笑う爆弾:閉ざされし壕の奥

    作者:望月あさと


     沖縄戦跡国定公園。
     そこに、落盤があるということで、入口に柵がかけられている第三十二軍司令部壕がある。
     訪れた人たちは、誰もが、その奥へと思うが叶わない。
     そのため、入口には献花が捧げられている。
    「……何が、安らかにだよ。そう言えるのは、お前たちが幸せに暮らしているからだ」
     そう口にしたのは、絶望の淵に立ってしまった少年だ。
     壕の一番奥――入り口から注がれるわずかな光をも避けるように、隅でうずくまっている。
     顔に覇気はない。
     ただ、生きているだけの人形のようだが、足元には爆弾が置かれている。
    「どうせ、そんな神妙な顔をしたって、すぐに笑いだせるんだ。表面上だけ取り繕いやがって。反吐がでる。あんたもそう思うだろう。ここで死んだっていう司令官さんよ」
     

    「みんな、沖縄のスマイルイーターの事件は知っているよね。
     なんと、調査を行ってくれた皆のおかげで、遂に全ての爆弾の場所が特定されたんだよ!」
     これで、やっと爆弾の撤去作業が行えると、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は興奮気味語った。
     だが、この撤去作業には一つ問題がある。
     それは、それぞれの爆弾に護衛役として六六六人衆が控えているのだ。
     そのため、まずは、その隠れ家を襲撃して護衛役の六六六人衆を灼滅する必要がある。
     そして、爆弾を守っている六六六人衆を灼滅した後に、爆弾を撤去すれば依頼は達成だ。
    「だけど、注意することがあってね、この作戦が事前にスマイルイーターにばれちゃったら、爆弾を爆破する命令が六六六人衆にだされちゃうの。
     つまり、事前に周囲の一般人を避難させるという行動ができないんだ。
     場所が、場所だからちょっとやっかいだよね……。
     あっ! 皆に爆弾のある場所を伝えてなかったね、ゴメン!
     皆に行ってもらう場所は、羽柴・陽桜(はなこいうた・d01490)さんが見つけた、沖縄戦跡国定公園にある第三十二軍司令部壕だよ。襲撃時間は午後。15時までに爆弾を撤去するのが、スマイルイーターに襲撃を事前察知されないタイミングなんだ」

     第三十二軍司令部壕。
     司令官が自決されたとされる壕だが、今は落盤があるとの理由で入口に柵が設けられていて誰も入れない。
     六六六人衆はそこに目をつけたのか、爆弾と一緒に暗い奥に潜んでいるらしい。
     柵の中へは、まりんが灼滅者たちに渡した鍵を使えば、難なく入れるので問題はない。

    「第三十二軍司令部壕は、黎明の塔や勇魂の碑の近くにある一本道の階段を降りたところにあるんだ。
     そこは、司令官が自決した所らしくて、訪問客もたくさん来るんだけど、階段を封鎖してしまえば、人は入ってこられない、そこはみんなの作戦しだいだね」
     戦闘中、一般人をどうするかは灼滅者たちの判断だ。
    「肝心の六六六人衆は、第三十二軍司令部壕の奥へ行って、爆弾を撤去しに来たことを告げたら、向こうから壕の外へ出てくるんだ。
     壕の中は崩れやすいみたいだから、爆弾が爆発するような危険なことは避けるみたい。
     こっちも、爆発されたら困るから、戦う場所は壕の外でお願いね。
     あと、もし、戦っている隙に爆弾を奪おうとすれば、六六六人衆も黙っていないから、どう出てくるかは予測不能。だから、とにかく戦闘中は爆弾の事を考えずに戦って!」
     六六六人衆は、スマイルイーターの命令通り、忠実に爆弾の護衛を行う。
     下手に手を打たなければ、爆弾は六六六人衆が守ってくれるのだ。
    「皆が戦う六六六人衆ってね、スマイルイーターによって、徹底的にいたぶられて、心を折られて笑顔を永久に失った少年なんだ。
     心を完全に折られて、スマイルイーターに対する反抗心を持つこともなく、ただ命令には忠実に従っているだけの存在。
     そんな六六六人衆を作り出し、爆弾を仕掛ける場所も一般人の多い所を選ぶスマイルイーターの卑劣さは許せないよね。
     この作戦で、スマイルイーターの策略の根幹であるすべての爆弾が撤去できれば、KSD六六六の壊滅作戦を行う事ができると思う。
     沖縄の人たちや、訪れた一般観光客の笑顔を守るためにも、絶対に成功させようね!」


    参加者
    羽柴・陽桜(はなこいうた・d01490)
    桃野・実(水蓮鬼・d03786)
    敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)
    吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)
    永舘・紅鳥(氷炎纏いて・d14388)
    御影・ユキト(幻想語り・d15528)
    不破・桃花(見習い魔法少女・d17233)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)

    ■リプレイ

    ●1
    「沖縄……瀬戸内海と違う。きれいだな……」
     桃野・実(水蓮鬼・d03786)は、黎明の塔から見える一面の海を見てつぶやいた。
     生まれた場所とは異なる海の風景。
    「そろそろ12時だ。時計の時間を合わせておこうぜ」
     第三十二軍司令部壕へ降りる前にと、吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)は決行時間である12時半にずれが生じないように、仲間全員で時計の秒数までを一致させた。
    「ようやく尻尾を掴めたか。歪んだ笑み程、不快な物はない。それを砕くためにも、ここで確実に爆弾も配下も始末しないとな」
    「あの悲劇が起きた場所で、同じ悲劇は起こさせないよ。生きてる人の笑顔も亡くなった人の眠りも、絶対守ってみせるの」
     セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)が顔を上げれば、陽桜は、きゅっと唇を強くかみしめる。
     御影・ユキト(幻想語り・d15528)は壕へ続く階段の手すりに手をかけ、
    「爆弾は危ないですし、スマイルイーターも危ないですし、……さてさて、事を無事に終らせられればいいですね」

     壕の前には、数人の先客がいた。
     壕へ続く階段を封鎖するために、作業着などを着て掃除や壕の点検などを行うボランティアを装った灼滅者たちは、手を合わせてから次の場所へと移動していく一般人たちを見送る。
     この壕の奥に爆弾があるとは、誰も知らない。
    「……しっかし、胸くそ悪いなコンチクショウ! 悪事をやんなら、せめて強制させねぇか、自分の手を汚せっての!! 洗脳みたいなエグい方法使いやがって……」
     ツナギ姿の永舘・紅鳥(氷炎纏いて・d14388)は、感情の赴くままに言葉を吐いた。
     それに同意するように敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)は腕を組む。
    「……悪趣味極まりねえな。人の笑顔を狙うやり口も、爆弾の守護者を作る手段も心底気に入らねえ。スマイルイーター……直接会ったらぶっとばす」
    「だな。さて、ちょうど人もいなくなったところだし、洞窟内に行くとでもするか」
    「待ってください」
     壕を塞ぐ柵にかけられた鍵を開けようした紅鳥の手を、羽柴・陽桜(はなこいうた・d01490)が止めた。
    「12時半になるまで、待ってもらえませんか?」
    「それはいいが……、皆もその時間がいいのか?」
     紅鳥の問いかけに、闇纏いで一般人の目から姿を隠しているセレスがうなずいて答える。
    「ああ。それに、一般人のこともあるから、私一人が入ろうと思っているんだ。その方が、何かあったとき対処しやすいだろう」
     12時半という区切りのいい時間が合図にもできるタイミングに、紅鳥は納得する。
    「わかった。それなら俺は、もし、一般人来て話しかけられたら、ここは壕が崩れていないかなどの点検だと言って遠ざけとくぜ」
    「頼む」
     紅鳥とセレスの会話が終わり、紅鳥が柵から離れれば、雷歌は黙って壕の前に立った。
     不破・桃花(見習い魔法少女・d17233)は、来る人々に怪しまれないよう掃除をしながら、来るべき時を待つ。
     昴は、また新たに来る人の声を耳にしながら、改めて、今回の依頼の難しさを感じた。
    「今回は、タイミングが命だな」

    「行ってくる」
     セレスは、壕の入り口にかかっている鍵を開けて中に入った。
     慎重に足を進めれば、突き当りに奥まった場所があった。
     見れば、死んでいるような目をしている少年がうずくまっていた。
     足元には、爆弾。
    「本土の方からやってきた爆弾処理班だ。壕を崩す事を怖がりながらより、外でぱっと戦った方が後腐れは無いだろう? それとも、亡霊とぐだぐだ陰鬱に、そこで愚痴って生き埋めにあう方が好みか?」
     セレスの言葉に、少年は目だけを動かした。
    「……外へ出ろ」
     セレスは、少年に抗うそぶりを見せずに、来た道を戻る。
    「――来た」
     壕から出てくるセレスとその後ろにいる六六六人衆を視認するなり、雷歌はサウンドシャッターを広げた。
     陽桜も、雷歌に合わせて殺気を放ち、一般人を近づかせないようにする。
     セレスが壕の外へ出てくると、陽桜や実たちが一斉に階段の封鎖へと動き出した。
     あらかじめ用意しておいた三角コーンや看板、ロープを使って完全に道を遮断する。
     看板には、「点検中」「調査中」と、あえて人が入りづらい言葉を選んでいる。
     元々、中が崩れやすいという壕だ。誰も怪しまずに通り過ぎるだろう。
     しかも、桃花は一番一般人に接しやすい道沿いで、プラチナチケットを使って作業をしたため、灼滅者たちの行動を疑問に思う人はいない。
    「閉鎖、終わりです!」
     実は、戦う前に外へ出てきた六六六人衆に問いかけた。
    「……名前は? 教えてくれたら、話しやすい。それに覚えやすい」
    「――ケイト」
    「そう。ケイト」
     六六六人衆は、それ以上を語らず、代わりに腰に下げていたナイフを構えた。
     今、目の前にいる灼滅者全員を敵と認識したのだろう。
     ユキトは、階段を下りながら、静かに六六六人衆を見下ろした。
     覇気のない顔をした少年。
     桃花は、魔法少女風の衣装に姿を変えると、正々堂々、真正面から六六六人衆と対峙した。
    「これ以上、あなた達の好きにはさせませんっ!」
     灼滅者と六六六人衆が、同時に地面を蹴った。

    ●2
    「お前らの作戦、成功させらんねぇんだよ!!」
     紅鳥は、仲間の強化を最優先にして動いた。
     相手は、六六六人衆。侮る理由などどこにもない。
     それをわかっている昴は、反撃されることを覚悟の上で、斬撃を放つ。
    「っ!」
     死角を狙ったにもかかわらず、少年のナイフが昴の足を切り裂いていた。
     いくら覇気のない相手でも、六六六人衆としての腕は確か。
     だが、昴もひるまずに、少年の腹部に傷を負わせた。
     怪我によってわずかにできる隙で、仲間の動きを支援したい。
     その思いが伝わったのか、レグルスを非物質化させた桃花が剣先を少年の体に突き刺した。
     間をおかずに、実が浜姫でうがつ。
    「顔の筋肉の動きにいちいちイライラするなんて……。だからアツシに勝てないんじゃないか……?」
     答えは、攻撃で返ってきた。
     一筋の傷が実の腕につくと、回復にまわらせていた霊犬、クロ助が主の傷を治す。
     軍服のビハインド、紫電と共に前衛、後衛で攻撃をしかける雷歌は、武器に宿した炎を叩きつけ、自身を強化し終えたユキトは、ただ一人のクラッシャーとして攻撃の手をゆるめない。
     セレスは、そんな仲間の傷具合を見ながら回復をしていく。
     陽桜も傷を癒す歌を歌いながら、以前に灼滅した少年を思い出した。
     今、目の前にいる六六六人衆もいいように利用されているのだと思うと心が痛む。
     それでも、やらなければならないことがあるのだ。
    「ひおには、あなたがスマイルイーターに何をされたかはわかりません。ひお達ができることは、 あなたを倒して爆弾を撤去して、 この地の人達の命と笑顔を守る事。だから、あなたに恨みはないけど、ひお達はあなたを倒します」
    「その通りだ」
     攻撃へと手を変えた紅鳥が、石化をもたらす呪いをかけながら、少年と向かい合った。
    「希望を無くしちまったあんたに何言っても無駄だと思うがよ、災難だったと思うぜ。ドン底の絶望ってのは、辛すぎるもんな……。元に戻すことは、俺には出来ない。せめて、その呪縛から解放してやる。後でスマイルイーターだかユーやつは、俺らが笑えねぇようにしてやっからよ」
    「お前たちに、何ができる」
     ギリッと奥歯をかんだ少年がナイフを薙ぎ払った。
    「俺、一人を殺せない奴が何をいってるんだ」
    「憎しみ向ける相手、間違っているだろう」
     セレスは、小さな声でツッコミをいれた。
    「悲しい奴だな……。虐められて笑えなくなって。道具扱いで……」
     哀れにも思える少年に、実は流星のきらめきを宿した蹴りで言葉を閉じる。
     昴は、放射した霊力で少年を縛りあげた。
     スマイルイーターは気に食わないが、この少年も人の命を奪ってきた存在。確実に始末する必要があるのだと、毛抜形太刀を振り落とす。
    「一般人は……大丈夫そうですね」
     白光を放ちながら、仲間と足並みを合わせて武器をふるっていた桃花は、ちらりと封鎖した後ろを見て出入り口付近に一般人がいないことを確認した。
     ESPの効果は生かされているようだ。
     少年の怪我具合からも、あともう少しで倒せるだろう。
     陽桜は、浄化をもたらす風を招いて、仲間の傷を癒す。
     雷歌は、富嶽で強烈な一撃を叩きつけた。
    「お前が隠れていた場所だけどな、ここがどういう場所かは調べてきたんだぜ」
     雷歌は少年と目を合わせた。
    「……ここで死んだ人が、何を思って散ったかは知らんが、命を懸けて護りたかったものがあったんだろうよ。護りたいと願ったそれは、こうして、誰かが笑える今の世界だと、お前は思わないか? 俺は、そう思うぜ」
    「詭弁だ」
     笑うことを失った少年は、目の奥で、さらに闇を深ませた。
     同時に放たれる殺気。
    「別に自分は、貴方が思ってることを否定はしません。ただ、平和を願った人がいただけ救われることもありますよ。……偽善であっても、人の心を動かす力を持ってます」
     ユキトは、それが本当に不思議なものだと思いながら、天籟にねじりを加えて突き出した。
    「貴方が笑えないなら、貴方を笑って見送ってあげます。だから、おやすみなさい」
     ユキトの浮かべた笑みを、少年だけが見る。
     引導を渡す一撃に、少年は目をつむった。
    「死んだら、昔の俺に戻れるかな……」
     その言葉を最後に、少年は消滅した。

    ●3
    「ほら、持ってきたぜ、爆弾。後は、頼むな」
     仲間が待っている浜辺に戻ってきた雷歌は、壕の中から運び出した爆弾をセレスに託した。
     セレスの万が一に備えて、船を借りようと思ったが、簡単に借りられる所がなかったため、今回は見守るだけにとどめる。
     箒にまたがったセレスは、爆弾を抱えて空へ飛び、人気のない海上を目指した。
     鳥が爆弾を抱えて空へというのは、生存フラグだと、自身の無事を暗に伝えてある。
     残された仲間は、浜辺で爆破される音が聞こえるのを待つ。
     そして、爆発する音――。
     陽桜は、そっと目を閉じ、この地に眠るすべての命が安らかでありますようにと、黙とうをささげる。
     実は、薄れていく音を聞き届け、
    「派手な音だったけど、イベントの花火ですっていえば、誤魔化せそう」
    「イベントと聞いたら、この後は、偵察、という名の観光をしたいですね。皆さんの服も綺麗になりましたし」
     仲間の服や体の汚れをクリーニングで綺麗にしたユキトは、空を見上げた。
     夏をも感じさせる日差し。
     昴は、これからも、やるべきことはたくさん残っていると感じながらも、まずは戻ってきたセレスを敬礼で迎える。

     海と風の音。
     第三十二軍司令部壕に仕掛けられた危機は、灼滅者たちの手で回避された。

    作者:望月あさと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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