勇気を胸に

    作者:飛翔優

    ●暗い、暗い洞窟の中
     何故、こんな場所にいるのか。
     何故、ひとりきりなのか。
     分からぬまま、小学三年生の少年仁は膝を抱く。
     明かりのない洞窟の中、今にも落ちてしまいそうな橋の側。
     進むことも戻ることもできず、ただただ恐怖に震えていく。
     ……この場所が、シャドウの作り出した夢の中だということも知らぬまま……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、いつもの笑顔を消した表情のまま口を開いた。
    「仁さんという名前の小学三年生の男の子が、シャドウの悪夢に囚われる……そんな事件が発生しています」
     本来、ダークネスにはバベルの鎖による予知能力があるため、接触は困難。しかし、エクスブレインの導きに従えば、その予知をかいくぐり迫る事ができるのだ。
    「とは言え、ダークネスは強敵。ソウルボード内にいるシャドウといえど、です。ですのでどうか、全力での戦いをお願いします」
     続いて……と、地図を広げ一軒家を指し示した。
    「ここが仁さんの家。仁さんはこの家の中、悪夢に苦しんでいます。ですので、到着次第ソウルボードへと侵入して下さい」
     そうしてたどり着く夢世界は、明かりのない洞窟の中。というのも……。
    「仁さんについて説明しましょうか」
     仁、小学三年生男子。元々は明るくて想像力豊かな性格だが、その想像力の豊かさが災いしてか少々臆病なところがある。
    「数日前、仁さんは冒険家が罠だらけの洞窟の中を探検する……という映画を見ていたみたいです。ですが、話の途中で眠る時間となり、冒険家が罠にかかって溶岩に落ちた風に見えるシーンが最後の場面となったようで……」
     その後、仁は結末がどうだったのかを想像した。
     導き出されたのは、罠にかかったまま死ぬバッドエンド。それに対する恐怖をシャドウに突かれたのだろう。
    「もっとも、その冒険家は罠を切り抜け宝を手に入れ脱出する……まさにハッピーエンドだったのですけどね」
     ともあれ、赴くことになる洞窟はまさにそのトラップだらけの洞窟。
     ボロボロの吊り橋、飛び石になっている溶岩地帯、転がる大岩、槍だらけの落とし穴……と言った塩梅だ。
    「仁さんはわけもわからぬまま、ボロボロの吊り橋は突破しました。ですが、その後は足がすくみ動けなくなってしまったようで……」
     故に、まずはボロボロの橋を突破する必要がある。すぐにでも落ちてしまいそうな場所なので、工夫して通る必要があるだろう。
    「仁さんと出会ったなら、心を盛り立てて上げてください。導いてあげて下さい。彼が、勇気を持てるように」
     そうして仁を連れて洞窟を突破したなら、最後は道の両側をマグマが埋めている宝物庫へと到達する。宝物庫の中心にある宝、勇気の輝石を手に入れたなら……シャドウが、大蛇の姿をした眷属を二体引き連れてやってくる。
     シャドウの力量は、配下がいる状態ならば灼滅者たちと五分程度。
     妨害能力に秀でており、影くらい、影縛り、トラウナックルを仕掛けてくる。
     一方、大蛇は攻撃面に秀でており、加護を砕くかみ砕き、毒の液、巻き付く……と言った行動を仕掛けてくる。
    「また、シャドウは大蛇を一体倒してから五分後には逃亡するかと思います。一方で、仁さんを悪夢から救い出しシャドウを撃退すれば良い……という形になりますので、その辺りを留意して作戦を立てて下さい。以上で説明を終了します」
     地図などを手渡し、締めくくりへと移行した。
    「中途半端に途切れた物語から紡がれた、悪夢。しかし、少しの勇気を持つことができれば冒険譚に変えることができる……そんな悪夢だと思います。ですのでどうか、全力での救済を。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)
    逆霧・夜兎(深闇・d02876)
    村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)
    レナ・フォレストキャット(山猫狂詩曲・d12864)
    白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246)
    桜泉・レン(若桜・d24817)
    アルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)

    ■リプレイ

    ●恐怖に震える少年へ
     どこかに光源があるのだろうか? 灼滅者たちの降り立った洞窟は互いの顔を確認できる程度には薄明るく、すぐ側に、崖と吊り橋があることを教えてくれた。
     冷たい風の吹き付ける崖の向こう側、既に渡りきった少年・仁が震えているはず。
     一分一秒でも早く到達せんと、レナ・フォレストキャット(山猫狂詩曲・d12864)が先陣を切って歩き出した。
    「うにゃ、はしをわたるべからずで真ん中……うにゃ、端っこがないにゃ……」
     古ぼけた吊り橋の横幅は、大きく見積もっても子ども二人分。しかも、足場となる板は中央部にしか敷き詰められていないという有り様だ。
     否応にも真ん中を歩く事を余儀なくされる吊り橋。踏み込めば、ぎしりと耳障りな音を奏でていく。
     二歩、三歩と歩みを進めた後、肩越しに振り向き伝達した。
    「うにゃ、とりあえず一人なら大丈夫だと思うにゃ」
     反面、二人分の体重は支えられそうにない。灼滅者たちは大事を取り、一人ずつ渡っていく運びとなる。
     渡りきったレナからの連絡を受け、続いて犬の姿に変わった桜泉・レン(若桜・d24817)が電灯を咥えたまま歩き出した。
     歩くたびに悲鳴を上げ、風が吹くたびに揺れていく吊り橋。恐怖を抱かないわけではない。
     けれど皆がいるから、見守ってくれているから頑張れると、淀むことのない足取りで進んでいく。
     渡りきったレンに倣い次々と吊り橋を突破して言った後、しんがりを務めたのは白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246)。
     猫の姿のまま一歩、一歩確実に歩みを進めていく。
     風が吹いた時には爪を立て、振り落とされないよう努力した。
     なるべく早く、けれども確実に……それなりの時間をかけて渡りきった悠月は、変身を解き仲間たちと頷き合う。
     改めて探索を始め……岩のくぼみで、膝を抱えて俯いている少年を……仁を発見した。
     悠月は仲間と頷き合い、先行する形で歩み寄る。
    「こんにちは」
    「……え?」
     驚き弾けるように、顔を上げていく仁。
     しっかりと瞳を見つめながら、悠月は伝えていく。私達も、この洞窟を探検しに来た。一緒に行かないか? と。
    「……」
     揺れる瞳で、首を横に振っていく仁。
     視線逸らさず、悠月は続けていく。
    「そなたも、あのボロボロだった吊り橋を突破できたのだ。もっと自信を持って良いと思うぞ」
    「すごいじゃないか、最初の一歩を自力で踏み出せたんだから」
     村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)も吊り橋を渡り切る事はできた仁を賞賛する。
     真っ直ぐに手を伸ばし、力強い笑みを浮かべていく。
    「キミは今はもう一人じゃない、ここからは僕達も背中を押すから」
    「そう、つり橋は一人で切り抜けられたんだ。この先も大丈夫」
     力を貸すと、ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)も重ねていく。仁の奮起を促していく。
     仁が奮起しなければ進む事も戻ることもできないから、逆霧・夜兎(深闇・d02876)も言葉を重ねていく。
    「お前は勇気がある。あの端を渡れんだから、大丈夫。お前なら、できるさ」
    「大丈夫! 一度勇気を出せたんだもの。恐れちゃダメ、自分を……信じて!」
     アルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117)も語りかけ、仁の様子を伺った。
    「……」
     灼滅者たちを見回した後、仁は首を横に降る。
     ただ、あの時は夢中だっただけと。今も、渡れるかなんて……と。
    「……」
     言葉とは裏腹に、出会った時よりも表情は和らいでいる。頬は気色ばんでいる。
     きっと、できるかもしれないと思うことはできている。ただ、最後の一歩を踏み出せないだけ。
     だから、富士川・見桜(響き渡る声・d31550)はしゃがみ込み、仁の手を取った。
     顔を上げていく仁の瞳を見つめながら、真っ直ぐに言葉をぶつけていく。
    「私だっていつも怖いなって思ってるけど、いつも私にだって出来るんだって言い聞かせて、必死に頑張ってるだけなんだ」
    「……お姉さんも、怖い?」
    「うん。怖いよ。上手くいかないような気がしたり、自分じゃダメなんじゃないかって思ったり。だから、ね……」
     そんな時のための、魔法の言葉。
    「きっと、上手くいく。怖くなったら、そう呟いて。そうすればきっと、出来る気になるはずだから……」
    「……」
     仁は俯き、唇を震わせた。
     呪文のように何度も、何度も唱えた後、ゆっくりと顔を上げていく。
    「きっと、上手くいく……きっと……」
     立ち上がっていく仁を、灼滅者たちは支えていく。
     吊り橋を背に、最奥を目指し歩き出す。
     ぎこちなくとも歩き出した仁の不安を和らげるため、一樹が冗談めかした調子で語りかけた。
    「危険がいっぱいではあるけど……僕も一度、こういう所を探検してみたかったんだよねぇ」
    「ぼ……」
     仁が反射的に紡ごうとして、すぐさま首を振って打ち消した言葉は、きっと同意を示す言葉。
     一樹は軽く背中を押しながら落ち着いた足取りで歩き出す。
     襲い来るだろう罠に精神を向けながら、洞窟探検を開始する……!

    ●みんながいるから
     不意に現れた崖は、ダブルジャンプを用いれるものが先行して昇り残る者たちを引き上げた。
     棒で地面などを叩きながら歩く事で落とし穴や吊り天井といった罠を回避し、灼滅者たちは問題なく歩みを進める事ができていた。
     今、目の前に広がっている光景は、踏み外せば奈落の底へと落ちてしまう、飛び石状になっている足場の群れ。
    「よっと。慣れてくるとこれもけっこう楽しいかも?」
     ミルドレッドは軽快なステップで足場を移動し、三分の一ほどまで到達。
     立ち止まると共に振り向き、今だ踏み出せずにいる仁へと語りかけた。
    「仁、大丈夫。そんなに難しいトラップじゃないよ! 勇気を持って、勢いで飛び越えれば、きっと乗り越えられるから!」
    「……」
     ミルドレッドが見守る中、仁は一歩目となる足場を見つめていく。
    「……きっと、上手くいく……」
     ぎゅっと拳を握りしめ、最初の一歩を踏み出した。
    「っ!」
     かと思えば二歩、三歩と、勢いのまま飛び移っていく。
    「そう、その調子だよ! 頑張ってっ」
     導くために、ミルドレッドも進んだ。
     向こう側へと到達し、乗り越えた仁を招き入れた。
    「ほら、できた!」
    「……うん」
     照れくさそうに、頷く仁。
     残る灼滅者たちも到達し、更に奥へと進んでいく。
     ダストシュート状になっている大きな坂では、灼滅者たちが先行して滑り落ち安全な場所を探り当てた。
     矢の飛び交う通路では安全地帯を確認しつつ、少しずつ慎重に移動した。
     一つ、また一つとトラップを乗り越える度、灼滅者たちは仁を労った。
     回数を重ねるにつれて、仁の歩みは力強いものへと変わっていく。
     行き止まりへと到達した後、周囲を調査。
     仁がいち早く、上方へと繋がっている縄梯子を発見した。
    「……」
     手を伸ばしても、届かぬ場所にある縄梯子。
     故に、レンが代わりを努めると申し出た。
    「各々、できることを精一杯やる。そういうことも大切なんだ」
     語りかけた後、縄梯子から距離を取る。
     助走をつけた上で跳躍し、右手で最下段をつかみとった。
    「っ!」
     殺那に聞こえた、軋む音。
     レンは素早く左手を伸ばし、次の段を掴んでいく。体を安定させた上で、じっくりと登り始めていく。
     一人で吊り橋を突破した仁。たとえそれが勢いからなるものだったのだとしても、素直に凄いと思う。
     尊敬の念すら覚えると、道中雑談ついでに伝えていた。
    「……」
     休憩ついでに下を見れば、固唾を呑んで見守ってくれている仁の姿が……フォローのために待機してくれている仲間たちの姿が見える。
     大丈夫、恐れる必要なんかない。仲間たちが見守ってくれているのだから……!
    「っと」
     縄梯子を乗り越えたレンは、スイッチを発見した。
     仲間たちに注意するよう伝えた後、勢い良く押し込んで――。

     不意に、大きな音が響いた。
     縄梯子の反対側。行き止まりとなっていたはずの壁が、土煙を上げながら左右に開き始めていく。
     滑り降りてきたレンを迎え入れた後、灼滅者たちは中をのぞき込んだ。
     最初に感じたのは、激しい熱。
     見えたのは眩いほどのマグマ。二つに断ち切るように伸びる道。その果てにある宝箱。
     ゴールだと、灼滅者たちは顔を見合わせる。
     マグマを前に映画を思い出したのか若干腰が引けているように思える仁。
     悠月が背中を軽く叩き、振り向いてきた瞳に語っていく。
    「大丈夫。迷わず、自信を持ってすすめばなんということはない。大丈夫、あの吊り橋よりも危険は少ないさ」
    「キミならできる! だから……行こう!」
     明るい言葉で、一樹も真っ直ぐに進むよう促した。
    「……」
     迷う素振りを見せた後、一樹は力強く頷いていく。
    「きっと……ううん、絶対に上手くいく! レンみたいに……」
     皆が見守ってくれているからと、率先して足を踏み出した。
     一歩、二歩と進むたび、マグマから放たれる熱が体を蝕み始めていく。
     服が体に張り付き、思考にも霞がかっていく。
     それでも迷うことなく歩みを進め――。
    「……これが」
     ――到達し、宝箱を開いた。
     中を覗きこめば、入っていたのは一つだけ。
     小さな宝石が、一つだけ。
     仁が手にとった時、宝石は眩いほどに輝き出す。
     マグマが固まり、宝箱が消失し……晴れやかな空の下へと変貌した。
     アルスメリアは駆け寄り、明るい笑みで労っていく。
    「うん、やるじゃない仁! 勇気あるものの証、大切にすると良いわ。きっと、それは帰ってからもお前の心に残るから」
    「うん! でも……お姉ちゃんたちがいなかったら、きっとここまで来れなかった! だから、ありがとうございます! それから……」
    「忌々しい奴らめ……」
     言葉を遮るように、耳障りな声が響き渡った。
    「おっと、ラスボスの登場みたいだぞ」
     夜兎は素早く仁を守る構えを取りながら、声の聞こえた方角へと向き直っていく。
     視線の先には、シャドウが一体。二匹の大蛇を引き連れて、瞳をきつく細めていた。
    「我が用意した舞台の破壊、許すわけにいかん!」
    「ちょっと大人しくしててくれよ」
    「うん!」
     シャドウの言葉を無視し、夜兎は離れていく仁を見送った。
     その上でシャドウに向き直り、ナノナノのユキを呼び出していく。
    「ユキ、回復は任せたからな」
     ユキが頷く中、アルスメリアは巨大な刀に熱き炎を走らせた。
    「ここから先は私達の出番! ―――来たれ我が炎! 顕現せよ熾焔!」
     言葉と共に大地を蹴り、鎌首をもたげた大蛇に斬りかかる。
     頭を凹まし炎を与えながら更に跳躍。
     反対側へと飛び越え、外套から刃を射出した。
    「白夜よ! 悪夢紡ぐモノを断つ刃と成れ!」
    「く……」
     勢いのまま、戦いを始めた灼滅者たち。
     対応し始めたシャドウたち。
     夢を守るための戦いが、勇気を抱きし少年が見守る中で開幕する……!

    ●冒険譚に悪夢はいらない
     大蛇を打ち倒すのが最優先と、攻撃を重ねていく灼滅者たち。
     レナも影虎に噛み付かせた後、シャドウへと向き直り猫の意匠が施されている指輪をかざしていく。
    「うにゃ、こんな感じかニャ」
     魔力の弾丸を、シャドウへと打ち込んでいく。
    「多分、これで色々効いてくるにゃん」
    「ぐ……」
     呪縛を刻まれ、動きを鈍らせていくシャドウ。
     横目に、レンは大蛇に向かって光を放つ。
    「あいつらを倒せば仁君は助かるんだ。手は抜かない」
    「この子が素敵な目覚めを迎えるためにも……さっさと倒させてもらうからね」
     一樹は華麗なステップを踏みながら青薔薇のレイピアを振るい、次々と大蛇を打ち据えていく。
     抗うように、右側の大蛇は顎を開いた。
     夜兎へと襲いかかり――!
    「っと」
     ――ギリギリでオーラを掲げ、横へと受け流す。
     更には手元にオーラを引き戻し、至近距離からぶちかました!
     ふっとばされていく大蛇を横目に、ユキは夜兎に向かってハートを飛ばしていく。
     さなかにも、攻撃は大蛇へと注がれていく!
     ……そう。シャドウを狙わなければ、もとより力量に優れるわけでもない大蛇は脆い。それでなお誰一人として倒れぬよう声を掛け合いながら、確実な攻撃を重ねていた。
     治療が足らないと感じれば、悠月が力を注いでいく。
    「大丈夫、確実に削れている。この調子なら……」
    「トドメだよ。死神の刃に断たれて消えなっ!」
     肯定するかの如き勢いで、死神が如きゴスロリ衣装で戦うミルドレッドは大鎌を振り下ろした。
     地面に縫い止められた大蛇が動きを止め、消滅していく中、アルスメリアはもう一方へと向き直る。
    「其は燃え盛る劫火! 轟く炎を纏いし鳳凰よ! 翼を広げ万魔を砕け!」
     杖で脳天をぶっ叩き、牙を砕いた。
     それでもなお鎌首をもたげようとした大蛇の背後へと、見桜は回りこんでいく。
    「これが私の全部! これが私の勇気!」
     青白き燐光を放つ剣を横に構え、思いっきり剣を振る。
     軌跡に残された燐光が弾けると共に、大蛇は両断され崩れ落ちた。
    「……」
     地面に埋もれるように消え失せていくさまを前に、シャドウは距離を取っていく。
    「く……忌々しい者どもめ……」
     逃げていくシャドウを、灼滅者たちが追うことはない。
     ただ、得物をしまい込み、見守ってくれていた仁へと向き直り……。

    ●勇気を胸に
     傷を癒やしながら、仁と最後の会話を交わした。
     様々な言葉を前に、レンは力強く答えていく。
     晴れやかな笑顔が、心が晴れた証。
     勇気を抱いた証明なのだろう。
    「こんど、お母さんにお願いして、もう一回映画を見てみるよ。今度こそ、本当のお話を見るんだ!」
     元気に語る横顔に、出会った時にふるえていた少年の面影はない。
     灼滅者たちは優しく頷き返した後、別れの時間が訪れた事を伝えていく。
     寂しげな表情を浮かべながらも頷き返してくれたから、見桜が最後の言葉を投げかけた。
    「勇気の出し方、忘れないでね」
    「うにゃ、でも、ただ前に飛び出すのは無謀って話みたいにゃんだけどにゃん」
     重ねたレナの警告にも、仁は力強く頷いていく。
    「うん! 覚えておくよ! お姉ちゃん、お兄ちゃん……ありがとう!」
     浮かべる笑顔に曇りはなく、言葉に迷いも一切ない。
     今宵の想いを抱き続ける事ができたなら、きっと、これからも勇気を抱いて前に進んでいく事ができるだろう。
     例えば、そう……彼の見ていた冒険家のように。
     一緒に冒険した灼滅者たちのように……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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