笑う爆弾:沖縄の異国情緒

    作者:幾夜緋琉

    ●沖縄の異国情緒
     沖縄県は北谷町。
     沖縄テイストとはまた違うアメリカンテイストの漂う街角。
    『ねーねー、楽しかったねー♪』
    『うん。楽しかったー♪』
     そんな感じで会話している女性達や、観光客達。
     ……そんな観光客達の楽しそうな光景を横目で見ながら……店と店の挾間にある、ちょっとした空間に。
    『……破壊してやる……破壊してやる……全部、全部……なくなっちゃえばいいんだ……』
     ブツブツと、前を通りがかる人達に聞こえるか、聞こえないかといった程度の小声でつぶやき続けている少女。
     そんな彼女の傍らには……ダイナマイトの束が巻かれた、爆弾。
     彼女は、スマイルイーターの言葉のままに……爆弾を監視させる指示を出していた。
     そしてその指示に、彼女は従順に……従い続けていた。
     
    「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、説明をはじめさせて頂きますね」
     五十嵐・姫子は、集まった灼滅者達を見渡すと共に、早速説明を始める。
    「皆さん……沖縄県に現れている、スマイルイーターの事件は知っていますよね?」
     確認するように見渡す姫子……それに頷くのを確認してから。
    「皆さんがスマイルイーターの仕掛けた爆弾について調査して頂いた結果、遂に全ての爆弾の場所が特定されたのです。これで……やっと爆弾の撤去が行えます」
    「しかし……各地の爆弾には、護衛役の六六六人衆が控えています。皆さんには、その隠れ家を襲撃し、護衛役の六六六人衆を灼滅する必要があります。そしてその後に、爆弾の撤去を行えば、任務達成となります」
    「しかし注意すべきは、この作戦が事前にスマイルイーターに露見し、爆弾を爆破する命令を出されてしまう事……その為にも、事前に周囲の一般人を避難させると言う行動を行う事は出来ないので、注意して頂きたいのです」
     そして姫子は、詳しい状況の説明を続ける。
    「今回皆さんにお願いしたい沖縄の場所は、沖縄県は北谷町にある、アメリカンビレッジです」
     そう言いつつ、ふと風華・彼方(小学生・d02968)に微笑む姫子。
    「今回このアメリカンビレッジにある、店と店の間の狭い場所に、このスマイルイーターの命令に従った護衛役の六六六人衆の一人が居る様なのです」
    「此処に居るのは、爆弾を守る事に固執している少女の六六六人衆の一人です。彼女はスマイルイーターの命令がない限り、爆弾を爆発させる行動は取りはしませんので……気付かれない限り、戦闘中に爆弾の事を考える必要はありません」
    「しかし……爆弾を守る事に固執していると言っても、彼女は六六六人衆です。その戦闘能力は、馬鹿には出来ない戦闘能力を持っていますから……油断はしないで下さいね」
    「また、無事爆弾を確保出来た場合。周囲に人の居ない場所まで運んで爆破させる必要があります。幸か不幸か……灼滅者である皆さんにはバベルの鎖がありますから、至近距離で爆弾を爆発させても、特にダメージもなく、危険も無い筈ですから……ね」
     そして、最後に姫子は。
    「改めて思うのは、このスマイルイーターの卑劣さです……彼の策略の根幹である、爆弾を全て撤去出来れば、KSD六六六の壊滅作戦を行う事が出来るでしょう」
    「沖縄の人達の笑顔を守るためにも、この作戦は絶対に成功させなければいけません。どうか皆さんの力を、貸してください。宜しくお願いします」
     と、深く頭を下げるのであった。


    参加者
    喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)
    風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)
    大業物・斬(ブチマケロジック・d03915)
    遠野・潮(悪喰・d10447)
    王・苺龍(点心爛漫中華娘・d13356)
    流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)
    陽横・雛美(すごくおいしい・d26499)
    西園寺・夜宵(神の名を利した断罪・d28267)

    ■リプレイ

    ●南の米国
     沖縄県は北谷町、沖縄テイストとはまた違う、アメリカンテイスト豊かに漂う街角。
     そんな街角の雰囲気は、いつもと変わらぬ雰囲気があり……平常の刻が流れている。
    「アメリカンビレッジ、か……産まれがアメリカだから、此処は懐かしい雰囲気になるな……」
    「うん……アメリカンビレッジ……本場には、行ったことないから……いつも、潮から聞いてた、アメリカの雰囲気……ここで、味わえるのかな?」
    「ああ……まぁ、本場のアメリカという所から言うと、ちょっと違うけどな。でもまぁ……大きくは間違ってないさ」
    「そう……でも本当は……こんな形じゃなく、旅行とかで来たかった、けれど……今はそんな事、言ってられない、ね……」
     遠野・潮(悪喰・d10447)と西園寺・夜宵(神の名を利した断罪・d28267)二人の会話。
     ……その会話に、悲しげに喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)はぽつりと。
    「……私たち……もう、喧嘩を売っちゃったから……後戻りさせてあげられない……んだよね……」
     悲しげに呟く波琉那。
     それに流阿武・知信(炎纏いし鉄の盾・d20203)、王・苺龍(点心爛漫中華娘・d13356)も。
    「そうだね……僕らの背中には、たくさんの人達の命が掛かっている。正直、失敗した時の事を思うと怖いけど……でも、やらなくちゃ……」
    「そうアル! 沖縄は観光客も多い訳だし、被害者は出したくないネ、頑張るアルヨ!!」
     拳を握りしめ、気合いを込める苺龍。
     ……そう、スマイルイーターの言葉に従い、爆弾を持ち……建物と建物の間で時を待ち続けている少女の影。
     彼女は爆発の時を、息を潜めて、ただただ待ち続けている……スマイルイーターの、爆発の命令を。
    「ああ……笑喰い……スマイルイーターか。悪趣味な名前のヤツらしい、悪趣味な作戦だよな」
    「うん……六六六人衆は、スマイルイーターとどの様に連絡を取っていたの、かな……このままだと同じ事の繰り返し、せめて……尻尾くらいつかみたいけど……でも、それよりも……町の人を、絶対に、守り抜いて、みせる」
    「そう……そうだね! この作戦を成功させて、スマイルイーターを炙り出して『ひぎぃ!』と言わせてやるんだから!!」
     潮と夜宵に、波琉那も気合いを入れる……そして風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)、大業物・斬(ブチマケロジック・d03915)も。
    「こういう時って、ダークネスがちょっと可哀想に思う所はあるけど、でも、それはそれ……さぁ、その爆弾を返して貰いに行こう!!」
    「ああ。道も調べた。おっかねーブツはとっととカタしちまわねーとな!」
     とニヤリ笑みを浮かべる。
     ……爆弾所持者を倒したとしても、いつ爆弾が爆発するかは解らない。
     それを海で爆発させる事までが、今回の目的……勿論、それに恐怖を抱かない訳は無い。
     下手すれば、一般人の居る中で爆発してしまう可能性は十分にある。そうなれば……事態は自明である
    「……っ」
     その光景を思い浮かべてしまった知信は、頬をぴしゃりと叩く。
    「弱気になるな、僕……」
     自分の中の弱気を振り払い、真っ直ぐに目の前の光景……平時のアメリカン村を眺めて、決意する。
     そして……。
    「お待たせ。そろそろ約束の時間、15時になるわ、急ぎましょ」
     陽横・雛美(すごくおいしい・d26499)が他の爆弾処理班に確認して、戻ってくる。
     決行時間は……15時。
     その時間までは、後1時間程……当然、後一時間で、目の前に居る一般人達を避難させる事は出来るが、それは今回は出来ない。
     秘密裏に、そして……スマイルイーターに認識されないようにしなければならないのだ。
    「……とは言え、人が入り込む可能性は少しでも下げておきたい所だな……これを置いておく位なら、大丈夫か?」
    「ん……そうだね」
    「解った。それじゃ俺達がこっち側で設置するから、逆側の方を宜しく頼むな」
    「うん」
     潮に彼方が頷き、そして灼滅者達は二班に分かれる。
     姫子から聞いた、彼女の潜伏場所近くの道路へ……通行止めの簡易看板を設置。
     ……必ず人が来なくなる、という保証は無いが、無いよりはマシ。
     同様に逆の方には彼方が、近づかなければ解らない位の小さな通行止め看板を設置。
     二つの設置が終わったのを携帯で相互に連絡し合う。
     そして……身を潜めながら、狭間の通路をちらりと見ると……かなり見づらいものの。
    『……破壊してやる……破壊してやる……なにもかも、なくなっちゃえばいいんだ……』
     そう、ずっとつぶやき続けている、スマイルイーター配下の彼女が、爆弾を手に、体育座り。
     ……とは言え彼女は、どうやらまだ、灼滅者達の事は気付いていないようで。
    「彼女が……スマイルイーターの、爆弾を持った彼女……」
     唇をそっと噛む波琉那。
     彼女を助けたい、という気持ちと、彼女を倒さなければ……という背反する気持ちがひしめきあう中……ぐっ、と拳を握りしめ、決意。
    「……大丈夫?」
    「うん……大丈夫。決行は15時だったよね? ……待つよ、その時まで」
     雛美に頷く波琉那。
     そして灼滅者達は、15時の決行の時を、一端身を潜めてその時を待つのであった。

    ●刻満ちる
     そして時は経過し、15時。
     ……アメリカンビレッジの一角、建物の狭間では。
    『全部……全部、なくなっちゃえばいいんだ……』
     そう、つぶやき続ける彼女が、ただただ、体育座りで爆弾を抱きしめ続けている。
    「……良し、時間だ。そろそろ行くぜ」
     斬の言葉に頷き……一斉に灼滅者達は、建物の狭間に、両面から突撃していく。
     灼滅者達の突撃、完全に不意を突かれた彼女。
    『……え……?』
     と両面から来た灼滅者達に、驚いた表情を浮かべ、立ち上がる。
     ……あどけない、ごく普通の少女の様にも見える……ただ、その表情は、無表情。そして。
    『うぅぅ……壊す、壊してやる……全て、壊してやる……』
     爆弾を持ち、立ち上がる……そして、深い深い恨みを込めた視線を、灼滅者達に向けてくる。
     ……そんな彼女の視線に、潮は。
    「もしかして……おまえも……」
    (「……笑みを奪われた一人なのか……」)
     心の中で問いかける潮……勿論、それに彼女が答えることは無い。
     その横で波琉那も、彼女に対して……悲しげに。
    「……ごめんね。私達……あなたを、もう、後戻りさせてあげられないの……」
     波琉那の言葉に、一端瞑目……そして潮は。
    「……悪いな、此処で、殺されてくれ」
     と決意と共に、スレイヤーカードを掲げ、戦闘態勢。
     他の仲間達も、次々にスレイヤーカードを解放し、戦闘態勢にシフト。
     ……そして、先手に動くは、彼女。
    『壊す……壊す壊す壊す……!!』
     呪文のように、つぶやき続けながら、手に持ったナイフで、斬りかかってくる。
     意外に素早い、彼女の動き。
     その動きに、咄嗟に反応するは知信……ナイフの一撃を受ける。
     血飛沫が飛び散り、くっ、と唇をかみしめる知信……だが、次のステップで、一端間合いを取ると共に、自分に盾アップのシールドリング。
     そして、灼滅者の行動の時。
    「さてと、狙いを集中させてあげるわ」
     と雛美が癒しの矢を牛鬼放ち、狙アップを付与。
     更に雛美と逆に立つ彼方が。
    「これでも、喰らって!」
     とマジックミサイルの一撃を、ポジション効果で高まった射撃で打ち貫く。
     鋭く射貫かれた一撃は、彼女に決して小さくない傷をつける。
     そして、メディックに立つ波琉那の霊犬、ピースが浄霊眼で攻撃を受けた知信を回復すると、斬も。
    「ったくあぶねーな。防護の印を結んだぜ! 少しだけ動くなよ!!」
     と斬が更に防護符で、知信にエフェクトを追加していく。
    「皆、ありがとう。防御は任せて、攻撃、お願いします!!」
     と、知信が宣言しながら、彼女へシールドバッシュで怒りを付与し、攻撃を自分へ集中させる。
     そして、同じディフェンダーポジションの波琉那、苺龍と、彼女のライドキャリバー、苺龍号も続けて。
    「……もう、迷わない。これ以上、苦しまなくて良いんだよ? だから……!」
    「そうアルよ、さぁ苺龍号、一緒に仕掛けるアル!!」
     と、波琉那が影縛りで足止めを喰らわせると、苺龍号の機銃掃射に、苺龍のレイザースラストで狙アップ。
     命中を強化し、素早い動きの彼女に対する命中を強化していく。
     そして、最後に動くはクラッシャーの潮、夜宵。
    「……良し。夜宵……行くぞ」
    「……うん」
     潮が縛霊撃を仕掛けると、視線に頷いた夜宵がレイザースラストで攻撃。
     クラッシャーの効果もあり、大ダメージで一気に彼女を削り去る。
     ……一対八という事もあり、集中砲火を受けて彼女の体力はガッツリと削られてしまう。
     が……彼女の意思は、全く変わらない。
    『壊す……壊す、壊すの……全て、壊す……!!』
     爆弾を手に、破壊衝動に従い、目の前に居る灼滅者達を、ただただ攻撃。
     怒りの付与もあり、そのターゲットは、知信に一極集中しており、彼の体力をガッツリと削る。
     が……。
    「大丈夫か! アタシに任せろー!!」
     と、斬とピースが完全に回復へと専念しており、削られた体力をすぐに元通りに直していく。
     そして、残る仲間達……雛美は癒しの矢の狙アップを夜宵へと掛ける一方、他の仲間達は、一斉に攻撃を叩き込み、ガッツリと彼女の体力を削っていく。
     ……二分、三分……時の経過と共に、彼女の体は大きく傷つき……視線も、何処かうつろになっていく。
    「ねぇ……何で貴女は、その爆弾を持って居るの? ……どうして、スマイルイーターの言いなりになっているの……?」
     と、戦闘中に問いかける波琉那だが、彼女は全く聞く耳を持つことは無い。
     そして……戦闘開始し、六分経過。
    『……っ……ぅ』
     片膝、地へと着く彼女。血だらけになり、もう……限界であろうというのが、よくわかる。
    「よし……一気に、仕掛けるぞ。夜宵」
    「……うん」
     潮に頷く夜宵……そして潮が黒死斬の一撃を放つと……夜宵も連携し、フォースブレイクの一撃を叩き込む。
     その直撃を受け、彼女の体は、深く地面に叩きつけられ。
    『ぁ……あああああ!!』
     と、絶叫を上げて……彼女は崩れ落ちた。

    ●微笑みを閉じて
    「……ごめんね。今度……生まれ変わったら、うっかりと仲良しの友達にでもなろうよ……ね」
     そして、彼女を倒した後……波琉那は、消えゆく亡骸に、寂しげに一言を呟く。
     ……彼女もスマイルイーターの被害者であるのは間違い無い。だからこそ、彼女に敵意を向けてしまった事をわびつつ……弔いの祈りを捧げる。
     と……そうしている間にも、時は……。
    「……と、ここでのんびりしている暇はないな。急いで爆弾を運ぶぜ!」
     と潮が叫ぶ。
     灼滅者達の目の前には、刻一刻と爆発の時を待つダイナマイトの束。
    「そうアル! 海へ運ぶアルね!!」
     と彼方のアイテムポケットに爆弾を収納。
     そして灼滅者達は急ぎ、海辺への道を駆け抜けていく……。
     勿論、急ぐ灼滅者達の事を不思議に思う一般人達が居るが……それに構っていられる訳も無い。
     そして海へと到着。
     ……とても綺麗な海辺にふと雛美が。
    「……海で処理するのも気が引けるんだけどね……魚がびっくりするでしょうし」
     と呟くが、だからといって被害を最小限にするには、ここしかない。
     すぐさま苺龍がサウンドシャッターを使用し、騒音をシャットアウトする。
     そして、彼方がアイテムポケットから爆弾を取り出すと……思いっきり海に向けて投げ放つ。
     海の上に投げ出されるダイナマイト……そして、潮が。
    「いけっ!!」
     爆弾に向けて、オーラキャノンを放出。
    『ドォォォォン!!!』
     響き渡る爆発音……そして煙と共に、ダイナマイトは海へと落下。
     暫し煙が立ち上るが……数分の後には煙も消え失せ……その場には、静寂が訪れる。
    「……よし。ザマぁ見ろ!! くだらねぇ目論見は此処でおわりだ!!」
     潮は、空に叫ぶ。
     勿論、その言葉がスマイルイーターに届く事は無いが……少なくとも、スマイルイーターの企みの一つは、阻止できたはず。
    「……ふぅ。何にしても一先ずは安心かしらね?」
    「そうね……」
     雛美に頷く夜宵、そして雛美は。
    「さて、と……それなら折角沖縄まで来たんだし、皆で何かご当地グルメでも食べに行かない? ゴーヤーチャンプルーとか?」
    「……ゴーヤーは、ちょっとヤダな」
     波琉那が目を顰める、でも、今までの表情よりは、少しは明るい感じになっている。
     そして。
    「そうアルね。お腹も空いたアルし、皆で食べに行くアルよ♪」
     苺龍も頷き、他の仲間達も頷く。
     そして灼滅者達は……心の内に秘めたもやもやとした気持ちを振り払うが如く、連れ立ち繁華街へと向かうのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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