笑う爆弾:笑顔あふれるトロピカルビーチ

    作者:三ノ木咲紀

     沖縄の宜野湾トロピカルビーチでは、海水浴を楽しむ人々で賑わっていた。
     五月上旬とはいえ、沖縄の平均気温は二十五度。さんさんと降り注ぐ太陽は夏の強さこそないものの、泳ぐには十分すぎるほどだった。
     見渡す限りの青い海。整備された白い砂浜。
     四月中旬に海開きを迎えた宜野湾トロピカルビーチは、沢山の人たちでにぎわっていた。
     海水浴だけではなく、ビーチバレーやバーベキューを楽しむ人々の歓声をよそに、売店の倉庫の片隅は負の雰囲気に包まれていた。
     むやみやたらと派手なアロハを着た笑子は、倉庫に積まれた荷物の上で体育座りをしていた。
     名前とは裏腹な、どんよりとした目は虚ろに輝き、笑う人々を、人々の足元に埋まっている爆弾を見つめていた。
     笑子も、昔はよく笑ったものだ。
     夜の繁華街で、笑顔で男を引きつけては解体した。
     昼の住宅街で、笑顔で子供を連れ出しては解体した。
     内臓の温かさや血の鮮やかな赤に笑顔を浮かべたのも、もはやいい思い出だ。
    「笑顔が気持ち悪い……。笑顔ができなくなったら、楽しく殺せないじゃない」
     楽しく殺せないなら、殺す意味なんてない。
     殺しの次に好きだった、お笑い芸人の最新DVDも、もう見れなくなってしまった。
     あの笑い転げるDVDを見ていると、スマイルイーターに知れてしまったら……。
     スマイルイーターの折檻を思い出して身震いした笑子は、注意深く爆弾を監視した。
     うまく笑えない、うまく殺せない笑子にはもう、爆弾の監視くらいしかできないのだから。
     海を楽しむ人々の歓声が響く中、笑子はどんよりと爆弾を見つめていた。


    「沖縄のスマイルイーター事件は知っとると思うけど、みんなのお蔭で爆弾の場所が全部特定できたんや」
     教室に集まった灼滅者達に、くるみは沖縄の地図を広げながら言った。
    「これでようやっと、爆弾が撤去できるわ。みんなに行って貰いたいのは、清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)はんが見つけてくれはった宜野湾トロピカルビーチや」
    「四月に海開きしたビーチに爆弾があると推理したけど、本当に埋まっていたとはね」
     利恵はトロピカルビーチの地図を開くと、詳しい場所を皆に示した。
     宜野湾トロピカルビーチは、沖縄本島の南東部にある人工ビーチで、この間海開きをしたところだ。
     海水浴だけではなくビーチバレーやバーベキューも楽しめる、地元の人にも愛されるビーチの砂浜に、爆弾が埋まっているのだ。
    「爆弾が埋まっとるビーチにはな、監視の六六六人衆がおって四六時中監視しとる。まずはこいつを灼滅せんといかんわ」
     笑子は砂浜にほど近い、売店の倉庫に陣取っている。
     ちょうど一人分が座れるくらいのスペースにいるため、何とかおびき出さなければならない。
     笑子を灼滅し、爆弾を撤去すれば任務完了だ。
     この襲撃がスマイルイーターに露見して、爆弾爆破の命令が出されてまうことは、絶対に避けなければならない。
     そのため、事前に観光客を避難させたりはできない。
    「確保した爆弾は、どっか海の上とか安全な場所で爆発させたってや。普通やったら爆弾処理班が出る大事やけど、みんなにはバベルの鎖があるさかい、怪我とかはせんはずや」
     笑子は手下などいないが、それなりの戦闘力を持っている。
     スマイルイーターに絶対服従しているため、命令が無ければ爆弾を爆発させることはない。
     ポジションはディフェンダー。解体ナイフと殺人鬼に似たサイキックを使う。
    「楽しいビーチレジャーを壊してまう、スマイルイーターは許せへんわ。この爆弾さえ撤去できたら、KSD六六六の壊滅作戦を決行できんねん。みんな、気張って行って来たってや!」
     くるみはにかっと笑うと、親指を立てて見送った。


    参加者
    嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    笙野・響(青闇薄刃・d05985)
    折原・神音(鬼神礼讃・d09287)
    野良・わんこ(アスベストコロコロ・d09625)
    本田・優太朗(歩む者・d11395)
    藤堂・恵理華(紫電灼刃・d20592)
    清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)

    ■リプレイ

     明るい日差しを遮るように、大きなパラソルが売店倉庫の窓前に置かれた。
     同時に鳴り響く賑やかな音楽。
     携帯DVDプレイヤーから流れ出す軽快な音楽と共に、中堅若手芸人の漫才がにぎやかに響いた。
     先月発売されたばかりの、最新お笑いDVDの中では、むやみやたらに派手なアロハを着た二人組がテンポ良く会話を繰り広げていた。
     賑々しい漫才がひと段落して音楽に変わった時、DVDを停止した笙野・響(青闇薄刃・d05985)は、今見たDVDの内容を折原・神音(鬼神礼讃・d09287)と清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)と共に語り合った。
     漫才を見て大げさに笑い、心から楽しそうにお笑いについて語り合う三人に、パラソル越しの倉庫の雰囲気が変わった。
     背後の窓から溢れ出す負の気配が、少し和らぐ。好奇心にうずうずするような視線に、響は笑みを納めた。
    「DVD見てイメトレはしてるんだけど、やっぱり実際に相手がいると違うねー」
    「海でするお笑いの話も、いいですね」
    「なんでやねん!」
    「ちっがーーーう!」
     ななめ45度からの振り下ろしツッコミが妙に痛そうな音を立てた時、パラソルを破って笑子が飛び出してきた。
    「今のは『なんでやねん』のタイミングじゃないわ! 全然ボケてないのにツッコむのは、ルール違反よ!」
     DVDの二人組と色違いのアロハを着た笑子が響に食って掛かる姿に、観光客が上げる歓声が一瞬静まった。
     何事が起きたのか、映画の撮影なのかと、観光客がざわつく。
     遠巻きに笑子を見る観光客に、苛立ったように解体ナイフを閃かせた。
    「大体、アンタ達も笑いすぎなのよ! 毎日毎日、腹が立つ! ……丁度いいわ! 殺しのリハビリに、観光客達を殺してあげる!」
     解体ナイフに猛毒の霧が宿り、逃げる観光客の背中に向けて放たれる寸前、藤堂・恵理華(紫電灼刃・d20592)のマテリアルロッドが閃いた。
    「ウザいです」
     不愛想な声と共に、恵理華のマテリアルロッドが笑子の腕を強打する。
     ナイフを持つ腕に直撃したマテリアルロッドが、解体ナイフの軌道を逸らす。大多数の一般人を巻き込むように放たれた霧の一部は軌道を変え、海へと流れていった。
     逸らされたとはいえ、多くの毒霧が一般人へと、まるで意思を持つように流れていく。
     目前に迫る死の毒霧に気づかない観光客を庇うように、利恵は躍り出た。
     WOKシールドが展開され、猛毒の霧を防ぐ。その鮮やかな身のこなしに、一斉に歓声が上がる。
    「その攻撃は通さないよ。……フフ。さあ、君の憎む笑顔は、此処にあるぞ」
     利恵の晴れやかな笑顔を、笑子は歯ぎしりで睨みつけた。
     利恵の盾で防ぎきれなかった霧に、神音は駆け出した。
     観光客に毒霧が届く寸前、神音はその身で毒を受け止める。
     露わになっていた腕が、焼け付くように痛い。少し吸い込んだのか、気管支と肺に痛みが残る。
     それでも。
    「一般の方々に、ご迷惑は、かけられません!」
     強い決意を新たにする神音の頭上に、祭壇が現れた。
     柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)のhand for allが、癒しの力を解き放つ。
     祭壇から溢れる光に、神音は喉や腕の痛みが引いていくのを感じた。
     完全にではないものの、神音の傷が癒えるのを確認した高明は、防がれる毒霧に驚きを隠せない笑子に笑いかけた。
    「爆弾で人質を取るとは性悪な六六六人衆も居たもんだ」
    「アンタ、なんでそれを知ってるのよ!」
    「そんなの、どうでもいいです」
     本田・優太朗(歩む者・d11395)の冷静な声と同時に、白い帯が笑子の腕に巻き付いた。
     巻き付き、締め付け、切り裂く。的確なダイダロスベルトの攻撃に、右腕を庇って一歩退いた笑子は、襲う痛みによろりとよろけた。
     幸い、今のところ笑子は爆弾を起動させる気配はない。ただ単に忘れているだけか、スマイルイーターの指示を待っているのか、それは分からない。
     分からないが、今大切なことは爆弾を起動させないことと、一般人に被害が及ばないこと。
     今まで笑子は殺しをできなかったが、「リハビリ」などと言っている以上、逃す訳にはいかない。
    「これ以上、悪事を見逃すわけにはいきません」
    「へえ。悪事。悪事って、こういうこと?」
     大きく腕を振り上げた笑子は、ナイフを振り上げた。
     逃げ遅れて腰を抜かした子供に振り下ろそうとした腕が、影によって縛られる。
     嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)の足元から伸びた影が、笑子の腕に絡みつく。サイキックも乗せずに無造作に振り下ろされようとしていた手が止まる。
    「お前の企みは、潰させて貰おう。そして……」
     松庵はどこか楽しそうに、口の端で笑った。
    「お前達の計画は、全部叩かせて貰おう」
    「邪魔しないでよ!」
    「嫌だね」
     ニヒルに笑う松庵に、笑子は悔しそうに砂を踏みつけた。
     毒霧を放ち、防ぐ攻防に、観光客は完全に映画の撮影と思っているようだった。
     呑気に見物する観光客の間に、突然強烈な不安感が沸き上がった。
     理由もなく胸をざわつかせる不安や畏れに、ざわざわと騒ぎ出す。一触即発の空気の中、パニックを煽る声が響いた。
    「バケモノだ、逃げろー!」
     水着姿で観光客に混ざっていた野良・わんこ(アスベストコロコロ・d09625)の声に、観光客は我先に浜辺を離れるように駆け出した。
    「こっちです! 慌てずに、駐車場の方に逃げてください!」
     響の誘導に、観光客が駐車場に向けて走り出す。
     割と整然と進む避難者の流れを逆行して、中年の男性が転んだ子供に駆け寄った。
     転んで動けない子供を抱き上げる、海の家の店主と思われる男性に、笑子は嗜虐的に口の端を歪めた。


    「アンタは、気に入らないのよ!」
     笑子は左手にどす黒い殺気を溜めると、後衛に向けて解き放った。
     自分ができなくなった笑顔。笑顔で遊ぶ観光客。観光客を笑顔にする店主。
     海開きしてから半月。
     その間に溜まりに溜まっていたストレスと共に吐き出された殺気が、飛び出してきた店主諸共巻き込み迫る。
     何事が起きているのか理解できず、笑子に近寄ろうとする店主に、わんこは駆け出した。
    「だーめーでーす! 危ないから、こっち来ないでくださいー!」
     店主と子供を庇ったわんこは、襲う殺気を肩代わりする。
     恐怖や挫折、羨望や諦めがない交ぜになった殺気が、わんこを切り裂く。
     心も一緒に切り裂かれそうな殺気に、肩で息をしながらも、わんこは立ち上がった。
    「うう、痛いです。けどここで頑張らないと。絶対に犠牲は出しませんよ!」
     強い決意に呼応するように、ウイングキャットのキハールも飛び出した。
     倉庫傍にいた高明を庇い、殺気を全身で受けたキハールは、砂に落ちて動かない。
     ダメージを覚悟して身構えていた高明は、目の前で倒れるキハールの姿に目を見開いた。
    「おい! 大丈夫か!」
     思わず駆け寄った高明に、キハールは尻尾を振った。
     尻尾の先には、ギリギリで立っているわんこの姿。高明は頷くと、わんこの頭上に祭壇を展開した。
     溢れ出る癒しの光に、わんこの傷が癒えるのを確かめたキハールは、安心したように姿を消した。
     高明は立ち上がると、右腕を拘束されたままの笑子にImplacableを構えた。
    「スマイルイーターの爆弾は、ここで爆発させるわけにはいかねえ。どの道アンタには消えて貰うぜ!」
    「殺れるものなら、殺ってみればいいわ!」
     叫ぶ笑子に見向きもせず、店主はわんこに駆け寄った。
    「お、おい! 大丈夫かい? 今救急車を……」
     駆け寄る店主は、襲う殺気に思わず立ちすくんだ。
     神音が放つ殺界形成と、本調子ではないわんこ。
     迷っている店主の手を、響は取った。
    「さあ、こっちです!」
     響に手を引かれて、店主は駐車場へと駆け去った。
     肌がピリピリするほどの殺気に、笑子は眉をひそめる。眉間にシワを寄せる笑子に、神音はことさら笑ってみせた。
    「虐げられる境遇はちょっと同情しますが、殺せない方がこちらとしては助かりますね。……まあ、ここで終わらせてあげるので関係ないことですか」
    「言ってくれるじゃない!」
     笑子は両腕を広げた。
    「……アタシはね、アンタ達には感謝してるの。あの倉庫から出たお蔭で、アタシはまた殺せそうよ。だって、逃げる背中に攻撃するのは、楽しかったんだもの」
    「人を殺すしかできない鬼に、本物の羅刹を教えてあげましょう!」
     神音が無敵斬艦刀を構えた時、炎が空を裂いた。
    「あなた、ウザいです本気で!」
     高明のライドキャリバー・ガゼルに庇われて無傷だった恵理華が、日本刀を閃かせる。
     無駄に大きな胸を張った笑子に、炎を纏った日本刀が迫る。
     派手な攻撃に、笑子はバックステップで刀身を避ける。
     大きく下がった笑子を狙っていたかのように、笑子の背後からマテリアルロッドが閃いた。
     笑子を誘導していた恵理華のレーヴァテインも、同時に閃く。背中と胴を同時に攻撃された笑子は、体をくの字に曲げて倒れ伏す。
    「観光客ばかり狙わずに、ちゃんとこちらの相手をしてください」
     真剣に語り掛けるような優太朗の言葉を継ぐように、響の煤竹の小刀が閃いた。
     いつの間に回り込んだのか。起き上った笑子の懐に潜り込んだ響は、高速の動きで笑子の首筋を狙った。
     必殺の一撃を、ほとんど本能で避けた笑子は、砂浜に尻餅をつく。脂汗を浮かべる笑子に、響は髪をかきあげた。
    「笑子さんは、お笑い好き、そしてナイフ好き、っていうところも共感できるかな。でも、しっかり灼滅させて貰うね」
    「……よ」
    「……普通に会えていれば、お笑いのお話したかったな」
    「何よ! アタシだってアンタ達みたいに、お笑いの話した……!」
     言いかけた笑子は、弾かれたように周囲を見渡した。怯えるように何かを探したが、誰もいないことを確認すると安堵の息を吐いた。
     よろよろと立ち上がった笑子に、松庵は確認するように問いかけた。
    「お前を放置すれば、人を殺す。殺すなと言っても殺す。そうだろう?」
    「よく分かってるじゃない」
     何が悪いのか理解できない、という風な笑子に、松庵はむしろ晴れやかな笑みを浮かべた。
    「じゃあ、逃がすわけにはいかないな!」
     拳を突き出す松庵の足元から、呼応するように影が伸びる。
     影は網目状に広がり、笑子に絡みつき動きを封じた。
     身動きの取れない笑子の前に、利恵が立った。
    「笑顔を無くし本来の殺しをできなくなった殺人鬼、か」
     利恵はことさら笑顔を見せた。誰をも魅了するような笑顔に、笑子は噛みつくように身じろぎした。
    「その笑顔! ムカつくのよ! やめなさいよ!」
    「やめないよ。自分を見失った君に、そしてスマイルイーターに何も奪わせはしない。それが……」
     利恵はWOKシールドを展開する。手の甲のコインから放たれる半透明の盾が、笑子を吹き飛ばした。
     砂浜にうつ伏せに叩き付けられた笑子は、半身を起こすと鬼のような目で利恵を睨んだ。
    「ボクの「自分」であり、ボクの道だ」
    「殺す! 殺す殺す、殺してやる! 何が道よ偉そうに!」
     大きく吠えた笑子は、さっきとは比べ物にならないほどの殺気をみなぎらせた。


     膨れ上がった殺気が、利恵に、利恵の周囲に向かって突き進む。
     笑子が好きだった笑いとは正反対の、どす黒い殺気が、まるで雲のように灼滅者達に向かっていった。
     利恵は展開したままのWOKシールドを構えた。
     物凄い濃度の雲に、WOKシールドにヒビが入り、ついに割れた。
     威力を減じた雲は、前衛の灼滅者達を飲み込み、その姿を覆い隠した。
     勝利の予感に口元を歪めた笑子はしかし、己の胸に無敵斬艦刀を見た。
    「断ち切れぬものはなしと、知るといい」
     毒雲の中から一気に抜けた神音の攻撃が、笑子を袈裟懸けに切り裂く。
    「この程度で、俺達が手も足も出ないと思ったら大間違いだぜ!」
     高明の声と共に吹き抜ける清浄な風に、笑子は目を見開いた。
     海風とは違う清らかな風が、雲を押し流す。雲が消え去った時、そこには灼滅者達がいた。
     大きなダメージを受け、痛みに肩で息をする。だが、皆己の足で立っていた。
    「もうあなたに、悪事を働かせません」
     利き腕に飲み込ませたマテリアルロッドが、優太朗の膨大な魔力と共に笑子に叩き付けられる。
     息も絶え絶えな笑子に、恵理華はマテリアルロッドを構えた。
    「スマイルイーターに何をされたのかは知りません。ですが、笑えなくなった憂さを何も知らない観光客に向けるのは許せません」
    「アタ……シ……」
    「喋らないでください。ウザいです」
     魔力を込めた杖が炸裂し、笑子は仰向けに倒れた。
     太陽を眩しそうに見つめた笑子は、力なく呟いた。
    「だ……って、アタシは……」
    「もういい。もういいんですよ笑子さん」
     優太朗は笑子の傍に膝をつくと、眉間にシワを寄せる笑子に微笑みかけた。
    「お疲れ様です。……もう、笑っていいんじゃないですか?」
     優太朗の声に、笑子は目を見開いた。優太朗の言葉を吟味するように大きく息を吸うと、ゆっくり吐き出す。
    「……あのDVD、おかしかったね」
     呟く笑子に、響は頷いた。
    「そうですね。特に赤い方のツッコミが絶妙です」
    「やっぱ、アンタもそう思う? でもそれって、緑の方がいるからで……」
     DVDの内容を思い出したのか、笑子は笑った。
     記憶の中のDVDを心から楽しんでいるような笑い声が、砂浜に響く。
     笑い声が消えた時、笑子の姿はどこにもなかった。


     笑子が倒れていた真下に、爆弾はあった。
     全員で掘り起し、起爆装置を確認する。
     一抱えほどある爆弾は禍々しく黒光りし、数多くのケーブルで繋がれた起爆装置には、緑のランプが光っている。
     箒にまたがった松庵は、皆が見守る中、沖合で爆弾を海に放り込んだ。
     青い海にゆっくり沈んでいく爆弾が見えるうちに、マジックミサイルを打ち込む。
     全速力で離脱する松庵の背後で、派手な爆音と巨大な水柱が立ち上がった。
     もしあの爆弾が、砂浜で爆発していたならば。この近辺の地形は変わっていたかも知れない。
    「やれやれ、禁止漁法になってしまったかな」
     吹き上がる水柱からの海水をシャワーのように浴びながら、松庵は一人呟いた。
     水柱が収まり、海が平静さを取り戻すのを見届けると、響はDVDを手に歩き出した。
     爆弾を掘り起こした穴に、代わりにお笑いのDVDを埋める。
    「今度は、スマイルメイカーになれますように、ね」
     均された砂浜に、響は髪をかきあげながら微笑んだ。
     その時、ふいに周囲が騒がしくなった。
     爆発に驚いた観光客が駐車場から戻り、警察が賑やかなサイレンと共に現れる。
     灼滅者達は顔を見合わせると、即座にその場を後にした。

     一時の喧騒が収まれば、今年もまた笑顔があふれるビーチになるだろう。
     その様子を、地下に埋められたお笑いDVDは静かに見上げていた。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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