笑う爆弾:満たされる幸せを護るために

     澄み切った空の下、笑い声がはじけた。
    「もー、食べてる時写真撮ったでしょ!」
    「あはは、すっごい顔してたよ」
     さして嫌がる様子でもなく抗議する少女に、スマートフォンを手に友人らしい同じ年頃の少年が笑う。
     海風の混じる、少し熱を含んだ風がふたりを撫で、少女は前髪を押さえた。
     今出てきたばかりの琉球建築の店を振り返り、
    「でもおいしかったねー、おいしいの食べると何だか笑っちゃう」
    「分かる! なんかにやけるんだよな」
    「こーんな顔してたよ?」
     意趣返しとばかりにオーバーアクションをして見せると、彼の顔がぱっと赤くなり慌てて抗議する。
    「な、なってないよ! なってない!」
    「ふふ」
     ふたりが仲睦まじく笑いながら歩く往来には、家族連れや友人連れと思しき集団がいくつか見受けられた。
     ここは沖縄県本部町、沖縄そば街道。沖縄県随一の沖縄そばの名所。
     沖縄グルメを求めて訪れた客は皆一様に幸せそうな笑みを浮かべていて、彼らの満足感と幸福感を満たしているようだ。
     だが。
    「……幸せそうね。嬉しそう、楽しそう……」
     半ば崩れた廃屋から、陰鬱な呟きが漏れる。
    「そうね、幸せよね……でも、幸せであるほど落ちる時は一瞬で、粉々になるのよ……ひ、きひ……」
     薄暗い中引きつるような声を吐き、感情の消えた昏い瞳が日の当たる場所を凝視する。
     狂気をはらんだその目は、何人も見逃すまいと見開かれていた。
     
     どんっ。重い音と共に丼を置く。
     真摯な表情を崩さず、西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)はとろりとよく煮込まれた豚肉が3枚乗った沖縄そばを前に、集まった灼滅者たちを見回した。
     他でもない――スマイルイーターに関する未来予知だ。
    「皆さんが調査を行ってくださったおかげで、スマイルイーターが仕掛けた爆弾の場所がすべて特定され、撤去することが可能になりました」
    「……ただのハッタリじゃなかったってことだね」
     苦いものを口に含んだような表情で溜息をつくシスティナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)に頷く。
    「ええ……すべての爆弾を一斉にかつ同時に撤去しなければならないため、今まで動くことができませんでした。ですが、問題は残ります」
     ひとつ。その爆弾は六六六人衆が守っている。まずはその隠れ家を襲撃し灼滅しなければならない。
     ふたつ。この作戦が事前にスマイルイーターに知られることになれば、彼は爆弾を爆破する命令を出す。
     みっつ。そのために、事前に周囲の一般を批難させることはできない。
     そして。
    「ひとつでも失敗すれば、爆弾が爆発し被害が出ます。ですから、失敗は許されません」
     カツオベースの濃厚なスープの香りを漂わせながら、エクスブレインは断言した。
     地図を取り出し沖縄本島の一点、本部半島を指し、
    「皆さんにお願いしたい地域は、本部町の沖縄そば街道です。町内の縦横に伸びる県道と国道に添っておよそ70の店舗が」
    「範囲広いな!?」
    「食い倒れに挑戦するにはもってこいですね。敵の隠れ家はこの、沖縄そばの店舗だった廃屋です。伝統的な琉球建築ですが、長い間放置されているため半壊しかなり荒れ果てています。しかし、近くにも沖縄そばの人気店があり人の往来が多く、彼女はこの廃屋から往来を監視しているようです」
     言いながらペンで印をつけ、それから2枚の写真を見せた。
     楽しそうに柔らかな笑みを浮かべる女性と、すべてを呪わんばかりに睨み付ける女性は、同じ人物には見えない。
    「この六六人衆は元は笑顔の素敵な女性だったのですが、スマイルイーターに徹底的に甚振られ完全に心を折られてしまい、笑顔を失ってしまいました。二度と立ち直ることはできないでしょう……ですから、説得する必要はありません」
     救いはただ、完全な灼滅を。
     写真を見つめる灼滅者たちに、エクスブレインは静かに告げる。
    「これが成功すれば、KSD六六六の壊滅作戦を行うことができると思います。スマイルイーターの卑劣な策略から沖縄の人たちの笑顔を護るためにも、絶対に成功させましょう」
     絶対の信頼を寄せる彼に、ふとひとりが手を上げた。
    「爆弾撤去はいいんだが、どうやるんだ?」
    「ちょうど海が近いので、その辺りまで運んで爆破させてください」
    「……危なくないか?」
    「灼滅者である皆さんにはバベルの鎖がありますから、至近距離で爆発させても特にダメージを受けませんし、特に危険もありません」
     確かに危険はない。ないが。
    「……気分的には死ぬほど痛いよな、多分」
    「命の危険はありませんから大丈夫です」
     渋い顔をする相手へ穏やかに微笑み、アベルは沖縄そばの丼にそっと触れ、頑張ってください、と灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    西条・霧華(大学生殺人鬼・d01751)
    水之江・寅綺(薄刃影螂・d02622)
    二階堂・空(大学生シャドウハンター・d05690)
    華槻・灯倭(月夜見・d06983)
    システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)
    奏川・狛(獅子狛楽士シサリウム・d23567)
    八千草・保(養花天月及びゆーの嫁・d26173)
    小鳥遊・劉麗(笑う涙のへっぽこぴー・d31731)

    ■リプレイ


     爽やかな風の中に、食欲を刺激する芳醇な香りが混じる。
     行き来する人々は地元の住人ばかりではないようで、物珍しげに視線を巡らせ、観光ガイドを手に連れ立つ相手と話し込んでいる。
     家族連れや恋人連れ、或いは友人同士。修学旅行で訪れたと思しき学生の姿もある。
     その中の一団、年齢の幅はおよそ中学生から大学生くらいまでだろうか。あちこちの店を眺めては言葉を交わし合っていた。
     と。彼らの視線が通りに点在する店と同じ琉球建築だが、放棄されて久しいと見える建物に向く。
    「うぬお店が気んかいなるぬ?」
     通りすがりの女性から声を掛けられ、言葉の意味が分からず顔を見合わせた。すると女性は笑い、そのお店が気になるのかい、と言い直す。どうやら地元の人のようだ。
     話によれば、そこは昔ながらの沖縄そばの店だったのだが、店主が体調を崩して以来ずっと放置されているという。
     立てつけが悪くなっているようで、遠目にも扉が歪んでいるのが分かる。それだけでなく、壁があったであろう場所は崩れ、ぽっかりと穴が開いていた。
    「私たち、沖縄の文化に興味があるんです」
     だからこういうものも気になると笑顔で言う華槻・灯倭(月夜見・d06983)の言葉に、穏やかな笑みを浮かべて二階堂・空(大学生シャドウハンター・d05690)も頷いた。
     倒壊しそうだから気を付けるようにと言われて礼を言い、学生たち――否、灼滅者たちは注意して建物に近付く。
     人の気配は、ない。だが、どこからか。
    「(見られている……)」
     薄暗い内部に足を踏み入れ、声に出さずシスティナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)は確信した。敵意は感じられず、ただ監視されているような、そんな居心地の悪さを。
     視線を巡らせ、西条・霧華(大学生殺人鬼・d01751)の儚げな笑みに至る。彼女はこちらを見ていたわけではなく、建物の間取りやその強度を確かめていた上で偶然に視線が交差しただけだ。
     その向こう、戸口に近い場所では少女が物思いに耽るようにやや慎ましい胸元で手をぎゅっと握りしめる。涼やかなガラスに閉じ込めた桜のネックレスが、小鳥遊・劉麗(笑う涙のへっぽこぴー・d31731)の手の中でちらりと光った。
     それと気付き八千草・保(養花天月及びゆーの嫁・d26173)が眼鏡の奥の瞳を細める。大切な想いが込められたものなのだろう。
     向けられた目に気付いて彼女も彼を見ると、ふ、と穏やかな笑みが応えた。心許ない自身に少しだけ緊張していた劉麗の心は、華綻びるようにほぐれる。
     かと、り。
     何かの動く物音がし水之江・寅綺(薄刃影螂・d02622)は耳を澄ませ、手にしていたバッグをいつでも手放せるようさり気なく構えた。
    「あら……あら、あ、ら」
     引っかかるような奇妙なイントネーションで、笑うような、困ったような、不自然な声が地を這う。
     どこだ。鮮やかに輝く奏川・狛(獅子狛楽士シサリウム・d23567)の瞳が屋内を注意深く見回し、
    「……ひっ!」
     斜めに倒れかけた戸の隙間からずるりと伸びる病的な白い腕に悲鳴を上げた。そして直後に真っ赤に充血した目と視線が合ってしまい、もう一度悲鳴を上げる。
     鈍い音をさせて戸が除けられ、耳障りな笑い声を引きずりながら女が姿を見せる。
     化粧をせずとも充分に魅力的な顔は陰鬱な表情を浮かべてばさばさに乱れた髪に縁どられ、シンプルだが清潔でこなれていた服装は面影もないほどに皺だらけで、豊かな胸を包むシャツのボタンは中ほどまで外れている。
     ぐしゃぐしゃになった本を手に立ち尽くす姿はさながら幽鬼の風体だった。
    「いけないわねえ……ヒトのテリトリーに勝手に入ってくるなんて」
     ひ、けひっ、と笑うような声が漏れるがその顔は笑っていない。充血した眼は誰かを見ているようでどこをも見ていない。
    「以前の怪人も悲惨でしたが……この人は、心を壊されてるっ!? あの外道……笑顔に何の恨みがあって……」
     呻きながら狛はスレイヤーカードを掲げ「転身っ!」と叫び、殲術道具を解放する。
     シーサーとシークヮーサーをモチーフとした全身鎧に身を包んだ少女に、女は口元を歪めた。
    「戦うの……そう、……そうなのね……」
     言葉を落とし本のページを数枚乱暴に破る。紙屑が裸足の足元にまるで結界のように散らばり、霊犬・ジンジュツを従え寅綺がスレイヤーカードをそっと落とす。
    「君を殺すよ……」
     宣告めいた言葉と共に音もなくカードが影に触れ、同時にぞるりと蟷螂の鎌の如く影がざわめき揺れた。
     女は灼滅者たちが各々に殲術道具を手にするのを見ていっそうに歪な表情を浮かべ、闇にも似た闘気が女にまとわりつく。それはとても陰惨で。
    「(笑顔を失ってしまうって、悲しいね……)」
     これ以上犠牲者は増やしたくない。
     敵を凛と見据えながらもどこか哀しげな霊犬・一惺を下がらせ、灯倭はサウンドシャッターを展開する。
    「イクさん、盾役頑張ってね! システィナさんとか皆の言う事ちゃんと聞いてねっ」
     劉麗が自身のナノナノ・イクノディクタスを撫でて言い聞かせ、サーヴァントは「ナノっ!」ときりっとした表情で敬礼して応えた。
     得物をすらと撫でシスティナも、劉麗が居ない間はイクさんの面倒ちゃんと見ておくからね、とダークネスから目を離さず言い添え、主は信頼して人払いのためにその場を離れた。
    「蓮華の花言葉をご存知ですか?」
     儚げな笑みを浮かべて眼鏡に触れる霧華の問いに、女は小首を傾げる。
    「花言葉なんて……もらう時にだけ知っていればいいことだわ」
     その答えに、灼滅者は応えず眼鏡を外す。
     上げた顔に表情はなく、ただ決意だけがあった。


     先手を打ったのは灯倭だった。聖剣を構えて距離を詰め、わずかにも迷うことなく斬撃を放つ。素早く丸めた本が外見からは想像もできない強さで受け、隙を突いて空が狙い撃つ漆黒の弾丸を女は避けようとするがわずかに頬をかすめた。
     幽鬼じみた姿とは違い素早く攻撃を防ぎ、懐から数枚の紙片を取り出し何事か呟いて防護の式を打つダークネスへと、システィナは着剣したマスケットライフルを手に地面を蹴り急襲する。
     正確に敵の急所を狙った一撃をやはりぐしゃぐしゃの本に受け止めようとし、しかし耐え切れずにその切っ先が肌を裂く。
     傷付いたことも構わず、乱れ放題の髪の向こうから赤い瞳が灼滅者を睨んだ。
    「……銃剣術? 私……戦い方は詳しくないのよ」
     それまでの陰鬱な気配から一転、ぞくりとする凄惨な殺気。
     笑みに似た、しかし笑みとは違う表情を浮かべ、力任せに振り払う。
    「幸せな笑顔を奪わせなんてしません!」
     宣言と共に猛る勢いの影が女へと襲い掛かり、表情を変えることなく身を翻して避けた。
     赤い柄と鞘の刀を手に、霧華はダークネスをまっすぐに見つめる。
    「……できれば、貴女の笑顔も取り戻してあげたかった」
    「そうしてまた奪われるのね?」
     その言葉は、いやにはっきりと、灼滅者の耳を打った。
     かつて彼女が持っていたものは奪われた。それを取り戻し、……そしてその後は? もう二度と奪われないと言えるか?
     乱れた姿の中に妖艶さすら見せ、ダークネスは問いかけていた。
    「(あまり刀は振り回せそうにないね)」
     柄と鍔に薊が彫金された刀を手に数瞬思案し、しかしと寅綺は考える。ある程度動きを考慮すれば愛刀を使えるだろう。
     確信し、ネガティブに惑わそうとする女へと赤い刀身を奔らせた。
     ぞ、ん! 風を斬る音。素早い一閃は軽く身をよじるだけで避けられ、次の体勢を取る一瞬の間を狙い狛が女の懐に滑り込んだ。
     彼女は沖縄のシーサーのご当地怪人、シサリウムである。故にその攻撃はシーサーのオーラをまとい、シーサーのように激しい。
     勢いを失うことなくダークネスをしっかりとその腕の中に捉え、高く跳躍して地面へと叩き付けた。
     だぁんっ!!
    「っ……!」
     衝撃に声を上げることができず、女はかふっと息を吐き出す。
     そしてその衝撃に、はら……と何かが降ってくる。同時にぎしりとどこかがきしむ音がした。
    「気をつけんと危なそうやね」
     皆に伝えながら、保はふいと思う。
    「(ボクは、護るだけ……やな)」
     今回は、利害対立に感情は動かない。そこにいる人達が、幸せに過ごせればいいと思う。
     彼が護ることで、仲間たちは各々の役を果たせる。そして、彼らが護ろうとする人々を、護ることもできよう。
    「(一般人の被害は出さへん。仲間は必ず無事で帰します)」
     断罪輪に触れて誓い、法陣を展開して仲間たちに加護を与える。
     灼滅者たちが油断なく包囲する中、狛の束縛を払いダークネスはぐらり立ち上がった。
    「……は、あ」
     息を吐いたのか、笑ったのか。じっとりと暗い気が澱む。
     それは殺気となりぞわぞわと灼滅者たちを捉えようと取り囲み、ダークネスの瞳に昏い感情が降りる。
    「あなたたちは、私を、殺すんでしょう? 私はあの人のために死ぬの……それしか役に立たないから。……あなたたちも、なくすのかしら?」
    「そんなことはないわ!」
     自嘲に似た感情を浮かべる女の言葉を強く否定し、人払いから戻った劉麗が桜のネックレスをぎゅっと握りしめて言う。
    「笑顔を奪っちゃうとか……良くないと思うのよ……楽しいときは笑えなきゃ逆に辛いわよね……」
     一体彼女に何が起きて、スマイルイーターに笑顔を奪われたのか。それは分からない。だが、彼女が望んだことではないのは確かだろう。
     だから、せめて。
    「これ以上犠牲者は増やしたくない」
     はっきりと告げ、灯倭がクルセイドソードを構えた。
     ダークネスは応えることなくぐしゃぐしゃの本を手に、紙片を広げて視線を巡らせる。
     に。と口の端を歪め。迸る剣閃をぐらと体をしならせてかわした。
     実力にばらつきのある灼滅者たちの攻撃はみな同じように当たるとは限らない。だが、経験の不足する者をサポートし未熟な点を補っての連携攻撃は、確実に敵の体力を削っていった。
     敵にエンチャントがつけばブレイクを狙い、味方にバッドステータスが付与されればキュアで癒す。
     堅実で互いを支える戦い方に、元よりひとりきりのダークネスは追い詰められていく。
    「おいで、清らかな風……穢れを祓うて」
     紙片が築く妨害の結界に囚われた灼滅者を保は清らの風で癒し、システィナがダークネスへと肉薄し注射銃を突き出した。
     避けきれず力を奪われ膝を屈しそうになるが踏み止まり、
    「貴女の笑顔……取り戻す事位はと思えど、せめて一思いに楽にする事しか……ゴメンなさいグース!」
     謝罪と共に叩き付けられた、コーレーグースを模して島唐辛子のオーラをまとう狛のギターを辛うじて防ぐ。
     鬱屈した闘気を拳へと集中しダークネスは身を躍らせ叩き込むが、イクノディクタスが身を挺して攻撃を受ける。
     次の攻撃へ移ろうとしたその時、
    「そこ、危ないよ?」
    「!」
     思わぬところからの声。それと同時に死角を狙っての斬撃に悲鳴を上げた。畳みかけるように空の銃撃に襲われたたらを踏み、しかし今度こそ倒れ込んでしまう。
    「ねぇ、笑えなくなって……どう? 笑えた時より、苦しい?」
     僕はあまり、笑えないから……そう問うた寅綺に女は、呻き声を抑えて短く応える。
    「……そう思う心も、壊れてしまったの」
     彼女のためにできることは、ただ灼滅すること。
    「これしか貴女に出来なくて、ごめんね……」
     スマイルイーターは、絶対に許さない。戦いの中、灯倭は何度も誓った。
     もう一撃も与えればこのダークネスは灼滅されるだろう。だがその前に聞かなければならないことがある。
    「スマイルイーターの仕掛けた爆弾の場所……教えてくれる?」
     油断なく相手の様子を見ながら劉麗が問い、幾分か途切れ途切れになりながらも、しかし確かに彼女は応えた。
     答えではなかったが、探すのは困難ではない。確かめて、灼滅者たちは互いに視線を交わした。
     と。
    「蓮華の花言葉……ね」
     女が弱く口にする。
    「『あなたは私の苦痛を和らげる』……」
     白刃を高く掲げて、霧華は一息に振り下ろした。
     断つ感触。どさりと倒れる音。
     静寂。
    「……お気の毒やな」
     保はそっと口にして、ひっそりと黙祷を捧げた。


     果たして、爆弾は容易に見つかった。
     灼滅者たちは、ある者は用意したバッグに入れ、ある者はESPを駆使して、急いで人気のない海へと運び込む。
    「爆発したら痛いらしいけど、死なないなら平気だよね」
     ふと寅綺の口にした言葉に、仲間たちの視線が集まった。
    「死ななくても、痛いそうやねぇ」
     風に髪を弄ばれ押さえながら保が言い、今度は爆弾に視線が集まる。
     何かいろいろと考える間があって、
    「……よし、じゃあ爆破しよう。できるだけ痛くないように」
     誰からともなく提案した。
     すべての爆弾を処理し終えると、システィナはそっと溜息をつく。
    「これで後はスマイルイーターだけかな……」
     後顧の憂いはない。絶対灼滅してみせると意志を固くする彼に、劉麗がそっと寄り添った。
    「絶対倒しましょ」
    「もう二度と、笑顔が奪われないためにもですね」
     こっくりと狛も頷く。
     波音が耳を打ち、灯倭はつい先ほど倒したばかりの相手を思った。
     せめて彼女のぶんまで……笑って過ごせるように。
     大切な人の笑顔も壊されたりしないように、護るために、もっと強くなる。
     真摯な表情に、空が彼女へ労わるように微笑んだ。恐らく彼も、同じ思いなのだろう。
     と。
    「他の場所の爆弾も、処理が終わったそうです」
     連絡を取っていた霧華が儚げな笑みを浮かべて頷き、仲間たちの間にも安堵の笑みが浮かぶ。
     あとは、スマイルイーターを倒すのみ――

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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