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今日も今日とて列車は走る、毎日同じ様にスケジュール通りにリズムを刻み音を響かせながら。そして今日の最後の便、終わりまで同じように列車は走る。
そしてその音が止んで暫し、変わるものがある。それはトンネルの変化。ふわりとありえざる道が次々と生じ、そしてその中に命無く動く獣達も現れる。
変化がとどまれば出来たのは8つの細い道、放射線状に広がるそれは果たして何のために作られたのか。
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「錠之内・琴弓(色無き芽吹き・d01730)さんが札幌の地下鉄がダンジョンになってるのを見つけたって聞いてる?」
有明・クロエ(高校生エクスブレイン・dn0027)が灼滅者に問うと何人かが頷く。
「でね、このダンジョンは地下鉄の終電のしばらく後に現れるんだ。で、始発が出る頃になるとなくなっちゃう。……よくわからないよね」
そういう事情もあってとりあえずまだ特に被害は出ていないようだ。
「『まだ』だからね。そのままにしておくと何が起こるか分からないからみんなに何とかして欲しいんだ」
そう言って彼女は路線図を広げる。
「みんなにはすすきの駅から入って中島公園駅側の方に行ったところにあるダンジョンに行って欲しいんだ。……似た名前の駅があるから間違えないでね」
あと未成年者なんであんまり歓楽街に長居しないでと。学生としての分別大事。
「それでねダンジョンに入ると直ぐ下に降りるハシゴがあるんだ。降りると8本の道のある丸い部屋に出るんだ。それでこの一本一本の道のそれぞれにアンデッドがいるんだよ」
どれか一つを選べばいいのかと言う問にクロエは首を横に振る。
「このダンジョンにはボスのアンデッドがいるんだ。ボスはそれ以外のアンデッドを全部倒した時に最初の部屋に出てくるの。一つ一つの道を攻略していくと時間が足りないから」
つまり、一人一本ずつ道を攻略していく必要があると言う事だ。
「それぞれの道には敵が6体ずつ潜んでいるよ。普通に歩いていたり陰に隠れてたり。それを全部倒すとさっきも言ったけれどボスが出てくるから。ただタイミングには気をつけてね。それぞれの戦い方次第で戻るのに時間差があると少ない人数で戦わなきゃいけなくなるから」
ダークネス程強敵では無いらしいが、少ない人数で戦えばやはりその分苦戦は強いられるだろう。
「わかんない事だらけのダンジョンだけど、規模が大きいしそのままにしては置けないよね。それじゃ気をつけて、行ってらっしゃい!」
参加者 | |
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九条・雷(アキレス・d01046) |
シオン・ハークレー(光芒・d01975) |
黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213) |
リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794) |
黛・藍花(藍の半身・d04699) |
白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197) |
君津・シズク(積木崩し・d11222) |
ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314) |
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トンネル内を震わせながら地下鉄車両が通り過ぎて行く。その轟音を背後に灼滅者達はダンジョンの入口へと足を踏み入れる。しばらく進んで彼らを出迎えたのはドーム状の部屋とその八方にある暗い入り口であった。照明の電源を入れると周りの空間が照らされて構造が見えてくる。
「……迷宮探索を体験することになるとは思いませんでした」
ぐるりと周りを見てリーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)は声を吐いた。彼女の艷のある言葉が広がり拡散して消えていく。
「ゲームみたいなダンジョン作って何が目的なの?」
君津・シズク(積木崩し・d11222)が出入口の一つを覗きこんで呟く。奥は曲がりくねっているのと光源が無いことで先まで見通せない。
「これで私は三度目になりますが構造に統一性も無いですしね。こんなものの粗製濫造に何の意味があるのでしょうか?」
無表情に黛・藍花(藍の半身・d04699)が呟く隣で、彼女の半身も疑問符を口元に浮かべている。
「こんなに沢山色んな所に出てるのに、迷宮の主のノーライフキングが居ないのは不思議だよね。なんで北海道なのかとか、色々気になる事は沢山なの」
シオン・ハークレー(光芒・d01975)も疑問を挙げる。その問に一応の解を返すのは黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)だ。
「上の殺人、こっちの迷宮。死体の量産と、死体の闊歩。……例のプロジェクトとやらが絡んでるんでしょーけど」
需要と供給って奴ですか、と彼は続ける。確かに最近の札幌でのダークネスの活動が目立つ。果たしてそれがどんな関連を持っているのか、あるいは無関係なのかは未だ定かではないが。
「さてお話も悪くないけれど、わくわくドキドキ地下探索始めない?」
そう言った九条・雷(アキレス・d01046)の口元には笑みが浮かんでいた。きっとこの先での戦いを楽しみにしているためだろう。
「そうでござるな。それにしても蛸足の迷宮でござるか……」
それぞれの時計や通信装備を互いに確認しながらハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)は呟いた。
「まるで、自分達が来ることが分かっていたみたいっすね」
「それにしても、主に8人一組で戦っている私達に合わせたようなダンジョンですね」 白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)と藍花の言葉が不意に重なる。その意味に俄に沈黙が訪れる。
「確かに気をつけた方が良いでこざるな。……それでは、幸運を祈るでござるよ!」
ハリーの言葉と共に灼滅者達はそれぞれの道を潜る。
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「……サムライマスター・ミフネでも出てくるんでしょうか」
誰にも聞こえない冗談を吐いてリーリャは銃を構えて曲がり角に弾丸を打ち込む。一秒ほど置いて野犬のアンデッドが飛びすのと同時に砕け散る。
「まずは1つ。……やる事はインドア・アタックと変わりない、か」
単独だからこそ基本に忠実にとリーリャは周りの気配に気をつけながら、照明付きの銃を構えて慎重に足を進めていく。
「……しかしよくもまあこんな物を作りましたね」
ファンタジー風の壁の作りを見ながら彼女は呟いた。
シズクのハンマーが魚型のアンデッドを叩き潰した。まるでナイフのような姿の魚が空中を泳ぎ彼女を貫こうとしたためだ。
「……ちょっと骨っぽかったかな」
シズクは額の汗を拭う。
(「ゲームだったら、スケルトンにも金属鎧にも鈍器が有効よね」)
「うん、ハンマーの出番!」
最後の相手にも有効打となりそうだと小さく呟く。と、同時にシズクの脳裏にとあるモンスターが浮かぶ。
「……その理屈でいくと、スライムの敵が出た時に相性が最悪になるか。やっぱりなし」
そんな風に一人気ままに、逆を言えば少しばかり散漫に進む彼女がトカゲとカエルのアンデッドに遭遇して悲鳴を上げるのはそれから暫くしてだった。
「………」
藍花は移動中も静かに歩いている。彼女の半身も微かな笑みを浮かべながら後をついていく、けれどその冷たい表情の奥にある感情には気づけているだろうか。
彼女は口には出さなかったが嘆きと憤りを感じている。それは迷宮だけを拵えて未だ姿を隠しているノーライフキングに対してだ。宿敵でもあり、そして数度迷宮を攻略してもその姿すら未だ表に出てきていない相手である。そんな思いを伴った彼女の前に、犬と鳥のアンデッドが現れる。
「出ましたか。ここが彼らの墓穴です、心おきなく死に直してもらいましょう」
藍花の言葉とともに半身はふんわりと笑い、敵に向かっていく。そして彼女もまた武器を構えた。
(「なんのためにこんなことをしてるのか分からないけど……」)
シオンの腰元でランプが揺れる。小さな身体から広がる大きな影が揺れながら彼の後をついていく。
(「ダークネスのすることだから、きっとよくないことなんだと思う」)
そんな風に考えながらシオンは進んでいく。もう既に数体のアンデッドを倒しているが未だ最奥にはたどり着いていない。
「ん、あれで半分超えるくらいかな?」
大型犬のアンデッドが複数体同時に現れるのを見て、杖を手に迎撃を開始する。それほどかからずに戦いは終わるものの、彼の方も手傷を負っている。その傷を癒していると彼のもとに連絡が入る。
「今、大体半分ほどでござる。そちらはどうでござるか?」
ハリーが問えば向こうも半分ほど倒したとのことである。全体的に順調に進んでいるようである。……シズクに連絡した時はやけに慌てていた気もするが。
「拙者も急ぐでござる。ニン!」
印を結んでからハリーは音を殺しながら走る。そして通り過ぎながら道にいたアンデッドの首を切り落とし息の根を止めてそのまま走り抜けていく。
蓮司もまた敵と遭遇していた。もう何度目になるのか、片手で数えながら気怠げに溜息を着く。苦戦する相手ではないがだからと言って油断できる相手でもない、かつこちらも一人だ。今までと同じ様に槍の穂先を相手に向けて間合いを取る
「さぁて、こっちも」
徐ろに柄を付きだして相手の身体を抉る。
「手早く……ざっくり、バッサリと行きましょうかねぇ」
雅は迷宮の中、ふと気配を探った。アンデッド相手ではない、未だ姿の見えないノーライフキングに対してだ。彼女は自分たちが見られていると考えている。とりあえず何も感じ取れないのを確認すると、彼女は慣れた様子で音を立てながら道を急ぐ。その前に立ちふさがるように、大型の骨の鳥が彼女の前に舞い降りる。
「……一人でだって戦えるっす!」
宙を舞う相手の更に上まで飛び上がり、雅と大鳥が空中で交差する。繰り返される戦いの中で慢心を伴っていることに彼女は気づいていない。
「やァん、暗いとこ好きじゃないんだよねェ。でも不思議なダンジョンだよね、どっかの道が別のとこ繋がってたりして?」
雷は周りを見つつ感想を述べる。それは気楽な独り言のようにも見えるが、決して油断しているわけではない。
「……はァい、出てらっしゃいおチビちゃん達」
雷に問われるよりも早く4体の犬型のアンデッドが一斉に飛びかかって来る。
「ちょっと一掃されて?」
即座に力のある殺気を放ち牽制してその勢いを殺す。それでもアンデッド達の殺意は止まらず爪や牙が彼女をかすめる。無論それだけでは終わらずすぐさま相手の背後に周り手刀で相手の腰骨を切り砕く。互いの肉体を以っての戦いを制したのは雷であった。
「これで前座はオシマイ。締めは……」
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時は少し巻き戻る。灼滅者達がそれぞれの回廊を潜り暫く、最初の広間の中心に音もなく現れるのは骨の騎士。鎧兜に覆われた胴体からは置物の様に見えなくは無いが、兜から覗く眼窩は窪んでおり頬もまた空きがある。確かにこれは灼滅者達の最後の関門とされている存在だろう。剣と盾を手にしながらも屈んだ状態で静かに待ち受ける。
「受けてみろっす!」
静寂を切り裂く雅の高空からの蹴り、即座に騎士も立ち上がりそれを立てで打ち払う。ここまで来る間に疲弊していた彼女はいとも簡単に弾き飛ばされる。だがその盾の隙に入り込み一撃を放つのはハリー、雅が相手の意識を上に引きつけている間に近づいていた。
「拙者 ニンジャ故、これくらいの隠密はお手の物でござる、ニンニン!」
衝撃に振り返る騎士を見据えてハリーは返す。既に2人以外の灼滅者もこの部屋に突入し戦闘を開始している。
「ボスまでいるとは至れり尽くせりです」
「お出ましですか。ここまで来るのにちょいと疲れましたよ」
謎の感心をするリーリャと披露を口にする蓮司。二人の会話を聞いてシズクの脳裏に迷宮経営シミュレーションという言葉が浮かぶが、直ぐに振り払う。
「行って!」
シオンは感想よりも戦闘をと魔力の矢を次々と放ち骨の騎士を牽制する。その矢も幾つかは盾や剣で弾かれる。
「さて、真打登場ってやつ?」
それを援護として、自身の名と同じ雷を纏った拳を彼女が叩きつける。それを受けた骨の騎士は反撃に剣を振るい雷の身体を切り払う。
「あはは! 流石にボスは強くって良い感じ!」
「私は回復を」
藍花が傷を負った雷に回復を施すと同時にビハインドが前に出て攻撃を引き付ける。
「んじゃ、畳み掛けましょーか」
蓮司を中心に骨の騎士を中心に灼滅者達の猛攻が集中していく。灼滅者達にもこれまでの疲労があるもののタイミングを揃えての襲撃は全体として損耗を抑えており戦闘を優位に運んでいる。
「ブチ抜いて、抉って、後はえーと……とりあえず殺りましょーかね」
氷の礫を放ち関節部を蓮司が凍りつかせた後、他の灼滅者達も追撃していく。
「このまま過ぎた玩具ごと破壊させてもらいます」
リーリャが相手の防御姿勢を崩しながら零距離格闘で迫る。態勢を崩した骨の騎士の身体をシズクのハンマーが吹き飛ばす。そのまま壁に叩きつけられた騎士に向けられたのは雅の放った光線。それを受けてなお立ち上がろうとする突きつけられたのはシオンのマテリアルロッド。そこから放たれた衝撃が今度こそ完全に骨の騎士を打ち砕いた。
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骨の騎士が消滅すると同時に灼滅者達はトンネルの脇へと戻る。既に来た時に会ったダンジョンへの入り口は消滅している。ハリーがそれを確認して呟く。
「これで忍務完了でござるな」
「それにしてもノーライフキングの迷宮って個性があるよね」
「この迷宮まるで、自分達を測っていたみたいっすね」
シオンの疑問に雅は自分の考えを上げるが答えは分からない。
「ともかくも帰りましょう。なすべき事はなしました」
そう言う藍花も内心ではいまだノーライフキングの事に思いを巡らせている。
「そうっすね。夜も遅いっすし」
「……美容に悪そうです」
「……そうね」
蓮司の言葉にリーリャとシズクが小さくやりとりする。時間で言えば丑三つ時を過ぎた頃だろうか。そそくさと灼滅者達はその場を離れていく。帰り際、すすきのの明かりを見て雷が一言。
「歓楽街良いなァ……」
後ろ髪を引かれるものの、未成年を引き連れて行くわけにも行かず彼女も帰途に着く。札幌の灯りとその影に潜むものとの対峙を予感しながら。
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年5月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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