魚人の兄弟と埠頭で戦闘

    ●噂
    「この辺に魚人が出るんだってよ」
    「へー、魚人がねー…………って、魚人!?」
    「うん、魚人。魚と人間の中間みたいなやつ」
    「魚人なんて実在するわけないだろ。常識的に考えてさ」
    「フ……『常識的に考えて』か」
    「……何がおかしい?」
    「ならば、お前の常識を打ち砕くまで!」
    「オレの常識を打ち砕く……だと? オレの常識を打ち砕けると言うのなら、打ち砕いてみせるがいい!」
    「鳥取砂丘よりも、青森県にある猿ヶ森砂丘の方が大きいんだぜ」
    「そんなバカなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッ!?」
    「まあ、青森県でも知名度は低いそうだが」
    「鳥取砂丘が日本最大だと思ってた……! 常識が砕けていく音が……聞こえる……!」
    「魚人がいるのは、常識的に考えておかしい──まだ、そう思うか?」
    「……思わないです……!」

    ●教室にて
    「都市伝説を倒してきてくれないかしら?」
     ローブを纏った占い師風の少女──野々宮・迷宵(高校生エクスブレイン・dn0203)が言った。
    「敵は──魚人の兄弟」
     そう言って、彼女は「魚」と書かれたカードを見せる。
    「見た目は、こんな感じよ」
     今度は、敵のイラストが描かれた大きなカード(と言うかフリップ)を見せた。
     ・顔は、フグとアンコウを3対7くらいの割合で足した感じ。ブサイク。
     ・手足には鋭い爪があり、水かきもある。2足歩行。
     ・背ビレや尾ビレがあるが、胸ビレはない。
     ・全身の色は、紫と黒の中間みたいな色。
    「身長は160センチくらいね。あなたたちには、ここの埠頭で敵と戦ってもらうわ」
     近年は使われておらず、あまり人が近付かない場所だ。
     敵は、その埠頭から海へとダイブする予定らしい。海に潜られてしまえば、灼滅どころか戦闘すら困難になってしまう。
     そのため、敵が海に入る前に戦うことになる。足場は広く、海までは距離がある。戦闘中に海に落ちる心配はない。
     相手は人を襲う都市伝説だ。埠頭(地上)で待っていれば、向こうの方から戦闘をしかけてくるだろう。
    「敵の牙には毒があるから、気を付けて。引っ掻いたり、体当たりもしてくるようね」
     相手は水陸両用の生物なので、地上でも戦闘力が落ちるわけではない。
    「敵は2体いるけど、個々の戦闘力は大したことないわ。あなたたちなら、問題なく勝てる相手よ。魚人退治、よろしくね」


    参加者
    喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)
    漣波・煉(平穏よ汝に在れ・d00991)
    黒咬・翼(キルイズム・d02688)
    桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)
    猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)
    穹・恒汰(本日晴天につき・d11264)
    渋谷・百合(きまぐれストレイキャット・d17603)
    小堀・和茶(ハミングバード・d27017)

    ■リプレイ

    ●埠頭にて
    「――おかしいに決まってるでしょ」
     桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)が言った。
    「面白半分に風説を流布して他者を惑わすような輩が居るから、都市伝説も無くならないのよ。嘆かわしい事だけど、生まれた都市伝説の始末は私達がやらないとね」
     ここに、都市伝説──魚人の兄弟がやって来るはずだ。
    「魚人の兄弟か。というか、よくオスとメスの区別がついたといいたいところだ」
     一般人が巻き込まれないように、黒咬・翼(キルイズム・d02688)が殺気を放つ。
    「逃げられて被害が増えても厄介だし、纏めて仲良くあの世に送ってやるとするか」
    「戦闘音を聞きつけた人が来ないように、念には念を、ね」
     サウンドシャッターを発動させた渋谷・百合(きまぐれストレイキャット・d17603)の手には、スーパーの袋。中には調味料が入っているようだが……何に使うのか。
    「さぁ、なんでしょうね」
     クールビューティーな見た目の割に、好奇心は旺盛。まさかとは思うが……魚人を食べるつもりなのだろうか。
    「魚人を食べちゃだめよ」
     喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)が、四国犬型霊犬の杣に言った。
    「食べる子じゃないとは思うけど、食べたらお腹壊しそうだし。何より……私が嫌だわ」
    「魚人の都市伝説かー……オレ、きれいな人魚のお姉さんがよかったなー。噂が元になっちまってるから、仕方ないんだけどさ!」
     穹・恒汰(本日晴天につき・d11264)を、ウイングキャットのイチがジトっとした目で見ている。
    「イチ、そんな目で見るなよー。あ、来たぞ!」
     2体の魚人が近付いて来た。
     フグとアンコウを3対7くらいの割合で足したような(ブサイクな)顔で、紫と黒の中間みたいな色をしている。
    「よくオスとメスの区別がついたものだ」
     オスの魚人のようだが……オスとメスがどう違うのかは謎である。
     敵を見て、小堀・和茶(ハミングバード・d27017)が「ふおおおお」と声を上げる。他の灼滅者が高校生か大学生という中、彼女だけ小学生。
    「すごい姿……!! 絵でみた姿とおんなじだ……!」
    「しかし……迷宵の提示したブサイクって特徴、何気に酷いですね……」
     猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)が呟いた。
    「ところで疑問なのだけど、何故フグとアンコウなのかしら」
     銘子が小首を傾げる。
    「アンコウって別に毒がある訳でもないし、沖縄の魚みたいな方が人が寄って来そうなのにね。……うん、考えてみたけれど、やっぱり来ないかな」
     向こうも灼滅者たちに気付いたのか、1体が指を差している。
    「おい、兄貴。見ろよ」
     どうやら、こちらが弟のようだ。
    「こんなとこに、こんなに人間がいるぜ──ギョっ!」
    「弟よ、どうした?」
    「兄貴、あれを見ろ! 猫が飛んでいるぞ!」
    「まさか、魔法生物か……? そんなのを連れているって事は、こいつらは普通の人間じゃないのかもな」
    「あっちには犬もいるぞ!」
    「犬は飛んでいないな」
    「ブサイクとかは(よくないけど)いいとして、魚なら、もっと美味しそうな色ってのがあるだろ?」
     イチ(ふわふわ浮いてる)の横で、恒汰が拳を握る。
    「魚なら、魚らしくしろよ!」
    「そんなに熱い言葉を吐かれてもな……魚じゃなくて魚人だし」
    「食われるつもりはないから、美味そうな色である必要もないしな」
    「魚なら魚らしく、もっと美味しそうな色にしろよ!」
    「「そう言われましても」」
    「ふむ、世を騒がせる都市伝説……というものは多々居るものだがね。……あまり世を騒がせそうにないな、この都市伝説は」
     漣波・煉(平穏よ汝に在れ・d00991)が、スレイヤーカードを手にする。
    「とはいえ、都市伝説は都市伝説。きっちりと灼滅し、私の糧となってもらおうか」
     スレイヤーカードの封印を解くと、武器が顕現する。他の灼滅者たちも、武器を召喚。
     和茶は、たたたっと走って後列に移動。
    「兄貴! こいつら……!」
    「武器を召喚した以上、ただの手品師ではなさそうだ」
    「常識も道徳も必要ない」
     理彩が言う。
    「ダークネスも都市伝説も滅ぼす。それでいいし、それ以上は要らないの。驚く必要も、気負う必要もないわ。敵が居て、殺せばいいだけ。いつもの通りよ」
     表情はクールに、しかし殺意に満ちている。ダークネスや都市伝説に対し、強い敵意を抱いているからだ。
    「容赦する必要もない」
    「オレたちを倒すつもりのようだぞ、兄貴」
    「ああ、そのようだな」
    「どうも、お魚さんたち」
     無表情気味な仁恵が、マテリアルロッドの先端を敵へと向ける。
    「最近のお魚さんたちは、立って歩いてついでに言うと走って、海にまで飛び込もうとするんですね」
    「「魚ではなく、魚人だからな」」
    「そのまま海に帰られても困るんですよ。折角なので、にえたちと遊んで行ってください」
     空気を切り裂くように、マテリアルロッドを振る。
    「戦闘中に人がこねーようにするですよ」
     無表情のまま、仁恵が殺気を放った。
    「刺身になりたい奴から、かかってくるといい。しっかりバラシてやるからよ」
     そう言った翼は、料理が趣味で料理人気質なところがある。
    「この世には、水陸両用の生物は大勢いる」
    「カエルにカメにカバにカワウソにカモノハシにカッパとかだな、兄貴」
    「しかし、魚人が最も優れた水陸両用生物だ。カッパなんかに遅れは取らない。無論、人間にもだ。お前達に、その事を教えてやる──!」

    ●poison(毒)
    「ウオぉぉぉぉぉぉっ! まずは1人!」
     鋭い爪で、兄が仁恵に斬りかかる。仕留めたつもりなのだろう。兄が笑みを浮かべた。
     しかし──。
    「この程度じゃ倒れねーですよ」
    「兄貴の攻撃を喰らったくせに、無事なのか!」
    「頑丈だな……! 身体機能を強化されているのか、サイボーグだったりするのか……いずれにせよ、普通の人間ではなさそうだ」
    「それなら、そっちの猫を攻めてみるか!」
     弟は大きく口を開けた。毒がある牙で、イチに噛みつく。
    「イチ!」
     恒汰が、指先に集めた霊力をイチに撃ち込む。現在は戦闘モードなので、人魚がどうとかは言わない。
     イチは、兄に向けて猫魔法を放った。
    「やはり、魔法生物の類だったか」
    「さて、魚に噛み付かれる趣味はないから、さくっと殺っちゃいましょうか」
     銘子が履くエアシューズ──紅い靴が、流星のように煌めく。重力を宿した蹴りが、兄を襲った。
    「人間の割に、威力があるな」
     杣は浄霊眼を発動し、イチを侵す毒を排除する。
    「その犬も、魔法生物なのか」
    「ねえ、都市伝説って自分で外見変えられたりしないの? もう少し自分の有利に働くようにとか」
    「都市伝説……?」
    「そう言えば、その単語は何度か聞いたな、兄貴」
    「俺達の事なんだろうが……俺達には、外見を変えるような能力はないな」
    「変身も変形もしないし、保護色とかも無理だ」
    「アンコウもフグも、調理後じゃないと食欲湧かないじゃない」
    「「魚が食いたきゃ、魚屋に行くといいぞ」」
    「魚はやっぱり3枚におろすに限る」
     翼が握る剣の名は黒鳳蝶。黒い蝶の翅を模した刃が連なった鞭剣である。
    「こいつの目は……」
    「まさか……これが料理人の目なのか、兄貴」
    「まずは鱗取りと行こう」
     黒鳳蝶を高速で振り回した。
    「兄と弟、どちらが先に活造りになるか……」
    「「魚人は魚と違って食材じゃないぞ」」
     その魚人を百合が見つめている。獲物に向けるような、食欲を宿した視線だ。
    「三枚下ろしとかは苦手ですけれど、にえ、つみれとか作るのは得意なんですよ」
     仁恵が槍を突き出す。
    「……でも、君たち余り美味しそうじゃねーですね……そもそも、半分人間の時点で食う気はしねーんですけれども」
    「「魚人は魚と違って食材じゃないんだぞ」」
     百合がゴクリ……と唾を飲み込んだ。
    「美しくないわね……まぁ、都市伝説如きに期待する方が酷かしら」
     理彩は日本刀──心壊に影を宿し、兄を攻撃する。
    「ぐぬぬ……美しくないだと……!」
    「自分が美人だからって生意気な……!」
    「お喋りがすぎるな、負け犬」
     兄に向けて、煉が帯を撃ち出す。
    「「犬ではない。魚人だ」」
    「わたしは回復を頑張るよ!」
     和茶は、仁恵に向けて帯を伸ばす。
    「ラビリンスアーマー!」
    「不思議な包帯を使うロリッ娘だ」
    「あんなロリッ娘が戦士とはな。いったい、どんな組織なのか」
    「焼き魚。フライ。煮付けに活造り。どれがいいかしら」
     百合の拳が、雷を纏う。
    「量はありそうだし、全部でもいいかな」
    「「……」」
    「……冗談よ?」
    「「…………(本当に冗談なのだろうか……?)」」
    「……打ち抜く」
     雷を帯びた拳が、兄の体に叩き込まれた。
    「驚いたぞ、お前達。人間でありながら、ここまでの力を持っているとはな……!」

    ●poisson(魚)
    「行くぞ! ウオぉぉぉぉぉぉぉっ!」
    「っ」
     兄が百合に噛みついた。
    「ウオぉぉぉぉぉぉっっ!」
     すかさず、弟が体当たりを仕掛ける。しかし、恒汰が盾となる。
    「邪魔をされたか……!」
    「足元ががら空きだ……」
    「っ!」
     とある暗殺剣術の使い手だと言う翼が、兄の死角から斬りかかる。
    「……厄介な攻撃をする」
    「魚はやっぱり、3枚おろしだ」
    「この埠頭が、お前たちの墓場よ――」
     理彩が駆け、刀の柄に手をかける。
    「心壊!」
     瞬時に抜き放たれた刃が、兄を斬った。
    「弟よ、済まない……俺は……ここまでらしい…………」
    「兄貴っ!」
     理彩が刀を納める。
     ドサッ──兄の体が、地上に横たわった。
    「兄貴が……やられた……!? たかが人間に……!?」
    「これで、残り1体ね」
    「人に迷惑かけない内に、倒しちゃいましょーねー。はい、フォースブレイクです」
     仁恵がマテリアルロッドを振り抜く。さらに、魔力を放出。
    「いいスイングだ。けどな、まだ倒れるわけにはいかねぇよ」
    「ならば、蹴り潰してやろう」
     煉の足元で、エアシューズ──獣王の玉璽が炎を帯びていた。炎の蹴りが炸裂する。
    「ちっ……! 炎かよ」
    「焼き魚にしても、あんまり美味しくはなさそうね……むしろ、食欲が減退するような」
     杣が六文銭を発射し、銘子は(炎を使う攻撃ではなく)縛霊手での攻撃を選択。殴りかかると、霊力の網が飛び出した。
    「……焼き魚以前に、魚人は人間が食うようなもんじゃねぇよ」
    「因みに、去年沖縄で見たネオン色のお魚は、綺麗だけれど食欲はちょっと湧かなかったかも。でも、食べたら美味しかったわ」
    「魚人は、食っても美味くはないだろうよ。食ったことはないが」
    「お魚も、中身(の味)が大事よね。食べられるお魚に限るけれども。……ところで私、食べる話しかしてないわね……。今晩は、お肉にしておきましょう」
    「……魚じゃないのかよ」
    「わたしもいっくよー! 一気に攻めるね! えーいっ!」
     和茶が撃ち出した帯が、敵の体を突いた。
    「やるじゃねぇか、嬢ちゃん。その歳で戦場に立つとは、大した根性だ」
    「戦っているうちに、なんだかかっこよく見えてきたよ……!」
    「そうかい。照れるな」
    「なんだろう、なんでだろう……! すごく輝いて見える……!!」
     和茶の目が、キラキラしている。
    「オレも、自分が輝いているような──ん?」
     魚人の目の前には、スターゲイザー発動中の恒汰がいた。そのまま、攻撃が当たる。
    「……キラキラした攻撃だぜ」
    「イチ、肉球パンチだ」
     恒汰の蹴りに続いて、イチの殴打が敵を襲う。
    「猫のパンチか……意外と強力なんだな」
    「……」
     百合は敵を見つめている。百合が手にするクルセイドソードが、破邪の光を発する。
    「まるで、捕食者の目だな……!」
    「……斬り裂く」
     白く輝く刃が、敵を斬った。
    「ちぃっ! だが、まだ戦える……! 1人くらいは葬ってやるよ!」
     鋭い爪で、百合を引き裂こうとする。その爪は、恒汰が受けた。
    「また、お前か……!」
     恒汰は倒れていない。
    「オレたちの……完敗だ……!」
    「私の糧となってもらおう」
     煉が発射した帯が、狙い過たず、敵を射抜いた。
    「どこの組織の何者なのかは知らないが、人間ごときが……魚人を倒すとはな…………」
     弟も地に倒れ伏し、魚人の兄弟が消滅した──。
    「次は、綺麗なお姉さんの都市伝説がいいなー」
     戦闘モードを解除した恒汰が言うと、やっぱり、イチがジトっとした目で見る。
    「あっイチ、そんな目で見るなよー。希望くらい言っていーじゃんか!」
    「……無事に勝てたし、お寿司でも食べに行こうかしら。豪勢に」
     百合が、調味料が入っているスーパーの袋を手に取った。
    「今日の敵とは何も関係ないけれど、何だか無性に魚が食べたいわ。今日の敵とは何も関係ないけれど」

    作者:Kirariha 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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