笑う爆弾:路地裏のハッピーバスディ

    作者:菖蒲

    ●The South
     沖縄県、国際通り。
     県庁前からずらりと並ぶ店舗群には楽しげな観光客達が買い物袋を下げて談笑している。降り注ぐ陽光は春よりも夏模様と呼んでも違いは無いだろう。アスファルトを焦がすその優しい陽気に気も昂揚して観光客達の財布の紐もついつい緩んでしまうことだろう。
    「ねぇ、これオソロで買おうよォ」
     修学旅行生達の他愛もない言葉は『彼』の耳朶を叩く。
     滑り落ちる言葉の意味に苛立ちを感じているのだろうか「煩い煩い煩い」と壊れたラジオの様に繰り返される言葉は陰鬱とした場所に一人膝を抱えているからなのだろう。
     店舗と店舗の間、開いた路地の隙まで響くタイム・リミットの音は彼にとって心地の良いものだったのだろう。
    「……あーあ」
     しゃがれた声は暫く人と話す事が無かったからだろうか。笑顔を忘れたのは『あの人』と出会ってからだ。自分が笑う事は何よりも、『あの人』の勘に触ったのだろうから――「あーあ……」
    「ハッピーバースディ自分……あーあ……」
     誕生日は、斯くも悲しいものであっただろうか。嗚呼、爆弾と二人ぼっち。
     
    ●introduction
    「沖縄のスマイルイーターの事件は御存じだと思うの。
     ええと、スマイルイーターが仕掛けた爆弾について、調査に行ってくれた皆のお陰で全ての爆弾の場所が特定されたの。一先ずはお疲れ様」
     労いの言葉を発した不破・真鶴(中学生エクスブレイン・dn0213)は傍らに立った楯縫・梗花(大学生灼滅ナース清純派・d02901)へと笑みを向ける。
     爆弾の撤去作業を行えるのも梗花達の頑張りがあっての事だろう。
    「やっぱり国際通りにあったんだね?」
    「うん。国際通りに一つあるみたいなの。爆弾の傍には護衛役の六六六人衆が控えているらしいの。だから、その隠れ場所を襲撃して護衛の六六六人衆を灼滅しなくっちゃならないの」
     なんにせよ『護衛』である以上は強敵であるに違いない。
     緊張の色の濃い梗花の淡い黒曜石の瞳は真鶴の言葉を促した。
    「灼滅して爆弾の撤去を行えば任務達成。だけど……」
    「だけど?」
    「注意してほしいの。この作戦が事前に『スマイルイーター』に露見したら、爆弾を爆破されてしまう命令を出されてしまうから事前に周囲の一般人を避難させる事ができないの」
     つまりは、その場で六六六人衆を灼滅し、手早く爆弾を爆破せねばら鳴らないという事だ。
     国際通りの他にも、同時刻・同タイミングで爆弾の処理を行うメンバーがいる。何れもスマイルイーターの露見を避ける為に爆弾の早期撤去を狙う事になるだろう。
    「国際通りは観光地らしいのね。マナは行った事無いけど……たっくさんのお店が立ち並んでるの。
     人が特に立ち並んでる人気の飲食店の間――路地にできた大きめの窪みに六六六人衆が存在してるの」
     彼は『コエナシ』と呼ばれる六六六人衆らしい。元は笑顔のに合うHKTにスカウトされた六六六人衆だったそうだが、スマイルイーターによる残忍な行いで心を折られ、笑みを失った――不遇でありながらもスマイルイーターには絶対的忠誠を誓う卑屈な青年だそうだ。
    「コエナシはそれなりの戦闘力と、忠誠心があるからスマイルイーターの指示があればすぐにでも爆弾がドーン」
     入口は二つ。裏と表からが存在している。どちらも細く戦場に出るまでは二人程度が横並びになれる場所を進んでいくことになる。
     しかし、忠実である事はメリットも存在していた。スマイルイーターが指示しない限り彼らは爆弾を爆発させる事は無い。戦闘中に爆破されるという可能性を考慮うする必要はない。
    「スマイルイーターて卑劣。誰かを不幸にするなんて許せないの。
     彼の策略の根幹はこの『爆弾』。爆弾を撤去出来たらKSD六六六の壊滅作戦を行う事が出来る筈……!」
     国際通りに彼が居ない間に掴んだ情報を有用に生かす為に。
    「沖縄の皆がハッピーになるように。絶対に、絶対に成功させようね……!」


    参加者
    榎本・哲(狂い星・d01221)
    楯縫・梗花(大学生灼滅ナース清純派・d02901)
    氷上・蓮(白面・d03869)
    鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)
    御門・心(日溜りの嘘・d13160)
    安藤・小夏(折れた天秤・d16456)
    凪野・悠夜(朧の住人・d29283)
    椎名・涼介(煉獄の刀・d32045)

    ■リプレイ


     茹だる様な暑さを感じるのは武蔵坂がある東京都よりも遠く離れた南(ばしょ)にいるからか。
     普段よりも気だるげに、薄氷を思わせる長い髪を残春の風に揺らした氷上・蓮(白面・d03869)は「すずしい」と表通りの気温とは打って変わった日陰の心地よさに小さく呟いた。
     ヒールのかつり、と立つ音さえも木霊しそうな静寂は観光客達の笑みからは遠く離れた深海へと踏み入れるかのよう。ずぶりと膚が冷ややかな海の底へ飲み込まれたかのような錯覚を感じ楯縫・梗花(大学生灼滅ナース清純派・d02901)は小さく首を振る。
    「まさか、こういう形で、ここに戻ってくるとはね……」
     意味深長に呟いて、六六六人衆が待つという場所へと梗花は歩を進める。彼が感じた違和はある意味で『理解したくない』と心の奥底に抱き続ける否定の情からくる物なのだろうか。柔和な光りを灯す射干玉の瞳は和紙で彩られた蝶々へと視線を落とされた。
    「六六六人衆、ですか。お誕生日だそうですけど――」
     へら、と笑った御門・心(日溜りの嘘・d13160)は『作り笑顔』で路地の奥へと視線を向ける。柔らかに微笑む紫苑の瞳は作戦に同時に参戦している最愛の兄を心配するかのように俄かに細められる。
     無論、幾度も戦いに参戦した心にとって、スマイルイーターによる残虐な行為は他愛のない日常に他ならない可能性はある。少なくとも、小さな黒色と兄を覗いては。
     薄桃の髪を追いかける様に進むのは蓮、梗花、椎名・涼介(煉獄の刀・d32045)の三人。路地の最後尾に立っていた彼は人好きする笑みを浮かべ「すみません」と周辺の人々へと声をかけた。
    「この場所はこれから工事するんですよ。危ないので通らないように!」
     工事関係者なのだと思わせぶる仕草を見せ、通行止めだと示して見せる彼の耳で淡い薔薇色がきらりと光る。明るい世界では柔らかな薔薇を演出して見せるピアスが、笑みの裏に隠された想いを反射する様に路地で黒ずんだ赫に煌めく。
    「それじゃ、進もうぜ」
     にぃ、と弧を描く唇にそうですね、と微笑む心の笑みもまた冷え切って。
     心の底に潜む淀んだ気配に梗花は唇で親友の名を呼んだ――理解できないと誰かを否定するその惑いを振り払うように。

     くしゅん、と小さなくしゃみが漏れる。ふる、と震えた安藤・小夏(折れた天秤・d16456)は「こころ」と唇で呼ぶ。
    「……どうかした?」
    「ううん。観光出来なくて残念だなぁ、って思っただけ」
     青年と称しても良い年齢であろうに、小夏は相も変わらず愛らしい笑みを浮かべる。眼鏡の奥で細められる木の実色の瞳の先で、凪野・悠夜(朧の住人・d29283)は複雑そうに小さく笑った。
     赤く煌めいた『曰く付き』の瞳を細め「国際通り、だからなぁ……」と頬を掻く悠夜はざわめきを掻い潜りゆっくりと路地の中へと歩を進める。灼滅者をグループ分けすれば、彼らは『B班』に当たるのだと自認していた。
    「……まぁ、今は目先の問題を片付けないとだね」
    「は、はいっ」
     こく、と頷くにも緊張の色が濃い鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)は冷静な風にも取れる小夏と悠夜の様子を受けて更に体を固くする。彼の気分の中では特殊部隊員なのだろう。重要なミッションに当たるに対し、不安なのは致し方がない。
    「ンな緊張すんなって。キチンと計画したんだ。上手くいくさ」
     伊万里の長い髪に追従する様に出入口に看板を立て掛けて。榎本・哲(狂い星・d01221)はへらりと笑って見せる。女性的なかんばせに不安を乗せていた伊万里が小さく頷けば哲は路地に反響する己の声に小さく笑って見せた。


     かち、かち、とリズミカルに刻む音はまるでメトロノーム。戦うリズムを示しているかのよう。
    「……あーあ……」
     静寂を破るリズムを無視して膝を抱えて蹲って。青年は黒で固めた衣装から伸びた色白の掌でアスファルトを擦る。表通りの笑い声に混じる様に楽しげな男女の声が聞こえて「皆幸せなんだね、しんでしまえ」と常日頃から口にする常套句を吐き出した。
    「ハッピーバースディ……自分……あーあ」
    「はっぴばーすでい、とぅーゆー。別の機会なら、祝う位ならできたのでしょうけれど」
     刹那、呟きに重なる様に降って湧いた祝辞の声はトンカラトンを思わせる包帯の勢いと共に『コエナシ』へと降り注ぐ。冷たいその空間に降り注ぐ一撃を追い掛けてウロボロスブレイドを振り翳した蓮はソーダ色の瞳を細め、形の良い唇を吊り上げる。
    「バースデー……お祝いには、来てないけどね」
    「誕生日なのに敵襲……鬱になるよ、あーあ……」
     ぶつぶつと呟く六六六人衆へと狙いを定め、苛烈な勢いでその身を翻らせる蓮の瞳に、直線状で唇を吊り上げ、シールドを手にした意地悪く笑う小夏の姿が見える。
    「ヨシダ」
     一声、たったそれだけで構いはしない。
     普段のノリと勢いを感じさせる小夏の表情とは一転し、道化よりももっと浅はかだと自分を思わせる笑みを浮かべた小夏のシールドがコエナシの背後ら叩きつけられる。咽喉を鳴らし、背後の仲間達を護る為に尻尾を揺らす包帯を巻いた柴の姿に心は安堵の笑みを浮かべた。
    「はは……思わぬ来客だなぁ……」
     爆弾と二人ぼっち――ならぬ四面楚歌。正にその言葉が似合うと声音だけで笑う青年に背筋にぞわりと伝う汗を梗花は振り払う。前線の仲間達へと支援を放ち普段と打って変わった硬い表情を浮かべた彼の唇がなぞる解除の言葉は何時になく冷たく感じられた。
    (「――幕引きは早々とね。だって、まだまだこの舞台は広いんだろうから……ね」)
     スマイルイーターの存在が示唆される状況では爆弾の撤去だけで事件が終わるとは思えない。その先に、理解する事を拒絶し、受け入れる事さえも忌避するその存在を目にして彼は頭の中に浮かぶ優しい笑みを振り払う。
     言葉は、親友を呼ぶ。重ねる訳でもなく――それでも、別物だとは思えずに。殺人鬼と六六六人衆の繋がりを感じながら。
    「煉獄の炎よ、皆を護る為に応えてくれ」
     その声は、真摯な青年らしく。ぶつぶつと呟き周辺に殺気をバラまいたコエナシのそれを払う様に涼介は焔舞ノ剣を手に取った。にぃ、と唇が吊り上がり楽しげに笑う夜闇の瞳は爛々と煌めいた。
    「どうも。元気してる?」
     飽くまで、それは『作り上げた』表情なのだろう。滲む意地悪い表情に気付きコエナシは首を傾げる。
     皮肉も、何もかもが彼にとってはスマイルイーターからの仕打ちよりも甘い優しさに見えて。笑みを浮かべる事無い表情は僅かながらに紅潮した。
    「誕生日なんだって? オメデトウ」
    「ハッピーバースデーお前。せっかくお祝いにこんだけ人数集めたんだからよ。
     すっげぇ楽しそうに笑って見せろや。お祝いっつったらパーティだろ?」
     皮肉げに告げる涼介を追い掛けて哲の声と槍が飛び込んだ。挟撃は六六六人衆を逃がさず、且つ、爆弾を確保する為に灼滅者達が考えた作戦は初手から良い影響を齎せていたのだろう。
     ひょろりとした哲の言葉は涼介とは対照的に『楽しそう』だと表現できるだろう。のらりくらりと他人との関係性までもが淡泊な猫が如く、靱やかに身を揺らす彼へとコエナシは「君はいいねぇ……笑えて……」と神妙に呟いて見せる。
    「嫌いだなぁ……その笑顔」
    「ったく、辛気臭い野郎だ」
     歯を向きだして、巨躯を撓らせた悠夜の血色の瞳が不快感を顕す。可愛らしく明るい表情を普段は見せる悠夜らしからぬ表情はネガティブ全開のコエナシに当てられてのことだろうか。
     パーカーが動きに合わせてふわりと揺れる。辛気臭い程に湿った空気を感じる路地裏を、風のように裂いた爪先に俄か、滲む紅色が花弁のように宙を舞った。
    「誕生日にこんなところでぼく達を相手にして、こんなことをしなきゃいけない境遇だけは同情します」
     ぴくり、とコエナシの肩が揺れる。長く伸びた髪は夜の帳を閉じ込めたかの如く黒い。鼻を擽る潮の香りは遠く、海を感じさせ伊万里は丸い木の葉の色の瞳を細めた。
    「同情はします――けど、共感はちょっとできませんし、納得なんてしませんし、容赦もなしです」
     たん、と。
     地面を踏みしめる彼の指先は高揚感を感じて俄かに震えた。心に刃を、胸に抱く義憤と、この場に穏を与えねばならぬという責任感が伊万里の胸を過ぎる。

    「すみませんが、あなたの誕生日はそのまま命日になります」

     怜悧な声音が、コエナシの頬を殴りつける様に。然して、彼は怯まない。
     伊万里の至近距離まで迫った六六六人衆は手にした標識を器用に扱い彼を頭上から殴り付ける。頭頂部へ落ちる衝撃に、唇を噛み締めた伊万里の愛らしいかんばせに滲んだのは義憤と――戦闘への高揚感に他ならなかった。
    「あなたを倒したら、次はスマイルイーターの番です。痕がつかえているので、本気の本気でいきます!」
     唇が奏でたのはたった五文字の別れの言葉。


     熾烈な戦いが起こる路地裏の空気は妙に肌寒く、異様な緊張感が走っている。
     唇の端からたらりと流れた紅色を拭って哲は唇を吊り上げる。誘う様に伸び上がる翳を味方につけて、覗きこんだ孤独の瞳は寂しさの寒色。
    「せいぜい楽しくヤろうじゃねーの」
    「……侘びしいさ」
     哲とは対称的なコエナシの卑屈さに彼がへらりと笑う。彼の唇から漏れだす言葉はブラックジョークと喩えるのが一番なのだろう。
     地面を蹴ったコエナシを受けとめたヨシダが唸り声を上げれば、ふわ、と宙を蹴った小夏が彼の前へと躍り出る。
    「――通過点なんだから、さっさと終わらせて貰うよ?」
     スマイルイーターを放置して居れば多くの人間が不幸になる可能性が示唆される。彼の視界にちらりと映った心の姿に、再度その掌に力を込める。
    (「心に何かある位なら、何を賭けたって――」)
    「って、冷静ですよ」
     心の中に湧きあがった思いを振り払い、小さく笑った小夏の背後から優美な色を灯した刃が暗がりで俄かに煌めいた。
    「『俺』だって冷静だ」
     冗句めかして告げても、悠夜の声音は普段のそれとは掛け離れている。六六六人衆が嗤わない、その『不気味さ』が妙にその胸に違和を残し続ける。
    「一周回って気味が悪いなッ!」
     一人称の変化さえも気付かずに、その動きを遮らんとする悠夜とは対極の方面から焔の風が舞い上がる。
    「折角の誕生日だったんだから、これで楽しくなっただろ?」
     三日月に歪んだ唇は何処までも楽しげで。嗜虐的にさえも見える涼介の笑顔にふる、と肩を震わせたコエナシが「狂ってる」と小さく囁いた。
    「君に謂われるのは心外だな」
     淡々と告げた梗花は眼鏡の奥で夜色の瞳を細め、小さく囁く。
     傷を負った仲間を癒す役割を一手に引き受けた彼を護る様にしかと、その両足に力を込めていた蓮は伸びた髪を揺らしてコエナシの至近距離へと飛び込んだ。
     覗きこんだ眸が、吸いこまれそうな程に――侘びしい。
    「こっちを、見て……欲しいな」
     美少女からのワルツに『彼』は応答しない。
     埃を踏みしめ、冷たいアスファルトの上で地面を蹴り上げて。その眼窩に存在する爆弾の存在が余りにお荷物で仕方がないとコエナシが声を上げる。
    「――……あーあ」
    「余所見、しちゃ……駄目だよ?」
     残念だなぁと囁くその声音を裂く様に蓮がウロボロスブレイドで切り裂くその向こうの景色は緊張した仲間の顔が見えている。
     頬を撫でる生温い赫に伊万里が首を振る。頬を撫でた髪も、赤く染まった鉄分さえも――今は、『忌むべき』モノでしかなくて。
    「ぼくの幸せもみんなの幸せも、あなたたちに壊させはしません!」
    「……不幸、だなぁ……」
     対称的な言葉に可哀想だと告げる声は無い。その両肩に背負った命の重みを振り払うように伊万里が首を振り、悠夜がその動きを阻害する。
    「盛大に祝ってるんだ。楽しめよ?」
     冷ややかなその響きは――只、切り裂く刃の重たさだけで伝わった。
     膚を裂く痛みにさえもコエナシは声を上げずに「ごめんなさい」と小さく呟く。
     ――ごめんなさい、役に立たないで。
     ――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
    「不憫だとは思うぜ? でも、ソレがお前の人生だったっつーコトだ」
     ひら、と振られた掌に六六六人衆は一人でもとその手に握りしめた看板を翻す。
     灼滅者一人でも刈り取れれば。
     己の笑みを奪った『彼』に甚振られる事もなく、失態を帳消しにされる可能性がある――それは只の保身に他ならないと彼は知っている。
    「させませんよ」
     淡々と告げられた梗花の声音は堅い。
     灼滅(ころ)すことが良いとは思えない――それは彼が否定し続ける六六六人衆の生き方でしかないが故。しかし、灼滅さなければ、尤も大きな被害が起きるにきまっているのだから。
     だからこそ、灼滅者はその命を刈り取らんと武器を振り下ろす。
    「……ちゃんと、帰らないとね」
     囁く唇は、喧騒の中の女子高生たちを思い出してのことなのだろう。蓮の声に「サヨナラ」と呟いた六六六人衆は窪んだ眼窩を晒し、唇を震わせた。
    「じゃあな」
     伸び上がる翳の下、涼介は冷徹に――慈悲もなく云い捨てる。
     陽光さえ浴びぬ翳り切った場所で、コエナシの頬にぺたりと当てられた伊万里のマテリアルロッドはやけに冷たく感じられた。
    「――」
     丁寧に、芽を摘む様に。瞳を伏せった伊万里の頬を切り裂くコエナシの一撃に彼は小さく別れを告げた。
     ダウナーであれどダークネスが危険であることに変わりはない。殺し合うことを厭わず笑う六六六人衆を忌避する様に弓を下ろした梗花は対話することなく彼を見詰めていた自分自身の掌を眺めだらんと腕を落とした。
     残ったのは一つだけのバースディ・プレゼント。
     時を刻む其れを拾い上げて灼滅者達は海へと駆けだした。

    「この辺りでいいンじゃねぇか?」
     人気のない場所で計画に沿った場所を発見した哲が指をさす。
     別のチームとの連絡を担っていた涼介は音を奏でる爆弾を眺めて小さく頷く。
     ぽちゃん、と。小石を投げ入れるかのように音を立てて水底へと飲み込まれる爆発物を心はぼんやりと眺める。
     運ぶ為に触れていた掌への重みが失われ、余りに現実味のない『爆弾処理』に小さな欠伸を噛み殺した蓮は飛沫と共に立ち昇った『非現実』へとこてり、と首を傾げて告げた。
    「たーまやー……?」
     漣が運ぶのは、只の静寂。そして、彼らの抱く予感という名前の白い波だけだった。

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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