ジャンク・ジャンクション

     北海道札幌市の地下鉄構内。最終電車もとうに過ぎ去り、残っている職員は誰もいない。そんなホームの先に続いている暗闇の中で、その異変は起きていた。
     交差するはずの無い線路が上へ下へと錯綜し、何十もの不気味な影がさまよい出す。
     無言で行軍する甲冑の騎士、目の抉れた白い狐、弓を構えて獲物を待ち続ける骸骨……。そして最下層では、ローブを着込んで杖を持った骸骨が近衛兵と共に待ち受ける。さながらRPGの迷宮(ダンジョン)だ。
     しかし、迷宮への入口が開かれるのは夜のひと時のみ。今日も迷宮へと挑む者は現れず、朝日が昇る頃には元の線路へと戻っている。
     札幌の地下において、一体何が行われようとしているのだろうか……?
     
     錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)が発見した、札幌市内の地下鉄がダンジョンへと変貌する事件。既に何人かのエクスブレインが発生個所を予見し対策班を向かわせている。今日、遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)に集められた灼滅者達もその1組だ。
    「今回の迷宮は『大通-さっぽろ』間に出現するわ。あ、東豊線の方ね」
     市内地下鉄の中央に位置する大通駅は、在来の3路線全てが通っている。地名そのもののさっぽろ駅が2路線ということを考えると、かなり大きな駅なのだろう。
    「こっくりさんの回答が『じゃんくしょん』だったんだけど、まさによね。出現する時間は深夜2時前から朝の5時過ぎくらいよ。5時になったら引き返した方がいいかな」
     この時間帯のおかげで犠牲者も運行への被害もないが、放置できるものではない。一連の局地的な事件が何者かの意図という可能性もありえるのだ。
    「入口に近いのは大通駅ね。さっぽろ駅の方へ歩けばすぐに見つかるわ」
     迷宮には交差した階段がいくつもあり、更に地下へ降りていく構造をしている。
    「徘徊している敵は騎士、弓兵、白狐の3種で、最下層にいるローブを纏ったのがボスよ」
     騎士はフルプレートの外見通り防御に優れて服破りも使え、弓兵は毒矢の狙撃や支援を、白狐は氷サイキックや回復を得意としており、ボスは石化や足止め、ジグザグを使用する。
    「ポジションは順に、ディフェンダー、スナイパー、メディック、ジャマーね。途中までは色々な組み合わせだけど、最下層にいるのは、ボス、騎士2体、弓兵と白狐が1体ずつよ」
     ボス以外はザコだが数十体はいる。時間内の殲滅が目標のため、戦闘や休憩の時間管理も重要な要因だろう。
    「あっ、バベルの鎖があるからって飛び降りショートカットは危ないわよ。アンデッド達も同じことができるんだから」
     数十体に囲まれては流石に勝ち目がない。ザコを倒しながら進み、ボスは最後が賢明だ。
    「他には迷宮自体にも気を付けて。皆にサイキック以外の罠は効かないけど、何が起きるか分からない敵地だからね」
     常に棒で床を叩いて進めとは言わないが、気を配り怪しいと感じたら調査する、くらいの気構えは持っておきたい。
     
    「予知の数も増えてきたし、被害は無いけど何かの前触れとか……。考え過ぎかな?」
     違っても迷宮を潰す点は変わらないが、気付いたことがあれば報告した方が良いだろう。
    「ともあれ皆気を付けて。帰りの登り階段はちょっと面倒だけど、めげずに行こう!」
     せっかくそれを考えないようにしていたのにと思いながらも、いざ逃げ出す時には意識も必要かと、気を改める灼滅者達だった。


    参加者
    檮木・櫂(緋蝶・d10945)
    園観・遥香(天響のラピスラズリ・d14061)
    攻之宮・楓(攻激手・d14169)
    豊穣・有紗(神凪・d19038)
    客人・塞(荒覇吐・d20320)
    瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742)
    桜井・オメガ(オメガ様・d28019)
    雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)

    ■リプレイ

    ●迷宮が誘う闇の底
     時は深夜2時前、大通駅構内に潜入した灼滅者達は、最下層の東豊線ホームから線路内へ降り立ち迷宮の出現を待っていた。
    「3……、2……、1……、2時です!」
     腕時計で時間を計っていた園観・遥香(天響のラピスラズリ・d14061)が2時を伝えると同時に、線路の一部が歪み下り階段が現れる。
    「時間通りだな! では、これより作戦を開始するぞ!」
     カードを起動して号令をかける桜井・オメガ(オメガ様・d28019)に続き、警戒しながら入口を潜る灼滅者達の前に現れたのは、何層にも続く階段と底まで明かりが届かないほどの深い闇だった。
    「お~、ホントにゲームの中に入り込んだみたいだ~……」
    「これがゲームなら、私の職業は女剣士ってところね」
     下を覗き込み豊穣・有紗(神凪・d19038)が呟くと、檮木・櫂(緋蝶・d10945)が刀に手を当ておどけて見せるが、その目は油断なく不審な点が無いか辺りを観察している。
    「……この地下へと潜っていく感じがわくわくしますね」
     もふもふの狐もいるしと瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742)も笑顔で応えると、入口から続くアリアドネの糸を起動させる。
    「しかし、何のためにこんな空間を夜な夜な作ってるんだろうな。ノーライフキングが暇を持て余してってことも無いだろうし、何か意味があるんだろうが……」
    「ああ、この迷宮は何のために作られたのか……。柄にもなく心が躍るぜ!」
     一方で客人・塞(荒覇吐・d20320)や雲無・夜々(ハートフルハートフル・d29589)のように、事件の考察に心動かされるものもいる。これだけの規模で起きている事件を偶然の一言で片付けるのは、確かに無理があるだろう。
    (「ア、アンデッドが出たらどうしましょう……。というより出てくるのですよね……」)
     その傍らでこの手の相手が苦手な攻之宮・楓(攻激手・d14169)は顔を青くしていたが、今更怖いと言い出すことも出来ず、気を紛らわせるためにも探索に精を出す。

     ガシャ……、ガシャ……。

    「……! 皆様、敵が来たようです!」
     そして、警戒心の高さゆえかお約束とでもいうべきか、そんな人物に限って第一発見者になったりするものなのだ。

    ●迷宮の主とはずる賢いものである
     階下から現れた相手は、騎士が3体に弓兵が1体と、前衛重視の構成だ。
    「盾役が3体! ならばお前達からだ!」
     宣言とともにオメガから数十条の帯が伸びていき、騎士の甲冑を締め上げる。
    「傷が深いのは右か……。作戦通り集中するぞ」
     風の刃を撃ち出す塞に続き、1体の騎士に集中砲火が浴びせられる。その内のいくつかは庇われるも、1分あれば1体を倒すのに十分だった。
    「見えなければ怖くないわ。迷わず成仏してくださいね……?」
     いかにもな姿を見なければ平気なのか、楓は薄笑いを浮かべて巨腕を振るうと騎士を壁に叩き付け兜ごと頭を潰す。そして、その後ろでは仲間の攻撃により弓兵が塵に還っていた。戦闘時間は約3分というところで、攻撃力重視の陣形が手早く片付るのに一役買っている。
    「このレベルの敵なら複数回の戦闘も問題無いな。しかし、ダメ元とはいえDSKノーズの反応は無し。やはり、五感を頼りに警戒するしかないようだ」
    「う~ん、イージーモードとはいかなかったかぁ……。あ、怪我とか大丈夫?」
     夜々や遥香を始め作戦や状況の見直しを済ませると、一戦を終えた灼滅者達は先へ進む。
     その先も何度か戦闘や罠らしきものを突破してきた灼滅者達だが、そろそろ終盤といったところで、今までと違う光景に足を止めていた。
    「おんなじ方向に階段が2つかぁ……。いかにも何かありそうだね!」
     興味津々といった様子で有紗が階段を観察するが、特に見た目で気になる点は無い。
    「反応あるかもしれませんし、小石でも投げてみます?」
     それなら試してみようということになり、提案者の蓮が階段に小石を投げ入れる。すると小石が数回跳ねたところで突然段差部分が切り替わり斜面となる。俗に言う『階段落ち』の仕掛けだ。
    「念のためもう片方も確認してみるわ」
     櫂がもう片方の階段を日本刀で数段つついてみると、今度はそちらに落とし穴が現れる。片方を見破り油断したところを……という罠だったようだ。
     無論、灼滅者達にとって落下ダメージなど無縁の代物だが、階下へと降り立った時にこの罠の真意を知ることとなる。
    「歓迎の準備は万全、か……。さっきの二重トラップしかり、迷宮の主は随分な老狐狸ね」
     落とし穴の先であろう場所に群がるのは雑魚10体。罠にかかっていたなら体勢の崩れたところを袋叩きにされていただろうが、正面きって戦えればそれほどの脅威ではない。数が多い分時間は取られたが、勝利した灼滅者達は更に地下へと進んでいく。

    ●ボス戦前には回復を
     その後1回の戦闘を挟み、灼滅者達は遂に最下層へ辿り着いた。最下層の一辺には立派な扉がついており、いかにもな雰囲気を醸し出している。
    「ようやくラストか。流石にだれてきてたから助かったぜ」
     ゴールが見えたことで夜々が一息をつく。この迷宮は迷路的構造ではなく、変化の無さや罠で心を折りに来る造りなので無理もない。
    「敵影無し、罠も無いみたいだな。時間は3時半……。心霊手術の時間はありそうだ」
    「よかったぁ~。夜叉丸結構ギリギリだったんだよ~」
     探索を終えた塞の呼びかけで、ディフェンダー達に心霊手術を行う灼滅者達。特に霊犬の夜叉丸やルーは灼滅者より体力が低いため、有紗の言う通り危険な状態だったのだ。
     手術により損耗率を1割から2割へと持ち直した灼滅者達は、息を整えると扉を開ける。中には聞いていた通りの姿をしたボスと取り巻きの雑魚が数体おり、灼滅者達の姿を見ると襲い掛かってきた。
    「悪いですけど、あなた達は後回しです!」
     遥香が突撃してきた騎士の剣を槍で跳ね返し、指を弾き強酸を撃ち出すと、続いて有紗と夜叉丸も後列を狙い撃つ。
    「ここは白狐からだったわね……。私が騎士と遊んでおくから、回復潰しはお願いね」
    「わ、分かりました……!」
     仲間の攻撃を邪魔させまいと、櫂が畏れを宿した刀で騎士に斬りかかり、楓の放つ気弾が白狐を弾き飛ばす。そして、それを見たボスが反撃にと杖をかざし魔弾を撃ち出すも、塞が遮蔽となって受け止める。
    「さぁルーちゃん。もふもふ度だけでなく回復でも狐さんに勝ちますよ!」
     石化が増える前にと蓮やルーが回復をかけている一方、白狐も自分を回復させていた。
    「早くも自転車操業か? なら、1回も攻撃させずに終わらせてやるぞ!」
     ある程度回復した白狐だが、オメガを初めとした追撃で再び傷が増えていく。
     その後も弓兵の毒矢や騎士の剣、ボスが鎖を呼び出したりと状態異常を多用してくるが、範囲回復の用意もあり焦るほどではない。
    「で、残るは裸の王様ただ一人、ってか?」
     夜々が前列に絡まる鎖を打ち消したのと同時に、最後の雑魚が仲間に灼滅される。残るはローブ姿のボス、ただ1体だ。

    ●クリアタイムは1時間57分
     ここから一気呵成の攻撃が始まろうかという場面だが、灼滅者達の中に1人うつむき肩を震わせる者がいた。
    「やっと攻撃できますね……。かくごしろこのげんきょうがぁぁぁぁぁぁっ!」
     何か別の方向に覚醒した楓が腕を変異させてボスへ踊りかかかる。騎士や普通の見た目な白狐はともかく、外見がアンデッドそのものなボスに対し恐怖が振り切れ、怒りに変わってしまったらしい。
     殴られたボスが反撃に再び杖を振り上げるが、その射線に夜叉丸が割り込んだ。
    「ナイス夜叉丸! 後でいっぱい撫でたげるからねっ!」
     自己回復に回る愛犬へ声をかけると、有紗はボスに向かって弓を撃つ。
    「あなたにも『ナリマサさま』の力を思い知らせてあげますっ!」
     次に遥香がボスへ向かい構えると、自らに宿る寄生体を操作し槍と融合させ、殲術道具の力を乗せた砲撃をぶっぱなす。
    「ルーちゃん! あっちが大砲ならこっちは弾幕で行くよ!」
     蓮とルーが魔法弾と六文銭で張った弾幕に対し、自分の周りに鎖を召喚して対抗しようとするボスだったが、主従の攻撃はそれを突き破り敵を穿つ。
    「そろそろ幕を閉じる頃合いね」
    「あの世へ行く前に、ギターの正しい使い方ってヤツを教えてやるぜ!」
     櫂の刀が胴を薙ぎ、夜々のギターが肩を砕き、更に灼滅者達の攻撃は続く。
    「時間に余裕はあるが無駄にしたくないんでな。……終わらせるぞ」
    「こいつで最後だ! このオメガ様にトドメを刺されたこと、あの世で誇るがいいぞ!」
     塞の放つ光線が体を貫き、胸にオメガの生み出した逆十字が墓碑の如く刻み付けられる。そして、物言えぬボスは断末魔を残すことなく、頭から塵となって消えていった。

    「今の時間は……っと。うん、これなら普通に歩いて戻れますね」
     戦いが終わり遥香が腕時計を見てみると、針は4時前を指していた。
    「それじゃあ糸を辿って帰りましょ~っ」
    「あ、罠のある場所に目印を書いておきましたので、踏まないよう気を付けてくださいね」
     蓮や楓を先頭に地上へ戻った灼滅者達は、時間通りに迷宮が消えたことを確認して帰路に就いたのだった。

    作者:チョコミント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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