離されたと推測していた武之介は、何故動くことができたのかの調査をしている。
     目立つ痕跡はなく、動力源自体は基地内部にあったのだろうということが分かる。
    「……はぁ」
     岩礁に座り、遠い目をする武之介。やっぱり素潜りはおかしいと思った。
     基地よりも下にあった坑道は残されているようだ。
    「麦茶どうぞ」
    「あ、ありがとうございます」
     通りかかった蒼司が飲み物を渡して泳ぎ去っていく。
     海を泳ぐと蒼司はある事を思い出す。
    (「……昔やった修行の時に火サス的な崖から突き落とされたっけ」)

     【ゆめあと】の瑠々は頭に叩き込んだ海底図を元に、更に調べていく。
    (「ロクでもない事に使われるであろうあの島の正確なサイズを計っておく事は意味があると思うのじゃ」)
     同じく調べる彩歌。
    (「実際に、軍艦島が動いている光景……というのは、見てみたいですよね」)
     切断面をなぞり想像してみる。
     海上では拠点とするゴムボートで留守番をする依織。
    「……コレを辿れば、ここに戻れる」
     そう言って彼女たちに結わえたロープと非常食を交互に眺め、本来ここにいるはずだったもう一人のことを考える。
    (「軍艦島の移送は、ダークネスにとっても簡単じゃないはず」)
     活動の痕跡も見つけられればと考えていた紅緋は、やはり、と思った。
    「この辺りっすかね」
     大きく息を吸い、天摩はアガルタの口があった付近に向かって潜った。行き着いたのは海底の切断面。
     アガルタの口も秘密基地内部、軍艦島と一緒に移動したのだろう。
     彩は海底で手を彷徨わせていた。
    (「本当になくなってる……」)
     もしかしたら見えないようにしてるだけかも、と思っていたが、軍艦島はない。
     後ろを向けば文具が手がかりを探し、泳いでいる。海底火山は今回の件には関わっていないようだ。
     そして、アガルタの口に関する手がかりがないかと。
    (「一体どこに向かって?」)
     常に考えを巡らせて。
    「悪いな春虎君。調査に付き合って貰って」
    「クレンドさん、僕らに遠慮など要らないでしょう?」
     ベレーザの研究で使われたかもしれないクリスタライズに関して調査をするクレンドと、春虎。
     それらに関するものは今のところ発見できていないが、かわりのものが見つかる。
     時を同じくして。
    「人工島は他にもあるみたいやし、そこらとの関係はあるんかな。ウァプラがブーネと会っとった第一海保も人工島みたいでな」
    「人工島には何かあるとでも」
     そんな会話をしつつ、純也と燎は、ピンポイントに巳型調整プールがあった周辺を探す。
     これらに狙いを絞った灼滅者たちは、早々と見つけることができた。
    (「これは、巳型デモノイドの関連設備デスか?」)
     辺り一帯の探索から、巳型デモノイドの痕跡探しに切り替えたラルフは、破壊されたそれを見る。
     ベレーザは灼滅され、研究続行不能になり廃棄されたのだろう。
     一見、無事に残っている物など無さそうだが、根気よく灼滅者たちは調べていく。
    「何かお手伝いできることがあれば言ってください」
     そう声掛けしていた通にも要請がきて、一緒に残骸を調べていく。
     久良は工具を使い、掘って取り出すも、やはり物はゴミにしか見えない。
    「気合い入れていこう」
     浮上し、新鮮な空気を肺に取り込み、もう一度潜水していく。
     徹もまた巳型デモノイドの遺留品を探しつつ、縄網に発見品を入れていった。
    (「研究中に棄てられた子が、いませんように……」)
     地下坑道は深く、もしかしたら、という可能性は徹の心に荒波をたてる。
     サポートに回り手助けるのは四刻・悠花。
     大きめの水中用懐中電灯を使い、照明係に徹する。
    (「他にすることがあれば、遠慮なく」)
     と身振り手振りで伝えた。
     手分けして痕跡を調査する【戦戦研】。
     切り離されていることを視認した紗矢が浮上すると、獅音が出迎えてくれる。
    「ただいまだぜっ」
    (「は~、獅音ちゃん可愛いな~」)
     潜水から戻れば、まず目に入るのはふさふさの尻尾。
    「破片、たくさんあるね」
     海底から戻った七葉が、狭霧に伝えた。移動時破片はあちらこちらとあったが、北へ向かっていることは分かった。
    「どんな些細なコトでも見落とさない様にしないと」
     徹底的に調べてみるつもりの狭霧。七葉もこくりと頷く。
     コンクリブロックを持ってダイブする紅詩。地形はあまり変化していないようだが、進行方向と思わしき岩は砕けている。しばらく周囲を調べたのち更に浅瀬付近を調べるべく、紅詩は浮上した。
     中ノ島にベースキャンプを作って情報をまとめる松庵に、一旦戻ってきた矧が情報を持ってくる。
    「南でないのは確かでした」
     いくら切断したとはいえ、いざ動くとなれば岩石が崩れる。それらを調べ、全体像を見出すのだ。
    「海上を進むとなると……」
     地図を広げる松庵。聞いた痕跡を元に細やかな矢印を描いていく。
     北に向かっていたフォルケは近い岩礁に掴まり、小休止をとることにした。海原を眺めれば、北を目指す灼滅者たちの姿がちらほらと見えた。

    「一旦、栄養補給して向かわれては如何でしょうか」
     紫桜里は、そんな彼らにゼリー、スポーツドリンクを差し入れていく。
    「あ……。ありがとうございます」
     受け取った鏡月・空は、ゼリーを一口。
     彼もまた北へ向かう。
    「遠泳、素潜り、また遠泳ってふざけんなー」
     筏で携行型七輪セットを使い、ぼやきつつ一誠が海の幸を焼いていく。
    「あ、焼けたのからどうぞデス!」
     周囲の灼滅者たちにオルトリンデが振舞っていく。
    「マガッチーさん、何だか頼もしいデスヨ!」
     魚捌いて貝も割り、サバイバルフルセット。一家に一人、一誠。
     潜行して調べるユエファ。
     島から零れ落ちた瓦礫や、植物、擦れたような痕跡を探し着実に進路を見定めていく。
    (「行ける所まで頑張るします……よ」)
     一度浮上し、北東へと向かう。
    「……ここが正念場」
     何人かの灼滅者たちが北へ向かいだしたのを察した玖礼もまた、呟いて確かめに泳ぎ始めた。
     落下物はあれど距離を稼ぐごとに徐々に少なくなっていく。
     それなりに泳ぎに自信のある晶もまた、移動で落ちたと思われる残骸を見て遠泳続行することにした。
    「あまり無理ない程度に行っておこう」
    「あんだけでかいもんが動いてりゃ、どっかにぶつかったり擦ったあとがありそうだし」
     昴は霊犬のましろの浮き輪に掴まり、痕跡を辿っていく。
     供助は北に向かう。やや北東。
     付近の岩礁が崩れたり、瓦礫がないかと探しつつ泳ぐのだが。
    「西に航路を変えた、のか?」
     考えてみれば北東には九州がある。もし上へ向かうのだとすれば一旦北西に舵をとるだろう。
     調査の結果、一旦進路を北西に切り替えたようだが、最終的に、軍艦島は北東へと向かったのであろうと推測できた。


     絹代が関与を疑うのはアメリカンコンドルとかデスギガス。
     その痕跡を探すも。
    「潜る時間も長くなってきたカンジ!?」
     鍛錬兼ねて、大きく深呼吸し何度も何度も潜水。
     跡地を離れるように泳いでいく【小箱】の面々。
    「ちょっと休憩するよー! 紗月先輩の浮き輪にお邪魔してもいい?」
    「はい、どうぞ」
     と、言った紗月は掴まる浮き輪の外側でぷかぷか浮いているので一旦潜った花火は「とうっ」と輪の中に入った。
    「それにしても、動く島なんてお話みたいです。不思議ですね」
    「ええ、それによって、魚たちに影響がなければよいのですが」
     紗月の言葉に応じる恵理の手には水中カメラ。魚類の回遊ルートを調べ、照合するのだ。
     水着の紐が岩に引っ掛かって危なかったりとハプニングもあったけれど、ようやく休憩だ。防水の袋から魔法瓶を取り出す【桜花香】の鏡花。
    「温かいお茶を用意してきたけど、飲む?」
    「ありがとうございます。わたしは、お菓子を。少しぐらいお腹に入れておいた方が活力がわきますよ」
     温かなお茶を受け取った蒼香は防水ポーチに入れたクッキーを取り、二人に差し出した。
    「ん……ありがとう……鏡花……蒼香」
     差し出されたそれを受け取る零桜奈。飲食をするだけでも、大分違ってくる。
     どうにか岩礁に泳ぎ着いた瑠理香は、しばらく休んだあと防水袋から出した機材を設置しはじめる。
     ふわりと漂う美味しそうな香り。
    「あ! あそこいきましょう!」
     気付いたハリマが引っぱるロープの先には、浮き輪に掴まる露香。
     無事に陸地につけたらいいなぁ……と力尽きて流されていた彼女。
    「温かいスープをどうぞなのですよ」
     瑠理香が差し出す、温かい物。天使か。
     ここで会ったのも縁だと情報交換をするのだった。
     探索は交代。潜るリコが見上げれば、ゴムボートから顔を覗かせているらしい夏樹がゆらゆらと揺れていた。
    (「ずっと見てるのかな? ふふふ、後で弄ってみよっと♪」)
    「ずっと眺め――いや、安全のためです。安全のため」
     見守るようにリコの姿を確認し続ける夏樹は、まさか海中で恋人がそんな悪戯めいた笑みを浮かべているとは思わずに。
     三ツ瀬まで遠泳してきたレイとシュウは休憩に。
    「しかし、この時期に水着だけだと冷えるな」
     ふるりと体を震わせてレイに、シュウは上着を羽織るよう促す。
    「シュウは大丈夫か?」
    「……風邪引かれちゃ困るからな――」
     そう言った瞬間、くしゃみ。
    「シュウ」
    「……俺は寒くねぇ。大丈夫だ」


     犬かきの阿曇。
     海底は、まあ、うん、常識的な状態だと言える。磯良はそう判断した。
    (「軍艦島が無い時点で常識的じゃないけれど」)
     切断面に目を瞑り、瓦礫を撤去すれば普通の海底だ。
    「頑張って空飛んでみようぜ、軍艦島」
     と、ぷかぷかと浮かぶ丈介が空を眺め呟いた。もっとロマンを追及してほしい。
    「やはり日本海へ向かったとみるべきでしょうか」
     【空教室】の調査をまとめつつ、璃羽が言った。考え事には唐辛子だ、齧る。
    「北なら、それしかないよね。ところで休憩どうしようか、三ツ瀬までいってみる?」
     と、燈。
    「さっき璃羽ちゃんが三ツ瀬まで坑道は繋がっているらしいって、言ってたね。行ってみたいな」
     カノンに持ってもらっていたホースを回収しつつ、麗が言う。
     こくりと燈は頷いた。三ツ瀬は薄らと視界に入るくらいの距離。
    「あそこまで行くのが辛かったら、燈が引っ張ってあげるからね!」
     ザ・グレート定礎の顔から出てきた紙、ダヴィンチコードを探してみる遥香。
    「んー、見つかりませんね。やっぱり大事なものだったのかな」
     水の抵抗もあまり受けずに浮上する遥香だった。
    「クリオネに似てるのなら泳ぐのも余裕だろ」
     と、蒼騎は白豚と共に遠泳し一緒に潜水。
     白豚は調査そっちのけで海洋生物を追いかけ、そして生態系に変化は無いか、と調査する蒼騎であった。
     灼滅者同士、情報は共有されていく。
     海流の調査をする一正。適度な休憩を挟み、疲れすぎないように。
    「さて、魚はとれるかな」
     魚は素早く、今のところ捕獲できていない。
     生態系への影響は気になるところだ。
     シエナも周辺海域の生物の調査。
    「それにしても魚はさすがに速いですの」
     今のところ大きな変化は見えないが、根気よく調べていく。
     総合的に調査の結果をまとめると、海の生態、水深、水温、潮流などは特に変化がないようだった。幸いだといえよう。


     何だかんだと、二人で潜ると海中遊泳となり楽しい。
    「キツいけど、楽しいな凛子!」
    「うん! すっごく楽しい! また一緒に、遊びに行こうね樹里!」
     調査の傍ら拾った貝殻たちは、樹里と凛子、二人の思い出になりそう。
    「グレート定礎は『今の我は日の本の大地に触れ続けぬ限り、活動を保てぬ』と言いました」
     統弥が呟く。
     ザ・グレート定礎は、『今』どんな状態なのだろうか。
    「何らかの方法で追跡できれば良いのですけれど」
     藍が海原を見つめて言った。刻一刻と情勢は変化していく――。
     出発前、港付近で聞き込みをしたシグマ。
     尋ねたのは海域海流の事。
    「そういやぁ、軍艦島はグレート定礎の肉体となる地……とか言ってたな」
     情報をまとめつつ、考える。
    (「……いっそ潮の流れに乗ったらどこに流れ着くか試してやろうか」)
     と雷歌は、流れに身を任せる。
     帰りはとても遠泳するはめになるかもしれない。
     それでも試す価値はあった。
    (「そういえばバベルの鎖で見た時は日本海溝にダークネスが沈んでいったよな」)
     既濁は北を向き、考えた。
     対馬海流は日本海へと続いている。
    「そういや軍艦島ってどうやって移動してるのかな。歩き? 泳ぎ?」
    「めっちゃクロールとかしてるんじゃろうか」
     【糸括】の和奏と心桜の思い描く軍艦島は何だか可愛い。
    「移動途中で業大老とかち合ってたりしてな」
     明莉の言葉に、軍艦島・和奏、業大老・心桜が浮き輪でどーんとぶつかってみる。
     可能性としてはありえるかもしれない。
    「ところで心桜、預けてたご飯……」
    「あ、和奏嬢のご飯はあるけど明莉先輩のご飯は食べちゃった」
     あっさり言われ、沈んでいく明莉に、慌てる和奏。
    「良かったらチョコどーぞ。って、あ、コレ溶けてる……」
     沈んだ。
    「フクミミーの話、聞けなかったねー」
     芥川・真琴が残念そうに言った。ミスター宍戸のことである。声を出すたびにぶくぶくしていた。
    「今後、聞き込みをしてみるのも手かもしれません。ところで、あの、真琴さん」
     楓が、そっと呼ぶのだが。
    「まことさんに構わず先に進むんだ……」
     慌てることなく自然な感じで沈んでいく。
    「ほわぁー……海って広いんやなぁ」
     遠泳中の乃麻は、高島付近の漁師や釣り人に話を聞くことにした。
     そして、あっち行くのを見た、と、北を指した答えが得られる。
     沖釣りをしている漁船に大郎と詩乃は向かった。
    「潮の流れ? この辺りは読み難いからなぁ」
    「では、漁獲量に何か変化はなかったでしょうか?」
     詩乃が聞くもそれも気になった点はないという。大郎も続けて尋ねる。
    「軍艦島が移動するところを見ませんでしたか?」
    「いいや。やけど、無いのは見たとよ」
     軍艦島近くの礁で見張りをしていた沙霧は、大きく外回りをしてきたらしい北からの漁船へと泳ぎ近寄った。
    「あの、すみません!」
    「!? 遭難しよっと!?」
    「……いえ、遠泳中でして」
     そんな会話を経て『土佐』のラミネート加工した戦艦写真を掲げてこんな船を見なかったか、と尋ねると同船していた釣り人が「見ただけだけど」と挙手した。
     バベルの鎖があるから、直接話を聞かなければならないのが難だが、今後、日本海側の漁村や釣り人に話を聞いていけば、軍艦島の行方を知る手がかりが得られるかもしれない。

     手応えのある情報は勿論、無かったこと、ものもまた情報となる。
     時間と気力の許す限り、跡地海域を調べた灼滅者たちは、やりきった。
     今年の地獄合宿を無事に終わらせた。
     後もう少し、気力を振り絞り、学園に帰ろう……!

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月14日
    難度:簡単
    参加:279人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 29
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