●夕暮れ時の挑戦者
道場は染まる。
夕焼け色が広がる中、赤い赤い血の色で。
「……」
屍のごとく倒れる人々の中心、拳を赤く染めた男が静かな息を吐きながら構えを解く。
瞳を閉ざし、一礼する。
「礼を言う。暇つぶしにはなった」
男の名は我意。アンブレイカブルの我意。
我意は顔を上げると共に歩き出し、道場の外へと向かっていく。
新たな敵を求めていく……。
●夕暮れ時の教室にて
灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、真剣な表情のまま口を開いた。
「我意と言う名のアンブレイカブルの動向を察知しました」
本来、ダークネスにはバベルの鎖による予知能力があるため、接触は困難。しかし、エクスブレインの導きに従えば、その予知をかいくぐり迫ることができるのだ。
「とは言え、ダークネスは強敵。武を極めんとするアンブレイカブルなら尚更のこと。どうか、全力での戦いをお願いします」
続いて地図を広げ、街中の一軒家を指し示した。
「我意はこの家を……空手道場が営まれている家を目指しやって来ます。強者を求めて」
もっとも、空手道場で修練を重ねている者達は一般人、我意に敵うはずもない。
「ですので、家の入り口で待ち構えて下さい。戦意を見せれば、興味を引く事が可能なはずです」
戦場としては、道場裏の空き地が適切だろう。
そうして戦うことになる我意。
道着を纏う寡黙な男で、強者と挑戦者をこよなく好む。
力量は、八人で戦ってなお倒せるかが五分。また、素の体力がかなり高い。
戦いにおいては攻撃に特化した行動を取り、技はどれも威力が高い。
技は四つ。相手を軽く浮かした上で両手による掌底を放ち攻撃力を削ぐ。拳を打ち込んだ上で投げ飛ばし加護を砕く。一撃で百の拳を打ち込む。呼吸法で毒などに耐える力を得た上で周囲をなぎ払い波動を放つ、といったものとなっている。
「以上で説明を終了します」
地図などを手渡し、締めくくりへと移行した。
「隙の少ない強敵……ですので、灼滅する事ができなくても我意を満足させ退かせる事ができれば良い……という形になります。それを含め、皆さんなら成し遂げられると信じています。どうか、全力での戦いを。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
巽・空(白き龍・d00219) |
椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285) |
月見里・无凱(深淵揺蕩う銀翼は泡沫に・d03837) |
黛・藍花(藍の半身・d04699) |
西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753) |
志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880) |
阿波根・ナギサ(南国唐手ガール・d30341) |
夕凪・影子(夕暮れの合わせ鏡・d33072) |
●夕焼け時の挑戦者
空が茜色に染まりし時、空手道場から放たれていた喧騒は終息へと向かっていく。修練の終わりが近づいているのだろうと、灼滅者たちは簡単な会話を交わしながら玄関口にて待機していた。
強者を求めてやって来ると聞くアンブレイカブルの我意を待つ中、夕凪・影子(夕暮れの合わせ鏡・d33072)は静かな想いを巡らせていく。
強き敵を求める心は理解できると。しかし、実際やっているのは虐殺。看過することはできない……と。
「……」
思考を纏めた時、道の先に一つの影が生まれた。
道着姿のいかつい男……我意であると断定し、灼滅者たちは気を張っていく。
一歩踏み込めば間合いへと入り込む事ができる場所へ近づいてきた時、西院・玉緒(鬼哭ノ淵・d04753)が声をかけた。
「こんばんは……あなたが……我意さん……ですね……? 少々……お手合わせ……を……お願いしたく……お待ちして……いたのです……」
「強いとのお噂はかねがね聞いております。私達に一手ご指南願いますか?」
志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)は空き地の方角を指し示し、我意の反応を伺っていく。
我意は立ち止まった後、小さく頷いた。
「良かろう」
挑戦者を拒む必要などないと言うかのように、灼滅者の案内に従っていく我意。
脛の辺りまで伸びている草が繁茂している空き地へ到達したならば、互いに距離を取って睨み合った。
仕掛ける機会を伺い始めていく前に……と、月見里・无凱(深淵揺蕩う銀翼は泡沫に・d03837)が言葉を投げかけていく。
「我が名は双月。お手合わせ願う!」
「求道者と拳を交える機会は滅多に無いからな……推して参る!」
阿波根・ナギサ(南国唐手ガール・d30341)が決意を語り終えると共に、皆一斉に動き出した。
夕暮れ時の、草と土の匂いに満ちた空き地にて、互いの拳を交わすため……。
●強者との戦い
構えを取る中でも、震える体。
怯える両足、臆する心。
巽・空(白き龍・d00219)は我意の放つ気迫を前に、拳をぎゅっと握りしめた。
あの時のボクとは違うと脳裏に浮かび続けていく光景を振りきって、一歩、前へと踏み込んだ。
始めてしまえば、後は体が勝手に動く。
仲間たちの動きに合わせ、雷を宿した拳で殴りかかった!
「っ!」
硬い胸板に阻まれ、むしろこちらが怪我してしまいそうな手応えを得た。
かと思えば、地面を叩く大きな音が聞こえると共に生じる浮遊感。
理解する頃には木製の外壁へと叩きつけられ、胸と腹部の間に激しい痛みを感じていた。
何本か持って行かれたかもしれないと思考しつつ、尋ねていく。
「……何で、そこまで強さを求めるの? 人の命を奪ってまでなぜ!?」
「……結果だ」
ただ、全力で拳を交わした結果に過ぎないと、我意は構えを直していく。
空へと注がれている視線を遮るように、椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)が顔面に盾領域を広げながらのタックルを打ち込んだ!
「あなたの相手は、この私です」
「……」
一方、黛・藍花(藍の半身・d04699)は空へと視線を送り光を放った。
治療のさなかビハインドが護るように移動していく様を捉えながら、静かに呟いていく。
「ダークネスのお遊戯に付き合うのも骨が折れますが……、一先ずこちらがへし折るつもりで行きましょう」
反論はなく、ただ、我意はなつみへと向き直す。
固めた拳に、ナギサが激しき雷を浴びせていく。
「……」
少しでも攻撃のタイミングをずらし、対処させやすくするため。
あるいは、今の自分たちでは討伐することは難しいかもしれないけれど……最低限、一般人と手合わせしないという約束を取り付ける事。そのためにも、印象づける必要があるのだから……。
目論見が功をなしたか、上手く打撃投げを避けて行くなつみを眺め、ナギサは光を集めていく。
藍へと一歩前に踏み込んだタイミングで放つも、気合一つで跳ね除けられた。
件の藍は一方後ろへと飛び退いて、拳が自身を捉えるタイミングを僅かにずらした。
「……」
それでなお、一瞬の間に五十発は打ち込まれた。
全身が激しい痛みを訴えてくる。
鉄の味が、どこかが傷ついたのだという事を教えてくる。
それでもなお微笑み絶やさず、踏み込みながら口を開いた。
「強い方と戦うともっと戦いたい、もっと強くなりたいと思ってしまいます!」
構える我意の腹部めがけ、右フックを――。
「そこ!」
――わざと外し、身をかがめ、背中に隠していた氷の塊を発射した!
「柔良く剛を制すですよ!」
体の中心を凍てつかせていく様を確認した後、転がるように離脱。
後を追うこともなく、我意は構えを直していく……。
空を庇う形で、なつみは脇腹に拳を受けた。
痛みを感じる間もなく胸元を捕まれ、背中から地面へと叩きつけられていく。
「っ!」
空気の塊を吐き出しながらも、なつみは地面を転がり我意に肉薄。
起き上がる勢いを活かし、下から紅蓮のオーラを抱きし手刀を放っていく。
薄くとも斜め傷を刻んだ様子を横目に捉えながら、離脱。
気づかぬうちに口元から溢れていた血を拭い、己の役目は皆を護ることだから……と、我意の観察を再開した。
次を耐えるための治療時間を稼ぐため、无凱はオーラを放った。
オーラは誤る事なく我意の体を打ち据えるも、欠片ほども堪えた様子はない。
今、だけではない。
我意は灼滅者たちの攻撃を受けても、しっかりと大地を踏みしめ立ち続けていた。
対する灼滅者側は、なつみが二体のサーヴァントと共に大半の攻撃を引き受けている。しかし、余裕がある状態で受けきるとは中々行かず、治療役は足りているものの癒やしきれぬ分の蓄積によっていつ耐えられなくなるかわからない……そんな状況だった。
少しでも長く、少しでも多く保たせると、藍花は百の拳を受けたビハインドを優しい光で照らしていく。
万全にはならずそれでも微笑んでいるビハインドから視線を外し、我意へと疑問を投げかけていく。
「……戦いや武力を手段ではなく目的にしている人が、真に強さを得る事などできるのでしょうか……?」
我意はオーラをビハインドの得物を弾きながら、口を開いた。
「知らぬ」
考えるくらいなら修練を積む、というのが我意の答えだろうか。
「……そうですか」
藍花は瞳を細め、再び光を集めていく。
暇つぶしで殺したり殺されたりとかどうかと思う。力や強さを手段でなく目的にすると言うのは愚かしいと、再び藍花を光で照らした。
さなか、横合いから玉緒が飛び込んだ。
巫女服に似たゆるい衣装の胸元を弾ませながら放つのは、炎を宿した飛び膝蹴り。
脇腹へと打ち込みながら、玉緒はただ微笑んでいく。
されど、やはり揺らぐことはなく我意は一歩踏み込んだ。
間に割り込んだ影子のビハインド・ドッペルゲンガーの中心に光輪を差し向けていく。
両手首を合わせた状態で放たれるダブル掌底を、光輪が真正面から受け止めた。
それでなお、地面をえぐりながら吹き飛ばされていくドッペルゲンガー。再び動き出した際の様子から軽減はできたと判断しつつ、影子は静かなため息を吐き出しながら我意へと向き直った。
「ドッペルゲンガーを見たものは死に至ると言われている」
ドッペルゲンガーの姿は、影子に瓜二つ。
「さあ我意、君は怪談の犠牲者となるか? 生き延びるのか? 試してみようじゃないか」
芝居がかった調子で語りかけながら、再びドッペルゲンガーに光輪を投げ渡した。
我意は表情を変えることはなく、ただ、短く言い放つ。
「ならば、砕けば良い」
噂も、実像も打ち砕かんと、一歩前へ踏み込んでいく……。
宣言通り……と言った形だろうか?
ドッペルゲンガーが、そして藍花のビハインドが、一時的な消滅の時を迎えていた。されど我意が大きく姿勢を崩したことはなく……灼滅者たちの消耗激しいまま、果ての見えぬ戦いへと突入していた。
一方、无凱が一旦我意から距離を取り、深呼吸。
右手首に巻かれた赤玉二連の数珠と鈴束を鳴らし、戦いが続くにつれて摩耗した精神を研ぎ澄まさせていく。
どんな敵であろうとやる事は同じと、ミリタリーロング丈のトレンチコートをはためかせながら手元にオーラを集めていく。
「一歩ずつ、確実に……」
決意と共にオーラを放ち、横に並ぶ形で空が踏み込んでいく。
オーラが我意の右肩を捉えた時、空の拳が左肩を打ち据えた。
「っ!」
我意は後ろに下がりながら空を跳ね除け、後を追うように踏み込んだ。
なつみが割り込まんと動く中、ナギサは激しき雷を放ち――。
「同じ性質の技、連続させるものではない」
「っ!」
――片手で弾き、なつみにダブル掌底を打ち込んでいく。
三メートルほどふっとばされながらも、なつみはすぐさま立ち上がった。
激しい物へと変わっていく呼吸を整えながら、体勢を整えていく。
まだ、耐えられる。
長くは、と聞かれたならば違うけれど。
……なつみだけではない。前衛陣は大なり小なり、ダメージが蓄積していた。
せめて癒やしきれる分だけでもさらおうと、影子は静かに語りだす。
言の葉が痛みを和らげていく中、藍が至近距離へと踏み込んだ。
かと思えば股下をくぐり抜け、振り向きざまに螺旋刺突。
脇腹の辺りを、軽く抉り裂いていく。
少しずつ、確実にダメージは与えていた。
少しずつではあるが、我意も動きを乱し始めていた。
それでなお、灼滅者たちの消耗する速度のほうが早い。
玉緒は痛みを堪えながら、拳に雷を宿していく。
霞む視界の中、我意を睨みつけていく。
勝てるかなんてわからない、届くかすらもわからない。
ただ、次はない。
次の攻撃で、おそらく自分が沈んでしまう。
だからこの一撃に全てをかけると力を振り絞り、間合いの内側へと踏み込んだ。
腰を捻り、放つは雷を宿したスクリューアッパー!
我意の顎を捕らえ、僅かに仰け反らせることに成功し――。
「かはっ……」
すぐさま姿勢を整えなおした我意の放つダブル掌底に突き飛ばされ、草むらに埋もれるように意識を失った。
灼滅者たちが視線を送った後、さらなる気合を入れる中、我意は――。
●夕焼け色の契り
「……これにて、終いにしよう」
――構えを解き、一礼した。
灼滅者側の被害は、サーヴァントと玉緒だけ。
まだ戦えると、空は足に炎を宿し飛び上がる。
「まだ、お前を……!」
横っ面に向けて蹴りを放つも、右腕によって阻まれ弾かれた。
「急くな。このまま戦えば、お前たちから修練の時間を奪うことになる。それは本望ではない」
お前たちは強い、その強さは修練を重ねればより強大なものとなっていく。その時、また戦いたい。我意は表情も変えずに、そう言った。
灼滅者たちは沈黙した後……風の訪れと共に、藍花が口を開いていく。
「……それならばまあ、戦うのだけが目的なら一般人とか私達ではなくて、もっと強いダークネスだけを狙って欲しいですね」
――それでなお、灼滅者である以上挑戦は受け付ける。
一致した願いを投げかけ、我意は頷いた。
「承知した。より強くなったお前たちと戦える日まで、修練を重ねていくとしよう」
背を向け立ち去っていく我意を、灼滅者たちはただ見送った。
おそらく、約束は守られる。
灼滅者たちが、力を高め続けていく限り。
故に、再び相まみえるその日まで力を磨き上げ……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年5月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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