笑う爆弾:爆弾を抱いて陰鬱と

    作者:藤野キワミ

    ●呪詛を吐く
     沖縄の久茂地川に沿うように設置されている駅のひとつ、旭橋駅。
     これらかモノレールに乗り込んで、首里城を目指す者、空港へ行く者、その他の目的で歩く者、また帰ってきた者、フェリーターミナルへと向かう者――行き交う人の声はどれもが楽しげで、幸福感に満ちていた。
     しかし昏い眼をした彼女には誰も気づかない。
     ゴミ箱と、一番線上りエスカレーターの間の僅かな隙間に身を潜めている女には目もくれず、人々はもうじき到着するモノレールを待ちわびていた。
    「笑うな気持ち悪い、笑うな気持ち悪い、反吐が出る、死ね、死ね、殺してやろうか、笑うな、笑うな……」
     女は、ぶつぶつと呟き呪詛を吐く。
    「幸せそうにしやがって、みんな死んじゃえばいい、誰も笑わない世界になればいい、それならいい、それがいい、みんなで壊れちゃえばいい……」
     はっきりと聞き取れない、唇は僅かに震えるだけ。
     茫漠と、陰惨に、暗澹と、陰鬱に。
     茶色のくたびれた革のカバン――爆弾を胸に抱いた女は、赤茶の昏い目になにを映すでもなく、スマイルイーターの言いつけ通りに、僅かな隙間に座り込み、ただただその時を待っていた。

    ●唾棄すべきは
     エクスブレインの少年は、灼滅者たちの顔を見、口を開いた。
    「沖縄のスマイルイーターが起こしている事件は既知のことだろう。やつは『沖縄に爆弾を仕掛けた、こちらに攻撃を加えるとそれが爆発する』と言い、戦闘を避けてきた。しかし、ついにすべての爆弾の場所が特定された。これでやっと爆弾の撤去作業が行える」
     爆弾についての調査を行ってくれたみなのおかげだ、と少年は礼を述べた。
    「ここに集まったみなには、銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)さんが爆弾を見つけた『ゆいレール旭橋駅』に行って欲しい」
     しかしただ撤去すれば良いというわけではなく、仕掛けられた爆弾には護衛役の六六六人衆が控えている。
     この六六六人衆は、佐々木・ココロという名の女だ。この女が隠れているところを襲撃し、灼滅、その後爆弾の撤去を行えば任務完了となる。
     ただし、注意しなければならない点がある。
     この作戦が事前にスマイルイーターに露見して、爆弾の爆破命令を出されてしまうことだ。
     そのため、前準備としての避難誘導等の常套手段は一切使えない。
    「決行日は五月八日十五時だ」
     このタイミングがスマイルイーターに察知されずに作戦を実行できる時間帯になる。
     金曜の午後三時だ。旭橋駅には多くの人が行き交っている。もし作戦が失敗すれば多くの被害が出ることは、火を見るより明らかだ。
    「まずは佐々木・ココロについて説明しよう」
     赤茶の長い髪、同じ色の目、きつね色にこんがりと焼けた肌をした、実に健康的な見た目をしているが、その精神はスマイルイーターによって砕かれている。
     以前は笑顔のとても可愛い女性だったのだが、HKT六六六にスカウトされた後、その笑顔が気持ち悪いとスマイルイーターによって、徹底的に貶められ詰られ弄られて、心を壊されてしまい笑顔を永久に失ってしまったようだ。
     そんな役に立たなくなった佐々木へスマイルイーターは、四六時中爆弾を監視させるだけの仕事を与えているという。
     佐々木にはスマイルイーターに逆らうだけの気力も度胸もなく、忠実に爆弾の護衛をしているし、スマイルイーターの命令がなければ爆弾を爆発させるといった行動はしないため、戦闘中は爆弾に気を取られることはないだろう。
     佐々木は殺人鬼のサイキックに似た技を使い、燃え盛るクルセイドソードのような武器を持ち、呪詛を吐きながら攻撃してくる。呪詛はトラウマを呼び、延焼によるダメージも想定しなくてはならない。
     また回復の手段も持ち合わせているらしく、バッドステータスを吹き飛ばして、妨害能力を高めてくる。
     ジャマーの位置で立ち回る佐々木は、非常に身軽で冷静にこちらの攻撃を見極めてくるだろう。
    「ただし、佐々木には配下はいない。確かに厄介な敵ではあるが、数の利はこちらにある」
     この佐々木と接触するタイミングだが、二番線のモノレールが出発してからが最良だろう。このモノレールが出てからの約九分間は、駅への列車の乗り入れはない。
     人の波がある程度収まってから、声をかければ戦闘へと持ち込める。
     その場――改札を通った先のコンコースでの戦闘となるだろう。一般人をまるべく巻き込まないように配慮しながらの戦いはやりにくいものがあるだろうが、お前らにならできるだろうと、エクスブレインの少年は彼らを見回した。
    「佐々木の灼滅が成功して、確保できた爆弾は、周囲に人のいない海まで運んで爆破させてほしい」
     みなはバベルの鎖の効力によって、たとえ至近距離で爆発したところで、特にダメージとはならず、危険がおよぶことはないだろう。しかし一般人はそうはいかない。なので運ぶ際も慎重に行ってほしい。
     少年は続ける。
    「やつの策略の根幹たるこの爆弾をすべて撤去できれば、KSD六六六の壊滅作戦を行うことができるだろう。
     沖縄で暮らす人々、またたまたま訪れていた人々の笑顔を守るためにも、必ず成功させてほしい」
     彼は語気強く言って、灼滅者たちを送り出した。
     唾棄すべきはスマイルイーターだ。


    参加者
    泉二・虚(月待燈・d00052)
    暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)
    渡橋・縁(神芝居・d04576)
    村山・一途(硝子細工のような・d04649)
    銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)
    ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)
    丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)
    桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)

    ■リプレイ

    ●爆弾を抱いた女
     15時1分、那覇空港方面のモノレールが定刻通りに到着する。
     一気に慌ただしくなるコンコースに、銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)らはいた。
     目標はすでに補足できている。
     ゴミ箱の奥にひっそりと身を潜めて、昏い眼をした女がいた。エクスブレインの言ったように、革の鞄を胸に抱いて、うずくまっている。
     赤茶の長い髪、同じ色の目、きつね色にこんがりと焼けた肌をした女――彼女がスマイルイーターに心を砕かれた、佐々木・ココロだ。
    (「同情できるところもありますけれど、誰かの日常を害するというなら、捨て置けません」)
     彼女の姿をその目に入れて、渡橋・縁(神芝居・d04576)は決意を固める。スマイルイーターの計画は腹に据えかねる。到底許せるものではないし、それに唯々諾々と従う佐々木を見逃すことは、縁には出来ない。
    「……楽しそう」
     流れてゆく人々の笑顔を見やって、暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)は紫瞳をわずかに細めた。
     誰も笑わない世界はきっと悲しくて寂しいに違いない。サズヤは唇を引き結んだまま、スマイルイーターによって引き起こされたこの事態を、思う。
     誰もが自然に笑顔になれるような、この平和を守ってみせる――この笑顔をおびやかす爆弾を始末しなければと、桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)は、
    「花火は遠くに在りて見るものです――ひとつ、大きすぎる爆竹の回収と参りましょうか」
    「そうだな、好きにさせることはできない」
     丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)と泉二・虚(月待燈・d00052)は頷き合う。
     人の流れが治まってきた。
     ホームから降りてくる人がほとんどなくなって、灼滅者たちは目配せし、合図を交わす。
     ルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)は、靴音高く佐々木に近づく。
    「こんにちは、いきなりだけど爆弾を渡してもらうよ!」
     うっそりと赤茶の目が動いて、ルリを睨みつけた。乾いた唇がわずかに動く。
    「あんた、誰、なに、死にたいの、殺してほしいの、そう、死にたいのね、殺してほしいのね、笑うな、気持ち悪い、死ね、死ね、死んじゃえ」
     胸に抱いた鞄の持ち手に腕を通し、リュックのように背負ってゴミ箱を蹴っ飛ばして、狭い狭い隠れ場所から出てきた。
     手にはすでに燃え盛る刀剣を携えている。
     瞬間、コンコース内に僅かに残っていた人々の悲鳴が上がる――が、
    「入ってこないで! 改札から出て!」
     村山・一途(硝子細工のような・d04649)のパニックテレパスが発動して、逃げ惑う人たちが誘導される。
     トイレから出てきた人へ虚は出口を指差し、佐々木から守るように体を滑り込ませ走るように声をかけ、どす黒い殺気を垂れ流す。
     虚の殺気が纏わりついている彼女の眼前に躍り出た小次郎は、出現させた頑丈な盾を振り下ろす!
    「人殺しのおもちゃのお守は楽しいかい?」
    「あの方が言った、あの方が、あたしにしかできないことだと、笑うな、あたしにかまうな、死ね、死ね、死ね、死ね死ね!」
     呪詛を吐くように佐々木は、刀剣が噴きあげる轟炎を殺気に纏わせて、前衛に展開する六人を飲み込んでいく!
     心の奥底にあるトラウマを呼び覚まさせるような呪詛は止まることを知らない。
     彼女の心の闇が口から垂れ流されているようだ。
     紫桜里は炎に身を焼かれながらも《月華美人》を握り、佐々木の死角へと走り込んで、強烈な斬撃を見舞う!
     殺界を形成し、なにも知らない一般人がコンコースに入ってくるのを防ぐ縁は、紫桜里の攻撃で体勢を崩した佐々木へ疾駆――片腕を異形へと変貌させて、とてつもない力で殴りつける。そしてレイザースラストが放射される。
    「村山さん」
    「さあ、行きましょう」
     二人は短く頷き合う中、サズヤが佐々木へ肉薄――瞬間、猛烈なラッシュが叩き込まれていく!
     拳打が終わる頃、サズヤの目の端を駆け抜けるプラチナブロンド。萌愛は鋭く呼気をして、流星のごとき閃光を走らせ華麗な跳び蹴りをぶちかました。
     短期決戦型の前のめり陣形を後ろで支えるのは、ルリだ。
     彼女の巻き起こした清廉な風が前衛の炎を吹き消し、トラウマを消し去っていく。
     こうして、爆弾を巡る戦いは始まった。

    ●笑みを喰われた末に
     コンコースは完全な戦場へと化した。パニックテレパスによる誘導は強引に功を奏して、サウンドシャッターによる断絶と、殺界形成による人払いが完成し、そこには人はいなくなった。
     しかしそんなことなんぞどこ吹く風と、佐々木の繰り出す炎剣は、正確無比にこちらにダメージを蓄積させていくが、ルリの風が、やわらかな光が致命傷へとなる前に癒していく。
     そして、攻撃に専念するクラッシャーたちの、バッドステータスを付与する一手一手は、確実に佐々木の足枷を増やしていく。
     服はぼろぼろに破れ、炎にまみれ、腱を断たれ動けず、怒りで我を忘れる瞬間に佐々木は、歯がゆそうに眉根を寄せる。
     だが、彼女は倒れない。
     スマイルイーターに逆らえない状況の彼女に何を言っても無駄ではあろうが、その姿に憐憫を覚えずにはいられなかった。
    「……笑顔は、奪われるものじゃない」
     思わずサズヤが囁いたのを、彼女は聞きもらさなかった。
    「なにを言ってるの、あたしの笑顔は気持ち悪い、みんなの笑顔も気持ち悪い、だったら壊さないと、見れなくしないと、気持ち悪い、気持ち悪い……」
     陰惨と呟く佐々木の心は砕け散っている。
    「……もう、恐怖と絶望しか感じていないんだね。貴女の魂と尊厳を守るためにも……灼滅します」
     ルリの決意はなお強固なものになる。
    「先刻、遁甲盤を回してみましたよ。吉と出ました――あなたの行く末です」
    「なに言ってるの、バカなの、そんな気休め、あたしに関係ないじゃない、なんで笑ってるの、むかつく、むかつく……むかつく!!」
     轟然と燃える刃は凶悪な切れ味でもって小次郎へ襲いくる――燃え広がる魔炎は小次郎の四肢を焼き、忍び寄るトラウマを見ないように、佐々木を見つめる。
    「大ありです。あなたはスマイルイーターから解放される」
    「世迷言を言わないで、あの方は絶対に、あたしを自由にしない、だれも自由にしない、あの方の命令を守れなかったら死ぬだけ、解放なんて、ありえない!」
     萌愛の螺穿槍を剣で弾き返し、紫桜里の激烈な雲耀剣を一歩跳び退って躱し、しかし、そこへ虚が月光衝を放つ!
     冴え冴えとした閃光に焼かれ、佐々木は積み重ねてきたジャマーとしての糧を失い、おまけにダメージまで食らう。
     ぐうと喉の奥で唸っていたが、一切の容赦を捨て去った縁の、強烈な魔力が叩き込まれた。激烈な力の奔流は佐々木の体を駆け巡り、内側から残忍に破壊していく。
     攻撃あるのみ――閃いたのは一途の剣だった。唇の端から垂れた血を手の甲で拭って、紫桜里を睨みつけた。
    「そんなにきれいな顔して、楽しそうに笑うんでしょう? 気持ち悪いわ、本当に、死んじゃえばいいのに、あたしが殺してあげるわ!」
    「できるものならやってみなさい」
     売られた喧嘩を買った紫桜里に、佐々木は炎剣を振り上げ、一瞬後それは振り下ろされる。
    「あまり挑発するなよ、銀」
    「泉二さん、そうですね」
     鏖殺領域を展開させた虚の声に、紫桜里は肩をすくめた――が、すぐに気を取り直して疾駆する。《陽炎》のソールから炎が上がる。猛然と燃える蹴撃を放ち、佐々木の四肢は魔炎にまみれた。
    「紫桜里さん、治しますねー!」
    「ありがとう、助かるわ、ルリさん」
     後衛からルリの声がしたと同時に、祭霊光が打ち出された。清浄な光に包まれ、今しがた負った傷が癒え、トラウマが消えていく。しかし炎を吹き消すことはなく、紫桜里の身を焼いたままだった。
     しかしルリの献身的な治癒のおかげでバッドステータスは蓄積されていない。これぐらいならば、次のルリの一手まで耐えられるだろう。
     誰もがそう判断して、佐々木の方を向いた。
     萌愛は閃光百裂拳を、サズヤはティアーズリッパーを、そして小次郎は斬影刃を放つ。
     そのすべてが急所に当たって、佐々木の体力を大きく削った。
     ぜいぜいと肩で息をしながら、なんとかスマイルイーターの命令を遂行しようと、傷を癒した――が、攻撃一辺倒の灼滅者たちの猛攻の末に重ねられた足枷の数々は解除に失敗していた。
     息も絶え絶えに、こちらの攻撃に備える。
     だめ押しとばかりに虚のヴァンパイアミストが前衛の六人の破壊の力を増幅させる。
     縁の神霊剣、一途のティアーズリッパー、萌愛の螺穿槍、小次郎の影喰らいが次々とヒットして、
    「はあ!」
     紫桜里の覇気が烈声に発露して、腱を断ち切るがごとき一刀を閃かせる。
    「ん……もう、諦めたら?」
     いろんな感情が内包されたサズヤの声に乗せて、神霊剣を繰り出し、佐々木は息を飲んだ。
     前衛の傷を癒すルリが発生させた風が吹き抜けていく。
     素早く厄介な敵とはいえ、虚の援護、ルリの徹底した治癒――そして、防御を顧みない攻撃特化の陣形に佐々木は、徐々に防戦一方になっていった。
    「諦めるとか、意味わかんない、笑顔は気持ち悪いもの、それを排除するの、だってそれをあの方が望んでいるから、あたしはそれを遂行するだけ、笑顔、壊す、殺す、死ね、し、……!?」
     怒りに身を任せ小次郎に斬りかかった佐々木だったが、重ねられた足枷の効力が発揮され、その場から一歩も動けず瞠目した。
     紫桜里が《月華美人》を一閃――破られ裂かれた服がさらに無残に千々になる。
     縁はとどめと言わんばかりにマテリアルロッドにありったけの魔力を注ぎ込み、それを爆発させた。
     萌愛のスターゲイザーは寸でのところで躱されてしまったが、生まれた隙を小次郎は見逃さなかった。
     堅牢な盾を力の限りに振り下ろし佐々木を殴打する。
     そして間髪入れずにサズヤが躍り出る。
    「…………」
     伝えたいことはあったが、それを現す言葉が浮かんでこなかった。この気持ちが拳を通して伝わればいい――サズヤの拳撃をただただ受け続けた女は、血を吐いた。
     ひどく噎せるその姿にさらなる憐憫を抱かせたが、容赦をすることはない。
     これを捨て置くことは、沖縄を危機に陥れることだ。
    「すぐに、あのスマイルイーターとやらも笑えなくしてあげます。――それでは、さようなら」
     一途の言下、足元の《Oneway.battalion》で一足飛びで距離を詰め、佐々木の死角へと潜り込んだ。
    「……貴女とは、本調子の時に向き合ってみたかったです。もっとも、戦いは好みませんが」
     倒れてゆく女の背中を見つめながら、一途は最後に呟いた。
     消えていく佐々木がふとこちらを振り返った。
    「あたし、これで、じゆう……?」
     その声に瞠目した。しかし何事かを理解して一途はしっかりと頷く。

    ――ああ、あ、ありがと……。

     耳には届かなかったが、最期に見せた佐々木・ココロの心からの笑顔に、縁は帽子を目深に被って目元を隠して、
    「……これ以上は、笑顔も、日常も奪わせません、絶対に」
     僅かに唇を震わせた。

    ●爆ぜ弾ける
     小次郎のアイテムポケットに爆弾をしまい、虚のスーパーGPSの導きの元、八人は最短距離、最短時間で海までやってきた。見渡す限り、人の姿は見えない。ここならば爆発させても、問題はなさそうだ。
    「本当に大丈夫なのでしょうか」
     小次郎は爆弾の入った鞄を見やり、訝った。
    「大丈夫です、私がいきます! 私が死んでも代わりはいるもの」
    「そんな、年下の女の子にそんな危険な、」
    「ヤだ、冗談ですよ! 一度、言ってみたかったの、このセリフ! 絶対に死ぬつもりはないけど!」
     楽しそうに笑ったルリは爆弾の入った鞄を抱え、ざばざばと海へと入っていく。
    「待っ、てください」
    「う?」
    「あ、の、……海の中、だと、その、珊瑚、とか、傷ついてしまうかも、しれませんし、砂浜の、方が、いいんじゃ、ないでしょうか……」
     縁の言葉に、小次郎も頷きながら、
    「うーん、確かに心配かも」
    「サウンドシャッターに、殺界形成――人が来ることも、人に知られることもないわ。穴があいたら塞いじゃえばいいだけよ」
     万が一の怪我の心配も、バベルの鎖によって無用だ。紫桜里はそう付け足した。
     ルリは納得して、その場へ爆弾を置いて、みなで距離をとる。
    (「爆弾……本当に、平気なものなのか」)
     胸中で呟いたサズヤだったが、次の瞬間、唐突な爆発に瞠目した。
     腹の底に轟き渡る爆発音、熱波はチリチリと肌を焼くように押し寄せ、打ち寄せた波を巻き上げた。やがてそれは爽やかな霧雨となって降り注ぐ。潮の香りが強くなった気がした。
    「……おぅ」
     びっくりしたサズヤの目に飛び込んできたのは、天空に架かる七色の橋だ。
     萌愛は頬を綻ばせ、ようやく肩の力を抜いて、ほっと一息ついた。
    「海で遊んで行きません? あ、それがダメなら、空港でアイスを食べましょう! 紅イモとシークワーサーとパインのトリプルで!」
    「なにそれ、美味しそう!」
     きらりんとルリの目が輝く。
    「後片付けがてら、足だけでも海に浸かって、アイス食べて帰ろうよ」
     言った一途に、紫桜里も頷く。
     輝く太陽は水面を美しく煌めかせて、静かな波音の間に八人の声が、さざ波のように漂っていた。

    作者:藤野キワミ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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