密室音楽祭

    作者:紫村雪乃


     指揮棒がとまった。
     指揮していたのは長い髪の青年である。純白のスーツをまとった、細面の美青年。年齢は二十代後半くらいであろうか。
     観客席から拍手がわいた。深々と礼をすると、青年は振り返った。その切れ長の瞳にはしかし、冷たい怒りの色が滲んでいる。
     青年の視線の先には楽団員の姿があった。その手にはそれぞれに楽器がある。拍手に包まれていながら、彼らの顔には少しも誇らしげな表情はみられなかった。
     あるのは、ただ恐怖。死の予感に彼らの顔は青白く凍てついていた。
     指揮台を降りると、青年は楽団員に歩み寄っていった。その様子を観客席の人々は固唾を飲んで見守っている。
     やがて青年は足をとめた。バイオリンをもつ娘の前で。
    「未熟だな、君は」
     青年が告げると、娘は張り裂けんばかりに目を見開いた。溢れ出る涙がその白磁の頬を濡らす。
    「許してください。もう一度」
    「二度はない」
     青年はゆっくりと指揮棒をあげた。
    「君のような存在は音楽に対する冒涜だ。バイオリンが泣いている」
     青年の手が視認不可能な速度で動いた。次の瞬間、空に舞ったのは娘の首である。
     青年がふるったのは超硬度の指揮棒であった。六六六人衆の一人である青年の殺人業は、それを必殺の刃と化さしめるのである。
    「一人減りましたね」
     青年は観客席に視線を転じた。そしてバイオリンケースをもつ少女を差し招いた。
    「さあ、コンサートを続けましょう」
     青年はニンマリと嗤った。

    「……あそこ。あそこに、HKT六六六の一人、ナンバー1のアツシが作った密室があるんだよ」
     須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003が指し示したのは松戸市にある音楽ホールであった。そこは密室と化し、内部には数百にも及ぶ人々が囚われているという。音楽祭のリハーサルのために集まった人々だ。
    「密室の中にはダークネスがいて、遊びで人々を殺している。ダークネスを灼滅し、可哀想な人々を助けないと」
     まりんはいった。が、困難な作戦だ。迂闊に接近すればダークネスは一般人を人質とするだろう。観客席に背をむけてはいても、相手は六六六人衆だ。用意に気配を感じ取るに違いなかった。
    「ダークネスの武器は?」
     問うたのは結城・桐人(静かなる律動・d03367)という名の灼滅者であった。
     指揮棒だよ、とまりんは答えた。
    「それをダークネスは鋭利なナイフのように使う。さらには投げる。接近戦だけでなく、遠距離戦までもこなすことのできる強敵だよ」
     まりんは灼滅者たちを見回した。
    「でも、信じてるよ。きっとやり遂げてくれるって」


    参加者
    私市・奏(機械仕掛けの旋律・d00405)
    結城・桐人(静かなる律動・d03367)
    綾辻・刻音(ビートリッパー・d22478)
    ハレルヤ・シオン(ハルジオン・d23517)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    アリエス・オデュッセイア(アルゴノーツ・d29761)
    姫川・クラリッサ(月夜の空を見上げて・d31256)
    山城・榛名(白兵隠殺の姫巫女・d32407)

    ■リプレイ


     魂がほろほろと解ける、そのような優美な音楽がホールに流れていた。
     交響曲。千七百年代にウィーンにおいて活躍した有名な作曲家が作曲した交響曲である。
     が――。
     観客席に潜む、その鋭い眼の少年は違和感を覚えていた。
     かつて、その作曲家を崇敬していた、これはドイツの後期ロマン派を代表する作曲家のひとりは、その交響曲は私が聴いた音楽の中で最も偉大なものであり、私は天にいるかの思いがした、と賛辞したという。しかし、今奏でられている交響曲には天上を舞う響きはなかった。
    「恐怖……か」
     十七歳ほどのその少年――結城・桐人(静かなる律動・d03367)の眼が刃の如き光を放った。
    「どうも六六六人衆は無粋なのが多い」
     気怠げに、硝子細工のように繊細な相貌の少年が声をもらした。十七歳ほど。眼鏡の奥の瞳は氷の蒼だ。
     少年――私市・奏(機械仕掛けの旋律・d00405)は気怠げな声音のまま続けた。
    「恐怖は委縮した音しか出させないというのにね」
     奏は演奏者の表情を窺った。全員、青ざめた顔を強ばらせている。
     無理もない。指揮者――六六六人衆の一人である氷見聡の意に沿うことができなければ、待っているのは確実なる死なのだから。
     しかし、と同時に奏は思う。かつての自分と彼らはどれほど違うのだろうか、と。
     演奏者は生身の機械であればいい。そう言い切る作曲家の父の下、奏は育った。その異常な執念に蝕まれつつ。
    「本当に」
     姫川・クラリッサ(月夜の空を見上げて・d31256) は、日独ハーフらしく彫りの深い美しい顔を頷かせた。薄暗い観客席にあってさえなお煌く髪――月光で織り成した金色のそれがさらりと揺れる。ドレスの胸元からは豊かな乳房が覗いていた。
    「音楽ってのは楽しんでもらうためのものだって思うのよね。こういうのは腹が立つわ」
     憤りを隠さず、クラリッサはいった。
    「……音に縛られる、か」
     奏は遠い目をした。思えば父と共にある時、彼もまた音に縛られていたのではなかったか。
     その時、クラリッサと同じように怒りの声をもらしたのは派手な顔立ちの十六歳ほどの少女であった。目にも鮮やかなピンク色の髪が良く似合っている。
     名はアリエス・オデュッセイア(アルゴノーツ・d29761)。人気沸騰中のアイドルデュオ『アルゴノーツ』の一人であった。
    「音楽家気取りでこんな惨劇を引き起こすなんて許せない! 灼滅者である前に、サウンドソルジャーとして、見過ごせないわ!」
     アリエスは、観客席に背をむけて指揮棒を無心にふる氷見を睨みつけた。たとえダークネスであろうと、氷見の指揮者としてのレベルは天才の領域にあるといっていい。だからこそ悔しいのだ。何故音楽に携わる者が音楽を踏みにじるのだ。
    「音楽は恐怖の中で奏でるものじゃなく、楽しみながら演奏すべきだよね」
     と、その少女は呆れたように、ふん、と鼻を鳴らした。華奢で色白、まるで人形のように可愛らしいのだが、どこか少年めいた躍動感がある。
     黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)。かつてある組織に洗脳され、戦闘魔術士として使役されていた少女であった。今、目指しているのは仇敵の悪魔を滅ぼすことである。
    「失敗を伸び代だと思えないのでしょうか…。あの方は…」
     楚々とした、可憐な美少女が氷見の冷たい背を見つめた。山城・榛名(白兵隠殺の姫巫女・d32407) という名の灼滅者であるのだが、年齢は十七歳ほど。端正な相貌の中、その紅瞳の奥に殺伐とした光があるのはどうしたわけだろう。
     榛名は観客席に視線を転じた。座席についているのはおよそ三百人。いざ戦いとなった場合、すべての人々を守るのは不可能であった。しかし――
    「出来る限り一般人の被害を抑え、灼滅しなければ」
    「そう、ね」
     綾辻・刻音(ビートリッパー・d22478)が無表情に頷いた。ひと房の前髪をくるくると指でいじる。が――
     頷きはしたものの、そのルビーを溶かしたような瞳にはさしたる感慨の光は窺えなかった。有り体にいえば一般人の命など刻音にはどうでもよかったのである。
     他の灼滅者たちとは決定的に違う立脚点。助けられるなら助けるし、無理なら見捨てる。それが刻音の考えであった。
     そして八人め。ハレルヤ・シオン(ハルジオン・d23517)。
     一見、少年とも見紛うような軽やかな肢体をもつ少女は、この場合、ただへらへらと笑っていた。何を考えているのか良くわからないところのあるハレルヤであるが、その眼の奥を覗いた者は背筋を粟立たせるに違いない。
     子供が玩具に対するように、ハレルヤは殺人衝動を胸の中で弄んでいた。ハレルヤはただ純粋に知りたいのである。改造で喪った痛みというものを。
     ちらりとハレルヤは他の灼滅者たちを見た。
     彼女が喪ったモノを持つ者たち。限りない羨望と憎悪のないまぜになった黒い炎がハレルヤの瞳の奥に燃え上がった。


     ぴたり、と指揮棒がとまった。それに従い、演奏も停止する。
     静かだ。氷のような静寂がホールを支配した。死の匂いのする静寂が。
     その静寂の中、氷見聡が視線を動かした。刃で薙ぐようにゆっくりと。
     やがて、冷血の眼がとまった。チェロを演奏していた女性の前で。
     まるで蛇に睨まれた小動物のように女性は顔をひきつらせた。死を予感した時、命ある者はこのような顔をするのかも知れない。
     この閉鎖空間内において、氷見は絶対者であった。神のごとく生殺与奪は彼の思いのままだ。逆らうことは誰にもできないことを、この数時間の間に女性は思い知らされていた。
    「何度いったらわかるのかな。君の演奏は音楽に対する冒涜だ」
     歩み寄り、氷見はすうと手をあげた。その繊細な指は鋼鉄の光沢をもつ指揮棒にそえられている。
    「た、助け」
     女性の声が終わらぬうち、指揮棒が閃いた。銀光が疾り――ぴたりと女性の首寸前でとまった。
     氷見はゆっくりと振り向いた。そして静止の声を発した者を見つめる。
     それは三人の男女であった。年齢は十七歳前後といったところであろう。
    「君は――」
     氷見は眼を眇めた。三人のうちの一人、ピンク色の髪の少女の顔をどこかで見たと思ったのだ。
    「演奏なら私がやるわ……! 皆に手を出さないで!」
     ピンク色の髪の少女は決然たる声で叫んだ。少年と少女は静かにうなずくと、
    「僕も付き合うよ」
    「私も」
    「面白い」
     氷見はニタリと笑った。男女ともかなりの技量の持ち主とかんぱしたのでる。
    「君たちは私を楽しませてくれそうだ。いいだろう」
     氷見はあごをしゃくって女性を退かせた。そして少女を差し招いた。
    「期待しているよ。自ら名乗り出たのだからね。もし期待外れだった場合、観客十人の命で償ってもらうことになる。で、君たちの名は?」
    「アリエス・オデュッセイア」
    「私市・奏」
    「姫川・クラリッサ」
     少女と少年は名乗った。

     アリエスと奏、クラリッサが舞台にあがった。女性と入れ替わるように氷見の前に立つ。
    「では最初から」
     アリエスたちが席につくのを待って、氷見が指揮棒をあげた。そして確認するように演奏者たちの顔を一瞥していく。
     演奏開始。氷見は指揮棒を舞わせた。
     ほう、と氷見が内心感嘆の声をもらしたのはしばらくしてのことであった。新たに加わった三人の少年たちの腕前の見事さはどうであろうか。
    「素晴らしい」
     無意識的に氷見は声をもらした。
     その間、観客席に潜んでいた灼滅者たちじっとしていたわけではない。彼らは一般人を避難させるべく動いていた。
    「……頼む。ここから逃げてくれ。俺と、俺の仲間たちを信じてくれ」
     桐人が告げた。すると彼の周囲の者たちははっと眼を瞬かせた。そして、頷く。その瞳には憧憬の光がやどっていた。
     ラブフェロモン。驚くべきことに桐人のサイキックは周囲の一般人を恋人やファンにすることができるのである。
     と――
     演奏が再び止んだ。氷見の指揮棒が静止している。
    「……どうやら鼠が紛れ込んでいるようですね」
     氷見が呟いた。
     気づかれた。そう判断した刻音とハレルヤが脚に力を送り込んだ。爆発的なエネルギーのために床が軋むより、しかし氷見の動きの方が速かった。振り向きざま、魔法のようにジャケットの内側から抜き出した指揮棒を放つ。その数は八。
     氷見が狙ったのは、正確にいえば灼滅者ではない。尋常ではない気配にむけて指揮棒を投擲したのであった。
     それで十分。そう氷見は見込んでいた。もし気配の主が予想通りの相手であるなら――
     三つの人影が飛び出した。柘榴、桐人、榛名の三人である。
     それぞれの手にはすでに顕現させた殲術武器。迫り来る指揮棒をはじく。が――
     彼らがはじいたのは三本の指揮棒。残る五本の指揮棒は避けも躱しもならぬ一般人にむかって唸り飛んでいる。
     次の瞬間、爆裂したように肉と血がはじけた。誰の――三人の灼滅者たちの肉体が。はじくことは不可能と判断した柘榴と桐人、榛名が咄嗟にその身体をもって一般人を庇ったのである。
     しかし、それは自殺に等しい行為であった。氷見の指揮棒には機関砲なみの威力が込められている。通常人ならば身体そのものが引き裂かれてしまうだろう。
     はじかれたようにアリエスが立ち上がった。顕現させた殲術武器――戦闘用に調整されたバイオレンスギターをかき鳴らす。
     奏でられたメロディ。言葉に霊がやどるように、アリエスのメロディには力が込められていた。細胞を霊的に賦活化させる力が。
     その時――いや、正確にはアリエスが立ち上がった時、観客席から飛び出していた別の二影が氷見に迫っていた。疾風の速さもつ者。刻音とハレルヤである。


    「ハッ」
    「ふんっ」
     刻音の手から帯が噴出した。岩すら穿つほどの破壊力をひめて。
     ハレルヤは指輪をかざした。一瞬の光芒。撃ちだされたのは高密度の霊力の塊である。
     氷見は優雅に身を舞わせた。ハレルヤの霊力の弾丸をはじく。が、さすがに刻音の帯までは躱しきれなかった。
    「ほう」
     氷見が頬に指を這わせた。切り裂かれた頬から滴り落ちる血を拭う。魔人の血もやはり赤い色をしていた。
    「音、好きなの?」
     抑揚を欠いた声音で刻音が問うた。
    「私も音奏でるの得意、だよ。貴方を刻む音響かせてあげる、よ」
    「どうやら同種のようだね」
     氷見がニヤリとした。
     彼にはわかる。刻音とハレルヤの裡に住まう暗黒の獣が。
    「そうだよぉ」
     にぃ、と。ハレルヤが陰惨に笑った。
    「音楽は詳しくないけどお、 モノを壊す時に出るオトと感触は、とおっても好き。キミを壊したらどんなオトが出るかなあ」
    「やってみたまえ」
     冷酷に口を歪ませた氷見の左腕が、その時、視認不可能な速度で動いた。演奏者にむけて指揮棒を放ったのである。数は四。
     今度は二人の灼滅者が動いた。クラリッサと奏である。
     クラリッサが交通標識で、ナノナノ――スコアは指揮棒、そして奏は槍で指揮棒をはじいた。はねる光は三。残る一条の光流は演奏者である男性の額を爆裂させた。
     舞う血煙を切り、氷見は灼滅者に肉薄した。瞬き一つの刹那。ぬっと刻音の眼前に氷見が現出する。
     ぞくりと刻音の背を冷気がはしりぬけた。反射的に手刀をはしらせる。殺気そのものを刃と化した一撃だ。
     刻音の手刀が氷見の脇腹を刎ねた。が、浅い。同時に激痛。刻音の腹に指揮棒が突き刺さっている。
    「うふっ、キミのオト、聞・か・せ・て♪」
     ひやりとする笑みを含んだ声は氷見の背後でした。振り向く氷見の顔面めがけ、ハレルヤが拳を叩き込む。
     氷見が吹き飛んだ。いや、跳んだ。拳の衝撃を利用して。
    「やるねえ」
     氷見の眼前で微塵に切り刻まれた霊力の網が散った。くくく、とハレルヤは可笑しそうに笑う。その手は切り裂かれた首を押さえていた。
     かなりの深手だ。しかしハレルヤの眼は狂気に彩られたように爛と光った。
    「ボクのも教えて。たくさんたくさん壊して。キミので、ボクをいっぱいにしてよお♪」
    「やめて!」
     クラリッサがヴァイオリンを奏で始めた。優美な旋律が殺伐としたその場の空気を塗り替えていく。
     レクイエム。音色そのものが金色の光を放っていた。
    「ぬっ」
     氷見の身がわずかに揺らいだ。精神的な違和感を、この時、氷見は感じていた。
     一瞬の凍結。が、それは灼滅者にとっては必殺の時。
     バイオレンスギターの絃にかけたアリエスの指が高速で動いた。瞬間、ギターから影が噴出した。疾る影――五線譜に想起させる漆黒の触手が氷見にからみつく。
    「勝機!」
     黒髪を翻し、地をすべる影がひとつ。
     柘榴。その瞳が赤光を放った。冴えた殺意は彼女の霊的ポテンシャルを高め、抑えきれずに放散させた霊気は漆黒の蝶の羽を形作る。
     柘榴は襲った。死の蝶と化して。規格外の破壊力を秘めたその手の槍が唸りをあげて回転し、氷見めがけて繰り出された。
     同時、奏もまた氷見の背後から襲撃した。得物は柘榴と同じ妖の槍。違う点は一撃の型。点ではなく線。横一文字の薙ぎ払いであった。
     身体を傾け。氷見は指揮棒で奏の槍を受けた。が、さすがに柘榴の槍を躱すことは不可能であった。
     瞬時にそう判断した氷見は、あえて身をさらした。わずかに身動ぎしつつ。
     柘榴の妖の槍が氷見の脇腹をえぐった。肉片と鮮血がしぶき、柘榴の顔を真紅に染める。
     その柘榴の瞳に映る銀色の刃。氷見の指揮棒である。これこそ氷見の狙い。自身の身を罠とし、彼は柘榴を必殺の圏内に引きずり込んだのであった。
     指揮棒が空を薙いだ。いかな灼滅者とて、首を切断された場合、死は確実であった。
     指揮棒が柘榴の首を切断し――いや、皮一枚を切り、とまった。横からのびた鬼のごとき異形の腕が氷見のそれを掴みとめたのである。
    「失敗したから怒る、それは場面によっては大切でしょう。ですが、やる気のある人、伸び代のある人に対してもそんな姿勢では良い音楽なんていつまで経っても奏でられないでしょうね…」
     静かに告げると、榛名は腕に力を込めた。異形化した腕の発揮する力は超常。氷見の腕がばきばきと音を発し、粉砕される。
    「ぐあぁああ」
     氷見が苦鳴を発した。その眼前で、桐人は腕をひいた。榛名と同じく鬼神のそれと化した腕を。
    「……貴様の存在こそ、音楽への冒涜に他ならない。音楽は心を潤わせるものだが、血で潤わせるなど言語道断。貴様は最低最悪のコンダクターだ」
     桐人の拳が爆発的な破壊力を開放した。氷見を文字通り砕く。
    「血まみれの音楽祭も、終幕だ」


     解放された人々が去ったホールに歌声が流れている。
     天使のごとき澄明な響き。仲間を癒すクラリッサのものだ。
     ボクを壊して。そうハレルヤはいった。
     そんな哀しいことはいわないで。クラリッサは思う。助けられなかった男性。亡くなった命は、もう歌うことすらできないのだから。
    「今度は純粋に演奏しに来たい、かな」
     クラリッサは、ふと思った。

    作者:紫村雪乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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