こいのぼりパクパク☆パニック!

    作者:相原きさ

     端午の節句近くになると、空にはいくつものこいのぼりが泳ぎ出す。
     高いポールに取り付けられた大きなこいのぼり。
     子供達はそれを見上げるのが楽しみだ。
    「なあなあ、知ってるか?」
     ある男の子が、隣にいた友達に話しかけてきた。
    「ん? なに?」
    「こいのぼりって、夜になると子供を襲うんだぜ?」
    「えっ……?」
     男の子の言葉に、友達は怖がり始める。
    「しかも5月5日の夜に、こっそり柏餅食った子供を、空からぱっくんって飲み込むんだ!」
    「うわーん、怖いよーっ!!」
     友達を散々怖がらせた男の子は、満足そうな笑みを浮かべる。
     ふわふわと風に揺られたこいのぼりの瞳が、ぴかりと光ったのも気にせずに。
     
    「というわけで、都市伝説が現れるのを、占いで知ったの!」
    「まさか、ぼくの予想が当たるとは驚きだよ」
     遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)の言葉に、ジェレミア・ヴィスコンティ(古の血は薔薇の香り・d24600)が苦笑を浮かべる。
    「というわけで、皆には都市伝説が現れる場所……この家のこいのぼりの下に行って来て欲しいの」
     鳴歌はそう言って、地図にある一か所を指し示す。
    「5月5日の深夜に、この家の庭で……柏餅を食べて欲しいの。そうすれば、こいのぼりをした形の都市伝説が現れるから、それを倒してくれないかな? 試す人はいないだろうけど、この家の子供がうっかり試す前に退治してもらえると助かるわ」
    「ところで、柏餅を食べるのは、子供でなくても大丈夫なの?」
     ジェレミアが鳴歌に尋ねる。
    「子供の方がよりよいけれど、周りに子供がいないなら、柏餅を食べた人を襲うみたい。柏餅を食べた人を狙っていくみたいだから、気を付けてね」
    「……子供が襲われるということではないのか?」
    「うわ、君もいたの?」
     鳴歌の言葉に網月・透矢(高校生ダンピール・dn0229)が口を出す。思わぬところで透矢が現れたので、ジェレミアは少々驚いた様だ。
    「今のところはね。でも、試す子供が現れたら危ないから、被害が出ていない今のうちに、皆で退治して欲しいの。いいかな?」
     鳴歌はそう前置きして、現れる都市伝説の能力等を説明し始める。
    「現れるのは、黒、赤、青の3体のこいのぼりよ。ぱくんと飲み込んで吐き出すことで、よくわからない粘液で捕縛するし、水を吐きだして相手の服をずぶ濡れにするみたい。それに、その水には、毒もあるみたいだから、気を付けて。それと、赤いこいのぼりだけ、癒しの力を持ってるから注意してね」
     それと、と鳴歌が付け加える。
    「一番体力があるのが黒で、一番体力がないのは、青ね。先に青いやつを倒すのもいいかもしれないわね」
    「なるほどね」
     そうジェレミアが相槌を打つ。
    「とにかく、このままにしておくのも大変だから、早めに倒してきてね。無事倒せたら、もう一度柏餅を食べて、夜の端午の節句を楽しむのもいいかもね」
     くすりと笑みを浮かべて、鳴歌はそう、集まった灼滅者達へと告げたのだった。


    参加者
    雨咲・ひより(フラワーガール・d00252)
    月宮・白兎(月兎・d02081)
    花凪・颯音(花葬ラメント・d02106)
    赤秀・空(ヒカリヘ・d09729)
    天槻・空斗(焔天狼君・d11814)
    御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)
    ジェレミア・ヴィスコンティ(古の血は薔薇の香り・d24600)
    千葉・宗策(小学生神薙使い・d34028)

    ■リプレイ

    ●美味しい柏餅を食べよう♪
     寝静まる深夜。
     とある駅前で待ち合わせをしている団体一行がいた。
    「ふむ、これは美味じゃ」
     口の端に餡子をつけながら、千葉・宗策(小学生神薙使い・d34028)は、犬変身している天槻・空斗(焔天狼君・d11814)の背にある籠から、一つ、柏餅を取り出し完食している。
    「……食べるのが早いぞ」
     思わず網月・透矢(高校生ダンピール・dn0229)がツッコミを入れる。
     今回向かう8人と透矢以外にも、サポートとして数名参加している。
    「この力を守るために使っているか、見届けようと思っただけだ。別に心配しているわけでは、ないぞ、うん」
     そう照れた様子でラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)は参加の理由を述べている。それを聞いて透矢は少し嬉しそうに口元を緩めていた。

     全員集まったのを確認して、目的地へと移動。
     何事もなくたどり着き、一行はさっそく準備に取り掛かる。
    「夜に、こっそり柏餅を食べると……だって。子供を襲うなんて似合わないよね、ちゃんと倒さなくちゃ」
     そう意気込む雨咲・ひより(フラワーガール・d00252)に、思わず透矢が頭をなでなでする。
    「やだなあ、透矢くん。わたし、お姉さんだよ」
    「なにっ!?」
     ひよりの言葉に透矢は衝撃を受けているようだ。少々小柄だがひよりは、大学生である。
     その間にも御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)は、周りに一般人がいないか確認しながら、持ってきたハンズフリーのライトをつけている。ジェレミア・ヴィスコンティ(古の血は薔薇の香り・d24600)も光源を確保しているようだ。
    「……いいな、美味しそう」
     腰にライトを括りつけながら、花凪・颯音(花葬ラメント・d02106)は、空斗の背負う柏餅にくぎ付けになっていた。と思い出したように、傍に来た透矢に声をかける。
    「俺も可愛いもの好きだけど……あの鯉達、アリだと思う?」
     空に漂うこいのぼりを指さして、颯音は真顔で尋ねてきた。それに透矢は真顔で。
    「小さかったら、かなりアリだ」
     そう答える。
    「準備も整いましたし、柏餅を食べましょうか」
     空斗だけでなく、月宮・白兎(月兎・d02081)も昼間のうちに用意していたらしい、人数分の柏餅の入った袋を皆の前で開いていく。
    「僕は後衛だからね、狙われる役割は任せるよ」
     サウンドシャッターを展開させた赤秀・空(ヒカリヘ・d09729)は、ちゃっかり貰った柏餅を懐に潜ませている様子。
    「ああ、僕も他の人に任せるよ」
     ジェレミアも食べないようだ。
    「ララも柏餅、食べてくれるかな?」
     白兎の手にある柏餅を、ウイングキャットのララが興味深げに匂いを嗅いで、ぱくっと食べた。おや、ちょっと嬉しそうな様子。
    「わあ、食べてくれた! じゃあ、私も」
     白兎も楽しそうに食べる。
    「わんっ」
     その下で空斗もどうやって取り出したのか、背中に乗せた柏餅を美味しそうにぱくついていた。
    「和菓子は好きだけど、もう少し落ち着いて食べたかったな。もぐもぐ」
    「わ、美味しいのです!」
     その隣で靱と仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159)も嬉しそうに食べている。
     と、その時だった。
    「ぐおおおおお!!」
     大きな黒いこいのぼりがさっそく、犬の空斗を後ろ足から、ぱくっと咥えた。その間びたんびたんと手で……いや、前足で抵抗している。
    「こいのぼりが現れたです! 引き付けるので、皆さんよろしくなのです!」
     聖也がすぐさま除霊結界を放ち、囮となるために前に出ていく。
    「目覚めろ……疾く翔ける狼の牙よ。吼えろ、焔天狼牙」
     その間に何とかこいのぼりから逃れた空斗は、人の姿に戻り、すぐさま、その力を解放していく。
    「ほな、いこか」
     白兎のこの言葉が合図となり、こいのぼりとの戦いが始まったのだった。

    ●こいのぼりバトル!
     ここで少し整理してみよう。
     敵は3体。黒の真鯉、赤い緋鯉、そして、青い子鯉。
     彼らが特に狙うのは、こっそり柏餅を食べた者だ。
     今回の場合は、この場所で食べた空斗、靱、聖也、白兎とそのサーヴァントのララがその対象となる。
    「さ、水も滴る良い男に一緒になろうか! 大丈夫、着替えはない」
     ある意味、大丈夫じゃない気がするのは、気のせいだろうか?
     颯音が緋鯉に向かって、ダイダロスベルトの帯が勢いよく放たれる。緋鯉を貫いていくこの技は、放たれる度に、命中精度を上げていく。
    「回復役は先に潰せって、どっかの国のお姫様がそう言ってたぜ」
     空斗も先ほどの攻撃のお返しと言わんばかりに、緋鯉へと向かって、石化をもたらす呪いで攻撃していく。
    「ぶぐぐぐ……」
     残念ながら、その攻撃では、ダメージを与えることができても、石化させるまでには至らなかったようだ。
    「じゃあ、これはどうかな?」
     靱が自らの肉体を聖戦士化させながら、緋鯉へと破邪の白光を放つ強烈な斬撃を繰り出す。しかし。
    「くおーーんっ!!」
     なんと、子鯉が緋鯉の盾になって、その分のダメージを肩代わりしたのだ。
    「こいのぼり達が、まさか連携を取るとは思わなかったのじゃ……」
     その様子に宗策も驚いているようだ。

     次は緋鯉の番だ。傷ついた自身の体を癒すかと思われたが、緋鯉が選んだのは子鯉。もしかすると、子鯉を守りたい想いからの行動だったのかもしれない。
    「真鯉はお父さんで、緋鯉はお母さん。青い鯉は子供なのかしら?」
     その様子を見て、ひよりは思わずそう呟く。だが、宗策はそうは思わなかったようだ。
    (「やはり、子鯉を先に攻撃した方が効率良いのではなかろうか」)
     と、緋鯉の援護を受けて、子鯉が口から水を放って攻撃! 前にいた空斗がさっそくびしょ濡れになっていた。
    「うわ、冷たっ」
     身震いして滴を払うも、戦闘中な今、全ての水気を払うことは難しい。
    「それにしても、ダメージ以上に受けたくない攻撃をするね」
     空の影業が相手を縛り付け、更に緋鯉を追い詰めていく。
    「それはぼくも同感だよ、っと!」
     次に走り出したのはジェレミア。
     赤色標識にスタイルチェンジした交通標識を手に、弱った緋鯉へと激しく打ち付ける。動きが鈍った様子を見ると、上手くパラライズをかけられたようだ。
    「こんなのに丸呑みされては、たまったものではありませんね……」
     鮮血の如き緋色のオーラを武器に宿し、白兎が緋鯉の体力をも吸い取るものの、それでも緋鯉はしぶとく生きていた。
    「次はこれじゃっ!」
     敵にタイミングを掴ませないようリズムを取りつつ、宗策は正眼の構えから超弩級の一撃を繰り出す!
     その宗策の斬撃は見事に緋鯉を捉え、真っ二つに引裂いた。
    「ぐおおおおんん」
     そんな叫び声を残して、緋鯉がすうっと消滅する。
     これで倒すべき相手は、残り2体となった。

    ●もっとこいのぼりバトル!
     癒し手が消滅したことで、灼滅者達の心が軽くなる。
     しかし、敵の全てが消えた訳ではないし、むしろ攻撃が激しくなった気さえする。
    「いくら暖かくなってきたからって、水かけられたら夜だし寒いんだよ!」
     びしょ濡れになりながら、片膝をつく靱の前に空が代わりに前に出る。
    「むごむぐ、もごむぐふご」
     どうやら、先ほど貰った柏餅をこいのぼりの前で食べているようだ。ついでにいうと、さっきの台詞は、『無理せず下がって、手数が減ると困る』という意味らしい。聞きづらかったが、意図を理解した靱は大人しく後退して、さっそくオーラを癒しの力に変換させ、自らの傷を癒していく。
    「まだ回復必要?」
    「いや、大丈夫だ」
     靱のは安心させるかのように笑顔を見せると、彼に声をかけたひよりは、すぐさま子鯉に向き直った。
    「ゴメンね」
     軽く手を合わせてから、悪しきものを滅ぼし善なるものを救う、裁きの光条を放った。ひよりの攻撃により、子鯉もふらふらしているようだ。
     その隙を空は見逃さなかった。
    「逃さないっ!!」
     空の放った赤秀の気根のように伸びていく影が、相手を強く強く縛り付けていく。
     その攻撃はしっかりと子鯉を掴んで離さない。
    「美幸!」
     空の声を合図にして、傍でタイミングを計っていた空のビハインドが霊撃を放ち。
     二人の力で、見事、子鯉に止めを刺すことが出来た。

     子鯉を倒した後は真鯉だけ。しかし、灼滅者達が思っていたよりも真鯉はタフだった。
    「水でずぶ濡れになるのはまだ分かるけれど、毒になるのは何故? 汚い川でも泳いでいたのかい?」
     皮肉のような颯音の言葉に真鯉は答えることもなく、ぱくんと颯音を丸呑みした。
    「うわあっ!!」
    「今助けるわ!」
     ひよりはすぐさま、再び立ち上がる力をもたらす響きで、怪我の回復と浄化を颯音へと施していく。
    「まだまだ負けませんよ!」
     白兎が再び、緋色のオーラを纏った武器で追撃をかける。
    「布相手だとよく燃えそうだな」
     狙いを研ぎ澄ませた空斗の、激しい炎を宿したレーヴァテインがうなりをあげる。
    「ぐおおおおん」
     かなりの手ごたえを感じたが、まだ真鯉は生きている。
     更に颯音が、唸りを上げるエアシューズの炎を纏った蹴りが炸裂する。
    「鯉の姿焼き、捌きは任せた!」
     颯音の声にジェレミアが応える。
    「じゃあ、任されるよ……最後はこれで」
     真鯉の前で優雅に、十字に切り裂くと。
    「ギルティクロス!」
     静かに眠りにつくように、真鯉はゆっくり倒れると緋鯉と子鯉と同じように、すうっと姿を消したのだった。

    ●もう一度、柏餅を食べよう☆
     辺りは先ほどの激しい戦いはなかったかのように、静寂に包まれていた。
     皆の無事に、ほっと胸をなで下ろしながら。
    「皆、ご苦労様」
     そう靱が労う。その後、靱はそこに住む住民の為に庭の後片付けを始めていた。
    「わたしの家、女の子一人だから鯉のぼりなくて。小さいときは、ちょっぴり憧れだったな。そう、鯉のぼりって、見てるだけでわくわくするの」
     懐かしそうに、ゆらゆらと揺れるこいのぼりを見上げるのは、ひより。
    「ほら、これを使うといい」
     あらかじめ用意していたタオルを、颯音はひよりと白兎に手渡す。
    「俺達にはないのか?」
     思わず透矢が声をあげる。
    「男は黙って濡れるが良い」
     颯音は女性陣の分のタオルは持ってきていても、自分を含め男性陣の分は持ってきていなかったようだ。
    「わたし達の使う?」
     ひより達がそう申し出てくれたので、男性陣はホッとした表情を浮かべて、ありがたく利用させてもらっている。

     空にはまだ、月が淡い光で彼らを照らしてくれていた。
    「そうだ、まだ柏餅残っているんです。残したら勿体ないですし、良ければ皆さんと食べませんか?」
    「俺のも残っているぞ」
     白兎と空斗の言葉に、疲れていた皆が良い笑顔で配られた柏餅を受け取り。
     はためくこいのぼりの下で、まったりと柏餅に噛り付いていた。
    「美味しいね、ララ」
    「こういうのも、たまにはいいね」
     白兎はララと一緒に、空は美幸と一緒に、楽しげに柏餅片手にこいのぼりを見上げる。
    「ふむ、誠に風流じゃのう」
     宗策も容赦なく柏餅を食べていっている。
    「うう、やっと食べれたー」
     念願の柏餅にありつけて、颯音も幸せそうだ。
    「柏餅! ちゃんと子供の日に食べたこと、ないんだよね。……んん。独特な香りだけど……こしあんが美味しいよ。透矢くん透矢くん、この葉っぱは食べられるのかな?」
     ジェレミアも楽しそうに隣にいた透矢に話しかける。
    「この葉は少し硬いから、食べない方がいいと思うぞ」
    「ふふ、相変わらず真面目さんだねー」
     茶化すかのような言葉に、透矢は気にしていない様子。
     と、片づけを終わらせた靱が戻って来た。
    「網月君もお疲れ様。フォローありがとう、助かったよ」
     そう労う靱に、透矢は仲間から受け取った柏餅を手渡した。
    「靱も後片付けお疲れ様。ほら、靱の分もあるぞ」
     靱は微笑みながら柏餅を受け取り、もう一度、こいのぼりを仰ぎ見る。
    「これで子どもたちも安心して、子どもの日が迎えられるかな」
     きっと、迎えられるだろう。だってもう、あの子供を飲み込むこいのぼりはいないのだから。
     ご馳走様と共に、彼らは星空の下で素敵な思い出が出来たのだった。

    作者:相原きさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ