急募! 真夜中迷宮探索者

    作者:一縷野望

    ●二十四軒駅  深夜
     そもそもが、丸い大きな柱だの天井の低い通路だの、地下鉄を構成するモノ自体が非日常っぽくてなんだかダンジョンめいている。
     特にここ東西線二十四軒駅は三方にせり上がる階段や最下層の謎の細長いスペースなどあり、それっぽい。
     とはいえさすがに、駅がダンジョンだなんて夢見がちにも程がある。
     ……しかし、現実は夢を遙かに凌駕する。
     人気が消えた深夜、まるで本来の姿はこうだったのだとでも言いたげに、油絵の具で塗りつぶすが如く、変貌。
     車両が走る線路は石畳へ、壁にはどこへつながるのか不明の枝分かれ道だの、曰くありげな扉だのが現われる。
     かしゃんかしゃんと、重たいモノが踏みしめる足音。しかし鎧を着るモノは驚く程スカスカの骨だけスケルトン。
     狛犬のようにお座りするのは狼の銅像だろうか?
     
    ●求む! ダンジョン探索者
    「新たなダンジョンが発見されたんだ。お前達もちろん攻略するよな……なーんて、ね」
     灯道・標(中学生エクスブレイン・dn0085)は教卓を酒場のカウンターに見立て、両手を広げて酒場の親父ポーズで口火を切った。
     錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)が深夜の札幌地下鉄のダンジョン化を発見したのは記憶に新しいだろう。
     終電後から始発が出るまでの数時間、巻き込まれた一般人がいないのもまったく同じ。
    「事が大きくなる前に、さくっとクリアしてきてよ」
     今回のダンジョンは東西線の二十四軒駅 から 西28丁目駅の間。深夜2時から攻略開始、タイムリミットは始発前の5時まで。
    「んーと、出てくるのは鎧を着たアンデッドが30体と、狼っぽいのが10体、かな」
     彼ら全てを灼滅したら、ダンジョンも消滅してミッションクリア。
    「あ、アンデッドの内、超立派な鎧着て大きめの1体は強い。所謂ボスって奴だね」
     1体1体はさほど強くはないが、彼らは数体でパーティを組んで徘徊しており、チームの数と配置は不明。
     そもそも迷宮の地図なんてものもないわけで、何も考えずに踏み込めば、迷って敵に挟み撃ちにされたり、扉の影から不意打ちされて不利な状況に陥るのが関の山。
    「逆に言うと、きちっと攻略するんだーって色々と備えれば大丈夫」
     幸いにも灼滅者達を直接害する罠はない。
     なので地図を書いて用心深く進むべし。行き止まりになっても泣かないで隠し扉を探そう。
     他、対策や工夫をこらせばプラスに働く可能性が高い。色々と試して欲しい。
    「ちなみに攻撃は、アンデッドはウロボロスブレイドのサイキック。ボスはそれに加えて無敵斬艦刀のも使ってくるよ。狼はバトルオーラのみ」
     ダンジョンアタックいいなあと終始羨ましげだった標は、締めくくるように居住まいを正す。
    「このダンジョンさ、自然現象なのかノーライフキングの実験かは判んないけど、とにかく放っておくって選択肢はなしだからさ」
     被害が出ないように、灼滅者達がきちっと踏破して敵を一掃すべし。


    参加者
    月代・沙雪(月華之雫・d00742)
    色射・緋頼(先を護るもの・d01617)
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    桜花・楓(千の星々に手を伸ばす・d03274)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)
    須磨寺・榛名(報復艦・d18027)
    虚牢・智夜(魔を秘めし輝きの獣・d28176)
    フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)

    ■リプレイ

    ●出オチ
     ぎぃぃぃぃいいいぃ。
     重厚に軋む音をたて開く扉の向こう、硬く足を跳ね返す石畳が無限が腕広げたように出迎える。
    「えぅ……先が見えないのです」
     帽子のつばをぎゅうとつかみフリル・インレアン(小学生人狼・d32564)は、おどおどと視線を左右に向けた。緊張で出てしまった耳は、帽子の中でぺたんこ、しっぽはしゅんと垂れている。
    「すごいのです! まるでおしろなのですよ!」
     もう1人の小学生、カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)は瞳をきらっきらに煌めかせぱあっと腕を広げる。霊犬ヴァレンは精悍な眼差しで主を見守っている。
    「豪華な作りの迷宮ね!」
     フリルを落ち着かせるよう優しく微笑えむ桜花・楓(千の星々に手を伸ばす・d03274)の心もわくわくで一杯だ。
    「ではでは、まおうさんをたおしにいきましょう!」
     頷く虚牢・智夜(魔を秘めし輝きの獣・d28176)と須磨寺・榛名(報復艦・d18027)手にはスケッチブック。
    「広めのエントランス……と言った所でしょうか。どちらの道から行きましょう?」
     榛名の流麗な筆致が小部屋と左右に伸びる道を描く。
    「ふむ……我が力を試すに相応し……あ、宝箱! 宝箱あるよ!」
     シリアス厨二吹っ飛ばし小躍りの智夜の隣、深々と頷くのは二夕月・海月(くらげ娘・d01805)だ。
    「如何にもな感じの宝箱だが」
     金ぴかツタ模様の彫りが深い造作、蓋には赤の大きな宝石がぎらりん☆
    「持ち帰れないのがつまんないな」
    「開けていい!? ダメ!? 開けていい!? いい!?」
    「持ち帰らなければいいのだよな」
     水底のように静逸な瞳が好奇心で煌めき、じゃきんと構えるはマジックハンド。
    「私が見てきていいですか?」
     月代・沙雪(月華之雫・d00742)の落ち着いた声が響いたかと思うと、しなやかな仕草で白猫が隙間から躍り出る。
    「沙雪さん、気を付けてくださいね」
     気遣う色射・緋頼(先を護るもの・d01617)の紅に「みぃ」と一鳴き宝箱に近づく沙雪。一方、息を呑み耳を澄まし何時でも駆け込めるように構える一同。
     猫足と石畳の奏でる冷えた足音だけが響く中。
     ――かたっ。
    (「音がしました……ね」)
    (「したな」)
     すぐに戻る白猫。入れ替わりにのびる海月のマジックハンドがつんつくつん。
     ――か、たり。
    『僕は普通の宝箱です。さあ無防備にオープンミー!!』
     そんな幻聴が聞こえた気がした。うん。この箱の中、絶対なんかいる。
     ――かしゃん、かしゃ……。
    (「左側の道」)
     緋頼の促しに皆もこくこく。
     あ、近づく鎧の足音が戸惑うように止んだぞー。
    「うむ、今回はカリルがあけるとよい」
     譲る智夜さん、大人の余裕って奴ですよ。次はあけたいと顔に書いてあるけどな!
    「ありがとー! なにがはいってるかな?」
     ぱこんっ☆
    『がうー!』
     ヤケクソ気味に飛び出した狼を横殴りにする聖なる十字架、なんというミスマッチな演出、しかし事実なんだから仕方がない。
    「襲いかかる宝箱は、RPGゲームの定番だわ」
     うふふと微笑む楓。確かな手応え、これなら次はクラッシャーでゴーゴーだ! 続きヴァレンが噛み付くように刃で斬りつけた。
    「はい、いらっしゃい」
     一方、足音響かせ駆け込んできた鎧の先頭を捉え、海月のオーラが光条をばらまいた。
    「鎧の数は4体です、全部同じタイプですね」
     柔らかな照明の中で映える冷えた銀光、全員の出鼻を挫くように緋頼は手繰る糸で霊的因子に介入した。
    「右からの敵はいないようです」
     緋頼と背中合わせの沙雪はそう知らせ神の刃を奉り弱った奴を狙い打つ。
    「これ以上こさせないようにっと」
     カリルはサウンドシャッターを展開し、京都貴船の想いをダイナミックに乗せた一撃を叩きつける。
    「挟まれる心配なし……であれば思い切りやれるな」
     にやり。
     人差し指と中指あわせた指さし睥睨、鎧達が到達した地点と宝箱の間をさせば其処は凍てつく冷獄氷点下。
    「……うぅ、ごめんなさい」
     祈るように指組み合わせたフリルの背中に、翼めいたベルトがばさりっ羽ばたく音を響かせる。
     ベルトは縦横無尽にエントランスに広がり、1体も逃さず絡め取った。
    「鎧4に狼1……ですね」
     素早く正の字書き付けた榛名は、落ち着いた所作で弓を取り出し矢をつがえる。
     天は石に阻まれありはしない、されど彗星はいつでも共に。
     つぇん……!
     輝きの尾を連れし矢は鎧の額に刺さり、なにもせぬ間に斃された。

    ●ゲーム中盤以降ありがちの
     初戦から破竹の勢いでクリアしていく冒険者もとい灼滅者達。
     それぞれが用心深く敵の接近に警戒しているため、不意打ちや挟み撃ちなどのピンチとは無縁。楓とカリルの小石でおびき寄せ作戦で先手を取れる事も何回か。

    『きゅーん……』
    「……」
     屍晒し消滅する狼へフリルはそっと手をあわせた。
     狼のアンデッドを斃す度に胸がちくちくする。自分も何れこうなってしまわないか心配で。
    「だいじょうぶですか?」
    「お怪我が辛いのでしたら心霊手術をしましょうか?」
     曇る面を気遣うカリルと沙雪。ヴァレンも尻尾を揺らし鼻を鳴らす。
    「平気です……あの、心配かけて、ごめんなさい」
     ぽふり。
     帽子を叩けばひっこむおみみ、仲間と一緒に精一杯頑張ろうと思ったら、心が解け楽になった。
    「現状、どれぐらい倒してますか?」
     年少組を見守っていた緋頼は小さく頷くと、榛名と智夜へ視線を向ける。
    「はい、今ので狼が7体の鎧が16体撃破済みです」
    「残りは、狼3に鎧が13とボスだな」
     榛名の申告間違いなしと智夜。互いの地図を見比べ齟齬がないか確認、こちらも問題なし。
    「うん、1時間経過で半分以上、悪くないペースね」
     アラーム振動を止めて知らせた楓は、写真と今巡る壁を見比べ変化なしとも告げる。
    「そろそろボスの位置をはっきりさせときたい所だな」
     海月は『調査済み』と記されていない唯一の『行き止まり』をつつく。

     ……辿り着いたそこは淡い黄色の光に満たされた空間だった。
    「ここの先になにかありそうなんですが……」
    「今までみたいな隠し扉はないですね」
     壁の向こうあからさまなスペースがあるのだが。緋頼と榛名はじめ、全員で触ったり押したりするも変化は無し。
    「あ……音……」
    「な、なんだ?!」
     フリルが帽子の中で耳をぴくり。つられて智夜からも生えた尻尾がぴーん。
     ――がしゃ…………んがし……ゃん。
    「壁の奥、やはりなにかいますね。ボスのような気がします」
     沙雪に異を唱える者はいない、しかし今は道は開かれていない。
    「一度戻ってみない? なにか変化があるかもしれないわ」
     地図以外の印となるようにチョークを記す楓の提案に、異を唱える者はいなかった。

     さて。
     戻って2つ目の三叉路にでーんと鎮座しますは太陽掲げる女神像。
    「こんなどうぞう、ありましたっけ??」
     カリルとヴァレンが同じ方向に首を傾け、きょとーん。
    「地図にはありませんね……虚牢さんはどうですか?」
    「我のにも描いておらぬ」
     沙雪は猫へ変じると、足音忍ばせ近づいてみる……が、無反応。
    「みぃ」
     仲間を呼び寄せるように一鳴き、皆で調べてみるが反応なし。
    「こういうのはほら、回してみたりすると……」
     隠し部屋が出たり……なんて、海月が太陽に手をかけ力を籠めれば――ごりっ。
     足下に隠れていた三日月があっさり女神の上へ。瞬間、迷宮内の照明が吹き消すように消えた!
    「気を付けてください」
     注意を促す沙雪。
     だがそんな緊張は、一瞬。
     ――ぽっ、ぽぽぽぽぽ、ぽ。
     先程とは違った青みがかった光が灯り、迷宮は再び皆を出迎える。
    「これは……あれね、ゲーム中盤でBGMが変化する感じの!」
     うきうきと楓は周囲の壁の文様に変化がないか、写真を撮り始める。
    「半分、すぎたから……でしょうか?」
     きょろきょろとフリルは見回しそっと壁に触れてみる。質感に変化はないようだ。
    「……静かに。あそこ見てください」
     前方、後方の道の果てを舐めるように揺れる影を指さす緋頼。
     目配せで武器を手に、後衛を中央に庇い陣形展開。ほぼ同時に狼の雄叫びが周囲の空気を揺さぶる。直後、仄かを明に書き換え走るオーラが通路を奔り襲い来る。
     クラッシャーの海月とフリル、楓が壁役カリルを中心点に線引くように石畳蹴り、疾走。緋頼はバックアップにまわった。
    「ボスではないようですね」
    「うん、そんなにいたくないです」
     沙雪が素早く貼付けた符とともに嘘のように消える赤い傷。カリルは大丈夫とガッツポーズ。先行の海月をガードすべくヴァレンと共に走り出る。
    「ふ」
     フリル達が向かった方へ、智夜は牡丹の火を灯し飛ばすように息を吹きかける。
     クラッシャー2人の攻撃に更に炎の追撃。回復と護りを硬めた鎧は榛名の矢でその護りごとはがされかなりふらふらだ。
    「そちら、大丈夫ですか?」
     沙雪は癒し手として仲間の負傷には細心の注意を払い、常に声をかける事を忘れない。
    「問題ない」
     指先くるり、クーを舞わせた海月はついっと狼の足の付け根を指さした。
    『ぎゃんっ』
     クーの斬り裂きでつんのめるように動きを止めた所に、カリルの影刃が絡みつく。
    「わかりました」
     であれば再び攻勢。
     沙雪は瞼を下げて神刃呼ぶべく掌を天井へ向ける。榛名の矢に絡まるように向かったのは瀕死の鎧。
     援護しようと剣構える鎧は、一体はヴァレンを捕らえたものの一体は緋頼の戒めで悔しげに踏み蹈鞴を踏むのみ。
    「攻撃は最大の防御……そんなお話、あったかしら」
     明かに精彩を欠く敵側の防御。フリルのベルトからもがく狼へ、楓は奇譚を語り消しせしめる。
     彩り変えた迷宮にて、灼滅者達は後半戦の舞踏を鮮やかに愉しげに踊る踊る!

    ●準備はOK?
    「あとはボスと狼と鎧が各1……で、あってますか?」
    「うむ、間違いない」
     智夜へ残数を確認する沙雪の手が止まる事はない、カリルと海月へ心霊手術を施しているのだ。
    「……これで終わりです。おかしな所はありますか?」
    「ありがとう。私は大丈夫だ」
    「僕は、うーんっと」
     小首を傾げる少年へ、やはり智夜の手で手当が終わったフリルがおずおずと手をあげた。
    「その……わたし、できます」
    「そうですね、月代さんの防護符は温存したい所ですし」
     楓の手当を済ませた榛名に背中を押され、フリルはこくりと頭をゆらし、少年へと向き合った。
    「ん……ボス攻撃予定時刻まであと30分ね」
    「恐らくボスはこの突き当たりの向こうですし余裕はありますね」
     太陽が落ち月が昇った時点で、開かなくなった隠し扉がひとつ。緋頼の台詞にあわせ、アラームを止めた楓はカメラの画面を皆へ見せた。
    「開かなくなった方は蒼空みたいな蒼の光、これから行く所は黄色い光……月っぽいわよね」
     写真をカチカチ切り替える楓に集まる視線。気になるカリルへ、
    「あ、あとで……見せてもらいましょう」
     手当てするフリルも、実は見てみたい気持ちは一緒。

    ●ラスボス攻略!
     予想通り現われた扉をあければ――二まわりは大きい鎧が、左右に下げた剣を振り上げお出迎え。
    『ガウッ!』
     勇敢なヴァレンが身を挺し主を庇い血花を散らす。ボスも六六六のサイキックは使用せず剣に準じた力を振るうようだ。
    「おかえしっ……です!」
     淡い菖蒲の着流しを翼のようにはためかせ、カリルは従者の頭へ組んだ拳を叩きつける。
    「さすがに待ち構えられましたか」
     始まりは銀の糸。
     腕翳した緋頼を中心に、霊に干渉し動き奪う糸が螺旋描き広がった。
    「ふ……その風格、我と相対するラスボスに相応しい!」
     銀の瞳に妖しの輝き宿し祭壇展開、智夜は更に鎧従者へ戒めをきつくきつく施した。
    「易々と抜けさせませんよ」
     獣の雄叫びを清浄なる矢で壊し、更に榛名は矢をつがえ引き絞った。
     と。
     2射目は額に迷いなくつきささる、それは射手の兄慕う想い示すが如くの真っ直ぐさ。

    「これがクラッシャー最後の……一撃! あとは任せるわね」
     楓の光が鎧従者を灼き切り潰す。次は一手を使って防御にまわる、同じタイミングで榛名も二人目の癒し手へ力を傾けた。
     仲間達の攻撃を浴びせられてふらふらの狼が石畳を蹴る音。もう何度も何度も聞き慣れた、音。
    「……ッ」
     牙剥き襲い来る獣の気配にフリルは哀しげにぎゅうと瞳を閉ざす。
     ……ドッ。
     間近で響く肉を喰む音。少女が掲げた腕に絡むベルトが硬化した先で屍肉を貫いたのだ。
     残るはボスのみ。
     しかし流石に今まで通りとはいかない。のろまに見えてしなやかに攻めを躱す一方で、巨剣を力任せに振り下ろし圧政敷く支配者の如く萎縮させ狙いを削ぐ。
    「大きな傷は私が回復します。須磨寺さん攻撃手のフォローをお願いします」
    「わかりました」
     プレッシャーへ身を晒す楓へ駆け寄り、沙雪は両掌で背中を支える。
     ふわり。
     指に挟んだ護符が癒しを奏で最大限の力でもって盾役の傷をぬぐい去る。誰も倒れさせない、決して決して。
     石畳駆ける忠犬は巨大な剣で叩き落とされる、しかしその影から溢れた『黒』は支配者の首へと絡みついた。
    「まおうさんのしはいはこれでおしまいです」
    「よいな、忠義に厚い者を見ておるとこちらも滾るわッ」
     太陽から月、そして星の踵落とし。ラスボス指数の格の違いを見せてくれると蹴りつける智夜の技が勇者っぽいのは内緒だ。
    『ぐあああ!』
     剣を振り回しもがく鎧の傍らに、こつりと靴音。
    「これで貴方は動きが取れませんよ」
     身を屈め腹に巨腕うちつけるは、榛名より狙い鋭さ得た緋頼の拳。
    「クー……」
     海月の背中は水底、月光透かしなお蒼重ね黒となる深い深い冷たさの場所。其れ司る黒い海月がゆらりたゆたい一転、水割り一気に浮上する。
    「流石に手ごたえが違ったよ」
     避けきれぬと顔の前でクロスする鎧を前に、海月は静かに声を響かせる。
    「でもこれで終わりだよ」
     しかし、クーは隙間へ滲み容赦なく忍び込んでいく。
     がくんっ。
     大柄な鎧は一度だけ痙攣すると、まるで糸が切れたようにずしゃりと崩れ落ちた。

     札幌地下鉄を迷宮に変ず真の目的は一体など謎は未だ多い。
     しかし、輪郭がぼやけるような空間を歩む少年少女達の表情は、皆一様に達成感に満ちていた。

     ――dungeon clear.

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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