笑う爆弾:守禮之邦の爆弾

    作者:相原あきと

     首里城、そこはかつてあった琉球王国の中心地であり、今は沖縄有数の観光名所だ。
     観光のスタート地点は守礼門、二千円札に描かれている美しい門だと説明すれば、かなりの人々がああと頷くだろう。
     赤を基調とした守礼門は上段と下段の二重の屋根があり、本土には無い文化の情緒を感じさせる。
     そんな守礼門の下段屋根の上、上段の屋根の影に隠れるように1人の女子高生が体育座りをしていた。
    「………………」
     黄色いカチューシャに青味がかった長髪、どこかの高校のセーラー服を着こんだその少女は、学校で一番になれるほどの美少女だった。
     だが、今少女の瞳に光は無く、首里城に向かう観光客や守礼門前で記念撮影する学生たちを死んだような眼で見続けていた。
     笑えば誰もが振り向く美少女でありながら、その笑顔が気に入らなかったスマイルイーターによって執拗にいたぶられ、心を破壊されたのだ。
     少女は一般人からは見えなくなるESPのような力を使っているのか、カメラにも映らないし、一般人に気が付かれる事も無い。
    「爆弾……守らないと……」
     壊れた彼女に与えられた命令、それはここにある爆弾を守ることであった。

    「みんな、沖縄のスマイルイーターの事件は知っているわよね?」
     教室の集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     ゴッドセブンのナンバー5、スマイルイーター。彼は沖縄の各所に爆弾を仕掛けており、故にこちらも彼の灼滅が難しい状況にあった。
     だがスマイルイーターが仕掛けた爆弾について皆が調査を行ってくれたおかげで、ついに全ての爆弾の場所が特定されたという。
    「これでやっと爆弾の撤去作業が行えるの。ただし爆弾の側には護衛役の六六六人衆が控えているわ。まずは護衛役の六六六人衆を灼滅して」
     灼滅できたら、その後で爆弾の撤去を行えば任務達成というわけだ。
    「一つだけ注意して。この作戦が事前にスマイルイーターに露見したら、爆弾を爆破する命令を出されてしまうの。だから、事前に周囲の一般人を避難させる、みたいな行動は取れないの」
     人が多い場所にあったらどうするんだ!? と集まっていた灼滅者の1人が口に出すが、珠希は辛そうに顔を伏せる。代りに口を挟んだのは、爆弾の1つを見つけた2人だった。
    「あそこは観光地、人の波が途切れることは……難しいだろう」
    「そう、ですね……あそこは有名な――」
     紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)の言葉に志乃原・ちゆ(トロイメンガイゲ・d16072)が頷き、他の灼滅者に見つけた爆弾の場所を告げる。
    『首里城の守礼門』
     2人の口から同時に出た単語に、集まっていた灼滅者達が一斉に息を飲む。
     爆弾は守礼門の二重の屋根の間、つまり上段の屋根の下に取り付けられていたという。
     深呼吸した珠希が再び説明を開始する。
    「爆弾は全て同時に解除作戦を行わないといけないの。そうしないと、残された爆弾が爆破されて被害が出てしまうわ」
     珠希が言うには作戦当日の15時頃に他の班も同時に動くと言う。
    「敵の説明もしておくわね」
     守礼門で爆弾を守っているのは栞という名の女子高生六六六人衆。
     黄色いカチューシャに青味がかった長髪、どこかの高校の制服を着ているという。
     栞は旅人の外套のような力を使い、一般人から見えなくなりつつ守礼門の下段の屋根の上(上段の屋根の影)で陰鬱に体育座りし続けている。
     もちろん周囲は観光客が引っ切り無しに通り、また記念写真を撮っていると言う。
    「この栞っていう六六六人衆、もともとは可愛らしい笑顔でクラスに転入してはクラスメイトを虐殺するダークネスだったみたいなんだけど、スマイルイーターにいたぶられて笑顔を永久に失ってしまったらしいの」
     まぁ、ダークネスの背景なんてどうでもいいけど、と珠希はにべも無い。
     とにかく、今の栞はスマイルイーターの命令に絶対服従で忠誠心しか残っていないという事だった。
    「栞は戦闘になると殺人鬼とガトリングガン、それにシャウトに似たサイキックを使ってくるわ」
     得意な能力は気術二極、ポジションはクラッシャーだと言う。
    「戦闘前に一般人を避難させればスマイルイーターに気づかれる、でも、戦闘時に一般人がいれば巻沿いをくう可能性は否定できない、戦闘開始後に避難させると人手が減る……何をどこまで良しとするかは、現場に行く皆に任せるわ」
     珠希は唇を噛みしめそう告げる。
     爆弾を全て撤去できれば、KSD六六六の壊滅作戦を行う事ができるのだ。
     今回の依頼を成功させる意義は大きい。
    「スマイルイーターは本当にムカつくわ、でも、目的は見失わないよう……みんな、お願いね」


    参加者
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    苑田・歌菜(人生芸無・d02293)
    識守・理央(オズ・d04029)
    志乃原・ちゆ(トロイメンガイゲ・d16072)
    六条・深々見(螺旋意識・d21623)
    天霧・佳澄(大学生殺人鬼・d23566)
    竹野・片奈(七纏抜刀・d29701)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)

    ■リプレイ


    「(爆弾、あんな所に仕掛けていたのですね……)」
     守礼門近くの物陰に隠れつつ、門を見上げ小さくつぶやくは志乃原・ちゆ(トロイメンガイゲ・d16072)、脳裏を過ぎるはあの時見たスマイルイーターの張り付いたような笑顔。
     ――目的が何であれ容易くやらせはしません、いつかあの笑顔をぶっ飛ばしてやります。
     と、隠れているちゆ達は思わず目を見張る。仲間の1人がふらふらと一般人に紛れて守礼門に堂々と近づいて行っているのだ。
     確かに近づく方法や奇襲は、しっかりとした共通の流れとして決めてなかったが……。
     守礼門の屋根の上で姿を隠していた六六六人衆の栞がスッと立ち上がる。そして手に持つ凶悪なガトリングガンがゆっくり下へ向けられる。
     眼下の一般人に紛れて近づいてくる六条・深々見(螺旋意識・d21623)と……その周囲の一般人たちに。
    「六六六人衆! これ以上何も奪わせはしない!」
     唐突に声がぶつけられる。方向は……真横!?
     栞がガトリングを構えたまま声の方を見れば、箒に乗った識守・理央(オズ・d04029)。そう、理央は異変を感じて即座に注意を引きつけるため突っ込んで来たのだった。
    「歌菜」
    「無理するんじゃないわよ」
     理央と同じく異変を感じ取った紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)が苑田・歌菜(人生芸無・d02293)の名だけを言えば、即座に理解した歌菜が行って来いとばかりに声をかける。
     謡が「背中は預けるよ」と言いながら守礼門の柱を駆け昇っていく。
     仲間が動いた事で行動を開始したのは謡だけではない、ちゆや深々見も門の上に立つ栞に向かってサイキックを放ちだす。
     同時、敵への攻撃とは別の行動をする者達もいた。
    「爆弾よ、逃げて!」
     大声で叫んだのは歌菜。
     一瞬の間、1秒もせず言葉の意味が周囲の一般人全員に浸透、瞬後、天霧・佳澄(大学生殺人鬼・d23566)がパニックテレパスを発動させる。
    「逃げろ! そばの動けないヤツも連れてな!」
     一斉に悲鳴が上がり守礼門の周囲は混乱の渦へ。
     周囲の人々は我先にと守礼門から遠ざかるよう逃走を開始する。パニック状態で爆弾と聞けば誰でもその場を離れたくなるのは常だろう。
     だが、佳澄の動けない者を連れて逃げろとの意図は伝わらなかったようだった。親の手を離してしまった子供がその場で泣き崩れて座り込む姿などが見て取れる。
     一方、守礼門の屋根の上では理央や謡、ちゆが栞に攻撃を繰り出していた。
     そこにワンテンポ遅れて屋根の上に降り立つ竹野・片奈(七纏抜刀・d29701)、仲間が攻撃し終わったタイミングで再び敵の手を封じるよう高速で死角に回り込むとサイキックバンブーソードを一閃。
    「くっ」
     短く息を飲む栞。
     対して片奈は、サイキック竹刀でだいたい爆弾が仕掛けられているだろう栞の背後を差しニヤリと笑う。
    「スマイルイーターの指示タイミング以外で爆破しちゃったら……どんなことになるかなぁ?」
    「………………」
    「どうしたの? ほら、庇いなよ?」
     もちろん一般人がいる中で爆発させるつもりは片奈にも無い。対して栞は――。
    「そんな事はできない」
    「へぇ?」
    「あなた達はここで死ぬのだから」
     ダララララララッ!!!
     若桜・和弥(山桜花・d31076)の頭上でガトリングガンが水平にまき散らされる。
     仲間達の攻撃や挑発が効いたのだろう、と和弥は納得する。
     間に合って……。
     これ以上人々がやって来ないよう殺界形成を発動させつつ、和弥は両の拳を眼前で打ち合わせるのだった。


     片奈が竹刀を下段に構えたまま屋根の上を疾走、栞に迫りつつ視線は爆弾がありそうなその背後へ向ける。あくまで爆弾狙いのフリを貫く。
     しかし下段からの竹刀はグンッと空を切り空振りに終わる。栞が宙に跳ぶ。そのままセーラー服のままくるりと回転し上段の屋根の上へ着地。
    「パッと見じゃ見つからないでしょう? いいよ、探しても」
     栞が見下ろしつつ呟くも、それは罠だ。
    「やめとく。本当はこの門ごとぶっ壊すくらいはやりたかったんだけどね。まずはあなたを壊すことにするよ」
     元々は潜入を得意とした六六六衆だけあって栞は力任せのバカとは違うようだった。
     片奈のつれない態度に栞は短くため息を付くと。
    「いいえ……壊すのは、私」
     上段の屋根の上から、下段の屋根にいる片奈達に向け――。
     ソレに最初に気が付いたのは和弥だった。標識を黄色く変える、それはまさに流れ弾注意!
    「気をつけて! 一般人にも流れ弾が来ます!」
     わずか0.2秒程後、栞のガトリングが左から右に振られながら火を噴いた。
     ダラララララッ!
     初期情報からして一般人の避難は難しかった。そして依頼の成功条件に一般人の死亡は含まれていない。つまり、それだけ今回の依頼では一般人の死傷者が出易いという意味だ。
     栞のガトリングガンが大地に大量の弾をまき散らし、土煙をあげる。
     やがて煙が晴れた頃――。
    「いたた……謡、そっちは?」
    「……無事」
     煙の中から歌菜と謡が現れる。背後には逃げ遅れていた男の子と、腰が抜けて動けなくなっていた女性。
    「もう、無理するなって言ったそばから」
    「適者生存の世とはいえ、見捨てる程無情にはなれぬ故、ね」
     怒るように言う歌菜に、謡はそう答えると栞を見上げ不敵な笑みを浮かべる。
    「………………っ!」
    「心と一緒に狙いも失せたかい。哀れなものだね」
     無言の栞にそう言い、まるで栞の感情を読んだかのように謡は続ける。
    「笑顔はトラウマかな、栞さん」
    「……殺してあげる」
     図星なのか栞の殺気が先ほどより的確に灼滅者達だけに向けて放たれ始める。
     謡と歌菜はいざという時は攻撃を捨ててでも守る行動に出る覚悟だった。そして初手から避難に尽力した者達がおり最低限まで逃がせたからこその今回の結果だ。もし魂鎮め等を使っていたらと思うとゾッとする。
    「識守くん! そっちの女性は任せるよ!」
     すでに足の悪い老人を抱えて弾丸を回避していた深々見が、歌菜の後ろにいた男の子の首根っこ掴んで走りながら言う。理央もコクリと頷き謡のそばで腰を抜かしていた女性を掴み箒で離脱する。
     戦場から離れる2人を、白衣を着たナノナノのきゅーちーが庇うように栞の射線を遮る。
    「なにぼーっとしてやがる!」
     声に栞が振り向き、咄嗟に腕でガード。
     しかし声の主たる佳澄が放ったのは相手の動きを制約する弾丸。
     腕から全身に痺れが広がる。
     だがこの程度なら問題なく戦える――そう思った瞬間。
    「コレ以上、勝手なことは許しません」
     声は足元から。
     がっしと足首を金属の帯で捕まれた。ちゆのダイダロスベルトだ。
     栞の足首を掴みそのまま上段の屋根から引き吊り降ろしつつ。
    「今回も、そして今後も。貴方達のやりたい放題には――」
     上段の屋根から滑り体が宙に浮く。
     その時栞の視界には足首から帯を離したちゆの姿。その足が、燃えていた。
    「――絶対にさせないのです」
     ドガッ!
     炎の踵落としがきまり、栞が勢いよく大地へと叩きつけられた。


     戦いは続き、すでにナノナノは仲間を庇い消滅し、前衛達の余裕もなくなりつつあった。それは一般人に一人も犠牲者を出さない為に手番すら潰して救助した代償だ。逆によくもこの程度ですんだと言える。最低限のESPを選択した繊細さと、強引に救助する大胆さ、それが合致した最良の結果だったと言える。
    「笑えなくなってしまったのは可哀想ですが、だからと言って同情の念を抱きはしないのですよ」
     ちゆが2回に1回の割合で使う炎の蹴りが栞にヒット、守礼門の柱に叩きつけられる栞。
     ぐったりとしつつも死んだ目をしたままグググと立ち上がるセーラー服の少女。
    「考え事しながら殺し合いか? どうしたよ?」
     立ち上がる栞の前に仁王立ちし、佳澄が言う。
    「だ……まれ……」
     再びガトリングガンを構えようとする栞に、佳澄はぽいっと何かを投げる。
     それは何の変哲も無い缶コーヒー。
     ゆっくりと弧を描いて飛んでくる缶に、栞の目が見開かれる。
     それはまるで、過去の……クラスに紛れ自分の思うがまま楽しく殺しを行っていた記憶がフラッシュバックしたかのよう……。
     だが、その瞳は決して正気の色ではない。今は同情する程壊れていても、その過去は十分過ぎる程狂気なのだ。
    「ちっ、それでも言っとくぜ……悪いな」
     瞬後、缶に完全に姿が隠れたのを見計らい、佳澄は一気に距離を詰めチェーンソー剣で柱に傷を付けつつ栞の胴を薙ぐ。

     まるで追尾するかのようなガトリングの連射から和弥を庇った歌菜が膝を付く。一般人を助ける為に受けた傷も大きい、限界だった……。
     ――歌菜。
     声が聞こえた。
     体が倒れたいと悲鳴をあげている。けれど、気が付けば再び2本の足で立ち上がっていた。凌駕したのだ。
    「スマイルイーターの……嫌らしい爆弾なんて……絶対、こんなところで爆発させて、やるもんですか」
     そう呟くと聞こえた声の主、謡の方を見て笑みを見せる。
     その時だ。
    「やーやー、待たせたね。可愛い皆をこれ以上傷つけさせるわけにはいかないってね?」
     ザッと歌菜の前に降り立つは深々見、同時にソーサルガーターで回復させる。
     さらに上空から箒を片手に理央が降り立つ。帰りは深々見を箒に乗せ全力で戻って来たのだ。
     再び8人となった灼滅者達に栞の目が細められる。
     理央が栞を真正面から見据え。
    「栞……君も、かわいそうな人だ。堕ちる前は、きっと素敵な女の子だったんだろうね。家族や友達となんでもない日常を過ごして……笑っていたんだ」
     笑う――という単語にピクリと反応する栞。だが、理央は気づかず言葉を続ける。
    「なのに僕には……それを取り戻す術がない。僕には、これしかできないんだ」
     手を一振り、箒の代わりにサイキックソードを握る。
    「僕は……オズ。あまねく悲劇と絶望に終焉を刻むオメガにしてゼロ! デッドエンド・オズ!」
     地を蹴る理央と、高まった殺気を解き放つようにガトリングガンを乱射する栞。
    「君の悲しみを、ここで終わらせる!」

     ――視野を広く、努めて冷静に。いつもの私のまま、必要な事の全てをする。
     「後の後」や「後の先」が活きる技術を持つ和弥は、戦場を常に冷静に分析できていた。
     必要な対象に必要な回復を。
     大ダメージを連発してくる敵に対して、和弥の回復は生命線と言える。
     和弥は仲間に回復を飛ばしつつ、視界の端に栞を入れたまま思う。
     一般人が多少死んでも仕方ないなんて微塵も思っていない。スマイルイーターは勿論、栞の事も到底許せない。だが――。
    「それを、教えに反する行いを、正当化する理由に使うのは……正しくない」
     和弥が飛ばした小光輪が片奈の傷を癒す。
     目的と同様、己も見失わないよう……それが若桜和弥のスタイル。
     傷を癒され踏ん張りが利くようになった事を確かめ片奈が剣を振るう。光の刃が栞の脇腹に突き刺さる。
    「くっ……いい加減、にしなさいよ」
     栞が光の刃を手で引き抜くと同時、ガトリングガンを掃射。前衛全てを薙ぎ払う。
     半円を描くように土煙が立ち――。
    「謡っ!?」
     歌菜の悲鳴。
     先の歌菜と同じく一般人を庇ったツケだろうか、謡が倒れていた。
     慌てて駆け寄る歌菜だが。
    「大……丈夫」
     絞りだすよう謡が言い、ふらふらになりながらも立ち上がる。魂のオーラが立ち昇るようにも見えた。
    「そろそろ、終わらせよう。心も体も砕いてあげるよ」
     凌駕し、しかし気概だけは変わらず謡は宣言するのだった。


    「すまない」
     理央がサイキックソードを大上段から振り下ろしつつ言うと、栞はガトリングガンで受け止め。
    「なぜ謝るの?」
     ガッと理央を押し返し、しかし理央は回転、軸足を中心に受け流した力を攻撃のエネルギーに換え燃える片足に乗せる。
    「君を救えない事に、だ!」
     炎をまとった蹴りが栞を吹き飛ばす。
     その瞬間、栞の吹き飛ばされる方向に現れる殺気。
     咄嗟にガトリングガンを大地に突き立て勢いを殺すも……ドス、ジャギリリリッ!
     貫かれこそしなかったが、背後の死角から片奈に全力の突きを受け、同じく佳澄のチェーンソー剣が背中を切り裂く。
     背骨が軋み、肉が裂け、栞が激痛に顔を歪ませる。
    「あーもー、壊れて役に立たなくなった道具の再利用って聞いてたけど、そろそろ本当に壊れそうだねー」
     明るい口調で深々見が栞に言う。
    「だ……まりな……さい」
    「ダークネスって得だよねー、壊れてもまだ使い道あるのは本当羨ましい! 私もそういう潰しの効く駒が欲しいなー……」
     本人的にはともかく、端から見れば完全な挑発を続ける深々見は、ふと守礼門の屋根の方を見上げて呟く。
    「アレ、持って帰っちゃダメかな? えっと……あなた名前、なんだっけ?」
     栞の殺気が爆発し、ガトリングガンを担いだまま高速で深々見に接敵。
     本来の使い方とは異なる、金属の固まりで深々見の頭蓋を割ろうと振りかぶる。
     だが、その時にはすでに深々見のサイキックは発動していた。
     ディーヴァズメロディ。
     歌によるサイキック攻撃。
     栞の両耳から赤い血が伝う。
     だが、それでもダークネスは倒れなかった。
     即座に和弥が回復を行おうとするも、謡達から「無駄だ」と目配せされ、春の嵐のようにオーラを吹き上げ、集中、塊にして栞に打ち出す。
     それは支援の一撃。
     栞が回避した所に2人の灼滅者が距離を詰める。
     だが栞もすでに攻撃モーションへと入っていた。高ぶった殺気が今まさに解き放たれようとしている。
     先に命中したのは歌菜の制約の弾丸、次いで謡の螺旋の槍。
     一瞬、白目をむく栞。
     だが、2歩ほど下がった所で踏みとどまり黒目が戻る。ギロリと、それは生きた殺意を称えた瞳だった。
    「こんなに長く殺り合って……友達に噂されると恥ずかしいし。これで、死んで!」
     解き放たれる殺気、耐えられず謡と歌菜が膝を付く。
     だが、重たいカーテンのような殺気の幕を破り、栞の目前に迫るは黒髪の少女、ちゆ。
    「これで終わりなのです」
     地面すれすれから振り上げられた腕は、いつの間にか鬼のソレに変わっており、ふらふらの栞の腹にアッパー気味に突き刺さる。
     守礼門の屋根の天井にぶつかり、ドサッと地面に落ちる栞は……もう、何者にも支配されぬ世界へと旅立っていた。

     その後、即座に爆弾の回収を行った灼滅者達はそれを理央に託す。
     やがて守礼門の所まで爆発音が聞こえ、爆弾を処理できたことに安堵する。
     無事に戻ってきた理央とともに、傷ついた仲間に肩を貸し灼滅者達は門に背を向ける。
    「にしても、どうやったら虐殺を楽しむ様なヤツを虐殺なんてどうでもいいと思わせる程に壊せるのやら……」
    「うん、あんなになるまで出来るって……」
     佳澄の言葉に片奈が同意する。
     守礼門の爆弾は解決した。
     だが黒幕は、未だ健在なのだ。

    作者:相原あきと 重傷:紫乃崎・謡(紫鬼・d02208) 苑田・歌菜(人生芸無・d02293) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ